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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25D
管理番号 1307342
審判番号 不服2014-14988  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-31 
確定日 2015-11-04 
事件の表示 特願2012-279529号「エネルギの不要な冷蔵ドアおよびそれを製造するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月11日出願公開、特開2013- 64599号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年7月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年7月19日、米国)を国際出願日とする特願2010-87710号(以下「原出願」という。)の一部を平成24年12月21日に新たな特許出願としたものであって、平成26年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年7月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成25年1月9日の手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本願発明」という)。
「外面を有し、かつ冷蔵区画に装着されるようにされた冷蔵ドアであって、前記ドアは、
第1のガラス板と、
第2のガラス板と、
前記第1ガラス板および前記第2のガラス板の周辺に配置され、前記第1のガラス板および前記第2のガラス板を互いから間隔をあけた関係に維持するための、第1の密閉アセンブリと、
前記第1のガラス板または前記第2のガラス板の面に隣接した第1の低放射率コーティングとを含み、
前記第2のガラス板は、第1の面および第2の面を含むガラスの外板であり、前記外板の前記第1の面は、冷蔵区画の外部環境に隣接して配置され、
前記第1のガラス板および第2のガラス板、前記第1の密閉アセンブリ、ならびに前記第1の低放射率コーティングは、絶縁ガラス装置を形成し、これは実質的に1.13W/m^(2)・K以下のU値、または実質的に0.04以下の放射率を有し、電気を与えてガラスの前記外板の前記第1の面を加熱することなく、ガラスの前記外板の前記第1の面に曇りが生じるのを実質的に防ぎ、前記ドアはさらに、
前記絶縁ガラス装置の周辺に固定された枠を含み、前記第1の密閉アセンブリは非金属のウォームエッジアセンブリである、冷蔵ドア。」


第3 刊行物の記載事項
1 刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-186967号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

(1-1)「【発明の属する技術分野】本発明は、冷凍・冷蔵庫用ガラスと該ガラスを使用したガラス物品に関し、より詳しくは断熱性を保持しながら内部の状態を外方から透視するガラス窓として使用される冷凍・冷蔵庫用ガラスと、該ガラスを1枚以上使用することによりガラス窓としての断熱性を向上させた複層ガラス等のガラス物品に関する。
【従来の技術】スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの商店で使用される冷凍・冷蔵庫は、商品を陳列する商品陳列機能と消費者が自由に商品を選び取るための商品選択機能を有することが要求されるため、断熱性を確保しつつ透視性を保持することのできる開閉機構付きガラス窓が使用されている。また、商品購入者が商品を容易に視認することができ、販売店主が容易に商品の出入をすることができる冷凍・冷蔵ショーケースや商品の在庫状況を消費者が即座に判断することができる所謂シースルー型の自動販売機にも上述と同様、断熱性を確保しながら透視性を保持することのできるガラス窓が提案されている。」(段落【0001】?【0002】)

(1-2)「本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであって、断熱性を確保すると共に、低コストでもって余分な電力エネルギを使用することなく結露発生を防止して透視性を損なうのを回避することのできる冷凍・冷蔵庫用ガラスと該ガラスを使用したガラス物品を提供することを目的とする。」(段落【0012】)

(1-3)「さらに、本発明の冷凍・冷蔵庫用ガラスは、ガラス窓としての高透視性を保持しつつ、冷凍・冷蔵庫内部と低放射層の表面との放射熱交換を極力低くして輻射熱に対する放射率を低くする必要があり、そのためには低放射層の垂直放射率が0.35以下、望ましくは0.25以下、さらに望ましくは0.15以下にすることが好ましい。」(段落【0031】)

(1-4)「図6は上記冷凍・冷蔵庫用ガラスを使用したガラス物品としての複層ガラスの第1の実施の形態を示す要部断面図であって、該複層ガラスは、積層膜6が形成された冷凍・冷蔵庫用ガラス7とソーダ石灰ガラス等からなるガラス板単体としてのフロート板ガラス27とが、前記積層膜6が外気に晒されるように配置されると共に、その両端近傍には乾燥剤を含有したスペーサ部材21が介装され、さらにブチルゴム等の封着材22により両端が熱融着されて封止されている。そしてこれにより、中空層23が、冷凍・冷蔵庫用ガラス7、フロート板ガラス27、スペーサ部材21及び封着材22により囲繞されて画成されている。
この種の複層ガラスは、従来より、ガラス板単体に比べてより一層の断熱性能を向上させることができるとされており、本発明の冷凍・冷蔵庫用ガラス7を使用することにより、結露発生を防止すると共に、より一層の断熱性能向上を図ることができる。また、中空層23は、断熱性能を高める観点からは、空気層やアルゴンガス等を充満させた断熱ガス層とするのが好ましく、また結露防止の観点からは中空層23は乾燥状態にあることが好ましい。尚、中空層23が乾燥状態を保ち、且つ清浄状態を維持するためには、上述の如く両端が封着材22で完全に封止されるのが好ましいが、封止状態が不完全であったり、中空層23内の気体を置換する装置が付設されていても、複層ガラスの断熱性と透視性に悪影響を及ぼさなければよい。」(段落【0083】?【0084】)

(1-5)「すなわち、上記図6に示すように、実施例1の試験片である本発明の冷凍・冷蔵庫用ガラス(以下、「本発明ガラス」という)7とソーダ石灰ガラスからなるフロート板ガラス27とを使用し、試験片の積層膜6の形成面が外方に位置するように本発明ガラス7とフロート板ガラス27とを対向配置し、中空層23に空気を充填した複層ガラスを作製した。尚、中空層23の間隔tはアルミニウム製のスペーサ部材21により12mmとなるように調整した(実施例21)。」(段落【0137】)

(1-6)「【発明の効果】以上詳述したように本発明に係る冷凍・冷蔵庫用ガラスは、室温より低い低温雰囲気にある空間側のガラス板の表面に酸化物半導体膜からなる低放射層が形成されているので、ガラス窓の断熱性を確保しながら、ガラスの庫内外表面温度を高く保つことができ、透視性を悪化させる庫内外の結露を発生しにくくすることができる。しかも、本発明の冷凍・冷蔵庫用ガラスは、従来のようなヒータ等の余分な電力を使用することもなく、また低放射層としての酸化物半導体膜は、物理的・化学的な耐久性にも優れているため、清掃作業等を容易に行うことができ、低コストでもって使い勝手の向上を図ることができる。」(段落【0146】)

(1-7)【表1】(段落【0103】)には、実施例1に係る低放射層を形成したガラスが0.13の庫内側表面垂直放射率を有することが記載されており、また、【表3】(段落【0143】)には、複層ガラスとした実施例21に係るものが2.1W/m^(2)・Kの熱貫流率を有することが記載されている。

(1-8)図6には、実施例21に係る複層ガラスが示されており、庫内側に用いられた冷凍・冷蔵庫用ガラス(本発明ガラス)7の表面に積層膜6が形成されていることと、冷凍・冷蔵庫用ガラス(本発明ガラス)7とフロート板ガラス27とがスペーサ21と封着材22によって周辺を封止するとともに互いに間隔をあけた状態に維持されていることが示されている。

2 刊行物1に記載された発明
上記記載について検討すると、記載(1-1)には、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの商店で使用される冷凍・冷蔵庫用の、断熱性を確保しつつ透視性を保持することのできる開閉機構付きガラス窓が記載されている。
記載(1-2)には、断熱性を確保するとともに、低コストでもって余分な電力エネルギを使用することなく結露発生を防止して透視性を確保することが記載されている。
記載(1-3)には、冷凍・冷蔵庫用ガラスは、ガラス窓としての高透視性を保持しつつ、冷凍・冷蔵庫内部と低放射層の表面との放射熱交換を極力低くして輻射熱に対する放射率を低くする必要があるので、低放射層の垂直放射率を望ましくは0.15以下にすることが好ましい旨記載されている。
記載(1-4)には、かかる冷凍・冷蔵庫用のガラス窓に用いる複層ガラスが記載されており、該複層ガラスは、積層膜6が形成された冷凍・冷蔵庫用ガラス7とフロート板ガラス27とが、間に中空層23を形成するようにスペーサ部材21を介して配置され、さらにブチルゴム等の封着材22により端部が熱融着されて封止された構造となっていることが記載されている。
記載(1-5)には、このような積層ガラスの実施例21が記載されており、スペーサ部材21はアルミニウム製であることが記載されている。
記載(1-6)には、室温より低い低温雰囲気にある空間側のガラス板の表面に酸化物半導体膜からなる低放射層が形成されているので、透視性を悪化させる庫内外の結露を発生しにくくすることができ、従来のようなヒータ等の余分な電力を使用する必要もない旨記載されている。

上記記載事項および図示内容を総合すると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「断熱性を確保するとともに、ヒータ等の余分な電力を使用する必要なく結露発生を防止して透視性を確保する冷凍・冷蔵庫用の開閉機構付きガラス窓であって、前記ガラス窓は、
冷凍・冷蔵庫用ガラス7と、
フロート板ガラス27と、
前記冷凍・冷蔵庫用ガラス7および前記フロート板ガラス27の周辺に配置され、前記冷凍・冷蔵庫用ガラス7および前記フロート板ガラス27を互いから間隔をあけた関係に維持するためのアルミニウム製のスペーサ部材21およびブチルゴム等の封着材22と、
前記冷凍・冷蔵庫用ガラス7の表面に低放射層を形成し、
前記冷凍・冷蔵庫用ガラス7および前記フロート板ガラス27、前記アルミニウム製のスペーサ部材21およびブチルゴム等の封着材22、ならびに前記低放射層は、複層ガラスを形成し、これは2.1W/m^(2)・Kの熱貫流率と0.13の放射率を有する、ガラス窓。」

3 刊行物2
また、同じく原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である米国特許第6144017号明細書(以下「刊行物2」という)には、次の事項が図面とともに記載されている(訳文は、パテントファミリーである特表2002-513507号公報の記載を援用する)。
(2-1)"Insulating glass units used in glass doors for commercial freezers and refrigerators are double-paned or triple-paned construction. The insulating glass units generally include a conductive coating on one of the glass surfaces for electrically heating the glass. Heating the glass keeps the doors free of frost and condensation so that customers can see the products in the freezer or refrigerator. The clear glass doors improve sales and keep the frost and condensation from damaging the goods for sale and the cooling equipment."
「商用の冷凍庫及び冷蔵庫用のガラスドアに用いられる断熱ガラスユニットは二重ガラス或いは三重ガラス構造である。断熱ガラスユニットは一般に、ガラスを電気的に加熱するために一方のガラス表面上に導電性コーティングを有する。ガラスを加熱することにより、ガラスに霜及び結露が生じるのを防ぎ、顧客が冷凍庫或いは冷蔵庫内の商品を視認できるようにする。透明ガラスドアは売上げを伸ばし、霜及び結露により販売用商品及び冷却装置が損傷されるのを防ぐ。」(第1欄第18行?同第26行)
(2-2)"In multi-paned insulating glass units, such as freezer doors, the glass of the insulating glass unit must be heated to eliminate condensation, but yet have good insulating properties to minimize heat transfer to the freezer cabinet. The goal is to provide a coating on the glass with a low hemispheric emissivity and with a high insulating value (R value). Uncoated glass has a hemispherical emissivity of 0.84, and freezer doors must typically be triple pane units in order to minimize heat transfer into the freezer cabinet. Depending on the thickness, glass coated in an off-line process will typically have a hemispheric emissivity of between 0.4 and 0.8 while a low emissivity coated glass can achieve an improved emissivity in the range of 0.05 to 0.45."
「冷凍庫ドアのような複層断熱ガラスユニットの場合、断熱ガラスユニットのガラスは結露をなくすために加熱されるが、その場合でも良好な断熱特性を有し、冷凍室への熱伝達を最小限にしなければならない。その目標は低半球放射率及び高断熱値(R値)を有するガラス用コーティングを実現することである。コーティングのないガラスの半球放射率は0.84であり、冷凍庫ドアは典型的には冷凍室への熱伝達を最小限にするために3重ガラスユニットでなければならない。その厚さに応じて、オフラインプロセスにおいてコーティングされるガラスは典型的には0.4?0.8の半球放射率を有するが、一方低放射コーティングガラスは0.05?0.45の範囲の改善された放射率を達成することができる。」(第3欄第55?同第67行)
(2-3)"A sheet of glass 12 is coated with a microscopically thin coating of a transparent, conductive material 14. The coating material 14 may be tin oxide, indium tin oxide, zinc oxide, or other similar coating. The coating may be fabricated in a production line using a pyrolytic process, such as atmospheric chemical vapor deposition, or some alternative process. The glass 12 may also include a color suppression layer (not shown) which is applied in a similar manner.The coating 14 reduces the emissivity of the glass 12 from approximately 0.84 to less than 0.50. The preferred range for the hemispheric emissivity is 0.15 to 0.43 for pyrolytic low emissivity glass. Other processes can be used to provide a low emissivity glass with hemispheric emissivity as low 0.01. The sheet resistance of such a conductive coating for low emissivity glass is typically less than 20 ohms per square. The low emissivity glass can be produced cost effectively on a high volume production line and provides improved thermal properties."
「ガラスシート12は透明で導電性の材料14からなる微細的な薄いコーティングで被膜される。コーティング材料は酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛或いは他の同様のコーティング材である。そのコーティングは、常圧化学気相成長或いは他の代替のプロセスのような熱分解プロセスを用いて製造ラインにおいて製造される。またガラス12は同様に加えられる色抑圧層(図示せず)も備える。コーティング14は、ガラス12の放射率を約0.84から0.50未満まで低減する。半球放射率に対する好適な範囲は、熱分解低放射ガラスの場合0.15?0.43である。他のプロセスを用いて、0.01の半球放射率を有する低放射ガラスを実現することができる。低放射ガラスに対するそのような導電性コーティングのシート抵抗は典型的には20Ω/□未満である。低放射ガラスは量産製造ライン上でコスト効率よく製造されることができ、改善された熱特性を実現する。」(第9欄第10行?同第28行)
(2-4) "One of the benefits of the insulating glass unit 26 of the present invention is improved insulating value. The lower the hemispheric emissivity of the coated glass 36, the better the insulating value (R value) of the insulating glass unit 30. The preferred hemispheric emissivity is below 0.50. The pyrolytic low emissivity glass, which is suitable for on-line production, can achieve hemispheric emissivity in the range of 0.10 to 0.20. Pyrolytic low emissivity glass is preferred because of the low cost of production. Other low emissivity glass, such as sputter-coated multilayered glass, can be used to achieve hemispheric emissivity below 0.10. Any low emissivity glass can be used in the insulating glass unit 30 of the present invention. Because of the lower emissivity and the resulting improvement in the insulating capabilities, a two-paned insulating glass unit 26 can achieve comparable insulating values for a triple-paned door without low emissivity glass. A double-paned door with low emissivity glass can achieve R values of 4.0. The improved R value will keep the outermost glass up to five degrees warmer than the uncoated triple-paned units, which further reduces the need for applying heat to the glass. The two-paned door of the present invention will typically provide significant cost and weight savings when compared to a triple-paned door in freezer door applications."
「本発明の断熱ガラスユニット26の利点の1つは、断熱値が改善されることである。コーティングガラス36の半球放射率が低下するほど、断熱ガラスユニット30の断熱値(R値)が改善される。好ましい半球放射率は0.50未満である。熱分解低放射ガラスはオンライン製造に適しており、0.10?0.20の範囲の半球放射率を実現することができる。熱分解低放射ガラスは、製造コストが下がるために好ましい。スパッタコーティング複層ガラスのような他の低放射ガラスを用いて、0.10未満の半球放射率を実現することもできる。任意の低放射ガラスが本発明の断熱ガラスユニット30に用いられることができる。放射率が低くなり、その結果の断熱能力が改善されるため、低放射ガラスを用いない三重ガラスドアの断熱値に匹敵する二重断熱ガラスユニット26を実現することができる。低放射ガラスを用いる二重ガラスドアは4.0のR値を実現することができる。R値が改善されることにより、非コーティング三重ガラスユニットより5度まで暖かい温度に最も外側のガラスを保持できるようになり、それによりガラスに熱を加える必要性をさらに低減する。本発明の二重ガラスドアは典型的には、冷凍庫ドアの応用例における三重ガラスドアと比較して、著しいコスト及び重量削減を実現するであろう。」(第14欄第9行?同第32行)


上記記載について検討すると、記載(2-1)には、商用の冷凍庫及び冷蔵庫用のガラスドア用に、顧客が冷凍庫或いは冷蔵庫内の商品を視認できるように、二重ガラス構造の断熱ガラスユニットが用いられる技術事項が記載されている。
記載(2-2)には、このような冷凍庫ドアのような複層断熱ガラスユニットの場合、結露をなくすために加熱するようなものでも、良好な断熱特性を有し、冷凍室への熱伝達を最小限にする必要があることが記載され、そのために低放射コーティングガラスを採用すると、0.05?0.45の範囲の改善された放射率を達成することができる技術事項が記載されている。
記載(2-3)には、このような低放射ガラスについて、さらに、0.01の半球放射率を有する低放射ガラスを実現する技術事項が記載されている。
記載(2-4)には、このような低放射ガラスを用いることで、断熱能力が改善されるため、ガラスが結露しにくくなり、ガラスに熱を加える必要性をさらに低減する技術事項が記載されている。


第3 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用の開閉機構付き」「ガラス窓」は、上記(1-1)の記載事項にあるように、冷凍・冷蔵庫に用いられ、庫内の商品の出し入れを可能とするように、開閉機構により開閉可能なものであって、当然に外面を有しているので、実質的に本願発明の「外面を有し、かつ冷蔵区画に装着されるようにされた」「冷蔵ドア」に相当する。
また、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用ガラス7」は本願発明の「第1のガラス板」に相当し、同様に、「フロート板ガラス27」は「第2のガラス板」に相当する。
そして、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27の周辺に配置され、冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27を互いから間隔をあけた関係に維持するためのアルミニウム製のスペーサ部材21およびブチルゴム等の封着材22」は、第1のガラス板と第2のガラス板にそれぞれ相当する冷凍・冷蔵庫用ガラス7とフロート板ガラス27とを互いから間隔をあけた関係に維持するとともに、その周辺を封着して密閉するものであるので、本願発明の「第1ガラス板および第2のガラス板の周辺に配置され、第1のガラス板および第2のガラス板を互いから間隔をあけた関係に維持するための、」「第1の密閉アセンブリ」に相当する。
引用発明の「前記冷凍・冷蔵庫用ガラス7の表面に低放射層を形成」することは、冷凍・冷蔵庫用ガラス7の面に低放射層が隣接しているといえるから、本願発明の「前記第1のガラス板または前記第2のガラス板の面に隣接した第1の低放射率コーティングとを含」むことに相当する。
また、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27、アルミニウム製のスペーサ部材21およびブチルゴム等の封着材22、ならびに低放射層は、複層ガラスを形成」することは、本願発明の「第1のガラス板および第2のガラス板、第1の密閉アセンブリ、ならびに前記第1の低放射率コーティングは、絶縁ガラス装置を形成」することに相当する。
さらに、引用発明の「断熱性を確保するとともに、ヒータ等の余分な電力を使用する必要なく結露発生を防止して透視性を確保する」ことは、ヒータ等の加熱を用いないものであって、冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27の両者の結露を防止することであるから、本願発明の「電気を与えてガラスの前記外板の前記第1の面を加熱することなく、ガラスの前記外板の前記第1の面に曇りが生じるのを実質的に防」ぐことに相当する。
そして、引用発明の「これは2.1W/m^(2)・Kの熱貫流率と0.13の放射率を有する」ことと、本願発明の「これは実質的に1.13W/m^(2)・K以下のU値、または実質的に0.04以下の放射率を有」することとは、「これは所定値のU値または所定値の放射率を有」する点で共通する。

したがって、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「外面を有し、かつ冷蔵区画に装着されるようにされた冷蔵ドアであって、前記ドアは、
第1のガラス板と、
第2のガラス板と、
前記第1ガラス板および前記第2のガラス板の周辺に配置され、前記第1のガラス板および前記第2のガラス板を互いから間隔をあけた関係に維持するための、第1の密閉アセンブリと、
前記第1のガラス板または前記第2のガラス板の面に隣接した第1の低放射率コーティングとを含み、
前記第1のガラス板および第2のガラス板、前記第1の密閉アセンブリ、ならびに前記第1の低放射率コーティングは、絶縁ガラス装置を形成し、これは所定値のU値、または所定値の放射率を有し、電気を与えてガラスの前記外板の前記第1の面を加熱することなく、ガラスの前記外板の前記第1の面に曇りが生じるのを実質的に防ぐ冷蔵ドア。」

そして、両者は、次の点で相違する(対応する引用発明の用語を( )内に示す)。

[相違点1]
絶縁ガラス装置が所定値のU値、または所定値の放射率を有する点について、本願発明の絶縁ガラス装置は、実質的に1.13W/m^(2)・K以下のU値、または実質的に0.04以下の放射率を有するのに対し、引用発明の絶縁ガラス装置(積層ガラス)は、2.1W/m^(2)・Kの熱貫流率[U値]と0.13の放射率を有する点。

[相違点2]
本願発明のドアは、絶縁ガラス装置の周辺に固定された枠を含んでいるのに対し、引用発明のドア(ガラス窓)は、枠を含むか明らかでない点。

[相違点3]
本願発明の第1の密閉アセンブリは非金属ウォームエッジアセンブリであるのに対し、引用発明の第1の密閉アセンブリはアルミニウム製のスペーサ部材21を含んでいるので非金属アセンブリであるとはいえない点。

第4 当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
冷凍・冷蔵庫用ガラスは、断熱性の向上と結露防止のために輻射熱に対する放射率をできるだけ低くすることが好ましく、刊行物1の上記(1-3)の記載事項には、低放射層の放射率を望ましくは0.15以下にすることが好ましい旨記載されている。
そうすると、刊行物1には、冷凍・冷蔵庫用ガラスをより放射率の低いものを用いることが記載されているから、引用発明のガラス窓においてより放射率の低いものを用いることは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際に、放射率を実質的に0.04以下とする程度のことは設計上適宜決定し得たことである。
また、刊行物2には、商用の冷凍庫及び冷蔵庫のガラスドアに採用可能な低放射コーティングガラスとして、0.01の放射率を有する低放射ガラスが記載されており、当該ガラスを採用することで、断熱能力が改善され、ガラスが結露しにくくなることが記載されている。
そして、引用発明と上記刊行物2に記載された技術的事項は、共に冷凍・冷蔵庫のガラスの結露を防止する低放射ガラスに係るものであるから、引用発明の積層ガラスに上記刊行物2に記載された技術的事項を適用し上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、冷凍・冷蔵庫のガラス窓を含め外壁に、高い断熱性能を求められることは技術常識であるから、引用発明のガラス窓において、周知であるより高い断熱性能を有するものとし、実質的に1.13W/m^(2)・K以下のU値とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
一般に、刊行物1に記載されるようなスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの商店で使用される冷凍・冷蔵庫用の開閉機構付きガラス窓が、積層ガラスの周辺に固定された枠を介して冷凍・冷蔵庫に装着されることは、原出願の優先権主張日前から、例示するまでもなく周知の技術事項であるので、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

(3)相違点3について
積層ガラスの技術分野において、周辺部の断熱性能の向上のために、積層ガラスの周辺を封着するスペーサや封着部材を、断熱性の高い非金属ウォームエッジアセンブリにより構成することは、原出願の優先権主張日前から周知の技術事項である(例えば、原査定に引用した特開平11-130475号公報の段落【0004】?【0006】、【0010】、【0027】、【図1】の熱可塑性樹脂スペーサ4、シール材5や、原審において提示した特開平8-91879号公報の段落【0012】、【0013】、【図1】のゴム質スペーサー2c、シール材6を参照。)。
一方、引用発明の複層ガラスも、断熱性を確保することをも目的とするものであって、複層ガラスの周辺部の断熱性の向上のために、かかる周知の技術事項を適用して、密閉アセンブリを非金属ウォームエッジアセンブリとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)小括
本願発明による効果も、引用発明、刊行物2に記載された技術事項および周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項および周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 本願発明50
以下、本願の請求項50に係る発明について検討する。
本願の請求項50に係る発明は、平成25年1月9日の手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項50に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本願発明50」という)。
「外面を有し、外部環境において存在しかつ内部冷蔵区画を有する冷蔵区画とともに使用される、実質的に透明な絶縁ガラス装置のドアであって、前記絶縁ガラス装置のドアは、
第1のガラス板と、
第2のガラス板と、
前記第1のガラス板および前記第2のガラス板の周辺に配置され、前記第1の板および前記第2の板を互いから間隔をあけた関係に維持するための、第1の密閉アセンブリと、
前記第1のガラス板または前記第2のガラス板の面に隣接した第1の低放射率コーティングとを含み、
前記第1のガラス板、前記第2のガラス板および前記第1の密閉アセンブリは、絶縁ガラス装置を設け、前記絶縁ガラス装置は、冷蔵区画の内部温度が実質的に-17.8°C以下であり、外部環境の温度が実質的に22.2°C以上であり、かつ外部環境の湿度が実質的に60パーセント以上であるときに、電気を与えて絶縁ガラス装置の外面を加熱することなく、外面に曇りが生じるのを実質的に防ぐのに効果的なU値を有し、前記第1の密閉アセンブリは非金属のウォームエッジアセンブリである、実質的に透明な絶縁ガラス装置のドア。」


第6 対比
引用発明は、上記第3の2のとおりであるところ、本願発明50と引用発明とを対比すると、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用の開閉機構付き」「ガラス窓」は、上記(1-1)の記載事項にあるように、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで使用される冷凍・冷蔵庫に用いられ、庫内の商品の出し入れを可能とするように、断熱性を確保しながら透視性を保持することができ、開閉機構により開閉可能なものであって、当然に外面を有しているので、実質的に本願発明50の「外面を有し、外部環境において存在しかつ内部冷蔵区画を有する冷蔵区画とともに使用される、実質的に透明な」「絶縁ガラス装置のドア」に相当する。
また、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用ガラス7」は本願発明50の「第1のガラス板」に相当し、同様に、「フロート板ガラス27」は「第2のガラス板」に相当する。
そして、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27の周辺に配置され、冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27を互いから間隔をあけた関係に維持するためのアルミニウム製のスペーサ部材21およびブチルゴム等の封着材22」は、第1のガラス板と第2のガラス板にそれぞれ相当する冷凍・冷蔵庫用ガラス7とフロート板ガラス27とを互いから間隔をあけた関係に維持するとともに、その周辺を封着して密閉するものであるので、本願発明50の「前記第1のガラス板および前記第2のガラス板の周辺に配置され、前記第1の板および前記第2の板を互いから間隔をあけた関係に維持するための、」「第1の密閉アセンブリ」に相当する。
引用発明の「前記冷凍・冷蔵庫用ガラス7の表面に低放射層を形成」することは、冷凍・冷蔵庫用ガラス7の面に低放射層が隣接しているといえるから、本願発明50の「前記第1のガラス板または前記第2のガラス板の面に隣接した第1の低放射率コーティングとを含」むことに相当する。
また、引用発明の「冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27、アルミニウム製のスペーサ部材21およびブチルゴム等の封着材22、ならびに低放射層は、複層ガラスを形成」することは、本願発明50の「前記第1のガラス板、前記第2のガラス板および前記第1の密閉アセンブリは、絶縁ガラス装置を設け」ることに相当する。
さらに、引用発明の「断熱性を確保するとともに、ヒータ等の余分な電力を使用する必要なく結露発生を防止して透視性を確保する」ことは、ヒータ等の加熱を用いないものであって、冷凍・冷蔵庫用ガラス7およびフロート板ガラス27の両者の結露を防止することであるから、本願発明50の「電気を与えて絶縁ガラス装置の外面を加熱することなく、外面に曇りが生じるのを実質的に防」ぐことに相当する。
そして、引用発明の「これは2.1W/m^(2)・Kの熱貫流率と0.13の放射率を有する」ことと、本願発明50の「前記絶縁ガラス装置は、冷蔵区画の内部温度が実質的に-17.8°C以下であり、外部環境の温度が実質的に22.2°C以上であり、かつ外部環境の湿度が実質的に60パーセント以上であるときに、」「外面に曇りが生じるのを実質的に防ぐのに効果的なU値を有」することとは、所定のU値を有する限りで一致する。

したがって、両者は、本願発明50の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「外面を有し、外部環境において存在しかつ内部冷蔵区画を有する冷蔵区画とともに使用される、実質的に透明な絶縁ガラス装置のドアであって、前記絶縁ガラス装置のドアは、
第1のガラス板と、
第2のガラス板と、
前記第1のガラス板および前記第2のガラス板の周辺に配置され、前記第1の板および前記第2の板を互いから間隔をあけた関係に維持するための、第1の密閉アセンブリと、
前記第1のガラス板または前記第2のガラス板の面に隣接した第1の低放射率コーティングとを含み、
前記第1のガラス板、前記第2のガラス板および前記第1の密閉アセンブリは、絶縁ガラス装置を設け、絶縁ガラス装置は、電気を与えて絶縁ガラス装置の外面を加熱することなく、外面に曇りが生じるのを実質的に防ぐ所定のU値を有し、実質的に透明な絶縁ガラス装置のドア。」

そして、両者は、次の点で相違する(対応する引用発明の用語を( )内に示す)。

[相違点4]
絶縁ガラス装置が、所定のU値を有する点について、本願発明50の絶縁ガラス装置は、冷蔵区画の内部温度が実質的に-17.8°C以下であり、外部環境の温度が実質的に22.2°C以上であり、かつ外部環境の湿度が実質的に60パーセント以上であるときに、外面に曇りが生じるのを実質的に防ぐのに効果的なU値を有するのに対し、引用発明の絶縁ガラス装置(積層ガラス)は、2.1W/m^(2)・Kの熱貫流率[U値]を有する点。

[相違点5]
本願発明50の第1の密閉アセンブリは非金属ウォームエッジアセンブリであるのに対し、引用発明の第1の密閉アセンブリはアルミニウム製のスペーサ部材21を含んでいるので非金属アセンブリであるとはいえない点。

第7 当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点4について
刊行物1の段落【0099】?【0106】には、庫内温度-20℃、庫外温度20℃において、窓ガラスに曇りが生じたり、結露が発生するのを生じにくくし、外部から冷凍、冷蔵庫内部への視認性を損なうことを回避する旨記載されている。
また、本願発明50における各数値は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアに設置されている冷凍庫の通常の条件が含まれるものである。
そうすると、引用発明のガラス窓は外部からの視認性を確保するために窓ガラスが曇らないようにするものであるから、冷凍、冷蔵庫の一般的な使用形態から、庫内温度が-17.8°C以下であり、庫外温度が22.2°C以上、庫外の湿度が60パーセント以上である環境において、曇りが生じない断熱性、すなわちU値とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点5について
相違点5は、上記第3の相違点3と同じであるから、上記第4の(3)と同様に、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)小括
本願発明50による効果も、引用発明および周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本願発明50は、引用発明および周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第9 むすび
以上のとおりであるから、請求項1記載の発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項および周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、又請求項50記載の発明は、引用発明および周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-21 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-19 
出願番号 特願2012-279529(P2012-279529)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿沼 善一  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 佐々木 正章
森本 康正
発明の名称 エネルギの不要な冷蔵ドアおよびそれを製造するための方法  
代理人 深見 久郎  
代理人 堀井 豊  
代理人 仲村 義平  
代理人 野田 久登  
代理人 森田 俊雄  

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