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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1307640
審判番号 不服2014-6080  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-03 
確定日 2015-11-11 
事件の表示 特願2010-235791「タンパク質欠損性障害の治療のための併用療法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 78413〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年(2004年)2月2日(パリ条約による優先権主張 2003年1月31日 米国)を国際出願日とする特願2006-503265号の一部を平成22年10月20日に新たな特許出願としたものであって、本願の請求項に係る発明は、平成25年7月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
非哺乳動物宿主細胞によって組換え野生型α-ガラクトシダーゼAの産生量を増加させる方法であって、
前記宿主細胞が野生型α-ガラクトシダーゼAをコードする核酸配列を含有する発現ベクターを保有し、
α-ガラクトシダーゼAの可逆的競合阻害剤を含有する培地中で前記宿主細胞を培養することを含む方法。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、本願優先日前の1999年12月9日に頒布された刊行物である国際公開第99/62517号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。また、下線は当審で付与した。)。

ア.「・・・試験した化合物のうち、α-GalAに対する強力な競合的阻害剤として知られている1-デオキシ-ガラクトノジリマイシン(DGJ、5)は、4.7nMでIC_(50)の最も高い阻害活性を示した。α-3,4-Di-epi-ホモノジリマイシン(3)は、2.9μMでIC_(50)の有効な阻害剤であった。他の化合物は、0.25mM(6)から2.6mM(2)の範囲にわたるIC_(50)の適度な阻害活性を示した。更に驚いたことに、これらの化合物は、正常の4%の残存性α-GalA活性を有するファブリ病の異型性変異から確認された、変異α-GalA遺伝子(R301Q)を形質移入したCOS-1細胞中のα-GalA活性を著しく増大した。阻害剤のIC_(50)の3?10倍濃度でこれらの化合物と形質移入したCOS-1細胞を培養することによって、α-GalA活性は1.5?4倍に増大した(図1C)。細胞内増大の有効性はインビトロでの阻害活性と対応しており、また、化合物を10μM濃度で培地に添加した(図1B)。」(実施例1)

イ.「また、本発明の更なる目的は、哺乳動物細胞中の、特にヒト細胞中のα-GalA活性を増大する方法を提供することである。本発明の方法は、正常α-GalAおよび変異α-GalAの活性をともに増大するが、特にファブリ病のある形態に存在する変異α-GalAの活性を増大する。更に、本発明の方法は哺乳類以外の細胞、例えば、昆虫細胞および酵素補充療法用のα-GalAの生産を目的として使用される培養CHO細胞などにおいても有用であると推測される。」(3頁20行?4頁3行)

ウ.「材料 アルカロイド化合物は、植物、または植物生産物を部分的に化学的修飾した誘導体(9)の何れかから精製した。TgNマウスおよびTgMマウスは、以前に報告されているように(10、11)調製した。TgNまたはTgMの繊維芽細胞は、手順どおりにTgNマウスまたはTgMマウスから確立した。ヒトリンパ芽球は、正常成人またはファブリ病患者(6)からのエプスタイン-バールウィルス形質転換リンパ芽球株であった。COS-1細胞中で一時的に発現する正常および変異α-GalAのcDNAは、報告(12)どおりにクローン化した。インビトロでのアルカロイドの阻害研究のためにα-GalAは発現されており、正常α-GalA遺伝子がコード化された組換えバキュロウイルスによって感染したSf-9細胞を培地から精製された(13)。」(10頁18行?11頁4行)

エ.「実施例2 最も強力なインビトロにおける阻害剤および最も有効な細胞内エンハンサーのDGJを、より詳細に特徴化するために選択した。TgMまたはTgNの繊維芽細胞(図2A)、および、R301QまたはQ279E変異体の遺伝子型を有するファブリ患者から得たリンパ芽球(図2B)にDGJを添加した。TgM繊維芽細胞で確認された酵素活性は、20μMのDGJとの共培養によって6倍に増加し、正常の52%に達した。更に、DGJはリンパ芽球に対して類似の効果を示し、R301QおよびQ279Eにおいて8倍および7倍まで残存性酵素活性が増大し、それは、すなわち、正常の48%および45%であった。また、Tg正常(TgN)繊維芽細胞および正常リンパ芽球中の酵素活性は、DGJを用いた培養法によって増加が確認された。」(実施例2)

オ.「一方、ウェスタンブロット分析は、TgM繊維芽細胞の酵素タンパク質が著しく増加していることを示し、その増加はDGJの濃度に対応していた(図8B)。」(17頁7?9行)

カ.「TgNマウスは、正常なヒトリソソームのα-ガラクトシダーゼAを過剰発現するトランスジェニックマウスである。TgMマウスは、Gln(R301Q)による301位置でのArgの単一アミノ酸置換を有する変異体ヒトリソソームのα-ガラクトシダーゼAを過剰発現するトランスジェニックマウスである。TgN繊維芽細胞は、TgNマウスから発生した繊維芽細胞である。TgM繊維芽細胞は、TgMマウスから発生した繊維芽細胞である。」(10頁5?10行)

上記エ.及びオ.は、共に、1-デオキシ-ガラクトノジリマイシン(DGJ)とTgM繊維芽細胞との関係について記載したものであり、上記オ.には、DGJの濃度に対応してTgM繊維芽細胞の酵素タンパク質が著しく増加していることをウェスタンブロット分析で具体的に確認したことが記載されているから、上記エ.のDGJを添加することでTgM繊維芽細胞で確認された酵素活性の増加は、酵素タンパク質の増加、つまり、酵素タンパク質の産生量の増加を意味するものである。また、上記カ.の記載によれば、上記TgM繊維芽細胞はR301Q変異体を発現する細胞であり、上記ア.の記載によれば、COS-1細胞もTgM繊維芽細胞と同様にR301Q変異体を発現する細胞であるから、上記ア.の「COS-1細胞中のα-GalA活性を著しく増大」もTgM繊維芽細胞の場合と同様に、「COS-1細胞中のα-GalAの産生量を増加」を意味するものであると認められる。

以上のことから、上記ア.、エ.、オ.及びカ.の記載によれば、引用例1には、 以下の発明が記載されていると認められる。
「COS-1細胞中の組換え変異α-GalAの産生量を増加させる方法であって、前記COS-1細胞に変異α-GalA遺伝子(R301Q)を形質移入して、1-デオキシ-ガラクトノジリマイシンと形質移入したCOS-1細胞を培養することを含む方法」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願特許請求の範囲の「可逆的競合阻害剤が1-デオキシ-ガラクトノジリマイシンである」(請求項3)との記載、及び、本願明細書の「例えば、α-Gal A酵素に対する化合物デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)のIC_(50)値は0.04μMであり、これはDGJが強力な阻害剤であることを示している。」(段落【0124】)との記載から、引用発明の1-デオキシ-ガラクトノジリマイシンは、本願発明の「α-ガラクトシダーゼAの可逆的競合阻害剤」に相当する。
また、引用発明の「変異α-GalA」と、本願発明の「野生型α-ガラクトシダーゼA」は、「α-ガラクトシダーゼA類」である点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

一致点:
宿主細胞によって組換えα-ガラクトシダーゼA類の産生量を増加させる方法であって、
前記宿主細胞がα-ガラクトシダーゼA類をコードする核酸配列を含有し、
α-ガラクトシダーゼA類の可逆的競合阻害剤を含有する培地中で前記宿主細胞を培養することを含む方法。

相違点:
α-ガラクトシダーゼA類を産生するための発現系と導入遺伝子が、本願発明では、非哺乳動物宿主細胞が野生型α-ガラクトシダーゼAをコードする核酸配列を含有する発現ベクターを保有するものであるのに対して、引用発明では、COS-1細胞に変異α-GalA遺伝子(R301Q)を形質移入するものである点。

4.相違点についての検討
上記2.イ.には、引用発明が「正常α-GalAおよび変異α-GalAの活性をともに増大する」こと、及び、引用発明は「哺乳類以外の細胞、例えば、昆虫細胞などにおいても有用であると推測される。」ことが記載されており、また、上記2.エ.には、「Tg正常(TgN)繊維芽細胞中の酵素活性は、DGJを用いた培養法によって増加が確認された。」ことが記載されている。さらに、上記2.ウ.には、正常α-ガラクトシダーゼAの具体的な発現系として、「組換えバキュロウイルスによって感染したSf-9細胞」が記載されていることから、引用発明のα-ガラクトシダーゼA類を産生するための発現系と導入遺伝子を、上記2.イ.、ウ.及びエ.の記載を基に、非哺乳動物宿主細胞が野生型α-ガラクトシダーゼAをコードする核酸配列を含有する発現ベクターを保有するものに代えることは当業者が容易に想到することである。
そして、本願明細書をみても、非哺乳動物宿主細胞によって組換え野生型α-ガラクトシダーゼAの産生量を増加できることを示す実験結果は何ら示されていないことから、本願発明が、引用例1から当業者が予想できる程度を超える顕著な効果を奏すると認めることはできない。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成26年5月22日付けで補正された審判請求書において、
「しかしながら、審査官殿がご指摘の野生型α-ガラクトシダーゼA(normal α-Gal A)に関しては、阻害剤はその内因性酵素活性(activity)を増大するとしか記載されておらず(3頁4段落)、組換え野生型α-ガラクトシダーゼAの産生量の増加について何ら記載されていません。すなわち、審査官殿がご指摘の引用文献1の記載、野生型の活性増大に関するものであり、組換え野生型酵素の産生量増加に関するものではありません。また、引用文献1には、DGJが組換え変異型α-ガラクトシダーゼAの生合成を影響することが記載されており、これは「post-transcriptional event」(転写後の事象)によるものであり(Example 7;第17頁第1?2段落)、また、恐らく細胞内を通過する適切な輸送を助ける正しい折り畳み構造の形成に関係すると検討されていますが(DISCUSSION;第19頁第1段落)、引用文献1でテストした組換え形態は変異型酵素のみです。」と主張する。

しかしながら、上記2.に記述したとおり、引用例1のα-GalA活性の増大は、α-GalAの産生量の増加を意味するものである。また、上記2.エ.及びカ.の記載によれば、組換えヒト野生型α-GalAを発現するTg正常(TgN)繊維芽細胞の酵素活性は、組換えヒト変異型α-GalAを発現するTgM繊維芽細胞を用いた場合と同様にDGJを用いた培養法によって増加が確認されていることから、引用例1の実施例7で産生量の増加が確認された組換え形態は変異型酵素のみであるとしても、引用発明で導入する遺伝子を変異型から野生型に代えた場合であっても、変異型のときと同様に野生型でもα-GalAタンパク質の産生量が増加することは当業者が予測する範囲内のことである。
よって、審判請求人の主張は採用し得ない。

6.まとめ
以上検討したところによれば、本願の請求項1に係る発明は、引用例1の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-12 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-30 
出願番号 特願2010-235791(P2010-235791)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 知美  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 長井 啓子
植原 克典
発明の名称 タンパク質欠損性障害の治療のための併用療法  
代理人 小林 義教  
代理人 園田 吉隆  

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