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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1306844
審判番号 不服2014-6607  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-09 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2010-538959「標的粒子を検出するためのマイクロエレクトロニクスセンサデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日国際公開、WO2009/083814、平成23年 3月10日国内公表、特表2011-508199〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年10月31日(優先権主張:2007年12月20日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月27日付けで拒絶理由が通知され、同年6月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月6日付けで拒絶査定されたのに対し、平成26年4月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年4月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年4月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要について
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、平成25年6月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりである。
「【請求項1】
キャリアの結合面の結合位置と結合する標的粒子を検査するマイクロエレクトロニクスセンサデバイスであって:
感度領域を有するセンサユニットであって、
入力信号を生成し、前記入力信号を第1周波数で変調し、かつ、前記の変調された入力信号を前記キャリアへ供する発生装置、及び、
前記キャリアから、前記の変調された入力信号に応じて生成されて、前記第1周波数で変調されて、かつ、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在に依存して変化する出力信号を受ける検出器であって、前記出力信号に応じて、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在を示唆するセンサ信号を生成する検出器、
を備えるセンサユニット;
前記センサユニットの感度領域についての、前記結合面での結合した標的粒子の運動を選択的に誘起する作動ユニット;及び、
前記作動ユニットによって誘起された前記の結合した標的粒子の運動及び前記第1変調周波数を考慮するセンサ信号を評価する評価モジュール;
を有するマイクロエレクトロニクスセンサデバイス。」

これに対し、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、以下のように補正しようとするものである。
「【請求項1】
キャリアと結合する標的磁性粒子を検査するマイクロエレクトロニクスセンサデバイスであって、
前記キャリアは、前記標的磁性粒子と選択的に結合可能な捕獲素子によってコーティングされた結合表面を有し、
当該マイクロエレクトロニクスセンサデバイスは:
感度領域内での標的磁性粒子の存在を示唆するセンサ信号を供するセンサユニット;
前記センサユニットの感度領域ついての、前記の結合した標的磁性粒子の運動を選択的に誘起する磁場を制御可能なように発生させる磁場発生装置を有する作動ユニット;
前記標的磁性粒子の誘起された運動を考慮するセンサ信号を評価する評価モジュール;
を有し、
前記センサユニットでは、前記センサ信号は、前記結合表面での入射光ビームの全内部反射からの光を含む出力光ビームから得られ、
前記評価モジュールでは、前記センサ信号は、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在及び/若しくは量に関して、並びに/又は、前記標的粒子と前記結合表面との間での結合の結合特性に関して評価される、
マイクロエレクトロニクスセンサデバイス。」(下線は補正箇所を示すものである。)

2 補正の適否について
本件補正の請求項1についての補正は、補正前の請求項1から、センサユニットについて「入力信号を生成し、前記入力信号を第1周波数で変調し、かつ、前記の変調された入力信号を前記キャリアへ供する発生装置、及び、
前記キャリアから、前記の変調された入力信号に応じて生成されて、前記第1周波数で変調されて、かつ、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在に依存して変化する出力信号を受ける検出器」という記載を削除しようとする補正を含むものであり、このように必須であった発明特定事項を大幅に削除する補正が、いわゆる限定的限縮を目的とする補正とはいえず、本件補正の請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。

また、補正前の請求項1から上記発生装置と検出器に関する記載を削除する本件補正の請求項1についての補正が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的としないことも明らかである。

したがって、本件補正の特許請求の範囲についての補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、上記結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1に記載した平成25年6月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されるとおりのものである。

2 引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-71300号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項及び発明が記載されている。(下線は、参考のために当審で付与したものである。)

(1)引用例の記載事項
ア 「【請求項1】
基板上に形成された光導波路に接する流体中に含まれる被検出物質を検出する生化学物質検出装置であって、
前記光導波路に光を入射する光入射手段と、
前記光導波路から出射された光を検出する光検出手段と、
前記光導波路表面近傍に設けられ前記被検出物質と選択的に結合するレセプタと、
前記レセプタに振動を与え、前記レセプタと前記光導波路の表面との距離を変化させる振動励起手段と、
前記光検出手段からの出力信号に基き、前記振動励起手段により振動励起された前記レセプタの振動の振幅、もしくは振動数、もしくは位相のいずれかを算出する信号処理部とを有することを特徴とする生化学物質検出装置。」

イ 「【0021】
まず、一般化した生化学センサの原理を記す。レセプタ100に吸着する被検出生化学物質101を検出するために、基板21上にレセプタを固定化する。レセプタ100を固定化した基板上の領域に物質101の吸着によって変調を受けるキャリアと呼ぶエネルギーの流れを作る。たとえば、光強度変化を測定する例で言えばキャリアは光であり、基板上にキャリアの流れを作るために光導波路を形成する。また、キャリアの変調とは光などの強度または振幅または位相または周波数を変化させることを指す。キャリア生成装置22から出力されたキャリアは基板21上を通過する過程で物質101の吸着量に依存した変調を受ける。次にディテクタ23で電気信号に変換する。電気信号変換前後で適切な信号処理を行った後、物質吸着量信号として出力する。キャリア強度をI_(C)とするとき、信号揺らぎ要因としてはキャリア生成時に生じるキャリア揺らぎI_(Nc)がまず、I_(C)に重畳する。キャリア揺らぎの具体例としては、光導波路を使う場合にはレーザダイオードの相対強度雑音(RIN: Relative Intensity Noise)や位相雑音、また、表面プラズモン法を使う場合には波長揺らぎが挙げられる。次に、レセプタ100が固定化された基板21を通過する時に、揺らぎI_(Nstr)がI_(C)に重畳される。I_(Nstr)の例としては、基板21上にマッハ・ツェンダー干渉計が形成されているときに温度変化によって光導波路を構成する材料の屈折率が変化し、干渉条件が変化して出力光信号が揺らぐことや光を基板21上の光導波路に入力するときに光が漏れ、さらに漏れた光が出力光信号と干渉するとき、温度変化によって干渉条件が変化し光強度が揺らぐことなどが含まれる。次に、被検出物質101以外のサンプル中の不純物14の影響による揺らぎI_(Nnosp)が被検出物質101がレセプタ100に吸着することによる信号I_(S)とともに重畳される。これらすべてを合成した信号がディテクタにおいて電気信号に変換され、信号処理される。このときにも受光・増幅・信号処理デバイスの熱雑音I_(th)が重畳する。以上まとめると、信号ノイズ(揺らぎ)比(SN)は数式1に示すように4種類の揺らぎで決まる。通常のロックイン計測ではI_(C)を周期的に変調し、I_(Nc)を低減するのに有効である。また、数式2に示すようにシグナル強度I_(S)はキャリア強度I_(C)に比例している。このためキャリア強度I_(C)を大きくしてSNを改善することが可能である。ここで、ηは物質吸着によるキャリア強度の変調効率(物質吸着量に対するキャリア変化量の比)、ζは基板通過時のキャリア強度の透過効率、cは被検出物質の濃度である。しかし、数式2から分かるように不純物による揺らぎI_(Nnosp)もキャリア強度に比例しているため、I_(C)を大きくしてもSNは改善しない。この数式でC‘は不純物濃度、εは不純物非選択的吸着率(非検出物質の吸着に対する不純物の吸着確率の比)である。さらに、不純物濃度は被検出物質101の濃度よりも6桁以上高いことが多く、εは一般に103?106の値であることから、不純物による揺らぎI_(Nnosp)が被検出物質101による信号よりも大きくなるという問題も頻繁に生じる。被検出物質の入ったサンプルの事前精製が十分に行えない場合には上記問題は特に重要である。また、この問題は基板上への化学物質の吸着を検出する検出方法にとって一般的に重要な課題でもある。」

ウ 「【0024】
基板1上にキャリアを通過させる構造2を形成する。キャリアの具体例は光や電流である。また、このキャリアを生成する装置3は具体的にはレーザ光源や電流源や高周波源であり、前記構造2に入射する。また、前記構造2はキャリアが被検出物質の存在する溶媒にキャリアの一部は染み出すような構造になっており、被検出物質と構造2との距離と被検出物質の量に応じて、キャリアの強度や位相や状態に変化を与える。キャリア検出器5で上記被検出物質による変調を受けたキャリアを計測する。従来の構成では、被検出物質を選択的に構造2近傍に集めるためにレセプタを構造2の近傍に固定化していた。本発明の構成では、このレセプタが構造2との距離または向きが任意の周期で運動あるいは振動させる手段を備えていることを特徴とする。すなわち、このレセプタは可動かつ、キャリアと相互作用しない領域までは離れないように構造2に固定化されており、また、このレセプタは外部からの振動場(電場や磁場など)の力を受けることができる分子を選択する。このレセプタを振動させる振動場生成装置9を備えている。レセプタの例としては抗体はや1本鎖のDNA(デオキシリボ核酸)が考えられ、これらを選択すると、自然に上記2つの条件を満足する固定化したレセプタをえることができる。すなわち、アミノ基などを介して構造2に固定化することによって分子は自由に回転振動運動することが可能であり、適切な溶媒中で電離したイオンを含むため電場から力を受けることができる。
この基本構成において、レセプタ分子は図1中に示したように振動場生成装置9によってレセプタ分子が立った状態(実線)と倒れた状態(点線)を繰り返す。それゆえ、レセプタあるいはサンプルとレセプタの複合体と構造2(前記光導波路)の間の平均距離を時間的に振動させることができる。この基本構成ではレセプタが可動であり力を受けることができるが、これら2つの機能を別の最適な手段で置き換えることも可能である。このようにした場合の構成を図37に示す。まず、レセプタを構造2(前記光導波路)の表面近傍に繋ぎ止めるとともに前記レセプタに振動を与えられるようにするテザー分8(つなぎ分子)を用いる。次に、振動場から効率よく力を受けるようにするために、前記に振動場生成装置9によって発生させた電磁場に感応する微粒子7をレセプタに結合する。こうすることによってレセプタやレセプタとサンプルの複合体は大きく振動することが可能となり、検出装置の感度の向上をはかることができる。なお、振動場生成装置9は振動場信号生成装置10からの信号を受け、振動場を微粒子に作用する。
【0025】
次に上記構成で以下に物質を検出できるかを説明する。上記構成では、レセプタに振動を加えるとこの振動に従って構造2を通過するキャリアが変調される。すなわち、レセプタの動きを計測することができる。サンプル中の被検出物質101がレセプタに吸着するとレセプタと被検出物質の複合体が振動することになり、キャリアへの変調が変化する。たとえば、複合体の振動によって、より強くキャリアが変調される。すなわち、キャリア検出器5で受信する変調振幅が増加する。この振幅増加によって吸着物質量を定量することができる。
【0026】
次に感度向上のメカニズムを示す。上記レセプタ振動に対応した変調信号と振動信号生成装置からの振動信号を同期させて、信号処理部12でロックイン検出することによって感度向上を図ることができる。すなわち、ロックイン検出によって、揺らぎ要因I_(Nnosp)とI_(Nstr)含まれるノイズを低減することができる。なぜなら、これらのノイズ成分は1/fノイズがほとんどであるため、振動場の周波数を上げることによってSNを向上することができるからである。また、不純物によるノイズについては、不純物が振動し易い周波数以外の周波数で振動場を印加して計測することによってノイズ成分を排除することが可能である。特に、微粒子に磁化を与えて磁場で振動を励起すると不純物の振動はほとんど生じないため、振動するレセプタに吸着した分子のみからの信号を選択的に検出するこができる。また、テザー分子に非線形のバネ特性を持たせて、振動生成装置の振動数とは異なる振動数の固有振動を励起し、この固有振動を計測することによっても不純物の影響を排除することが可能である。」

(2)引用例に記載された発明の認定
上記アないしウを含む引用例全体の記載を総合すると、引用例には、
「光導波路が形成される基板上に固定化されたレセプタに結合する被検出生化学物質を検出する生化学物質検出装置であって、
前記光導波路に光を入射する光入射手段であるキャリア生成装置と、
前記光導波路から出射された光を検出する光検出手段であるディテクタと、
前記光導波路表面近傍に設けられ前記被検出生化学物質と選択的に結合するレセプタと、
前記レセプタに振動を与え、前記レセプタと前記光導波路の表面との距離を変化させる振動励起手段と、
前記光検出手段からの出力信号に基き、前記振動励起手段により振動励起された前記レセプタの振動の振幅、もしくは振動数、もしくは位相のいずれかを算出する信号処理部とを有し、
光であるキャリアの生成時に生じるキャリア揺らぎを低減するのに有効であるように、キャリア強度を周期的に変調し、
レセプタ振動に対応した変調信号と振動信号生成装置からの振動信号を同期させて、信号処理部でロックイン検出することによって感度向上を図る生化学物質検出装置。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「基板」、「被検出生化学物質」、「キャリア生成装置」、「ディテクタ」、及び「信号処理部」が、それぞれ本願発明の「キャリア」、「標的粒子」、「発生装置」、「検出器」、及び「評価モジュール」に相当する。

イ 引用発明の「レセプタ」が「固定化された」「基板上」の部分が、本願発明の「キャリアの結合面の結合位置」に相当し、引用発明は、「被検出生化学物質」を「レセプタ」への「結合」によって「基板上」に留めるものであるから、引用発明の「レセプタ」へ「結合」する「被検出生化学物質」が、本願発明の「結合する標的粒子」に相当する。また、引用発明は、「光検出手段からの出力信号」に基づいて「信号処理部」で算出を行うものであり、電気的に作動する装置であることは明らかであるので、引用発明の「生化学物質検出装置」は、本願発明の「マイクロエレクトロニクスセンサデバイス」に相当する。
そうすると、引用発明の「基板上に固定化されたレセプタに吸着する被検出生化学物質を検出する生化学物質検出装置」は、本願発明の「キャリアの結合面の結合位置と結合する標的粒子を検査するマイクロエレクトロニクスセンサデバイス」に相当する。

ウ 引用発明の「レセプタ」が「固定化された」「基板上」の部分は、「レセプタ」に「結合」した「被検出生化学物質」によって、キャリアを変調する部分であるから(2(1)イの摘記を参照。)、本願発明の「感度領域」に相当する。そして、引用発明の「キャリア生成装置」、「ディテクタ」、及び「基板」の全体が、本願発明の「感度領域を有するセンサユニット」に相当する。

エ 引用発明の「光導波路に入射する」「光」が、本願発明の「入力信号」に相当し、引用発明において、「キャリア生成装置」がこの「光」を「生成」していることは自明である。そして、引用発明の「光であるキャリアの生成時に生じるキャリア揺らぎを低減するのに有効であるように、キャリア強度を周期的に変調する」ことがどの部材で行われているかについて、引用例において具体的に記載されていないが、キャリア揺らぎを低減するためには、光であるキャリアの生成が行われる段階、つまり、光照射手段において変調される必要があることは当業者にとって明らかである。そして、引用発明における「キャリア強度を周期的に変調する」周波数は、本願発明の「第1周波数」に相当する。
そうすると、引用発明の「光であるキャリアの生成時に生じるキャリア揺らぎを低減するのに有効であるように、キャリア強度を周期的に変調する」「キャリア生成装置」が、本願発明の「入力信号を生成し、前記入力信号を第1周波数で変調し、かつ、前記の変調された入力信号を前記キャリアへ供する発生装置」に相当する。

オ 本願発明の「前記キャリアから、前記の変調された入力信号に応じて生成されて、前記第1周波数で変調されて、かつ、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在に依存して変化する出力信号」という特定事項について、この記載を文言通り解釈すると、出力信号は、(第1周波数で)変調された入力信号が、更に同じ周波数である第1周波数で変調されたものとなり、明らかに技術的に必要のない変調を行うことになり、これは、本願の発明の詳細な説明の記載とも対応しないものである。そのため、本願発明と引用発明の対比にあたっては、本願の発明の詳細な説明全体を参酌して、本願発明の上記特定事項中の「前記第1周波数で変調されて」は、入力信号の特定であると解した。
引用発明において、「基版」の「光導波路」に「入射」された「光」は、「被検出生化学物質」が結合した「レセプタ」に結合した「被検出生化学物質」量に依存した変調を受ける(2(1)イの摘記を参照。)から、引用発明の「ディテクタ」で検出される「光」は、本願発明の「前記キャリアから、前記の変調された入力信号に応じて生成されて、前記第1周波数で変調されて、かつ、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在に依存して変化する出力信号」に相当する。
そうすると、引用発明において、「光」を検出して「出力信号」を出力する「ディテクタ」は、本願発明の「前記キャリアから、前記の変調された入力信号に応じて生成されて、前記第1周波数で変調されて、かつ、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在に依存して変化する出力信号を受ける検出器であって、前記出力信号に応じて、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在を示唆するセンサ信号を生成する検出器」に相当する。

カ ウで述べたように、引用発明の「レセプタ」が「固定化された」「基板上」の部分は、本願発明の「感度領域」に相当する。引用発明において、「レセプタ」に「振動」が「与え」られると、「レセプタ」に結合した「被検出生化学物質」も振動することは明らかであるから、引用発明の「前記レセプタに振動を与え、前記レセプタと前記光導波路の表面との距離を変化させる振動励起手段」は、本願発明の「前記センサユニットの感度領域についての、前記結合面での結合した標的粒子の運動を選択的に誘起する作動ユニット」に相当する。

キ 引用発明において、「レセプタ振動に対応した変調信号と振動信号生成装置からの振動信号を同期させて」「ロックイン検出する」ことは、レセプタと「結合」して一体に「振動」する「被検出生化学物質」の「振動」を考慮した検出といえるから、引用発明の「前記光検出手段からの出力信号に基き、」「レセプタ振動に対応した変調信号と振動信号生成装置からの振動信号を同期させて」「ロックイン検出することによって感度向上を図」り、「前記振動励起手段により振動励起された前記レセプタの振動の振幅、もしくは振動数、もしくは位相のいずれかを算出する信号処理部」と、本願発明の「前記作動ユニットによって誘起された前記の結合した標的粒子の運動及び前記第1変調周波数を考慮するセンサ信号を評価する評価モジュール」とは、「作動ユニットによって誘起された前記の結合した標的粒子の運動」「を考慮するセンサ信号を評価する評価モジュール」で共通する。

以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(2)一致点
本願発明と引用発明とは、
「キャリアの結合面の結合位置と結合する標的粒子を検査するマイクロエレクトロニクスセンサデバイスであって:
感度領域を有するセンサユニットであって、
入力信号を生成し、前記入力信号を第1周波数で変調し、かつ、前記の変調された入力信号を前記キャリアへ供する発生装置、及び、
前記キャリアから、前記の変調された入力信号に応じて生成されて、前記第1周波数で変調されて、かつ、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在に依存して変化する出力信号を受ける検出器であって、前記出力信号に応じて、前記センサユニットの感度領域内での標的粒子の存在を示唆するセンサ信号を生成する検出器、
を備えるセンサユニット;
前記センサユニットの感度領域についての、前記結合面での結合した標的粒子の運動を選択的に誘起する作動ユニット;及び、
前記作動ユニットによって誘起された前記の結合した標的粒子の運動を考慮するセンサ信号を評価する評価モジュール;
を有するマイクロエレクトロニクスセンサデバイス。」
の点で一致する。

(3)相違点
評価モジュールについて、本願発明は、「第1変調周波数」も「考慮する」のに対して、引用発明は、「キャリア強度を周期的に変調する」変調周波数を考慮するか否かが不明である点。

4 相違点についての判断
引用発明において、「キャリア強度を周期的に変調する」のは、「光であるキャリアの生成時に生じるキャリア揺らぎを低減する」「ロックイン計測」のためであるから、本願発明の「評価モジュール」に相当する「信号処理部」において、キャリア揺らぎを低減した検出結果を得るために、「キャリア強度を周期的に変調する」変調周波数、すなわち本願発明における「第1周波数」を考慮することは当業者が容易になし得ることである。

(3)本願発明が奏する効果
本願発明によって奏される効果は、例えば引用例の【0019】に「非標識生化学センサ(非標識生化学物質検査装置)においてレセプタを振動させ、その振動信号と検出した信号を用いてロックイン計測を行うことによって測定感度と精度を向上する。」と記載されているように引用例の記載事項から当業者が十分予測し得る程度のものである。

(4)まとめ
よって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-13 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2010-538959(P2010-538959)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 亜矢子横尾 雅一  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 藤田 年彦
松本 隆彦
発明の名称 標的粒子を検出するためのマイクロエレクトロニクスセンサデバイス  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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