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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1307292
審判番号 不服2012-9068  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-17 
確定日 2015-11-04 
事件の表示 特願2007-519528「高分子-第IX因子部分の抱合体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年1月12日国際公開、WO2006/005058、平成20年2月21日国内公表、特表2008-505119〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2005年6月30日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2004年6月30日 米国(US))を国際出願日とする出願であって,平成23年3月28日付けで拒絶理由が通知され,同年10月5日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,平成24年1月12日付けで拒絶査定がされ,同年5月17日に拒絶査定不服審判が請求され,同年10月19日に上申書が提出され,平成26年8月18日付けで拒絶理由が通知され,平成27年2月19日に意見書及び手続補正書が提出されものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成27年2月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「直接的にまたは1又は複数の原子から構成されるスペーサ部分を介して、ポリ(アルキレン・オキシド)である水溶性ポリマーにアミド結合を介して共有結合した第IX因子部分を含む抱合体であって、(i)当該水溶性ポリマーの総重量平均分子量が6,000ダルトンより多く、100,000ダルトン未満であり、(ii)3以下の水溶性ポリマーが第IX因子部分に結合しており、(iii)第IX因子部分が、上記スペーサ部分を介して水溶性ポリマーに共有結合されている場合は、当該スペーサ部分が糖又は炭水化物を含まず、そして(iv) 当該第IX因子部分が、第IX因子、第IXa因子、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質であって、1?4個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されているタンパク質、並びに配列番号1に対して95%の配列同一性を有するタンパク質から選ばれる、前記抱合体。」

第3 当審における拒絶の理由の概要
平成26年8月18日付けで当審が通知した拒絶の理由は,以下の理由を含むものである。
[理由4]本願の請求項1に係る発明は,本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1,2に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして,[理由4]の刊行物1,2として,
刊行物1:米国特許第6037452号明細書
刊行物2:米国特許第5969040号明細書
が示されたものである。

第4 当審の判断
1 刊行物の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物1,2は,以下のとおりである。
刊行物1:米国特許第6037452号明細書
刊行物2:米国特許第5969040号明細書

(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には,日本語にして以下の事項が記載されている。なお,翻訳は当審の訳である。
(1a)「一方,ポリアルキレングリコール,特に,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール及びそれらのコポリマー(Pluronics(審決注:商標である。)など)は,免疫性を低下させ,半減期を延ばす特徴があるポリアルキレングリコール-ポリペプチド化合物又は抱合体を形成するために,特定のポリペプチドと結合されてきた。」(第1欄第26?31行)
(1b)「米国特許4179337号(Davisら)は,分子量500?20000ダルトンのポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールを結合したペプチド酵素やペプチドホルモンは,活性の低下から保護された,生理学的に活性で非免疫性で水溶性のポリペプチド合成物を提供する。」(第1欄第40?45行)
(1c)「本発明は,第VIII因子,第IX因子,第VIIIa因子,第IXa因子及びその類似ペプチドがポリ(アルキレンオキサイド)と結合基を介して共有結合したものを提供する。
驚くべきことに,ポリ(アルキレンオキサイド)ポリマーは,第VIII因子及び第IX因子に結合したときも,同じように効果が得られる。」(第2欄第62行?第3欄第1行)
(1d)「ポリ(アルキレンオキサイド)ポリマーは,適当な条件下では,タンパク鎖にアミノ基を介して結合できることが知られているので,いくつかのポリ(アルキレンオキサイド)は活性化された補因子に結合した状態を維持できる。もちろん,そのままの第VIII因子及び第IX因子を使用した場合の問題となっている免疫性はポリ(アルキレンオキサイド)の存在によって減少する。」(第3欄第8?14行)
(1e)「本発明は血液から得られた第VIII因子と第IX因子だけでなく,組み換えDNA法で製造された第VIII因子と第IX因子にも適用される。」(第3欄第15?18行)
(1f)「以下の一般的記載においては,第VIII因子が例示されているが,第IX因子,第VIIIa因子,第IXa因子,これらの様々な類似体も第VIII因子に置き換えることができる。
アルキル化方法としては,ポリアルキレングリコールをトリアジン誘導体やアセチル誘導体にすることで活性化した方法を説明することができる。以下に記載されるように,P-OHは一方の末端が水酸基を有するポリアルキレングリコールを示す。Eは,第VIII因子分子を示し,Eに結合されたアミノ基又はカルボキシル基は,第VIII因子においてフリー又は反応性の基である。」(第4欄第10?21行)
(1g)「(6)上述した方法の他に,臭化酢酸エステルとt-ブトキシドカリウムの存在下で反応させることで得ることができたP-OHのカルボン誘導体を,引き続き加水分解を行って,P-カルボキシメチルエーテルを得ることができる。このカルボン酸誘導体はN-ヒドロキシスクシン酸とカルボジイミド試薬を使用して反応させ,対応するスクシンイミドエステルが得られ,これがその後第VIII因子のアミノ基と反応する。

」(第6欄第18?26行,反応式)
(1h)「ポリアルキレングリコールは好ましくはポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,又はポリ(エチレンオキサイド)とポリ(プロピレンオキサイド)との共重合体であり,分子量は一般的に前に説明したとおりである。」(第7欄第55?58行)
(1i)「ペプチドとポリアルキレングリコールとのモル比は,ペプチド鎖の長さを考慮しながら,ペプチド鎖の置換度を調節するために規定することができる。特定のアミノ酸(リシンのε-アミノ基と2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸との反応のように,特定のアミノ酸が特定のカップリング試薬と反応することが知られている。)の置換度は,カップリング試薬又はポリ(アルキレンオキサイド)の濃度,ペプチドと反応がなされるpHに基づいて決定される。高pH(約6.5?1.0)又は低pH(約3.0?6.0)と濃度の高低(1.0?4.0モル又は0.1?1.0モル)との様々な組み合わせによって様々な置換度をもたらすことができるが,置換度はすべて上述のような従来の分析手法に従って決定することができる。置換度は,安定性の程度に影響し,時として望まれないような極端な安定性や半減期となる。もちろん,持続した効果を提供するため,急速な反応で全く修飾されていないペプチドも含む置換ペプチドの混合物とすることもできる。」(第7欄第65行?第8欄第18行)
(1j)「実施例1
プールされた血液プラズマから得られた第VIII因子(von Willebrandの第VIII:CvWF因子と結合したヒトの第VIII:C因子と,フィブリノーゲン,フィブロネクチンを含む不純物少量)は,分画と精製をした後,活性化されたポリエチレングリコールと第VIIIC:vWF因子(10-100Iu/ml)とが反応される。反応のpHは緩衝状態で約8.5が維持される。緩衝液は2mmのチオシアン酸カリウムも含んでいる。反応は48時間4-6℃で継続された。反応の完了後に,未反応のポリエチレングリコールが適当な緩衝液(例えば,0.1mのアルギニンを含む25mmのヒスチジン;pH7.3)に対して透析で除去される。PEGが結合した第VIIIC:vWF因子は,それから活性を評価され,凍結又は凍結乾燥して保存される。
実施例2
上記実施例が,第VIIIC:vWF因子に代えて,ドナーから得られた第IX因子を用いて繰り返された。
・・・
実施例5
上記実施例1が,第VIIIC:vWF因子に代えて,第IXa因子を用いて繰り返された。」(第8欄第29?60行)
(1k)「1.第VIIIC:vWF因子とポリ(アルキレンオキサイド)とが前記第VIIIC:vWF因子のカルボニル基を介して結合されたものからなる共有結合された抱合体。
2.第IX因子とポリ(アルキレンオキサイド)とが前記第IX因子のカルボニル基を介して結合されたものからなる共有結合された抱合体。
・・・
5.第IXa因子とポリ(アルキレンオキサイド)とが前記第IXa因子のカルボニル基を介して結合されたものからなる共有結合された抱合体。」(特許請求の範囲)
(1l)「分子量5000以上のポリオキシエチレン部分を有する置換2,4-ビス(メトキシポリオキシ-エチレン)-6-トリアジンがある修飾第VIII因子も説明される。」(第6欄下から第7?4行)

(2)刊行物2の記載事項
刊行物2には,日本語にして以下の事項が記載されている。なお,翻訳は当審の訳である。
(2a)「本発明の様々な態様として,免疫性及び抗原性に関連する性質を減少させた第IX因子活性をもつ抱合体を提供する。加えて,ポリエチレングリコール(PEG)のような非免疫性のポリマー物質で,第IX因子の活性を有するグリコポリペプチド又はその断片のような物質を修飾する方法もまた提供する。」(第2欄第43?50行)
(2b)「本発明の一つの態様によれば,第IX因子活性を含む物質は,活性領域の炭水化物部分のビシナルジオールを酸化することのできる物質と反応させて,アルデヒドを形成する。1以上の実質的に非免疫性のポリマーが,酸化された炭水化物部分に共有結合で結合する。」(第3欄第8?13行)
(2c)「この方法は,抗体阻害剤への感受性がより小さく,未修飾の物質のそのものの活性の効果を維持し,長く循環する第IX因子活性抱合体を提供することを見出した。」(第3欄第21?25行)
(2d)「付加的に,又は上述の炭化水素直接修飾の代わりに,さらなる高分子修飾が可能である。例えば,リシンのε-アミノ基は,適当に官能化されたポリマー又は追加的な活性部位で修飾することができる。」(第6欄第24?28行)
(2e)「結合反応に引き続き,所望の生成物が公知の手法を用いて回収され,必要に応じて,カラムクロマトグラフィーや同様の機器を用いて精製される。反応条件によるが,抱合体は,糖タンパクに約1?10のポリマー鎖が付いている。糖タンパクに対する酸化剤及びポリマーのモル数の過剰を調節することで,当業者は付着するポリマー鎖の数を望むように調節できる。抱合体は約3?8のポリマー鎖を含むものが好ましく,約3?5のポリマー鎖を含むものが最も好ましい。」(第6欄第31?40行)
(2f)「PEGベースのポリマーが使用される本発明において,約200?約10000の分子量を有するものが好ましく。分子量約2000?7000が好まししく,約5000の分子量が特に好ましい。」(第3欄第58?62行)
(2g)「実施例2
精製された第IX因子(3.7mg/ml)がアメリカ赤十字から得られた・・・」(第7欄第19?20行)
(2h)「実施例4
1mlの精製された第IX因子(4.75mg/ml)がAlpha Therapeutics、ロサンゼルス、カリフォルニアから得られた・・・」(第8欄第10?11行)

2 刊行物に記載された発明(引用発明)
刊行物1には,実施例2として,「活性化されたポリエチレングリコール」と「第IX因子」とを反応させること(摘記1j参照)が記載され,第IX因子はドナーから得られたこと,及び反応条件が記載されている実施例1を繰り返したことが記載されていることからみて,実際に,実施例1の第VIII因子と同様の反応条件で反応させて,「第IX因子」と「ポリエチレングリコール」とがカルボニル基を介して共有結合で結合された抱合体が生じている(摘記1k参照)ことは明らかであるといえる。
また,第IX因子は,刊行物2の記載(摘記2g,2h参照)からみて,本願優先日の時点で,当業者が容易に入手可能であったといえ,実施例2には,「第IX因子」と「ポリエチレングリコール」とがカルボニル基を介して共有結合で結合された抱合体を当業者が実際に製造できる程度に記載されたものということができる。

そうすると,刊行物1には,
「活性化されたポリエチレングリコールと第IX因子とを反応させることで得られた第IX因子とポリエチレングリコールとがカルボニル基を介して共有結合で結合された抱合体」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「第IX因子」は,本願発明の「第IX因子部分」に相当する。
引用発明の「ポリエチレングリコール」は,本願発明の「ポリ(アルキレン・オキシド)である水溶性ポリマー」に相当する。

そうすると,本願発明と引用発明とは,
「ポリ(アルキレン・オキシド)である水溶性ポリマーに共有結合した第IX因子部分を含む抱合体であって、当該第IX因子部分が、第IX因子、第IXa因子、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質であって、1?4個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されているタンパク質、並びに配列番号1に対して95%の配列同一性を有するタンパク質から選ばれる、前記抱合体。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(i)水溶性ポリマーと第IX因子部分の共有結合が,本願発明は「直接的にまたは1又は複数の原子から構成されるスペーサ部分を介して」,「アミド結合を介して」なされ,かつ「第IX因子部分が、上記スペーサ部分を介して水溶性ポリマーに共有結合されている場合は、当該スペーサ部分が糖又は炭水化物を含ま」ないのに対して,引用発明では,「カルボニル基を介して」なされている点
(ii)水溶性ポリマーの総重量平均分子量が,本願発明では「6,000ダルトンより多く、100,000ダルトン未満」であるのに対して,引用発明ではその点が明確でない点
(iii)本願発明では,「3以下の水溶性ポリマーが第IX因子部分に結合して」いるのに対して,引用発明ではその点が明確でない点

(2)相違点の検討
ア 相違点(i)について
引用発明の「活性化されたポリエチレングリコール」がどのようなものかは刊行物1に明記されていないが,刊行物1には,「アルキル化方法としては,ポリアルキレングリコールをトリアジン誘導体やアセチル誘導体にすることで活性化した方法を説明することができる。」(摘記1f参照)とした上で,その他のアルキル化の方法として,ポリアルキレングリコールを結合したスクシンイミドエステルが得られ,これを第VIII因子のアミノ基と反応させる方法も記載されている(摘記1g参照)。
そして,第VIII因子と,第IX因子又は第IXa因子が置き換えることができることも記載されている(摘記1f,1j参照)から,刊行物1においては,引用発明の「活性化されたポリエチレングリコール」の一態様として「ポリアルキレングリコールを結合したスクシンイミドエステル」を使用することが記載されているか,少なくとも示唆されているといえ,引用発明を具体的に製造する際に,このような「活性化されたポリエチレングリコール」を使用して,「第IX因子」と「ポリエチレングリコール」とが共有結合で結合された抱合体を得ることは当業者が容易になし得たことと認められる。
そして,このような「ポリアルキレングリコールを結合したスクシンイミドエステル」を使用すれば,第IX因子部分との結合構造は,「-O-CH_(2)-CO-NH-」(アミド結合)となる(摘記1g参照)ので,水溶性ポリマーと第IX因子部分の共有結合が,本願発明のように,「直接的に」「水溶性ポリマーにアミド結合を介して」,「第IX因子部分」と「共有結合」したものとなる。
そうすると,引用発明において,相違点(i)の構成を採用することは当業者が容易になし得たことと認められる。

イ 相違点(ii)について
引用発明において,使用されるポリエチレングリコールの総重量平均分子量は不明であるが,刊行物1には,「ポリアルキレングリコールは好ましくはポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,又はポリ(エチレンオキサイド)とポリ(プロピレンオキサイド)との共重合体であり,分子量は一般的に前に説明したとおりである。」と記載され(摘記1h参照),従来技術として「分子量500?20000ダルトンのポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールを結合したペプチド酵素やペプチドホルモンは,活性の低下から保護された,生理学的に活性で非免疫性で水溶性のポリペプチド合成物を提供する」ことが記載され(摘記1b参照),さらに,「分子量5000以上のポリオキシエチレン部分を有する」トリアジン誘導体を使用することも記載されている(摘記1l参照)。
そして,刊行物1には,ポリアルキレングリコールを第VIII因子や第IX因子に結合することで,免疫性を低下させ,半減期を延ばすことを目的とするものであるから(摘記1a,1c,1d参照),このような目的に合わせて,引用発明において,適切な総重量平均分子量のポリエチレングリコールを選択することは当業者が当然行う設計事項であるものと認める。
その上で,当業者が引用発明においてポリエチレングリコールの分子量を決定するに当たっては,刊行物1に開示のある500?20000ダルトン(特に5000ダルトン以上)という範囲内で行うのが自然であり,その範囲に含まれる総重量平均分子量として6000?20000ダルトンという範囲内のポリエチレングリコールを選択することは,当業者が容易になし得たことと認められる。

ウ 相違点(iii)について
まず,引用発明において,活性化されたポリエチレングリコールが第IX因子とどのように反応しているのか検討する。
刊行物1には,「ポリアルキレングリコールを結合したスクシンイミドエステル」を使用した場合には,第VIII因子のアミノ基と反応することが記載され(摘記1g参照),また,「リシンのε-アミノ基と2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸との反応のように,特定のアミノ酸が特定のカップリング試薬と反応することが知られている。」と記載されていること(摘記1i参照),並びに第IX因子部分を構成するペプチド鎖において,ε-アミノ基を有するのはリシン残基だけであることからすれば,活性化されたポリエチレングリコールはリシン残基のε-アミノ基と反応しているものと解される。そして,第IX因子は27個のリシン残基を含むものであるが,刊行物1には,置換度(すなわちアミノ基に反応する個数)は,ポリ(アルキレンオキサイド)の濃度やpHで調節できることが記載されている(摘記1i参照)から,当業者は,引用発明におけるポリエチレングリコールが結合する個数を任意に調節できることが理解できる。
一方,刊行物2には,第IX因子にポリエチレングリコール(PEG)のような非免疫性のポリマー物質を修飾する方法が記載され(摘記2a参照),その目的とするところは,「抗体阻害剤への感受性がより小さく,未修飾の物質のそのものの活性の効果を維持し,長く循環する第IX因子活性抱合体を提供する」もの(摘記2c参照)であって,引用発明も,刊行物1に記載される(摘記1a,1c,1d参照)ように,ポリ(アルキレンオキサイド)ポリマーを第IX因子に結合して,免疫性を低下させ,半減期を延ばすことであるから,両者の技術課題は共通しているといえる。
刊行物2に記載された第IX因子へのポリエチレングリコールの修飾は,第IX因子の活性領域の炭水化物部分のビシナルジオールを酸化し,アルデヒドを形成して,そこにポリエチレングリコールを結合するものであるが(摘記2b参照),それ以外にも引用発明と同様に,リシン部分のリシンのε-アミノ基も修飾可能であることが記載されている(摘記2d参照)。そして,刊行物2には,このような第IX因子にポリエチレングリコールを結合する場合において,「約3?5のポリマー鎖を含むものが最も好ましい。」(摘記2e参照)ことが記載され,さらに,使用するポリエチレングルコールの分子量も200?10000ダルトンの範囲が好ましいことも記載され(摘記2g参照),これは刊行物1において好適とされる数値範囲と重複するものである。
そうすると,刊行物2には,第IX因子のリシンのε-アミノ基を結合箇所に含む場合においても,分子量200?10000ダルトンの範囲のポリエチレングリコールを約3?5個結合したものが最適であることが示唆されているということができ,引用発明においても,ポリエチレングリコールの結合による免疫性を低下させ,半減期を延ばすとの目的に沿って,活性化されたポリエチレングリコールと第IX因子を結合させるに際しては,第IX因子に結合する分子量200?10000の範囲のポリエチレングリコールを結合する際に,その個数が3?5が最適であるとの刊行物2の示唆を当業者であれば当然考慮するものと認められる。
したがって,引用発明においては,第IX因子に結合する分子量6000?10000ダルトンの範囲のポリエチレングリコールの数を最適の範囲とされる3個の抱合体とする動機づけがあるといえ,さらに,引用発明において,第IX因子に結合するポリエチレングリコールの数を3個とすることは,上述のようにポリエチレングリコールの濃度やpHを調節することなどで当業者が容易になし得たことと認められる。
よって,引用発明において,相違点(iii)の構成を採用することも当業者が容易になし得たことと認められる。

(3)本願発明の効果について
本願明細書には,本願発明の抱合体に該当する,実施例1,2,3,9,14及び15で得られた抱合体が第IX因子活性を有することについて記載はある(実施例20参照)が,それ以外に具体的な効果について記載されていない。
また,本願明細書には,「抱合体は、一般に組成物の一部である。概して、組成物は複数の抱合体を含み、必ずではないが、それぞれが、1つの第IX因子部分に別々に共有結合した、1つ、2つ、3つ、または4つの水溶性高分子を有することが好ましい。しかし、組成物はまた、第IX因子活性を有する任意の所定の部分に付着した、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ以上の高分子を有する他の抱合体を含むこともできる。」(【0132】参照)と記載されており,抱合体に結合する水溶性ポリマーの数を,3個以下に限定したことで4個以上の場合に比べて効果に差が生じることは記載されていない。
そして,引用発明において,相違点(i)?(iii)の構成を採用した本願発明(ポリエチレングルコールの結合数が3個のものを含む)が,第IX因子にポリエチレングリコール(PEG)を結合して,第IX因子としての活性を維持しながら,免疫性を低下させ,半減期を延ばすと効果を奏することは,刊行物1,2の記載(摘記1a,1c,1d,2a,2c参照)から当業者が予測し得たものということができる。
よって,本願発明に格別顕著な効果があるとは認められない。

なお,請求人は,平成27年2月19日付けの意見書において,新たな実験結果を添付し,モノPEG化第IX因子が,in vitroで優れた薬物動態プロファイルを有するとともに,天然の第IX因子に比較して有意に延長された半減期を提供する旨主張している。
しかしながら,上記実験結果は,上述のとおり,本願明細書に記載されておらず,本願明細書の記載のない半減期等に関する実験が新たに行われている点で,本願明細書の記載から当然に推認できるものであるともいえないから,これを直ちに参酌することができない。
仮に,この実験結果を参酌したとしても,本願発明は,モノPEG化第IX因子に限定されたものではなく,「3個」の水溶性ポリマーが第IX因子部分に結合したものも含まれるのであるから,請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであって,採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1,2に記載された発明に基いて,その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その余の請求項について検討するまでもなく,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-08 
結審通知日 2015-06-09 
審決日 2015-06-22 
出願番号 特願2007-519528(P2007-519528)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 晋治  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
井上 雅博
発明の名称 高分子-第IX因子部分の抱合体  
代理人 古賀 哲次  
代理人 武居 良太郎  
代理人 津田 英直  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 福本 積  
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