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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1307206
審判番号 不服2014-26798  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-26 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2013-228764「通信装置、制御装置、通信システム、通信制御方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日出願公開、特開2014- 27696〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年9月21日に出願した特願2011-206459号の一部を,平成25年11月1日に新たな特許出願としたものであって,平成26年9月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定
[結論]
平成26年12月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
平成26年12月26日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成26年8月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された

「【請求項6】
制御装置から通知された処理規則を第一の記憶手段に記憶し,
受信パケットに対応する前記処理規則に基づいて該受信パケットを処理し,
前記処理規則によるパケット処理に関する統計値を計測し,
当該統計値に基づいてパケット転送レートを制御するための条件を第二の記憶手段に記憶し,
前記統計値と前記条件とに基づいて,前記条件に対応する処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを制御する
ことを特徴とする通信方法。」

という発明(以下,「本願発明」という。)を,

「【請求項5】
制御装置から通知された,受信パケットの処理するための処理規則を含む第1のエントリを第一の記憶手段に記憶し,
受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則に基づいて該受信パケットを処理し,
前記処理規則によるパケット処理に関する統計値を計測し,
当該統計値に基づいてパケット転送レートを制御するための条件を含む第2のエントリを第二の記憶手段に記憶し,
前記統計値と,前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれる前記条件とに基づいて,前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを制御する
ことを特徴とする通信方法。」

という発明(以下,「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

なお,上記補正後の発明のうち,1段落目の「受信パケットの処理するための処理規則」は「受信パケットを処理するための処理規則」の誤記と認められる。


2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において,
ア 本願発明の「制御装置から通知された処理規則を第一の記憶手段に記憶し,」を,「制御装置から通知された,受信パケットの処理するための処理規則を含む第1のエントリを第一の記憶手段に記憶し,」に改め,
イ 本願発明の「受信パケットに対応する前記処理規則に基づいて該受信パケットを」を,「前記受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則に基づいて該受信パケットを」に改め,
ウ 本願発明の「当該統計値に基づいてパケット転送レートを制御するための条件を第二の記憶手段に記憶し,」を,「当該統計値に基づいてパケット転送レートを制御するための条件を含む第2のエントリを第二の記憶手段に記憶し,
」に改め,
エ 本願発明の「前記統計値と前記条件とに基づいて,前記条件に対応する処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを」を,「前記統計値と,前記受信パケットに対応する第2のエントリに含まれる前記条件とに基づいて,前記条件を含む該第2のエントリに対応する第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを」に改めるものである。

そして,上記アの補正は,「処理規則」に関して「受信パケットの処理するための」との限定を付すとともに,当該「処理規則」が「第1のエントリ」に含まれるとの限定を付して,特許請求の範囲を減縮するものである。
上記イの補正も,前記「処理規則」が「第1のエントリ」に含まれるとの限定を付して,特許請求の範囲を減縮するものである。
上記ウの補正は,「パケット転送レートを制御するための条件」が「第2のエントリ」に含まれるとの限定を付して,特許請求の範囲を減縮するものである。
上記エの補正は,前記「条件」に関して「前記受信パケットに対応する第2のエントリに含まれる」との限定を付すとともに,前記「処理規則」が「第1のエントリ」に含まれるとの限定を付して,特許請求の範囲を減縮するものである。

また,請求項1における補正についても同様であり,請求項1において,「パケットフローのパケット転送レート」を「パケットフローの転送レート」と改める補正は,冗長な記載を改めることにより他の請求項の記載と整合させるものであって,実質的に技術事項を何ら変更するものでない。

さらに,請求項2及び請求項6(旧請求項7)における補正は,上記エに対応する補正であるから,特許請求の範囲を減縮するものであり,本件補正前の請求項5を削除する補正は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除及び第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。


(2)独立特許要件
請求項5(旧請求項6)における補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて,以下検討する。

ア 補正後の発明
上記「1 本願発明と補正後の発明」にて「補正後の発明」とした,以下のとおりのものと認める。

「【請求項5】
制御装置から通知された,受信パケットを処理するための処理規則を含む第1のエントリを第一の記憶手段に記憶し,
受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則に基づいて該受信パケットを処理し,
前記処理規則によるパケット処理に関する統計値を計測し,
当該統計値に基づいてパケット転送レートを制御するための条件を含む第2のエントリを第二の記憶手段に記憶し,
前記統計値と,前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれる前記条件とに基づいて,前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを制御する
ことを特徴とする通信方法。」


イ 引用発明及び周知技術等
[引用発明]
原査定の拒絶の理由に引用されたOpenFlow Switch Specifcation Version 1.1.0 Implemented (Wired Protocol 0x02),2011年 2月28日,URL,http://www.openflow.org/documents/openflow-spec-v1.1.0.pdf(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「2 Switch Components
An OpenFlow Switch consists of one or more flow tables and a group table, which perform packet lookups and forwarding, and an OpenFlow channel to an external controller (Figure 1). The controller manages the switch via the OpenFlow protocol. Using this protocol, the controller can add, update, and delete flow entries, both reactively (in response to packets) and proactively.
Each flow table in the switch contains a set of flow entries; each flow entry consists of match fields, counters, and a set of instructions to apply to matching packets (see 4.1).」(3ページ7?13行)
([当審仮訳]:
2 スイッチ要素
オープンフロースイッチは,パケット探索及び転送を行う1又はそれ以上のフローテーブル及びグループテーブル,並びに外部の制御装置へのオープンフローチャネルとからなる(図1)。制御装置は,オープンフロープロトコルを介してスイッチを管理する。このプロトコルを利用して,制御装置は,反動的(パケットに応答して)に及び自律的に,フローエントリを追加,更新及び削除することができる。
スイッチの各フローテーブルはフローエントリのセットを含み,各フローエントリは,マッチフィールド,カウンタ,及び適合したパケットに適用されるインストラクション(指示)のセットからなる(4.1参照)。)

(イ)「4.1 Flow Table
A flow table consists of flow entries.

(Table 1は省略)

Each flow table entry (see Table 1) contains:
・ match fields: to match against packets. These consist of the ingress port and packet headers, and optionally metadata specified by a previous table.
・ counters: to update for matching packets
・ instructions to modify the action set or pipeline processing」(5ページ12?18行)
([当審仮訳]:
4.1 フローテーブル
フローテーブルはフローエントリからなる。

(表1は省略)

各フローテーブルエントリ(表1参照)は,
・パケットに対して適合する「マッチフィールド」。これらは入力ポート及びパケットヘッダ,並びにオプションで前段のテーブルから特定されたメタデータを含む
・適合したパケットを更新する「カウンタ」
・動作セットの修正又はパイプライン処理のための「インストラクション」
を含む。)

(ウ)「4.1.1 Pipeline Processing
OpenFlow-compliant switches come in two types: OpenFlow-only, and OpenFlow-hybrid. OpenFlow-only switches support only OpenFlow operation, in those switches all packets are processed by the OpenFlow pipeline, and can not be processed otherwise.

(中略)

The OpenFlow pipeline of every OpenFlow switch contains multiple flow tables, each flow table containing multiple flow entries. The OpenFlow pipeline processing defines how packets interact with those flow tables (see Figure 2). An OpenFlow switch with only a single flow table is valid, in this case pipeline processing is greatly simplified.

(Figure 2は省略)」(5ページ19行?6ページ上段)
([当審仮訳]:
4.1.1 パイプライン処理
オープンフローに従ったスイッチは,オープンフローオンリーとオープンフローハイブリッドの2つのタイプに分けられる。オープンフローオンリースイッチは,オープンフロー動作のみをサポートし,これらのスイッチ内では,全てのパケットはオープンフローパイプラインにより処理され,他により処理されることはできない。

(中略)

各オープンフロースイッチのオープンフローパイプラインは複数のフローテーブルを含み,各フローテーブルは複数のオープンフローエントリを含んでいる。オープンフローパイプライン処理は,パケットがこれらのフローテーブルとどのように相互作用するのかを定義する(図2参照)。1つのフローテーブルのみを備えたオープンフロースイッチも有効で,この場合,パイプライン処理は非常に単純化される。

(図2は省略))

(エ)「The flow tables of an OpenFlow switch are sequentially numbered, starting at 0. Pipeline processing always starts at the first flow table: the packet is first matched against entries of flow table 0. Other flow tables may be used depending on the outcome of the match in the first table.

If the packet matches a flow entry in a flow table, the corresponding instruction set is executed (see 4.4). The instructions in the flow entry may explicitly direct the packet to another flow table (using the Goto Instruction, see 4.6), where the same process is repeated again. A flow entry can only direct a packet to a flow table number which is greater than its own flow table number, in other words pipeline processing can only go forward and not backward. Obviously, the flow entries of the last table of the pipeline can not include the Goto instruction. If the matching flow entry does not direct packets to another flow table, pipeline processing stops at this table. When pipeline processing stops, the packet is processed with its associated action set and usually forwarded (see 4.7).」(6ページ1?11行)
([当審仮訳]:
オープンフロースイッチのフローテーブルは0から連続的に番号付けされる。パイプライン処理はいつも最初のフローテーブルから開始される:パケットは最初にフローテーブル0のエントリに対して適合する。他のフローテーブルは最初のテーブルにおける適合の出力に依存して使用され得る。

もしパケットがフローテーブルのフローエントリに適合したら,対応するインストラクションが実行される(4.4参照)。フローエントリのインストラクションは,同じ処理を再度繰り返す別のフローテーブルに(GoToインストラクションを使用して。4.6参照)パケットを明示的に向けてもよい。フローエントリは,パケットを,自身のフローテーブル番号よりも大きなフローテーブル番号にのみ向けることができる,言い換えれば,パイプライン処理は前へ進むことのみが可能で戻ることはできない。自明であるように,パイプラインの最後のテーブルのフローエントリはGoToインストラクションを含むことができない。もし適合したフローエントリがパケットを他のフローテーブルに向けない場合,パイプライン処理はそのテーブルにて止まる。パイプライン処理が止まる時,パケットは関連付けられた動作セットにより処理され,そして通常は転送される(4.7参照)。)

(オ)「4.5 Counters
Counters may be maintained for each table, flow, port, queue, group, and bucket. OpenFlow-compliant counters may be implemented in software and maintained by polling hardware counters with more limited ranges. Table 5 contains the set of counters defined by the OpenFlow specification.」(10ページ9?12行)
([当審仮訳]:
カウンタはテーブル,フロー,ポート,キュー,グループ,及びバケツごとに維持されてもよい。オープンフローに従ったカウンタはソフトウェアで実装されそしてより限定的な範囲のハードウェアカウンタをポーリングすることにより維持されてもよい。表5はオープンフロー仕様書により定義されたカウンタのセットを含んでいる。)

上記(ア)?(オ)の記載,図面,表及び当業者の技術常識を考慮すると,
a 上記(ア)?(ウ)の記載によれば,オープンフロースイッチのフローテーブルのフローエントリは,制御装置により追加,更新及び削除されるものであって,動作セットの修正又はパイプライン処理のための「インストラクション」を含んでおり,当該「インストラクション」は,適合したパケットに適用することによりパケットを処理するためのものである。ここで,前記「フローテーブル」及び前記「フローエントリ」を,それぞれ「第1のフローテーブル」及び「第1のエントリ」と称することは任意である。また,Figure 2の(a)の「Packet In」([当審仮訳]:パケット入力)なる記載及び技術常識を考慮すれば,オープンフロースイッチにおいて処理されるパケットが「受信パケット」であることは明らかである。
したがって,引用例には,「制御装置から追加,更新及び削除された,受信パケットを処理するためのインストラクションを含む第1のエントリを含む第1のフローテーブルを有」することが記載されていると認められる。

b 上記(ア)?(ウ)の記載によれば,オープンフロースイッチは,パケットがフローテーブルのフローエントリに適合したら,当該フローエントリに含まれる,適合した前記パケットに対応する「インストラクション」を適用してパケットを処理する。ここで,上記aにて述べたとおり,処理されるパケットが「受信パケット」であることは明らかである。
したがって,引用例には,「受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれるインストラクションを適用して該受信パケットを処理」することが記載されていると認められる。

c 上記(ア)及び(オ)の記載によれば,オープンフロースイッチのカウンタはフローごとに維持されており,Table 5の「Per Flow」([当審仮訳]:フローごと)欄の「Received Packets」([当審仮訳]:受信パケット)及び「Received Bytes」([当審仮訳]:受信バイト)なる記載を考慮すれば,フローごとに受信パケット数を計測している。そして,上記a及びbにて述べたとおり,オープンフロースイッチは,受信パケットに対応する「インストラクション」を適用してパケットを処理するのであるから,フローごとに受信パケット数を計測することは,当該フローに対応する「インストラクション」を適用して処理される受信パケットのパケット数を計測することにほかならない。
したがって,引用例には,「インストラクションを適用して処理される受信パケットのパケット数を計測」することが記載されていると認められる。

d 上記(ウ)及び(エ)の記載によれば,各オープンフロースイッチは,フローエントリを含むフローテーブルを複数含んでおり,パケットは,フローエントリに含まれるGoToインストラクションにより別のフローテーブルに明示的に向けられ,それぞれのフローテーブルにおいて,適合したフローエントリに対応するインストラクションを適用した処理が行われる。すなわち,オープンフロースイッチは,上記aで述べた「第1のフローテーブル」以外にも,フローエントリを含むフローテーブルを含んでいる。ここで,「第1のフローテーブル以外のフローテーブル」及び当該フローテーブルに含まれる「フローエントリ」を,それぞれ「第2のフローテーブル」及び「第2のエントリ」と称することは,いずれも任意である。
また,同一のパケットが「第2のエントリ」と「第1のエントリ」の双方と適合する以上,「第2のエントリ」と「第1のエントリ」とは対応する関係にあるといえる。
さらに,引用例において,同一のフローに属する複数のパケットが同一のインストラクションにより処理されることは明らかであり,当該複数のパケットを「パケットフロー」と称することは任意である。
したがって,引用例には,「第2のエントリを含む第2のフローテーブルを有」すること,及び「前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれるインストラクションとに基づいて,前記インストラクションを含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれるインストラクションによって処理されるパケットフローを処理する」ことが記載されていると認められる。

e 引用例は,ネットワーク上のオープンフロースイッチが受信したパケットを処理して転送する方法について記載されているから,「通信方法」であるといえる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 制御装置から追加,更新及び削除された,受信パケットを処理するためのインストラクションを含む第1のエントリを含む第1のフローテーブルを有し,
受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれるインストラクションを適用して該受信パケットを処理し,
インストラクションを適用して処理される受信パケットのパケット数を計測し,
第2のエントリを含む第2のフローテーブルを有し,
前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれるインストラクションとに基づいて,前記インストラクションを含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれるインストラクションによって処理されるパケットフローを処理する
ことを特徴とする通信方法。」


[周知技術等]
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-74704号公報(以下,「周知例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(カ)「【0013】
上述した課題を解決し,目的を達成するために,本発明にかかるネットワークスイッチは,加入者宅内のネットワーク機器と広域ネットワークとの間のパケット通信を中継するネットワークスイッチであって,加入者毎の過去のある時点から現在までのトラフィック総量の統計値を収集する統計値を収集する統計値収集手段と,前記統計値に応じて,加入者毎に,少なくとも第1?第3の段階に設定された複数の最大転送速度のうちの一つを選択し,前記加入者宅内のネットワーク機器によって送受信されるパケットを,選択した最大転送速度以下の速度で転送されるように制御する転送速度制御手段と,を備える。ここで,前記第1の段階は,前記統計値が第1の閾値を超えるまでの第1の最大転送速度を示し,前記第2の段階は,前記統計値が前記第1の閾値を超えた際の,前記第1の最大転送速度よりも遅い第2の最大転送速度を示し,前記第3の段階は,前記統計値が前記第1の閾値よりも大きい第2の閾値を超えた際の,前記第2の最大転送速度よりも遅い第3の最大転送速度を示す。」(5ページ)

(キ)「【0021】
図1に示したネットワークスイッチ10は,加入者宅ネットワーク機器12-x毎に異なるポートが割り当てられている。したがって,加入者を識別するための情報はポートである。ネットワークスイッチ10は,加入者宅ネットワーク機器12-xに接続されるポート毎のトラフィック量の統計値を統計値収集部16により収集する。」(6ページ)


本件の原出願日前に国際公開された国際公開第2011/074516号(以下,「周知例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(ク)「[0030]
データセンターのサーバ群には,複数のテナントが収容される。「テナント」とは,提供者が提供するサービスや機能を利用するユーザを識別する単位,並びに,提供者が提供するアプリケーションを識別する単位である。ここで,提供者とは,サーバの運用や運営を行う者である。1台の物理サーバに,1つのテナントが収容されてもよい。また,1台の物理サーバ上で複数の仮想サーバが稼働する場合,その1台の物理サーバに複数のテナントが収容されてもよい。」(8ページ)

(ケ)「[0038]
図3Bは,スイッチ10の構成の他の例を示すブロック図である。図3Aの場合と比較して,スイッチ10は更に負荷監視ブロック16を備えている。負荷監視ブロック16は,フロー(テナント)毎のリソース使用量(例:トラヒック転送量)を計測する。負荷監視ブロック16は,計測したリソース使用量を示す計測情報を,定期的にコントローラ100に通知する。
[0039]
あるテナントのフローに関して,ネットワークシステム1内の当該フローの経路(パケット転送経路)は,コントローラ100によって設計される。そして,コントローラ100は,その設計経路に沿ったフロー通信が実現されるように,設計経路上の各スイッチ10を制御する。設計経路上の各スイッチ10は,コントローラ100からの指示に従って,自身のフローテーブル14等の設定を行う。このような処理を実現するためのコントローラ100とスイッチ10との間のインタフェース方式としては,例えば,Openflow(http://www.openflowswitch.org/を参照)が挙げられる。この場合,「Openflow Controller」がコントローラ100となり,「Openflow Switch」が各スイッチ10となる。Openflowの「Secure Channel」を利用することにより,各スイッチ10のフローテーブル14の設定が可能である。」(10?11ページ)

(コ)「[0061]
また,スイッチ設定ブロック130は,各スイッチ10に,トラヒック転送量の上限値を設定してもよい。具体的には,スイッチ設定ブロック130は,テナント情報TNT(図7参照)を参照して,各テナントのトラヒック転送量が「リソース条件」以内となるように,各スイッチ10にトラヒック転送量の制御を指示してもよい。
[0062]
設計経路上の各スイッチ10は,ステップS16(図9参照)を行う。具体的には,設計経路上の各スイッチ10は,コントローラ100からの指示に従って,当該フローに関連するエントリを自身のフローテーブル14に追加する。その後,コントローラ100は,受信パケットを要求元スイッチに返送する。それ以降,設計経路上の各スイッチ10は,当該フローのパケットを受け取った際に,そのパケットを指定された経路に沿って転送することができる。また,各スイッチ10は,コントローラ100からの指示に従って,各テナントのトラヒック転送量がリソース条件以内となるように,トラヒック転送量を制御してもよい。」(16ページ)

(カ)?(コ)の記載及び図面並びに当業者の技術常識を考慮すると,「スイッチが,ユーザ毎の統計値と条件とに基づいて,前記ユーザから転送されるパケットの転送速度を制御する。」ことは周知であると認める(以下,「周知技術1」という。)。


ウ 対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比すると,

(ア)補正後の発明の「制御装置から通知された,受信パケットを処理するための処理規則」に関し,本願明細書には制御装置からの「通知」は明記されていないが,【0017】には処理規則が制御装置から「設定」されることが記載されているから,補正後の発明における「通知」は,「設定」の意味を少なくとも含んでいると認められる。一方,引用発明において第1のエントリを「制御装置から追加,更新及び削除」することは,「制御装置から設定」しているといえる。したがって,引用発明の「制御装置から追加,更新及び削除された,」は,本願発明の「制御装置から通知された,」に含まれる。そして,本願明細書の【0017】によれば,補正後の発明の「処理規則」は「インストラクション」を含んでいるから,補正後の発明の「制御装置から通知された,受信パケットを処理するための処理規則を含む第1のエントリを第一の記憶手段に記憶し,」と引用発明の「制御装置から追加,更新及び削除された,受信パケットを処理するためのインストラクションを含む第1のエントリを含む第1のフローテーブルを有し,」とは,「制御装置から通知された,受信パケットを処理するための処理規則を含む第1のエントリを有し,」の点で一致している。

(イ)上記(ア)のとおりであるから,引用発明の「受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれるインストラクションを適用して該受信パケットを処理し,」は,補正後の発明の「受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則に基づいて該受信パケットを処理し,」に含まれる。

(ウ)本願明細書の【0019】によれば,補正後の発明の「パケット処理に関する統計値」は「処理される受信パケットのパケット数」を含んでいる。
したがって,引用発明の「インストラクションを適用して処理される受信パケットのパケット数を計測し,」は,補正後の発明の「前記処理規則によるパケット処理に関する統計値を計測し,」に含まれる。

(エ)補正後の発明の「第2のエントリを第二の記憶手段に記憶し,」と引用発明の「第2のエントリを含む第2のフローテーブルを有し,」とは,「第2のエントリを有し,」の点で一致している。

(オ)上記(ア)で述べたとおり,補正後の発明の「処理規則」は「インストラクション」を含んでいるから,補正後の発明の「前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフロー」は,「前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれるインストラクションによって処理されるパケットフロー」を含んでいる。
したがって,補正後の発明の「前記統計値と,前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれる前記条件とに基づいて,前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを制御する」と引用発明の「前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれるインストラクションとに基づいて,前記インストラクションを含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれるインストラクションによって処理されるパケットフローを処理する」とは,「前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれるものに基づいて,前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローを処理する」点で一致している。


以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。

(一致点)
「 制御装置から通知された,受信パケットを処理するための処理規則を含む第1のエントリを有し,
受信パケットに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則に基づいて該受信パケットを処理し,
前記処理規則によるパケット処理に関する統計値を計測し,
第2のエントリを有し,
前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれるものに基づいて,前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローを処理する
ことを特徴とする通信方法。」

(相違点1)
一致点の「第2のエントリを有し」に関し,補正後の発明は,第2のエントリが「当該統計値に基づいてパケット転送レートを制御するための条件を含む」ことを特定しているのに対し,引用発明は,どのようなものを含むのか明らかにしておらず,それにともない,パケットフローの処理に関し,引用発明は,補正後の発明の「前記統計値と,前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれる前記条件とに基づいて,前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを制御する」構成が明らかでない点。

(相違点2)
一致点の「第1のエントリ」及び「第2のエントリ」に関し,補正後の発明は,それぞれ「第一の記憶手段」及び「第二の記憶手段」に記憶するのに対し,引用発明は,それぞれ「第1のフローテーブル」及び「第2のフローテーブル」に含まれるものの,それぞれを「第一の記憶手段」及び「第二の記憶手段」に記憶する構成が明らかでない点。


以下,上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
引用発明のパイプライン処理の内容としてどのような処理を採用するかは当業者が適宜定めるべき事項であるところ,ユーザ毎の統計値と条件とに基づいて,前記ユーザから転送されるパケットの転送速度すなわち転送レートを制御することは周知の事項(周知技術1)であるから,スイッチ本来の処理であるパケットの「転送」などの処理に加えて,パイプラインにより「転送レートの制御」処理も行うよう構成することに格別の困難はなく,容易である。そしてその際に,「転送レートの制御」処理に関わるものと,「「転送」などの処理」に関わるものとを,別々のフローテーブルのエントリに含めること,換言すれば,上記一致点の「前記受信パケットに対応する前記第2のエントリに含まれるもの」を「統計値に基づいてパケット転送レートを制御するための条件」とし,上記一致点の「前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローを処理する」を「前記条件を含む前記第2のエントリに対応する前記第1のエントリに含まれる処理規則によって処理されるパケットフローの転送レートを制御する」とすることは,自ずと導き出されることにすぎない。

(相違点2について)
引用発明においても,フロースイッチが「第1のエントリを含む第1のフローテーブル」及び「第二のエントリを含む第2のフローテーブル」を何らかの記憶手段に記憶していることは明らかであり,当該記憶手段をそれぞれ「第一の記憶手段」及び「第二の記憶手段」とすることは,当業者が適宜なし得たことである。

そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明及び周知技術等に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおり,補正後の発明は,引用発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3 結語
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年12月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1 本願発明と補正後の発明」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。

2 引用発明及び周知技術等
引用発明及び周知技術等は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明及び周知技術等」の項で認定したとおりである。

3 対比・判断
そこで,本願発明と引用発明とを対比するに,本願発明は補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。

そうすると,本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「ウ 対比・判断」の項で検討したとおり,引用発明及び周知技術等に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-11 
結審通知日 2015-08-18 
審決日 2015-09-07 
出願番号 特願2013-228764(P2013-228764)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
P 1 8・ 575- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 翔太  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 大塚 良平
▲高▼橋 真之
発明の名称 通信装置、制御装置、通信システム、通信制御方法及びプログラム  
代理人 加藤 朝道  

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