• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1307253
審判番号 不服2014-2853  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-14 
確定日 2015-10-28 
事件の表示 特願2013-503408「動画像符号化装置および動画像符号化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月13日国際公開、WO2012/120908〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2012年3月9日(優先権主張2011年3月9日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月22日に拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正がなされたが、当審において同年12月16日に最後の拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成27年4月6日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年4月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成26年2月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
入力される動画像をブロック単位で符号化する動画像符号化装置であって、
符号化対象画像に対応する予測画像を生成する予測画像生成部と、
前記符号化対象画像と前記生成された予測画像との差分画像を生成する減算器と、
前記減算器の出力に対して直交変換処理および量子化処理を行い、残差係数を生成する予測残差符号化部と、
前記残差係数に対して逆量子化処理および逆直交変換処理を行い、残差復号化画像を生成する予測残差復号化部と、
前記予測画像生成部で生成された予測画像と前記予測残差復号化部で生成された残差復号化画像とを加算することで再構成画像を生成する加算器と、
前記予測画像を生成する際に利用した予測情報を少なくとも含むヘッダ情報を生成するヘッダ符号列生成部と、
第1モードにおいて、前記予測残差符号化部で生成された残差係数を可変長符号化して係数符号列を生成し、前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成されたヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ヘッダ情報を出力する一方、第2モードにおいて、前記減算器で生成された差分画像を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま可変長符号化し、前記可変長符号化後の差分画像を係数符号列とし、前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成されたヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ヘッダ情報を出力する係数符号列生成部と、
を備える動画像符号化装置。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、平成27年4月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
入力される動画像をブロック単位で符号化する動画像符号化装置であって、
符号化対象画像に対応する予測画像を生成する予測画像生成部と、
前記符号化対象画像と前記生成された予測画像との差分画像を生成する減算器と、
前記減算器の出力に対して直交変換処理および量子化処理を行い、残差係数を生成する予測残差符号化部と、
前記残差係数に対して逆量子化処理および逆直交変換処理を行い、残差復号化画像を生成する予測残差復号化部と、
前記予測画像生成部で生成された予測画像と前記予測残差復号化部で生成された残差復号化画像とを加算することで再構成画像を生成する加算器と、
前記予測画像を生成する際に利用した予測情報を少なくとも含む、前記ブロック単位のヘッダ情報を生成するヘッダ符号列生成部と、
第1モードにおいて、前記予測残差符号化部で生成された残差係数を前記ブロック単位で可変長符号化して係数符号列を生成し、前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成された前記ブロック単位のヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ブロック単位のヘッダ情報を出力する一方、
第2モードにおいて、前記減算器で生成された差分画像を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま前記ブロック単位で可変長符号化し、前記可変長符号化後の差分画像を係数符号列とし、前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成された前記ブロック単位のヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ブロック単位のヘッダ情報を出力する係数符号列生成部と、を備え、
前記ブロック単位のヘッダ情報は、前記係数符号列生成部において前記第1モードと前記第2モードとのいずれを用いたかを示すモード情報を含む
動画像符号化装置。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明に記載された「ヘッダ情報」という構成を「ブロック単位のヘッダ情報」という構成に限定した上で「前記ブロック単位のヘッダ情報は、前記係数符号列生成部において前記第1モードと前記第2モードとのいずれを用いたかを示すモード情報を含む」と限定し、また、本願発明に記載された第2モードにおける「可変長符号化」という構成を「ブロック単位で可変長符号化」という構成に限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第17条の2第5項2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。なお、補正後の発明に対して、下記のとおり説明のためにAないしJの記号を当審において付与した。以下、構成要件A、構成要件Bなどと称することにする。

A 入力される動画像をブロック単位で符号化する動画像符号化装置であって、
B 符号化対象画像に対応する予測画像を生成する予測画像生成部と、
C 前記符号化対象画像と前記生成された予測画像との差分画像を生成する減算器と、
D 前記減算器の出力に対して直交変換処理および量子化処理を行い、残差係数を生成する予測残差符号化部と、
E 前記残差係数に対して逆量子化処理および逆直交変換処理を行い、残差復号化画像を生成する予測残差復号化部と、
F 前記予測画像生成部で生成された予測画像と前記予測残差復号化部で生成された残差復号化画像とを加算することで再構成画像を生成する加算器と、
G 前記予測画像を生成する際に利用した予測情報を少なくとも含む、前記ブロック単位のヘッダ情報を生成するヘッダ符号列生成部と、
H 第1モードにおいて、前記予測残差符号化部で生成された残差係数を前記ブロック単位で可変長符号化して係数符号列を生成し、前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成された前記ブロック単位のヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ブロック単位のヘッダ情報を出力する一方、
第2モードにおいて、前記減算器で生成された差分画像を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま前記ブロック単位で可変長符号化し、前記可変長符号化後の差分画像を係数符号列とし、前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成された前記ブロック単位のヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ブロック単位のヘッダ情報を出力する係数符号列生成部と、を備え、
I 前記ブロック単位のヘッダ情報は、前記係数符号列生成部において前記第1モードと前記第2モードとのいずれを用いたかを示すモード情報を含む
J 動画像符号化装置。

(2)引用発明
当審の拒絶理由に引用した、大久保 榮,インプレス標準教科書シリーズ 改訂版H.264/AVC教科書,株式会社インプレスR&D,2006年 1月 1日,pp.278-279(以下、「引用例」という。)には、「ロスレス符号化」に関して以下の事項が記載されている。

ア.「2 ロスレス符号化 (当審注:「2」は黒四角に白文字で2が記載されたものである。)
ロスレス符号化は、4:4:4プロファイルでのみ使用可能な技術です。
H.264/AVCでは直交変換を行いますが、直交変換で計算誤差が発生するために、量子化パラメータQPをどれだけ小さくしても、入力画像と復号画像を完全に一致させるロスレス符号化の実現は困難です。
そこで、図11-24および図11-25に示すように、QP=0の場合は直交変換・量子化・逆量子化・逆直交変換を実施せず、画面内予測符号化と動き補償符号化のみを行うようにしてロスレス符号化を実現しました。QPが0より大きい場合は、従来どおり、直交変換・量子化・逆量子化・逆直交変換を用いた符号化・復号を行います。なお、QP=0の場合には、デブロッキング・フィルタは動作しませんので(QPが小さい場合は符号化誤差が小さいと判断し、自動的にデブロッキング・フィルタの動作がOFFになるため)、ロスレス符号化の場合に明示的にOFFにする必要はありません。
QP=0の場合に、直交変換・量子化・逆量子化・逆直交変換を行うかどうかの識別は、SPS(Sequence Parameter Set、シーケンス・パラメータ・セット)で示します。」(279頁11行?23行)

イ.「


上記アの記載及び関連する図面であるイ.並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
i)引用例には、上記ア.にあるように、量子化パラメータQPが0の場合、直交変換・量子化・逆量子化・逆直交変換を実施しないロスレス符号化を行うとともに、前記QPが0より大きい場合、従来どおり、直交変換・量子化・逆量子化・逆直交変換を用いた符号化・復号を行う符号化方法が記載されている。ここで、「従来どおり」とされる符号化は、H.264/AVC規格における符号化であることは明らかである。

ii)上記イ.の図11-24には、上記ア.に記載されたロスレス符号化と従来どおりの符号化とを切り替えて、ビデオカメラからの入力画像からビットストリームを得るようにした「ロスレス符号化に対応したエンコーダ」のブロック図が記載されている。すなわち、『ビデオ・カメラからの入力画像を符号化するエンコーダ』が記載されている。

iii)上記イ.の図11-24には、以下の各処理を行う構成(手段)が記載されていることがみてとれる。
・『入力画像が入力される動きベクトル検出部の出力とフレームメモリの画像とを動き補償部に入力して第1の出力を生成する手段』
・『入力画像と第1の出力との差分出力を生成する減算器』
・『減算器の出力に対して直交変換部および量子化部を経て第2の出力を生成する手段』
・『第2の出力に対して逆量子化部と逆直交変換部を経て第3の出力を生成する手段』
・『第1の出力と第3の出力を加算してフレームメモリに格納する画像を生成する加算器』
・『第2の出力を入力するか、あるいは、減算器で生成された差分出力を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力して、可変長符号化してビットストリームを生成するエントロピー符号化部』
なお、上記において、図中のブロックはそれぞれ「・・・部」と呼称した。また、各ブロックからの出力は区別のために「第1の出力」、「第2の出力」等と呼称している。また、図中のデブロッキング・フィルタ部の出力が入力され、動き補償部への出力を生成する『5枚の平行四辺形からなる図形』は、H.264/AVC規格における符号化をベースとするエンコーダであることから、フレームメモリを表現していることは明らかである。ここで、当該フレームメモリに画像が格納されることは自明である。

iv)上記ア.には、「直交変換・量子化・逆量子化・逆直交変換を行うかどうかの識別は、SPS(Sequence Parameter Set、シーケンス・パラメータ・セット)で示」すことが記載されている。これは、エントロピー符号化部への入力が、減算器の出力を直交変換・量子化した第2の出力を入力したものなのか、または、減算器の出力を直交変換・量子化せずにそのまま入力したものなのかを示すことにもなる。
すなわち、引用例には、『シーケンス・パラメータ・セットにて、エントロピー符号化部の入力が、直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力されたものか否かの識別を示すようにした』ことが記載されているといえる。

したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。
なお、下記aないしiの記号は、説明のために当審にて付与したものであり、以下構成要件a、構成要件bなどと称することにする。

(引用発明)
a ビデオ・カメラからの入力画像を符号化するエンコーダであって、
b 入力画像が入力される動きベクトル検出部の出力とフレームメモリの画像とを動き補償部に入力して第1の出力を生成する手段と、
c 入力画像と前記第1の出力との差分出力を生成する減算器と、
d 前記減算器の出力に対して直交変換部および量子化部を経て第2の出力を生成する手段と、
e 前記第2の出力に対して逆量子化部と逆直交変換部を経て第3の出力を生成する手段と、
f 第1の出力と第3の出力を加算してフレームメモリに格納する画像を生成する加算器と、
g 前記第2の出力を入力するか、あるいは、減算器で生成された前記差分出力を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力して、可変長符号化してビットストリームを生成するエントロピー符号化部と、を備え、
h シーケンス・パラメータ・セットにて、エントロピー符号化部の入力が、直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力されたものか否かの識別を示すようにした
i エンコーダ。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明と対比する。
(3-1)補正後の発明の構成要件Aについて
補正後の発明の構成要件Aと引用発明の構成要件aとを対比する。
引用発明の「ビデオ・カメラからの入力画像」が「動画像」であることは明らかであり、このことから引用発明の「エンコーダ」が補正後の発明の「動画像符号化装置」に相当することも明らかである。
したがって、補正後の発明の構成要件Aと引用発明の構成要件aとは、引用発明の符号化が「ブロック単位」で行われるのか否か不明な点を除いて、「入力される動画像を符号化する動画像符号化装置であって、」の点で共通する。

(3-2)補正後の発明の構成要件Bについて
補正後の発明の構成要件Bと引用発明の構成要件bとを対比する。
まず、引用発明における減算器、直交変換部、量子化部、逆量子化部、逆直交変換部、量子化部、加算器、フレームメモリ、動き補償部、動きベクトル部はいずれも、従来どおりのH.264/AVCの符号化を行う構成であり、該H.264/AVCの符号化を行う構成は当業者にとって技術常識である。
この技術常識を考慮すれば、引用発明の構成要件b「入力画像が入力される動きベクトル検出部の出力とフレームメモリの画像とを動き補償部に入力して第1の出力を生成する手段」に関し、「入力画像」が補正後の発明の「符号化対象画像」に相当することは明らかであり、また、「第1の出力」は入力画像に対応する「予測画像」であるから「動きベクトル検出部」、「フレームメモリ」及び「動き補償部」を併せたものは、補正後の発明の「予測画像生成部」に相当する。
したがって、引用発明の「入力画像が入力される動きベクトル検出部の出力とフレームメモリの画像とを動き補償部に入力して第1の出力を生成する手段と、」は補正後の発明の「符号化対象画像に対応する予測画像を生成する予測画像生成部と、」に相当する。

(3-3)補正後の発明の構成要件Cについて
補正後の発明の構成要件Cと引用発明の構成要件cとを対比する。
引用発明の構成要件c「入力画像と前記第1の出力との差分出力を生成する減算器」における「入力画像」、「第1の出力」は上述の(3-2)で検討したように補正後の発明の「符号化対象画像」、「予測画像」に相当し、また、「差分出力」は画像同士の差分となるから「差分画像」といえる。
したがって引用発明の「入力画像と前記第1の出力との差分出力を生成する減算器と、」は、補正後の発明の「前記符号化対象画像と前記生成された予測画像との差分画像を生成する減算器と、」に相当する。

(3-4)補正後の発明の構成要件Dについて
補正後の発明の構成要件Dと引用発明の構成要件dとを対比する。
引用発明の構成要件d「前記減算器の出力に対して直交変換部および量子化部を経て第2の出力を生成する手段」に関し、「直交変換部」、「量子化部」がそれぞれ直交変換処理、量子化処理を行うことは明らかであり、また、量子化部の出力である「第2の出力」が上述の(3-2)の技術常識から、補正後の発明の「残差係数」に相当することも明らかである。そして、「直交変換部」と「量子化部」を併せたものは、補正後の発明の「予測残差符号化部」に相当する。
したがって、引用発明の「前記減算器の出力に対して直交変換部および量子化部を経て第2の出力を生成する手段と、」は、補正後の発明の「前記減算器の出力に対して直交変換処理および量子化処理を行い、残差係数を生成する予測残差符号化部と、」に相当する。

(3-5)補正後の発明の構成要件Eについて
補正後の発明の構成要件Eと引用発明の構成要件eとを対比する。
引用発明の構成要件e「前記第2の出力に対して逆量子化部と逆直交変換部を経て第3の出力を生成する手段」に関し、「逆量子化部」、「逆直交変換部」がそれぞれ逆量子化処理、逆直交変換処理を行うことは明らかであり、また、逆直交変換部の出力である「第3の出力」が上述の(3-2)の技術常識から、補正後の発明の「残差復号化画像」に相当することも明らかである。そして、「逆量子化部」、「逆直交変換部」とを併せたものは、補正後の発明の「予測残差復号化部」に相当する。
したがって、引用発明の「前記第2の出力に対して逆量子化部と逆直交変換部を経て第3の出力を生成する手段と、」は、補正後の発明の「前記残差係数に対して逆量子化処理および逆直交変換処理を行い、残差復号化画像を生成する予測残差復号化部と、」に相当する。

(3-6)補正後の発明の構成要件Fについて
補正後の発明の構成要件Fと引用発明の構成要件fとを対比する。
引用発明の構成要件f「第1の出力と第3の出力を加算してフレームメモリに格納する画像を生成する加算器」に関し、「フレームメモリに格納する画像」が上述の(3-2)の技術常識から、補正後の発明の「再構成画像」に相当することは明らかである。
ここで、上記(3-2)及び(3-5)における「第1の出力」及び「第3の出力」の検討を踏まえれば、引用発明の「第1の出力と第3の出力を加算してフレームメモリに格納する画像を生成する加算器と、」は、補正後の発明の「前記予測画像生成部で生成された予測画像と前記予測残差復号化部で生成された残差復号化画像とを加算することで再構成画像を生成する加算器と、」に相当する。

(3-7)補正後の発明の構成要件Gについて
引用発明は、補正後の発明の構成要件Gに相当する構成を有していない。

(3-8)補正後の発明の構成要件Hについて
補正後の発明の構成要件Hと引用発明の構成要件gとを対比する。
引用発明の構成要件g「前記第2の出力を入力するか、あるいは、減算器で生成された前記差分出力を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力して、可変長符号化してビットストリームを生成するエントロピー符号化部」に関し、「ビットストリーム」、「エントロピー符号化部」は、上述の(3-2)の技術常識からそれぞれ補正後の発明の「係数符号列」、「係数符号列生成部」に相当することは明らかである。
ここで、引用発明の「第2の出力」は、上述の(3-4)で検討したように補正後の発明の「残差係数」に相当するから、「第2の出力を入力」して「可変長符号化してビットストリームを生成」する場合は補正後の発明の「第1モード」に相当する。また、引用発明の「減算器で生成された前記差分出力を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力」して「可変長符号化してビットストリームを生成」する場合は、補正後の発明の「第2モード」に相当する。
したがって、引用発明の構成要件gは補正後の発明の構成要件Hと、「第1モードにおいて、前記予測残差符号化部で生成された残差係数を可変長符号化して係数符号列を生成する一方、第2モードにおいて、前記減算器で生成された差分画像を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま可変長符号化する係数符号列生成部と、を備え、」の点で共通する。しかしながら、「第1モード」及び「第2モード」のいずれにおいても、引用発明の可変長符号化が「ブロック単位」で行われるのか不明である点と「前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成された前記ブロック単位のヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ブロック単位のヘッダ情報を出力」しているか不明な点とで補正後の発明と相違する。

(3-9)補正後の発明の構成要件Iについて
補正後の発明の構成要件Iと引用発明の構成要件hとを対比する。
引用発明の構成要件h「シーケンス・パラメータ・セットにて、エントロピー符号化部の入力が、直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力されたものか否かの識別を示すようにした」に関し、「直交変換処理および量子化処理」を行う場合及び行わない場合は、上記(3-8)にて検討したとおりそれぞれ補正後の発明の「第1モード」及び「第2モード」に相当する。そして、引用発明の「シーケンス・パラメータ・セット」が、シーケンス全体の符号化に係る情報が含まれたヘッダであることは技術常識である。
したがって、引用発明の構成要件hと補正後の発明の構成要件Iとは、「所定の単位のヘッダ情報は、前記係数符号列生成部において前記第1モードと前記第2モードとのいずれを用いたかを示すモード情報を含む」点で共通し、「所定の単位」のヘッダ情報に関し、補正後の発明では「ブロック単位」のヘッダ情報であるのに対し、引用発明では「シーケンス・パラメータ・セット」であって、「シーケンス単位」のヘッダ情報である点で相違する。

(3-10)補正後の発明の構成要件Jについて
補正後の発明の構成要件Jと引用発明の構成要件iとを対比する。
上記(3-1)において検討したように、引用発明の「エンコーダ」が補正後の発明の「動画像符号化装置」に相当することは明らかである。

したがって、上記(3-1)ないし(3-10)により、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「入力される動画像を符号化する動画像符号化装置であって、
符号化対象画像に対応する予測画像を生成する予測画像生成部と、
前記符号化対象画像と前記生成された予測画像との差分画像を生成する減算器と、
前記減算器の出力に対して直交変換処理および量子化処理を行い、残差係数を生成する予測残差符号化部と、
前記残差係数に対して逆量子化処理および逆直交変換処理を行い、残差復号化画像を生成する予測残差復号化部と、
前記予測画像生成部で生成された予測画像と前記予測残差復号化部で生成された残差復号化画像とを加算することで再構成画像を生成する加算器と、
第1モードにおいて、前記予測残差符号化部で生成された残差係数を可変長符号化して係数符号列を生成する一方、第2モードにおいて、前記減算器で生成された差分画像を直交変換処理および量子化処理せずにそのまま前記ブロック単位で可変長符号化する係数符号列生成部と、を備え、
所定の単位のヘッダ情報は、前記係数符号列生成部において前記第1モードと前記第2モードとのいずれを用いたかを示すモード情報を含む
動画像符号化装置。」

(相違点)
<相違点1> 動画像符号化装置に関し、補正後の発明では「ブロック単位」で符号化しているのに対し、引用発明では「ブロック単位」で符号化しているのかどうか不明である点。
<相違点2> 補正後の発明が、「前記予測画像を生成する際に利用した予測情報を少なくとも含む、前記ブロック単位のヘッダ情報を生成するヘッダ符号列生成部」を有するのに対し、引用発明では、そのようなヘッダ符号列生成部を有するのか不明である点。
<相違点3> 「係数符号列生成部」に関し、第1モード及び第2モードのそれぞれにおける「可変長符号化」が、補正後の発明では、「ブロック単位」で行われているのに対し、引用発明では「ブロック単位」で行われているのかどうか不明である点。
<相違点4> 「係数符号列生成部」に関し、第1モード及び第2モードのそれぞれにおいて、補正後の発明では、「前記係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成された前記ブロック単位のヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ブロック単位のヘッダ情報を出力」する構成を有しているのに対し、引用発明ではそのような構成を有するのか不明な点。
<相違点5> 「係数符号列生成部において前記第1モードと前記第2モードとのいずれを用いたかを示すモード情報」を含む「所定の単位のヘッダ情報」に関し、補正後の発明では、「ブロック単位」のヘッダ情報であるのに対し、引用発明では、「シーケンス・パラメータ・セット」である点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
i)まず、上記相違点1及び相違点3について検討する。
引用発明では、「減算器の出力に対して直交変換部および量子化部を経て第2の出力を生成」し、第2の出力をエントロピー符号化部で「可変長符号してビットストリームを生成」するH.264/AVCの符号化処理を行う場合(補正後の発明の「第1モード」に相当)と、「減算器で生成された前記差分出力を直交変換処理および量子化処理せず」にエントロピー符号化部にそのまま入力して、「可変長符号化してビットストリームを生成」するロスレス符号化処理を行う場合(補正後の発明の「第2モード」に相当)の2つの場合を切り替えて符号化を行っている。
ここで、前者のH.264/AVCの符号化処理がブロック単位に行われることは技術常識にすぎず、また、後者のロスレス符号化処理を行う場合においても符号化処理を「ブロック単位」で行うことは周知の事項(例えば、本願出願の十年以上前の文献である特開平9-23433号公報の段落【0002】?【0006】の【従来の技術】の記載及び【図4】の記載を参照。)にすぎない。
このように、H.264/AVCの符号化処理またはロスレス符号化処理を切り替えて行う引用発明において、その符号化を「ブロック単位」で行うことは当業者が適宜為し得ることにすぎない。
さらに、符号化処理が「ブロック単位」で行われる際、符号化処理の一部を構成する「可変長符号化」も「ブロック単位」で行われることになる。
したがって、相違点1及び相違点3は格別なものではない。

ii)ついで、上記相違点2及び相違点4について検討する。
H.264/AVCの符号化処理において、ブロック単位のヘッダ情報を可変長符号化した係数符号列の先頭に付して(すなわち、「対応付けて」)出力すること、及び、該ヘッダ情報に「予測」に関する情報、すなわち補正後の発明の「予測画像を生成する際に利用した予測情報」を格納しておき復号化時に利用することは、いずれも技術常識にすぎない。(必要があれば、引用例と同じ刊行物である、大久保 榮,インプレス標準教科書シリーズ 改訂版H.264/AVC教科書,株式会社インプレスR&D,2006年 1月 1日,pp.199-200(特に、200頁図8-9の「(1)通常のスライス」の記載)の記載参照)
そして、このようなヘッダ情報を生成させる構成が符号化装置内に設けられていることは自明のことにすぎない。
したがって、H.264/AVCの符号化処理またはロスレス符号化処理を切り替えて行う引用発明において、当業者であれば、「前記予測画像を生成する際に利用した予測情報を少なくとも含む、前記ブロック単位のヘッダ情報を生成するヘッダ符号列生成部」を有し、第1モード及び第2モードのそれぞれにおいて、「係数符号列に前記ヘッダ符号列生成部で生成された前記ブロック単位のヘッダ情報を対応付けた状態で、前記係数符号列および前記ブロック単位のヘッダ情報を出力」する構成を容易に想到するものである。
したがって、相違点2及び相違点4も格別なものではない。

iii)最後に相違点5について検討する
引用発明では、構成要件hに記載のように「シーケンス・パラメータ・セットにて、エントロピー符号化部の入力が、直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力されたものか否かの識別を示す」構成となっている。ここで、上記(3-9)において記載したように「シーケンス・パラメータ・セット」が、シーケンス全体の符号化に係る情報を含むヘッダであることは技術常識である
引用発明のシーケンス・パラメータ・セットにおいて、直交変換処理および量子化処理せずにそのまま入力されたものか否か、すなわち、H.264/AVCの符号化処理を行ったのか、あるいは、ロスレス符号化処理を行ったのかの識別が示されているということは、引用発明の両符号化処理がシーケンス単位で切り替えられていることを示すものである。
しかしながら、H.264/AVCの符号化では、画面内符号化及び画面間符号化がブロック単位で切り替えられているように、ブロック単位で符号化タイプを切り替えることが行われており、そして、上記i)にて検討したとおり、H.264/AVCの符号化処理を行う場合(補正後の発明の「第1モード」に相当)と、ロスレス符号化処理を行う場合(補正後の発明の「第2モード」に相当)はいずれも、その符号化を「ブロック単位」で行うことから、当業者であれば、符号化単位である「ブロック単位」において両符号化処理の切り替えを行うことを容易に想到し得るものである。
そして、そのように為せば、「ブロック単位」で切り替えられたことを示す「モード情報」を、相違点2ないし相違点4において言及した「ブロック単位のヘッダ情報」に含ませることを当業者は適宜為し得るものである。
このように、相違点5も格別なものでない。

そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおりであるから、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」及び「(4)当審の判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は補正後の発明から、本件補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-01 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-15 
出願番号 特願2013-503408(P2013-503408)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩井 健二  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 豊島 洋介
藤井 浩
発明の名称 動画像符号化装置および動画像符号化方法  
代理人 鮫島 睦  
代理人 川端 純市  
代理人 田中 光雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ