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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1307153
審判番号 不服2014-1886  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-03 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2010-539728「電気機器の線材巻線を固定する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/079542、平成23年 3月31日国内公表、特表2011-510482〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年12月17日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 平成19年12月18日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成25年2月19日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年9月2日付けで手続補正がなされたが、同年9月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年2月3日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされた。
その後、当審による平成26年9月22日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成27年3月24日付けで誤訳訂正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年3月24日付け誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
電気機器の線材巻線を含浸組成物で固定する方法であって、
a)前記組成物を、浸漬含浸、フローコーティング、真空含浸、真空圧含浸、または滴下含浸によって前記線材巻線に含浸させる工程であって、前記組成物は、
(A)OH、NHR、SH、カルボキシレート、およびCH酸性基からなる群から選択される求核基を有する少なくとも1種の樹脂5?95重量%と、
(B)少なくとも1種のアミド基含有樹脂0?70重量%と、
(C)少なくとも1種の有機溶媒および/または水0?95重量%と、
を含み、
ここで成分(A)および/または成分(B)の樹脂は、α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含み、重量%は、コーティング組成物の全重量に基づく、工程と、
b)含浸させた含浸組成物を硬化する工程と
を含む方法。」

3.引用例
これに対して、当審が通知した拒絶の理由に引用された国際公開第2007/019434号(以下、「引用例」という。)には、「WIRE-COATING COMPOSITION BASED ON NEW POLYESTER AMIDE IMIDES AND POLYESTER AMIDES」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、引用例である国際公開第2007/019434号は、国内段階において公表された特表2009-504845号公報の記載を翻訳文として付記する。また、下線は当審で付与した。)。
(1)「1. A wire-coating composition based on resins with nucleophilic groups comprising
(A) 5 to 95% by weight of at least one resin with nucleophilic groups selected from the group consisting of OH, NHR, SH, carboxylate and CH-acidic groups,
(B) 0 to 70% by weight of at least one amide group-containing resin and
(C) 5 to 95% by weight of at least one organic solvent, wherein the resins of either component (A) or component (B) contain α-carboxy-β-oxocycloalkyl carboxylic acid amide groups, and the percent of by weight of (A) - (C) adds up to 100 percent.」(30頁3?13行)
(【請求項1】
求核基を有する樹脂をベースとする電線被覆用組成物であって、
(A)OH、NHR、SH、カルボキシレート、およびCH-酸性基からなる群から選択された求核基を有する少なくとも1種の樹脂5?95重量%と、
(B)少なくとも1種のアミド基を含む樹脂0?70重量%と、
(C)少なくとも1種の有機溶媒5?95重量%と
を含み、
成分(A)または成分(B)の樹脂が、α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含み、(A)?(C)の重量パーセントが合計100パーセントになる組成物。)

(2)「9. A process of coating electrically conductive wires comprising the steps of applying the composition according to claim 1 and curing said coating composition at an elevated temperature to produce a cured coating.」(32頁3?6行)
(【請求項9】
導電性電線を被覆する方法であって、請求項1に記載の組成物を塗布するステップと、前記被覆用組成物を高温で硬化して、硬化被覆を生成するステップとを含む方法。)

(3)「The present invention relates to a new wire-coating composition based on new polyester amide imides and polyester amides which provides excellent enamelled surfaces of electrically conductive wires at elevated enamelling speeds, and is useful for coating of electric conductors.」(1頁10?14行目)
(本発明は、高速なエナメル化速度において導電性電線の優れたエナメル表面をもたらし、導電体を被覆するのに有用である、新規ポリエステルアミドイミドおよびポリエステルアミドをベースとする新規電線被覆用組成物に関する。)

(4)「・・The enamels according to the invention surprisingly also have better adhesion and better mechanical properties than those of the prior art.」(3頁25?27行)
(・・驚くべきことに、本発明によるエナメルは、従来技術のものより良好な接着性および良好な機械的諸特性も有する。)

(5)「The amide-containing resins of component B) contain α-carboxy-β- oxocycloalkyl carboxylic acid amide groups as a component which is instrumental to the invention. The α-carboxy-β-oxocycloalkyl carboxylic acid amide groups are preferably incorporated in a terminal position.・・」(6頁5?8行)
(成分(B)のアミドを含む樹脂は、本発明に役立つ成分としてα-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含む。α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基は、好ましくは末端部位に組み込まれている。・・)

(6)「The α-carboxy-β-oxocycloalkyl carboxylic acid amide groups may also be incorporated directly into component A). This can be achieved, for example, by reaction of the resin of component A) with di- or polyisocyanates and at least one carboxy-β-oxocycloalkane.」(8頁3?6行)
(α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を、成分(A)に直接組み込むこともできる。これは、例えば成分(A)の樹脂とジ-またはポリイソシアナートおよび少なくとも1つのカルボキシ-β-オキソシクロアルカンの反応によって実現することができる。)

・上記引用例に記載の「WIRE-COATING COMPOSITION BASED ON NEW POLYESTER AMIDE IMIDES AND POLYESTER AMIDES」(新規ポリエステルアミドイミド及びポリエステルアミドをベースとする電線被覆用組成物)は、上記(3)の記載事項によれば、導電性電線を被覆するためのポリエステルアミドイミドやポリエステルアミドをベースとする被覆用組成物に関し、
・具体的には、上記(1)の記載事項によれば、
(A)OH、NHR、SH、カルボキシレート、およびCH-酸性基からなる群から選択された求核基を有する少なくとも1種の樹脂5?95重量%と、
(B)少なくとも1種のアミド基を含む樹脂0?70重量%と、
(C)少なくとも1種の有機溶媒5?95重量%と、を含み、(A)?(C)の重量パーセントが合計100パーセントになる組成物であり、
・さらに、上記(1)、(5)、(6)の記載事項によれば、成分(A)または成分(B)の樹脂が、α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含むものである。
・上記(2)の記載事項によれば、かかる組成物を用いて導電性電線を被覆する方法として、上記組成物を導電性電線に塗布するステップと、塗布した当該組成物を高温で硬化して、硬化被覆を生成するステップとを含むものである。

したがって、上記組成物を用いて導電性電線を被覆する方法(上記(2)を参照)に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「導電性電線をポリエステルアミドイミドやポリエステルアミドをベースとする被覆用組成物で被覆する方法であって、
前記被覆用組成物は、
(A)OH、NHR、SH、カルボキシレート、およびCH-酸性基からなる群から選択された求核基を有する少なくとも1種の樹脂5?95重量%と、
(B)少なくとも1種のアミド基を含む樹脂0?70重量%と、
(C)少なくとも1種の有機溶媒5?95重量%と、を含み、(A)?(C)の重量パーセントが合計100パーセントになる組成物であり、
成分(A)または成分(B)の樹脂が、α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含み、
前記被覆用組成物を導電性電線に塗布するステップと、
塗布した当該組成物を高温で硬化して、硬化被覆を生成するステップとを含む方法。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「導電性電線をポリエステルアミドイミドやポリエステルアミドをベースとする被覆用組成物で被覆する方法であって」によれば、
引用発明における「導電性電線」と本願発明における「線材巻線」とは、ともに「線材」である点で共通し、
また、本願発明における、線材巻線を「含浸組成物で固定する」ことは、上位概念でみれば線材巻線を[被覆]組成物で[被覆]することであるといえるから、
本願発明と引用発明とは、後述の相違点はあるものの「線材を[被覆]組成物で[被覆]する方法であって」の点で共通するということができる。

(2)また、引用発明における「前記被覆用組成物を導電性電線に塗布するステップと」によれば、
本願発明と引用発明とは、後述の相違点を除いて「a)前記組成物を、前記線材に[被覆]させる工程」を含むものである点で共通するといえる。

(3)引用発明における「前記被覆用組成物は、(A)OH、NHR、SH、カルボキシレート、およびCH-酸性基からなる群から選択された求核基を有する少なくとも1種の樹脂5?95重量%と、(B)少なくとも1種のアミド基を含む樹脂0?70重量%と、(C)少なくとも1種の有機溶媒5?95重量%と、を含み、(A)?(C)の重量パーセントが合計100パーセントになる組成物であり、成分(A)または成分(B)の樹脂が、α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含み」によれば、
引用発明の「被覆用組成物」のうち、(A)と(B)については本願発明と完全に一致し、(C)については本願発明の範囲に完全に含まれ、「少なくとも1種の有機溶媒5?95重量%」である点で一致する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記組成物は、(A)OH、NHR、SH、カルボキシレート、およびCH酸性基からなる群から選択される求核基を有する少なくとも1種の樹脂5?95重量%と、(B)少なくとも1種のアミド基含有樹脂0?70重量%と、(C)少なくとも1種の有機溶媒5?95重量%と、を含み、ここで成分(A)および/または成分(B)の樹脂は、α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含み、重量%は、コーティング組成物の全重量に基づく」ものである点で一致する。

(4)引用発明における「塗布した当該組成物を高温で硬化して、硬化被覆を生成するステップとを含む・・」によれば、
本願発明と引用発明とは、後述の相違点はあるものの「b)[被覆]させた[被覆]組成物を硬化する工程」を含むものである点で共通するといえる。

よって、本願発明と引用発明とは、
「線材を[被覆]組成物で[被覆]する方法であって、
a)前記組成物を、前記線材に[被覆]させる工程であって、前記組成物は、
(A)OH、NHR、SH、カルボキシレート、およびCH酸性基からなる群から選択される求核基を有する少なくとも1種の樹脂5?95重量%と、
(B)少なくとも1種のアミド基含有樹脂0?70重量%と、
(C)少なくとも1種の有機溶媒5?95重量%と、
を含み、
ここで成分(A)および/または成分(B)の樹脂は、α-カルボキシ-β-オキソシクロアルキルカルボン酸アミド基を含み、重量%は、コーティング組成物の全重量に基づく、工程と、
b)[被覆]させた[被覆]組成物を硬化する工程と
を含む方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
[被覆]組成物について、本願発明では「電気機器の線材巻線を含浸」して「固定する」ためのものであり、その含浸させる工程が「浸漬含浸、フローティング、真空含浸、真空圧含浸、または滴下含浸」によってなされる旨特定するのに対し、引用発明では導電性電線に塗布して被覆するためのものであり、そのような特定を有していない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
例えば当審が通知した拒絶の理由に引用された特公平2-7337号公報(2頁右欄34?36行、4頁左欄7?12行を参照)や、さらには特開平5-105844号公報(段落【0023】、【0039】?【0045】を参照)に記載されているように、樹脂を主成分とする絶縁性の被覆組成物を、導電電線(銅針金)の被覆用だけでなくコイルの含浸用としても用いることはごく普通に行われることであるところ、引用発明における被覆組成物においても当然、樹脂を主成分とする絶縁性のものであり(特に上記特開平5-105844号公報に記載の被覆組成物とベースとなる樹脂も共通しているといえる)、加えて引用例には、良好な接着性および良好な機械的諸特性を有することも記載(上記「3.(4)を参照」)されていることから、その用途として、単に導電性電線に塗布して被覆するために用いることに代えて、コイル(線材巻線)の含浸に用いてこれを固定するためのものとすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。
そしてその際、被覆(含浸)組成物を含浸させる方法として、例えば当審が通知した拒絶の理由に引用された特公平5-4965号公報(3頁右欄41行?4頁左欄41行を参照)や同じく当審が通知した拒絶の理由に引用された特開平5-501734号公報(4頁右下欄9行?末行)に記載されているように、浸漬含浸、真空含浸、滴下含浸等の周知の含浸方法を採用することも当業者が適宜なし得ることである。

よって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-04 
結審通知日 2015-06-08 
審決日 2015-06-19 
出願番号 特願2010-539728(P2010-539728)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 健一  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 電気機器の線材巻線を固定する方法  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 辻居 幸一  
代理人 田代 玄  
代理人 浅井 賢治  
代理人 市川 さつき  

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