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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1307224
審判番号 不服2014-12337  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-27 
確定日 2015-10-26 
事件の表示 特願2013-104988「大腸の検査または手術のための処置剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日出願公開、特開2014-224080〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年5月17日の出願であって、平成25年12月20日付け拒絶理由通知に応答して平成26年3月4日受付けで手続補正書と意見書が提出されたが、同年3月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年6月27日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月29日受付けで審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?7に係る発明は、平成26年3月4日受付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は次の通りである。

「大腸検査または手術のための処置剤であって、その処置剤は、酸化マグネシウム粒子を88重量%?97重量%の割合で含み、検査または手術の前に経口投与のために用いられるものである処置剤。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、刊行物として以下の引用文献1乃至引用文献6を引用するものである。

引用文献1.特表2011-500549号公報
引用文献2.特表2007-512336号公報
引用文献3.日本薬学会第124年会要旨集,2004年,4,p.123,30【P1】II-232
引用文献4.特開2003-146889号公報
引用文献5.国際公開第2009/57796号
引用文献6.国際公開第2010/98417号

4.当審の判断
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特表2007-512336号公報(上記引用文献2。以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1-i)「【請求項1】
固体剤形の結腸下剤処方物であって、
(a)少なくとも1つの可溶性結合剤と;
(b)治療上有効な量の少なくとも1つの下剤と、
を含む、結腸下剤処方物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの可溶性結合剤が非発酵性である、請求項1に記載の処方物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの下剤が浸透圧性下剤である、請求項1に記載の処方物。
【請求項4】
前記少なくとも1つの浸透圧性下剤が、エン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酸化マグネシウム、硫酸ナトリウムおよびそれらの塩から選択される、請求項3の処方物。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項4】)
(1-ii)「【請求項26】
患者の結腸を瀉下する方法であって、該方法は、該患者に、請求項1に記載の結腸下剤処方物を投与する工程と、該処方物で結腸を瀉下させる工程とを包含する、方法。
【請求項27】
前記結腸の前記瀉下が、緩下の目的のための部分的瀉下を生じる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記結腸の前記瀉下が、手術または診断の目的のための完全瀉下を生じる、請求項26に記載の方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項26】?【請求項28】)
(1-iii)「【0002】
(発明の分野)
本発明は、固体剤形での結腸下剤処方物およびそれらの使用に関している。本発明の特定の実施形態では、この処方物は、少なくとも1つの下剤および少なくとも1つの可溶性結合剤を含み、これが結腸の可視化および患者の耐容性を有意に改善する。本発明の他の実施形態では、この処方物は不溶性の結合剤を含まないか、または結腸の可視化を邪魔しないレベルの不溶性の結合剤のみを含む。この結合剤は、本発明の特定の実施形態において非発酵性であり得る。」(段落【0002】)
(1-iv)「【0004】
結腸洗浄は通常、ポリエチレングリコール-電解質溶液での洗浄液を用いて達成される。この方法の主な不利な点は、瀉下のために短時間内にかなりの量の液体容積を取り込むことが患者に必要であるということである。例えば、患者は2?3時間の期間内に4リットルの溶液を取り込まなければならないかもしれない(非特許文献3)。多数の患者が有意な容積関連の不快感および有害な副作用、例えば、悪心、筋けいれんおよび嘔吐を経験する(非特許文献4)・・・略・・・
【0006】
準備コンプライアンスを向上し、容積の不快感を減少して、患者の耐容性を増大するためにリン酸塩を含む経口錠剤が処方されている(特許文献1および特許文献2を参照のこと)。・・・略・・・」(段落【0004】?【0006】)
(1-v)「【0014】
・・・略・・・。本発明はまた、完全な下剤として、より高用量の本発明の組成物を提供することによって、結腸内視鏡または外科的手順のために結腸を準備するための完全な瀉下の方法を包含する。さらに、本発明は、本発明の結腸下剤組成物を提供することによって腸からの糞便の排出を維持するかまたは排出を促進する方法を包含する。」(段落【0014】)
(1-vi)「【0025】
(B.本発明の説明)
固体投薬処方物において用いられる多くの結合剤は不溶性である。出願人らは、不溶性の結合剤、例えば微結晶性セルロース(MCC)が結腸に保持されて、結腸の可視化を妨げて、結腸内視鏡手順の時間を長くさせるということを発見した(図1)。しかし、糖、糖アルコール、およびポリサッカライドを含む、通常用いられる可溶性結合剤は、腸管内菌叢によって発酵され得る。発酵過程の間の爆発性ガスの形成は、結腸に関与する特定の手術および診断手順の間、例えば火花を発生し得る装置を用いる結腸内視鏡検査の間の所望されない特性である。いくつかの証明された例では、結腸の電気外科の間のこれらのガスの存在は、爆発を生じている(DeWiltら(1996)J.R.Coll.Surg.Edinb.41:419)。緩下薬の使用の間に生じるガスはまた、不快であり、かつ当惑するものであり得る。本発明の1実施形態では、結腸内視鏡のための結腸の準備などのために、固体剤形の結腸下剤処方物は、少なくとも1つの可溶性の非発酵性の結合剤および少なくとも1つの下剤を含む。別の実施形態では、結腸において火花を生じ得ない診断手順のための結腸の準備、例えば、X線画像化、仮想結腸内視鏡検査(ヘリカル(helical)CT)およびカプセル内視鏡のためなどに、任意の可溶性結合剤をこの組成物中で用い得る。これらの場合に、結合剤または他の構成要素は非発酵性である必要はない。しかし、可溶性の非発酵性結合剤は、火花を生じ得ない手順のために結腸を調製するように組成物に用いられ得る。
【0026】
(1.結合剤および下剤)
可溶性または可溶性でかつ非発酵性である任意の結合剤が、本発明において用いられ得る。しかし、発酵性である結合剤は、任意の他の発酵性成分と同様に、火花が結腸で生じない実施形態でのみ用いられるべきである。本発明の処方物において用いられ得る可溶性の非発酵性の結合剤としては、限定はしないが、ポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。出願人らは、可溶性の非発酵性の結合剤PEGを含有する下剤組成物が腸の準備のための使用後に残滓をほとんどまたは全く残さず、そのため結腸の可視化を向上させるということを発見した(図2)。PEGは、構造式:HOCH_(2)(CH_(2)OCH_(2))_(m)CH_(2)OHによって示され、ここでmは、オキシエチレン基の平均数である。
・・・略・・・
【0028】
可溶性および/または非発酵性の結合剤の量は、固体剤形の所望の特徴に依存して変化し得、そして当業者によって決定され得る。本発明の1実施形態では、PEG結合剤は、5?20重量%、別の実施形態では7.5?15重量%、そしてさらなる実施形態では10重量%を含む。
【0029】
本発明の1実施形態では、本発明の組成物は、不溶性結合剤を含まないか、または結腸の可視化を妨害しないレベルの不溶性結合剤しか含まない。」(段落【0025】?【0029】)
(1-vii)「【0031】
本発明の1実施形態では、少なくとも1つの浸透圧性下剤が本発明の処方物中で用いられる。浸透圧性下剤は、腸の浸透圧を増大し、それによって腸内の液体の保持を促進することによって作用する。この組成物中に含まれ得る浸透圧性下剤としては、塩、例えば、クエン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酸化マグネシウム、硫酸ナトリウム、またはそれらの塩が挙げられる。浸透圧性下剤の他の例としては、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、アルコール糖、L-糖、ポリエチレングリコール、およびラクツロースが挙げられる。しかし、発酵性である下剤は、火花が結腸で生じない実施形態でのみ用いられるべきである。」(段落【0031】)
(1-viii)「【0037】
(2.さらなる必要に応じた成分)
さらなる必要に応じた成分が、例えば、固体剤形の特徴を増強するため、処方プロセスの間の活性成分の粒子の完全性を維持するため、および/または処方物の安全性を増強するために本発明の処方物に含まれてもよい。・・・略・・・」(段落【0037】)
(1-ix)「【0043】
固体投薬処方物を最適化するために、本発明の結腸下剤処方物の成分および量は、当業者の知識に従って調整され得る。結腸下剤処方物の例についてのサンプル成分の範囲は表1に示す。この成分の全てが必要なのではないが、例示のためにのみ示している。例えば、2つの別個の下剤を有することが必須ではなく、またステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤を有することも必須ではないかもしれない。
【0044】


・・・後略。」(段落【0043】?【0044】)
(1-x)「【0053】
本発明の1実施形態では、結腸下剤処方物は、容易に投与される固体剤形である。固体剤形としては、例えば、錠剤、カプセル、またはカプレット(カプセル型錠剤)が挙げられる。この剤形は、コーティングされてもよいし、またはカプセル化されてもよい。本発明の1実施形態では、結腸下剤処方物は、錠剤の形態である。1用量で投与される錠剤の数は、所望の効果に依存して、そして各々の剤形における活性成分の量に依存して変化し得る。清澄な液体が各々の用量とともにとられてもよい。
・・・略・・・
【0055】
本発明の結腸下剤組成物は、種々の経路によって投与され得る。本発明の1実施形態では、この下剤組成物は、経口的に投与される。・・・略・・・。」(段落【0053】?【0055】)
(1-xi)「【0061】
(実施例2:可溶性の非発酵性結合剤を含む結腸下剤処方物の調製)
表3に示される成分を含む結腸下剤処方物は、高剪断造粒(high-shear granulation)を介した熱溶解プロセスを用いて、その後の製粉、潤滑および圧縮によって生成した。
【0062】


詳細には、一塩基性リン酸ナトリウム一水和物(295.9kg)を、10メッシュのステンレス鋼スクリーンを装備したふるいを通過させた。リン酸二水素ナトリウム無水物(106.9kg)およびポリエチレングリコール8000(45.0kg)を各々、20メッシュのステンレス鋼スクリーンを装備したふるいを通過させた。このふるい分けした・・・略・・・
【0064】
翌日、顆粒の温度をチエックして、それが30℃未満であることを確認した。次いで、この顆粒を、ステンレス鋼のスクリーンを装備したコーンミルを通して、1400?1500rpmのインペラの速度で粉砕した。この粉砕された顆粒を1200Lのビンに充填して、ビンのブレンダー中で23分±30秒間、12rpmで混合した。ステアリン酸マグネシウム(2.26kg)を、30メッシュのステンレス鋼ハンドスクリーンを通過させ、次いで1200Lのビン中の、この粉砕した顆粒に添加した。ステアリン酸マグネシウムを、この粉砕した顆粒とともに、ビンのブレンダー中で10分±30秒間、12rpmで混合した。次いで、この混合した混合物を、錠剤プレスを用いて錠剤に圧縮して、錠剤除じん機(deduster)を用いて除じんした。
【0065】
各々の錠剤の標的重量は1676.0mgであって、これは、製造プロセスによって一定に達成された。錠剤の物理的試験によって、錠剤処方は、適切な強度、硬度および崩壊時間を示したことが明らかになった。驚くべきことに、INKP-102錠剤は、同じ量の活性成分(1102mgの一塩基性リン酸ナトリウム一水和物および398mgの二塩基性リン酸ナトリウム無水物)を3つの組成物の各々において用いた場合でさえ(表4)、先行技術の組成物、Diacol(登録商標)およびVisicol(登録商標)よりも小さい錠剤として首尾よく処方され得る。この驚くべき結果は、極めて有益である。なぜなら改善された処方物は患者にとってより耐容性であり、それによって活性成分をさらに容易に投与することが可能になるからである。さらに、INKP-102錠剤の崩壊時間は減少し、その結果、結腸下剤組成物に対するさらに急速の応答が生じる。さらに、この崩壊時間の減少は、単なる錠剤のサイズの減少によっては説明できない。なぜなら錠剤のサイズに比較して崩壊時間には急激な減少があるからである。このさらに急速な応答は、患者が本発明の組成物を、便秘を処置するために投与されようと、結腸を完全に瀉下させるために投与されようと、特に有益である。
【0066】


(実施例3:可溶性の非発酵性結合剤を含む結腸下剤処方物の調製)
表5に示される成分を含む、結腸下剤処方物は、高剪断造粒を介した熱溶解プロセスを用いて、その後の製粉、潤滑および圧縮によって生成する。
【0067】


錠剤処方物の物理的試験は、重量の変化、強度、硬度および崩壊時間を含む。上記のパラメーターによって処方された錠剤は適切な物理的特性を有すると期待される。」(段落【0061】?【0067】)
(1-xii)「【0068】
(実施例4:結腸を瀉下するための結腸下剤組成物)
結腸に関与する外科的または診断的手順を受けている患者は、実施例2または3に記載される組成物のような、40個の錠剤の結腸下剤組成物を投与される。外科的または診断的手順の前夜、全部で20の錠剤について15分間ごとに少なくとも8オンスの清澄な液体とともに3つの錠剤をとる(最終用量は2錠剤である)。必要に応じて、結腸内視鏡の日、(この処置の3?5時間前に開始)、3つの錠剤を、全部で20の錠剤について15分ごとに少なくとも8オンスの清澄な液体とともにとる(最終用量は2錠剤である)。このような処置の結果、腸が十分に洗浄され、結腸の視覚検査を妨害する残滓はほとんどまたは全く示されず、そしてその嗜好性および副作用プロフィールの両方において患者に耐容性であることが期待される。」(段落【0068】)
(1-xiii)「【0071】
(実施例7:INKP-102の結腸洗浄有効性)
本研究の主な目的は、本発明の1実施形態の組成物(表3を参照のこと;本明細書において以降では「INKP-102」)対市販のVisicol(登録商標)錠剤(表2を参照のこと;InKine Pharmaceutical Company,Blue Bell,PA)の結腸洗浄有効性を、結腸内視鏡検査を受けている患者で、直接の可視化によって比較することであった。さらに、INKP-102組成物の安全性を評価した。INKP-102の組成物(1676mgの錠剤)は、上記の表3に示した。Visicol(登録商標)錠剤は、INKP-102と同じ量の活性成分から構成された(1102mgの一塩基性リン酸ナトリウム一水和物および398mgの二塩基性リン酸ナトリウム無水物)。しかし、Visicol(登録商標)錠剤の不活性成分は、上記の表2に示されるように、MCC、コロイド状二酸化シリコンおよびステアリン酸マグネシウムを含んだ。
処置
7つの処置アーム(アームA?G)のうちの1つに患者を無作為に割り当てた(1群あたり約30例の患者)。各々のアームは、表6に記載されるとおり、固有の投与レジメンを有した。患者は、Visicol(登録商標)錠剤(アームA;60gのリン酸ナトリウム用量、表示の推奨どおり)または6つの投薬レジメンのINKP-102(アームB?G;リン酸ナトリウム42?60g)のうち1つのいずれかを投与された。2つの計画された来診があった:スクリーニングの来診(来診0)および結腸内視鏡検査の来診(来診1)。スクリーニングの来診は、来診1の14日前までに行なった。患者は、トライアルの医薬を自己投与した。
【0072】
【表6】 ・・・略・・・
(有効性)
214例の患者が少なくとも1用量の試験薬物をとり、そして彼らの内視鏡検査を終了した。他に注記しない限り、この集団(「全評価(All-Assessed)」集団)を、処置の有効性について評価した。指定された研究レジメンのうち少なくとも90%を終了し、推奨された時間枠の2時間よりも外れて投与されていることはないと承知され、そして結腸内視鏡検査を受けた患者は、「プロトコールどおりの(Per Protocol)」集団として指定され、192例に達した。
【0073】
本研究の主な目的は、結腸内視鏡検査を受けている患者におけるVisicol(登録商標)錠剤と比較したINKP-102の結腸洗浄有効性を評価することであった。結腸洗浄の全体的な質は、(1)この手順の間に観察された糞便(液体、半固体または固体)の量と、(2)単なる「糞便(stool)」ではなく、この手順の間に観察された「結腸内容物(colonic contents)」(結腸の管腔における全ての液体、半固体および固体の物質を含む)の量に基づいて評価した。「糞便(stool)」および「結腸内容物」の両方のエンドポイントは、以下の4ポイントスケールを用いる内視鏡検査者の評価に基づいた。
【0074】
1=優(Excellent):みられた粘膜が90%より多い、ほとんど液体の結腸内容物(または糞便)、十分な可視化に必要なのは最小の吸引;
2=良(Good):みられた粘膜が90%より多い、ほとんど液体の結腸内容物(または糞便)、十分な可視化に必要なのは有意な吸引;
3=可(Fair):みられた粘膜が90%より多い、液体および半固体の結腸内容物(または糞便)の混合物が、吸引および/または洗浄され得る;
4=不可(Inadequate):みられた粘膜が90%未満、固体および半固体の結腸内容物(または糞便)の混合物であって、吸引および/または洗浄され得ない。
【0075】
この4ポイントスケールを用いて、内視鏡検査者は、患者の結腸全体を評価し、またMCC残滓が結腸の可視化を特に妨げる、患者の上行結腸を特異的に評価した。
【0076】
表7aおよび7bは、「全評価」集団における、それぞれ「結腸内容物(colonic contens)」全体および上行結腸における内視鏡検査者の評価の結果を示す。Visicol(登録商標)対INKP-102の処置の比較によって、平均の全体的結腸含量スコアが、Visicol(登録商標)(P<0.05;アームA)よりもINKP-102投薬(アームB、CおよびE)で有意によかったことが明らかになった。同様に、上行結腸における結腸含量の評価によって、アームB、CおよびEでのINKP-102処置は、Visicol(登録商標)処置よりも平均結腸内容物スコアが有意によかったことが明らかになった(P<0.05;アームA)。
・・・略・・・
【0081】
表8aおよび8bは、「全評価」集団における、それぞれ「糞便(stool)」全体および上行結腸における内視鏡検査者の評価の結果を示す。平均の「糞便」エンドポイントスコア全体および上行結腸におけるスコアは一般に、Visicol(登録商標)群よりもINKP-102用量群で好ましかった。しかし、INKP-102のアームEのみがVisicol(登録商標)を上回り、そして上行結腸においてのみ、統計学的に有意な改善を示した。対照的に、Visicol(登録商標)での処置は、全体的な「糞便」スコアおよび上行結腸糞便スコアの両方について平均のANOVA比較においてINKP-102のアームFに対して統計学的に優れていた。これらの結果は、プロトコールどおりの(Per Protocol)集団の分析と匹敵していた。」(段落【0071】?【0081】)

これらの記載からみて、引用例には、
(イ)「固体剤形の結腸下剤処方物であって、(a)少なくとも1つの可溶性結合剤と;(b)治療上有効な量の少なくとも1つの下剤と、を含む、結腸下剤処方物。」(摘示(1-i)の請求項1)の発明が開示され、
(ロ)該下剤として、「クエン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酸化マグネシウム、硫酸ナトリウムおよびそれらの塩から選択される」、「浸透圧性下剤」(摘示(1-i)の請求項3,4,(1-vii)参照;なお、請求項3の「エン酸マグネシウム」は「クエン酸マグネシウム」の誤記と認められる)が記載され、
(ハ)該結腸下剤処方物について、結腸に関与する外科的または診断的手順を受けている患者に対する、手術または診断の目的のための完全瀉下を生じさせるために用いること(摘示(1-ii),(1-v))が記載されているから、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「結腸に関与する外科的または診断的手順を受けている患者に対する、手術または診断の目的のための完全瀉下を生じるために用いる固体剤形の結腸下剤処方物であって、
(a)少なくとも1つの可溶性結合剤と、
(b)治療上有効な量の少なくとも1つの下剤と、
を含み、
該下剤が、クエン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酸化マグネシウム、硫酸ナトリウムおよびそれらの塩から選択される、浸透圧性下剤である、
結腸下剤処方物。」

本願発明と引用発明を対比する。
結腸は、大腸の一部であるから、引用発明の「結腸」は、本願発明の「大腸」に相当する。
診断を行うためには、必要な検査(診察)を行う必要があるし、検査を行う目的は、検査結果に基づいて所望の診断を行うためであるから、引用発明の「結腸に関与する外科的または診断的手順」は、本願発明の「大腸検査または手術」に相当する。

引用発明の「完全瀉下」は、「手術または診断」を行う際に前処理として行われる処理であり、具体的には、外科的または診断的手順を受けている患者に対して、外科的または診断的手順の前夜に錠剤の形態で投与され、処置の結果、腸が十分に洗浄され、結腸の視覚検査を妨害する残滓はほとんどまたは全く示されないようにする処理(摘示(1-xii))である。
また、本願発明の「処置剤」について発明の詳細な説明には、「本発明は、大腸の検査または手術のための処置剤に関する。さらに詳しくは、大腸の検査または手術の前に服用することにより、大腸の内容物を完全に排出して洗浄し、検査の精度を向上させ、また手術を安全に施行しうるための、処置剤に関する。」(段落【0001】)と記載されている。
そうすると、引用発明の「手術または診断の目的のための完全瀉下を生じるために用いる結腸下剤処方物」は、本願発明の「検査または手術の前に用いられるものである処置剤」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「大腸検査または手術のための処置剤であって、その処置剤は、検査または手術の前に用いられるものである処置剤。」

<相違点A>
「処置剤」について、本願発明は、「酸化マグネシウム粒子を88重量%?97重量%の割合で含み」と限定されているのに対し、引用発明は、「治療上有効な量の少なくとも1つの下剤を含み、該下剤が、クエン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酸化マグネシウム、硫酸ナトリウムおよびそれらの塩から選択される、浸透圧性下剤である」と限定されている点。
<相違点B>
本願発明は、「経口投与のために用いられるもの」に限定されているのに対し、引用発明は、「固体剤形の」と限定されている点。


そこで、これらの相違点について検討する。

相違点Aについて
引用発明は、「下剤」の選択肢として「酸化マグネシウム」を有すること、引用発明の「下剤」の形態について引用例には、「活性成分の粒子を完全性を維持する」(摘示(1-viii)参照)との記載があること、および、酸化マグネシウムの形態として粒子が周知であること(例えば、引用文献4(特開2003-146889号公報)の請求項1、引用文献5(国際公開第2009/57796号)の第1頁(酸化マグネシウム粒子を有効成分とする緩下剤の錠剤)、引用文献6(国際公開第2010/98417号)の第2頁など参照)を勘案すると、引用発明において「下剤」を「酸化マグネシウム粒子」に限定する程度のことは、本願発明が属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば適宜なしうることであると認められる。
本願発明の「88重量%?97重量%」について、発明の詳細な説明には、「酸化マグネシウム粒子を含有する錠剤は、(i)その中に含まれる酸化マグネシウム粒子の平均2次粒子径が0.5?10μmであり、(ii)その中に含まれる酸化マグネシウム粒子の含有割合が88重量%?97重量%、好ましくは89重量%?96重量%であるのが有利である。また錠剤として崩壊性にすぐれているのが飲み易く、摂取する水の量も少なくてすむので好ましい。また崩壊時間は好ましくは10秒以下であるのが有利である。
そのため錠剤化に際し、結合剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロースが錠剤中1?10重量%、好ましくは1?5重量%使用されるのが望ましい。また崩壊剤として、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースまたは不溶性ポリビニルピロリドンなどが錠剤中、5?20重量%、好ましくは5?10重量%使用されるのが望ましい。」(段落【0012】)と記載されているだけである。
したがって、本願発明の「処置剤」が錠剤である場合は、酸化マグネシウム粒子の含有割合が好ましくは89重量%?96重量%であるのが有利であることが記載され、どのような理由で好ましい(有利である)のかに関する記載はないものの、該記載の直後の記載を勘案すると、所望の崩壊性が得られるように所定の割合の結合剤や崩壊剤を使用することができる割合(範囲)であると認められる。
一方、引用例には、引用発明の「下剤」の含有割合に関する記載はないが、可溶性結合剤の量についてPEG結合剤(可溶性結合剤の具体例)は、7.5?15重量%や、10重量%とされており(摘示(1-vi)の段落【0028】,摘示(1-ix)の表1参照)、その場合に下剤の割合は、残部である92.5?85重量%や、90重量%を採り得るものと理解されるし、実施例2,3において、下剤であるリン酸ナトリウムの量は、いずれも約89.5%(=65.75%+23.75%,または=65.73%+23.74%)で用いられていることに鑑みると、89.5重量%ないしその前後の値が包含されていると認められる。
そうすると、引用発明の「下剤」の含有割合の範囲は、本願発明の「88重量%?97重量%」と重複一致していると認められるし、仮に相違しているとしても、当業者であれば下剤とともに所望に応じて結合剤や崩壊剤を使用することにより、下剤の含有割合を88重量%?97重量%に限定する程度のことは容易になし得ると認められる。

しかも、本願発明において、酸化マグネシウムを粒子状のもので含有割合が88重量%?97重量%のものに限定した場合と、そうでない場合とを比較したデータが何も記載されていないなど、これらの限定をしたことにより、当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されているとも認められない。

相違点Bについて
引用例には、「固体剤形の結腸下剤処方物」の具体例として錠剤や、該錠剤を経口的に投与することが記載されている(摘示(1-x),(1-xi),(1-xii))から、当業者であれば、所望に応じて引用発明の「固体剤形の」を「経口投与のために用いられるもの」に限定する程度のことは容易になし得ると認められる。

作用効果について
審判請求人は、平成26年7月29日受付けの審判請求書の手続補正書(方式)において、以下の主張をしている。なお、下線は、当審による。

「本願発明の要旨は、特許請求の範囲の請求項1に記載されているとおり、「大腸検査または手術のための処置剤であって、その処置剤は、酸化マグネシウム粒子を88重量%?97重量%の割合で含み、検査または手術の前に経口投与のために用いられるものである処置剤。」である。
本願発明の処置剤は、酸化マグネシウム粒子を88重量%?97重量%という高い含有率で含有するものであり、この処置剤を大腸検査また手術の前に経口投与することにより下記の効果が達成される。
(a)酸化マグネシウム粒子を高含有率で含有していることにより比較的少ない処置剤量および液量(水量)で服用しても、腸管内の内容物および水をほゞ完全に排出できる。
(b)すなわち、本願発明の処置剤は、1人当り1回の検査または手術のために酸化マグネシウム粒子を1.5?6g程度服用すればよく、酸化マグネシウム粒子が高含有率であるため、服用する処置剤の全量も少なく服用し易い。
その上服用する液量(水量)も少なく被験者の負担や苦痛も少ないという利点がある。
(c)大腸の検査(CT検査、内視鏡検査或いはX線検査)は、大腸管内の残便や残水の有無や量によって、その精度が大きく左右される。従って従来の大腸の検査や手術のために腸管洗滌処置剤は、限られた時間内に大量の水(約2L以上)の服用が必要であり、このことが被験者にとって大変苦痛であった。これに対して本願発明の処置剤は、服用する水の量も少なくてよく、通常600ml?1500ml、好ましくは900ml?1200ml程度で充分であるという利点も有する(段落[0008]参照)。
(d)かくして本願発明の処置剤は、酸化マグネシウム粒子を高含有率で含有することにより、服用する全量が少なくてよく、また服用する液量(水量)も大幅に減らすことができるので被験者は容易に苦痛なく服用できる。
しかも服用する液量(水量)が少ないにも拘らず、検査の精度を高度に達成でき、手術も容易に実施できるという効果がある。このことは実施例1および2の実験からも確認されている。すなわち検査の前処置として、1回の検査あたり酸化マグネシウム粒子3gを2回に分割して(前日の夕食後「および就寝前)、それぞれ300mlの水と共に経口投与させ(合計水量は600ml)、検査当日に大腸CT検査をし、残便および残水の評価を行った。その総合評価では大腸6部全てにおいて最もよい評価(4)が確認されている。このように本願発明の処置剤では、僅か600mlの水の服用でも充分な効果が達成されることが理解できる。」

「服用するための水」とは単に錠剤等を嚥下するための水という意味では無く、所望の薬効を得るために服用することが必要な水を意図したいのだと推察するが、本願発明は、「服用するための水」の量に関する事項を有していないし、例えば、約600?1500mlの水で服用することを前提とするものであることが自明でもないから、主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
また、仮に検討したとしても、以下に記載するとおり、当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されているとは認められない。

すなわち、引用例の実施例の記載をみると、外科的または診断的手順の前夜、20の錠剤について、15分毎に8オンスの清澄な液体とともに3錠ずつ(最後は2錠)採ることが説明されており、計7回で都合56オンス、即ち1588g(=56オンス×28.53g/オンス)、清澄な液体は通常水であると解されるから、服用する際に飲む水の量は、1588mlであり、これは、請求人が従来例に関して主張する「大量の水(約2L以上)」よりは、請求人が本願発明に関して主張した「概ね約600?1500ml」の範囲に該当する。
また、本願の発明の詳細な説明(段落【0014】-【0015】)には、実施例において酸化マグネシウム錠剤を600ml(300ml+300ml)の水で経口投与したことが記載されているのに対し、参照例ではクエン酸マグネシウムを水に溶解した1800mlを経口投与したことが記載されているが、これらの記載から「服用するための水」の量の範囲に関して確認することができることは、本願発明の処置剤(錠剤である場合)については、該範囲の中に600mlという値が含まれており、参照例に係るクエン酸マグネシウムについては、該範囲の中に1800mlという値が含まれているという程度に限られており、本願発明に係る「服用するための水」の量の範囲と参照例に係る「服用するための水」の量の範囲のそれぞれについて範囲の上限、下限は、不明である。
そうすると、この記載は、本願発明の方が、「服用するための水」の量が少ないことを確認することができる記載ではない。
また、他に「服用するための水」の量が少なくて済む点を具体的に確認することができる記載は何も見いだせないし、自明でもない。
したがって、本願発明は、せいぜい単に錠剤とした場合には服用する際に飲む水の量を少なくすることができるという自明の効果を奏する程度であって、格別に予想外の作用効果を奏するものであるとは認められない。

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-20 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-07 
出願番号 特願2013-104988(P2013-104988)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 六笠 紀子  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 穴吹 智子
横山 敏志
発明の名称 大腸の検査または手術のための処置剤  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 小野 尚純  
代理人 増田 さやか  

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