• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03D
管理番号 1307182
審判番号 不服2014-17273  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-01 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2013- 12726「風力発電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月14日出願公開,特開2014-145258〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下,「本願」と言う。)は,平成25年1月26日の特許出願であって,平成26年7月30日付けで拒絶査定がされ(この謄本の送達日は平成26年8月5日),これに対して,平成26年9月1日に本件拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けの手続補正書が提出された。
その後,当審より平成27年6月5日付けで拒絶の理由(以下,「当審の拒絶の理由」と言う。)を通知したところ,平成27年8月10日付けで意見書及び補正書が提出された。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成27年8月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下,この発明を「本願発明」と言う。)。
「風力を回転力に変換する風車と,
該風車の回転力により駆動されるポンプと,
該ポンプから圧送された作動液が流入するシリンダーと,
該シリンダーに嵌入され該シリンダー内を往復動し得るピストンと,
該シリンダーと該ピストンにより構成される液室内に貯留された作動液を該ピストンを介して加圧し得る加圧バネと,
該加圧された作動液の供給を受けて駆動される液圧モーターと,
該液圧モーターにより駆動される発電機と,
該風車を支持する支柱が上面側に設けられていると共に前記ポンプを内蔵している筐体を,該筐体の下面側で,風力発電装置を設置する接地面に対して傾斜し得る揺動を許容しつつ支持する揺動支持部材であるコイルバネと,
を備えることを特徴とする風力発電装置。」

3.引用発明
(1)当審の拒絶の理由に引用例1として示した特開2012-77687号公報には,図面と共に次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
風により回転する羽根を有する風車と、
前記羽根に接続された回転軸と、
前記回転軸に接続され、前記回転軸の回転により作動液を圧送可能な第1駆動装置と、
駆動軸を有し、前記第1駆動装置により圧送された前記作動液により前記駆動軸を回転させる第2駆動装置と、
前記駆動軸に接続され、前記駆動軸の回転により駆動される第3駆動装置と、
を備えることを特徴とする液圧システム。
【請求項2】
前記第1駆動装置と前記第2駆動装置との間に設けられ、前記第1駆動装置で圧送された前記作動液を蓄圧する蓄圧装置と、
前記蓄圧装置の二次側に設けられ、前記蓄圧装置の開閉を行う弁体と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の液圧システム。
【請求項3】
前記第1駆動装置は、ポンプであり、
前記第2駆動装置は、作動液で作動する液圧モータであることを特徴とする請求項2に記載の液圧システム。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、風車を用いた液圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、風力を回転エネルギに変換し、この回転エネルギを電気エネルギ又は熱エネルギ等に変換する風力を用いた装置が知られている。このような装置は、風力を回転エネルギに変換する風車と、この風車に設けられた回転軸と、回転軸の回転により駆動される駆動装置を備え、当該駆動装置により、風車から回転軸に伝達された回転が発電や熱生成等に用いられる。なお、この駆動装置は、発電機や空気圧縮機等が用いられる。」
・「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、設置場所に制限されることなく、駆動装置を駆動可能な風車を用いた液圧システムを提供することが可能となる。」
・「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施の形態に係る液圧システム1を、図1を用いて説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係る風車3を用いた液圧システム1の構成を模式的に示す説明図である。
【0016】
液圧システム1は、例えば、地下室を有する建造物100に設けられる排水システムに用いられる液圧を用いた装置である。液圧システム1は、風車3の回転エネルギを作動液の流体エネルギに変換可能に形成され、風車3の回転を作動液の流れに変換する第1駆動装置14と、この第1駆動装置14で圧送された作動液により駆動される第2駆動装置17とを備える。
【0017】
このような液圧システム1は、第1駆動装置14で圧送させた作動液で第2駆動装置17を駆動し、この第2駆動装置17の駆動を第3駆動装置6に伝達することで、第3駆動装置6を駆動させるシステムである。」
・「【0020】
具体的に説明すると、液圧システム1は、風車3と、回転軸4と、液圧回路5と、排水ポンプ(第3駆動装置)6と、水位検出装置7と、制御装置8と、を備えている。
【0021】
風車3は、一台、又は、複数台設けられる。このような風車3は、建造物100の例えば屋上102や外壁等に設けられる。なお、本実施形態においては、一台の風車3を用いた構成を説明する。風車3は、風を受けることで風力を回転力に変換可能に形成されている。このような風車3は、台座部11と、この台座部11に設けられ、風に対して回転可能に形成された羽根12と、を備えている。
【0022】
また、風車3は、図1中、水平軸を有する羽根を有する所謂プロペラ型の風車3を示しているが、都市部の建造物100に用いられる場合には、所謂垂直軸風車と呼ばれる風車3が用いられる。例えば、風車3は、ジャイロミル型やサボニウス型が用いられる。」
・「【0025】
液圧回路5は、油圧ポンプ(第1駆動装置)14と、アキュムレータ(蓄圧装置)15と、弁装置16と、油圧モータ(液圧モータ、第2駆動装置)17と、リザーバタンク18と、を備えている。液圧回路5は、リザーバタンク18から油圧ポンプ14、アキュムレータ15、弁装置16及び油圧モータ17が配管J等により接続され、油圧モータ17の二次側にリザーバタンク18が接続される。
【0026】
油圧ポンプ14は、例えば台座部11内に設けられている。油圧ポンプ14は、回転軸4に接続され、回転軸4の回転により、作動油を増圧し、その吐出側から作動油を圧送可能に形成されている。このような油圧ポンプ14は、例えば、容積形のポンプが用いられる。なお、油圧ポンプ14は、回転ポンプや往復ポンプ等、風車3の出力、回転軸4の軸径及び液圧回路5の構成等により、適宜設定可能である。
【0027】
アキュムレータ15は、油圧ポンプ14の二次側、具体的には、油圧ポンプ14と油圧モータ17との間の配管Jに設けられ、油圧ポンプ14で圧送された作動油を蓄圧可能に形成されている。アキュムレータ15は、ダイヤフラム型、プラダ型、ピストン型等が適宜用いられる。なお、アキュムレータ15は、これらガスを負荷として用いる構成のものだけではなく、錘やバネを負荷として用いるものであってもよい。」
・「【0032】
油圧モータ17は、駆動軸25を有し、油圧ポンプ14により圧送された作動油により駆動軸25を駆動可能に形成されている。」
・「【0037】
このように構成された液圧システム1は、先ず、風により風車3の羽根12が回転する。羽根12の回転に伴って回転軸4が回転し、油圧ポンプ14が駆動される。油圧ポンプ14は、その吸込側に接続された配管Jを介してリザーバタンク18内の作動油を吸込むとともに、その内部の作動油を増圧させ、吐出側から二次側へと作動油を吐出させる。
【0038】
油圧ポンプ14の二次側に配置されたアキュムレータ15は、その内部に油圧ポンプ14で増圧された作動油の圧力を蓄圧する。なお、所定の圧力以上にアキュムレータ15内の圧力が上昇すると、第3弁体23が開状態となりアキュムレータ15内(第3弁体23の一次側)が減圧される。このように、アキュムレータ15内の圧力は、常時所定の圧力【0039】
次に、建造物100の貯留部101に、所定の水位まで水が貯留されると、水位検出装置7がそれを検出し、当該情報を信号として制御装置8に送信する。制御装置8は、当該信号を受信すると、第3弁体23を開状態に切り換える。第3弁体23が開状態となると、アキュムレータ15内の作動油が、その二次側へと流れる。この作動油の流れにより、油圧モータ17が駆動される。
【0040】
油圧モータ17が駆動されると、駆動軸25を介して排水ポンプ6が駆動され、これにより、貯留部101の汚水は、排水ポンプ6により貯留部101から吸い出され、下水道110等に圧送される。なお、油圧モータ17を駆動した作動油は、再びリザーバタンク18内へと移動する。
【0041】
このように構成された液圧システム1によれば、風力により駆動させる駆動装置である第3駆動装置(排水ポンプ)6は、作動液(作動油)により駆動された第2駆動装置(油圧モータ)17により駆動される。
【0042】
即ち、第3駆動装置6は、風車3により回転される回転軸4により直接駆動されるのではなく、風車3による回転軸4の回転エネルギを、液圧回路5内を流れる作動液の流体エネルギに変換し、この流体エネルギにより駆動した第2駆動装置17を用いて駆動させる。これにより、風車3の出力を伝達する回転軸4及び第3駆動装置6を直接接続しなくても、第3駆動装置6を駆動することができる。
【0043】
このため、風車3、及び、第3駆動装置6の配置の自由度が向上する。換言すると、風車3の出力手段である回転軸4は、所謂シャフトであり、これを長い距離、例えば、建造物の屋上から地下室まで配置させるのは困難である。このため、風車3により駆動させる第3駆動装置6を、回転軸4により駆動させるには、風車3に近接して配置する必要がある。
【0044】
しかし、本実施形態の液圧システム1においては、比較的取回しの容易な油圧配管等の液圧回路5を用いて、回転軸4の回転エネルギを流体エネルギに変換し、その後、再度駆動軸25の回転エネルギに変換することで第3駆動装置6を駆動する構成であるため、各構成の取回しが容易となる。このため、例えば、都市部等の建造物100においても、風車3を用いて第3駆動装置6を駆動させることが可能となる。
【0045】
また、液圧回路5に蓄圧装置15を設け、回転軸4で駆動させる第1駆動装置14から吐出された作動液を一端蓄圧装置15で蓄圧させる構成とすることで、確実に、第3駆動装置6を駆動することが可能となる。例えば、都市部等で液圧システム1を用いる場合には、風速が一定でないなど、安定した風力を得ることが困難な場合が多い。
【0046】
しかし、一度蓄圧装置15により蓄圧することで、風速によらず、確実に第1駆動装置14で増圧させた作動油の圧力を、第1駆動装置14の停止後であっても維持(蓄圧)できる。また、建造物100に設置する場合には、大型の風車を設置することが困難な場合が多い。しかし、小型の風車3を用いた場合であっても、所定の圧力まで蓄圧する時間が必要となったとしても、所定の圧力及び作動油量を蓄圧装置15に蓄圧することが可能となる。」
・「【0077】
また第3駆動装置6は、通常時においては、建造物100に用いられる給水装置又は排水装置に設けられた交互運転を行う複数のポンプの一つであって、災害時等において、液圧システム1,1Aにより当該ポンプを第3駆動装置6として、風車3により駆動させる構成であってもよい。さらには、第3駆動装置6は、流体エネルギにより発電が可能な発電用の発電機や、熱生成用の空気圧縮機であってもよい。
【0078】
また、上述した液圧システム1,1A,1Bにおいては、配管J、K,L,Nを有する構成を記載したが、これら各配管は、金属で形成された配管であってもよく、また、可撓性を有するホース等であってもよい。」
(2)段落【0027】に,アキュムレータ15は,ピストン型等が適宜用いられること,及び,バネを負荷として用いるものでよいことが記載されている。この記載について,アキュムレータについての技術常識を踏まえれば,アキュムレータ15として,ポンプ14から圧送された作動液を貯留するシリンダーと,該シリンダーに嵌入され該シリンダー内を往復動し得るピストンと,該シリンダーと該ピストンにより構成される液室内に貯留された作動液を該ピストンを介して加圧し得るバネ,すなわち加圧バネから構成されるものが当業者に認識し得る。
(3)特に図1の記載内容も参酌すると,風車3は,ポンプ14を内蔵している台座部11で支持されている。
(4)段落【0077】に,第3駆動装置6は、流体エネルギにより発電が可能な発電用の発電機でよいことが記載されている。
(5)以上の事項を図1の記載内容も踏まえて,本願発明の表現にならって整理すると,引用例1には次の発明が開示されていると認めることができる(以下,この発明を「引用発明」と言う。)。
「風力を回転エネルギに変換する風車(3)と,
該風車(3)の回転エネルギにより駆動されるポンプ(14)と,
該ポンプ(14)から圧送された作動液が流入するシリンダーと,
該シリンダーに嵌入され該シリンダー内を往復動し得るピストンと,
該シリンダーと該ピストンにより構成される液室内に貯留された作動液を該ピストンを介して加圧し得る加圧バネと,
該加圧された作動液の供給を受けて駆動される液圧モーター(17)と,
該液圧モーター(17)により駆動される発電機と,
該風車(3)を支持すると共に前記ポンプ(14)を内蔵している台座部(11),
を備える風車(3)を用いた液圧システム。」

4.対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「回転エネルギ」は,本願発明の「回転力」に相当する。
イ.引用発明の「台座部(11)」は,本願発明の「筐体」に相当するものであって,引用発明の「該風車(3)を支持する」態様と本願発明の「該風車を支持する支柱が上面側に設けられている」態様は,「該風車を支持する」と言う限りで一致する。
ウ.引用発明の「風車(3)を用いた液圧システム」は,本願発明の「風力発電装置」に相当する。
エ.以上を踏まえると,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
[一致点]
「風力を回転力に変換する風車と,
該風車の回転力により駆動されるポンプと,
該ポンプから圧送された作動液が流入するシリンダーと,
該シリンダーに嵌入され該シリンダー内を往復動し得るピストンと,
該シリンダーと該ピストンにより構成される液室内に貯留された作動液を該ピストンを介して加圧し得る加圧バネと,
該加圧された作動液の供給を受けて駆動される液圧モーターと,
該液圧モーターにより駆動される発電機と,
該風車を支持すると共に前記ポンプを内蔵している筐体と,
を備える風力発電装置。」
[相違点]
本願発明では,筐体の上面側に風車を支持する支柱が設けられており,該筐体の下面側で,風力発電装置を設置する接地面に対して傾斜し得る揺動を許容しつつ支持する揺動支持部材であるコイルバネが備えられているのに対して,引用発明は,そのように特定されたものではない点。
イ.上記相違点について検討する。
(ア)当審拒絶の理由に引用例1とともに引用例2,3として示した特開2004-60576号公報,特開2007-51588号公報には,それぞれ,「バネ脚11」,「バネ部材34」により,強風等の際に風力発電装置の受風部分を接地面に対して揺動可能に支持することが記載されている(以下,「引用例2,3記載の技術的事項」と言う。)。この引用例2,3記載の技術的事項は,それによって,強風等に対処できるものである。
引用発明においても,強風等で大きな力を受けることがあること,また,そのような大きな力によって破損するおそれがあることは,当業者が当然に認識し得たことである。そして,当業者が上記した引用例2,3記載の技術的事項に接すれば,引用発明において,そのようなおそれに対処するために,筐体(台座部)に風力発電装置を設置する接地面に対して傾斜し得る揺動を許容しつつ支持する揺動支持部材であるバネを設けることは,格別の創作能力を要することなくなし得たことである。ここで,そうしたバネの種類として,コイルバネを採用することにも,当業者にとっての格別の創意工夫が見いだせるものではない。
(イ)風力発電装置において,風車を支持するために支柱を用いることは,あえて例示を要するまでもなく当業者に良く知られており,引用発明において,筐体による風車の支持のために支柱を設けることは,当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことにすぎない。
(ウ)また,引用発明を開示する引用例1には,その段落【0022】に,垂直軸風車を採用してもよいことが記載されており,引用発明は,明らかに垂直軸風車を用いたものも含んでいるのである。
引用発明としてそのように垂直軸風車を採用したものについて,上述の検討内容を踏まえれば,筐体の上面側に風車を支持する支柱が設けられており,該筐体の下面側で,風力発電装置を設置する接地面に対して傾斜し得る揺動を許容しつつ支持する揺動支持部材であるコイルバネが備えられている構成を得ることは,当業者にとって容易になし得た範囲内の事項と言うべきである。
すなわち,引用発明において,上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
(エ)そして,本願の明細書又は図面の記載の限りでは,本願発明の発明特定事項によって,引用発明及び引用例2,3記載の技術的事項から見て格別顕著な技術的意義がもたらされると言うこともできない。
したがって,本願発明は,引用例1が開示する引用発明及び引用例2,3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1が開示する引用発明及び引用例2,3記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-21 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-07 
出願番号 特願2013-12726(P2013-12726)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 所村 陽一柏原 郁昭北川 大地  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 松永 謙一
新海 岳
発明の名称 風力発電装置  
代理人 特許業務法人SANSUI国際特許事務所  
代理人 森岡 正往  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ