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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1307219
審判番号 不服2014-8597  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-08 
確定日 2015-10-26 
事件の表示 特願2011- 82308「中間代謝物質濃度の操作による免疫反応の調節」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日出願公開、特開2011-137040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成16年2月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年2月27日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2004-52560号の一部を平成23年4月1日に新たな特許出願としたものであって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成23年 4月28日 :手続補正書の提出
平成24年10月 9日付け:拒絶理由通知
平成25年 4月12日 :意見書及び手続補正書の提出
平成25年 7月23日付け:拒絶理由通知(最後の拒絶理由)
平成25年12月25日付け:拒絶査定
平成26年 5月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成27年 1月 5日付け:審尋
平成27年 1月22日 :回答書の提出

第2 平成26年5月8日提出の手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年5月8日提出の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の
「【請求項1】
哺乳類被験者のウイルス性感染症を治療するための薬剤として使用されるグルコシルセレブロシド。」
から、
補正後の
「【請求項1】
肝炎を治療するための薬剤組成物を製造するためのグルコシルセレブロシドの使用であって、肝炎は免疫剤媒介肝炎か非アルコール性脂肪肝炎であるグルコシルセレブロシドの使用。」
と補正された。

本件補正前後の発明特定事項を対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「哺乳類被験者のウイルス性感染症」を「肝炎」とし、さらに「肝炎は免疫剤媒介肝炎か非アルコール性脂肪肝炎」とする補正を包含する。

2.補正の適否
(1)新規事項の追加について
本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、「免疫剤媒介肝炎」又は「非アルコール性脂肪肝炎」なる記載はない。また、本願の当初明細書等には、治療対象であるウイルス感染症の例としてHCVやHBVが記載されており、ここで、HCVはC型肝炎ウイルス、HBVはB型肝炎ウイルスの略称であると認められる。しかしながら、免疫剤媒介肝炎又は非アルコール性脂肪肝炎はウイルス感染によって生じるものではなく、ウイルス感染症には該当しないものである。そうすると、本願の当初明細書等に、治療対象であるウイルス感染症の例としてHCVやHBVが記載されているとしても、免疫剤媒介肝炎又は非アルコール性脂肪肝炎が治療対象であることが自明の事項であるとはいえない。
そうすると、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものとはいえず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(2)審判請求人の主張について
(2-1)審判請求人は、平成26年5月8日提出の審判請求書において、本件補正について、「対応欧州特許第1675547号B1に基づくものであります」と主張している。
しかしながら、補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならないことが規定されているのに対し、上記欧州特許は当初明細書等に該当するものではない。そして、上記(1)に記載したとおり、本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたとはいえないから、請求人の上記主張を採用することはできない。
なお、欧州特許第1675547号B1は、本願とは異なる薬理試験及びその結果が開示されている等、その開示内容が本願とは大きく異なるものであり、本願に対応するものとは認められない点も付言する。

(2-2)審判請求人は、平成27年 1月22日提出の回答書において、「審査官の前置報告書は、出願人提出の補正内容が要旨変更に該当するとのことでありますので、出願人は再度の補正を試みたいと願っており、その機会を与えて戴きたく懇請致します」と述べている。
しかしながら、現在は、そもそも補正をすることができると定められた期間ではなく、また、具体的な補正案を提示しているものでもないから、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、その余のことを検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年5月8日提出の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1乃至9に係る発明は、平成25年4月12日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1乃至9に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
哺乳類被験者のウイルス性感染症を治療するための薬剤として使用されるグルコシルセレブロシド。
【請求項2】
静脈内手段、筋肉内手段、皮下手段、腹膜内手段あるいは経口手段から構成される手段により投与用に製剤化される請求項1に記載のグルコシルセレブロシド。
【請求項3】
前記ウイルス性感染症は、HBV感染症、HCV感染症あるいはHIV感染症から選択される請求項1に記載のグルコシルセレブロシド。
【請求項4】
前記哺乳類被験者は人間である請求項1に記載のグルコシルセレブロシド。
【請求項5】
ウイルス性感染症に罹患した哺乳類被験者から採取された細胞の試験管内治療のためのグルコシルセレブロシド。
【請求項6】
前記ウイルス性感染症は、HBV感染症、HCV感染症あるいはHIV感染症から選択される請求項5に記載のグルコシルセレブロシド。
【請求項7】
前記被験者から採取された細胞は、末梢血液単核細胞(PBMCs)、樹状細胞、T細胞、幹細胞、NK細胞、NKT細胞及びCD1d細胞を構成する請求項5に記載のグルコシルセレブロシド。
【請求項8】
前記哺乳類被験者は人間である請求項5に記載のグルコシルセレブロシド。
【請求項9】
哺乳類被験者のHCV感染症を治療するための薬剤として使用されるグルコシルセレブロシド。」

2.原査定の理由
一方、原査定の理由は、平成25年 7月23日付け拒絶理由通知書に記載された以下のとおりのものである。
「3.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・・
理由3,4について
本願請求項1に係る発明は「哺乳類被験者のウイルス性感染症を治療するための薬剤として使用されるグルコシルセレブロシド。」の発明である。
医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分として記載されている物質自体から、それが発明の特定事項である医薬用途に利用できるかどうかを予測することは困難であるから、当業者がその実施をすることができる程度に記載されているというためには、明細書において、当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により裏付ける必要がある。また、その裏返しとして、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超えるものである場合には、その特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
これを本願についてみると、明細書には、ゴーシェ病の患者から得られた細胞は患者でない者から得られた細胞に対して、HCVの存在下におけるIFN-γおよびIL-10の増加が観察されることが示されているものの、グルコシルセレブロシドを哺乳類に投与することでウイルス性感染症が治療できることを裏付ける薬理データ等の記載がされていない。
よって、発明の詳細な説明は、請求項1-9に係る医薬組成物に関する発明を当業者が実施することができる程度に記載されているとはいえず、また、これらの請求項に係る医薬組成物の発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるともいえない。」

3.判断
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について
本願発明は、上述のとおり、哺乳類被験者のウイルス性感染症を治療するための薬剤として使用されるグルコシルセレブロシドの発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう物の発明である。また、物の発明における実施には、その物の使用をする行為が含まれる。そして、本願発明におけるその物の使用とは、上記グルコシルセレブロシド哺乳類被験者に投与し、かつ、哺乳類被験者においてウイルス性感染症の治療という薬理作用をもたらすことにほかならない。そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるためには、グルコシルセレブロシドが上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされている必要がある。
これを本件について検討するに、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(ア)「【0003】
代謝経路に関連する欠陥遺伝子産物を有することが最近特徴づけられている多数の遺伝病がある。これらの欠陥はこの種の経路の正常な最終生成物の有効性を限定したり及び更なる処理を減少させるかあるいは除去された中間体を増加させる対をなす影響を及ぼしてきた。この欠損及び機能の減少が個々の発現にとって通常有害でありしばしば致命的であるが、この経路の遮断の結果として起こる多種多様な効果を理解するのに風穴を開けた。このような遺伝病の一つとしてゴーシェ病があり、グルコシルセレブロシドを分解する能力が減少することによりグルコシルセレブロシドが増加するものである。多数の突然変異部位が位置しており、これがグルコシルセレブロシド活性の欠損の原因であり疾患状態の発現の程度を変化させる。ゴーシェ病は疾患の特定の発現表現型によりI、II、IIIのクラスに現在分類されている。
【0004】
これは中間代謝物質の増加に伴う脂質貯蔵病あるいは脂質処理病であるが、この病気の顕著な提示は免疫性システムの欠陥が同様にあることである。・・・免疫性システムが研究されるにつれて、免疫活性を促進あるいは抑制するのに密接にかかわる多数のサイトカインが発見された。最近の報告書では、ゴーシェ病の患者では、いくつかのサイトカインの血清濃度が免疫性システムのほかの構成要素と同様に顕著に変化することが発見された。これらは、IL-1β、IL-1Ra、IL-2R、IL-6、IL-8、IL-10,M-CSF、sCD14、TNF-α、ガンマグロブリンおよびβ2ミクログロブリンが含まれる(・・・)。これらの研究はこれらの標識の反応の均一性を例示していないことは明らかであるが、ゴーシェ病の発現は非常に変異する表現型を有することは長く知られていた。
【0005】
免疫性標識におけるこの効果は直接グルコシルセレブロシドの濃度の蓄積につながる。例えば、すでに引用されたいくつかの研究では、アルグルセラーゼ(alglucerase)を伴う患者の治療の前後の両方において顕著な効果を奏した。これらの研究では、この治療の後に異常に高かった多くの免疫活性標識がより正常な濃度に戻されたことが発見された。さらに、培養中に成長するマクロファージにグルコシルセレブロシドを直接作用させると、IL-1の分泌が誘導されるとする早期の研究がある。これは、より有名なラックマン他による論文に記載され(ケンブリッジのティモシーコックスグループ)(キュージェイエム2000;93:237-244)、これは広範囲の肝繊維性を有する4人の患者が記載されており、ゴーシェ病の患者の肝硬変の発症は珍しく通常脾臓摘出を受けた患者において生じることが強調されている。未治療のゴーシェ病の患者の多くは肝腫にかかっており、およそ20%も(特に肝細胞の)LFTsが上昇しているため、何かがこれらの患者に対して肝硬変が発症することから保護していると考えられる。」(段落【0003】?【0005】)
(イ)「【0018】
代謝及び細胞のプロセスの末梢調節はホルモン信号により決定される。免疫性システムの役割は、既に外部の病原体または化合物に対する保護を提供するものに主に限定されると早くから理解されていた。この効果は悪影響をもたらす自己(例えば自己免疫障害)を有する偶発的な相互作用により伴う。異物のこのような免疫監視に加えて、免疫性システムは代謝プロセスの監視にも携わることができる。このように、免疫反応は代謝物質の一部あるいは全てのクラスの異常な濃度を認識し、免疫性システム及び異常な濃度間にフィードバックプロセスを提供する。このようにして代謝物質は信号を出力し免疫性メッセンジャーとして作用する。・・・
【0019】
この相互作用の裏付けは、異常な免疫状態が独立して免疫システムに影響を及ぼすことができる2つの異なる方法を重ね合わせることから導き出された予想外の結果から得られた。一つの方法としては、HCVによる感染であり、感染した被験者に対して免疫反応性応答並びに免疫抑制応答両方を伝達する作用因子であった。(・・・)。もう一つの方法としては、中間代謝物質を高濃度にした結果多くの免疫性異常を有する前述したゴーシェ病であった。これらの驚くべき結果は、HCV感染を伴ったゴーシェ病患者(n=5)、HCV感染していないゴーシェ病患者(n=17)、慢性HCV感染したゴーシェ病でない患者(n=15)及び正常な対照者(n=11)からなるグループの分析から導かれた。これらの患者から得られた結果を図1?図6に示す。これらの分析には、HCV特異的T細胞増殖(図1)、HCV特異的IFNγELISPOT(図2)、HCV特異的IL-10ELISPOT(図3)、IFNγ血清濃度(図4)、IL-4血清濃度(図5)、及び末梢NKTリンパ球測定値(図6)が含まれる。」(段落【0018】?【0019】)
(ウ)「【0027】
これらの分析値及び図から、代謝物質の増加した濃度の存在がこれらの被験者の免疫プロフィールに有意な変化をもたらすことが実証された。驚くべきことに、この状態は他の免疫システムの攻撃(HCV感染)により冒されると、代謝物質の上昇が起こらなかった患者に比較してHCV+の患者の免疫プロフィールに有意な影響を及ぼした。この差は、これら2つの状態を重ね合わせると免疫性システムの多様な構成要素において現れた。すなわち、本発明の一つの態様として、代謝物質の濃度を高めることにより患者の免疫構成要素の内の少なくとも一つの変化を起こすことができるよう患者を処置することである。この変化は増強した免疫性応答あるいは減少した免疫性応答のどちらかまたはその両方をもたらす。この変化は免疫性システム中の異なる構成要素で起こり、更に異なる構成要素において異なる方向性を提供し、すなわちある構成要素は増加され、一方の構成要素は減少する。例えば、Th1活性における増加はしばしばTh2反応の減少を伴い、また逆もしかり。また両方のグループが同じ方向に進行することも可能である。例えば、IFN-γ(Th1応答の標識)及びIL-10(Th2応答の標識)は両方とも図2、3及び4において増加することが示された。本発明の更に別の態様として、感染した個体、特にHCV、HBVあるいはHIV感染症の患者の治療は、別の疾患の進行を防ぐために代謝物質の濃度を高めることにより治療できることである。HBVあるいはHCVの場合において、この進行は一方で、線維症及び肝臓の滅失につながる。HIVの場合にはこの進行は免疫適格の損失につながる。」(段落【0027】)
(エ)「

」(【図1】)
(オ)「

」(【図2】)
(カ)「

」(【図3】)
(キ)「

」(【図4】)
(ク)「

」(【図6】)

しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、グルコシルセレブロシドの投与によりウイルス感染症が治癒したことを直接確認した試験結果等の記載はない。
そこで、本願の発明の詳細な説明に記載された試験結果から、グルコシルセレブロシドがウイルス感染症の治療効果を有することを当業者が認識できるかについて、以下に検討する。
上記(ア)によれば、ゴーシェ病患者は体内にグルコシルセレブロシドが蓄積している。また、上記(エ)?(ク)には、ゴーシェ病患者は、HCV特異的T細胞増殖、HCV特異的IFN-γ、HCV特異的IL-10、末梢NKTリンパ球が増加することが記載されている。そして、上記(ウ)、(オ)?(キ)によれば、Th1応答の標識であるIFN-γと、Th2応答の標識であるIL-10は両方とも図2,3及び4において増加するものである。これらの記載から、グルコシルセレブロシドが体内に蓄積しているゴーシェ病患者は、ゴーシェ病に罹患していない患者と比べ、免疫応答に何らかの変化が生じていることは推認できる。しかしながら、IFN-γはTh2細胞を、IL-10はTh1細胞を抑制する作用も有していること、免疫応答はTh1とTh2のバランスにより制御されているものであること等を考慮すると、上記試験において哺乳類被験者の免疫応答が全体としてどのように変化したのかは不明であるし、生じた免疫応答の変化がウイルス感染症の治療効果を示すものであるかも不明である。
さらに、上記(ア)によれば、ゴーシェ病は遺伝病であり、グルコシルセレブロシドを分解する能力が減少し、グルコシルセレブロシドが増加することによるものであるが、ゴーシェ病に罹患していない哺乳類被験者は、ゴーシェ病の患者のような遺伝子変異を有さず、グルコシルセレブロシドを正常に代謝することができるのであるから、ゴーシェ病に罹患していない哺乳類被験者に対し、グルコシルセレブロシドを投与したとしても、ゴーシェ病患者と同様の症状や免疫状態を引き起こすことが明らかであるともいえない。
そうすると、本願の発明の詳細な説明の記載では、グルコシルセレブロシドがウイルス感染症の治療効果を有することまで当業者が的確に認識することができない。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、特許を受けようとする発明がサポート要件を満たすことについては、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。

ここで、本願発明は、上述のとおり、哺乳類被験者のウイルス性感染症を治療するための薬剤として使用されるグルコシルセレブロシドの発明であるから、その課題は、哺乳類被験者において、ウイルス性感染症の治療という薬理作用をもたらすことにほかならない。
しかしながら、3.(1)で説示したように、本願の発明の詳細な説明には、グルコシルセレブロシドが上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえないし、グルコシルセレブロシドが上記薬理作用を示すことは本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、上記薬理試験結果の記載がなされていなくてもグルコシルセレブロシドが上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるといえる、格別の事情も見いだせない。
そうすると、本願の発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は存在しないものとするほかはないが、それにもかかわらず、本願特許請求の範囲には本願発明が記載されているから、本願の特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たすものとはいえない。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成26年5月8日提出の審判請求書において、「特許請求の範囲の前記補正により、審査官殿の御指摘に係る特許の拒絶理由は全て解決しうるものと思料致します」と主張する。
しかしながら、上記主張における「前記補正」は、第2で記載されたとおり、却下されたものであるから、当該補正に基づく主張は採用することができない。
そして、審判請求人は、平成25年7月23日付けで通知された拒絶理由に対しては、何ら反論をしていない。
なお、審判請求人は、平成24年10月9日付け拒絶理由通知に対する、平成25年4月12日提出の意見書において、「セレブロシドの効果は、本願明細書中の実施例及び図1?6に示されております。」と主張している。しかしながら、本願明細書中の実施例及び図1?6の記載から、グルコシルセレブロシドがウイルス感染症の治療効果を有することを当業者が認識できるといえないことは、上記3.(1)、3.(2)において説示したとおりである。よって、当該出願人の主張を採用することもできない。

4.むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-26 
結審通知日 2015-05-27 
審決日 2015-06-16 
出願番号 特願2011-82308(P2011-82308)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 561- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 祥子田村 直寛  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 齋藤 恵
新留 素子
発明の名称 中間代謝物質濃度の操作による免疫反応の調節  
代理人 浜田 治雄  
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