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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1307050
審判番号 不服2014-4865  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-13 
確定日 2015-10-21 
事件の表示 特願2007-111261「SPO2を用いた心房細動検出」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日出願公開、特開2007-289694〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年4月20日(パリ条約による優先権主張2006年4月26日,米国(US))を出願日とする出願であって,平成24年6月11日付けで拒絶理由が通知され,同年8月20日付けで意見書の提出及び手続補正がなされ,平成25年4月10日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年6月14日付けで意見書の提出及び手続補正がなされ,同年12月20日付けで拒絶査定がなされ,平成26年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
平成26年3月13日付け手続補正による請求項の補正は、特許法17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、適法な補正と認められるから、本願の請求項1?6に係る発明(以下、請求項の番号に対応して「本願発明1?本願発明6」という。)は、上記の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのものである(当審注:請求項1の「パル詩」は「パルス」の誤記として認定した。)。(下線は補正箇所を示す。)
「 【請求項1】
人や動物対象の心房細動を検出する方法であって、
パルスオキシメータ・センサからある時間期間にわたって患者のプレチスモグラフ波形を収集する工程(110、120)と、
前記プレチスモグラフ波形から複数のパルス間隔及び心室充填時間を計測する工程(130)と、
前記複数のパルス間隔を含む時間期間にわたって、前記プレチスモグラフ波形のパルス振幅(430)及び、各パルス振幅に対応する心室充填時間を計測する工程(135)と、
前記患者の心房細動状態をす定するために前記時間期間内で前記心室充填時間の増加に伴う前記パルス振幅(430)の増加のパターンを解析する工程(140)と、
を含む方法。
【請求項2】
解析する前記工程(140)は、
前記複数のパルス間隔に対して隠れマルコフモデル解析(330)を実施する工程(140)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
解析する前記工程(140)は、
前記複数のパルス間隔に対してコンテキスト解析(340)を実施する工程(140)を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記隠れマルコフモデル解析(330)によって患者が不規則心臓リズムを有する確率が決定されている請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記コンテキスト解析(340)によって心房細動を不規則心臓リズムの発生源から除外している請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記解析する工程は前記複数のパルス振幅(430)の複数の充填時間動態(420)を決定する工程を含んでおり、心房オーグメンテーションの程度に関する表示が提供される、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。」

第3 本願明細書の記載(下線は当審で付与した。)
本願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)【発明が解決しようとする課題】
「【0005】
AFIBを検出する目下の方法は主に、連続ECG記録を使用することに依存している。しかしながら、ECGを介した連続した心臓監視は、多種多様な電極を精密に付着させること、装置やケーブルの不快さ、並びに電池交換の問題など多くの問題点を提起する。多くの患者では、この鋭敏度レベルが保証されない。電極や追加のセンサを要することなく簡単にAFIBをスクリーニングできることが望ましい。」

(2)【課題を解決するための手段】
「【0006】
本方法及びシステムは、血液酸素飽和レベル監視デバイスからプレチスモグラフ波形を収集することによって患者の心房細動を検出する工程を含む。このプレチスモグラフ波形が解析されてパルス間隔が計算され、患者が心房細動状態にあるか否かが決定される。本方法及びシステムは、ソフトウェア・アプリケーションの形で実現し心房細動(AFIB)の現在の状態及び現在のAFIBトレンドに関する患者及び/または臨床医へのレポートの形で構成されることが好ましい。
【0007】
本発明の一態様では、人や動物対象の心房細動を検出する方法は、ある時間期間にわたって監視デバイスから患者のプレチスモグラフ波形を収集する工程と、プレチスモグラフ波形から1組のパルス間隔を計測する工程と、プレチスモグラフ波形から1組のフィーチャを計測する工程と、患者の心房細動状態を決定するためにプレチスモグラフ波形からの1組のパルス間隔及び1組のパルスフィーチャを解析する工程と、を含んでおり、この監視デバイスはパルスオキシメータ・センサであると共にこの1組のフィーチャは1組のパルス振幅である。
【0008】
本方法はさらに、患者の心房細動トレンドを検出するためにプレチスモグラフ波形からの1組のパルス間隔及び1組のパルスフィーチャを解析し心房細動トレンドをレポートする工程と、さらに心房細動状態をレポートする工程と、を含む。本方法はさらに、1組のパルス間隔に対する隠れマルコフモデル解析の実施、並びに1組のパルス間隔に対するコンテキスト解析の実施を含め1組のパルス間隔を解析する工程を含んでおり、この隠れマルコフモデル解析は患者が不規則心臓リズムを有する確率を決定しており、またこのコンテキスト解析は心房細動を不規則心臓リズムの発生源から除外している。
【0009】
1組のパルスフィーチャに対する本方法の解析工程はさらに、1組のパルス振幅のうちの連続する同士の振幅変動を計算する工程を含んでおり、その心房細動状態決定はパルス振幅変動の解析に依存しており、またその1組のパルス振幅の解析工程は該1組のパルス振幅に関する1組の充填時間動態を決定する工程を含むと共に、さらにその1組のパルス振幅の解析工程及びその1組の充填時間動態の決定工程によって存在する心房オーグメンテーション(augmentation)の程度に関する指示が提供されている。
【0010】
本発明の別の態様では、人や動物対象の心房細動を検出するためのシステムは、監視デバイスからのプレチスモグラフ波形を解析するように構成された遠隔検知システムと、コンピュータ・アプリケーションを保存するための記憶媒体と、該遠隔検知システム及び記憶媒体と結合させ、コンピュータ・アプリケーションを実行するように構成させ、またさらに遠隔検知システムからプレチスモグラフ波形を受け取るように構成させた処理ユニットと、を備えており、このコンピュータ・アプリケーションが実行されると、プレチスモグラフ波形からの1組のパルス間隔が検出されると共にプレチスモグラフ波形から1組のパルスフィーチャが計測されており、またさらに患者の心房細動状態を決定するためにこの1組のパルス間隔及び1組のパルスフィーチャが解析されている。この監視デバイスはパルスオキシメータ・センサであり、またプレチスモグラフ波形からの1組のパルス間隔及び1組のパルスフィーチャが解析されると患者の心房細動トレンドが検出されており、また患者に対して心房細動トレンドをレポートする手段及び心房細動状態をレポートする手段が含まれている。コンピュータ・アプリケーションが実行されて1組のパルス間隔が解析されると、この1組のパルス間隔に対して隠れマルコフモデル解析が実施されると共にこの1組のパルス間隔に対するコンテキスト解析が実施されており、該隠れマルコフモデル解析は患者が不規則心臓リズムを有する確率を決定しており、また該コンテキスト解析は心房細動を不規則心臓リズムの発生源から除外している。
【0011】
本システムでは、コンピュータ・アプリケーションが実行されて1組のパルスフィーチャが解析されると、この1組のパルスフィーチャの充填時間動態が決定される共にこの1組のパルスフィーチャのうちの各々同士のフィーチャ変動が平均値(mean)、中央値(median)、連続パルス、あるいは最大値対最小値を基準として計算されており、ここで心房細動状態決定はパルス振幅変動の解析に依存しており、またさらに充填時間の関数としたパルス振幅変動の解析によって存在する心房オーグメンテーションの程度に関する指示が提供されている。」

(3)図1の説明
「【0012】
図1は、ECG波形20及びプレチスモグラフ波形30を表している。典型的には、担当医や診療提供者がECG波形20を用いて患者のAFIBを検出し診断することになる。しかし上で検討したように、患者からECG波形20を取得することは、患者からプレチスモグラフ波形30を取得することと比べてさらに一層複雑かつ困難である。以下で検討するように、プレチスモグラフ波形30を用いてAFIBを検出するためには、プレチスモグラフ波形30の数多くの様相を検査することになる。パルス検出が利用されると共に、隠れマルコフモデル(HMM)法及びコンテキスト解析を用いてパルス間隔が解析される。さらに、各パルスの振幅40が計測されて解析されることになり、またプレチスモグラフ波形の各パルス間での心室充填時間50も同様である。本発明は、患者のプレチスモグラフ波形30を用いてAFIBを検出するためのより単純で便利な方法を可能にする。もちろん、これによって以下に記載するように在宅監視システムが大幅に強化される。本方法及びシステム、並びにその実現形態について以下でより詳細に記載することにする。」

(4)図2の説明
「【0013】
図2は、遠位の(distal)プレチスモグラフ・パルスに対する心拍数(または、RR間隔)の変化の影響を表している。間隔RR1はパルスA0を発生させた先行する間隔より長い。その結果、動脈血が静脈系内に受動的に流入するのにより多くの時間がかかる。これによって心拡張期(P0)において血液量の低下が生じる。この長いRR間隔がさらに、心臓の左室内の充填時間を長くさせる。Starlingの法則によって、心室の体積の増加が次のボリュームパルスに関してより大きな振幅A1をもつより強力な排出につながる。
【0014】
これに続くRR間隔(RR2)は先行する間隔より短い。血液が動脈系から流出するのに要する時間がより短いため、P1でのパルスレベルは心拡張期における先行するパルスと同じ程度の低い値まで低下しない。この短い充填時間は、A2における振幅の低下になって反映されるような心拍出量及び心収縮期圧力の低下(先行する間隔と比較した低下)につながる。間隔RR4は、P2におけるレベルの上昇とA4における振幅の低下を伴うようなさらに短い間隔を表している。
【0015】
パルスの振幅(Ai+1-Pi)はしたがって、先行するRR間隔の長さに比例すると共に、このパルス振幅を患者がAFIB状態にあるか否かを決定するために使用するアルゴリズムに対する別の入力として使用することができる。」

(5)図3の説明
「【0016】
図3は本発明の検出方法100を表している。工程110では、ある時間期間にわたってプレチスモグラフ・センサから患者のプレチスモグラフ波形が収集される。工程120では、工程110で収集した当該時間期間にわたるプレチスモグラフ波形からプレチスモグラフ・パルスが検出される。工程130ではプレチスモグラフ波形から複数のパルス間隔が検出され、また工程135では複数のパルスフィーチャが計測される。このパルス間隔及びパルスフィーチャが工程140において解析されてAF状態が決定される。工程140の解析結果は工程150においてレポートされると共に、患者のAFIB状態の現在のトレンドもレポートされる。」

(6)図4の説明
図4


「【0017】
さらに検出方法100のブロック図を図4A及び4Bに示している。先ず図4Aを見ると、SPO2データが収集されプレチスモグラフ波形300として表示されている。パルス検出310は、一連のパルスを検出してパルス間隔312、314を計測し、これによって心臓の房室への反復した充填を表しているプレチスモグラフ波形300上で実施される。パルス検出310及びパルス間隔計算312、314を終えた後、検出したパルス間隔に対して隠れマルコフモデル(HMM)330解析及びコンテキスト解析340を実施することがある。HMM330及びコンテキスト解析340に関するより詳細な説明は図4Bの詳細な説明の中に含めることにする。
【0018】
さらに図4Aを参照する一方で同時に図1を参照すると、プレチスモグラフ波形300に対してパルスフィーチャ計測320が実施されている。パルスフィーチャ計測320は、プレチスモグラフ波形30の各振幅40を計測すると共に、この情報を利用して振幅変動360を計算する。振幅変動360の計算によって担当医や診療提供者に対して心臓がどのように働いているかに関する指示が与えられると共に、各連続パルスの振幅の上や下への変化によってそのタイプや規則性に関する情報が提供される。」

(7)心房オーグメンテーション検出の説明
図5


「【0019】
パルスフィーチャ計測320のデータを用いてさらに、心房オーグメンテーション検出350が決定される。図4A及び5A?5Bを同時に参照すると、図5A?5Bに示すようにして心房オーグメンテーション検出350が決定される。充填時間動態400によれば振幅変動を計算(360)したときに検出されることがあり得る不規則性を確認できるので、充填時間動態400は重要である。ここで図5A?5Bを参照すると、充填時間動態400をグラフ表示で表しており、この図示ではグラフのx軸方向を時間(t)とし、
またグラフのy軸方向を振幅(A)としている。プレチスモグラフ・パルス振幅410は心室の充填時間420に対する依存性が大きい。幾つかのパルス振幅430を時間の関数としてプロットして得られた振幅傾斜440によって心拍出量に対する心房の寄与に関する情報が提供される。プレチスモグラフ・パルス430の振幅410の変化、並びに得られた振幅傾斜440は、心房「キック(kick)」の有無及び血圧の相対的変化を反映する可能性がある。図5A?5Bではパルス振幅410及び心房充填時間420を単一の例示的なパルス波形上にラベル付けしていること、並びに各パルス振幅430は1つの振幅410と充填時間420の値を有することに留意すべきである。得られる充填時間動態グラフ400は、プレチスモグラフ波形30(図1)から個々の各パルスを「カット(cutting)」し(各パルスの心房充填時間50を含む)、充填時間動態グラフ400上に個々の各パルスを「ペースト(pasting)」する(充填時間50を「0」で開始する)ことによって生成されている。
【0020】
心臓の主収縮の各々のすぐ前に、心臓の上側にある小さい方の部屋(左心房及び右心房)が適正に機能したときに下側にある大きい方の部屋(左心室及び右心室)に余分な血液が押し入れられることはよく知られている。これは心室充填の10%?40%を占める可能性がある。この心室充填の増大は心房細動の間は喪失すると共に、これによりこれらの患者の症状の幾つかが説明される。心房オーグメンテーションは「心房キック」または「心房寄与」とも呼ばれる。人が高齢となるに連れて心房キックがより重要となると共に、患者の年齢が高いほど心房細動による影響がより大きい。
【0021】
プレチスモグラフ波形内に心房オーグメンテーションの証拠を認識するための方法はこれまでに開示されたことがない。心房オーグメンテーションは、心拍動間隔が異なるパルス振幅からなるパターンにおいて認識することができる。
【0022】
心臓の拍動は概ね規則的であるが、ある程度のリズムの不規則性はほとんど常に存在するのが一般的である。心拍動間の間隔は吸気の間には短くなる。心拍動間隔は呼気の間には長くなる。心室性期外収縮(PVC)や心房性期外収縮(PAC)などとして知られるように拍動の一部が早く発生する。このように心拍動間隔が変動することは、血液が心室を満たすのに要する時間が心拍動間で長くなったり短くなったりすることを意味する。充填時間が長くなると、排出される血液の増加、血圧の上昇、及び当該拍動に関するプレチスモグラフ内のパルス振幅の増大が生じる。
【0023】
したがって、心房オーグメンテーションと充填時間というとりわけ2つの要因が、プレチスモグラフ振幅に影響を及ぼしている。図5Aは、パルス振幅が充填時間に伴って増大することを実証するために波形を重ね合わせて表している。図5Aでは、患者が心房細動を有するためそのパルス振幅410が充填時間420の関数としてだけ増大しており、したがって心房オーグメンテーションが存在していない。
【0024】
心房オーグメンテーションが存在すると、様々な心拍動間隔におけるパルス振幅410のパターンが違ってくる。このケースでは、期外拍動の大部分は心房オーグメンテーションの利益を有することがなく、またこれらの拍動に関するプレチスモグラフ・パルス波高は図5Aに示したのと同じとなる。しかし、拍動間隔がより長いと心房オーグメンテーションが存在しており、したがって図5Bは最初のパルスと最終のパルスについてパルス波高を高く図示している。これらのパルスは、図5Aと比べてよりレベルが高い位置にあるように図示した点線にまで及んでいる。
【0025】
したがって、心房オーグメンテーションの証拠を認識するための一般的な方針は、少なくともある多様な心拍動間隔を含むある時間期間にわたってプレチスモグラフ・パルス振幅430を観測し、パルス波高の程度がより狭い心拍動間隔の増加の関数として増加することを観測することである。これによれば、充填時間の関数としたパルス波高の外挿が可能となる。心房オーグメンテーションが存在する場合、心拍動間隔が長くなるとパルス振幅が充填時間だけから予測される値を超えることになる。図5A及び5Bは簡略した例である。波高対充填時間の関数は線形でないことがあり、したがってその外挿はより込み入った関数となることがある。しかしオーグメンテーションは依然として、充填時間外挿にわたるパルス増大として認識される。」

(8)心臓のリズムが不規則であるか否かが決定されることの説明
「【0026】
図4Aに戻ると、HMM330、コンテキスト解析340、心房オーグメンテーション検出350、及び振幅変動計算360の結果が評価されて心臓のリズムが不規則であるか否かが決定される(370)。患者がAFIB状態にあるか否かによらず、工程380においてAFIBがレポートされ、そのプレチスモグラフを収集した時間期間中のAFのトレンドがレポートされる(390)。」

(9)HMM330及びコンテキスト解析340についてのさらなる詳細な説明
「【0027】
ここで図4Bを参照しながら、HMM330及びコンテキスト解析340についてさらに詳細に記載することにする。この方法100では、検出されたパルス間隔310が、312では詳細パルス間隔に、また314ではパルス間隔に分類される。HMM330とコンテキスト解析340は、リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別している。ECG波形からAFIBを検出するために当技術分野で広く用いられる解析であるHMM330解析では、詳細パルス間隔312の分類の生成においてパルス間隔が、VS=極めて短い、S=短い、SS=若干短い、R=通常、SL=若干長い、L=長い及びVL=極めて長い、に分類される。HMM330解析を正確にするには、コンテキスト解析340と比べて間隔をより短くする必要があり、このHMM330解析の具体的内容は米国特許第6,937,887号で見ることができる。
【0028】
隠れマルコフモデルがECG波形からAFIBを検出することは当技術分野において周知であるが、本システム及び方法でのHMM330解析の利用はこれまでに企図されたことがない。HMM330解析は心臓リズムが不規則なリズムである確率を計算する一方、コンテキスト解析340はより多くの数のパルス間隔314を用いてAFIBを不規則性の発生源から除外している。コンテキスト解析340が利用するパルス間隔314はより多くの数となるが、間隔の分類はS=短いとL=長いだけである。繰り返しになるが、これらの2つの解析の結果は、工程370においてそのリズムの不規則性が不規則であるか否かを決定するのに寄与する。最後に、本明細書に記載した方法は図6に示したプロセッサなどの監視システム内のプロセッサで実行可能な1組のコンピュータコードとして具現化し得ることに留意すべきである。」

(10)図6の説明
図6


「【0029】
図6は、患者の指510に装着可能であると共に患者の指510からプレチスモグラフ波形を収集してそのレベルをプロセッサ560に送り、コンピュータ、ハンドへルド型デバイス、ラップトップなどの電子デバイス530上や当技術分野で周知の別の電子デバイス530上にプレチスモグラフ波形550を表示できるように構成した指プローブ520を含んだ本発明の検出システム500を表している。電子デバイス530は、患者や担当医、あるいは電子デバイスの別のユーザがディスプレイ540の操作、本方法からの出力の構成、あるいは警報の有効化または無効化を行えるように、キーボードなどの入力デバイス570を含む。本発明の方法を具現化しているコンピュータコードは記憶媒体580内に保存されており、またプロセッサ560はこのコードを実行するように構成されている。プロセッサ560はこのコードを実行しながら、検出方法100の記述に関して上述したような要因のすべてを考慮に入れると共に、患者がAFIB状態にあるか否かを決定する。さらに、AFIBレポート380及びトレンドレポート390を表示させることがある(540)。」

(11)本発明の効果の説明
「【0030】
本発明は、従来技術と比較して多くの利点を提供することができる。本発明は、コストが低下する(幾つかのECG電極及び/または電極接触ジェルが不要となる)こと、柔軟性が増大すること、複数のECG電極の使用が容易になること、セットアップ時間が短縮されること含み、また本システム及び方法はECGと比較してより利便性が高くかつ患者に対する実施がより容易であり、このことは患者コンプライアンスが増大することを意味する。患者コンプライアンスはまた収集時間がかなり短縮されるという意味で改良される共に、短期計測であることは、運動アーチファクトなど典型的ECGシステムをより不正確にさせる傾向があるようなの事柄をコンプライアンスのよい患者では最小化できることを意味する。
【0031】
本システム及び方法は主に、リアルタイム出力を不要とするように周期的評価ツールとすることを目的としており、またSPO2計測はすでに患者監視デバイスの共通要素であるため、本システムを実現するために追加的なハードウェアは必要でない。発生から48時間以内でのAFIBの検出によって電気除細動実施の機会が提供されるため、抗血栓薬治療に関する大きなコストや時間を要することがなく、これによって診療コストを低減しながら診療を向上させることができる。在宅監視を向上させるこの改良型のシステム及び方法によればさらに、ECG利用で実施されているような専門家によるセンサの装着を要することがなくなることによって、救急診療室への搬送が少なくなる一方、在宅看護や施設通院が減少する。」

(12)【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ECG波形とプレチスモグラフ波形のグラフ比較を表した図である。
【図2】ECG波形とプレチスモグラフ波形の別のグラフ比較を表した図である。
【図3】本発明の一実施形態による方法の流れ図である。
【図4A】本発明の一実施形態による方法のブロック図である。
【図4B】本発明の一実施形態による方法のブロック図である。
【図5A】本発明の一実施形態によるプレチスモグラフ・パルス振幅の傾斜プロフィールをグラフで表した図である。
【図5B】本発明の一実施形態によるプレチスモグラフ・パルス振幅の傾斜プロフィールをグラフで表した図である。
【図6】本発明の一実施形態によるシステムのブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
20 ECG波形
30 プレチスモグラフ波形
40 パルスの振幅
50 心室充填時間
300 プレチスモグラフ波形
310 パルス検出
312 パルス間隔計算
314 パルス間隔計算
320 パルスフィーチャ計測
330 隠れマルコフモデル(HMM)解析
340 コンテキスト解析
350 心房オーグメンテーション検出
360 振幅変動計算
370 心臓リズム不規則性決定
380 AFIBレポート
390 AFトレンドのレポート
400 充填時間動態
410 プレチスモグラフ・パルス振幅
420 心室充填時間
430 パルス振幅
440 振幅の傾斜
500 本発明の検出システム
510 患者の指
520 指プローブ
530 電子デバイス
540 ディスプレイ
550 プレチスモグラフ波形
560 プロセッサ
570 入力デバイス
580 記憶媒体


第4 特許法第36条第4項第1号の違反について
1 原査定における拒絶理由
(1)原査定(平成25年12月20日付けの拒絶査定)は、「この出願については、平成25年 4月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由4によって、拒絶をすべきものです。」としたものである。
そして、平成25年4月10日付け拒絶理由に記載した理由4は次のとおりである。

「 この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



請求項1には、”患者の心房細動状態を決定するために、・・・前記1組のパルス間隔内で前記パルス振幅の増加を解析する工程”なる記載がある。

これに対して、本願明細書には、”プレスチモグラフ波形から検出したパルス間隔と振幅とを用いて、HMM解析、コンテキスト解析、心房オオーグメンテーション検出、振幅変動計算の各処理により、AFIBにあるか否かを決定する”旨の記載はある(【0017】?【0029】、【図4A】、【図4B】)ものの、以下に列挙する事項が記載されていない。

・HMM解析、コンテキスト解析、心房オーグメンテーション検出、振幅変動計算の各処理結果がどの様なもの(数値、論理値、等)であり、かつ、それらをどの様に組み合わせて、”AFIBにあるか否かを決定する”かが、依然として、明細書には記載されていない。
特にHMM解析の結果は、コンテキスト解析によってAFIBの影響を除外して得られるものであり(【0028】、【請求項5】)、この結果が、AFIBの検出にどの様に用いられるかが不明である。
なお、この点に関して、本願明細書には、”検出方法100の記述に関して上述したような要因の全てを考慮に入れると共に、患者がAFIB状態にあるか否かを決定する”(【0029】)なる記載があるのみである。
この点に関し、出願人は意見書にて、各個別手法を用いたAFIBの検出が当業者にとって明確である旨主張している。しかしながら、それが明確であったとしても、各手法の結果をどの様に組み合わせて、”AFIBにあるか否かを決定する”かが、不明であることに変わりはない。


・心拍細動、および、心房オーグメンテーション検出の具体的な手法が、明細書に記載されていない。
この点に関して、本願明細書の【0025】に関連する記載がある。しかしながら、当該記載における”パルス波高がより狭い心拍動間隔の増加の関数として増加する”なる記載、および、”充填時間外挿にわたるパルス増大として認識される”なる記載の意味が日本語として不明である。
出願には意見書にて、当該記載が当業者に明確であると主張しているが、その根拠がない。なお、当該記載は日本語の文章として成立していないが、以下に、不明瞭とされる代表的な点を例示しておく。

[”パルス波高がより狭い心拍動間隔の増加の関数として増加する”なる記載について]
1)”より狭い心拍動間隔”が、何と比べて狭いことを意味するかが不明
2)「パルス波高」が、「心拍動間隔」ではなく、「心拍動間隔の増加」の関数であることは、【図5】の記載と反しており、その意味が不明
3)”関数として増加する”なる記載の意味が不明

[”充填時間外挿にわたるパルス増大として認識される”なる記載について]
1)「充填時間外挿」の意味が不明
2)「パルス増大」の定義が不明
3)【図5】によれば、心拍オーグメンテーションの有無にかかわらず、心拍動間隔tの増加に伴って、振幅Aは増大しているものである。そのため、通常の意味での”充填時間外挿にわたるパルス増大”は、心拍オーグメンテーションの有無にかかわらず存在しているから、それを用いて心拍オーグメンテーションの有無を判断することはできないと解される。


・心拍オーグメンテーションの検出に用いられる”心房充填時間”(【0019】)を求める手法が、本願明細書に記載されていない。
出願人は意見書にて、当該手法が周知である旨主張しているが、その根拠がない。なお、当該手法が周知なのであれば、例えば、本願発明にて用いられている手法を意見書等にて例示されたい。

よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

(2)また、原査定においては、備考欄に
「(理由4について)
請求項1には、”患者の心房細動状態を決定するために、・・・前記パルス振幅の増加パターンを解析する工程”なる記載がある。

これに対して、本願明細書には、”プレスチモグラフ波形から検出したパルス間隔と振幅とを用いて、HMM解析、コンテキスト解析、心房オーグメンテーション検出、振幅変動計算の各処理により、AFIBにあるか否かを決定する”旨の記載はある(【0017】?【0029】、【図4A】、【図4B】)ものの、以下に(1)?(2)として列挙する事項が、依然として記載されていない。

(1)HMM解析、コンテキスト解析、心房オーグメンテーション検出、振幅変動計算の各処理結果がどの様なもの(数値、論理値、等)であり、かつ、それらをどの様に組み合わせて、”AFIBにあるか否かを決定する”かが、依然として、明細書には記載されていない。

この点に関して、意見書における主張を勘案するに、以下の事項は明細書に記載されているものと認められる。

・HMM解析の処理結果が”心臓リズムが不規則なリズムである確率”であること(【0028】)。
・コンテキスト解析が、”AFIBを不規則性の発生源から除外”するものであること(【0028】)、および、その処理結果が”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”することに用いられること(【0027】)。
・心房オーグメンテーション検出の処理結果が、心房オーグメンテーションの有無であり(【0019】?【0025】)、心房細動の間、心房オーグメンテーションが喪失すること(【0020】)。
・振幅変動計算の処理結果が、”心臓がどのように動いているかに関する指示”、および、”連続パルスのタイプや規則性”であること(【0018】)。


しかしながら、以下の点については、依然として、本願明細書に記載されていない。

・HMM解析の処理結果である”心臓リズムが不規則なリズムである確率”を、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。
この点につき、出願人は意見書にて、明細書【0020】の記載を根拠として”リズムの不規則性が規則的に発生しているのか不規則に発生しているのかを判別することにより、心房細動の検出の確率を向上させることができます”と主張している。しかし、【0020】には、「心室性期外収縮」、「心房性期外収縮」に関する記載はあるものの、「心房細動」に関する記載はない。
また、技術常識を参酌しても、”リズムの不規則性が規則的に発生しているのか不規則に発生しているのかを判別すること”と、”心房細動の検出の確率”との関係が不明である。

・コンテキスト解析により、”AFIBを不規則性の発生源から除外”した結果が、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”する際に、どの様に用いられるかが不明である。
また、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”した結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。

・振幅変動計算の処理結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。

・上記各処理の処理結果を組み合わせて、AFIBにあるか否かを決定する手法が不明である。
なお、この点に関して、本願明細書には、”HMM330、コンテキスト解析340、心房オーグメンテーション検出350、及び振幅変動計算360の結果が評価されて心臓のリズムが不規則であるか否かが決定される”(【0026】)なる記載、および、”検出方法100の記述に関して上述したような要因の全てを考慮に入れると共に、患者がAFIB状態にあるか否かを決定する”(【0029】)なる記載があるのみである。
また、意見書においても、何ら説明がなされていない。


(2)心房オーグメンテーション検出の具体的な手法が、明細書に記載されていない。
この点に関して、本願明細書の【0025】に関連する記載がある。しかしながら、当該段落における”パルス波高の程度が心拍動間隔の関数として増加する”なる記載において、”関数として増大する”なる記載の意味が不明であるから、当該記載の意味を理解することができない。


よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


(付記)
(1)請求項1には、”前記時間期間内でのパルス振幅の増加のパターン”なる記載があるが、当該”増加”が、どの様な量に伴う”増加”を意味すう(当審注:「意味する」の誤記であると認める。)かが不明である。
一般的には、実時間に伴う”増加”であると解されるが、本願明細書には、”心房の充填時間の増加”に伴う”増加”(【0019】、【図5A】、【図5B】参照)についての事例が記載されているのみである。

(2)請求項5の”前記コンテキスト解析をじによって”なる記載の意味が不明である。」

2 審判請求人の主張
(1)これに対して、平成26年3月13日付で提出された審判請求書の請求理由において、審判請求人(出願人)は、次の主張をしている。

「 理由4について
(1-1)上記拒絶査定に際し「HMM解析の処理結果である”心臓リズムが不規則なリズムである確率”を、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。」、「この点につき、出願人は意見書にて、明細書[0020]の記載を根拠として”リズムの不規則性が規則的に発生しているのか不規則に発生しているのかを判別することにより、心房細動の検出の確率を向上させることができます”と主張している。しかし、[0020]には、「心室性期外収縮」、「心房性期外収縮」に関する記載はあるものの、「心房細動」に関する記載はない。」、「また、技術常識を参酌しても、”リズムの不規則性が規則的に発生しているのか不規則に発生しているのかを判別すること”と、”心房細動の検出の確率”との関係が不明である。」とのご指摘がありました。
しかし、ご指摘の点は明らかであると思料いたします。
すなわち、本願明細書第0013?0015段落に記載され、図2において説明されておりますように、間隔RRの長短が、心臓の左室内の充填時間及び、左心室からの排出量に影響し、このため、プレチスモグラフ波形のパルスの振幅は一般的に、先行するRR間隔の長さが影響します。
しかし、本願明細書第0020、0023段落に記載されておりますように、プレチスモグラフ波形のパルスの振幅は、心臓の左室の拡張と収縮だけではなく(肺からの血液を左心室に送る)心房が機能しているか否かが影響します。
そして同段落に記載されておりますように、(肺からの血液を左心室に送る)心房の機能が心房細動の間は低下又は喪失します。
本願明細書第0024段落に記載されておりますように、充填時間が短い心拍に対応するプレチスモグラフ波形のパルスの振幅は、心房が機能しているか否かの影響を大きく受けず(心房オーグメンテーションの利益を有することがなく)、心房が良好に機能していてもしていなくても図5A、図5Bのように、心房キックによる影響が大きく現れる前に血液の排出が行われますので、プレチスモグラフ波形のパルスの振幅は、充填時間に比例した値となります。
これに対し、図5A、5Bに示され、本願明細書第0024、0025段落に記載されておりますように、充填時間が長い心拍では、心房が機能している場合には心房キックによる影響が現れ、心房が機能していない場合には心房キックによる影響が現れないという差異が出現します。
このため、心室充填時間に対するパルス振幅(430)の増加のパターンを解析することにより、患者の心房細動状態を決定することが可能になります。

(1-2)上記拒絶査定に際し「コンテキスト解析により、”AFIBを不規則性の発生源から除外”した結果が、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”する際に、どの様に用いられるかが不明である。」、「また、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”した結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。」とのご指摘がありました。
しかし、かかる事項も本願の発明の詳細な説明及び本願の出願時における技術常識から当業者には明らかであると思料いたします。
すなわち、本願明細書第0003段落に「AFIBは、不規則な心臓リズムによって特定されると共に、臨床的には心房の非協調性の収縮と定義される。」と説明されておりますように、AFIBは、不規則な心臓リズムをもたらします。
そして、本願明細書第0026段落に「図4Aに戻ると、HMM330、コンテキスト解析340、心房オーグメンテーション検出350、及び振幅変動計算360の結果が評価されて心臓のリズムが不規則であるか否かが決定される(370)。患者がAFIB状態にあるか否かによらず、工程380においてAFIBがレポートされ、そのプレチスモグラフを収集した時間期間中のAFのトレンドがレポートされる(390)」と説明されておりますように、当該実施例では、AFIBによる不規則性を除外して、そもそもその患者が不規則な心臓リズムを持つ者であるかを判明することができます。

(1-3)上記拒絶査定に際し「振幅変動計算の処理結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。」とのご指摘がありましたが、(1-1)においてご説明いたしましたように、幅変動計算の処理結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかは明確であると思料いたします。

(1-4)上記拒絶査定に際し「上記各処理の処理結果を組み合わせて、AFIBにあるか否かを決定する手法が不明である。」とのご指摘がありましたが、(1-1)においてご説明いたしましたように、AFIBにあるか否かを決定する手法は明確であると思料いたします。

(2)上記拒絶査定に際し「心房オーグメンテーション検出の具体的な手法が、明細書に記載されていない。」、「この点に関して、本願明細書の[0025]に関連する記載がある。しかしながら、当該段落における”パルス波高の程度が心拍動間隔の関数として増加する”なる記載において、”関数として増大する”なる記載の意味が不明であるから、当該記載の意味を理解することができない。」とのご指摘がありました。
しかし、(1-1)においてご説明いたしましたように、心房オーグメンテーション検出の具体的な手法は、本願の明細書に記載されていると思料いたします。
また、心房オーグメンテーションが大きな影響を及ぼしていない時点における心室充填時間に対するパルス振幅の増加のパターンに対し、どのような関数を適用することができるかは当業者が適宜設定できる事項であり、第0025段落のご指摘のありました記載の内容も当業者に明確に理解できる者であると思料いたします。

付記された事項について
(1)上記拒絶査定に際し「請求項1には、”前記時間期間内でのパルス振幅の増加のパターン”なる記載があるが、当該”増加”が、どの様な量に伴う”増加”を意味すうかが不明である。」、「一般的には、実時間に伴う”増加”であると解されるが、本願明細書には、”心房の充填時間の増加”に伴う”増加”( 【0019】 、【図5A】 、【図5B】参照)についての事例が記載されているのみである。」とのご指摘がありました。
しかし、当該審判請求書と同時に提出いたしました手続補正書に記載されておりますように、補正後の請求項1は、「前記心室充填時間の増加に伴う前記パルス振幅(430)の増加のパターン」との記載を含んでおりますので、補正後の特許請求の範囲の記載はご指摘の対象となるものではないと思料いたします。
なお、かかる補正は、上記ご指摘に対応するものであり、少なくとも不明瞭記載の釈明又は発明特定事項の限定的減縮に該当する補正であると思料いたします。

(2)上記拒絶査定に際し「請求項5の”前記コンテキスト解析をじによって”なる記載の意味が不明である。」とのご指摘がありました。
しかし、上記手続補正書に記載されておりますように、ご指摘の記載は「前記コンテキスト解析によって」と補正されておりますので、補正後の特許請求の範囲の記載はご指摘の対象となるものではないと思料いたします。
なお、かかる補正は、上記ご指摘に対応するものであり、少なくとも誤記の訂正に該当する補正であると思料いたします。 」

3 当審の判断
(1)請求人の主張(1-1)上記拒絶査定に際し「HMM解析の処理結果である”心臓リズムが不規則なリズムである確率”(【0028】参照)を、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。」について

隠れマルコフモデル(HMM)330解析については、上記第4の「本願明細書の記載」で(2)【課題を解決するための手段】の【0008】、【0010】と、(6)図4の説明の【0017】と、(8)心臓のリズムが不規則であるか否かが決定されること説明の【0026】と、(9)HMM330及びコンテキスト解析340についてさらに詳細な説明の【0027】、【0028】に記載されており、「隠れマルコフモデル解析は患者が不規則心臓リズムを有する確率を決定して」いることは記載されているといえたとしても、その決定した確率をどのように用いるかは記載されていない。また、この点が技術常識であるともいえない。
さらに、請求人の「このため、心室充填時間に対するパルス振幅(430)の増加のパターンを解析することにより、患者の心房細動状態を決定することが可能になります。」との主張は、上記「HMM解析の処理結果である”心臓リズムが不規則なリズムである確率”を、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるか」の具体的な説明とはなっていない。
したがって、HMM解析の処理結果である”心臓リズムが不規則なリズムである確率”を、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかは、本願明細書に当業者がその実施をする程度に明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。

(2)請求人の主張(1-2)上記拒絶査定に際し「コンテキスト解析により、”AFIBを不規則性の発生源から除外”した結果(【0028】)が、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”する(【0027】)際に、どの様に用いられるかが不明である。」、「また、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”した結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。」について

コンテキスト解析340については、上記第4の「本願明細書の記載」で(2)【課題を解決するための手段】の【0008】、【0010】と、(6)図4の説明の【0017】と、(8)心臓のリズムが不規則であるか否かが決定されること説明の【0026】と、(9)HMM330及びコンテキスト解析340についてのさらに詳細な説明の【0027】、【0028】に記載されており、「該コンテキスト解析は心房細動を不規則心臓リズムの発生源から除外する」ことは記載されているといえたとしても、具体的にどのように除外するか、また、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”した結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いられるかは記載されていない。また、この点が技術常識であるともいえない。
さらに、請求人の「本願明細書第0026段落に「図4Aに戻ると、HMM330、コンテキスト解析340、心房オーグメンテーション検出350、及び振幅変動計算360の結果が評価されて心臓のリズムが不規則であるか否かが決定される(370)。患者がAFIB状態にあるか否かによらず、工程380においてAFIBがレポートされ、そのプレチスモグラフを収集した時間期間中のAFのトレンドがレポートされる(390)」と説明されておりますように、当該実施例では、AFIBによる不規則性を除外して、そもそもその患者が不規則な心臓リズムを持つ者であるかを判明することができます。」との主張は、そもそも、上記【0027】の「リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別」するとは意味が不明で、何をどのような観点からどのように識別するのかについて、当業者にとって明らかでないのであるから、上記「コンテキスト解析により、”AFIBを不規則性の発生源から除外”した結果が、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”する際に、どの様に用いられるかが不明である。」、「また、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”した結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。」の具体的な説明とはなっていない。
したがって、コンテキスト解析を用いて、どのように”AFIBを不規則性の発生源から除外”するのかは、本願明細書に当業者がその実施をする程度に明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。
さらに、”リズムの不規則性が不規則か規則正しいかを識別”した結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかも、本願明細書に当業者がその実施をする程度に明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。

(3)請求人の主張(1-3)上記拒絶査定に際し「振幅変動計算の処理結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかが不明である。」について

振幅変動計算については、上記第4の「本願明細書の記載」で(2)【課題を解決するための手段】の【0009】、【0011】と、(6)図4の説明の【0018】、【0019】と、(8)心臓のリズムが不規則であるか否かが決定されること説明の【0026】に記載されており、「心房細動状態決定はパルス振幅変動の解析に依存して」いることは記載されているといえたとしても、具体的にどの様に用いるかは記載されていない。また、この点が技術常識であるともいえない。
さらに、請求人は「(1-1)においてご説明いたしましたように、幅変動計算の処理結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるかは明確であると思料いたします。」と主張するが、(1-1)(上記2 審判請求人の主張(1) 理由4について(1-1)参照)には振幅変動計算の具体例の記載もなく、「振幅変動計算の処理結果が、AFIBにあるか否かの決定において、どの様に用いるか」については記載されていない。
したがって、振幅変動計算を用いて、どのように”AFIBにあるか否かの決定するかは、本願明細書に当業者がその実施をする程度に明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。

(4)請求人の主張(1-4)上記拒絶査定に際し「上記各処理の処理結果を組み合わせて、AFIBにあるか否かを決定する手法が不明である。」について

上記各処理の処理結果を組み合わせて、AFIBにあるか否かを決定する手法については、上記第4の「本願明細書の記載」で(6)図4の説明の図4、(8)心臓のリズムが不規則であるか否かが決定されること説明の【0026】と、(9)HMM330及びコンテキスト解析340についてさらに詳細な説明の【0029】に記載されており、「HMM330、コンテキスト解析340、心房オーグメンテーション検出350、及び振幅変動計算360の結果が評価されて心臓のリズムが不規則であるか否かが決定される(370)」とは記載されているが、具体的にどの様に評価し、決定するのかは記載されていない。また、この点が技術常識であるともいえない。
次に、請求人は「(1-1)においてご説明いたしましたように、AFIBにあるか否かを決定する手法は明確であると思料いたします。」と主張するが、請求人の(1-1)での「本願明細書第0024段落に記載されておりますように、充填時間が短い心拍に対応するプレチスモグラフ波形のパルスの振幅は、心房が機能しているか否かの影響を大きく受けず(心房オーグメンテーションの利益を有することがなく)、心房が良好に機能していてもしていなくても図5A、図5Bのように、心房キックによる影響が大きく現れる前に血液の排出が行われますので、プレチスモグラフ波形のパルスの振幅は、充填時間に比例した値となります。
これに対し、図5A、5Bに示され、本願明細書第0024、0025段落に記載されておりますように、充填時間が長い心拍では、心房が機能している場合には心房キックによる影響が現れ、心房が機能していない場合には心房キックによる影響が現れないという差異が出現します。
このため、心室充填時間に対するパルス振幅(430)の増加のパターンを解析することにより、患者の心房細動状態を決定することが可能になります。」との主張を検討する。
該主張の根拠とされた本願明細書【0024】、【0025】は「(7)心房オーグメンテーション検出の説明」中にあり、「充填時間」が記載された【0025】には、「充填時間の関数としたパルス波高の外挿が可能となる。波高対充填時間の関数は線形でないことがあり、したがってその外挿はより込み入った関数となることがある。しかしオーグメンテーションは依然として、充填時間外挿にわたるパルス増大として認識される。」と記載されており、【0023】の「図5Aは、パルス振幅が充填時間に伴って増大することを実証するために波形を重ね合わせて表している。」との記載と図5Aとともに考えても「充填時間」は波形を切り取って最初のパルスを原点位置に置いて、時間と波形の関係を重ね合わせたものから読み取れるもので、パルス間隔と類似のものであるとは思われるが、心室充填時間420を含め、波形の具体的な切り取り方や並べ方の記載がないので、「充填時間」の求め方が分からない。
そうすると「充填時間」と「パルス間隔」の区別やそれぞれの使い分け方については記載されていないというべきである。
さらに、「充填時間」は「オーグメンテーション」の説明のために用いられており、「充填時間の関数としたパルス波高」との記載において「充填時間」の定義もないし、「関数」がいかなるものであるかも記載されていない。さらに「オーグメンテーション」を用いた「AFIBにあるか否かを決定する手法」も記載されていない。
その上、請求人の「(1-1)での「このため、心室充填時間に対するパルス振幅(430)の増加のパターンを解析することにより、患者の心房細動状態を決定することが可能になります。」との記載は「上記各処理の処理結果を組み合わせて、AFIBにあるか否かを決定する手法」についての説明とはなっていない。
したがって、上記各処理の処理結果を組み合わせて、AFIBにあるか否かを決定する手法は、本願明細書に当業者がその実施をする程度に明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。

(5)審判請求時に補正された本願発明1についてのさらなる検討
本願発明1の、「前記プレチスモグラフ波形から複数のパルス間隔及び心室充填時間を計測する工程(130)と、
前記複数のパルス間隔を含む時間期間にわたって、前記プレチスモグラフ波形のパルス振幅(430)及び、各パルス振幅に対応する心室充填時間を計測する工程(135)」行程で計測する「パルス間隔」、「パルス振幅(430)及び、各パルス振幅に対応する心室充填時間」のうち「心室充填時間」について「心房細動を検出する方法」について、どのように用いているのか明細書の記載を確認する。
上記第4の「本願明細書の記載」で
「(3)図1の説明」に「【0012】・・・以下で検討するように、プレチスモグラフ波形30を用いてAFIBを検出するためには、プレチスモグラフ波形30の数多くの様相を検査することになる。パルス検出が利用されると共に、隠れマルコフモデル(HMM)法及びコンテキスト解析を用いてパルス間隔が解析される。さらに、各パルスの振幅40が計測されて解析されることになり、またプレチスモグラフ波形の各パルス間での心室充填時間50も同様である。」と「パルス振幅」、「充填時間」、「パルス間隔」が記載されている。
「(4)図2の説明」の記載された【0013】、【0014】には、「パルス振幅」と心臓の左室内の「充填時間」が記載されているが、「パルス間隔」との記載はない。
検出方法100を表している図3及び図4に関し「(5)図3の説明」の記載された【0016】及び「(6)図4の説明」の記載された【0017】、【0018】には、「パルス間隔」が記載されているが、「パルス振幅」も「充填時間」も記載されていない。
「(7)心房オーグメンテーション検出の説明」の記載された【0019】?【0025】には、「パルス振幅」と「充填時間」が記載されているが、「パルス間隔」との記載はない。
「(8)心臓のリズムが不規則であるか否かが決定されることの説明」の記載された【0026】には、「パルス振幅」、「充填時間」、「パルス間隔」の何れの記載もなく、
「(9)HMM330及びコンテキスト解析340についてのさらなる詳細な説明」の記載された【0027】、【0028】には「パルス間隔」が記載されているが、「パルス振幅」も「充填時間」も記載されていない。
以上の記載より「充填時間」と「パルス間隔」の区別やそれぞれの使い分け方については記載されていないというべきであり、上記(4)の「「充填時間」の求め方が分からない。」こととあわせると、本願明細書には「心室充填時間」について「心房細動を検出する方法」について、どのように用いているのか記載されていない。

(6)まとめ
上記(1)?(5)より、本願発明の全体像が記載された図4Aにおいて「HMM330」、「コンテキスト解析340」、「心房オーグメンテーション検出350」、「振幅変動計算360」の各々はどのように使われ、これらをどのように組み合わせてどのように心房細動の検出を判別するのかについては、明細書には記載されていないし、また、この点が技術常識であるともいえない。
したがって、本願明細書は、本願発明を当業者がその実施をする程度に明確かつ十分に記載されているものであるとはいえない。

第5 まとめ
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項の規定に違反しており、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-13 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-08 
出願番号 特願2007-111261(P2007-111261)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五閑 統一郎  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 信田 昌男
平田 佳規
発明の名称 SPO2を用いた心房細動検出  
代理人 黒川 俊久  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  

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