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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1307217
審判番号 不服2014-5565  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-26 
確定日 2015-10-27 
事件の表示 特願2010-178345「SCHIZOCHYTRIUMPKS遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月11日出願公開、特開2010-252811〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯及び本願発明
本願は、平成12(2000)年1月14日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年1月14日 米国)とする特願2000-593752号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願とする特願2007-289187号の一部を、さらに特許法第44条第1項の規定により平成22年8月9日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1、14、15、及び21に係る発明は、平成25年4月10日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1、14、15、及び21項に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】配列番号73と少なくとも90%同一であり、かつデヒドラーゼ活性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、単離された核酸分子。」(以下、「本願発明1」という。)
「【請求項14】請求項1?9のいずれか一項に記載の単離された核酸分子の少なくとも1つのコピーを含む、組換え細胞。」
「【請求項15】植物細胞である、請求項14記載の組換え細胞。」
「【請求項21】植物における長鎖多価不飽和脂肪酸の産生のための方法であって、植物により長鎖多価不飽和脂肪酸が産生される条件下で、請求項15?17のいずれか一項記載の組み換え植物細胞の複数を含む植物を生育させる段階を含む、方法。」(以下、「本願発明21」という。)

2.原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の1つは、本願請求項1?24に記載の発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものであり、もう1つは、本願の発明の詳細な説明は、本願請求項1?24に記載の発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、というものである。

3.特許法第36条第6項第1号について
(1)本願発明1
本願発明1の解決しようとする課題は、デヒドラーゼ活性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供することであり、本願発明1が、本願の発明の詳細な説明に記載されているといえるためには、本願発明1の核酸分子がコードする配列番号73のアミノ酸配列からなるタンパク質が、デヒドラーゼ活性を有することが本願明細書に記載されているか、あるいは、本願出願時の技術常識を参酌すれば、該タンパク質がデヒドラーゼ活性を有することを当業者であれば理解できるように、本願明細書に記載されていなければならない。

(2)本願明細書の記載
本願明細書には、本願発明1の配列番号73のアミノ酸配列をコードする具体的な核酸配列を、配列番号76として示しており、これらについて本願明細書には、
(i)「(実施例8)
Schizochytrium由来のPKS関連配列
本実験の目的は、PKS遺伝子をコードするSchizochytriumに由来する配列を同定することであった。Schizochytrium由来のcDNAライブラリを構築し、約8,000個のランダムクローン(EST)を配列決定した。ShewanellaのEPA合成遺伝子によりコードされたタンパク質の配列をSmith/Watermanアラインメントアルゴリズムを用いてSchizochytrium ESTの予測アミノ酸配列と比較した。ORF6(Shewanella)のタンパク質配列をSchizochytrium EST由来のアミノ酸配列と比較した場合、38個のESTクローンが有意な相同性の程度を示した(P<0.01)。ORF7のタンパク質配列をSchizochytrium ESTにより比較した場合、4個のESTクローンが有意な相同性を示し(P<0.01)、分子が均質であることが示唆された。ORF8及びORF9のタンパク質配列をSchizochytrium ESTと比較した場合、7及び14個のクローンがそれぞれ有意な相同性を示した(P<0.01)。」(段落【0102】)、
(ii)「2つのさらなるDNAクローンがShewanella ORF8と相同であった。LIB81-015-D5はORF8のC末端と相同であった。LIB081-015-D5の5’配列は、アミノ酸1900から前方へShewanella ORFと整列させることができた。LIB81-015-D5の3’末端は、Shewanella ORF9(図28参照)と整列させることができた。LIB81-015-D5の読み取り枠によってコードされたアミノ酸配列(図29)(配列番号73)は配列の5’末端まで延びていたため、このクローンは完全長である可能性が低い。LIB81-042-B9は、Shewanella ORF8のアミノ酸1150?1850と相同であった。LIB81-042-B9はポリ-A-テイルを有しておらず、従って追加領域が配列の下流に見出される、部分DNAである可能性が高かった。PCRプライマーTACCGCGGCAAGACTATCCGCAACGTCACC(配列番号74)及びGCCGTCGTGGGCGTCCACGGACACGATGTG(配列番号75)を使用して、SchizochytriumゲノムDNA由来の約500ヌクレオチド断片を増幅した。プライマーTACCGCGGCAAGACTATCCGCAACGTCACCLIB81-042-B9に由来し、プライマーGCCGTCGTGGGCGTCCACGGACACGATGTGにはLIB81-015-D5に由来した。従って、LIB81-042-及びLIB81-015-D5は同じmRNAの異なる部分を示し、1つの部分DNA配列(図27Cを参照)(配列番号76)内に組み込むことができた。LIB81-042-B9の読み取り枠も5’末端まで延びていたため、この部分DNAは完全長である可能性が低い。更なるDNA又はゲノムクローンの分析により、LIB81-042-B9により表されたmRNAの全長を決定することができるであろう。」(段落【0106】:下線部は当審で付与した。以下同じ。)、と記載されている。

上記記載によれば、本願発明1の核酸分子は、Schizochytrium由来の構築したcDNAライブラリの約8,000個のランダムクローン(EST)を配列決定し、ShewanellaのEPA合成遺伝子系によりコードされたタンパク質の配列をSmith/Watermanアラインメントアルゴリズムを用いてSchizochytrium ESTの予測アミノ酸配列と比較したところ、5’末端がShewanellaのORF8のC末端と相同であり、3’末端がShewanella ORF9と相同であるクローンLIB81-015-D5が得られたこと、LIB81-015-D5の読み取り枠によりコードされるアミノ酸配列が配列番号73であり、配列番号73をコードする核酸配列を含む核酸分子が、配列番号76であることがわかる。
また、段落【0034】と第2図には、Shewanella ORF8のC末端側に2つのDH(デヒドラーゼ)ドメインが存在することが記載されている。

しかしながら、配列番号76の核酸配列を含む核酸分子によりコードされる約1600アミノ酸からなる配列番号73のアミノ酸配列に関する本願明細書の記載は、これだけであって、クローンLIB81-015-D5がコードするアミノ酸配列(以下、「配列番号73のアミノ酸配列」という。)のどの部分のアミノ酸配列が、どの程度の同一性で、Shewanella ORF8又は9のどの部分に相同であるかについては記載されておらず、また、配列番号73のアミノ酸配列からなるタンパク質がデヒドラーゼ活性を有することは、本願明細書には具体的に記載されていない。

(3)当審の判断
上記(2)に記載したように、本願明細書には、配列番号73のアミノ酸配列からなるタンパク質が、デヒドラーゼ活性を有することは具体的に記載されておらず、また、配列番号73のアミノ酸配列と、Shewanella ORF8及び9のアミノ酸配列自体は記載されているものの、両者が、どの部分でどの程度の配列同一性を有するかは、本願明細書に記載されていないから、配列番号73のアミノ酸配列からなるタンパク質について、その機能、活性を実験的手法で確認するまでもない程に、Shewanella ORF8及び9と高い構造と機能の相関があると推認することはできない。
そうすると、Shewanella ORF8及び9と高い構造と機能の相関を推認することができない以上、本願出願時の技術常識を参酌しても、該タンパク質がデヒドラーゼ活性を有することを、当業者であれば理解できるように本願明細書に記載されているとはいえず、本願発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

一方、審判請求人は、平成26年5月14日付審判請求書の手続補正書で、「本願明細書はShewanellaのORFの配列データを開示していますので、本願明細書が配列番号73のDHドメインとShewanellaのORF8の対応するドメインとの配列同一性、および配列番号72のCLFドメインとShewanellaのORF8およびORF7の対応するドメインとの配列同一性を開示していることは、当業者には明らかです。これらのドメインは30%程度の同一性を有しています。このように、本願発明に関するドメインとShewanellaの対応するドメインとの配列同一性は本願明細書から理解されるものですが、請求人はご参考の一つとして、関連出願である特願2002-582209号(特表2005-510203号)の図2において視認性の高い図が提供されていることを申し添えます。請求人は、さらに視認性の高い図2のカラー版を、本補正書と同日付の手続補足書にて提出する添付資料2として提出いたします。」と主張しており、本願明細書又は図面には、Shewanella ORF8及び9のアミノ酸配列が示されていることから、それらのDHドメインと配列番号73のアミノ酸配列の対応するドメイン間の配列同一性が30%であることは、当業者であれば明らかであるという審判請求人の主張を、仮に採用した場合について検討しておく。

上記添付資料2として提出された図2は、本願出願後の2年後に出願された関連出願の図面であり、ShewanellaのORF7と8(注:本願明細書又は図面ではORF8と9と表示されていた。)とSchizochytriumのORF Cとのアミノ酸配列の相同性を示した図であり、審判請求人は、ORF Cの全長が本願発明1の配列番号73のアミノ酸配列をコードする配列番号76の核酸配列と一致すると主張する。
図2によれば、ORF CのN端側には、ShewanellaのORF7のC端側にある2つのDHドメインと35%以上相同な2つのDHドメインがあり、ORF CのC端側には、ShewanellaのORF8全体と50%以上相同なERドメインがあることが示されており、本願発明1の配列番号73のアミノ酸配列が、「5’末端がShewanellaのORF8のC末端と相同であり、3’末端がShewanella ORF9と相同である」という本願明細書の記載と一致する。
しかしながら、ERドメインとは、エノールリダクターゼ活性という生じた二重結合を還元する活性を有するドメインであり、DH(デヒドラーゼ)活性により生じた二重結合を還元する活性である。そうすると、配列番号73のアミノ酸配列からなるタンパク質が、デヒドラーゼ活性を有する領域を含むと推認できたとしても、同時にエノールリダクターゼ活性を有する領域も含むとも推認されるので、そのような異なる活性を有する領域を含むタンパク質自体の活性は、依然として不明であり、デヒドラーゼ活性を有するとは推認できない。

このように、審判請求人の主張を仮に本願出願時の技術常識として参酌しても、配列番号73のアミノ酸配列からなるタンパク質がデヒドロラーゼ活性を有することを、当業者であれば理解できるように本願明細書に記載されているとはいえないから、本願発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)本願発明21
本願請求項21は、請求項15?17を引用する形式で記載されており、請求項14を引用する請求項15を引用する態様のものは、請求項14及び15を読み込むと、
「【請求項21】植物における長鎖多価不飽和脂肪酸の産生のための方法であって、植物により長鎖多価不飽和脂肪酸が産生される条件下で、請求項1?9のいずれか一項に記載の単離された核酸分子の少なくとも1つのコピーを含む、組み換え植物細胞の複数を含む植物を生育させる段階を含む、方法。」となる。
そこで、上記態様の本願請求項21に記載の発明のうち、さらに請求項1に記載の単離された核酸分子を用いる態様の本願発明21(以下、「本願発明21’」 という。)について、以下検討する。

本願明細書には、上記3.(2)に記載された事項の他に、
(iii)「本発明により、種々の生物に由来するPKS様遺伝子を使用して、植物細胞を形質転換したり、形質転換した植物細胞でのPUFAs生合成を介して植物細胞膜又は植物種子油の脂肪酸組成物を改変したりすることができる。PKS様系の性質により、植物細胞で生産された脂肪酸の最終産物は、多くの特定の化学構造を含むように選択又は設計することが可能である。例えば、脂肪酸は以下の変化を有し得る:炭素鎖に沿った種々の位置におけるケト又はヒドロキシ基の数の変化;二重結合の数及び種類(シス又はトランス)の変化;線形炭素鎖の分岐(メチル、エチル、又はより長い分岐部分)の数及び種類の変化;及び飽和炭素の変化。さらに、最終産物である脂肪酸の特定の長さは、使用する特定のPKS様遺伝子によって制御することが可能である。」(段落【0107】)、と記載されている。

しかしながら、本願明細書には、上記の一般的記載があるだけで、実際に本願発明1の核酸分子で植物細胞を組み換えて作成した組換え植物が、長鎖多価不飽和脂肪酸を産生したことは記載されていない。

そして、長鎖脂肪酸生合成に関与する酵素遺伝子群については、その一部の酵素遺伝子だけでは長鎖脂肪酸を合成できないことが本願出願時の技術常識であるから、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願発明1の核酸分子で組換えた植物が長鎖多価不飽和脂肪酸を産生することを、当業者であれば理解できるように本願明細書に記載されているとはいえず、本願発明21’は、本願の発明の詳細な説明に記載されていない。

4.特許法第36条第4項について
(1)本願発明1
上記3.(3)に記載したとおり、配列番号73のアミノ酸配列からなるタンパク質がデヒドラーゼ活性を有するか不明であるところ、本願発明1はさらに、「配列番号73と少なくとも90%同一であり、かつデヒドラーゼ活性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む」ものであるから、まず、デヒドラーゼの基質を決定しなければならず、その他、本願発明1の配列番号73と少なくとも90%同一であり、かつデヒドラーゼ活性を有するタンパク質を取得するためには、当業者といえども過度な実験、試行錯誤を要することは明らかである。
したがって、本願の詳細な説明は、本願発明1を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)本願発明21
上記3.(4)に記載した理由と同様な理由により、本願の詳細な説明は、本願発明21’を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
したがって、本願請求項1及び21に記載の発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、また、本願の発明の詳細な説明は、本願請求項1及び21に記載の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいないから、本願は、特許法第36条第6項第1号又は同条第4項に規定する要件を満たしておらず、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-29 
結審通知日 2015-06-01 
審決日 2015-06-17 
出願番号 特願2010-178345(P2010-178345)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 肇  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 ▲高▼ 美葉子
郡山 順
発明の名称 SCHIZOCHYTRIUMPKS遺伝子  
代理人 新見 浩一  
代理人 清水 初志  
代理人 春名 雅夫  
代理人 川本 和弥  
代理人 井上 隆一  
代理人 大関 雅人  
代理人 佐藤 利光  
代理人 五十嵐 義弘  
代理人 小林 智彦  
代理人 山口 裕孝  
代理人 刑部 俊  

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