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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G04B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G04B
管理番号 1306894
審判番号 不服2014-17084  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-28 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2013-515895「少なくとも2つの部品を備えるデバイスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月29日国際公開,WO2011/161192,平成25年 9月 9日国内公表,特表2013-535012〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,特許法184条の3第1項の規定により平成23年6月22日(パリ条約による優先権 平成22年6月22日及び同年月日 スイス)にされたとみなされる特許出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成25年12月10日:拒絶理由通知(同年同月24日発送)
平成26年 3月24日:意見書
平成26年 4月17日:拒絶査定(同年同月30日送達)
平成26年 8月28日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成26年 8月28日:審判請求
平成26年10月28日:前置報告

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1,請求項12及び請求項13の記載は,以下のとおりである(下線は,当審が付したものである。以下同じ。)。
「【請求項1】
第1の部品(2)と,少なくとも第2の部品(3)とを備えるデバイス(1)の組立て方法において,前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を互いに対して組付け可能に配設する,方法であって,この方法は:
-前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を準備するステップ;
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と,前記第1の部品(2)とを,前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)の間に間隙が存在(24)するように,組立てるステップ;
-少なくとも部分的に非晶質となることができるよう選択した合金を準備するステップ;
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるよう前記合金を成形するステップとから成り,前記合金には,少なくとも前記成形操作時までに,少なくとも部分的に非晶質となるような処理を施すことを特徴とする方法。

【請求項12】
前記第1の部品(2)はアンクルであり,前記少なくとも1つの第3の部品(3)はツメ石であることを特徴とする,請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。

【請求項13】
前記第1の部品(300)はホイールであり、前記少なくとも1つの第2の部品(200)はアーバであることを特徴とする、請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。」

なお,【請求項12】の「第3の部品(3)」は,「第2の部品(3)」の誤記である。

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載は,以下のとおりである。
「【請求項1】
アンクルである第1の部品(2)と,少なくともツメ石である第2の部品(3)とを備えるデバイス(1)の組立て方法において,前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を互いに対して組付け可能に配設する,方法であって,この方法は:
-前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を準備するステップ;
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と,前記第1の部品(2)とを,前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)の間に間隙が存在(24)するように,組立てるステップ;
-少なくとも部分的に非晶質となることができるよう選択した修正可能な接合部となる合金を準備するステップ;
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるための前記合金を成形品に成形するステップとから成り,前記合金には,少なくとも前記成形操作時までに,少なくとも部分的に非晶質となるような処理を施すことを特徴とする方法。

【請求項2】
アーバである第1の部品(2)と,少なくともホイールである第2の部品(3)とを備えるデバイス(1)の組立て方法において,前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を互いに対して組付け可能に配設する,方法であって,この方法は:
-前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を準備するステップ;
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と,前記第1の部品(2)とを,前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)の間に間隙が存在(24)するように,組立てるステップ;
-少なくとも部分的に非晶質となることができるよう選択した修正可能な接合部となる合金を準備するステップ;
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるための前記合金を成形品に成形するステップとから成り,前記合金には,少なくとも前記成形操作時までに,少なくとも部分的に非晶質となるような処理を施すことを特徴とする方法。


2 補正の目的
本件補正は,本件補正前の請求項1を引用する請求項12に係る発明(以下「本件補正前発明」という。)における「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるよう前記合金を成形するステップ」の構成を,「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるための前記合金を成形品に成形するステップ」の構成とする補正を含むところ,この補正は,特許法17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とする補正に該当しない。
すなわち,本件補正前発明は,「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるよう前記合金を成形するステップ」を具備していたから,段落【0037】?【0039】の熱間成形で成形する形態でいえば,成形するステップが,少なくとも,図7の隙間を埋める工程を含むことが特定された発明であった。これに対して,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)は,「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるための前記合金を成形品に成形するステップ」を具備するにとどまるから,段落【0037】?【0039】の熱間成形で成形する形態でいえば,図7の隙間を埋める工程に限ることなく,例えば,図5の予備成形品の形状を取るように成形するステップのように,何らかの,合金を成形品に成形するステップが含まれていればよい発明である。本件補正は,発明を減縮するものであるとはいえず,また,補正前の発明特定事項を限定するものであるともいえない。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号の,「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正に該当しない。また,この補正を含む本件補正が,「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」(特許法17条の2第5項1号),「誤記の訂正」(同3号),「明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」(同4号)に掲げる事項を目的とするものでないことも,明らかである。
本件補正は,17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とする補正であるとはいえない。

事案に鑑みて,本件補正後発明が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下,検討する。

3 独立特許要件(36条6項1号及び2号)
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には,「成形品」との用語がある。
しかしながら,本件出願の発明の詳細な説明には,「予備成形品」との用語は存在するが,「成形品」との用語は存在しない。また,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された「成形品」が,「予備成形品」のみに対応するものなのか,「予備」に限らない「成形品」に対応するものなのか,両者の対応関係が不明瞭である。
したがって,本件補正後発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。また,本件補正後発明は,明確であるとはいえない。
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,36条6項1号及び2号に適合しないから,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

4 独立特許要件(29条2項)
(1) 引用例1に記載の事項
本件出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平10-202372号(公開日:平成10年8月4日,発明の名称:複合部材の製造方法及び複合部材,出願番号:特願平9-9759号,出願日:平成9年1月22日,出願人:オリンパス光学工業株式会社(外1))には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 2以上の部材を成形により一体化する方法であって,
他の部材と一体化される少なくとも一の部材又は2以上の他の部材を一体化させる少なくとも一の部材が過冷却液体域を有するアモルファス合金からなり,この一の部材と他の部材とを前記過冷却液体域の温度まで加熱し,成形型によって押圧成形して一の部材と他の部材とを一体化し,その後,冷却することを特徴とする複合部材の製造方法。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,2以上の部材を一体化して複合部材を製造する方法及びこの方法によって製造された複合部材に関する。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】2以上の部材を一体化して複合部材とする方法については,従来より数多く開発されている。その一つとして,切削,鍛造,鋳造などの加工によって個々の部材を作製し,これらを溶接,接着,ロー付け等によって接合して一体化する方法がある。
【0003】又,特公平6-47198号公報には,金属粉,セラミック粉と,樹脂粉末との混合粉末によって一体化される部材の材料とし,この材料によって一つの部材を予め成形し,この成形された部材と,他の部材を成形するための混合粉末とを成形型内で組み合わせて成形して,2部材を一体化する方法が記載されている。
【0004】さらに,特開平8-294868号公報には,研削,研磨用工具の製造方法として,研削,研磨層となる研磨粉体を金型内に設置した状態で,アルミニウム合金の溶湯を金型内に流し込み,高圧下で鋳造し,凝固させることが記載されている。」

エ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】個々の部材を別個に作製した後,組み付けて一体する方法においては,溶接,接着,ロー付けによって部材の接合が行われる。しかしながら,溶接は部材の融点以上に加熱して接合するものであり,加熱によって母材が劣化するため,接合部の強度が低下すると共に,冷却の際の凝固収縮によって歪みが発生するため,寸法精度が低下する問題がある。ロー付けも同様であり,加熱による母材の劣化と,接合部の強度が低下する問題を有している。接着は他の接合方法に比べて接合強度が小さく,しかも接着剤の軟化点が低いため,高温環境では使用することができない。
【0006】これに対し,軽合金ダイカストにおいては,型内に組み立てる部材を設置し,鋳造と同時に鋳ぐるむことがなされているが,この鋳ぐるみ法は軽合金材料に限定されるため,高強度を必要とする部材に適用することができないと共に,軽合金の融点以上に加熱する必要があり,高温で成形する必要がある。
【0007】特公平6-47198号公報の方法は,部材の一体化が樹脂の加熱溶融によって行われるため,接合強度が小さく,高強度を必要とする部材には適用することができない。又,成形型からの転写精度がサブミクロン程度のオーダであり,転写精度が要求される微細形状の部材には適用することができない。
【0008】特開平8-294868号公報の方法は,組み立てられる部材が成形材料の融点以上に曝されるため,部材への熱ダメージがあり,部材の強度が低下するばかりでなく,成形される部材が凝固する際に,収縮変形するため,精密な形状精度が要求される部材に適用することができない問題を有している。
【0009】本発明は,このような従来の問題点を考慮してなされたものであり,結晶を含まないアモルファス合金の特性を利用することによって,強度が大きく,接合時の寸法変形が少ない複合部材の製造方法及び複合部材を提供することを目的とする。」

オ 「【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,本発明の複合部材の製造方法は,2以上の部材を成形により一体する方法であって,他の部材と一体化される少なくとも一の部材又は2以上の他の部材を一体化させる少なくとも一の部材が過冷却液体域を有するアモルファス合金からなり,この一の部材と他の部材とを前記過冷却液体域の温度まで加熱し,成形型によって押圧成形して一の部材と他の部材とを一体化し,その後,冷却することを特徴とする。」

カ 「【0011】本発明に用いる過冷却液体域を有するアモルファス合金を,その過冷却液体域のガラス遷移温度(Tg)まで加熱すると,粘性流体となり,通常10MPa以下の低い圧力で所望の成形が可能となる。又,この過冷却液体域を有するアモルファス合金は,数十nmオーダの転写精度を有しており,アモルファス合金の成形を行う成形型を高精度に製造することにより,サブミクロンオーダより高い極めて高い形状精度で成形されて,他の部材と一体化される。
【0012】アモルファス合金は高精度の転写特性を有しており,加熱され,他の部材と押圧成形されるときに,他の部材の表面のミクロな凹凸を充填しながら成形され,その後に,冷却固化したとき,他の部材の表面とミクロな無数の噛み合い状態となる。これにより,他の部材と強固に接合されて一体化する。このことは2以上の部材をアモルファス合金によって一体化する場合にも同様に作用し,2以上の部材を強固に一体化することができる。
【0013】さらに,アモルファス合金は固化したとき,300?500Hvの高い硬度を有しているため,高い接合強度,高い高度が必要な用途の部材にも適用することができる。
【0014】アモルファス合金のガラス遷移温度Tgは,その組成によって異なっているが,低温のものは約200℃であり,高温のものでも約650℃程度である。これの温度は,一般的な銀ロー付けのロー付け温度に比べて200?700℃程度低い温度である。又,ダイカストに用いられるアルミニウム合金の融点と比較しても十分に低い温度である。さらには,部材の融点以上の加熱をする必要のある溶接の温度と比較しても,比較にならないような低い温度である。このように成形温度が低いところから,アモルファス合金を使用した一体化では,溶接やロー付けで発生する母材の熱劣化がなく,熱劣化に起因した接合部の強度低下を生じることがない。
【0015】又,アモルファス合金は溶接等で発生する凝固収縮による変形がなく,このため高精度の寸法精度の複合部材とすることができる。さらに,アモルファス合金のガラス遷移温度Tgは接着剤の耐熱温度に比べて,十分に高いため,高温環境で使用される部材に適用することができる。
【0016】本発明では,以上の加熱,押圧成形の後,冷却を行う。部材の一体化後も高温状態のままでは,アモルファス合金が結晶化して脆弱化するため,強度が低下する。このため冷却を行うものであり,結晶化を防止する冷却速度で,且つ,結晶化を防止する温度域となるように冷却がなされる。」

キ 「【0031】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)図1は,実施の形態1の複合部材であり,ワイヤー状部材1a,1bが連結部材2によって連結されることにより,一体化している。図2はこの複合部材を製造する装置を示す。
【図1】

【図2】

【0032】可動型5及び固定型6によって成形型3が形成され,可動型5を固定型6に密着させて型締めすることにより,これらの間にキャビティ4が形成される。この場合,連結部材2としては,後述するように,酸化され易いZr系のアモルファス合金が使用されるため,その酸化を防止するため成形型3の全体が真空チャンバー(図示省略)内に配置されるものである。
【0033】キャビティ4は図1に示す連結部材2の外形と略同一の形状となっている。このキャビティ4には,ワイヤー状部材1a,1bの端部が挿入されることにより,これらの端部を覆っている。又,ワイヤー状部材1a,1bを同軸上に対向して固定するため,キャビティ4にはワイヤー案内溝4a,4bが連通している。
【0034】可動型5は,可動型5を取り付けた型板5aを介して移動機構(図示省略)に連結されており,型板6aに取り付けた固定型6方向に往復移動し,固定型6に密着することにより,型締めを行う。この可動型5にはシリンダ7が前後方向に貫通し,その貫通端がキャビティ4に開口している。シリンダ7内には加圧プランジャ8が往復動可動に挿入されている。加圧プランジャ8は加圧手段8bのロッドに連結して往復動する。この加圧プランジャ8よりも固定型4側のシリンダ7内には,連結部材2の構成材料である過冷却液体域を有するアモルファス合金材料9がセットされる。
【0035】成形型3にはヒーター10及び温度検出器(図示省略)が設けられる。ヒーター10は可動型5におけるシリンダ7の周囲及び固定型6におけるキャビティ4近辺に配置されており,シリンダ7,加圧プランジャ8及びキャビティ4表面近傍を加熱する。このヒーター10は,温度検出器からの検出温度が入力される温度制御器(図示省略)により,印加電圧が制御されており,上述した部位の温度を正確に制御することができる。さらに成形型3の内部には,冷却管路(図示省略)が配置されて,成形型3全体の冷却が行われるようになっている。なお,キャビティ4の表面及び加圧プランジャ8の押圧部8a面粗さRmaxが0.8μmとなるように鏡面仕上げされている。
【0036】ワイヤー状部材1a,1bは可動型5及び固定型6の対向部位に設けられたクランプ11a,11bにより保持され,その一端1a’,1b’はキャビティ4に連通したワイヤー案内溝4a,4bによって,同軸状に対向して位置決めされ,且つキャビティ4内に突出した状態で設置される。ワイヤー状部材1a,1bは素線径20μmのSUS304からなるステンレス素線を20本撚ったものであり,その外径は0.3mmである。キャビティ4の内径は0.34mmであり,ワイヤー状部材1a,1bの端部1a’,1b’に成形されるアモルファス合金の肉厚は0.02mmとなる。なお,ワイヤー状部材1a,1bは0.5mmで離隔されている。
【0037】アモルファス合金材料9としては,Zr_(55)Cu_(30)Al_(10)Ni_(5) (添字は原子%を示す。)合金を用いている。この材料は,ガラス遷移温度Tg=420℃,結晶化開始温度Tx=500℃であり,これらの間の過冷却液体域△T(=Tx-Tg)80℃において,粘性10^(9)Pa・s程度の粘性流体となり,数10MPa程度の低圧力で容易に成形可能となる特性を有している。成形型3の全体を収容する真空チヤンバーは真空ポンプ(図示省略)及び不活性ガスボンベ(図示省略)と連結されており,真空雰囲気もしくは,不活性ガス雰囲気にすることが可能となっている。また,成形型3におけるアモルファス合金材料9と接触する部分は,面粗さがRmax=1.2μm以下の鏡面となっている。面粗さが1.2μmを越えて粗くなると,成形された連結部材2と成形型3との離型が困難となるためである。」

ク 「【0038】次に,この実施の形態による製造手順を説明する。予め製作したワイヤー状部材1a,1bを,クランプ11a,11bにより保持して,端部1a’,1b’をキャビティ4内に突出させ,且つ同軸状に対向する位置に設置し,可動型5を移動させて型締めを行う。一方で,アモルファス合金材料9をシリンダ7内に設置する。そして,真空チヤンバー(図示省略)内を不活性ガスで置換し,成形型3の全体を不活性雰囲気とする。本実施の形態においては,不活性ガスとして,アルゴンガスを用いた。
【0039】以上のようにして配置した後,ヒーター10により成形型3をアモルファス合金材料9の過冷却液体域である420℃以上500℃以下に加熱する。本実施の形態では,加熱温度を460℃±5℃とした。成形型3からの熱伝導によりアモルファス合金材料9が加熱され,過冷却液体域に達すると粘性流体となり,この状態で加圧プランジャ8によりアモルファス合金材料9を押圧し,シリンダ7を通じてキャビティ4内に注入する。注入圧力は10MPa程度で行った。このとき,加圧プランジャ8及び成形型3を過冷却液体域に加熱しておくことにより,アモルファス合金材料9は固化することなく,容易にキャビティ4内に注入することができる。
【0040】注入されたアモルファス合金材料9は,キャビティ4の形状に倣って成形されるとともに,ワイヤー状部材1a,1bの素線間の空隙に入り込む。この後,成形型3を冷却することにより,連結部材2とワイヤー状部材1a,1bとが一体化される。冷却は過冷却液体域からガラス遷移温度以下となるように行い,その冷却速度は,脆化を防ぐために急冷することが望ましい。本実施の形態では,加熟を停止し,冷却管路に冷却水を循環させることにより,50℃/minの冷却速度で冷却した。なお,冷却速度は,これよりも速くても良い。アモルファス合金材科9は,過冷却液体域においても長時間保持すると結晶化し,脆化するので,過冷却液体域に加熱した後は,速やかに成形,冷却することが望ましい。本実施の形態においては,過冷却液体域での成形時間は3min以内で行った。この場合,成形型3のアモルファス合金材料9と接触する部分は,Rmax=1.2μm以下に鏡面仕上げされているため,アモルファス合金材料9とは接合はされない。このような方法によりワイヤー状部材1a,1bと連結部材2からなる複合部材を得ることができる。」

ケ 「【0041】以上のような本実施の形態では,以下のような効果がある。即ち,従来の鋳ぐるみ法では,成形材科が軽合金材料に限定されているため,高強度が要求される部材へは適用できなかったが,この実施の形態では,連結部材を構成しているアモルファス合金材料の機械的強度が高く,且つ成形温度が軽合金材料の融点より低く,母材の熱影響による劣化が少ないため,高強度の複合部材とすることができる。
【0042】また,溶接では,溶接歪みによる寸法精度の悪化があるが,母材を溶融させることなく一体化することができるので,凝固収縮による歪みがなく,このため高い寸法精度が得られる。さらに,アモルファス合金材料がワイヤー状部材の素線間の空隙に入り込んで,隙間を充填することにより,ワイヤー状部材1a,1bと連結部材2の接合面積が大きくなり,ワイヤー状部材を強固に連結すると共に,応力集中を緩和する作用が生じ,接合部の疲労強度が向上する。なお,ワイヤー状部材1a,1bとして,SUS304を用いたが,ワイヤー状部材として,過冷却液体域を有するアモルファス合金を用いても良い。ワイヤー状部材及び連結部材の双方に,過冷却液体域を有するアモルファス合金を用いる場合には,ワイヤー状部材のアモルファス合金として,その過冷却液体域が連結部材のアモルファス合金の過冷却液体域よりも高温側のものを使用する。そして,連結部材を成形する温度を,連結部材のアモルファス合金のガラス遷移温度以上で,且つ,ワイヤー状部材のアモルファス合金のガラス遷移温度以下とすることにより,複合部材とすることができる。
【0043】以上のような構造によれば,例えば,内視鏡用生検鉗子における手元操作ワイヤと先端操作ワイヤ及び両ワイヤの連結部材からなる操作ワイヤや,同生検鉗子における先端操作ワイヤとワイヤつなぎの接合部や,内視鏡用把持鉗子のバスケット型の先端連結部や,同生検鉗子の先端コイルシースと手元コイルシースの接合部や,同鉗子の先端コイルシースとSカバーとの接合部や,同鉗子の手元シースと析れ止め部材の接合部や,内視鏡用処置具の高周波処置具及びワイヤナイフの先端ワイヤの接続部や,同処置具の3脚型把持鉗子の脚部の接続や,同処置具の高周波処置具の接続などに適用できる。」

コ 「【0077】前成形体38の全体が過冷却液体域に達した状態で,図14のように上ポンチ33,中ポンチ34及び下ポンチ35及び中ポンチ36により,前成形体38を2MPaで押圧し,ガイドリング30の外形を成形する。この際,前成形体38は節輪本体の接合部29aの表面のミクロな凹凸を充填しつつ成形される。その後,図15に示すように,中ポンチ34及び中ポンチ36を連動して下降させ,前成形体を打ち抜くことにより,ワイヤ挿通口30aを形成する。打ち抜き速度は,200mm/secで行う。打ち抜きは,中ポンチ34と下ポンチ35との間の剪断力により行われるが,前成形体38は粘性流体であるため,剪断中に亀裂が発生することがなく,良好な剪断面が得られる。ワイヤ挿通口30aを打ち抜いた後,各型及び各ポンチをガラス遷移温度以下に冷却し,アモルファス合金材料を固化し,ガイドリング30を成形しつつ,ガイドリング30と節輸本体29を接合する。この後,図16のように,上型32,上ポンチ33及び上中ポンチを上昇させ,節輸28を取り出す。」

サ 「【0086】
【発明の効果】請求項1の製造方法によれば,一体化する部材の内,少なくとも一方の部材を過冷却液体域を有するアモルファス合金を使用するため,転写精度に優れた高精度の形状の複合部材とすることができる。又,一体化するための加熱温度が低く,熱影響による劣化がないため,高強度とすることができると共に,他の部材との噛み合いによって強固に一体化した複合部材とすることができる。」

(2) 引用発明
引用例1には,【請求項1】に対応する「実施の形態1」として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用発明の認定に利用した箇所を明らかにするため,引用例1の段落番号等を併記する。
「【請求項1】2以上の他の部材を一体化させる少なくとも一の部材が過冷却液体域を有するアモルファス合金からなり,この一の部材と他の部材とを前記過冷却液体域の温度まで加熱し,成形型によって押圧成形して一の部材と他の部材とを一体化し,その後,冷却する,複合部材の製造方法であって,
【0031】2以上の他の部材が,ワイヤー状部材1a,1bであり,一の部材が連結部材2であり,
【0038】予め製作したワイヤー状部材1a,1bを,クランプ11a,11bにより保持して,端部1a’,1b’をキャビティ4内に突出させ,且つ同軸状に対向する位置に設置し,可動型5を移動させて型締めを行い,
【0038】アモルファス合金材料9をシリンダ7内に設置し,【0039】ヒーター10により成形型3をアモルファス合金材料9の過冷却液体域である420℃以上500℃以下に加熱し,
【0039】成形型3からの熱伝導によりアモルファス合金材料9が加熱され,過冷却液体域に達すると粘性流体となり,この状態で加圧プランジャ8によりアモルファス合金材料9を押圧し,シリンダ7を通じてキャビティ4内に注入し,注入圧力は10MPa程度で,加圧プランジャ8及び成形型3を過冷却液体域に加熱しておくことにより,アモルファス合金材料9は固化することなく,容易にキャビティ4内に注入することができ,【0040】注入されたアモルファス合金材料9は,キャビティ4の形状に倣って成形されるとともに,ワイヤー状部材1a,1bの素線間の空隙に入り込み,この後,成形型3を冷却することにより,連結部材2とワイヤー状部材1a,1bとが一体化され,
【0016】冷却は,加熱,押圧成形の後,結晶化を防止する冷却速度で,且つ,結晶化を防止する温度域となるように冷却がなされる,
複合部材の製造方法。」

(3) 引用例2に記載の事項
本件出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特公昭49-36425号公報(公告日:昭和49年9月30日,発明の名称:時計用アンクル爪石の接着剤の融解装置,出願番号:特願昭44-103753号,出願日:昭和44年12月25日,出願人:株式会社第二精工舎)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 1欄23行?2欄5行
「 本発明は時計用アンクルの爪石位置を調整するため爪石を出し入れする際,これを固定しているシエラツク等の接着剤を溶かす装置に関するものである。
時計用アンクル体1には第1図に示すように,爪石3aおよび3bがシエラツク等の接着剤により固定されている。
【第1図】

従つて,前記爪石の位置を調整するためには,前記接着剤を融解した後,矢印で示す方向に移動して行なうものである。
従来このような作業を行なうには,第2図に示すような装置の載物台5に設けられた穴をガイドとしてアンクル真2を挿入してアンクル体1を載せ,載物台5にとりつけたヒータボツクス6から発せられる熱で載物台を熱し,さらにアンクル体1を温め,接着剤4aおよび4bを溶かす等の方法が用いられてきた。
【第2図】

爪石3aおよび3bの位置調整にあつては,調整を行なうごくわずかの時間のみ接着剤は融解した状態を持続し,調整後は凝固しているのが望ましいが,このような方法ではこれを満足しない。」

イ 2欄6?11行
「 本発明は,上記の欠点を改善するため,直接アンクル体に通電させて局部的にジユール熱を発生させ,急速に加熱して接着剤を融解し,爪石を所要の位置にセツトした後は,電流を断つて急速に冷却し,前記接着剤を凝固させ,前記爪石を固定する装置を提供するものである。」

ウ 2欄27行?3欄6行
「 本発明による装置はこのように構成されているので,作業者が足踏式の電源スイツチ8を踏むことにより,アンクル体1に電流が流れ,アンクル体1の抵抗により局部的ジユール熱が発生し加熱されるのでシエラツク4aおよび4bが融ける。なお作業者は電圧計10を観視しながら変圧器10を調整して,シエラツクの種類によつて適当な電圧にセツトし,電流計11によつて通電状態を確認している。
このようにして,シエラツクが融けている間に作業者は爪石3aおよび3bを適当な位置に調整するので,加熱および冷却が早く作業性が極めて改善される。また,電源スイツチを閉じて通電し,接着剤を融かした状態で爪石の調整をし,電流が断たれた後はただちに接着剤が凝固するので,調整後に爪石の位置がずれてしまうことがなく歩留りが向上する等の効果を有する。」

(4) 引用例2記載技術
引用例2には,以下の技術(以下「引用例2記載技術」という。)が記載されている。
「時計用アンクル体1には,爪石3a及び3bがシエラツク等の接着剤により固定されている。したがって,爪石の位置を調整するためには,接着剤を融解した後,移動して行なう。」

(5) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア 組立方法
引用発明は,「2以上の他の部材を一体化させる少なくとも一の部材が過冷却液体域を有するアモルファス合金からなり,この一の部材と他の部材とを前記過冷却液体域の温度まで加熱し,成形型によって押圧成形して一の部材と他の部材とを一体化し,その後,冷却する,複合部材の製造方法」であって,「2以上の他の部材が,ワイヤー状部材1a,1bであり,一の部材が連結部材2」である。
ここで,引用発明の「ワイヤー状部材1a」,「ワイヤー状部材1b」及び「複合部材」は,それぞれ,本件補正後発明の「第1の部品(2)」,「第2の部品(3)」及び「デバイス(1)」に相当する。また,引用発明の「複合部材の製造方法」と本件補正後発明の「デバイス(1)の組立て方法」は,「第1の部品(2)と,第2の部品(3)とを備えるデバイス(1)の組立て方法」の点で共通する。

イ 組付け可能に配設
前記アのとおりであるから,引用発明の「複合部材の製造方法」は,本件補正後発明の「前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を互いに対して組付け可能に配設する,方法」の要件を満たす。

ウ 組み立てるステップ
引用発明において,「注入されたアモルファス合金材料9は,キャビティ4の形状に倣って成形されるとともに,ワイヤー状部材1a,1bの素線間の空隙に入り込」むものである。したがって,引用発明において,「予め製作したワイヤー状部材1a,1bを,クランプ11a,11bにより保持して,端部1a’,1b’をキャビティ4内に突出させ,且つ同軸状に対向する位置に設置し,可動型5を移動させて型締めを行」った段階では,「ワイヤー状部材1a」と「ワイヤー状部材1b」の間のキャビティ4において,間隙が存在する(引用例1の図2からも理解できる事項である。)。
したがって,引用発明の「予め製作したワイヤー状部材1a,1bを,クランプ11a,11bにより保持して,端部1a’,1b’をキャビティ4内に突出させ,且つ同軸状に対向する位置に設置し,可動型5を移動させて型締めを行」う工程は,本件補正後発明の「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と,前記第1の部品(2)とを,前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)の間に間隙が存在(24)するように,組立てるステップ」に相当する。

エ 成形するステップ
引用発明は,「アモルファス合金材料9をシリンダ7内に設置」する工程を具備する。また,この工程を行うためには,注入に適した分量のアモルファス合金材料を,シリンダ7内に設置可能な形状にあらかじめ成形しておく必要がある(引用例1の図2や,引用例1の他の実施の形態(例:段落【0047】及び【0076】)からも理解又は類推できる事項である。以下「予成形工程」という。)。また,引用発明は,「アモルファス合金材料9をシリンダ7内に設置」した後,「ヒーター10により成形型3をアモルファス合金材料9の過冷却液体域である420℃以上500℃以下に加熱し,成形型3からの熱伝導によりアモルファス合金材料9が加熱され,過冷却液体域に達すると粘性流体となり,この状態で加圧プランジャ8によりアモルファス合金材料9を押圧し,シリンダ7を通じてキャビティ4内に注入し,注入圧力は10MPa程度で,加圧プランジャ8及び成形型3を過冷却液体域に加熱しておくことにより,アモルファス合金材料9は固化することなく,容易にキャビティ4内に注入することができ,注入されたアモルファス合金材料9は,キャビティ4の形状に倣って成形されるとともに,ワイヤー状部材1a,1bの素線間の空隙に入り込み,この後,成形型3を冷却することにより,連結部材2とワイヤー状部材1a,1bとが一体化され」る工程(以下「加熱押圧成形工程」という。)を具備する。
したがって,引用発明の「予成形工程」及び「加熱押圧成形工程」は,いずれも,本件補正後発明の「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるための前記合金を成形品に成形するステップ」に相当する。

オ 非晶質となるような処理
引用発明は,「アモルファス合金材料9をシリンダ7内に設置」する工程を具備する。
したがって,引用発明は,本件補正後発明の「前記合金には,少なくとも前記成形操作時までに,少なくとも部分的に非晶質となるような処理を施す」の要件を満たす。

(6) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,以下の構成で一致する。
「 第1の部品(2)と,第2の部品(3)とを備えるデバイス(1)の組立て方法において,前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を互いに対して組付け可能に配設する,方法であって,この方法は:
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と,前記第1の部品(2)とを,前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)の間に間隙が存在(24)するように,組立てるステップ;
-前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるための前記合金を成形品に成形するステップとから成り,前記合金には,少なくとも前記成形操作時までに,少なくとも部分的に非晶質となるような処理を施すことを特徴とする方法。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明の相違点は,以下のとおりである。

(相違点1)
本件補正後発明は,「前記第1の部品(2)及び前記少なくとも1つの第2の部品(3)を準備するステップ」を具備するのに対し,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点2)
本件補正後発明は,「少なくとも部分的に非晶質となることができるよう選択した修正可能な接合部となる合金を準備するステップ」を具備するのに対し,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点3)
本件補正後発明の「第1の部品(2)」及び「第2の部品(3)」は,それぞれ,「アンクルである」及び「少なくともツメ石である」のに対し,引用発明は,「ワイヤー状部材1a,1b」である点。

(7) 判断
ア 相違点1について
引用発明は,「予め製作したワイヤー状部材1a,1bを,クランプ11a,11bにより保持して,端部1a’,1b’をキャビティ4内に突出させ,且つ同軸状に対向する位置に設置し,可動型5を移動させて型締めを行」う構成を具備するから,その前提として,ワイヤー状部材1a,1bを準備するステップを具備することは当然である。
相違点1は,実質的な相違点とはいえない。

イ 相違点2について
引用発明は,「アモルファス合金材料9をシリンダ7内に設置し,ヒーター10により成形型3をアモルファス合金材料9の過冷却液体域である420℃以上500℃以下に加熱し,成形型3からの熱伝導によりアモルファス合金材料9が加熱され,過冷却液体域に達すると粘性流体となり,この状態で加圧プランジャ8によりアモルファス合金材料9を押圧し,シリンダ7を通じてキャビティ4内に注入し,注入圧力は10MPa程度で,加圧プランジャ8及び成形型3を過冷却液体域に加熱しておくことにより,アモルファス合金材料9は固化することなく,容易にキャビティ4内に注入することができ,注入されたアモルファス合金材料9は,キャビティ4の形状に倣って成形されるとともに,ワイヤー状部材1a,1bの素線間の空隙に入り込み,冷却は,加熱,押圧成形の後,結晶化を防止する冷却速度で,且つ,結晶化を防止する温度域となるように冷却がなされる」工程を具備するから,その前提として,アモルファス合金を準備するステップを具備することは当然である。また,「アモルファス合金」が,「少なくとも部分的に非晶質となることができるよう選択した」,「修正可能な接合部となる」との性質を具備することは,技術常識である(引用例1の段落【0009】に記載のとおり,結晶を含まない,すなわち,非晶質となることができるのはアモルファス合金の特性そのものであり,また,引用例1の段落【0011】に記載のとおり,アモルファス合金は,過冷却液体域まで加熱しただけで粘性流体となり接合力が失われるから,位置修正が可能な性質を有する。)。
相違点2は,実質的な相違点とはいえない。

ウ 相違点3について
引用例1には,「【発明の属する技術分野】本発明は,2以上の部材を一体化して複合部材を製造する方法及びこの方法によって製造された複合部材に関する。」(段落【0001】)と記載されている。
この記載に接した当業者ならば,引用発明は,特定の2以上の部材のみを対象とするものではなく,汎用的な技術であると,理解する。そして,「2以上の部材を一体化して複合部材を製造する」ことを行う当業者が,引用例1の記載全体,特に,引用例1に記載された目的課題効果を勘案し,それに合う「2以上の部材」に対して引用発明を適用することは,引用例1が予定している引用発明の用途の限定にすぎない。
そこで,引用発明が,時計の「アンクル」と「爪石」を組み立てることに適したものか否かについて,引用例1の記載を確認する。

段落【0002】には,【従来の技術】に関して,「2以上の部材を一体化して複合部材とする方法については,従来より数多く開発されている。その一つとして,切削,鍛造,鋳造などの加工によって個々の部材を作製し,これらを溶接,接着,ロー付け等によって接合して一体化する方法がある。」と記載されているとともに,段落【0003】に「又,特公平6-47198号公報には,金属粉,セラミック粉と,樹脂粉末との混合粉末によって一体化される部材の材料とし,この材料によって一つの部材を予め成形し,この成形された部材と,他の部材を成形するための混合粉末とを成形型内で組み合わせて成形して,2部材を一体化する方法が記載されている。」,段落【0004】に「さらに,特開平8-294868号公報には,研削,研磨用工具の製造方法として,研削,研磨層となる研磨粉体を金型内に設置した状態で,アルミニウム合金の溶湯を金型内に流し込み,高圧下で鋳造し,凝固させることが記載されている。」と記載されている。すなわち,従来の技術として,概論(段落【0002】),並びに,2つの具体例(段落【0003】及び【0004】)が挙げられている。

段落【0005】には,【発明が解決しようとする課題】として,「個々の部材を別個に作製した後,組み付けて一体する方法においては,溶接,接着,ロー付けによって部材の接合が行われる。しかしながら,溶接は部材の融点以上に加熱して接合するものであり,加熱によって母材が劣化するため,接合部の強度が低下すると共に,冷却の際の凝固収縮によって歪みが発生するため,寸法精度が低下する問題がある。ロー付けも同様であり,加熱による母材の劣化と,接合部の強度が低下する問題を有している。接着は他の接合方法に比べて接合強度が小さく,しかも接着剤の軟化点が低いため,高温環境では使用することができない。」と記載されているとともに,段落【0006】には,「これに対し,軽合金ダイカストにおいては,型内に組み立てる部材を設置し,鋳造と同時に鋳ぐるむことがなされているが,この鋳ぐるみ法は軽合金材料に限定されるため,高強度を必要とする部材に適用することができないと共に,軽合金の融点以上に加熱する必要があり,高温で成形する必要がある。」と記載されている。
これら記載に接した当業者ならば,段落【0002】に記載された従来の技術においては,(A)溶接の場合は,(a)加熱によって母材が劣化する,(b)母材が劣化するため,接合部の強度が低下する,(c)冷却の際の凝固収縮によって歪みが発生するため,寸法精度が低下する,という問題があったこと,(B)ロー付けの場合は,(a)加熱による母材の劣化と,(b)接合部の強度が低下する,という問題があったこと,(C)接着の場合は,(a)他の接合方法に比べて接合強度が小さい,(b)接着剤の軟化点が低いため,高温環境では使用することができない,という問題があったこと,(D)軽合金ダイカストの場合は,(a)材料が軽合金に限定されるため,高強度を必要とする部材に適用することができない,(b)軽合金の融点以上に加熱する必要があり,高温で成形する必要がある,という問題があったことを理解する。
なお,このような事項は,技術常識でもある。

続いて,段落【0007】には,「特公平6-47198号公報の方法は,部材の一体化が樹脂の加熱溶融によって行われるため,接合強度が小さく,高強度を必要とする部材には適用することができない。又,成形型からの転写精度がサブミクロン程度のオーダであり,転写精度が要求される微細形状の部材には適用することができない。」と記載されているとともに,段落【0008】には,「特開平8-294868号公報の方法は,組み立てられる部材が成形材料の融点以上に曝されるため,部材への熱ダメージがあり,部材の強度が低下するばかりでなく,成形される部材が凝固する際に,収縮変形するため,精密な形状精度が要求される部材に適用することができない問題を有している。」と記載されている。
これら記載に接した当業者ならば,(E)段落【0003】及び【0007】に記載の従来の技術の場合は,(a)接合強度が小さく,高強度を必要とする部材には適用することができない,(b)成形型からの転写精度がサブミクロン程度のオーダであり,転写精度が要求される微細形状の部材には適用することができない,という問題があったこと,(F)段落【0004】及び【0008】に記載の従来の技術の場合は,(a)部材への熱ダメージがあり,部材の強度が低下する,(b)成形される部材が凝固する際に,収縮変形するため,精密な形状精度が要求される部材に適用することができない,という問題があったことを理解する。

段落【0009】には,「本発明は,このような従来の問題点を考慮してなされたものであり,結晶を含まないアモルファス合金の特性を利用することによって,強度が大きく,接合時の寸法変形が少ない複合部材の製造方法及び複合部材を提供することを目的とする。」と記載されている。
この記載に接した当業者ならば,引用発明は,前記(A)(a)?(F)(b)の従来の問題点を考慮して発明されたものであること,引用発明は,結晶を含まないアモルファス合金の特性を利用すること,引用発明は,強度が大きく,接合時の寸法変形が少ない複合部材の製造方法及び複合部材の提供を目的とすることを理解する。
そうしてみると,前記(A)(a)?(F)(b)のいずれかの点に問題がある用途,あるいは,(G)強度が大きいこと,(H)接合時の寸法変形が少ないこと,のいずれかが望まれる用途は,引用例1が予定している引用発明の用途であり,かつ,引用発明を適用することに,動機付けがある用途である。

さらに,進んで検討する。
段落【0010】には,【課題を解決するための手段】に関して,「上記目的を達成するため,本発明の複合部材の製造方法は,2以上の部材を成形により一体する方法であって,他の部材と一体化される少なくとも一の部材又は2以上の他の部材を一体化させる少なくとも一の部材が過冷却液体域を有するアモルファス合金からなり,この一の部材と他の部材とを前記過冷却液体域の温度まで加熱し,成形型によって押圧成形して一の部材と他の部材とを一体化し,その後,冷却することを特徴とする。」と記載されている(課題を解決するための手段の構成が記載されている。)。
続いて,段落【0011】には,「本発明に用いる過冷却液体域を有するアモルファス合金を,その過冷却液体域のガラス遷移温度(Tg)まで加熱すると,粘性流体となり,通常10MPa以下の低い圧力で所望の成形が可能となる。又,この過冷却液体域を有するアモルファス合金は,数十nmオーダの転写精度を有しており,アモルファス合金の成形を行う成形型を高精度に製造することにより,サブミクロンオーダより高い極めて高い形状精度で成形されて,他の部材と一体化される。」,段落【0012】には,「アモルファス合金は高精度の転写特性を有しており,加熱され,他の部材と押圧成形されるときに,他の部材の表面のミクロな凹凸を充填しながら成形され,その後に,冷却固化したとき,他の部材の表面とミクロな無数の噛み合い状態となる。これにより,他の部材と強固に接合されて一体化する。このことは2以上の部材をアモルファス合金によって一体化する場合にも同様に作用し,2以上の部材を強固に一体化することができる。」,段落【0013】には,「さらに,アモルファス合金は固化したとき,300?500Hvの高い硬度を有しているため,高い接合強度,高い高度が必要な用途の部材にも適用することができる。」,段落【0014】には,「アモルファス合金のガラス遷移温度Tgは,その組成によって異なっているが,低温のものは約200℃であり,高温のものでも約650℃程度である。これの温度は,一般的な銀ロー付けのロー付け温度に比べて200?700℃程度低い温度である。又,ダイカストに用いられるアルミニウム合金の融点と比較しても十分に低い温度である。さらには,部材の融点以上の加熱をする必要のある溶接の温度と比較しても,比較にならないような低い温度である。このように成形温度が低いところから,アモルファス合金を使用した一体化では,溶接やロー付けで発生する母材の熱劣化がなく,熱劣化に起因した接合部の強度低下を生じることがない。」,段落【0015】には,「又,アモルファス合金は溶接等で発生する凝固収縮による変形がなく,このため高精度の寸法精度の複合部材とすることができる。さらに,アモルファス合金のガラス遷移温度Tgは接着剤の耐熱温度に比べて,十分に高いため,高温環境で使用される部材に適用することができる。」と記載されている。
これら記載に接した当業者ならば,引用発明は,(I)通常10MPa以下の低い圧力で所望の成形が可能である,(J)数十nmオーダの転写精度を有しており,サブミクロンオーダより高い極めて高い形状精度で成形されて,他の部材と一体化される,(K)他の部材と押圧成形されるときに,他の部材の表面のミクロな凹凸を充填しながら成形され,冷却固化したとき,他の部材の表面とミクロな無数の噛み合い状態となり,他の部材と強固に接合されて一体化する,同様に,2以上の部材を強固に一体化することができる,(L)高い接合強度,高い硬度が必要な用途の部材に適用することができる,(M)成形温度が低いところから,溶接やロー付けで発生する母材の熱劣化がなく,熱劣化に起因した接合部の強度低下を生じることがない,(N)凝固収縮による変形がなく,高精度の寸法精度の複合部材とすることができる,(O)高温環境で使用される部材に適用することができる,という効果が得られる,2以上の部材を成型により一体化する方法であると理解する。
そうしてみると,前記(I)?(O)のいずれかの効果が望まれる用途は,引用例1が予定している引用発明の用途であり,かつ,引用発明を適用することに,動機付けがある用途である。

さらに,技術水準を参酌する。
特開昭63-248580号公報(拒絶理由通知の引用例5)の2頁右下欄16?19行には,「各部品3?5の形状あるいは分割の方法によって・・・非晶質金属箔帯のインサートの使用も可能である」という記載とともに,歯車の製造方法に関する記載がある。なお,歯車は,時計においても使用される部品である。
特開2001-321963号公報の段落【0001】には,「【発明の属する技術分野】本発明は,液相拡散接合を用いた機械部品の製造方法に関し,特に,従来一体成型で製造し,内部の複雑かつ精密な流体搬送用あるいは重量軽減用の管路もしくは小型摺動部品のシリンダーを有する機械部品等の組立時の液相拡散接合による金属製精密機械部品とその製造方法に関するものである。」,段落【0007】には,「【課題を解決するための手段】液相拡散接合は,接合しようとする材料の接合面すなわち開先間に,被接合材料に比較して低い融点を有する合金,具体的には結晶構造の50%以上が実質的に非晶質であり,かつ拡散律速の等温凝固過程を経て継ぎ手を形成する能力を有する元素,例えばBあるいはPとNiないしはFeの多元合金を介在させ,継ぎ手を挿入した低融点合金の融点以上の温度に加熱保持し,等温凝固過程で継ぎ手を形成する技術であって,通常の溶接技術と異なり,溶接残留応力が殆どないこと,あるいは溶接のような予盛りを発生しない平滑かつ精密な継ぎ手を形成できるなどの特徴を有する。」という記載から,精密な機械部品を製造する際の接合材料として非晶質材料を使用する技術が記載されている。
そうしてみると,少なくとも本件出願の優先権主張の日時点において,非晶質材料は,部品同士を接合するための材料として周知であり,また,非晶質材料を接合材料にすると,精密な機械部品を製造できるという特長も,周知であったといえる。

ところで,時計(機械式時計)が典型的な精密機械であり,とりわけ,その内部可動部品(ムーブメント)に高い寸法精度及び強度が要求されることは,広く知られた技術常識である。また,機械式時計において,アンクルの2つのアーム先端に組付けられた爪石が,精確な周期で(例:6回/秒)交互にガンギ車の歯先に接離しガンギ車を1歯ずつ歩進させることにより,時計の精度が保たれていることも,周知である。
そうしてみると,当業者が,引用発明の用途として,アンクルと爪石,アーバーとホイール等の時計の内部可動部品の組立製造を見いだして引用発明を適用し,前記(J)?(N)の格別な効果を享受することは,引用例1が予定している引用発明の用途選択の範囲内の事項である。

なお,引用例2には,「時計用アンクル体1には,爪石3a及び3bがシェラック等の接着剤により固定されている。したがって,爪石の位置を調整するためには,接着剤を融解した後,移動して行なう。」との技術(引用例2記載技術)が記載されているところ,引用例2には,「石3aおよび3bの位置調整にあつては,調整を行なうごくわずかの時間のみ接着剤は融解した状態を持続し,調整後は凝固しているのが望ましいが,このような方法ではこれを満足しない。」(2欄2?5行),「電源スイツチを閉じて通電し,接着剤を融かした状態で爪石の調整をし,電流が断たれた後はただちに接着剤が凝固するので,調整後に爪石の位置がずれてしまうことがなく歩留りが向上する等の効果を有する。」(3欄2?6行)とも記載されている。ここで,引用発明のアモルファス合金は,過冷却液体域まで加熱すると再び粘性流体となり,また,冷却すると直ちに高強度な接合力が得られる点において,引用例2記載技術の要求を満たすものである。
さらに加えると,引用発明は,本来,医療器具(内視鏡)の部品の接合を適用対象として発明されたものと考えるのが妥当であるが(段落【0043】),引用例1には,従来技術として,「2部材を一体化する方法」(段落【0003】),「研削,研磨用工具の製造方法」(段落【0004】)が挙げられている。このような引用例1の記載事項からみても,当業者ならば,引用発明は,医療器具といった特定の技術分野に限られるものではなく,高精度の寸法精度が要求される部材の接合に用いられることを理解し,前記(J)?(N)の特徴に適した各種精密機械部品に対して引用発明を適用するといえる。

なお,接合対象を「ワイヤー状部材1a,1b」から「アンクルと爪石」に変更すると,成形型の形状,アモルファス金属材料の組成,温度や注入圧力等の変更が必要となる。しかしながら,例えば,引用例1においても,実施の形態毎に,成形型の形状,アモルファス金属材料の組成,温度や注入圧力等が,適宜変更されていることを考慮すると,接合対象に応じた成形型の形状等の変更は,当業者における通常の創意工夫の範囲内のものにすぎない。

オ 効果について
本件補正後発明の効果は,引用発明が奏する効果であるか,あるいは,引用発明と引用例2記載技術を組み合わせるに際して当業者が期待する効果の範囲内にとどまるものであり,少なくとも,顕著なものとはいえない。

(8) 小括
本件補正後発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2記載技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

(9) その他
前記(1)?(8)では,本件補正後発明として,特許請求の範囲の請求項1に係る発明を選択したところであるが,本件補正後発明として,特許請求の範囲の請求項2に係る発明を選択しても,同様に,引用例1に記載された発明及び引用例2記載技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

5 請求人の主張について
請求人は,審判請求書(6頁)において,概略,以下のとおり主張している。
(a)本件補正後発明は,アンクルとツメ石の組み付けであるのに対して,引用発明は,ワイヤー状部材を接続するものである。したがって,発明の対象と目的が全く相違する。

(b)本願発明の合金は,修正可能な接合部となるのに対して,引用発明の合金は,2つ以上の部材を一体化するものである。すなわち,本願発明の合金の役割は,修正可能な接合部分となることであるが,引用発明の合金は,ワイヤー部材を接着,接続するものであり,合金の役割が全く相違する。

(c)本願発明は,アンクルとツメ石との間隙を埋めるために,合金から間隙を埋める成形品を成形するステップを有するのに対し,引用発明は,合金をシリンダ内で加熱し,加圧プランジャで流体の合金を押圧し,ワイヤー部材間に,必要量だけ注入する点で相違する。

(d)本願発明は,脆弱で,後で位置調整が必要な可能性を有するアンクルとツメ石の組み込みにおいて,アンクルとツメ石の間隙が埋まるように,合金のままのアモルファス合金を形成品として成形し,この合金を後でアンクルとツメ石の位置調整が可能であるような接合部となるように埋め込むことができる作用効果を奏する。

しかしながら,以下のとおりである。
(a)に対し
前記4(7)ウで述べたとおりである。

(b)に対し
前記4(7)イで述べたとおりである。

(c)に対し
引用発明は「予成形工程」及び「加熱押圧成形工程」の両方を具備するから,接合対象が「アンクルと爪石」であるか,「ワイヤー状部材1aとワイヤー状部材1b」であるかの点を除き,引用発明が具備する構成である。また,接合対象の相違については,前記相違点3の判断のとおりである。
なお,引用例2の第1図からも見て取れるように,引用例2記載技術においても,爪石の位置の出し入れ調整のため,アンクルと爪石の間に間隙が存在するから,引用発明と引用例2記載技術を組み合わせる際には,アンクルと爪石の間の間隙を埋めるためのアモルファス合金が成形品に成形されるものである。

(d)に対し
アンクル及び又は爪石が脆弱であるという請求人の主張は,引用発明の注入圧力を捉えてのものと理解される。
ところで,引用発明のアモルファス合金の注入圧力(10MPa)は,アモルファス合金材料を,キャビティ4の形状に倣って成形することに加えて,アモルファス合金材料をワイヤー状部材1a,1bの素線間の空隙に入り込ませることを意図したものである。
しかしながら,アモルファス合金材料を,単に間隙を埋める程度に成形するだけならば,注入圧力は,もっと低くて良いことは明らかである。例えば,引用例1の段落【0077】では2MPaとの圧力が示されており,少なくとも,当業者において,接合対象の脆性に応じた適切な圧力となるべく成形条件を設定することは,当業者が装置設計に際し必ず検討する項目にすぎない。
位置調整が可能であるような接合部の点については,前記4(7)イで述べたとおりである。

6 補正却下のまとめ
本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
あるいは,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(請求項1に対するもの)は,概略,(A)本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,(B)本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された引用例1に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」1(1)の【請求項1】に記載のとおりのものである。

3 引用例の記載事項等
引用例1に記載の事項及び引用発明は,前記「第2」4(1)及び(2)に記載のとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明において,(A)「第1の部品(2)」及び「第2の部品(3)」が,それぞれ,「アンクルである」及び「少なくともツメ石である」との要件,(B)「合金」が「修正可能な接合部となる」との要件を除くとともに,(C)「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるための前記合金を成形品に成形するステップ」を「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるよう前記合金を成形するステップ」に変更したものである。
ここで,前記(A)の要件は,相違点3に対応する。また,前記(B)の要件は,本件補正後発明と引用発明の一致点に含まれる。そして,引用発明は,「予成形工程」のみならず,「加熱押圧成形工程」も具備するものである(前記「第2」4(5)エ)から,引用発明は,「加熱押圧成形工程」として,「前記少なくとも1つの第2の部品(3)と前記第1の部品(2)とを接合して前記デバイス(1)を形成するために,これらの間の前記間隙(24)を埋めるよう前記合金を成形するステップ」を具備する。
そうしてみると,本願発明と引用発明は,前記「第2」4(6)で示した相違点1及び相違点2において相違し,その余の点では一致する。また,相違点1及び相違点2に対する判断は,前記「第2」4(7)と同様である。
そして,本願発明の効果は,引用発明が奏する効果であるか,あるいは,引用発明から予測できる効果の範囲内にとどまるものであり,少なくとも,顕著なものとはいえない。

以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明と同一であり,少なくとも,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

第4 まとめ
本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。あるいは,本願発明は,その優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された引用例1に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-07 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2013-515895(P2013-515895)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G04B)
P 1 8・ 113- Z (G04B)
P 1 8・ 575- Z (G04B)
P 1 8・ 121- Z (G04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 昌宏  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 樋口 信宏
森 竜介
発明の名称 少なくとも2つの部品を備えるデバイスの製造方法  
代理人 山川 政樹  
代理人 小池 勇三  
代理人 山川 茂樹  

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