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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 E02B
管理番号 1307351
審判番号 不服2015-1219  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-03 
確定日 2015-11-02 
事件の表示 特願2012-170427「津波の質量輸送エネルギーを緩和する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 3日出願公開、特開2014- 20188〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成24年 7月12日 出願(7月13日受付)
平成25年 1月16日 手続補正書(1月17日付、1月17日受付)
平成25年 1月26日 手続補正書(1月26日付、1月28日受付)
平成26年 4月17日 拒絶理由通知(5月13日発送)
平成26年 5月24日 手続補正書(5月24日付、5月26日受付)
平成26年10月24日 拒絶査定(11月4日発送)
平成27年 1月 3日 審判請求書・手続補正書(1月3日付、1月5日受付)

なお、上記拒絶理由通知に対して、意見書は提出されていない。


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年1月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
以下、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面を、それぞれ「補正明細書」、「補正請求範囲」及び「補正図面」といい、これらを合わせて「補正明細書等」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面を、それぞれ「当初明細書」、「当初請求範囲」及び「当初図面」といい、これらを合わせて「当初明細書等」という。

1 本件補正の適否
(1)補正明細書等の記載事項
ア 補正請求範囲には以下の記載がある。(下線は、当審で付与。以下同様。)
「【請求項1】
円筒の円の中心に沿って長手方向に二等分した一方の半円筒形の両端の部分に外壁(1B)で蓋をし、中ほどに半円弧の間仕切り補強壁(1G)を配し半円弧の円周の中心を通る軸受(6)に、沖側に円弧の半分長さの腕(1C)、その先にワイヤーロープ(4)で二段に二つの浮きを設け、片方に短い腕その先に小さい浮きを配した本体半円筒形空気容器(1)を沖合の洋上海面に円弧形外壁の中央部分を上にして容器の中の空洞部に空気を満タンにし伏せこんだ状態で、通し軸(1D)を介して海底の錘(3)に複数個所ワイヤーロープ(5)で繋ぎとめて本体半円筒形空気容器(1)を縦列定置配備した(1)列を沖合に複数列、間隔を開けて定置配備することで一番沖の(1)列に最初の津波が到達した瞬間二段の浮き(2a、2b)が急激に押し上げられ同時に本体半円筒形空気容器(1)も反転し自動的に伏せこんでいた空気(7)を、一斉に津波の質量輸送エネルギー(8)の真っただ中に噴き上げそのエネルギーを緩和する方法。

イ 補正明細書には以下の記載がある。
「【現象による不可欠な問題】
【001】
地震の大小多少に関わらず津波の発生で、一度被災すると幾世代にもの蓄積を一瞬にして全てを失ってしまうという大きな影響を受ける沿岸地帯は、常にこの脅威と不安に包まれているにも拘わらず海岸の防波堤に頼らざるを得ないのが実情である。
【従来の方法による実例とその結果】
【002】
現在の津波対策は多くの地域の海岸地帯がそのままか防波堤、消波ブロックなどに頼るため津波の質量輸送エネルギーが重複され積み上がり想像を絶する高さになって海岸陸地に押し寄せるので海岸沿岸に到達した津波の質量輸送エネルギーを構造物で受け止める対策では限界があります。津波が海岸沿岸に到達する前に沖合で津波の質量輸送エネルギーを緩和遮断するべきである。
【当発明のシステムと従来の欠点の解決方法】
【003】
当発明は、洋上沖合で津波の質量輸送エネルギーの真っただ中に向かって大量の空気を一斉に噴き上げ津波の質量輸送エネルギーを次々と緩和遮断する仕組みである。図面を参照にその構造とシステムを順次説明する。(図1(1A))で示すように、半円筒形空洞容器の長手方向両端の半円弧の部分を外壁(1B)で塞ぎ半円弧の円周中心を通る長手方向通し軸(1D)、同軸受(6)を設け、本体半円筒形空洞容器の両端半円弧の外壁直径線上に円弧壁の半径長さの腕(1C)、その先にワイヤーロープ(4)で二段の大浮き(2a、2b)反対側の短い腕に小浮き(2c)を設ける。通し軸(1D)から海底の錘(3)にワイヤーロープ(5)で繋いで深さ調整定置配備する。本体半円筒形容器一式(1)は(図2)で示すように半円筒形円弧外壁長手方向中央部分に空気層(1F)を設け、本体自体海中で浮力を有する構造で輸送、定置配備、メンテナンス時安全性、作業の容易性を保ち、中間に間仕切り補強壁(1G)を用いその円弧面中央部に通気孔(1E)を設け空気充填時本体一か所の充填が可能で定置配備した時、本体半円筒形空気容器一式(1)内の空気圧が一定に保たれる構造。次に大浮き(2a、2b)は円形流線形で強風、波浪、潮流などの影響を緩和し、津波到達時には大きく反応する形状で、本体半円筒形空気容器(1)の半円弧形外壁(1A)の中央部分と、上段の大浮き(2a)、反対側の小浮き(2c)が海面と同レベルで海面に定置配備できる構造。この本体半円筒形空気容器の通し軸(1D)を介してワイヤーロープ(5)で海底の錘(3)に繋ぎとめ大浮き(2a、2b)を沖側に順次定置配備した(1)縦列を幾重にも洋上沖合に定置配備して、津波が到達した瞬間、大浮き(2a、2b)が押し上げられ自動的に本体半円筒形空気容器(1)内の空気(7)が一斉に津波の質量輸送エネルギー(8)の真っただ中に噴き上がりそのエネルギーを緩和遮断する仕組みである。当発明は従来の海岸に幾重にも押し寄せる津波を受け止めるのではなく、次々と海岸に向かって来る津波の質量輸送エネルギー(8)の一つ一つを沖合で緩和遮断する方法である。
【従来の技術と当発明の比較】
【004】
従来は護岸、防波堤、防潮堤のように津波の質量輸送エネルギーと海水量が重複し積み上がり押し寄せたものを海岸沿岸で受け止める構造物がほとんどである。入り江、湾、リアス海岸、浅くなるという三重四重になった津波の質量輸送エネルギーを従来のように海岸で受け止めることは限界がある。当発明は津波の質量輸送エネルギーを海岸に近づく前に沖合で大量の空気を閉じ込めておき、津波を利用して自動的に噴き上げ、その質量輸送エネルギーを緩和する方法である。
【発明が解決しようとする課題と対応】
【005】
世界中人類にとって沿岸地帯は自然環境を尊重し共有するためには欠くことの出来ない地帯でもあります。津波対策は人類にとって重大なテーマ。沿岸地帯を利用せず高台高地へ人間社会、産業が移るとなれば想像を絶する自然環境破壊、海洋汚染は免れません。津波対策の一環としての当発明を図面に添って詳細の手段、作用、実例、効果を説明する。(図1)で示すように洋上沖合、特に入り江、湾、リアス海岸の入口など津波対策の必要な海域に本体半円筒形空気容器一式(1)を大浮き(2a2b)を沖側にして、本体半円筒形空気容器(1)の中に空気が満タンになるよう円弧外壁の中央部分を上に、開口部分を下にして空気を伏せこみ円弧外壁中央部分、大浮き(2a)、反対側の補助安定用小浮き(2c)が海面と同レベルに安定するように各々海底の錘にワイヤーロープ(4)で繋ぎとめた縦列定置(1)列を複数列必要と思われる沖合海面に定置配備し、その海域の海面近くに大きな空気層の列を作り、大浮き(2a、2b)に津波が到達した瞬間自動的に一斉に津波の質量輸送エネルギー(8)の真っただ中に、次々と空気を噴き出しそのエネルギーを緩和遮断する構造で、平常時は太陽光発電、波力発電、風力発電などの洋上での簡易発電を利用して、漁業、養殖、海上保安、救難、各種灯火、センサー発信などに活用が可能で地場産業、地域への貢献も見込める要素も兼ね備えた構造になっている。(図5)で示すように空気層(7)1気圧以上の空気が全体の8割以上充填されている状態で、沖側の腕(1C)複数の先端からワイヤーロープ(4)で繋がれた大浮き(2a、2b)複数に津波が到達した瞬間、大きく上に押し上げられ同時に本体半円筒形空気容器(1)が反転し中に伏せこまれていた空気(7)が一斉に津波の質量輸送エネルギーの真っただ中に噴き上がり、そのエネルギーを大きく緩和するメカニズムが本体半円筒形空気容器縦列(1)列ごとに繰り返され、次々と押し寄せる津波の質量輸送エネルギーがそのまま全て海岸沿岸に重複し積みあがることを未然に防ぐ最も有効で多方面での活用が十分に見込める可能性も備えている構造である。
【図面の簡単な説明】
【006】
【図1】本体半円筒形空気容器一式(1)を縦列定置配備(1)列の状態に、沖合海面に大浮き(2a)を沖側にして定置配備した姿図。
【図2】本体半円筒形空気容器部材一式(1)の側面図、一部断面図。
【図3】本体半円筒形空気容器部材一式(1)を沖合海面に定置配備した状態(1)列の側面図、一部断面図。
【図4】本体半円筒形空気容器部材一式(1)を沖合海面に定置配備した状態の沖側正面図一部断面図。
【図5】本体半円筒形空気容器部材一式(1)を大浮き(2a)を沖側にして沖合海面に定置配備した状態に津波が到達した瞬間、大浮き(2a、2b)が上に押し上げられ同時に本体半円筒形空気容器(1)が反転し、中の空気(7)を一斉に津波の質量輸送エネルギー(8)の真っただ中に噴き上げるメカニズムの側面断面図。本体半円筒形空気容器(1)の外壁、関係部材は反転時に支障の無い抵抗の少ない構造になっている。
【図6】重要とされる海岸の沖合海面に本体半円筒形空気容器一式(1)縦列定置配備(1)列を複数列定置配備した状態の実施例図。
【符号の説明】
1 本体半円筒形空気容器部材一式
(1)列 本体半円筒形空気容器一式(1)を沖合海面に縦列定置配備した列
1A 本体半円筒形容器外壁、円弧中央部長手方向に空気層(1F)を有する
1B 本体半円筒形容器長手方向両端に蓋をする半円弧部分外壁
1C 本体半円筒形空気容器両端半円弧壁の直線辺に付けた浮きを繋ぐ腕
1D 本体半円筒形空気容器の円周中心を通る通し軸
1E 本体半円筒形空気容器の間仕切り補強壁(1G)の、円弧中央部に設けた気孔
1F 本体半円筒形空気容器の外壁半円弧中央長手方向内側に設けた浮力用空気層
1G 本体半円筒形空気容器内部間仕切り補強壁、通気孔(1E)を有する
2a 本体半円筒形空気容器一式を沖合海面に定置配備した時、津波が到達する沖側の海面に位置する津波に反応する大浮き
2b 海面の大浮き(2a)の下の海中に位置する津波に反応する水中浮き、安定補助
2c 本体半円筒形空気容器一式(1)を沖合海面に定置配備した時の安定補助小浮き
3 本体半円筒形空気容器一式(1)が容器内に空気満タン状態で沖合海面に定置配備するため繋ぎとめるに十分な海底に沈め置く錘複数
4 各々浮きを取り付け長さ調節するワイヤーロープ
5 本体半円筒形空気容器一式(1)内に空気を満タンで、海底の錘に繋いで沖合海面に定置配備するに十分なワイヤーロープ、先端には各々浮き付
6 本体半円筒形空気容器(1)外壁円弧円周中心を通る通し軸の軸受
7 本体半円筒形空気容器(1)内に伏せこまれた空気層、1気圧以上
8 津波の質量輸送エネルギー
9 平常時の海面レベル
10 海底
11 海岸沿岸」

ウ 上記ア及びイの記載によると、本件補正前の明細書、特許請求の範囲または図面(平成26年5月24日付け手続補正後のもの)と比較して、本件補正により補正明細書等には、「通し軸(1D)」、「通し軸(1D)」に関する記載(例えば、「半円弧の円周中心を通る長手方向通し軸(1D)」、「本体半円筒形空気容器(1)の通し軸(1D)を介してワイヤーロープ(5)で海底の錘(3)に繋ぎとめ」等。)、「(本体自体海中で浮力を有する構造で)輸送、・・・、メンテナンス時安全性、作業の容易性を保ち、」、「(簡易発電を利用して)・・・海上保安、救難・・・(などに活用が可能で)・・・地域への貢献(も見込める)」等の記載が新たに追加されている。

エ また、補正明細書等における、「間仕切り補強壁(1G)」,「浮力用空気層(1F)」,「通気孔(1E)」と、それらに関する記載や、「半円弧の円周の中心を通る軸受(6)」、「沖側に円弧の半分長さの腕(1C)」、「本体自体海中で浮力を有する構造で・・・、定置配備、・・・」、「平常時は太陽光発電、波力発電、風力発電などの洋上での簡易発電を利用して、漁業、養殖、・・・、各種灯火、センサー発信などに活用が可能で地場産業、・・・も見込める要素も兼ね備えた構造になっている。」等の記載は、平成25年1月26日付け手続補正において新たに追加された記載と同じであるか、もしくは新たに追加された記載と実質的に同じものであって、平成26年4月17日付けで特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとの拒絶理由通知を受けた後の平成26年5月24日付け手続補正書においても、引き続き記載されているものである。


(2)判断
補正明細書等に記載された上記(1)ウ,エの記載が、当初明細書等に記載されたものであるか検討する。

ア 当初明細書等の記載事項
(ア)当初明細書には、以下の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【001】
現象による不可欠な問題
地震の大小多少に関わらず津波の発生で、一度被災すると幾世代にも亘る蓄積を一瞬にして全て失ってしまうという大きな影響を受ける沿岸地帯は常に、この脅威と不安に包まれているにも拘わらず、防潮堤というものに頼らざるをえないのが実情である。
【002】
従来の方法による実例とその結果
多くの地域の沿岸地帯がそのままか、堤、防潮堤、消波ブロック等に頼り津波そのものへの対応が皆無であるのが実情である。 地形によっては小さい津波でも陸地が段々狭くなっている海岸は、海水路が急に狭まること、浅くなることで波の輸送エネルギーが積み上がり想像を絶する高さで押し寄せるのは周知のことである。
【003】
当発明のシステムと従来の欠点の解決方法
該発明は、深さのある沖合いへ、長い圧縮空気層を水面近くに幾重にも設置、津波が到達した瞬間、浮きが反応して長い圧縮空気層が水面に空気の溝を作り、津波輸送エネルギーを緩和するシステムである。
【004】
従来の技術
従来は、護岸のみに止まり、堤防構築に頼るのみで津波輸送エネルギーを100パーセント、水路が狭まり、浅い海岸この三重の波エネルギー受ける為により多大の犠牲と被害を被っているのが実情である。
【005】
発明が解決しようとする課題
突然発生する地震津波、世界中人類にとって沿岸は、自然を尊重し共生する為には欠くことのできない地域でもあります。故に津波の予防と緩和は、人類にとって重大なテーマである。沿岸を利用せず高台高地へと人間社会が産業が移るとなれば想像を絶する自然環境破壊、海洋汚染は免れません。沿岸は古来、危険であるが便利且つ自然との共生の為にも万全の防潮堤と津波の輸送エネルギーの緩和することが急務である。
【図面の簡単な説明】
【006】
【図1】本体装置をセットした平常波時の全容図
【図2】ハーフパイプエアータンクと関係部品
【図3】ハーフパイプエアータンクに圧縮空気を入れて平常波セットした状態図A,B,
【図4】沖合い配備例図 A,B,
【図5】津波到達時のメカニズム断面図 A,B,C,
【符号の説明】
1 本体ハーフパイプエアータンク
2 浮き
3 錘
4 浮き調節ワイヤー
5 錘調節ワイヤー
6 錘ワイヤー軸受け
7 圧縮空気層
8 津波の質量輸送エネルギー
9 海水面平常波
10 海底
11 海岸線」

(イ) 当初請求範囲には、以下の記載がある。
「【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
両サイドを閉じた図1に示すようなハーフパイプエアータンクにエアーポンプで空気を圧入し両軸を錘調節ワイヤーで海底へ、両サイド四箇所以上に腕、腕の先に浮きを浮き調節ワイヤーで本体ハーフパイプエアータンクが海面近くに、平常波で安定するように沖合い配備幾重にも設置、深さのある沖合いに長い圧縮空気層を水面近くに定置出来る状態である。
津波発生時、押し寄せる大きな波の質量輸送エネルギーの第一波が沖合いに定置した本体に到達した瞬間、先に波側の浮きを大きく上に押し上げ、ハーフパイプエアータンクを回転させ中の圧縮空気を一斉に放り出し、長いエアーパイプの状態に噴き上がり、波がエアーパイプの溝に落ち込み、そのエネルギーを弱める。幾重にも配備して置くことで繰り返し打ち寄せる津波の質量輸送エネルギーを圧縮空気層で緩和する装置。」

(ウ) 当初図面は以下のとおりである。


イ まず、上記(1)ウの記載について検討する。
(ア)補正明細書等に記載されている「通し軸(1C)」、及び「通し軸(1C)」に関する記載について検討すると、当初明細書等には、「通し軸(1C)」自体の直接的な記載はなく、「通し軸(1D)」を示唆する記載も無い。また図面を参照しても、「通し軸(1D)」を示すような記載は無い。したがって、「通し軸(1D)」、及び「通し軸(1D)」に関する記載は、当初明細書等に記載されたものではない。

(イ)「(本体自体海中で浮力を有する構造で)輸送、・・・、メンテナンス時安全性、作業の容易性を保ち、」、「(簡易発電を利用して)・・・海上保安、救難・・・(などに活用が可能で)・・・地域への貢献(も見込める)」との記載について検討すると、これらの記載は、当初明細書等に記載されたものではないことは明らかである。

ウ 次に、上記(1)エの記載について検討する。
(ア)まず、「間仕切り補強壁(1G)」,「浮力用空気層(1F)」,「通気孔(1E)」と、それらに関する記載について検討する。
当初明細書等には、「間仕切り補強壁(1G)」,「浮力用空気層(1F)」,「通気孔(1E)」自体の直接的な記載はなく、それらを示唆する記載もない。また、当初図面を参照すると、【図2】の「本体ハーフパイプエアータンク」内に、略半円形状のものが点線で描かれているが、これが「間仕切り補強壁(1G)」を示しているとはいえず、また【図3】Bには、半円形断面の上方に、空白の部分が示され、この空白の部分に、○印が点線で示されているが、これらが、「浮力用空気層(1F)」,「通気孔(1E)」を示しているともいえない。
したがって、「間仕切り補強壁(1G)」,「浮力用空気層(1F)」,「通気孔(1E)」と、それらに関する記載は、当初明細書等には記載されたものではない。

(イ)次に、「半円弧の円周の中心を通る軸受(6)」との記載について検討する。
当初明細書等において、補正明細書等の「本体半円筒形空気容器(1)」に相当するものは、「本体ハーフパイプエアータンク」と記載され、また【図3】Bに略半円筒形状のものが記載されているが、【図3】B以外の全ての図面には、一般的な半円筒形状と比べてより高さ方向の大きい形状のものが記載されていることから、当初明細書等に記載された「本体ハーフパイプエアータンク」の形状は、ある程度「半円筒形」に近いことが理解できるとしても、円弧の中心点が存在するような明確な「半円筒形」のものが開示されているとはいえない。そして、補正明細書等の軸受(6)に相当する「錘ワイヤー軸受け」は、当初明細書等に、その配置ついての直接的な記載はなく、また当初図面を参照しても、「錘ワイヤー軸受け」が「半円弧の円周の中心を通る」ような位置に配置していることが読み取れるとはいえない。
したがって、補正明細書等に記載された「半円弧の円周の中心を通る軸受(6)」は、当初明細書等には記載されたものではない。

(ウ)続いて、「沖側に円弧の半分長さの腕(1C)」との記載について検討する。
当初明細書等には、腕の長さについての明確な記載はなく、当該長さを示唆する記載もない。また当初図面を参照しても、図面毎に円弧に比べて腕の長さが一定しておらず、当該図面から円弧の半分の長さが自明であるとはいえない。

(エ)最後に、「本体自体海中で浮力を有する構造で・・・、定置配備、・・・を保ち」、「円弧面中央部に通気孔(1E)」、「平常時は太陽光発電、波力発電、風力発電などの洋上での簡易発電を利用して、漁業、養殖、・・・、各種灯火、センサー発信などに活用が可能で地場産業、・・・への貢献も見込める要素も兼ね備えた構造になっている。」との記載について検討すると、これらの記載は当初明細書等に記載されたものではないことは明らかである。

エ 補正の根拠について
なお、請求人は、原審の拒絶理由通知に対して、意見書等によって補正の根拠の説明を行っておらず、また審判請求書においても、何ら補正の根拠を示していない。
また、審判請求書に、
「1、 手続の経緯
当初の出願で【明細書】【発明の詳細な説明】【007】以下が欠落不備に気づかないまま、手元控えを元に補正を繰り返して、再三の審査官の補正命令にも関わらず、出願時の手違いで法規に添った明細書が未完成のまま審査を受けた状況である事が判明した。手元のパソコン、メモリー、印刷物などに【007】項以降が存在していたので、当時、同時に出願をやり直した一件も同じ間違いで、出願時同じ個所が欠落していたことが判明しました。
2、 拒絶査定の要点
当初の出願書類に【明細書】【発明の詳細な説明】【007】以下が欠落したまま、有るものとして補正を繰り返したので、当初の出願の「明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。」、が当然ではあるが発明の内容、形態そのものに対する査定に至っていない状態で拒絶査定されたものである。」と記載しているとおり、請求人も、新規事項の追加であることを認めている。

オ してみると、上記(1)ウ,エの記載を含む本件補正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入する補正であるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

2 補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願明細書等について
本件補正(平成27年1月3日付け手続補正)は、上記第2のとおり却下されたので、本願の明細書、特許請求の範囲は、平成26年5月24日付け手続補正により補正されたとおりのものであり、本願の図面は、平成25年1月17日付け手続補正により補正されたとおりのものである。


第4 原査定の拒絶の理由について
1 原査定にて平成26年4月17日付けで通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりのものである。
<理由1>
平成25年1月17日付けでした手続補正及び平成25年1月26日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。



手続補正書において、補正された図面及び「発明を実施するための形態」以下に記載した事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(当初明細書等)に記載していない事項であるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことが明らかであり、しかも、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえない。したがって、特許法第17条の2第3項に規定する要件、すなわち、「明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」という要件を満たしていない。

<理由2>
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項1には「。」で区切られた複数の文がある。権利範囲を明確にするという目的から一つの請求項には一つの発明を記載することになっているので、一つの発明であることを明確にするために請求項の記載はそれぞれ一文にされたい。

また、「図1に示すようなハーフパイプエアータンク」とは、具体的にどのような構成を有するハーフエアータンクなのか、不明確である。

さらに、請求項1に記載された事項は、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないから、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

なお、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明及び図面を参酌しても発明を把握することができない程度に請求項の記載が明確でないから、新規性進歩性等の特許要件についての審査を行っていない。


2 平成26年10月24日付けの拒絶査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりのものである。

この出願については、平成26年 4月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
上記拒絶理由通知書の理由1参照。
手続補正書において、「発明を実施するための形態」以下に記載した事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(当初明細書等)に記載していない事項であるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことが明らかであり、しかも、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえない。したがって、特許法第17条の2第3項に規定する要件、すなわち、「明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」という要件を満たしていない。


第5 当審の判断
原査定の拒絶の理由1(特許法第17条の2第3項違反)について検討する。
ア 平成25年1月26日付け手続補正により、明細書の発明の詳細な説明には、新たに以下の段落【008】?【011】の記載が追加された。 なお、当該記載は、平成26年5月24日付け手続補正により補正された明細書においても、引き続き記載されている。
「 【008】
図2で示すように、間仕切り補強壁を用いて、水圧強風などに充分耐え得る断面が半円状の本体C形ハーフパイプエアータンク1の両端中央に、回転可能な軸6を設け長手方向四隅に浮き取り付け用の腕を、沖合い側はタンクの半径長さにして水中浮きと津波反応用大浮きと反対側に安定用小浮きをそれぞれ設ける。沖側の中央にタンク内の水位空気レベル探知用浮き装置、本体C形ハーフパイプエアータンク1外円中央長手方向に空気層を設け、本体が水没しない浮力を有し、その空間の一部分を避難ルームにして出入り口ハッチを設ける。各間仕切り補強壁に通気穴を設け空気充填時の効率をよくする。中央部に、波、太陽光、風による簡易発電機能、灯火・通信・発信装置・深さ表示・空気量各種のセンサー・避難用設備などを設け漁業・養殖など平常時の地場産業への貢献に備える。
【009】
図3で示すように、広範囲の海面の隆起陥没の後、ベクトルの衝突により幾重にも分波され押し寄せる大津波が海岸沿岸に到達する前の沖合いに、沖側に津波反応用大浮きを配し、両端の回転軸を海底の錘にワイヤーロープで繋ぎ本体C形ハーフパイプエアータンク1に圧縮空気を充填して、縦列配備し幾重にも定置配備する。水中浮きは、強風大波潮位などの影響を防ぎ空気漏れ防止、本体長手方向中央部・浮きそれぞれが常に洋上に出て安定状態で調整定置配備する。
【010】
図4で示すように、入り江、リアス式、重要な海岸沿岸の沖合いに、幾重にも本体C形ハーフパイプエアータンク1を定置配備して大津波襲来に備える。船舶の航路、漁業・養殖など地場産業との共存も可能で、平常時は津波到達時、本体反転に支障のない範囲分野の応用利用が出来るので、地域地場産業への貢献度も充分可能である。
【011】
図5で示すように、大津波到達時、沖側の大浮きが自動的に大波に反応して、急激に上方に押し上げられ本体タンク列が一斉に反転して津波の質量輸送エネルギーの中心に向かって空気層が浮き上がり、質量輸送エネルギーを吸収し、その威力が緩和する。津波自身のエネルギーで津波を緩和遮断する画期的な仕組みである。図1で示すように、本体1を沖合い洋上に縦列定置した列を、幾重にも配備定置することにより大津波の質量輸送エネルギーを沿岸・浅瀬・狭い入り江に到達する前に自動的に緩和するシステムである。定期的にメンテナンス、空気充填、巡回パトロールが必要なだけの理想的防災減災の手段の一つである。」

イ 上記アの新たに追加された記載のうち、特に以下の(a)?(j)の記載について検討する。
(a)「間仕切り補強壁を用いて、水圧強風などに充分耐え得る」
(b)「回転可能な軸6」
(c)「沖合い側はタンクの半径長さにして」
(d)「沖側の中央にタンク内の水位空気レベル探知用浮き装置」
(e)「本体C形ハーフパイプエアータンク1外円中央長手方向に空気層を設け、本体が水没しない浮力を有し、その空間の一部分を避難ルームにして出入り口ハッチを設ける。」
(f)「各間仕切り補強壁に通気穴を設け空気充填時の効率をよくする。」
(g)「中央部に、波、太陽光、風による簡易発電機能、灯火・通信・発信装置・深さ表示・空気量各種のセンサー・避難用設備などを設け漁業・養殖など平常時の地場産業への貢献に備える。」
(h)「水中浮きは、強風大波潮位などの影響を防ぎ空気漏れ防止」
(i)「船舶の航路、漁業・養殖など地場産業との共存も可能で、平常時は津波到達時、本体反転に支障のない範囲分野の応用利用が出来るので、地域地場産業への貢献度も充分可能である。」
(j)「定期的にメンテナンス、空気充填、巡回パトロールが必要なだけの理想的防災減災の手段の一つである。」

(ア)上記第2[理由](2)ウ(ア)に記載したとおり、「間仕切り補強壁(1G)」,「浮力用空気層(1F)」,「通気孔(1E)」が記載されていない以上、上記(a),(e),(f)の記載は、当初明細書等に記載されたものではない。

(イ)上記第2[理由](2)ウ(ウ)に記載したとおりであるから、上記(c)の記載は、当初明細書等に記載されたものではない。

(ウ)上記(b),(d),(g)?(j)の記載は、当初明細書に記載されていないことは明らかである。

ウ そうすると、平成25年1月26日付け手続補正により補正され、平成26年5月24日付け手続補正により補正された明細書に引き続き記載された上記イの(a)?(j)の記載は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

エ したがって、上記イの(a)?(j)の記載は、平成25年1月26日付け手続補正により補正された明細書の段落【008】?【011】に記載され、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていない旨の平成26年4月17日付け拒絶理由通知に対する平成26年5月24日付け手続補正により補正された明細書の段落【008】?【011】にも引き続き記載されていることから、平成26年5月24日付け手続補正によっても当該拒絶理由は解消されておらず、原審の拒絶査定に誤りはない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、平成26年5月24日付け手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって、その他の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-04 
結審通知日 2015-08-11 
審決日 2015-09-03 
出願番号 特願2012-170427(P2012-170427)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 信也  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
中田 誠
発明の名称 沖合で津波の質量輸送エネルギーを緩和遮断する装置  

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