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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1307235
審判番号 不服2012-20466  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-18 
確定日 2015-10-28 
事件の表示 特願2007-515638「EGFR突然変異」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月15日国際公開、WO2005/118876、平成20年 2月21日国内公表、特表2008-504809〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年6月2日(パリ条約による優先権主張 2004年6月4日、2004年12月10日、2005年3月28日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月15日付けで拒絶査定がされたところ、同年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成26年10月21日付け拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という。)に応答して、平成27年4月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成27年4月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。
「ヒト患者の大腸腫瘍細胞がセツキシマブによる治療に対して応答しないかどうかについて測定する方法であって、該方法は、
前記腫瘍細胞の試料中の突然変異型KRASタンパク質又はその遺伝子の存在を測定することを含み、
前記突然変異型KRASタンパク質が以下の変異G12C、G12A、G12D、G12S、G12V又はG13Dの1又は複数を含むか、あるいは突然変異型KRAS遺伝子が以下の変異G12C、G12A、G12D、G12S、G12V又はG13Dの1又は複数をコードし、
前記突然変異型KRASタンパク質又はその遺伝子の存在により、前記腫瘍細胞がセツキシマブによる治療に対して抵抗性であることが示される、方法。」

第3 特許法第36条第6項第1号及び第36条第4項第1号について
本願発明(請求項2に係る発明)が解決しようとする課題は、「ヒト患者の大腸腫瘍細胞がセツキシマブによる治療に対して応答しないかどうかについて測定する方法」を提供することにあると認められる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、請求項2に関連する記載として以下のような記載が認められる(下線は当審による)。
「腫瘍試料はまたKRAS中の突然変異(p21aと称する)について分析した。エキソン1において検出される特定の突然変異は、化学療法並びにエルロチニブ療法と併用した化学療法に対して不良な予後と相関しているG12C;G12A;G12D;G12R;G12S;G12V;G13C;G13Dである。従って、本発明はEGFR阻害剤、例えばエルロチニブ又は化学療法と併用したエルロチニブの療法に対して反応性ではない患者を同定する方法であって、KRAS突然変異の存在又は不存在を決定することを含み、上記突然変異の存在が上記療法に患者が応答しないであろうことを示す方法を更に提供する。あるいは、EGFR阻害剤での治療に感受性であるヒト患者における腫瘍を同定する方法であって、(i)上記腫瘍の試料中における野生型KRASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、野生型KRASタンパク質又は遺伝子の存在が、その腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示し、あるいは(ii)上記腫瘍の試料中における突然変異KRASタンパク質又は遺伝子の存在を決定し、突然変異KRASタンパク質又は遺伝子の不存在が、その腫瘍がEGFR阻害剤での治療に感受性であることを示す方法が提供される。特定の実施態様では、突然変異はK-Rasのエキソン1にある。他の実施態様ではK-Ras突然変異は、G12C;G12A;G12D;G12R;G12S;G12V;G13C;G13Dの少なくとも一つである。」([0024])
「・・・一実施態様では、EGFR阻害剤は例えばエルビツツクス(Erbitutux)TM(セツキシマブ, Imclone Systems Inc.)及びABX-EGF(パニツムマブ, Abgenix, Inc.)のような抗体である。他の実施態様では、EGFR阻害剤は、ATPと競合する低分子、例えばタルセバ(Tarceva)TM(エルロチニブ, OSI Pharmaceuticals)、イレッサ(Iressa)TM(ゲフィチニブ, Astra-Zeneca)、Dvir等, J Cell Biol., 113:857-865 (1991)により記載されたチロホスチン類;米国特許第5679683号に開示された三環系ピリミジン化合物;Panek等, Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 283, 1433-1444 (1997)に開示された化合物6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-(4-(2-ジエチルアミノエトキシ)フェニルアミノ)-8-メチル-8H-ピリド(2,3-d)ピリミジン-7-オン(PD166285として知られている)である。」([0020])
「K-Rasエキソン1のPCR増幅に使用することができる特異的プライマー対には次のものが含まれる:
<5pKRAS-out> TACTGGTGGAGTATTTGATAGTG (配列番号55)
<3pKRAS-out> CTGTATCAAAGAATGGTCCTG (配列番号56)
<5pKRAS-in.m13f> TGTAAAACGACGGCCAGTTAGTGTATTAACCTTATGTG (配列番号57)
<3pKRAS-in.m13r> CAGGAAACAGCTATGACCACCTCTATTGTTGGATCATATTCG (配列番号58)」([0027])
以上によれば、発明の詳細な説明には、EGFR阻害剤療法に対し反応性でない患者を同定する方法であって、KRAS突然変異の存在がEGFR阻害剤に対し患者が応答しないであろうことを示す方法が記載されるとともに、KRAS変異としてG12C;G12A;G12D;G12R;G12S;G12V;G13C;G13Dの8個が記載され([0024])、セツキシマブが様々なEGFR阻害剤に包含される抗体の一種であること([0020])やKRASのPCR増幅に使用できるプライマー対([0027])も記載されているが、特定の6個のKRAS変異の存在が、セツキシマブという特定のEGFR阻害剤による、結腸直腸腫瘍という特定の腫瘍の治療に対する抵抗性に関連することは記載されておらず、このことを具体的に実験した結果等も記載されていない。そして、発明の詳細な説明には、出願時の技術常識に照らしても、請求項2に記載された6個の特定の突然変異を利用して、「ヒト患者の大腸腫瘍細胞がセツキシマブでの治療に対して応答しないかどうかについて測定する方法」の提供という課題を実際に解決できると当業者が認識できるような記載は存在しない。
そうすると、請求項2には、発明の詳細な説明において本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える発明が記載されていることになる。よって、請求項2に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないから、本願の特許請求の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、上記のような記載がされているにすぎない発明の詳細な説明は、出願時の技術常識に照らしても、実際に請求項2に係る方法を当業者が使用できるように記載されているとはいえない。よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、同定したKRAS変異の存在とセツキシマブ又はパニツムマブによる癌治療に対する抵抗性の相関関係が、平成24年2月22日付意見書に添付された参考資料1-4によって立証されていると主張するが、これらの参考資料は、いずれも本願の出願後に発行された文献であり、このような出願後に発行された文献により、発明の詳細な説明における上記のような記載不足を補うことはできない。すなわち、発明の詳細な説明に、出願時の技術常識に照らしても、発明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されておらず、また、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないにもかかわらず、このような出願後の文献により、発明の詳細な説明の記載不足を補って、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明が記載要件を満たしていると主張することは、発明の公開を前提に特許を付与するという我が国の特許制度の趣旨に反し、許されない。

第4 特許法第29条第2項について
1.引用例の記載
(1)拒絶理由において「引用例1」として引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物であるCancer Research, Vol. 62, p.6451-6455 (2002)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。以下、同様。)。
ア.「これらの結腸直腸癌患者のうち208名について、首尾よくKRAS変異の分析が行われ、70名(33.7%)にKRAS変異が同定された。KRAS変異のスペクトルを表3に示す。」(6452頁右欄12?15行)
イ.「表3 70の結腸直腸癌、32の散発性腺腫及び5のFAP腺腫におけるKRAS変異のスペクトル

」(6453頁表3)
ウ.「材料及び方法
結腸直腸腫瘍試料。結腸直腸癌の外科切除及びポリープからの試料は、クリーンメアリー病院で1990年から2001年にかけて収集した。すべての試料は手術室又は内視鏡室から出たばかりのものを受け取った。」(6451頁右欄15?19行)

上記引用例1の記載によれば、結腸直腸腫瘍試料を用いて(上記ウ.)、KRAS変異を分析した(上記ア.)結果、G12C、G12A、G12D、G12S、G12V又はG13Dを含むアミノ酸変化及びこれをコードする遺伝子の対応するヌクレオチド変化が同定されたこと(上記イ.)が認められるから、引用例1には、以下の発明が記載されている。
「ヒト患者の結腸直腸腫瘍細胞の試料中の突然変異型KRASタンパク質又はその遺伝子の存在を測定することを含む方法であって、
前記突然変異型KRASタンパク質が、G12C、G12A、G12D、G12S、G12V又はG13Dの1又は複数を含むか、あるいは突然変異型KRAS遺伝子が以下の変異G12C、G12A、G12D、G12S、G12V又はG13Dの1又は複数をコードする、方法。」
(以下、「引用発明」という。)

(2)拒絶理由において「引用例2」として引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物であるEndocrine-Related Cancer, Vol.8, p.11-31 (2001)には、以下の事項が記載されている。
エ.「EGFR及びHER2の過剰発現及び/又は増幅が、様々なヒトの癌で発見されている(表2)。」(16頁右欄6?8行)
オ.「表2 ヒトの癌におけるEGFR及びHER2の過剰発現

」(17頁Table 2)
カ.「図1 EGFRシグナリング。


」(15頁図1)

(3)拒絶理由において「引用例3」として引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物であるJournal of the National Cancer Institute, Vol.95, No.12, p.851-867 (2003)には、以下の事項が記載されている。
キ.「抗EGFR抗体
EGFRを阻害するMabsの使用が、悪性細胞におけるEGFRの異常シグナルを標的とする臨床研究における最初のアプローチであった。・・・IMC-C255(セツキシマブ;・・・)が、臨床試験において探究された最初のキメラヒト-マウス抗体であった。」(853頁左欄15?18行、26?28行)
ク.「表2 IMC-C225を用いた第I相及び第II相臨床試験


SD:安定的病状、PR:部分反応・・・」(854頁表2)

2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「結腸直腸」は本願発明の「大腸」に相当するから、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

一致点:「ヒト患者の大腸腫瘍細胞の試料中の突然変異型KRASタンパク質又はその遺伝子の存在を測定することを含む方法であって、
前記突然変異型KRASタンパク質が、G12C、G12A、G12D、G12S、G12V又はG13Dの1又は複数を含むか、あるいは突然変異型KRAS遺伝子が以下の変異G12C、G12A、G12D、G12S、G12V又はG13Dの1又は複数をコードする」方法。

相違点:本願発明が、「ヒト患者の大腸腫瘍細胞がセツキシマブによる治療に対して応答しないかどうかについて測定する方法であって」、「突然変異型KRASタンパク質又はその遺伝子の存在により、前記腫瘍細胞がセツキシマブによる治療に対して抵抗性であることが示される、方法」であるのに対し、引用発明にはそのような特定がない点。

3.相違点についての検討
引用例2には、EGFRの過剰発現が大腸癌を含む様々な癌において見られること(上記1.エ.及びオ.)、RASはEGFRからのシグナルを伝達して細胞を増殖させること(上記1.カ.)が記載され、引用例3には、EGFR阻害剤であるセツキシマブを、EGFRの異常シグナルを標的として結腸直腸癌の治療に用いることが記載されている(上記1.キ.及びク.)。
このような技術水準を踏まえた当業者であれば、引用発明の結腸直腸癌におけるKRASの突然変異の存在が、KRASを経由する、EGFRから細胞増殖に至るシグナル伝達に影響を及ぼすであろうこと、ひいては、セツキシマブのようなEGFR阻害剤による上記シグナル伝達の阻害作用にも影響し、当該薬剤の作用が発揮されないであろうことは、容易に予測できることである。
そうすると、引用発明の結腸直腸癌におけるKRASの突然変異を、セツキシマブでの治療に対して応答しないかどうかを測定するために用い、当該突然変異の存在が、セツキシマブでの治療に抵抗性であろうと単に予想することは、当業者にとって容易である。
本願明細書をみても、KRASにおけるG12C、G12A、G12D、G12R、G12S、G12V、G13C、G13Dのアミノ酸変異やそれに対応するヌクレオチドの変異の存在により、実際に、大腸腫瘍細胞がセツキシマブによる治療に抵抗性であることが示されることは、一切確認されておらず、予想の域を出ないものである。したがって、本願発明が、当業者の予想を超える顕著な効果を奏するとは認められない。

審判請求人は、平成27年4月28日付け意見書において、
(ア)引用文献1(引用例1に相当)は、「我々は、KRAS突然変異と、患者の性別、年齢、腫瘍位置、分化度、粘液性形態又は腫瘍ステージとの間に関係性を見いださなかった。(We did not observe any association of KRAS mutations with patient gender, age, tumor location, differentiation, mucinous morphology, or tumor stage.)」(6452頁、右欄)と記載しているように、KRAS突然変異と患者の特徴との間に相関はなかったと結論付けているので、引用文献1の記載には、KRAS突然変異を、セツキシマブ又はパニツムマブでの治療に対して抵抗性である大腸腫瘍細胞を同定するためのマーカーとして使用することについての動機付けがない、
(イ)引用文献1から3の何れも、KRAS突然変異がEGFRからのシグナル伝達に影響を及ぼすかどうかについては明らかにしておらず、特に引用文献2(引用例2に相当)は、EGFRからの細胞増殖の複数のシグナル伝達経路を示唆しているから、EGFRからの細胞増殖のシグナル伝達に、KRAS突然変異の有無が影響を及ぼすことを予測する理由がなかった、
と主張するが、以下のとおり、審判請求人の主張は採用できない。

(ア)について
引用例1における審判請求人の指摘箇所は、「KRAS突然変異と、患者の性別、年齢、腫瘍位置、分化度、粘液性形態又は腫瘍ステージとの間」に関係性を見いださなかったと記載しているにすぎず、KRAS変異と患者のあらゆる特徴との間に相関がなかったと結論づけているわけではないから、この箇所の記載によって、上記で述べた、引用例2及び引用例3に記載の技術水準を踏まえた当業者が、引用発明から出発して本願発明2を単に予想できるという動機づけは、何ら否定されない。
(イ)について
引用例2の図1には、EGFRからの複数のシグナル伝達経路が記載されているところ、そのうちのRasを経由する経路が「増殖」に関与することが記載されているのであるから、この経路が癌の増殖に関連するであろうと、当業者であれば当然に理解する。そして、タンパク質の変異によりその機能が有効に発揮できなくなることはしばしば見られることであるから、KRASの変異がこの増殖に関するシグナル伝達に影響するであろうことは、当業者が容易に予測可能である。

4.小活
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1?引用例3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 まとめ
以上検討したところによれば、本願の請求項2に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、請求項2に係る発明について、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-29 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-15 
出願番号 特願2007-515638(P2007-515638)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C12Q)
P 1 8・ 536- WZ (C12Q)
P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 植原 克典
高堀 栄二
発明の名称 EGFR突然変異  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  

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