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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1306843
審判番号 不服2014-4706  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-11 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2011-541136「安全装置を有する蒸気圧力容器」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日国際公開、WO2010/072291、平成24年 6月14日国内公表、特表2012-513220〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年11月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年12月23日(DE)ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成25年11月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年3月11日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成25年6月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「容器本体及び蓋を備え、前記容器本体及び前記蓋それぞれが長い取手を有し、ポットの縁部と前記蓋の縁部との間に封止リングが介在することにより、バヨネットキャッチのラインに沿って部分的に重なり合っている周辺部分によって互いに密に連結されるように設計されている、蒸気圧力容器において、
少なくとも2つの開閉安全装置を組み合わせることにより特徴付けられており、
第1の安全装置が安全バルブを備え、該安全バルブのバルブ本体が、前記2つの取手(1、11)を重なるように回して、すなわち調整用周辺部分が完全に重なり合うことにより、容器と蓋を閉鎖位置にもってくるまで、第1ばね要素(9)によりばねで付勢されたスライダ(10)によって開位置に保持されており、
第2の安全装置が、前記2つの取手(1、11)を重なるように回して、前記調整用周辺部分が完全に重なり合うことにより、容器と蓋を前記閉鎖位置にもってくるまで、前記開位置において第2ばね要素(6)によりばねで付勢された安全カム(7)により前記封止リングを前記蓋の前記縁部から持ち上げ、
前記2つの取手(1、11)を重ねてそれらの閉鎖位置にまで回すことによってのみ、前記スライダ(10)が、前記バルブ本体から離れるように移動し又は移動可能になり、前記安全カム(7)が、前記封止リングから離れるように移動し又は移動可能になり、その結果、前記バルブ本体及び封止リングがそれらの閉位置又は封止位置に移動する、蒸気圧力容器。」

第3 原査定の理由
1 平成25年2月4日付け拒絶理由通知書
平成25年2月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由4は、
「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
というもので、備考として、
「発明の詳細な説明には、作動ボルト、駆動シャフト、閉鎖ボルト、安全カム、ドライバ、スライダ、安全バルブ、押しボタン等の各構成要素が具体的にどのような構造であって、どのように相互作用するのかが、技術常識を参酌しても、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」
と記載されている。

2 平成25年11月28日付け拒絶査定
平成25年11月28日付け拒絶査定の内容は以下のとおりである。
「この出願については、平成25年2月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由4によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
出願人は、拒絶理由通知書に記載した理由4について、意見書において、「前述しましたように、本願発明の主要概念は、・・・になっています。この主要概念は、本願明細書に十分に説明されており、添付図面には、各構成要素(作動ボルト(8)、駆動シャフト(4)、閉鎖ボルト(5)、安全カム(7)、ドライバ(2)、スライダ(10)、押しボタン(3))が示されております。そのため、当業者は本願発明を十分に理解し、本願発明を実施することができると考えております。なお、安全バルブは、図示されておりませんが、当業者は、他の構成要素の配置、機能から、それらが、どのように作用するのかを理解することができます。したがって、本願の発明の詳細な説明には、どのように構成要素が相互作用するのか、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されています。」と主張している。
しかしながら、「本願発明の主要概念」は発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できたとしても、それをどのように具体的に実現するかについては、作動ボルト、駆動シャフト、閉鎖ボルト、安全カム、ドライバ、スライダ、安全バルブ、押しボタン等の各構成要素が具体的にどのような構造であって、どのように相互作用するのかを発明の詳細な説明に記載する必要があると認められ、出願時の技術常識を参酌してもそれらが明確かつ十分に記載されていると認められない以上、この出願の発明の詳細な説明は当業者が請求項1-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず、出願人の主張は採用できない。」

第4 当審の判断
本願の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定するいわゆる実施可能要件を満たすというためには、当業者が本願発明の実施(本願発明の蒸気圧力容器の製造)をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならない。
そして、本願発明の蒸気圧力容器を製造するためには、本願発明に係る第1の安全装置と第2の安全装置について、
「安全バルブのバルブ本体が、前記2つの取手(1、11)を重なるように回して、すなわち調整用周辺部分が完全に重なり合うことにより、容器と蓋を閉鎖位置にもってくるまで、第1ばね要素(9)によりばねで付勢されたスライダ(10)によって開位置に保持され」
「前記2つの取手(1、11)を重なるように回して、前記調整用周辺部分が完全に重なり合うことにより、容器と蓋を前記閉鎖位置にもってくるまで、前記開位置において第2ばね要素(6)によりばねで付勢された安全カム(7)により前記封止リングを前記蓋の前記縁部から持ち上げ」
「前記2つの取手(1、11)を重ねてそれらの閉鎖位置にまで回すことによってのみ、前記スライダ(10)が、前記バルブ本体から離れるように移動し又は移動可能になり、前記安全カム(7)が、前記封止リングから離れるように移動し又は移動可能になり、その結果、前記バルブ本体及び封止リングがそれらの閉位置又は封止位置に移動する」
という所期の作用を達成するための、各構成要素の構造と相互関係を具体的に理解できなければならない。
そこで、発明の詳細な説明の記載を参照すると、発明を実施するための形態として、以下の記載が認められる。

「【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による2重の閉鎖開放安全装置は、蓋の取手1と、例えば作動ボルト8の形態をとる制御要素を有するポットの取手11と協働する。蓋が正しくポットに配置されていないとき、2つの安全システムが、確実に、圧力容器内の圧力が高まらないようにする。第1の安全装置が作動した際、ポットの内部からのみ作動させることができる第2の安全装置は依然として機能している。
【0019】
詳細に述べると、第1の安全装置は、閉鎖ボルト5、引張ばね9、ばねで付勢されるスライダ10、及び、図示されていない安全バルブを備える。取手1、11を順に重ねて閉じる方向に回し、ポットの取手11における作動ボルト8により、閉鎖ボルト5が起動され作動すると、スライダ10が、安全バルブから離れるように移動する。(圧力が高まるのを防止するために)圧力解放位置(開位置)に事前に保持されている安全バルブは、ここで閉じることができ、ポット内部で圧力を高めることができる。同時に、閉鎖ボルト5と引張ばね9と(例えば、板の形での)スライダ10とを組み合わせることにより、圧力容器の開口が、スライダ10の適切に湾曲した形状によってブロックされ、蓋の取手1にスライドできるように取り付けられた押しボタン3が、外側に押される。圧力容器は、安全バルブのバルブ本体が再び落下して、スライダ10が作動できるようになるときにのみ、再度開くことができる。
【0020】
第2の安全装置は、詳細には、駆動シャフト4、及び、渦巻ばね6の形での少なくとも1つのばね要素の作用を受ける安全カム7を備える。取手1、11を順に重ねて閉鎖位置まで回して、ポットの取手11における作動ボルト8により、駆動シャフト4が起動され作動すると、安全カム7が移動して元に戻る。それまで、安全カム7は、封止リング(図示せず)を押圧しており、この封止リングは永久にばねによって付勢された状態にあり、蓋の縁部から離れる。安全カム7が引き込まれるまでは、圧力が高まることはできない。
【0021】
使用後、依然として熱いのに圧力容器を開けなければならない場合、ユーザは、押しボタン3を内側に押し、その結果、安全バルブの本体が圧力解放位置に移動する。圧力が完全に解放されたときにのみ、押しボタン3を、蓋の取手1の中に完全に押し込むことができる。押しボタン3は、スライダ10を前方に押し出し、したがって安全バルブを圧力解放位置にもってくるように、ドライバ2における湾曲した経路を介して、蓋の取手1内の前記スライダ10に作用する。安全バルブが「降下」すると、押しボタン3を完全に押し込むことができる。スライダ10の湾曲制御を介して、閉鎖ボルト5を最後の数mmだけ回し、その結果、システムが全体として開き、再度蓋を開けることができる。
【0022】
押しボタン3が操作されると、スライダ10におけるドライバ2を介して、スライダを前方に動かして、システム内の圧力を解放する。容器内部の圧力が0.04バール未満であるとき、安全バルブ(図示せず)は、その初期位置まで降下する。
【0023】
次いで、押しボタン3をさらに中に押し込むことができ、スライダ10におけるドライバ2を介して、前記スライダをさらに前方に移動させる。同時に、渦巻ばね6及び安全カム7は、駆動シャフト4の適切に構成された幾何形状を介して、駆動シャフト4のガイド溝及び閉鎖ボルト5にトルクを加える。
【0024】
前述したように、押しボタンが作動した結果、スライダ10が端位置まで移動すると、この端位置において、蓄積されたトルクが効力を生じ、ポット及び蓋を互いに対して回し、したがってシステムを自動的に停止する。」

「【図1】



上記段落【0019】には、第1の安全装置について記載されている。この記載より、第1の安全装置が、閉鎖ボルト5、引張ばね9、ばねで付勢されるスライダ10、及び、図示されていない安全バルブを備えることは理解できる。しかし、同段落の記載からは、作動ボルト8が、どのようにして閉鎖ボルト5を起動するのか、閉鎖ボルト5が作動するとはどのような動作なのか、閉鎖ボルト5が起動され作動すると、どのようにしてスライダ10が安全バルブから離れるように移動するのか、スライダ10の適切に湾曲した形状とはいかなる形状であり、当該形状によって圧力容器の開口がどのようにしてブロックされ、どのようにして押しボタン3が外側に押されるのか、を理解することはできない。図面を参照しても、【図1】に一部の部品の分解図を含む概略構成の斜視図が図示されているだけであり、詳細な構成は理解できない。そうすると、第1の安全装置を具体的にどのように構成することにより、所期の作用をなし得るのかを理解することはできない。
また、段落【0020】には、第2の安全装置について記載されており、第2の安全装置が、駆動シャフト4、渦巻ばね6、安全カム7を備えることは理解できる。しかし、同段落の記載からは、作動ボルト8が、どのようにして駆動シャフト4を起動するのか、駆動シャフト4が作動するとはどのような動作なのか、駆動シャフト4が起動され作動すると、どのようにして安全カム7が移動して元に戻るのか、を理解することはできず、図面を参照しても、【図1】に一部の部品の分解図を含む概略構成の斜視図が図示されているだけであり、詳細な構成は理解できない。そうすると、第2の安全装置を具体的にどのように構成することにより、所期の作用をなし得るのかを理解することはできない。
さらに、段落【0021】?【0024】には、押しボタン3を操作したときの動作が記載されている。しかし、段落【0021】には、押しボタン3を内側に押すと、安全バルブの本体が圧力解放位置に移動すること、圧力が完全に解放されたときにのみ、押しボタン3を蓋の取手1の中に完全に押し込むことができること、が記載されているものの、これらの動作を行わせるための具体的な構成は記載されていない。押しボタン3が「ドライバ2における湾曲した経路を介して」スライダ10に作用する旨は記載されているが、【図1】を参照しても、「ドライバ2」は、スライダ10から上方に突出する突起にしか見えず、「ドライバ2における湾曲した経路」が何を意味するのかは不明である。また、「スライダ10の湾曲制御」が何を意味し、これにより、どのようにして閉鎖ボルト5を最後の数mmだけ回し、その結果、どのようにしてシステムが全体として開くのかも理解できない。段落【0022】?【0024】にも、押しボタン3とスライダ10が関連して動作するための具体的な構成は記載されていない。また、段落【0023】には、押しボタン3をさらに中に押し込む時の作用として、渦巻ばね6及び安全カム7が、駆動シャフト4のガイド溝及び閉鎖ボルト5にトルクを加えることが記載されているものの、これがいかなる動作であるのかを具体的に理解することはできないし、「駆動シャフト4の適切に構成された幾何形状」が具体的にどのような形状であるのかも不明である。
したがって、発明の詳細な説明における、発明を実施するための形態の記載を参照しても、第1の安全装置及び第2の安全装置を具体的にどのように構成し、各安全装置に押しボタン3を具体的にどのように関連付けて構成することにより、所期の作用をなし得るのかを理解することはできない。
また、発明の詳細な説明における、その余の記載を参照しても、第1の安全装置及び第2の安全装置を具体的にどのように構成することにより、所期の作用をなし得るのかを理解することはできない。
そうすると、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明に係る第1の安全装置と第2の安全装置について、所期の作用を達成するための、各構成要素の構造と相互関係を具体的に理解できるように記載したものではないから、当業者が本願発明を実施(本願発明の蒸気圧力容器を製造)できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

また、本願優先日の技術常識を考慮しても、当業者が本願発明を実施できるとはいえない。
すなわち、本願の発明の詳細な説明には、背景技術として、具体的な特許文献を提示しつつ、圧力鍋についての既知の安全システムについて記載されており(【0002】?【0007】)、発明が解決しようとする課題として、「本発明の目的は、既知のシステムの前述の欠点をなくすことであり、特に、動作安全性、及び容器本体から蓋が望ましくない形で外れるのを防止する点ではるかに大幅な改善をもたらす圧力容器を提供することである。」(【0008】)と記載されているのであるから、当業者は、本願発明は、上記既知の安全システムとは異なる安全システムを採用したものと認識する。そうすると、本願発明の第1の安全装置及び第2の安全装置の構成として、既知の安全システムの構成を採用することは考えられないから、技術常識に基づいて本願発明の第1の安全装置及び第2の安全装置を具体化できるとはいえない。

請求人は、審判請求書において、本願明細書に記載された独国特許出願公告第2705712(B2)号(以下「背景技術1」という。)が本願出願時の技術常識になるとして、
「安全バルブは図示されておりませんが、当業者は、蒸気圧力鍋が何の為に使用されるか、その背景技術を十分に理解しております。そのため、本願の記載から、どのように安全バルブが他の構成要素(例えば、取手,作動ボルト、閉鎖ボルトなど)と相互作用するのか理解すると考えております。」
「当業者は、背景技術を理解しており、記載された構成要素は参照符号と共に図示されておりますので、作動ボルトが具体的にどのような構造であって、どのように相互作用するのかが分かります。そのため、当業者は、これらの記載及び図示から、どのように作動ボルトが他の構成要素(例えば、取手1,11,安全バルブ、駆動シャフト4など)と相互作用するのか理解すると考えております。」
等と主張するが、上記背景技術1は、作動ボルト、閉鎖ボルト、駆動シャフト等を備えるものではなく、背景技術1の安全装置は、本願発明の第1の安全装置又は第2の安全装置と同じ作用をするものでもないから、上記請求人の主張を採用することはできない。
また、請求人は、平成27年4月13日付けのファクシミリ(応対記録参照。)において、参考図A-Dを添付し、本願発明の構造及び動作を説明している。しかし、参考図A-Dは、本願優先日の技術常識を示すものとはいえないから、これらの図を参照することによって、本願発明を実施することができたとしても、本願の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすとはいえない。

第6 むすび
したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-14 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2011-541136(P2011-541136)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 紀本 孝
森本 康正
発明の名称 安全装置を有する蒸気圧力容器  
代理人 池田 正人  
代理人 池田 成人  
代理人 山口 和弘  
代理人 野田 雅一  
代理人 城戸 博兒  

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