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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1307037 |
審判番号 | 不服2013-910 |
総通号数 | 192 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-01-18 |
確定日 | 2015-10-21 |
事件の表示 | 特願2007-532388「ウリジンを含んだ組成物及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日国際公開、WO2006/031683、平成20年 5月 1日国内公表、特表2008-513453〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成17年9月13日(パリ条約による優先権 2004年9月15日(US)アメリカ合衆国、2004年9月20日(US)アメリカ合衆国、2004年10月26日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年3月1日付けで手続補正がなされ、平成24年9月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年1月18日に拒絶査定不服審判が請求された後、当審より平成26年11月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成27年2月25日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?7に係る発明は、平成27年2月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 対象者における認知機能を改善するための薬剤であって、 その調合において(a)ウリジン、ウリジン塩、ウリジンホスフェイト又はアシルウリジン誘導体、及び(b)コリン又はコリン塩が使用され、 1日当り200mg?8gのウリジン及び200mg?8gのコリンを前記対象者へ与えるように投与されることを特徴とする薬剤。」 2.当審の拒絶理由 一方、当審において平成26年11月21日付けで通知した拒絶の理由1.の概要は、本願発明は、平成15年に頒布された「DE BRUIN, NMWJ. et al、Combined uridine and choline administration improves cognitive deficits in spontaneously hypertensiv、Neurobiol Learn Mem、その他、2003.発行、Vol.80, No.1、p.63-79」(以下、「引用例2」という。)、平成15年に頒布された「特表2003-517437号公報」(以下、「引用例4」という。)および平成元年4月に頒布された「丸山勝一、老年期の痴呆について、東京女子医科大学雑誌、日本、1989.04.発行、第59巻、第4号、251?266」(以下、「引用例12」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3.引用例の記載事項 引用例2には、以下の事項(2-ア)?(2-コ)が記載されている。(なお、引用例2は英語で記載されているため、当審による翻訳文を記す。また、下線は当審による。) (2-ア) 「ウリジンとコリンの併用投与による自然発症高血圧ラットの認知障害の改善」(第63頁表題) (2-イ) 「理論的根拠:脳血管と血流量に対するその陰性効果のために、高血圧は認知障害発症の危険因子と考えられている。ラットにおける遺伝的誘発性高血圧は、認知障害の範囲と関係していた。それゆえ、ヒトを被験者とする認知障害のモデルとして、自然発症高血圧ラット(SHR)を使用できる可能性を秘めている。同時に、特定の食物構成要素がこれらのラットの認知力を改善する可能性がある。」(第63頁Abstract欄第2?5行) (2-ウ) 「結論:本結果は、SHRが選択的注意と空間学習に障害を持つことを示している。従って、SHRは、認知障害治療のための治療的可能性を持つ物質のスクリーニングにおいて、興味深いモデルを提供する可能性がある。ウリジンとコリンの併用投与は、SHRの選択的注意と空間学習を改善した。」(第63頁Abstract欄第16?19行) (2-エ) 「近年、SHRラットは記憶、学習、注意プロセスにも欠陥があるというエビデンスが増加している(……)。例えば、Wistar正常血圧ラットと比較すると、SHRは空間学習と作業記憶の障害を意味する八方向迷路のパフォーマンスに欠陥があることが分かっている(……)。また、SHRには水迷路の空間記憶の欠陥も見つかっている(……)。生後12か月の時点で、SHRは、同齢のSprague-Dawley(SD)ラットと比較して、空間課題の学習に明らかな欠陥があった(……)。脳血管と血流量に対するその陰性効果のために、高血圧は認知障害発症の危険因子と考えられてきた(……)。そのため、SHRは認知機能に対する高血圧の影響を調査するのに用いられてきた。このラットは、記憶及び注意力障害の治療のための治療能力のある物質をスクリーニングする際、興味深いモデルを提供するであろうと言われている(……)。」(第63頁右欄第10行?第64頁左欄第27行) (2-オ) 「記憶及び注意の欠陥以外に、SHRは中枢アセチルコリン受容体(AChR)部位の数が減少していることも判明している(……)。これらの受容体は、脳循環と認知機能の調節に関係していると思われ、また、AChRの低減が、痴呆、パーキンソン病、統合失調症といった認知障害を特徴とする老化とヒトの健康状態に特有であることから、このことはとりわけ重要である(……)。」(第64頁左欄第28?41行) (2-カ) 「第二の目的は、ウリジンとコリンの長期投与がSHRの認知機能を改善するかどうか判定することであった。アミンコリンは、ニューロン膜の必要不可欠な構成要素である神経伝達物質アセチルコリンと、特定のリン脂質の前駆体である(……)。ヌクレオシドウリジンは、ヒトの脳で膜ホスファチド合成を増加させるのに推奨されている(……)。このように、ともに脳リン脂質の前駆体であるコリンとウリジンの併用は、ニューロン膜の保護に貢献すると考えられる。」(第64頁左欄第49行?右欄第4行) (2-キ) 「本研究では、SHRラットにおける認知機能を正常血圧対照WKYラットの結果と比較した。加えて、WKYラットは特に活動性が低く(……)、DRL60秒課題では、うつ様プロフィールを示す(……)ことが明らかにされているので、行動に関する対照として正常血圧SDラットも含めた。 次に、ウリジンとコリンの長期投与がラットの認知能力に有益かどうかを調査した。ヒト被験者の認知障害のための動物モデルとして、シチジンの代わりにウリジンの効果を調査する利点は、シチジンが血液脳関門を通過する前にウリジンに変換される必要があるのに対し、ウリジンはヒト血液脳関門を通過できるという点である(……)。このように、ヒトでも使用できる治療戦略として、ウリジンの方がより適していると思われる。」(第64頁右欄第43行?第65頁左欄第5行) (2-ク) 「第二の目的は、ウリジンとコリンの合成物を食餌によって長期的に摂取することが、認知力に与える潜在的有益作用を研究することであった。本研究結果によれば、ウリジン/コリンは5-CSRT課題でSHRラットのパフォーマンスを正常化し、モーリス水迷路でWKY及びSHRラットの空間学習を改善した。」(第74頁左欄第10行?右欄第2行) (2-ケ) 「ウリジン/コリンのいくつかのメカニズムによって、選択的注意と空間学習に対するこの化合物の有効性を説明することが可能である。これらの仮説を検証するために、本研究の実験動物の血漿と脳を使用した生体外の研究が現在いくつか進行中である。提唱するウリジン/コリンのメカニズムは、CDP-コリンの所見に基づいている。第一に、CDP-コリン投与の有益な効果は、その産出物コリンとシチジンによるリン脂質の大幅な増加(細胞膜の主要構成要素)に基づく(……)。ヒトの体内では、シチジンはウリジンに変わり、この形態で血液脳関門を通過する。対照的に、ラットではシチジンは直接脳血液関門を通過すると言われており、最初にウリジンに変換されることはない(……)。TeatherとWurtman(論文審査中)は、ホスファチジルコリン(PC)のようなリン脂質へのCDPコリンの転換について解説した。シチジンとコリンはそれぞれ、シチジン三リン酸(CTP)とホスホコリンにリン酸化される。次に、CTPとホスホコリンが結合して、内在性CDP-コリンを形成し、これがジアシルグリセロール(DAG)と反応してホスファチド、PCを形成する。化合物ウリジン/コリンは、同じメカニズムでリン脂質の量を強化する。ウリジン-5-モノリン酸塩-2Na(UMP)は、まず、ウリジンに変化し、それからウリジン-5-三リン酸塩(UTP)に変換され、CTPを形成する。SHRラットは脳血管の問題とニューロン損傷を持つ傾向があり、ウリジン/コリンのこのメカニズムによって、SHRラットのニューロン膜を保護することができた。第2に、CDP-コリンが脳内のアセチルコリン(ACh)レベルを上昇させることがわかった(……)。SHRラットでは、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の部位が減少していることが示唆されたことから(……)、神経伝達物質アセチルコリン(……)の前駆体であるコリンは、コリン作用性伝達を強化すると思われる。本研究は、SHRにおける空間記憶パフォーマンスの障害と注意力の問題が、少なくとも部分的には、中枢性コリン作動性神経伝達の障害と関係しており、ACh放出を強化するコリン治療が、コリン作動性依存神経行動学的障害を減らす可能性がある、という間接的エビデンスを提供する。本研究で使用したラットのデータで材料によって、脳リン脂質と血漿コリン-アセチルコリン濃度が確定される(……)。」(第76頁左欄第54行?右欄第45行) (2-コ) 「ウリジンとコリンの併用は、SHRラットの選択的注意と空間学習を改善することが明らかになった。本研究のウリジン/コリンに関するデータと、以前のCDP-コリンに関する所見は、アミンコリンとウリジンやシチジンといったヌクレオチドとの併用補給が、認知力に対して有効性を持つことを強く示唆する。」(第76頁右欄第52行?第77頁左欄第3行) 引用例4には、以下の事項(4-ア)?(4-エ)が記載されている。 (4-ア) 「 【請求項16】 少なくともウリジン又はウリジンソースの治療上有効な用量と他の化合物を投与することを含む、神経学的障害を有するヒトを治療する方法。 【請求項17】 上記の神経学的障害が記憶障害である、請求項16に記載の方法。 …… 【請求項21】 上記の神経学的障害が、躁病、うつ病、ストレス、パニック、不安、気分変調、精神病、季節性感情障害および双極性障害を含む情動障害である、請求項16に記載の方法。 …… 【請求項28】 上記の神経学的障害が、精神分裂病およびパーキンソン病から成る群から選択される、請求項16に記載の方法。 【請求項29】 上記の他の化合物がコリンである、請求項16に記載の方法。 【請求項30】 上記の他の化合物が、塩化コリン、酒石酸水素コリン、ステアリン酸コリン又はそれらの混合物から成る群から選択されるコリン塩又はステアリン酸塩である、請求項16に記載の方法。 …… 【請求項37】 上記のウリジン又はウリジンソースを1日当り10mgから10gまでの用量で投与する、請求項16に記載の方法。 【請求項38】 他の薬剤と組み合わせた上記の治療上有効な用量のウリジン又はウリジンソースを少なくとも1日間投与する、請求項16に記載の方法。」 (4-イ) 「しかし、コリン単独では治療法として有用ではない。本発明に照らして、コリン又はコリン前駆物質はウリジン又はウリジンソースとの組合せにおいて考慮することが適切である。」(段落0026) (4-ウ) 「より特定すると、コリンベースの化合物がウリジン又はウリジンソースと共力的に作用する化合物として想定されている。その中でも特に、バルビツール酸又はステアリン酸コリン等のようなコリン塩又はエステル、又はスフィンゴミエリン、シチジンジホスホコリン又はシチコリン又はCDP-コリン、アシルグリセロホスホコリン、たとえばレシチン、リゾレシチン、グリセロホスファチジルコリン、それらの混合物等のようなコリンに解離する化合物が挙げられる。」(段落0028) (4-エ) 「必要なときには、また治療の緊急性に応じて、ウリジンを共力作用的に又は付加的に作用する他の化合物と組み合わせて投与する。これは投与する薬剤の治療用量を低下させ、それによって潜在的な有害副作用と薬剤の投与頻度を低減する。そのように働く化合物は、コリン作用性代謝に関与する化学物質である。たとえば、ウリジンと共に投与される化合物は次のようなコリンベースの化合物である:バルビツール酸又はステアリン酸コリン等のようなコリン塩又はエステル、又はスフィンゴミエリン、シチジンジホスホコリン又はシチコリン又はCDP-コリン、アシルグリセロホスホコリン、たとえばレシチン、リゾレシチン、グリセロホスファチジルコリン、それらの混合物等のようなコリンに解離する化合物。コリン又はコリンに解離する化合物は、患者の血液又は脳において少なくとも約20?30ナノモル、通常は10?50ナノモルのコリンレベルが達成されるように投与する。 …… 薬理的に有効な用量は、約20mgから50g/日までの範囲内、好ましくは約100mgから10g/日までである。用量は単回投与として又は数回の分割用量として、たとえば10mgから1g/カプセルまたは錠剤として投与する。治療の最小期間は少なくとも1日であるが、通常は治療の緊急性に従ってより長期間が必要である。必要に応じて、通常の期間は1日から生涯までにわたる。これらの化合物が純粋な形態で入手できない場合、有効成分は少なくとも製剤の20?30重量%を占める。少なくとも1日間又は治療の緊急性に応じてより長期間臨床試験を継続する。一般に、投与する用量、投与頻度および治療期間は患者の状態に応じて変化し、関連技術に熟達する開業医に既知の標準的な臨床手順に従って決定される。」(段落0041-0042) 引用例12には、以下の事項(12-ア)が記載されている。 (12-ア) 「 ![]() 」(第263頁表18) 上記記載事項(2-ア)?(2-コ)によれば、引用例2には、ウリジン及びコリンの併用による自然発症高血圧ラットの認知機能改善についての研究において、ウリジン及びコリンの併用により自然発症高血圧ラットの選択的注意と空間学習が改善されるという結論が得られたことが記載されているといえる。引用例2には、選択的注意と空間学習が認知機能に属する機能であることの直接的記載はないものの、特に上記記載事項(2-ウ)及び(2-エ)から選択的注意と空間学習が認知機能に属する機能として扱われていると認められ、この結論が、選択的注意と空間学習は認知機能に属する機能であることを前提とすることは明らかである。 したがって、引用例2には、対象者における認知機能を改善するための、ウリジン及びコリンが併用される薬剤の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 4.対比 本願発明と引用発明を対比すると、両者は、 対象者における認知機能を改善するための薬剤であって、その調合において(a)ウリジン、及び(b)コリンが使用される点で一致し、 本願発明は「1日当り200mg?8gのウリジン及び200mg?8gのコリンを前記対象者へ与えるように投与される」ものである一方、引用発明はウリジン及びコリンの投与量が定められていない点で相違する。 5.当審の判断 (1)相違点について 上記相違点について検討する。 ウリジンと、コリンなどウリジン以外の化合物を併用投与して、記憶障害などの神経学的障害を有するヒトを治療する際に、ウリジンを1日当り10mgから10gまでの用量で投与することが、上記記載事項(4-ア)(特に、請求項37)に示されている。記憶は認知機能の一つであるから、記憶障害の治療は認知機能の改善に他ならない。 また、アルツハイマー患者に対して、塩化コリンを1日当り5?10g経口投与すれば行為面に効果があり、重酒石酸コリンを1日当り1?8g経口投与すれば積木テストが改善することが、上記記載事項(12-ア)に示されている。アルツハイマー患者における行為面の効果及び積木テストの改善は、認知機能の改善に他ならない。また、塩化コリン、重酒石酸コリンの経口投与は、対象者へコリンを与えるものと認識される行為である。 したがって、引用発明において、対象者における認知機能を改善するための、ウリジン及びコリンが併用される薬剤を調合する際に、ウリジン及びコリンの投与量を、上記記載事項(4-ア)及び上記記載事項(12-ア)を参考にして検討することにより、1日当り200mg?8gのウリジン及び200mg?8gのコリンを対象者に与えるように投与される薬剤として、本発明をすることは当業者が容易に想到し得たことである。 (2)効果について 本願明細書の段落0237?0245に、ウリジン及びコリンを併用したin vitroでの実験例14及び実験例15が記されており、その結果について「コリンはウリジンの有無に関係なくアセチルコリン放出を向上させた(図26)。」(段落0242)、「上記実験例は、シチジン新PCに使用されるCDPコリンの合成をウリジンが増補することを示している。実験例の結果をあわせると、新しいリン脂質を合成する神経の能力及びそれによる神経伝達物質の繰り返し放出が、コリンと一緒のウリジンの追加によって、添加又は相乗作用の手法で向上すると考えられる。」(段落0243)、「全グループにおいて、神経伝達物質の放出量が各連続した刺激期間で減少したが、この減少は、ウリジン又はコリンいずれかの存在下で有意に低下する。この効果は、ウリジン及びコリン両方の存在で強化される。したがって、繰り返し刺激後の神経伝達物質放出量はウリジン又はコリンの存在で向上し、ウリジン及びコリンの存在でさらに向上する。」(段落0245)と記載され、対応する結果が各々、図26A?図26Cに示されているが、いずれの結果も、上記記載事項(2-カ)、(2-キ)及び(2-ケ)に示された作用機序に基づいて、当業者の予想できる範囲のものであると認められる。 (3)審判請求人の主張について 審判請求人は平成27年2月25日付け意見書において、以下、a.?d.を主張する。 a.「引用文献2は、『認知機能を改善する』ことも開示していません。……、引用文献2では、審判官殿のご指摘のような『選択的注意と空間学習などの認知機能』とは記載されていません(下線は出願人による。)すなわち、引用文献2では、選択的注意と空間学習が、認知機能と同等であることを開示も示唆もしていません。」((3-1)[引用文献2との比較]) しかし、上述のとおり、引用例2には、ウリジン及びコリンの併用による自然発症高血圧ラットの認知機能改善についての研究において、ウリジン及びコリンの併用により自然発症高血圧ラットの選択的注意と空間学習が改善されるという結論が得られたことが記載されているといえる。引用例2には、選択的注意と空間学習が認知機能に属する機能であることの直接的記載はないものの、特に上記記載事項(2-ウ)及び(2-エ)から選択的注意と空間学習が認知機能に属する機能として扱われていると認められ、この結論が、選択的注意と空間学習は認知機能に属する機能であることを前提とすることは明らかである。 b.「引用文献4は、……、認知機能野改善に必要な、ウリジンとコリンの投与用量を開示していません。……。つまり、審判官殿のご認定とは異なり、引用文献4の明細書段落0042には、ウリジンの投与量については、何ら記載されていません。引用文献4の他の箇所にも、ウリジンの投与量については、何ら記載されていません。」((3-1)[引用文献4との比較])及び「審判官殿のご指摘と異なり、引用文献4には、ウリジンの投与量に関する記載はありません。」((3-2)想到非容易性) しかし、上述のとおり、引用文献4における上記記載事項(4-ア)(特に、請求項37)には、ウリジンと、コリンなどウリジン以外の化合物を併用投与して、記憶障害などの神経学的障害を有するヒトを治療する際に、ウリジンを1日当り10mgから10gまでの用量で投与することが示されている。 c.「引用文献12は、老年期の痴呆に関する学術文献です。……。しかし、ここで記載されているのは、Alzheimer病のたった3例に対して、重酒石酸コリンという特定のコリン塩を所定量投与した場合に、積み木テストが改善されたことにすぎません。また、同表には、塩化コリンでは効果がなかったことも示されています。」((3-1)[引用文献12との比較])及び「引用文献12は、コリン単独での投与が開示されているにすぎません。引用文献12は、塩の種類によってはコリン単独で同様の投与量で効果が得られなかった場合についても開示しており、この開示から、当業者は、コリン単独であったとしても、何らかの効果を示すものとは理解しなかったと考えます。」((3-2)想到非容易性) しかし、仮に、ある薬剤により改善を奏したとして紹介された研究における症例数が少ないとしても、改善を奏したとされている以上、その研究における薬剤投与量を、改善を奏した薬剤投与量として当業者は認識すると解される。また、コリン単独での投与量が、併用投与に際しての投与量を検討する際の基準とはなり得ないとすべき根拠も見出せない。さらに、重酒石酸コリンが、コリン塩として通常想定し得ない特殊な化合物であるなど、当業者が参酌しないとすべき特殊な事情も認められない。 また、審判請求人は平成27年2月25日付け意見書において d.「本発明による効果は、実施例に明らかに実証されています。 具体的には、実験例12、14、15は、ウリジンとコリンとを組み合わせて投与することにより得られる、神経伝達物質の放出に対する相乗的効果を示しています。そして、明細書段落0225、実験例12に記載されるように、これらの実験は、神経伝達物質の放出の強化が、認知機能を改善することも裏付けています。 このように、実験例12、14、15は、本願請求項1に係る発明の投与量において、十分な相乗効果が定量的に得られたことを実証しています。実験例12、14、15の示す有利な効果は、本願請求項1に係る発明の進歩性を推認させるものであることを、出願人は強く主張致します。」(3-3)発明の有利な効果) しかし、本願明細書の段落0220?0225に記載される実験例12は「ホスファチジルイノシトール(IP)信号伝達のUTP及びウリジンによる刺激」(段落0220)に関するものである。「UTP」は、本願明細書の段落0093に記載されるとおり、「ウリジン-5’-トリホスフェイト」であるから、実験例12はウリジンとコリントを組み合わせて投与することに関するものではない。 また、実験例14、15については、上述5.(2)で述べたとおり、いずれの結果も、上記記載事項(2-カ)、(2-キ)及び(2-ケ)に示された作用機序に基づいて、当業者の予想できる範囲のものであると認められる。 したがって、審判請求人の主張はいずれも受け入れられない。 (4)以上のとおり、本願発明は、引用例2、4及び12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 6.むすび したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-05-22 |
結審通知日 | 2015-05-26 |
審決日 | 2015-06-08 |
出願番号 | 特願2007-532388(P2007-532388) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小堀 麻子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
穴吹 智子 辰己 雅夫 |
発明の名称 | ウリジンを含んだ組成物及びその使用方法 |
代理人 | 小川 護晃 |
代理人 | 西山 春之 |