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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A23B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A23B |
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管理番号 | 1307329 |
審判番号 | 不服2014-10353 |
総通号数 | 192 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-06-03 |
確定日 | 2015-11-04 |
事件の表示 | 特願2011-524019号「死後解糖の阻害による筋肉の品質向上のための高圧処理の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日国際公開、WO2010/022305、平成24年 1月12日国内公表、特表2012-500632号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年8月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年8月21日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月24日付けで拒絶理由が通知され、同年5月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年1月31日付けで拒絶査定がされた。これに対し、同年6月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書の提出がなされ、平成26年11月7日に上申書の提出がなされたものである。 第2 平成26年6月3日の手続補正の補正却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年6月3日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、平成25年5月28日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の 「畜肉を少なくとも175MPaの圧力で20分間以下の高圧処理に供することを含む、死後硬直前の畜肉を処理する方法であって、死後解糖を停止させる、方法。」を 「死後から高圧処理に供されるまで少なくとも65°F(18.3℃)の畜肉の温度を維持し、畜肉を少なくとも175MPaの圧力で20分間以下の高圧処理に供することを含む、死後硬直前の畜肉を処理する方法であって、死後解糖を停止させる、方法。」と補正した(下線は、補正された箇所を示す。)。 そして、当該補正は、「死後から高圧処理に供されるまで少なくとも65°F(18.3℃)の畜肉の温度を維持」することを限定するものであり、例えば、畜肉を当該温度に維持するために保温することを含んでいる。しかし、国際出願日における国際特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面の翻訳文(以下「当初明細書等」という。)には、畜肉の温度が死後65°F(18.3℃)以上である間に高圧処理を行うことは記載されている(段落【0011】等)ものの、畜肉の温度を死後から高圧処理に供されるまで少なくとも65°F(18.3℃)に維持するために畜肉を保温することについて何ら記載されておらず、当初明細書等の全ての事項を総合しても導かれるとはいえず、新たな技術的事項を導入するものであるから、当該補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 よって、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていないので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条の第1項の規定により却下すべきものである。 しかし、請求人は、審判請求書において、特許請求の範囲の減縮に該当する補正であると主張するとともに、平成26年11月7日の上申書において、「本件発明は死後解糖を停止させる方法であり、保温して高温を長時間維持する意図がないことは明白である」と主張する。そこで、これらの主張を考慮して、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、以下、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。 2 独立特許要件についての検討 (1)引用例 ア 引用例 原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平10-14537号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 畜肉または魚の切身を10MPa ?200MPa の圧力で加圧することにより、当該畜肉または魚の切身中のイノシン酸濃度の増大を短時間で促進する方法。」 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、高圧を利用することにより、肉質の変化を制御しつつ、畜肉または魚の切身中のイノシン酸濃度の増大を促進する方法に関する。」 (イ)「【0007】従って、魚介類や畜肉中のIMP濃度を、長時間の貯蔵に依らず、短時間で増大させ、さらには必要に応じて肉質の軟化を促進することができれば、貯蔵に伴う好ましくない品質の劣化を避けることができ、産業上大いに有用である。」 (ウ)「【0015】 【実施例】 実施例1:養殖マダイを生きたまま入手し、即殺後手早く刺身状態におろした。直ちに刺身状の魚肉をプラスチックフィルム容器(160×250mm、カウパック(株)製NEH規格#45)に入れて真空包装後、高圧処理試験装置(三菱重工(株)、MFP-7000)を用いて種々の圧力で10分間の加圧処理を行った。この装置は加圧容器内に試料を入れた後、容器内の空間を水で満たし容器内全体に均一な圧力がかかる構造のもので、最大700MPaまで加圧できる装置である。加圧処理の間の温度は10?15℃であった。加圧処理後は直ちにATPやIMPなどの成分分析と肉質及び色合いの測定を行った。ATP関連物質の分析は過塩素酸抽出後高速液体クロマトグラフィーを用いる方法(「魚の品質」、(財)日本水産学会編著、(株)恒星社厚生閣、1981年)により、肉質の測定はテクスチュロメーター((株)全研、GTX-2)を用いて測定した。色合いは測色色差計((有)東京電色技術センター、TC-1500MC-88)を用いて測定した。 【0016】添付の図面の図1は、養殖マダイの切身を種々の静水圧で加圧処理した時のIMP等の成分含量の変化を示したもので、横軸は圧力、縦軸は濃度を示す。10?200MPaの圧力範囲でATP濃度が減少しIMP濃度が増大する。50?200MPaではその傾向が特に著しい。200MPa を越える圧力範囲ではIMP濃度の増大が顕著でなくなる。」 (エ)「【0021】実施例2:豚肉は食肉センターで屠殺直後のものを入手して直ちに一口カツの大きさに切り、プラスチックフィルム容器に入れ、養殖魚の場合と同様に操作した。 【0022】図6は、豚肉に対して養殖魚と同様の操作を施した実施例の結果を図1、図2、図3と同様に表したものである。20?200MPaの圧力範囲でATP濃度が減少しIMP濃度が増大する。50?200MPaではその傾向が特に著しい。このことは魚肉の場合と同様である。なお、牛肉についても豚肉と同様の結果を得ている。これらのことから、適当な加圧が肉中のIMPを増大させるという現象は、肉中にATPが存在する生物であれば種を越えて広く共通であると考えられる。 【0023】豚肉のように、旨味成分を増大させ、かつ肉質を柔らかくすることが望まれる場合には、50?200MPaの圧力範囲を選定することができる。図7は豚肉を種々の静水圧で加圧処理した後、5℃に保存した場合の肉質の経時変化を示したもので、50?150MPaの圧力範囲を選定すると、10分間の処理直後に無処理対照物の7日後の硬さと同程度になることがわかった。また、図5から200MPa 以下の圧力範囲であれば、色合いの変化は実質上問題にならない程度であることがわかる。」 イ 引用例に記載された発明の認定 上記記載事項を総合し、上記(エ)において圧力が200MPaで豚肉を処理する方法に着目して整理すると、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「豚肉は食肉センターで屠殺直後のものを入手して直ちに一口カツの大きさに切り、プラスチックフィルム容器に入れ、真空包装後、高圧処理試験装置(三菱重工(株)、MFP-7000)を用いて200MPaの圧力で10分間の加圧処理を行う、豚肉を処理する方法。」 (2)本件補正発明と引用発明の対比 ア 対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「豚肉」は、本件補正発明の「畜肉」に相当する。 (イ)引用発明の「加圧処理」は、本件補正発明の「高圧処理」に相当し、引用発明の「一口カツの大きさに切り、プラスチックフィルム容器に入れ、真空包装後」の「豚肉」を「高圧処理試験装置(三菱重工(株)、MFP-7000)を用いて200MPaの圧力で10分間の加圧処理を行う」ことは、本件補正発明の「畜肉を少なくとも175MPaの圧力で20分間以下の高圧処理に供すること」に相当する。 イ 一致点及び相違点 したがって、両者は、 「畜肉を少なくとも175MPaの圧力で20分間以下の高圧処理に供することを含む、畜肉を処理する方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点> 本件補正発明は、「死後から高圧処理に供されるまで少なくとも65°F(18.3℃)の畜肉の温度を維持し、」かつ、「死後硬直前の」畜肉を処理し、「死後解糖を停止させる」方法であることが特定されているのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点(以下「相違点」という。)。 (3)当審の判断 ア 相違点の検討 上記相違点について以下検討する。 引用発明の「豚肉は食肉センターで屠殺直後のものを入手して直ちに一口カツの大きさに切り、プラスチックフィルム容器に入れ、真空包装後、」加圧処理するものは、屠殺後すぐに加圧処理を行ったといえ、死後硬直前に加圧処理を行っているといえる。 そして、豚の平均体温が39℃であるとの技術常識を考慮すれば、屠殺後すぐに加圧処理を行う引用発明の豚肉が、加圧処理に供されるまでに65°F(18.3℃)未満になるとは考えられず、少なくとも65°F(18.3℃)の畜肉の温度であるといえる。 さらに、食品を高圧処理すると、酵素が失活し、食品中での酵素による分解が防止できることが周知(例えば、笹川 秋彦 「食品と高圧科学」 高圧力の科学と技術Vol.17,No.3 日本高圧力学会 2007年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshpreview/17/3/17_3_230/_article/-char/ja/ P231右欄19?23行参照。)であるから、引用発明は、死後解糖を停止させる方法である。 したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではなく、引用発明は、本件補正発明と実質的に同一である。 なお、請求人は、審判請求書において、本件補正発明は、死後から高圧処理に供されるまで、少なくとも65°F(18.3℃)の肉の温度が維持されるのに対し、引用例は、畜肉を低温のまま加圧することが記載され、実質的に開示された具体的な温度は10?15℃である(段落【0015】、【0024】参照。)点で明確に異なる旨主張する。 しかし、引用例の「10?15℃」は加圧処理の間の温度であるから、本件補正発明の「死後から高圧処理」の間の畜肉の温度に対応するものでなく、本願発明も約40°F(4.4℃)の低温の水で高圧処理するものを実施例としている(本願明細書の【0014】)ことから、請求人の主張は採用できない。 イ まとめ したがって、本件補正発明は引用発明である。 (4) 小括 よって、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3 むすび 以上のとおりであり、本件補正発明は、特許法第17条の2第3項又は同法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成26年6月3日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年5月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成26年6月3日の手続補正の補正却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。) 2 引用例 原査定の拒絶理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成26年6月3日の手続補正の補正却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)引用例」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、本件補正発明から、「死後から高圧処理に供されるまで少なくとも65°F(18.3℃)の畜肉の温度を維持し」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明を特定するための事項をすべて含み、更に他の限定を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 平成26年6月3日の手続補正の補正却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)本件補正発明と引用発明の対比」及び「(3)当審の判断」に記載したとおりの引用発明と同一なものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明と同一である。 第4 まとめ 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-05-27 |
結審通知日 | 2015-06-02 |
審決日 | 2015-06-19 |
出願番号 | 特願2011-524019(P2011-524019) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A23B)
P 1 8・ 561- Z (A23B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小暮 道明、伊藤 良子 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
田村 嘉章 佐々木 正章 |
発明の名称 | 死後解糖の阻害による筋肉の品質向上のための高圧処理の使用 |
代理人 | 笹倉 真奈美 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 稲井 史生 |
代理人 | 山崎 宏 |
代理人 | 冨田 憲史 |