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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1307178
審判番号 不服2014-16965  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-27 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2013- 4756「解析方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 84007〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年(平成17年)11月28日(優先権主張 2004年(平成16年)11月26日、2005年(平成17年)9月14日、日本)を国際出願日とする特願2006-547919号の一部を平成25年1月15日に新たな特許出願としたものであって、同年2月14日に手続補正がなされ、平成26年2月24日付けの拒絶理由の通知に対し、同年5月7日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月27日に審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年8月27日付けの手続補正書によりなされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年8月27日付けの手続補正書によりなされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正は、本件補正前の請求項6のうち同請求項5を引用する部分を独立形式で書き下した、
「ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法において、
開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である対物レンズを含む光学系により前記発光細胞からの発光を集光しながら撮像を行う発光細胞撮像方法により撮像されて得られた画像をもとに、前記ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を解析することを特徴とする解析方法。」
を、
本件補正後の請求項5である、
「開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である対物レンズを含む光学系によりルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞からの発光を遮光状態で集光し撮像を行うことにより得られた画像をもとに、前記ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を解析することを特徴とする解析方法。」
へと補正することを含むものである(下線は補正箇所として請求人が付したもの。)。

(2)本件補正のうち、上記(1)に係る補正は、以下の内容からなるといえる。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項5を削除し、それに伴い、同請求項6のうち同請求項5を引用する部分を独立形式で書き下したものを新たな請求項5とする補正。

イ 本件補正前の請求項6のうち同請求項5を引用する部分を独立形式で書き下したものから、
(ア)「ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法において、」との記載を削除し、
(イ)「前記発光細胞」を「ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞」に変更し、
(ウ)「発光を集光しながら撮像を行う発光細胞撮像方法により撮像されて得られた画像」を「発光を」「集光し撮像を行うことにより得られた画像」に変更する補正。

ウ 本件補正前の請求項6のうち同請求項5を引用する部分を独立形式で書き下したものを特定するために必要な事項である「集光」かつ「撮像」について、「遮光状態」で行うとの限定を付加する補正。

(3)上記(2)の各補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(4)上記(2)の補正の目的は次のとおりである。
ア 上記(2)アの補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものである。

イ 上記(2)イの補正は、本件補正前の請求項6のうち同請求項5を引用する部分を独立形式で書き下したために生じる明りょうでない記載を正すものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

ウ 上記(2)ウの補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の限定を目的とするものである。

2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の請求項5に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)において本件補正後の請求項5として記載されたとおりのものである。

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2002-310894号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「【従来の技術】」(段落【0002】)、
「例えば、生物工学の分野では、レポータ遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を採用し、標的遺伝子の発現をモニタリングする手法がしばしば用いられる。この手法では、ルシフェラーゼ遺伝子と標的遺伝子とを一システムで発現させて、標的遺伝子の発現をルシフェラーゼ遺伝子の発現量に応じた発光量としてモニタリングする。」(段落【0002】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】」(段落【0003】)、
「ところで、ルシフェラーゼ遺伝子の発現により生じる発光のレベルは比較的小さく、外部からの光の漏れ込みが観測精度に与える影響を無視できない。特に、複数の遮光性セル内に配された観測対象(ルシフェラーゼ遺伝子発現体;発光体)についてルシフェラーゼ遺伝子の発現を連続的に観察するためには、上記複数の遮光性セルを順次、CCDカメラなどの光検出部の下にスライドさせる必要があり、遮光性セルとCCDカメラとの間に必然的に隙間が生じる。そして、この隙間から外部の光が遮光性セル内に漏れ込み、ノイズとなって観測精度を低下させることになる。」(段落【0003】)

(ウ)「【発明の実施の形態】】〔実施の形態1〕」(段落【0023】)、
「また、CCDカメラ31による撮像を通して、発光体73の発光状態を経時的に観測する場合には、凹部12中での発光体73の位置が実質的に固定されている必要がある。例えば、発光体73として生物を使用する場合には、移動性が比較的低い生物体(例えば、固体培地上に配された植物体、微生物類(細菌類などを含む)、シアノバクテリア)や、固体培地上に配された細胞(単細胞生物の場合、生物体にも相当)などが特に好適である。なお、本実施の形態にかかる発光観測装置では、発光観測下にある凹部12以外には開口12aを介して内部に光を付与可能なので、植物体、植物細胞、シアノバクテリアなど光合成に依存する観測対象物を観測対象とすることも容易である。」(段落【0045】)、
「また、光検出部として、CCDカメラ31に代えて光電子増倍管を使用することもできるが、この場合には、一つの凹部12内に配された発光体73の発光量の総和を検出するので、発光体73が移動するものであっても問題とならない。」(段落【0046】)、
「また、発光体73として生物を使用する場合、該生物は、発光細菌など自然状態で発光する生物体やその細胞であってもよく、また、ゲノムに発光関連遺伝子が発現可能に組み込まれた遺伝子組み換え体(生物体やその細胞を含む)であってもよい。なお、このような遺伝子組み換え体(細胞を除く遺伝子組み換え生物体)は、非ヒト生物のものに限定される。」(段落【0047】)、
「上記の発光関連遺伝子とは、1)各種GFPをコードする遺伝子のように、励起による発光に関与する遺伝子であってもよく、2)各種ルシフェラーゼ遺伝子のように、自己発光に関与する遺伝子であってもよい。特に、発光体73の発光強度の変化を経時的に観測する場合には、生体内または細胞内で比較的速やかに分解される各種ルシフェラーゼをコードする遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)がより好適に使用される。また、各種ルシフェラーゼ遺伝子を使用する場合には、その種類に応じて適切な基質(酵素反応基質)、高エネルギー物質(ATPやFMNH_(2) )、酸素などを供給する必要がある。なお、発光観測時間などの条件にもよるが、発光体73が自身が高エネルギー物質や酸素を有している場合、これらを外部から供給する必要がない。」(段落【0048】)、
「発光関連遺伝子が発現可能に組み込まれた遺伝子組み換え体は、アラビドプシス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、シアノバクテリアなど様々な生物で既に作成されており、その作成方法の詳細については省略する(科学,vol.68,138-143, 1998 (岩波書店発行)など参照)。」(段落【0049】)、
「本実施の形態にかかる発光観測装置は、発光現象の観測に関する種々の用途に使用可能である。例えば、任意のプロモータ配列と、その下流側に発現可能に連結された発光関連遺伝子とを有する遺伝子組み換え体を発光体73として観測すれば、該プロモータ配列の活性・非活性を発光体73からの発光の有無として確認可能となる。なお、上記任意のプロモータ配列は、上記遺伝子組み換え体が遺伝子の組み換え操作前から持っていたものであってもよく、また、発光関連遺伝子と同様に組み換え操作により導入されるものであってもよい。」(段落【0050】)、
「また、上記プロモータ配列により発現が支配される特定遺伝子と、上記発光関連遺伝子との双方を、該プロモータ配列の支配下で並行して発現可能な遺伝子組み換え体を作成すれば、発光体73の発光状態をモニタすることで、特定遺伝子の発現の有無、発現の強さなど(すなわち発現量)を可視的に観測可能となる。」(段落【0051】)、
「より具体的な例として、シアノバクテリアの一遺伝子psbAIのプロモータ下流に二種のルシフェラーゼ遺伝子(luxA,luxB)を連結した遺伝子断片を、シアノバクテリア(Synechococcus sp.PCC 7942)のゲノムに組み込んで遺伝子組み換え体を作成し(科学,vol.68, 138-143, 1998 参照)、この遺伝子組み換え体における遺伝子psbAIのプロモータ活性を経時的に観測するものが挙げられる。上記遺伝子psbAIは光合成系IIに関わる遺伝子であり、概日リズム(生物時計のリズム)に従って発現する。概日リズムは約24時間サイクルであり、測定間隔(1発光観測サイクルに要する時間)は30分?1時間程度に設定すれば充分である。一般には、例えば、図1に示す各凹部12内の発光体73(ここでは遺伝子組み換えシアノバクテリアの各コロニー)を3分ずつCCDカメラ31で露光し、暗バックグラウンドの測定を含めて測定間隔を45分に設定する。また、発光観測サイクルは複数回繰り返される。ルシフェラーゼの基質としてはデカナールを用い、酸素、及び高エネルギー物質としてのFMNH_(2)を供給する。」(段落【0052】)、
「1回目の発光観測サイクルで撮像した発光体(コロニー)73の画像データは、コンピュータ42により解析され、境界線追跡法(「コンピュータ画像処理」;産報出版(1982) 参照)で該コロニーを認識する。また、コンピュータ42は各発光体(コロニー)73の位置を記憶し、2回目以降の発光観測サイクルでは発光体(コロニー)73毎に発光強度が測定され、記憶される。また、取得された発光観測データは、コンピュータ42内の解析ルーチンにより処理され、リズムの周期、位相が算出される。」(段落【0053】)、
「また、遺伝子組み換え体として、組み換え操作前の生物体または細胞のゲノムに、該ゲノムのランダムな小断片とルシフェラーゼ遺伝子とを融合させた遺伝子断片を導入したものを採用してもよい。この場合、上記ランダムな小断片がプロモータ配列を含んでいれば、該遺伝子組み換え体やそのクローンは、該プロモータ配列が活性化されると発光する(発光体73となる)。発光体73となっている遺伝子組み換え体やそのクローンを撮影し、得られた画像データをもとに発光体73を選別すれば、プロモータ配列を含む上記小断片をクローニング、同定可能となる。また、上記プロモータ配列を含む遺伝子組み換え体やクローンのみを選別してライブラリを作成し、該ライブラリを特定の条件下に置いてその発光状態を観測してもよい。例えば、環境ストレス下(ヒートショック下など)の特定の条件下でのみ発光が観測される遺伝子組み換え体やクローンがあれば、特定の条件下でのみ活性化されるプロモータ配列をクローニング可能となる。」(段落【0054】)、
「なお、発光体73からの発光が比較的弱い場合や、異なる発光体73間での発光強度が大きく異なる場合、一つの発光強度を閾値として画像データを解析すると、発光体73の一部(発光強度の低いもの)が認識されない虞もある。そこで、発光体73の画像データをコンピュータ42で解析する際には、発光強度を複数の帯域に分けて各帯域を一つの閾値とし、発光強度の低い側からより高い側の帯域へと閾値を順次変更した解析を行うことがより好ましい。また、帯域同士は重複しないように設定されて、一の閾値での解析時に拾われた発光体73が、異なる閾値での解析時に拾われないようになっている。このような画像データの解析法を採用すれば、発光強度の低い発光体73も確実に検出することが可能となる。」(段落【0055】)

イ 上記各記載によれば、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ゲノムに発光関連遺伝子が発現可能に組み込まれた遺伝子組み換え体(生物体やその細胞を含む)を発光体として使用し、
その発光体を撮像した画像データを解析する方法であって、
前記発光関連遺伝子はルシフェラーゼ遺伝子であり、
ルシフェラーゼ遺伝子と標的遺伝子とを一システムで発現させて、標的遺伝子の発現をルシフェラーゼ遺伝子の発現量に応じた発光量としてモニタリングする
方法。」

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを以下に対比する。
(ア)引用発明の「発光体として使用」され、「ゲノムに」「ルシフェラーゼ遺伝子であ」る「発光関連遺伝子が発現可能に組み込まれた遺伝子組み換え体(生物体やその細胞を含む)」は、本願補正発明の「ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞」に相当する。

(イ)引用発明の「画像データ」は、本願補正発明の「画像」に相当する。

(ウ)引用発明は、「その発光体を撮像した画像データ」を「解析する」ものであるところ、「その発光体を撮像した画像データ」が、対物レンズを含む光学系により「発光体」からの発光を集光し撮像を行うことにより得られたものであることは技術常識に照らして明らかである。
そうすると、引用発明の「画像データ」(本願補正発明の「画像」に相当。)は、本願補正発明のように「対物レンズを含む光学系によりルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞からの発光を遮光状態で集光し撮像を行うことにより得られた」ものであるといえる。

(エ)引用発明は「その発光体を撮像した画像データを解析する方法」であり、「ルシフェラーゼ遺伝子と標的遺伝子とを一システムで発現させて、標的遺伝子の発現をルシフェラーゼ遺伝子の発現量に応じた発光量としてモニタリングする」ものであるから、本願補正発明の「画像をもとに、前記ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を解析する」との特定事項を備えているといえる。

(オ)引用発明の「解析する方法」は、本願補正発明の「解析方法」に相当する。

イ 上記アによれば、本願補正発明と引用発明とは、
「対物レンズを含む光学系によりルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞からの発光を集光し撮像を行うことにより得られた画像をもとに、前記ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を解析する解析方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]「対物レンズ」について、本願補正発明は「開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である」のに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。
[相違点2]「発光細胞からの発光を」「集光し撮像を行う」ことについて、本願補正発明は「遮光状態で」行うとされているのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(4)相違点の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)[相違点1]について
a 引用発明は、「発光関連遺伝子」として「ルシフェラーゼ遺伝子」を用いるものであるところ、ルシフェラーゼ遺伝子の発現により生じる発光のレベルは比較的小さいものとされている(引用例の段落【0003】(上記(2)ア(イ))。
そして、明るい像での観察を可能にするためには、対物レンズのNA/βの値を大きくすればよいことは周知である(例えば、特開平11-231224号公報の段落【0017】、特開2001-21812号公報の段落【0019】を参照。)。
そうすると、引用発明において、ルシフェラーゼ遺伝子の発現により生じる発光のレベルは比較的小さいとの課題を解決するために、対物レンズのNA/βの値を所定程度よりも大きくすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

b 本願補正発明では、対物レンズの(NA/β)^(2)の下限値として0.01を特定しているので、その技術的意義について検討する。
(a)本願の明細書には、対物レンズの(NA/β)^(2)の下限値を0.01と設定したことに関し、次の記載がある(なお、以下に摘記した記載は、本件補正前後で変更されていない。)。
「【実施例3】」、
「本実施例3では、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光を画像で観察することができるような対物レンズの(NA/β)^(2)の条件を、さらに高倍率にして検討した。」(段落【0038】)、
「本実施例3における撮像対象(当審注:撮影対象は、「ホタルルシフェラーゼ遺伝子“pGL3 control vector”(プロメガ社(会社名))をトランスフェクションしたHeLa細胞」とされている。段落【0033】・【0036】参照。)は上述した実施例1または実施例2と同じである。また、本実施例3で用いた対物レンズは、オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”である。なお、対物レンズの開口数(NA)の条件は図8に示す通りであり、各開口数(NA)は対物レンズの絞り環を変えることによって設定した。図8は、実施例3で用いる対物レンズの開口数(NA)の条件を示した図である。図8に示すように、開口数(NA)の値は0.65から1.35である。そして、対物レンズ(A?E)の投影倍率(β)の値は、集光レンズですべて8倍に設定した。よって、図8に示すように、対物レンズの(NA/β)^(2)の値は、0.007から0.028まで変動する。また、本実施例3で用いたCCDカメラはオリンパス社製の“DP30BW”で、その動作温度は5℃、画素数は1360×1024、画素サイズは6μm×6μm、チップの面積(mm^(2))は13.8×9.18である。そして、露出時間は2分間である。なお、上述した実施例1および実施例2と同様、本実施例3においても、HeLa細胞の撮像は、用いる装置全体を暗幕で覆った状態で行われた。」(段落【0039】)、
「本実施例3では、図9に示すように、NAが0.83から1.35の対物レンズで撮った画像Bから画像Eについては、容易にHeLa細胞の発光を確認することができた。つまり、図9の画像Bから画像Eまでは容易に発光が観察できた。一方、NAが0.65の対物レンズで撮った画像Aについては、定量的に発光を確認することが困難であった。なお、図9で示した各画像は、40倍の対物レンズ(オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”)の絞り位置を変えることによりそのNAを0.65から1.35まで段階的に変えて撮像したものである。これにより、露出時間が2分間である場合、(NA/β)^(2)の値が0.01以上であればルシフェラーゼ遺伝子を導入したHeLa細胞の発光画像観察が可能であることが示された。」(段落【0040】)、
「ここで、実施例3で用いた(図8に示す)対物レンズの(NA/β)^(2)の値と図9に示す画像(画像A、画像Bおよび画像C)の発光強度との関係(図10参照)から、細胞の発光画像観察に適する対物レンズの(NA/β)^(2)の条件を検討した。図10は、図9に示す画像(画像A、画像Bおよび画像C)の発光強度を、対物レンズの(NA/β)^(2)の値を横軸にとってプロットした図である。なお、発光強度とは、発光して明るい領域を含む規定された領域(例えば、図9の画像Aにおいて四角で示した領域)全体からの光強度(CCDカメラの出力値)から、発光して明るい領域を含まず(発光せず暗い領域を含み)且つ前記規定された領域の面積と同じ面積を持つ領域全体からの光強度(CCDカメラの出力値)を差し引いたものである。
図10に示すように、図9の画像Aの発光強度と画像Bの発光強度との間に有意差があること、および図9の画像Bの発光強度と画像Cの発光強度との間に有意差があることを、各画像の発光強度のばらつき(画像の発光強度が取り得る範囲)に基づいて定量的に検出することができた。また、図10において図9の画像Aの発光強度は負の値も含むので、図9の画像Aは発光画像観察に適さないことが図10から分かる。したがって、以上の検討から、対物レンズの(NA/β)^(2)の値が0.01以上であれば、充分且つ確実に細胞の発光画像観察を行うことができることが示された。つまり、細胞の発光画像観察に適する対物レンズの(NA/β)^(2)の値は0.01以上であることが示された。」(段落【0041】)

(b)上記(a)の各記載によれば、本願の明細書の段落【0040】・【0041】には、細胞の発光画像観察に適する対物レンズの(NA/β)^(2)の値が0.01以上であることが示された旨記載されているが、その結論は、少なくとも、以下のi?ivの条件のもとで導かれたものであることが認められる。
i 撮影対象は、「ホタルルシフェラーゼ遺伝子“pGL3 control vector”(プロメガ社(会社名))をトランスフェクションしたHeLa細胞」であること。
ii 対物レンズは、オリンパス社製の“UApo40X Oil Iris”であること。
iii CCDカメラはオリンパス社製の“DP30BW”で、その動作温度は5℃、画素数は1360×1024、画素サイズは6μm×6μm、チップの面積(mm^(2))は13.8×9.18であること。
iv 露出時間は2分間であること。

(c)上記(b)で示した各条件が異なれば、細胞の発光画像観察に適する対物レンズの(NA/β)^(2)の下限値は異なるものと解される。
しかしながら、本願補正発明には、上記各条件について特定せずに、「開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である」ことを特定するにとどまっている。ここで、本願の明細書の段落【0027】に、「像の明るさは、開口数(NA)を投影倍率(β)で割った値の2乗、すなわち(NA÷β)^(2)で評価される。」と記載されている。
そして、「開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である」との技術的意義は、本願補正発明の発明特定事項を前提として把握されるべきである。
そうすると、上記技術的意義は、像の明るさが所定の程度よりも大きいということにとどまり、数値限定自体には臨界的意義などの特段の技術的意義はないものと解される。

c 上記b(c)によれば、引用発明において、ルシフェラーゼ遺伝子の発現により生じる発光のレベルは比較的小さいとの課題を解決するために、対物レンズのNA/βの値を所定程度よりも大きくすることに際し、「(NA÷β)^(2)の値が0.01以上」とすることは当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきである。

d 以上によれば、上記[相違点1]は格別のものとはいえない。

(イ)[相違点2]について
引用例の段落【0003】(上記(2)ア(イ))には、「ルシフェラーゼ遺伝子の発現により生じる発光のレベルは比較的小さく、外部からの光の漏れ込みが観測精度に与える影響を無視できない」旨記載されているから、引用発明において、外部からの光の漏れ込みをなくす、すなわち、遮光状態で撮像を行うようにして上記[相違点2]の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)本願補正発明の作用効果は、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術から当業者が予測し得たものである。

イ したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成26年5月7日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項6のうち請求項5を引用する部分に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記1(1)で記載した次のとおりのものである。
「ルシフェラーゼ遺伝子を導入した発光細胞を撮像する発光細胞撮像方法において、
開口数(NA)および投影倍率(β)で表される(NA÷β)^(2)の値が0.01以上である対物レンズを含む光学系により前記発光細胞からの発光を集光しながら撮像を行う発光細胞撮像方法により撮像されて得られた画像をもとに、前記ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を解析することを特徴とする解析方法。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明から、上記第2[理由]1(4)ウの「遮光状態」に関する発明特定事項を省くとともに、同1(4)イの明りょうでない記載の釈明を目的とした補正を行っていないものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに実質的に相当する本願補正発明が、上記第2[理由]2のとおり、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-31 
結審通知日 2015-09-01 
審決日 2015-09-14 
出願番号 特願2013-4756(P2013-4756)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 大瀧 真理
山村 浩
発明の名称 解析方法  
代理人 酒井 宏明  

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