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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1306905
審判番号 不服2014-25257  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-09 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2011-211691号「往復動エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成25年4月22日出願公開、特開2013-72346号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月27日の出願であって、平成26年5月14日付けで拒絶理由が通知され、平成26年7月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年8月29日に拒絶査定がされ、これに対して平成26年12月9日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成27年2月3日に提出された手続補正書(方式)において審判請求の理由が補正されたものである。

第2 平成26年12月9日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
ピストンのトップリング、セカンドリング、セカンドランド及びシリンダ内面によって囲まれたスラスト側のガス室に、膨張行程の初期においてシリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持する往復動エンジンにおいて、上記ピストンは、トップリング及びセカンドリング間をスラスト側と反スラスト側とのガス室に区画する区画手段を具備しており、上記スラスト側のガス室内に、当該スラスト側のガス室内に沿って伸びた掃除部材が上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動による掃除部材の上記隙間分の上下移動によってガス室内を掃除するようになっており、トップリングとセカンドリングとは、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びており、掃除部材は、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びている上縁と下縁とを有している往復動エンジン。」から、

「【請求項1】
ピストンのトップリング、セカンドリング、セカンドランド及びシリンダ内面によって囲まれたスラスト側のガス室に、膨張行程の初期においてシリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持する往復動エンジンにおいて、上記ピストンは、トップリング及びセカンドリング間をスラスト側と反スラスト側とのガス室に区画する区画手段を具備しており、上記スラスト側のガス室内に、当該スラスト側のガス室内に沿って伸びた掃除部材が上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動による掃除部材の上記隙間分の上下移動によってガス室内を掃除するようになっており、トップリングとセカンドリングとは、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びており、掃除部材は、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びている上縁と下縁とを有しており、掃除部材は、ピストンの形成材料の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有した金属板から形成されている往復動エンジン。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「掃除部材」が、「ピストンの形成材料の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有した金属板から形成されて」いることを限定するものである。
よって、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用例
A.引用例1
(1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-26106号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジン燃焼室を規定するピストン上面に隣接して配置された第一のピストンリングとこの第一のピストンリングに隣接して配置された第二のピストンリングとの間の環状空間を、スラスト側の半環状空間と反スラスト側の半環状空間とに画成し、ピストンが上死点近傍に位置する際にスラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に連通させる第一のガス通路を、シリンダ側壁に形成し、反スラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に連通させる第二のガス通路を設けてなるエンジン。
【請求項2】 第一のガス通路は、ピストンがクランク角でほぼ0度から20度までの位置に存在する際に、スラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に連通させるように、シリンダ側壁に形成されている請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】 第一のガス通路は、ピストンがクランク角でほぼ10度の位置に存在する際に、スラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に最大の開度をもって連通させるように、シリンダ側壁に形成されている請求項1又は2に記載のエンジン。
【請求項4】 第一のガス通路は、シリンダ側壁内面に形成された球面凹所からなる請求項1から3のいずれか一項に記載のエンジン。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項4】)

1b)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば前記目的は、エンジン燃焼室を規定するピストン上面に隣接して配置された第一のピストンリングとこの第一のピストンリングに隣接して配置された第二のピストンリングとの間の環状空間を、スラスト側の半環状空間と反スラスト側の半環状空間とに画成し、ピストンが上死点近傍に位置する際にスラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に連通させる第一のガス通路を、シリンダ側壁に形成し、反スラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に連通させる第二のガス通路を設けてなるエンジンによって達成される。
【0007】本発明においては第一のガス通路は、ピストンが上死点近傍に位置する際にスラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に連通させるようにシリンダ側壁に形成されていればよいのであるが、一つの好ましい例では、ピストンがクランク角でほぼ0度から20度までの位置に存在する際に、スラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に連通させるように、シリンダ側壁に形成され、更により好ましい例では、第一のガス通路は、ピストンがクランク角でほぼ10度の位置に存在する際に、スラスト側の半環状空間をエンジン燃焼室に最大の開度をもって連通させるように、シリンダ側壁に形成されている。この第一のガス通路は、シリンダ側壁に形成されていれば貫通孔又は溝若しくは凹所等いずれの形態であってもよいのであるが、シリンダ側壁内面に形成された球面凹所でもって第一のガス通路を具体化するのが、好ましい例として挙げることができる。」(段落【0006】及び【0007】)

1c)「【0011】
【作用】このように構成される本発明のエンジンでは、エンジンの爆発行程時は、より詳細にはエンジン燃焼室での圧縮ガスの爆発後から所定期間は、主に第一のガス通路を介してスラスト側の半環状空間に高圧燃焼ガスが、エンジンの圧縮行程時は、第二のガス通路を介して反スラスト側の半環状空間に圧縮ガスが夫々エンジン燃焼室から導入される。ピストンリングを介するピストンからシリンダ側壁内面への側圧は、エンジンの爆発行程時には主にスラスト側において生じ、エンジンの圧縮行程時には主に反スラスト側において生じる。従ってスラスト側の半環状空間に導入された高圧燃焼ガスは、エンジンの爆発行程時ピストンリングを介するピストンからシリンダ側壁内面へのスラスト側への側圧に抗してピストンを反スラスト側に押し戻すように作用する一方、反スラスト側の半環状空間に導入された圧縮ガスは、エンジンの圧縮行程時ピストンリングを介するピストンからシリンダ側壁内面への反スラスト側への側圧に抗してピストンをスラスト側に押し戻すように作用して、いずれもピストンをシリンダ側壁内面からエアーフロートさせる結果、シリンダ側壁内面との摺動摩擦抵抗が十分に減少されてピストンは往復動されることとなる。」(段落【0011】)

1d)「【0014】
【具体例】図1及び図2において、シリンダ1内に配置されたピストン2の上方にはピストンリング3、4及び油かきリング5が嵌着されている。ピストンリング3と4とは、通常よりも広い間隔をもって配置されている。
【0015】エンジン燃焼室6を規定するピストン2の上面7に隣接して配置されたピストンリング3とピストンリング3に隣接して配置されたピストンリング4との間の環状空間8は、ピストンリング3と4との間に配置された画成部材9及び10によりスラスト側の半環状空間11と反スラスト側の半環状空間12とに画成されている。ピストン2が上死点近傍に位置する際にスラスト側の半環状空間11をエンジン燃焼室6に連通させる第一のガス通路13が本例では球面凹所の形態でスラスト側のシリンダ側壁内面14に形成されており、ガス通路13は、ピストン2がクランク角でほぼ0度から20度までの位置に存在する際に、半環状空間11をエンジン燃焼室6に連通させるようになっており、そしてピストン2がクランク角でほぼ10度の位置に存在する際に、半環状空間11をエンジン燃焼室6に最大の開度をもって連通させる。」(段落【0014】及び【0015】)

1e)「【0019】一方図4に示すようにピストン2が下方、即ちB方向に移動され、コンロッド19が反スラスト側に位置している爆発行程時、より詳細にはエンジン燃焼室6での圧縮ガスの爆発後からピストン2がクランク角でほぼ0度から20度までの位置に存在する間は、主にガス通路13を介して半環状空間11に高圧燃焼ガスが導入される。スラスト側の半環状空間11に導入された高圧燃焼ガスは、ピストンリング3、4及び油かきリング5を介するピストン2からスラスト側のシリンダ側壁内面14への側圧に抗してピストン2を反スラスト側、即ち反スラスト側の側壁内面21の方に押し戻すように、ピストン2に作用し、従って爆発行程時に生じるピストンリング3、4及び油かきリング5を介するピストン2からスラスト側のシリンダ側壁内面14への側圧はキャンセルされてスラスト側のシリンダ側壁内面14との摺動摩擦抵抗が十分に減少されてピストン2はB方向に移動される。ピストン2がクランク角で20度以上の位置に移動するとガス通路13を介するエンジン燃焼室6と半環状空間11との連通が阻止されので、半環状空間11に導入された高圧燃焼ガスはある程度そのまま保持されてピストン2をスラスト側側壁内面21の方に押し戻すように作用し、シリンダ側壁内面14とピストン2との摺動摩擦抵抗を低減する。尚、爆発行程時には、ガス通路15を介してエンジン燃焼室6から半環状空間12にも高圧燃焼ガスが導入されるが、ガス通路15を介する半環状空間12への高圧燃焼ガスの導入量よりもガス通路13を介する半環状空間11への高圧燃焼ガスの導入量の方が多くなるように、ガス通路13及び15の通路径が設定されているため、上記作用が確実に行われる。」(段落【0019】)

1f)図1から、ピストンリング3、ピストンリング4、ピストン2表面のピストンリング3とピストンリング4の間に挟まれて位置する部分、及びシリンダ1の内面によって囲まれた部分に、スラスト側の半環状空間11と反スラスト側の半環状空間12とが形成されていることが看取できる。

(2)上記(1)及び図面から分かること
1g)図1の図示内容から、第1のガス通路13が、シリンダ1内面のスラスト側の上部に設けられていることが分かる。

1h)上記1e)の記載及び図4の図示内容から、スラスト側の半環状空間11に、ピストン2の上方に位置するエンジン燃焼室6から第一のガス通路13を通じて高圧燃焼ガスが導入されることが分かる。

1i)図1ないし図4の図示内容から、ピストンリング3とピストンリング4とは、ピストン2の頂面に対して平行となっており、円周方向に延びていることが分かる。

以上の(1)及び(2)並びに図1ないし図4の記載を総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ピストン2のピストンリング3、ピストンリング4、ピストン2表面のピストンリング3とピストンリング4との間に挟まれて位置する部分、及びシリンダ1の内面によって囲まれたスラスト側の半環状空間11に、ピストン2がエンジン燃焼室6での圧縮ガスの爆発後からクランク角でほぼ0度から20度までの位置に存在する間、シリンダ1内面のスラスト側の上部に設けた第一のガス通路13からピストン2上方のエンジン燃焼室6における高圧燃焼ガスを導入し、
この導入した高圧燃焼ガスによってピストン2を、ピストン2からスラスト側のシリンダ側壁内面14への側圧に抗して反スラスト側に押し戻すように作用するエンジンにおいて、
ピストン2は、ピストンリング3とピストンリング4との間の環状空間8をスラスト側の半環状空間11と反スラスト側の半環状空間12とに画成する画成部材9及び10を備えるものであって、
ピストンリング3とピストンリング4とは、ピストン2の頂面に対して平行となって円周方向に延びているエンジン。」

B.引用例2
(1)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2011/093106号には、図面とともに次の事項が記載されている。

2a)「[0014] 図1及び図2は、爆発膨張行程におけるピストン2の降下工程初期の様子を示す。
[0015] 図1及び図2には、爆発膨張行程初期にある本実施例の往復動エンジン1が示されている。
[0016] 2はピストン、3はシリンダである。そして、4はガス室である。
[0017] ガス室4は、ピストン2のトップリング5とセカンドリング6と、セカンドランド7とシリンダ内面8とにより囲まれて形成されている。ガス室4は縦巾9がスラスト側10で広く、反スラスト側11で狭くなっている。
[0018] これは、ガス圧を受ける面積をスラスト側10において広くし、反スラスト側11で小さくし、導入、保持した高圧燃焼ガス12によってピストン2をスラスト側10から支持(ピストン側圧に対抗して)し、反スラスト側11からの押し返しをわずかにするためにある。
[0019] さて、ガス室4には、円弧形状の半割リング13がスラスト側10からセカンドランド7に被せた状態で挿入されている。
[0020] かつ、半割リング13はガス室4内において、上下方向(ピストン2の往復動方向)に隙間17をもって上下動自在に挿入されている。」(段落[0014]ないし[0020])

2b)「[0021] 以下、図3に示すように、半割リング13は、セカンドランド7の円周面に合わせた円弧形状に形成されている。
[0022] また、半割リング13は、正面、側面をガス室4の形状に合わせ、縦巾14が正面中央部15において、広く、両側端16、16で狭く形成されている。
[0023] さらに半割リング13は縦巾14が全体として、ガス室4の縦巾9より短くしてある。これは、この半割リング13がガス室4に挿入された状態で、上下方向に隙間17を作るためである。この隙間17の距離分、半割リング13はガス室4内で上下動する。」(段落[0021]ないし[0023])

2c)「[0024] 図1及び図2に示すように、半割リング13はその正面中央部15をスラスト側10に合わせてガス室4に挿入されている。
[0025] 特に、半割リング13はエンジン運転中、ピストン2の往復運動によって、ガス室4を形成するセカンドランド7の表面を上下に掃くように上下動する。
[0026] また、もちろん、半割リング13の厚みtは、シリンダ内面8とセカンドランド7の表面19との隙間20内において、エンジン運転中、自由に上下(ピストン2の往復動方向に沿って)移動できる厚さである。
[0027] また、半割リング13は、アルミ合金等で形成されたピストン2の形成材料よりも断熱性の高い、例えば、ステンレス鋼で形成された金属板により形成されている。」(段落[0024]ないし[0027])

2d)「[0033] 本実施例往復動エンジン1によれば、エンジン運転中、即ち、ピストン2が往復運動中、ピストン2のガス室4には、燃焼ガス12の導入(流入)、保持、排出が繰り返し行われていると共に、このガス室4内は半割リング13が上下動を続け、そのガス室4内の掃除行為を常に行っている。このため、ガス室4は繰り返して高圧燃焼ガス12の導入、保持を受けるが、半割リング13の掃除行為によって、ガス室4内、特に、セカンドランド7の表面19等にカーボンの付着、堆積の発生が防止される。」(段落[0033])

2e)「[請求項1] ピストンのトップリングとセカンドリングとセカンドランド、及びシリンダ内面とにより囲まれて形成されたガス室に、膨張行程の初期において、シリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路穴からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持するようにした往復動エンジンにおいて、上記ガス室内に、半割リングがスラスト側からセカンドランドに被せた状態で、かつ上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動によって、上記隙間分上下運動し、ガス室内が常に掃除されるようにした往復動エンジン。
[請求項2] 上記半割リングはピストンの形成材料よりも断熱性の高い金属板からなる請求項1に記載の往復動エンジン。」(請求の範囲の欄)

以上の2a)ないし2e)の記載並びに図1ないし図3の記載を総合すると、引用例2には、次の事項(以下、「引用例2に記載の技術」という。)が記載されている。

「ピストン2のトップリング5、セカンドリング6、セカンドランド7及びシリンダ内面8によって囲まれて形成されたガス室4に、膨張行程の初期において、シリンダ内面8のスラスト側の上部位に設けたガス通路穴23からピストン2上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストン2をスラスト側から支持するようにした往復動エンジンにおいて、
(1)ガス室4の形状に合わせて形成された半割れリング3をガス室4内に設けること、
(2)半割れリング13が、スラスト側からセカンドランド7に被せた状態で上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入されること、
(3)ピストン2の往復運動による上記隙間分の上下運動によってガス室4内を掃除すること、
(4)半割れリング13がピストン2の形成材料よりも断熱性の高い金属からなること、
を備える技術。」

3.対比・判断
本件補正発明と、引用発明とを対比する。
引用発明の「ピストン2」は、その機能、構造又は技術的意義からみて本件補正発明の「ピストン」に相当し、以下同様に、「ピストンリング3」は「トップリング」に、「ピストンリング4」は「セカンドリング」に、「ピストン2表面のピストンリング3とピストンリング4との間に挟まれて位置する部分」は「セカンドランド」に、「シリンダ1の内面」は「シリンダ内面」に、「スラスト側の半環状空間11」は「スラスト側のガス室」に、「ピストン2がエンジン燃焼室6での圧縮ガスの爆発後からクランク角でほぼ0度から20度までの位置に存在する間」は「膨張行程の初期」に、「シリンダ1内面のスラスト側の上部」は「シリンダ内面のスラスト側の上部位」に、「第一のガス通路13」は「ガス通路」に、「エンジン燃焼室6における高圧燃焼ガス」は「高圧燃焼ガス」に、「ピストン2を、ピストン2からスラスト側のシリンダ側壁内面14への側圧に抗して反スラスト側に押し戻す」ことは「ピストン2をスラスト側から支持する」ことに、「エンジン」は「往復動エンジン」に、「ピストンリング3とピストンリング4との間の環状空間8」は「トップリング及びセカンドリング間」に、「スラスト側の半環状空間11と反スラスト側の半環状空間12」は「スラスト側と反スラスト側とのガス室」に、「画成する」は「区画する」に、「画成部材9及び10」は「区画手段」に、それぞれ相当する。

したがって両者は、
「ピストンのトップリング、セカンドリング、セカンドランド及びシリンダ内面によって囲まれたスラスト側のガス室に、膨張行程の初期においてシリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持する往復動エンジンにおいて、上記ピストンは、トップリング及びセカンドリング間をスラスト側と反スラスト側とのガス室に区画する区画手段を具備しており、トップリングとセカンドリングとは、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びている往復動エンジン。」である点において一致し、以下の点において相違する。

[相違点]
本件補正発明においては、「スラスト側のガス室内に、当該スラスト側のガス室内に沿って伸びた掃除部材が上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動による掃除部材の上記隙間分の上下移動によってガス室内を掃除するようになっており、掃除部材は、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びている上縁と下縁とを有しており、掃除部材は、ピストンの形成材料の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有した金属板から形成されている」のに対して、引用発明においては、そのような掃除部材がスラスト側のガス室内に設けられているか不明である点。

以下、上記相違点について検討する。

[相違点について]
引用例2に記載の技術は、
「ピストン2のトップリング5、セカンドリング6、セカンドランド7及びシリンダ内面8によって囲まれて形成されたガス室4に、膨張行程の初期において、シリンダ内面8のスラスト側の上部位に設けたガス通路穴23からピストン2上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストン2をスラスト側から支持するようにした往復動エンジンにおいて、
(1)ガス室4の形状に合わせて形成された半割れリング3をガス室4内に設けること、
(2)半割れリング13が、スラスト側からセカンドランド7に被せた状態で上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入されること、
(3)ピストン2の往復運動による上記隙間分の上下運動によってガス室4内を掃除すること、
(4)半割れリング13がピストン2の形成材料よりも断熱性の高い金属からなること、」
を備える技術であって、
引用例2に記載の技術の「ガス通路穴23」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件補正発明の「ガス通路」に対応し、以下同様に、「半割れリング13」は、ガス室内を掃除する機能を有することからみて「掃除部材」に対応し、さらに、「半割れリング13がピストン2の形成材料よりも断熱性の高い金属からなること」は、断熱性が高いことは熱伝導率が低いことに他ならないから、「掃除部材は、ピストンの形成材料の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有した金属板から形成されている」ことに対応する。
そして、引用発明のスラスト側の半環状空間11は、エンジン燃焼室6における高圧燃焼ガスが導入されることにより、燃焼ガスに含まれるカーボンなどで汚損されることが明らかであることから、スラスト側の半環状空間11の掃除を行うことが好ましいことは当業者にとって自明である。
さらに、引用発明のスラスト側の半環状空間11は、ピストン2の頂面にそれぞれ平行となっているピストンリング3、ピストンリング4との間に挟まれて位置することから、上下の縁がピストン2の頂面に対して平行となって延びる形状を有するものである。
以上によると、引用発明において、スラスト側の半環状空間11の掃除のために引用例2に記載の技術を適用してスラスト側の半環状空間11に掃除部材を設け、
(1)掃除部材をスラスト側の半環状空間11の形状に合わせて形成する際に、掃除部材の形状をスラスト側の半環状空間11の形状に沿った、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に延びる上縁と下縁を有するものとし、
(2)さらに、掃除部材が、スラスト側の半環状空間11において上下方向に隙間をもって上下動自在となるように挿入し、
(3)それにより、ピストンの往復運動による上記隙間分の上下運動によってスラスト側の半環状空間11を掃除するものとし、
(4)掃除部材は、ピストンの形成材料の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有した金属板から形成することにより、
上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用例2に記載の技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成26年7月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願時に願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ピストンのトップリング、セカンドリング、セカンドランド及びシリンダ内面によって囲まれたスラスト側のガス室に、膨張行程の初期においてシリンダ内面のスラスト側の上部位に設けたガス通路からピストン上方の高圧燃焼ガスを導入し、この導入した高圧燃焼ガスによってピストンをスラスト側から支持する往復動エンジンにおいて、上記ピストンは、トップリング及びセカンドリング間をスラスト側と反スラスト側とのガス室に区画する区画手段を具備しており、上記スラスト側のガス室内に、当該スラスト側のガス室内に沿って伸びた掃除部材が上下方向に隙間をもって上下動自在に挿入され、ピストンの往復運動による掃除部材の上記隙間分の上下移動によってガス室内を掃除するようになっており、トップリングとセカンドリングとは、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びており、掃除部材は、ピストン頂面に対して平行となって円周方向に伸びている上縁と下縁とを有している往復動エンジン。」

2.引用例
原査定の理由に引用された引用例及びその記載事項並びに引用発明は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本件発明は、前記「第2 1.」で検討した本件補正発明において、「ピストンの形成材料の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有した金属板から形成されて」いるという発明特定事項を「掃除部材」の限定事項から削除したものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記「第2 3.」に記載したとおり、引用発明及び引用例2に記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明及び引用例2に記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-05 
結審通知日 2015-08-11 
審決日 2015-08-24 
出願番号 特願2011-211691(P2011-211691)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02F)
P 1 8・ 121- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 松下 聡
佐々木 訓
発明の名称 往復動エンジン  
代理人 高田 武志  

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