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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1306689
審判番号 不服2013-11628  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-19 
確定日 2014-05-15 
事件の表示 特願2012-535514「携帯端末」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開、WO2013/145354〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月26日(優先権主張平成24年3月30日)の出願であって、原審において平成24年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日付けで手続補正がされたが、平成25年3月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月19日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされ、同年10月18日付けで当審より審尋がなされ、同年12月19日付けで回答書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年6月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成24年12月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された

「【請求項1】
外部へ露出し、かつ耳に押し当てられる第1の面を有する振動板と、
音声情報を有する電気信号に基づいて前記振動板を振動させる振動素子と、
前記電気信号を出力する電子回路とを少なくとも有しており、
振動している前記振動板の前記第1の面内の位置による振幅の差異が、最小値に対する最大値の比で60dB以下であることを特徴とする携帯端末。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「【請求項1】
外部へ露出し、かつ耳に押し当てられる第1の面を有する振動板と、
音声情報を有する電気信号に基づいて前記振動板を振動させる振動素子と、
前記電気信号を出力する電子回路とを少なくとも有しており、
振動している前記振動板の前記第1の面内の位置による振幅の差異が、最小値に対する最大値の比で60dB以下であり、
振動している前記振動板の前記第1の面内の任意の位置であるA点において、該A点に10Nの加重を加えた場合と加重を加えない場合との振幅の差異が、10Nの加重を加えた場合の振幅に対する加重を加えない場合の振幅の比で20dB以下であることを特徴とする携帯端末。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「振動している前記振動板」の「振幅の差異」に関し、「振動している前記振動板の前記第1の面内の任意の位置であるA点において、該A点に10Nの加重を加えた場合と加重を加えない場合との振幅の差異が、10Nの加重を加えた場合の振幅に対する加重を加えない場合の振幅の比で20dB以下である」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で補正後の発明として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の拒絶理由に引用された特開2007-82009号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【技術分野】
【0001】
この発明は、パネルスピーカに関し、詳しくはパネルの効率的な振動伝達性を有するパネルスピーカに関する。」(3頁)

ロ.「【0021】
図1は、この発明の実施例1であるパネルスピーカを搭載した携帯電話機の斜視図、図2は、同パネルスピーカの正面図、図3は、同パネルスピーカの線F3-F3に沿った断面図、図4は、同パネルスピーカのパネルの拡大図、図5同パネルスピーカの線F5-F5に沿った断面図、図6は、同パネルスピーカの線F6-F6に沿った断面図、また、図7は、同パネルスピーカの分解図である。
【0022】
この実施例のパネルスピーカ10は、パネルに貼付された振動素子(圧電素子)からパネル周辺へパネルの板厚を薄くしたパネルスピーカに係り、図3に示すように、フロントケース12と、フロントケース12に周辺部が貼付されたパネル14と、パネル14に貼付(固定)された振動素子(圧電素子)(DMA)16と、フロントケース12とパネル14との間にサンドウィッチされてパネル14をフロントケース12に貼付するガスケット18とで概略構成されている。
このパネルスピーカ10を装着した例は、図1に示すように、携帯電話機11であり、携帯電話機11は、通話部13と受話部15とから成る。
【0023】
携帯電話機11に実装されたパネルスピーカ10の構造は、図4乃至図6に示し、その分解図を図7に示す。
パネルスピーカ10は、図3に示すように、圧電素子16を貼付しているパネル14をフロントケース12に対してガスケット18によりフローティング支持(浮動支持)されて構成されている(図5、図6)。このフローティング支持の目的は、従来のフラットパネルスピーカと同じである。圧電素子16は、基板20に実装される駆動回路(明示せず)によって駆動されてパネル14から音響振動を発生させる。
圧電素子16によって駆動されるパネル14は、図4に示すように、圧電素子16を貼付しているパネル部分の板厚を厚くし、圧電素子16の貼付位置から遠ざかる程(図3では上方に行くに従って)パネル部分の板厚を薄くして形成されている。パネル14は、透明な材質のアクリルで形成されている。
【0024】
基板20は、図5に示すように、フロントケース12にLCDフレーム13を介して取り付けられ、そのLCDフレーム13に、表示部となるLCD24が取り付けられ、LCD24は、パネル14との間に防塵クッション26(図3、図5)を挟んで組み立てられている。リアカバー22は、フロントケース12に嵌着固定される。
ガスケット18は、弾性体、例えば、シリコンゴムで、従来と同様に、パネル14をフロントケース12からフローティングさせる働きを担う素子である。
【0025】
次に、図1乃至図7を参照して、この実施例の動作について説明する。
この実施例のパネルスピーカ10は、そのパネル14をガスケット18を介してフロントケース12に貼付するようにして携帯電話機11(図1)に装着されている。そして、基板20に搭載された駆動回路から音声信号対応の駆動信号が、パネル14に貼付されている圧電素子16に印加される。
駆動信号が印加される圧電素子16は、音声信号対応の振動を発生する。圧電素子16で発生する振動は、パネル14を振動させる。パネル14に生ずる振動は、パネル14の周辺部へ伝播して行く。
【0026】
パネル14は、上述したように、圧電素子16を貼付している基部から周辺部の方へ進むにつれて薄く形成されているから、圧電素子16の振動は、パネル14の周辺部へ均等に効率良く伝播し、パネル14全体を均一に振動させることができる。
【0027】
このように、この実施例の構成によれば、パネルの板厚を圧電素子貼付部で厚く、その周辺に進むにつれて薄く形成しているので、圧電素子で発生する振動をパネル全域へムラなく効率良く伝達させ、パネル全体を均一に振動させることができる。」(5?6頁)

ハ.「【0030】
この発明の実施例3であるパネルスピーカの構造は、実施例1と同様である。この実施例の構成が、実施例1のそれと大きく異なる点は、パネルをフロントケース(筐体)に貼付しているガスケットの材質を部分的に変更する、例えば、ガスケットにシリコンゴムを使用した場合、シリコンゴムの硬度を部分的に柔らかくするとその付近のパネルは振動し易くなり、部分的に硬くするとその付近のパネルは振動し難くなる。したがって、圧電素子付近のシリコンゴムの硬度を硬くし、周辺のシリコンゴムの硬度を柔らかくすると、実施例2の場合と同様の効果が得られる。
【0031】
このように、この実施例の構成によれば、振動の伝達を助長させるようにパネルをフロントケースに貼付しているガスケットの材質を部分的に変えたので、圧電素子からパネルに与えられた振動の伝達率を高め、振動をパネルの周辺へムラなく効率良く伝達させ、パネル全体を均一に振動させることができる。」(7頁)

上記引用例の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.の【0021】における「図1は、この発明の実施例1であるパネルスピーカを搭載した携帯電話機」との記載、及び図1によれば、携帯電話機は、パネルスピーカ(10)を有している。
また、上記ロ.の【0025】における「駆動信号が印加される圧電素子16は、音声信号対応の振動を発生する。圧電素子16で発生する振動は、パネル14を振動させる。」との記載、図1ないし図7によれば、パネルスピーカ(10)は、外部に露出したパネル(14)と、駆動信号に基づいてパネル(14)を振動させる圧電素子(16)とを有している。ここで、上記ロ.の【0025】における「駆動信号が印加される圧電素子16は、音声信号対応の振動を発生する。」との記載によれば、駆動信号は音声信号に対応している。
また、上記ロ.の【0023】における「圧電素子16は、基板20に実装される駆動回路(明示せず)によって駆動されてパネル14から音響振動を発生させる。」との記載、図1ないし図7によれば、携帯電話機は、駆動回路を有している。ここで、駆動回路は、パネル(14)から音響振動を発生させる駆動信号を出力することが読み取れる。

したがって、上記引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「外部に露出したパネル(14)と、
音声信号に対応した駆動信号に基づいて前記パネル(14)を振動させる圧電素子(16)と、
前記駆動信号を出力する駆動回路とを有する携帯電話機。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「パネル(14)」は、圧電素子(16)で発生する振動により、振動させられ、また、上記引用例の図1ないし図7によれば、「表面」(第1の面)を有するから、「第1の面を有する振動板」ということができる。
b.引用発明の「音声信号に対応した駆動信号」は、音声信号は、音声情報を有する信号であり、また、駆動信号は、圧電素子(16)に印加される電気信号であるから、「音声情報を有する電気信号」ということができる。
c.引用発明の「圧電素子(16)」及び「駆動回路」は、補正後の発明の「振動素子」及び「電子回路」にそれぞれ相当する。
d.引用発明の「携帯電話機」は、「携帯端末」の一種である。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「外部へ露出し第1の面を有する振動板と、
音声情報を有する電気信号に基づいて前記振動板を振動させる振動素子と、
前記電気信号を出力する電子回路とを少なくとも有している携帯端末。」

(相違点1)
「第1の面を有する振動板」に関し、
補正後の発明は、外部へ露出し、「かつ耳に押し当てられる」ものであるのに対し、引用発明は、当該「かつ耳に押し当てられる」ものか不明な点。

(相違点2)
「振動している前記振動板」の第1の態様に関し、
補正後の発明は、「振動している前記振動板の前記第1の面内の位置による振幅の差異が、最小値に対する最大値の比で60dB以下である」のに対し、引用発明は、その様な特定がない点。

(相違点3)
「振動している前記振動板」の第2の態様に関し、
補正後の発明は、「振動している前記振動板の前記第1の面内の任意の位置であるA点において、該A点に10Nの加重を加えた場合と加重を加えない場合との振幅の差異が、10Nの加重を加えた場合の振幅に対する加重を加えない場合の振幅の比で20dB以下である」のに対し、引用発明は、その様な特定がない点。

そこで、まず、上記相違点1について検討する。
携帯電話機の使用形態において、ユーザが、パネル(14)に耳を押し当てない使用形態もあるが、ユーザが音声を明瞭に聞き取ろうとする場合、耳を押し当てて使用することは、普通に行われる通常の使用形態である。
そうすると、引用発明の「パネル(14)」を有する携帯電話機に接した当業者であるならば、補正後の発明のように「かつ耳に押し当てられる」使用形態とすることは格別のことではない。

次に、上記相違点2について検討する。
上記引用例の上記ロ.の【0026】における「圧電素子16の振動は、パネル14の周辺部へ均等に効率良く伝播し、パネル14全体を均一に振動させることができる。」との記載によれば、引用発明のパネル(14)の面内の位置による振幅の差異を少なくするようにすること、すなわち、振動板の面内の各位置の振動をなるべく一様にすることは当然のことである。
そして、本願明細書の記載を参酌しても、ユーザが、携帯端末の振動板(12)の第1の面(12a)を、耳に押し当てて使用する形態の場合、「振動している前記振動板の前記第1の面内の位置による振幅の差異が、最小値に対する最大値の比で60dB以下」(数値範囲の上限が「60dB」)とする臨界的意義を見いだすことができない。
そうすると、上記相違点2は、引用発明の「携帯電話機」に接した当業者であるならば、振動板の面内の位置による振幅の差異を少なくするために当然採用すると思われる程度の上限値を具体的に設定したものに過ぎない。
したがって、補正後の発明のように「振動している前記振動板の前記第1の面内の位置による振幅の差異が、最小値に対する最大値の比で60dB以下である」とすることに格別の困難性はない。

次に、上記相違点3について検討する。
携帯電話機において、ユーザがパネル(14)に耳を押し当てても、音声を聞き易くすることは自明の課題である。また、上記引用例の上記ロ.の【0026】における「圧電素子16の振動は、パネル14の周辺部へ均等に効率良く伝播し、パネル14全体を均一に振動させることができる。」との記載によれば、引用発明のパネル(14)の面内の任意の位置による振幅の差異を少なくすることは明らかである。すなわち、携帯電話機である以上、ユーザがパネル(14)に耳を押し当てる力の強さの変化による振幅の伝達による聞こえ具合(振動の振幅)の変化を任意の位置で小さくすることは当然のことである。
そして、本願明細書の記載を参酌しても、ユーザが、携帯端末の振動板(12)の第1の面(12a)を、耳に押し当てて使用する形態の場合、「振動している前記振動板の前記第1の面内の任意の位置であるA点において、該A点に10Nの加重を加えた場合と加重を加えない場合との振幅の差異が、10Nの加重を加えた場合の振幅に対する加重を加えない場合の振幅の比で20dB以下」(数値範囲の上限が「20dB」)とする臨界的意義を見いだすことができない。
そうすると、上記数値範囲の上限を「20dB」とすることは、当業者がユーザがパネル(14)に耳を押し当てる力の強さの変化による振動の伝達による聞こえ具合の変化を任意の位置で小さくするために適宜なし得る程度の設計的事項である。
したがって、補正後の発明のように「振動している前記振動板の前記第1の面内の任意の位置であるA点において、該A点に10Nの加重を加えた場合と加重を加えない場合との振幅の差異が、10Nの加重を加えた場合の振幅に対する加重を加えない場合の振幅の比で20dB以下である」とすることに格別な困難性はない。

さらに、補正後の発明の作用効果も、引用発明から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年6月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定 1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2014-03-12 
結審通知日 2014-03-18 
審決日 2014-03-31 
出願番号 特願2012-535514(P2012-535514)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
P 1 8・ 575- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 正宏  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 関谷 隆一
萩原 義則
発明の名称 携帯端末  

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