• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1307293
審判番号 不服2013-871  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-17 
確定日 2015-11-02 
事件の表示 特願2006-533278「多発性硬化症に関連する記憶障害および認知機能の障害を治療するための医薬」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月6日国際公開、WO2005/000203、平成19年2月15日国内公表、特表2007-502863〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2004年5月21日(パリ条約による優先権主張 2003年5月23日,2003年5月23日,2004年3月2日,いずれも米国)を国際出願日とするものであって、平成22年12月27日付けの拒絶理由通知に応答して平成23年4月15日付けで手続補正書と意見書が提出され、平成24年1月19日付けの拒絶理由通知に応答して平成24年7月25日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成24年9月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年1月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものであり、その後、当審から平成26年10月3日付けで審尋が通知されたが回答がなされなかったものである。

2.本願発明
本願請求項1?9に係る発明は、平成24年7月25日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は次のとおりである。
「【請求項1】
多発性硬化症に関連する記憶障害を有するヒトを治療するための、l-アンフェタミン、l-メタンフェタミンおよび双方の組み合わせからなる群より選択されるアンフェタミン組成物を含んでなる医薬。」

3.引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である、国際公開第2002-039998号(以下、「引用例1」という。)、国際公開第01/066114号(以下、「引用例2」という。)、特表平9-502441号公報(以下、「引用例3」という。)、「Multiple Sclerosis with Caudate Lesions on MRI,Internal Medicine,2001年,Vol.40, No.4,Pages 358-362」(以下、「引用例4」という。)には、図面がある場合には図面とともに(図面の摘示は省略)、次の技術事項が記載されている。
なお、引用例1,2,4は英文であるため翻訳文で示し、引用例1,2については翻訳の参考にしたそれらのパテントファミリーである特表2004-534724号公報、特表2003-525903号公報の対応する段落番号を参考までに付記(摘示の頁行に続いて「;参考公報段落【】」の様に付記、請求項番号は同じなので付記を省略)し、また、下線は当審で付した。

[引用例1]
(1-i)「1. 患者において長期記憶を増強するために充分な量の1つ以上のアンフェタミン化合物、薬学的に許容され得るキャリア、および記憶を増強するための製剤の使用を記載する使用説明書(書面および/または絵入り)を含んでなる医薬キット。」(97頁の請求項1)
(1-ii)「18. 1つ以上のアンフェタミン化合物が標準化性能試験により評価される場合統計的に有意な量で患者において長期記憶を増強するのに充分な量で提供されてなる請求項1記載のキットあるいは請求項2または3記載の調製物。
19. 1つ以上のアンフェタミン化合物が、ケンブリッジ神経心理学試験自動化バッテリー(CANTAB);小児記憶スケール(CMS);文脈記憶試験;連続認識記憶試験(CMRT);デンマン神経心理学記憶スケール;フルド対象記憶評価(FOME);グレーアム-ケンドルデザイン記憶試験;ギルド記憶試験;学習および記憶バッテリー(LAMB);記憶評価臨床自己評価スケール(MAC-S);記憶評価スケール(MAS);ランド記憶試験;認識記憶試験(RMT);リバーミード行動記憶試験;ウェックスラー記憶スケールのラッセルバージョン(RWMS);記憶および学習の試験(TOMAL);ヴァーモント記憶スケール(VMS);ウェックスラー記憶スケール;ならびに記憶および学習の広範評価(WRAML)のうちの1つ以上により評価される場合統計的に有意な量で患者において長期記憶を増強するのに充分な量で提供されてなる請求項18記載のキットまたは調製物。
20. 1つ以上のアンフェタミン化合物が先見認識記憶試験によって評価される場合統計的に有意な量で患者において長期記憶を増強するのに充分な量で提供されてなる請求項1記載のキットあるいは請求項2または3記載の調製物。」(101?102頁の請求項18?20)
(1-iii)「42. 1つ以上のアンフェタミン化合物が、ケンブリッジ神経心理学試験自動化バッテリー(CANTAB);小児記憶スケール(CMS);文脈記憶試験;連続認識記憶試験(CMRT);デンマン神経心理学記憶スケール;フルド対象記憶評価(FOME);グレーアム-ケンドルデザイン記憶試験;ギルド記憶試験;学習および記憶バッテリー(LAMB);記憶評価臨床自己評価スケール(MAC-S);記憶評価スケール(MAS);ランド記憶試験;認識記憶試験(RMT);リバーミード行動記憶試験;ウェックスラー記憶スケールのラッセルバージョン(RWMS);記憶および学習の試験(TOMAL);ヴァーモント記憶スケール(VMS);ウェックスラー記憶スケール;ならびに記憶および学習の広範評価(WRAML)のうちの1つ以上により評価される場合統計的に有意な量で患者において長期記憶を増強するのに充分な量で提供されてなる請求項24、25または26記載の医薬組成物の使用。
43. 前記1つ以上のアンフェタミン化合物が先見認識記憶試験によって評価される場合統計的に有意な量で患者において長期記憶を増強するのに充分な量で提供されてなる請求項24、25または26記載の医薬組成物の使用。」(107頁の請求項42,43)
(1-iv)「キット、調製物、組成物および方法の他の好ましい態様では、本発明は、標準化能力試験により評価された場合、統計学的に有意な量で患者において長期記憶を増強するのに十分な量で提供される1つまたはそれより多くのアンフェタミン化合物を特徴とする。
キット、調製物、組成物および方法の特定の態様では、本発明は、同等に有効なS-(+)-アンフェタミンの長期記憶増強用量と比べて少なくとも2倍少ない、または少なくとも4倍少ないR-(-)-アンフェタミンを含む1つまたはそれより多くのアンフェタミン化合物を特徴とする。」(9頁1?8行;参考公報段落【0062】?【0063】)
(1-v)「本発明の他の局面は、不安、うつ病、年齢関連記憶障害、最小の認識障害、健忘症、痴呆、学習障害、毒物曝露に関連する記憶障害、脳損傷、脳動脈瘤、パーキンソン病、頭部外傷、ハンティングトン病、ピック病、クロイツフェルト-ヤコブ病、脳卒中、精神分裂病、癲癇、精神遅滞、アルツハイマー病、加齢、注意欠陥障害、注意欠陥過活動性障害、またはAIDS関連痴呆に罹りやすいか、または罹患している動物の予防または処置のための医薬の製造におけるアンフェタミン化合物の医薬組成物の使用を特徴とし、ここでアンフェタミン化合物は、・・・略・・・」(10頁6?15行;参考公報段落【0068】)
(1-vi)「本発明の他の局面は、不安、うつ病、年齢関連記憶障害、最小の認識障害、健忘症、痴呆、学習障害、毒物曝露に関連する記憶障害、脳損傷、脳動脈瘤、パーキンソン病、頭部外傷、ハンティングトン病、ピック病、クロイツフェルト-ヤコブ病、脳卒中、精神分裂病、癲癇、精神遅滞、アルツハイマー病、加齢、注意欠陥障害、注意欠陥過活動性障害、またはAIDS関連痴呆に罹りやすいか、または罹患している動物の予防または処置のための医薬の製造におけるアンフェタミン化合物の使用を特徴とし、ここでアンフェタミン化合物は、・・・略・・・」(13頁7?15行;参考公報段落【0089】)
(1-vii)「特定の態様では、医薬組成物は、標準化能力試験により評価された場合、統計学的に有意な量で患者において長期記憶を増強するのに十分な量で提供されるアンフェタミン化合物を特徴とする。
特定の態様では、医薬組成物は、ケンブリッジ神経心理学試験自動化バッテリー(CANTAB)、・・・略・・・ならびに記憶および学習の広範評価(WRAML )の1つまたはそれより多くにより評価される場合、統計学的に有意な量まで患者において長期記憶を増強するのに十分な量で提供される1つまたはそれより多くのアンフェタミン化合物を特徴とする。
特定の態様では、医薬組成物は、先見認識記憶試験により評価される場合、統計学的に有
意な量まで患者において長期記憶を増強するのに十分な量で提供される1つまたはそれより多くのアンフェタミン化合物を特徴とする。」(15頁8?29行;参考公報段落【0105】?【0107】)
(1-viii)「キット、調製物、組成物および方法の他の態様では、本発明はさらに、記憶障害を処置および/または防止するために提供されるアンフェタミン化合物を特徴とし、ここで、記憶障害は、不安、うつ病、年齢関連記憶障害、最小の認識障害、健忘症、痴呆、学習障害、毒物曝露に関連する記憶障害、脳損傷、脳動脈瘤、パーキンソン病、頭部外傷、ハンティングトン病、ピック病、クロイツフェルト-ヤコブ病、脳卒中、精神分裂病、癲癇、精神遅滞、アルツハイマー病、加齢、注意欠陥障害、注意欠陥過活動性障害、またはAIDS関連痴呆の1つまたはそれより多くから生じる。」(16頁6?15行;参考公報段落【0110】)
(1-ix)「本発明は、一部において、一方のエナンチオマーが豊富なアンフェタミン組成物の使用を想定する。特に、本明細書において、R-(-)-アンフェタミンまたはその誘導体を含む、ヒトなどの動物において長期相乗効果(potentiation)の増大および/または長期記憶の改善のための医薬調製物の使用を記載する。R-(-)-アンフェタミンは、一般的に処方されるアンフェタミンのR-(+) エナンチオマーと比べ、記憶増強剤として少なくとも4倍有効である。また、S-(+)-アンフェタミンとは異なり、R-(-) エナンチオマーは中毒になることが示されていない。」(26頁25?32行;参考公報段落【0183】)
(1-x)「特定の態様において、該方法は、医薬調製物と組み合わせて、1つまたはそれより多くの神経成長因子、神経生存因子、および神経屈性因子を投与することを含む。さらにまたは代替的に、主題の化合物は、コリン作動性モジュレーター、アドレナリン作動性モジュレーター、非アドレナリン作動性モジュレーター、ドーパミン作動性モジュレーター、またはグルタミン作動性モジュレーターと組み合わせて投与されうる。GABA、NMDA、カナビノイド(cannabinoid) 、AMPA 、カイネート(kainate) 、ホスホジエステラーゼ(PDE )、PKA 、PKC 、CREB または向知性系をモジュレートする際に指向される他の薬剤は、認識機能の改善に重要であり得、主題の化合物と組み合わせて投与されうる。主題の化合物と組み合わせて投与される薬剤は、単一医薬調製物として(例えば、両方の薬剤を含む丸薬または他の薬物として)主題の化合物とともに製剤化されてもよいし、別々の医薬調製物として投与されてもよい。」(27頁14?25行;参考公報段落【0186】)
(1-xi)「本明細書で使用される場合、「アンフェタミン」および「アンフェタミン化合物」は、アンフェタミン、アンフェタミンのアナログ、鏡像異性的または異性的に豊富なアンフェタミンおよび鏡像異性的または異性的に豊富なアンフェタミンのアナログならびにかかる化合物およびプロドラッグの薬学的に許容され得る塩を含むことを意味するものとする。特に、本発明のアンフェタミン化合物またはそのアナログとしては、上記式Iで表される構造を有する化合物が挙げられる。「アンフェタミン」のデキストロ異性体は、当該分野において、d、(+)、DまたはS異性体と称され、一般式:

式中、R_(1)は両存在について水素を表し、R_(2)がメチルを表し、R_(3)が水素を表し、R_(4)が水素を表す。同様に、本出願の目的のため、(+)、DまたはS異性体とも称される「アンフェタミン化合物」のデキストロ異性体は、上記の式(式中のR_(1)、R_(2)、R_(3)およびR_(4)が本出願全体を通して定義されている)において特定のキラル中心での同一の絶対立体配座により定義される。特定の状況において、R_(2)基の実体は、上記に規定したキラル中心において反対の絶対立体配座をもたらしうる。しかしながら、簡便のため、上記の式において定義した特定のキラル中心での絶対立体配座を有する全ての化合物を、(+)、DまたはSアンフェタミン異性体と称する。 「アンフェタミン」のレボ異性体は、当該分野において、l、(-)、LまたはR異性体と称され、一般式:

式中、R_(1)は両存在について水素を表し、R_(2)がメチルを表し、R_(3)が水素を表し、R_(4)が水素を表す。同様に、本出願の目的のため、(-)、LまたはR異性体とも称される「アンフェタミン化合物」のレボ異性体は、上記の式(式中のR_(1)、R_(2)、R_(3)およびR_(4)が本出願全体を通して定義されている)において特定のキラル中心での同一の絶対立体配座により定義される。特定の状況において、R_(2)基の実体は、上記に規定したキラル中心において反対の絶対立体配座をもたらしうる。しかしながら、簡便のため、上記の式において定義した特定のキラル中心での絶対立体配座を有する全ての化合物を、(-)、LまたはRアンフェタミン異性体と称する。ラセミ混合物は、d,lまたは(+,-)または(±)またはDLまたはRSと称されうる。」(28頁19行?29頁21行;参考公報段落【0191】?【0195】)
(1-xii)「A.アンフェタミン化合物の合成
以下にさらに詳細に記載されるように、主題の方法は、アンフェタミン、特にR-(-)-アンフェタミン、あるいはその種々の異なる誘導体を用いて行われうることが意図される。特定のアンフェタミン化合物の使用の適合性は、例えば、本明細書中に記載されるような薬物スクリーニングアッセイにより容易に決定されうる。」(43頁8?13行;参考公報段落【0290】)
(1-xiii)「実験1:用量応答試験
阻害回避におけるS-(+)-アンフェタミンの効果
この実験において、ラットにIA課題での訓練の30分前に3つの異なる用量のS-(+) アンフェタミンを注射した。図1からわかり得るように、2mg/kgの用量のアンフェタミンは課題の記憶力を改善したが、0.25、0.50および1.0mg/kgの用量では効果はなかった。・・・略・・・。
阻害回避におけるR-(-)-アンフェタミン(C105)の効果
C105を用いて行われる第一の実験は容量応答実験であり、ラットに阻害回避課題での訓練の1時間前に異なる用量(0.4、0.5 、0.75、1.0 および2.0mg/kg) のC105を投与した・・・略・・・、その結果は、用量レベル群間の統計的に有意な差異(F(5,59) =168600, p<0.01)を示した。・・・略・・・。
阻害回避におけるR-(-)-アンフェタミン(C105)の効果
この実験では、IA課題での訓練の1時間前に異なる用量(0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kgまたは4.0mg/kg) のアンフェタミンのR-(-) エナンチオマーを用いて10匹のラットの4群に注射した。24時間記憶力間隔および0.46mA電撃強度を用いて実験を行なった。図8からわかりうるように、S-(+)-アンフェタミンを用いて得られるのと同一の改善された記憶力効果のためには、ずっと低い用量のR-(-)-アンフェタミンが必要である(図1と比較)。0.5kg/mgを超える用量の増大は、おそらく飽和効果を示すこの用量で得られる記憶力結果をさらに改善しなかった。
阻害回避におけるR-(-)-アンフェタミン(C105)の効果
0.5mg/kgより少ない用量のC105が能力を向上させるかどうかを調査するために、訓練の1時間前に0.1 、0.25または0.5mg/kgのC105を用いてラットに注射した。記憶力を、24時間後に試験した。実験は、0.5mg/kgより少ない用量のC105は、ラットの記憶能力の改善に効果がないことを示した。対照的に、0.5mg/kg用量は、有意に課題に対する能力を向上した(F(3,39)=67450,p<0.0477) 。これらのデータを、表4に個々に示す。
実験2:効果の時間推移
この実験において、最適な訓練前薬物投与時間を決定するために、薬物投与の時間を変更した。図3は、S-(+) アンフェタミン(2.0mg/kg)は、訓練0?2時間前にラットに投与する場合有効であることを示す。
実験3:長期間記憶力
この実験を、実験2で観察された記憶力の向上が長期持続するかどうかを決定するために行った。ラットに、最初の記憶力試験の1週間後に第二の記憶力試験を行った。さらなる訓練をしないかまたは、薬物を中間期間に動物へ投与しなかった。図4は、前の週にS-(+)-アンフェタミンを与えたラットが、ビヒクル溶液の対照注射を与えたラットよりも有意に良好な成績であった(F(4,47)=3.688 、p<0.01)ことを示す。
実験4:損傷動物への効果
損傷動物へのS-(+)-アンフェタミンの効果
上記実験の知見は、本化合物の最も有効な用量および投与時間を同定するものであるため、重要である。さらに、結果は、S-(+)-アンフェタミンが正常なラットにおいて記憶を改善し、この改善が長期間維持することを示す。・・・略・・・。さらに、S-(+)-アンフェタミンを受けた円蓋動物の能力は、正常生理食塩水注射動物と有意には異ならなかった。これらの結果は、アンフェタミンが正常ラットにおいて記憶を向上し得、脳損傷健忘症ラットにおいて有益な効果を有することを示す。
損傷動物へのR-(-)-アンフェタミンの効果
円蓋の両側性損傷を有するラットを、阻害回避課題において試験した。全てのラットに試験物(article )(0.5 、1.0 、2.0 および4.0mg/kg)または対照物を試験の1時間前に注射した。一方向性ANOVA は、用量の有意な主作用があることを示した(F(4,45) =15580, p<0.0316 )。1.0mg/kgのC105の用量は、円蓋損傷動物の能力を改善することにおいて最も有効であるようであった。この実験のデータは、図12に説明され、表7に個別に示される。
円蓋の損傷を有するラットをまた、対象認識課題において試験した。訓練期間の直後にC105(1.0mg/kg)または生理食塩水のI.P 注射を与えたラットを、24時間後の記憶力について試験した。図13から理解されうるように、対照と比べた場合、円蓋の損傷は、この課題の能力において有害な影響を有していた。C105の投与により、D1(p =0.0685)において識別能力の改善に向かう傾向を生じ、D2においてわずかに能力を改善した。
実験5:記憶固化の刺激におけるR-(-) 対S-(+) アンフェタミンエナンチオマーの効果
記憶固化の刺激および運動刺激におけるR-(-) 対S-(+) アンフェタミンエナンチオマーの効果を比較した。アンフェタミンのR-(-) エナンチオマーを図中ではC105と呼ぶ。
阻害回避におけるS-(+)-アンフェタミンの効果
異なる用量のS-(+)-アンフェタミンを、阻害回避課題における訓練の1時間前にラットに投与し、生理食塩水を注射したラットの対照群と比較する実験を行った。課題に関する記憶力を、0.46mA電撃強度とともに24時間後に試験した。この実験の結果は、表1および2に個々に示され、S-(+)-アンフェタミンが2.0mg/kgの用量で投与された場合、能力を増強するようであることを示した。・・・略・・・。これらの結果は、以前の研究と一致し、記憶増強薬としてのS-(+)-アンフェタミンの有効性を示す援助となる。
阻害回避におけるR-(-)-アンフェタミン(C105)の効果
用量応答試験の結果を確証するために、R-(-)-アンフェタミンを用いる第2の実験を行った。18匹のラットに0.5mg/kgの用量のR-(-)-アンフェタミンを、IA課題で訓練する1時間前に注射した。実験を、24時間記憶力間隔および0.46mA電撃強度を用いて行った。図9において理解されうるように、この用量のR-(-)-アンフェタミンは、課題の記憶力を有意に改善した。非対t-検定は、この増強が統計学的に有意(p<0.002 )であることを示した。
上記の実験から得られた結果に基づいて、さらに数回の実験を行い、阻害回避における0.5mg/kgの用量のC105の効果を調査した。図10および表5に個々に示されるデータは、かかる実験の全ての一覧を表す。これらの実験の結果は、阻害回避課題により測定される記憶増強効果を明らかに示す。訓練の1時間前にC105(0.5mg/kg)を注射したラットは、24時間記憶力検定において対照動物よりも有意に良好な成績であった(t(132)=3.438, p<0.0008)。
対象認識におけるR-(-)-アンフェタミン(C105)の効果
認識記憶におけるC105の効果を調査するために、ラットを、自発的対象認識課題において訓練した。正常なラットに、訓練期間の直後に0.5mg/kg C105 を注射し、24時間後の記憶力について試験した。前記実験の結果は、C105が認識記憶を有意に改善したことを示す。訓練期間の直後に試験物の注射を与えたラットは、記憶力試験の間、新しい対象を探索するのにより時間をかけたので、それらの生理食塩水を注射した対応物よりも有意に良好な成績であった。見慣れた対象と新しい対象との間の識別を反映する識別指数D1およびD2の両方は、C105処理動物において有意に高かった[それぞれ、(t(51)=2.526, p<0.0147 )および(t(51)=3.197, p<0.0024 )]。認識記憶は被験体が刺激が以前に経験したものであることに気づくことによるプロセスであるので、これらの結果は特に興味深い。このプロセスは、受ける刺激が、記憶に保存されている以前に遭遇した刺激の代表(representation)と同一であり、匹敵することを必要とする。認識記憶は、毎日の生活の中で使用され、認識記憶の不全は、疑いなく、健忘症患者により遭遇される問題に寄与する。これらの実験の結果を図13に示し、個々のデータを表8に示す。
R-(-)-アンフェタミン(C105)で得られた結果がS-(+)-アンフェタミンで得られた結果と匹敵することは、この点で興味深い。S-(+)-アンフェタミンは、2.0mg/kgの用量で記憶増強効果を有し、一方、R-(-)-アンフェタミンは、0.5mg/kgの用量で同じ課題において記憶増強効果を有した。これらの2つの化合物間で決定的な用量-応答関係実験は行われていないが、C105は、ラットにおけるこの特定の課題についてはより強力な記憶増強剤であるようである。しかし、2つの化合物の最大の効率が同じであることは留意されるべきである。
実験6:運動刺激におけるR-(-) 対S-(+)-アンフェタミンの効果
活動レベルにおけるS-(+)-アンフェタミンの効果
上記に記載の結果のための比較点を提供するために、活動試験の前にラットに2mg/k
g のS-(+)-アンフェタミンを注射する第2の実験を行った。この実験の結果を図7に示す。この結果は、S-(+)-アンフェタミンが10分間の期間全体で歩行運動活動において明確かつ有意な増強を生じることを示した。不定な総距離(F(9,70)=1514000, p<0.0001 ); 移動の数(F(9,70)=45.89, p<0.0001 ); 移動時間(F(9,70)=53.07, p<0.0001 ); 後方(F(9,70)=49.47, p<0.0001 ), 常同的な移動(F(9,70)= 24.65, p<0.0001)および静止時(F(9,70)=44.34, p<0.0001 )について有意な主作用が観察された。時間または時間-薬物相互作用には有意な影響は観察されなかった。
活動レベルにおけるR-(-)-アンフェタミン(C105)の効果
この実験では、ラットに0.5mg/kgのR-(-)-アンフェタミン(C105)を注射し、生理食塩水を注射したラットの対照群と比較した。ラット活動を、R-(-)-アンフェタミン注射の1時間後に10分間モニターした。図14で理解されうるように、R-(-)-アンフェタミンを用いた処理は、対照群と比較してラットの活動レベルにおいて有意な効果を有さなかった。
このデータは、R-(-)-アンフェタミンがS-(+)-アンフェタミン処理ラットにおいて観察された運動刺激効果を生じることなく記憶固化の改善を提供しうることを示す(図7と比較のこと)。S-(+)-対R-(-)-アンフェタミンについて得られる結果の比較は、記憶を増強するのに等しく効果的である用量で、S-(+)-アンフェタミンがR-(-)-アンフェタミンよりも大きな歩行運動効果を生じたことを示す。この観察は、S-(+)-アンフェタミンが歩行運動応答の上昇を生じることにおいて、R-(-)-アンフェタミンよりも4?10倍強力であることを繰り返し示した以前の研究と一致する。
実験7:テールフリック
テールフリック感覚脱疾データを図16に示し、個々のデータを表12に示す。試験の1時間前の1.0 、2.0 、4.0 または8.0mg/kgのC105の投与は、種々の程度の感覚脱疾を生じた。1.0 および2.0mg/kgは、感覚脱疾特性を有さず、一方、4.0 および8.0 は有した。4.0mg/kg用量で統計学的な有意差が観察された(F(4,39)=43.18, p<0.0117 )。この実験は、テール-フリック感覚脱疾計(analgesiometer)により測定されるように、R-(-)-アンフェタミンの治療用量が感覚脱疾において効果を有さなかったことを示す。
実験8:訓練後投与
上記の結果は、C105が記憶を増強することを示唆する証拠を提供するが、これらの結果が非記憶増進因子によるものであることもありうる。薬物が訓練の前に投与されたので、学習または獲得のプロセスが薬物投与により影響されたこともありうる。このため、訓練期間の直後にC105をラットに投与する訓練後実験を行った。訓練期間後の薬物の注射は、薬物が訓練のときには投与されていないので、主として、獲得よりも記憶固化に影響する。この実験の結果を図11に示し、表6に個々に示す。図11から理解されうるように、0.5mg/kgのC105の訓練後投与は、阻害回避課題における能力を有意に増強した(t(26)=2.160, p<0.0402 )。この実験は、それゆえ、C105が記憶固化を選択的に増強することにより作用することの強固な証拠を提供する。
【表1】?【表12】
・・・略・・・
均等物
当業者は、わずかな慣用的な実験を用いて、本明細書中に記載される本発明の特定の態様に対する多くの均等物を理解するかまたは確かめることが可能である。・・・略・・・。」(81頁5行?96頁13行;参考公報段落【0438】?【0471】)

[引用例2]
(2-i)「本発明は、本明細書に記載のコリンエステラーゼ阻害化合物の少なくとも一つの治療上有効な量を患者に投与することにより、多発性硬化症に関連する、または多発性硬化症が原因の認知障害および/または痴呆を治療および予防するための新規の方法について説明する。」(3頁13?16行;参考公報段落【0014】)
(2-ii)「「認知障害」とは、個人の独立に機能する能力を侵害する、記憶機能、問題解決、見当識および/または抽象の一つまたは複数における後天的欠陥を意味する。
「痴呆」とは、意識が明瞭な中での知的機能の全般的劣化を意味し、見当識障害、記憶障害、判断障害、および/または知能障害の一つまたは複数の症状によって特徴付けられる。「痴呆」の症状は一般に、「認知障害」の症状よりも悪く、認知障害の症状を含みうる。」(6頁14?20行;参考公報段落【0040】?【0041】)
(2-iii)「「多発性硬化症」は、脳および脊髄における硬化斑(例えば、斑点)の出現によって引き起こされる疾患であり、ある程度の麻痺、振せん、眼振および/または言語障害によって特徴付けられる。多発性硬化症の症状は、脳における病変の位置に依存する。本発明は好ましくは、多発性硬化症に関連する、または多発性硬化症が原因の、本明細書において定義されている認知障害および/または本明細書において定義されている痴呆を治療および予防する方法を目的とする。」(8頁7?13行;参考公報段落【0050】)

[引用例3]
(3-i)「本発明は、さまざまな神経精神障害において観察される無気力-無動機および精神鈍麻の治療に関するものである。こうした障害の主だった例は次のとおりである。
1.アルツハイマー病
2.多発性硬化症
3.AIDS痴呆症
4.前頭葉症候群
5.ハンチントン舞踏病
また、無気力-無動機または精神鈍麻の少なくとも一つの成分を示す他の神経精神障害の治療も本発明の範囲に含まれるものである。
本明細書中で用いられる無気力-無動機症候群は、以下の症状によって表される認知過程の遅滞および動機づけの欠如によって代表される。
1.生産力の欠如
2.イニシアチブまたは忍耐の欠如
3.社会性または娯楽性の低下
4.新しいことを学習することへの関心の低下
5.新しい経験への関心の低下
6.肯定的または否定的な出来事への情動反応の欠如
7.感情の不変または平坦化
8.興奮または強烈な感情の欠如」(第7頁1?20行)
(3-ii)「多発性硬化症についての更なる神経精神症状は、記憶障害および痴呆、感情障害(抑鬱、多幸感および興奮)、そして不安である。」(9頁10?11行)

[引用例4]
(4-i)「はじめに
ヒトでの認知機能や社会的行動の大脳基底核の役割は十分に理解されていない。視床や大脳基底核病変はほとんど多発性硬化症(MS)の患者で報告されていない。これは、最近、MS患者の40%?60%が、かなりの大きさの認知障害に苦しむことが確証されている。加えて、ソーントンとラズは、以前考えられていたよりも、MSにおいて記憶障害のよりグローバルなパターンを同定した。・・・略・・・。」(358頁左欄のIntroductionの項)

4.対比、判断
引用例1には、上記「3.」の[引用例1]の摘示内容からみて、特に、「患者において長期記憶を増強するためにアンフェタミン化合物と薬学的に許容されるキャリアを含有する製剤」(摘示(1-i)?(1-iv),(1-vii)参照)が記載され、該アンフェタミン化合物としては、「R-(-)-アンフェタミン」の方が有効であると記載され、実施例でも使用されていること(摘示(1-ix),(1-xi)?(1-xiii)参照)を勘案すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。
<引用発明>
「患者において長期記憶を増強するための、R-(-)-アンフェタミンを用いたアンフェタミン化合物を含有する製剤。」

そこで、本願発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「患者において長期記憶を増強するため」については、患者とはヒトであることが明らかであり、増強することは治療として行われることも明らかであること、また、本願発明の実施態様の請求項8において「・・、長期記憶、・・・からなる群より選択される少なくとも1つが、ヒトにおいて改善される、請求項1記載の医薬。」とされ、長期記憶の改善が記憶障害の治療に当たると認められることから、本願発明の「記憶障害を有するヒトを治療するため」に相当する。
(b)引用発明の「R-(-)-アンフェタミン」は、例えば本願明細書段落【0274】に「R-(-)-アンフェタミン(l-アンフェタミン、レボ-アンフェタミン、C105)」と記載されているように、l-アンフェタミンであることが明らかであるから、本願発明の「l-アンフェタミン」に相当する。ちなみに、「l-アンフェタミン」の「l-」は光学異性体のエル体(L-)を意味する(摘示(1-ix),(1-xi)も参照)。
(c)引用発明の「製剤」は、キャリアなども含有し得るし、他の薬剤も併用できることから、医薬組成物ともいえる(摘示(1-i)、(1-vii)、(1-ix)なども参照)。

してみると、両発明は、
「記憶障害を有するヒトを治療するための、l-アンフェタミンを選択したアンフェタミン組成物を含んでなる医薬」
で一致し、次の相違点Aで一応相違している。
<相違点>
A.記憶障害について、本願発明では、「多発性硬化症に関連する」と特定されているのに対し、引用発明ではそのように特定されていない点

そこで、この相違点Aについて検討する。
引用例1には、記憶障害や認識障害(即ち、認知機能の障害)の治療にL-アンフェタミンが有効である(記憶の改善などがある)旨(全摘示(1-i)?(1-xiii)参照)が記載されていて、その記載ぶりからみて、その有効性はそれらの障害の原因によらないものであると認められる。というのも、引用例1には、記憶障害を生じる病原として、多発性硬化症の明示的記載はないものの、「記憶障害は、不安、うつ病、年齢関連記憶障害、最小の認識障害、健忘症、痴呆、学習障害、毒物曝露に関連する記憶障害、脳損傷、脳動脈瘤、パーキンソン病、頭部外傷、ハンティングトン病、ピック病、クロイツフェルト-ヤコブ病、脳卒中、精神分裂病、癲癇、精神遅滞、アルツハイマー病、加齢、注意欠陥障害、注意欠陥過活動性障害、またはAIDS関連痴呆の1つまたはそれより多くから生じる」(摘示(1-viii)参照)の如く多数の病原が列挙されているのであり、この状況に鑑みれば、(それらの障害を引き起こす)病原によって格別に区別すべき理由を見いだせない。
一方、本願明細書には、「該方法のある態様において、患者のクラスは記憶障害を患っている。該方法の好ましい態様において、記憶障害は、毒物曝露、脳損傷、脳動脈瘤、パーキンソン病、頭部外傷、ハンチントン病、ピック病、クロイツェルフェルト-ヤコブ病、脳卒中、精神分裂病、癲癇、精神遅滞、アルツハイマー病、年齢、加齢による記憶障害、軽度の認知障害、注意欠損障害、注意欠損過活動性障害、多発性硬化症、前交通動脈症候群、AIDS関連痴呆症、慢性疲労症候群、線維筋痛症候群、外傷性脳損傷、化学療法に関連する、不安、鬱病、加齢による記憶障害、最小の認知障害、健忘症、痴呆症、学習障害、記憶障害の1つ以上から生じずる。該方法の他の好ましい態様において、患者のクラスは正常な個体である。」(段落【0197】、類似記載が段落【0265】、【0279】、【0385】などにある)と、記憶障害の原因が多数併列記載され、それらに対し有効であるとされ、前記引用例1における記憶障害の列挙された病原と多くが一致しているし、多発性硬化症はその中の一例として他の病原と同列に記載されていることや、多発性硬化症に関連する記憶障害や認知機能の障害の被験者を対象とする実施例すら示されていないことにも留意できる。
ここで、本願明細書に記載された実施例1?実施例8及びその結果を示す図1?16、表1?12は、引用例1の実験1?実験8及びその結果を示す図1?16、表1?12(前記「3.引用例」では、図表の摘示を省略した)と同一である(なお、いずれもラットを用いた実験)。本願明細書では、更に、実施例9?17、図17?38、表13?23が追加されているが、実施例9?12はラットを対象としたものであり、実施例13,14,16,17は健康な成人を対象とするものであり、実施例15は、軽度認知障害やアルツハイマー患者を対象とするものであって、いずれも多発性硬化症の患者を対象とした実験ではない。すなわち、実施例を検討しても、多発性硬化症に関連する記憶障害や認知機能の障害を有する患者について、格別にその改善を評価したデータは示されていないし、ラットによる実験や健康な成人のデータで得られたことと格別に多発性硬化症に関連する場合とで異なるものであることを伺い知ることはできない。
そして、引用例2?4の記載(摘示(2-i)?(2-iii)、(3-i)?(3-ii)、(4-i)参照)などに徴すると、記憶障害、認知機能の障害が多発性硬化症によっても生じることが知られていたと認められることから、(その障害の原因にかかわらず)多発性硬化症に関連する記憶障害、認知機能の障害も改善すると容易に想到し得たものであり、その改善の程度を確認することに格別の創意工夫を伴うものではないと認められる。

これに対し、意見書、審判請求理由において審判請求人は、多発性硬化症による記憶障害、認知機能の障害(認知障害)は、アルツハイマー障害や脳損傷などによる一般的な記憶障害、認知機能の障害とは異なるものである旨を、参考資料3,4を提示し、次の(1),(2)などをその理由として主張している。
(1)参考資料4(Neurology (2011) 76: 1500-1507)の記載から、ドネペジルは、多発性硬化症による記憶障害を改善しない旨を主張している。
(2)参考資料3(アーランガー博士による2011年3月31付けの宣誓書;訳は、平成23年4月15日付けの意見書に記載のものを採用した))において、「多発性硬化症は、個々の患者間で異なる種々の複雑な生理学的、神経心理学的かつ精神医学的状態を含み得る複雑な状態である。多発性硬化症に関連する生理学的、神経心理学的、精神医学的かつ病理学的状態の程度および特徴は、これらの種々の状態の症状が変化し得るように、患者の間でかなり変化し得る。例えば、アルツハイマー病の患者における記憶障害のような特定の認知障害を特徴とする状態を有する患者とは違って、多発性硬化症を有するヒトにおける記憶障害または認知障害には、顕著な特徴はない。さらに、記憶障害を含む認知障害の存在および/または程度は、多発性硬化症を有する患者の間でかなり異なり得、多発性硬化症の型(例えば、再発性/寛解型また進行性)に独立であり得る。引用文献1も2(当審注:引用文献2が前記引用例1に該当)も、多発性硬化症に関連する記憶障害または認知障害を有するいずれのヒトにおける認知障害または記憶障害の治療も教示、示唆していない。」(Gの3.)や、「多発性硬化症を有するヒトにおける認知機能の障害および記憶障害は、一般的な健康上の問題である。しかし、今日までに、多発性硬化症を有するヒトにおける記憶障害および認知機能の障害を改善する方法は、不十分であり、しばしば、例えば、依存性および有害な心臓血管事象のような重篤な副作用に関連する。多発性硬化症を有するヒトにおける記憶および認知機能を改善し、副作用が最小である組成物の開発において、他者の失敗が現在も続いており、そのような開発の必要性が長く感じられている。」(Gの4.)、「a.認知障害は、多発性硬化症(MS)に共通のものであり、遅延された情報処理およびエピソード記憶の欠損を特徴とし得る(文献名:省略)(当審注:2006年)。一次的記憶障害は、固定ではなく、符号化および検索に関連するようである(文献名:省略)(当審注:1991年)。遅延した処理速度は、MS患者のより複雑な認知処理(例えば、記憶および遂行機能)を遅らせ得る(文献名:省略)(当審注:1994年)。それに対して、現在治療はない。」(Gの5.のa.)などの見解を示している。

しかし、該参考資料3,4は、本件出願後かなりの年数を経た後に作成されているものであり、本件の優先権主張日当時の技術的常識を示すものではない。
さらに、参考資料4については、当時有効であると考えられていたからこそ、検討されたものといえる。単に、後日に有効でないことが疎明されたところで、優先権主張日当時に、否定されていたこと示すものではなく、むしろ病原にかかわらず肯定的に捉えられていたと解するのが相当であるといえ、容易性の判断を阻害するものではない。
また、参考資料3については、(i)ア-ランガー博士の単なる見解にすぎないし、(ii)「G 5.a.」の記載は、本願出願後の文献をも交えた見解であること、文献のどの記載を根拠とするのか不明であること、また、(iii)多発性硬化症による場合とその他の全ての病原による場合とでどのように異なるのか説明されていないこと、(iv)「G 3.」で主張する病原による複雑さの(程度の)差が何故に多発性硬化症に関連する記憶障害等の治療の容易性を否定することになるのかその具体的理由が不明であること、(v)本願明細書においては病原にかかわらず同等に記載されていると認められることと反していること、などから本件の優先権主張日当時の技術的常識を示すものではない。

なお、この点について、前述と同旨の言及と共に、「本願優先権主張日より前に、多発性硬化症による記憶障害、認知機能の障害が、引用文献A1(注:引用例1)に記載されている軽度の認知症、アルツハイマー障害や脳損傷などによる他の全ての記憶障害、認知機能の障害とは異なるものであることが技術常識であると主張するのであれば、その主張の具体的な根拠(文献など、外国語の資料については、日本語訳を添付のこと)を提示し、説明し、回答してください。」との審尋(平成26年10月3日付けの審尋)を通知し、回答を求めたが、何らの応答も無く回答はされなかった。

結局のところ、本願明細書を検討しても、多発性硬化症による記憶障害、認知機能の障害については、その障害の改善について実施例による裏付けもないし、また、軽い認知障害、アルツハイマー障害や脳損傷などによる一般的な記憶障害、認知機能の障害とは異なるものであると解すべき理由もなく、記憶障害を多発性硬化症に関連すると特定したことによって格別に予想外の作用効果があるは認められない。なお、参考資料3及び参考資料5(平成24年7月25日付け意見書において提示されたMultiple Sclerosis Journal(2011) 17:1141-1145)で提示されている後付けのデータについては、明細書に記載の他の病原の場合と同等の改善の効果があることの根拠とできる可能性があるとしても、格別に予想外であることを担保するものとしては採用できない。

したがって、本願発明は、周知技術(例えば、引用例2?4の記載を参照)を勘案し、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-10 
結審通知日 2015-06-11 
審決日 2015-06-23 
出願番号 特願2006-533278(P2006-533278)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 千秋福井 悟岩下 直人  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 前田 佳与子
安藤 倫世
発明の名称 多発性硬化症に関連する記憶障害および認知機能の障害を治療するための医薬  
代理人 細田 芳徳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ