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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B81B
管理番号 1307642
審判番号 不服2014-8077  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-01 
確定日 2015-11-11 
事件の表示 特願2010-543373「MEMS部品、及びMEMS部品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月30日国際公開、WO2009/092361、平成23年 4月21日国内公表、特表2011-512260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,2009年1月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年1月23日,ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって,平成25年2月6日付け拒絶理由通知に応答して平成25年7月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成25年12月25日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し,平成26年5月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正がなされ,平成26年11月26日付けで上申書が提出された。


第2.平成26年5月1日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年5月1日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は,平成25年7月10日付けで補正された特許請求の範囲を更に補正するものであって,特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお,下線部は補正箇所を示す。

(1)本件補正前の請求項1
「 【請求項1】
少なくとも1つの空洞(2)を有する基板(1)と、
前記空洞(2)が封止されている前記基板(1)の活性面と、
前記基板(1)の前記活性面の反対側に位置する不活性面と、
前記基板(1)の前記不活性面上にあって前記基板(1)を覆い、実質的にその全体を覆う接着剤(4)により前記基板(1)に貼り付けられている、ポリマーフィルムであるカバーフィルム(3)と、を備え、
前記空洞(2)は、前記基板(1)の前記活性面側が被膜(21)によって封止されており、
前記カバーフィルム(3)がMEMS部品の外側末端部分において除去されていることを特徴とするMEMS部品。」

(2)本件補正後の請求項1
「 【請求項1】
少なくとも1つの空洞(2)を有する基板(1)と、
前記空洞(2)が封止されている前記基板(1)の活性面と、
前記基板(1)の前記活性面の反対側に位置する不活性面と、
前記基板(1)の前記不活性面上にあって前記基板(1)を覆い、実質的にその全体を覆う接着剤(4)により前記基板(1)に貼り付けられている、ポリマーフィルムであるカバーフィルム(3)と、を備え、
前記空洞(2)は、前記基板(1)の前記活性面側が被膜(21)によって封止されており、
前記カバーフィルム(3)及び前記接着剤(4)がMEMS部品の外側末端部分においてレーザーアブレーション法によって前記基板(1)に到達するまで除去されており、
前記基板(1)は、基板表面下部の焦点面へのエネルギー注入法によって切断されており、
実装基板(10)に配置され、前記活性面と前記実装基板(10)の間の前記実装基板(10)の開口部の上部にバンプ(12)により固定されており、
マイクロフォンとして実施されている、ことを特徴とするMEMS部品。」


2.補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は,MEMS部品の外側末端部分について,補正前はカバーフィルムが単に除去された状態にあったものを,補正によりカバーフィルム及び接着剤がレーザーアブレーション法によって基板に到達するまで除去された状態であることを限定している。さらに,請求項1についてする補正により,基板が、基板表面下部の焦点面へのエネルギー注入法によって切断されたものであることや,基板を実装基板に配置するにあたり,活性面と実装基板の間の実装基板の開口部の上部にバンプにより固定すること,MEMS部品をマイクロフォンとして実施することを限定しているから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

(1)引用刊行物の記載事項及び引用刊行物記載の発明
本願優先日前に日本国内において頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-324320号公報(以下,「刊行物1」という。)及び国際公開第2007/054070号(以下,「刊行物2」という。),並びに本願優先日前に日本国内において頒布され,新たに引用する特開2006-86509号公報には,以下の事項及び発明が記載されている。なお,記載事項における下線は,理解を容易にするために当審で付したものである。また,刊行物2についての括弧内は,当該刊行物に係る国際出願に基づいて出願した,日本国特許出願の公表公報(特表2009-514691号公報)を参照した当審における日本語翻訳文,及び同公報における該当箇所である。さらに,刊行物2のドイツ語表記については,a,o,uのウムラウトを,それぞれa#,o#,u#で代替表記し,エスツェットを,s#で代替表記する。

ア.刊行物1記載の事項及び刊行物1発明
(ア)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのダイアフラムを有しており、素子構造部が基板上に層構造体として実現されており、基板内にその後面に向かって開放された少なくとも1つの空洞部が設けられており、これによりダイアフラムが露出されているマイクロメカニカル素子に関する。」

(イ)
「【0014】
前述したように、本発明の素子は多様な分野で使用することができる。特に有利な利用分野として、圧力センサのほか、流体流量センサ、感熱式加速度センサ(thermischer Beschleinigungsensor)、感熱式ヨーレートセンサ(thermischer Drehratensensor)、感熱式傾角センサ(thermischer Neigungwinkelsensor)、例えばH2センサ用または側方衝突センサ用の断熱気体‐熱伝導センサ、感熱式ケミカルセンサ(thermischer chemischen Sensor)、熱板応用分野(thermische Heizplattenanwendung)、ハイダイナミック温度センサ、湿分センサ、例えば気体センサ用または赤外線カメラ用の赤外線検出器、サーモパイル、または高周波応用分野などが上げられる。」

(ウ)
「【0016】
前述したように、マイクロメカニカル素子は一般に複数の同種の素子構造部を1つの基板(例えば金属ウェハまたはシリコンウェハ)上に形成することにより大量生産される。プロセスの最終段階で素子のダイシングが行われ、層構造体全体がそれぞれの素子へ個別化される。
【0017】
図1にはウェハ1が示されている。このウェハに対しては前面2からも後面3からもプロセスが施され、ダイアフラム4を備えた素子構造部が形成される。ダイアフラム4は層としてウェハ1を完全に貫通する複数の空洞部5の上に架けわたされるように基板前面2に配置される。空洞部5はウェハ後面3から形成される。本発明によればシートまたは積層体6がウェハ後面3に被着され、空洞部5は完全にカバーされる。このようにしてダイアフラムの後面は周囲影響に対して遮蔽される。
【0018】
図示の実施例では、積層体6の両側に接着層7,8が設けられている。ウェハ後面3に向かう側の第1の接着層7は積層体6とウェハ後面3との接合のために用いられる。第2の接着層8は素子の実装のために用いられる。後者については図2に則して説明する。
【0019】
図1にはソーによる素子のダイシング前のウェハ1が示されている。このウェハはテープ状支持体9上に配置されており、このテープ状支持体はダイシング中にはウェハ1を固定し、またダイシング後には個別の素子を固定する。積層体6は層構造体の全体とともに分離され、後面に個々の素子が残る。このことは図中では分離線10としての破線によって表されている。有利にはUVテープがテープ状支持体9として使用される。なぜならUVテープの接着力は紫外光の照射により著しく低減され、テープ状支持体9から個々の素子を取り出したり、積層体6を分離したりすることが簡単になるからである。」

(エ)図1
図1には,4つの同種の素子構造部を1つの基板上に形成することや,個々の素子に分離するための分離線10,空洞部5が4つ存在することが示されている。


(オ)刊行物1発明
以上の記載事項を,技術常識を踏まえて整理すると,刊行物1には次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。
「4つの空洞部5を有するウェハ1と,
前記空洞部5が封止されている前記ウェハ1の前面2と,
前記ウェハ1の前記前面2の反対側に位置する後面3と,
前記ウェハ1の前記後面3上にあって前記ウェハ1を覆い,実質的にその全体を覆う接着剤7により前記ウェハ1に貼り付けられている,シート6と,を備え,
前記空洞部5は,前記ウェハ1の前記前面2がダイヤフラム4によって封止されており,
前記ウェハ1は,ソーによってダイシングされているマイクロメカニカル素子。」

イ.刊行物2記載の事項及び刊行物2事項
(ア)第12ページ第18から28行まで
「Der MEMS-Chip kann als Mikrofon ausgebildet sein, bei dem entweder in Abdeckung und/oder Schirmungsschicht eine Durchbrechung vorgesehen ist oder bei dem der MEMS-Chip u#ber einer Schallo#ffnung im Tra#gersubstrat angeordnet ist. Zusa#tzlich kann das MEMS-Package auf der der Schallo#ffnung oder dem Durchbruch gegenu#berliegenden Seite ein ausreichend dicht abgeschlossenes Ru#ckvolumen aufweisen, welches einen Referenzdruck fu#r den MEMS-Chip darstellt und die Messung eines Druckunterschieds relativ zu diesem Referenzdruck ermo#glicht. Dies ist fu#r Anwendungen als Drucksensor oder Mikrofon erforderlich. 」
(【0035】
MEMSチップをマイクロフォンとして構成することができる。ここでは被覆部および/または遮蔽層内に貫通孔が設けられるか、またはMEMSチップが担体基板内の音響開口部上に配置される。付加的にMEMSパッケージは音響開口部上で、または貫通孔に対向している面上で、充分に密に密閉されたバックチャンバを有することができる。これはMEMSチップのための基準圧力であり、この基準圧力に対して相対的な圧力の相違を測定することが可能である。これは圧力センサとしてまたはマイクロフォンとしての使用に必要である。)

(イ)第15ページ第26行から第16ページ第26行まで
「Figur 1 zeigt eine einfache Ausfu#hrungsform des MEMS-Packages, bei der MEMS-Chip MC und Chipbauelement CB nebeneinander auf der Oberseite des Tra#gersubstrats TS montiert und dort beispielsweise mittels Klebstoff befestigt sind. Die elektrische Kontaktierung der beiden Komponenten zum Tra#gersubstrat erfolgt mit Bonddra#hten BD. Die Abdeckung AB besteht aus einer auf dem Tra#gersubstrat aufsitzenden Kappe, die unter sich einen Hohlraum HR einschlies#t. Die Kappe kann beispielsweise auf das Tra#gersubstrat TS aufgeklebt werden und besteht beispielsweise aus einem vorgeformten Kunststoffteil . Die Schirmungsschicht SL wird in einem Du#nnschichtverfahren auf die Kappe und die Oberfla#che des Tra#gersubstrats aufgebracht und gegebenenfalls nasschemisch oder galvanisch versta#rkt. Geeignet ist beispielsweise ein zweistufiges Vorgehen, bei dem zuna#chst eine metallische Haftschicht - beispielsweise aus Titan, Nickel, Chrom, Wolfram oder Kupfer - aufgesputtert und anschlies#end aus der Lo#sung galvanisch oder stromlos mit Kupfer oder Nickel versta#rkt wird.

Geeignete Schichtdicken zum Erfu#llen der Schirmungsfunktion liegen dann im Bereich zwischen 10 und 100 μm. Vorzugsweise weist das Tra#gersubstrat TS eine mit Masse verbundene Anschlussfla#che auf, die mit der Schirmungsschicht abschlies#t und diese somit erdet . Der Hohlraum HR unter der als Kappe ausgebildeten Abdeckung AB wird als Ru#ckvolumen fu#r die Funktion des MEMS-Chips benutzt. Der MEMS-Chip MC weist auf der zum Tra#gersubstrat weisenden passiven Seite eine Ausnehmung AN auf, in der der MEMS-Chip soweit gedu#nnt ist, dass die MEMS Strukturen der aktiven Seite frei liegen. Unterhalb der Ausnehmung ist im Tra#gersubstrat eine als Durchbruch ausgebildete O#ffnung OE vorgesehen, sodass die (passive) Unterseite des MEMS-Chips im Bereich der Ausnehmung AN mit einer Umgebungsatmospha#re bzw. einem Umgebungsdruck in Verbindung steht. 」
(【0043】
図1は、MEMSパッケージの簡単な実施形態を示している。ここではMEMSチップMCとチップデバイスCBが相互に隣り合って、担体基板TSの上面に取り付けられており、そこで例えば接着剤によって固定されている。担体基板へのこの2つのコンポーネントの電気的な接触接続は、ボンディングワイヤーBDによって行われる。被覆部ABは、担体基板上に載置されたキャップから成る。ここでこのキャップは下方で中空空間HRを取り囲んでいる。キャップは例えば、担体基板TS上に接着されており、例えば事前に成形されたプラスチック部材から成る。遮蔽層SLが薄膜方法において、キャップおよび担体基板の表面上に被着され、場合によってはウェットケミカル方法によって、または電気めっきによって増強される。例えば二段階式の手法が有利である。ここではまずは金属製接着層(これは例えばチタン、ニッケル、クロム、タングステンまたは銅から成る)がスパッタリングされ、次に溶液から、電気めっきによってまたは無通電状態で銅またはニッケルによって増強される。
【0044】
遮蔽機能を満たすのに適している層厚は、10?100μmの間の領域にある。有利には担体基板TSはアースと接続された接続面を有している。この接続面は遮蔽層と終端を成しており、これをアースする。中空空間HRは、キャップとして構成された被覆部ABの下方で、MEMSチップの機能のためのバックチャンバとして使用される。MEMSチップMCは、担体基板の方を向いているパッシブ面上に切り欠きANを有している。この切り欠き内では、MEMSチップが薄くされており、アクティブ面のMEMS構造体が露出している。この切り欠きの下方には、担体基板内に、貫通孔として構成された開口部OEが設けられている。従って、MEMSチップの(パッシブ)下面は、切り欠きANの領域において周囲雰囲気ないし周囲圧力と接続されている。)

(ウ)第17ページ第31行から第20ページ第2行まで
「Figur 2 zeigt ein weiteres MEMS-Package, bei dem im Unterschied zu Figur 1 der MEMS-Chip MC in Flip-Chip-Anordnung z.B. mittels Bumps BU auf dem Tra#gersubstrat TS befestigt ist. Dazu ist der MEMS-Chip gegenu#ber der Figur 1 vertikal gekippt, sodass nun die aktive Seite des MEMS-Chips zur Oberfla#che des Tra#gersubstrats weist. Die elektrische und mechanische Verbindung kann u#ber Bumps oder u#ber elektrisch leitenden Kleber erfolgen. Sofern der Kleber keine ausreichende Abdichtung des Ru#ckvolumens unter der als Kappe ausgebildeten Abdeckung AB erzeugt, sodass der dort vorliegende Referenzdruck nicht lange genug aufrecht erhalten werden kann, so wird, wie in Figur 2 gezeigt, zusa#tzlich ein Dichtrahmen DR (siehe Figur) oder alternativ ein Underfiller oder eine sonstige Fugenabdichtung so vorgesehen, dass die Kante des MEMS-Chips umlaufend gegen das Tra#gersubstrat TS abgedichtet ist. Der Dichtrahmen kann auch ein nach dem Auflo#ten des MEMS-Chips MC applizierter Klebstoff sein. Ein anisotrop leitender Klebstoff kann die dargestellten Bumps BU ersetzen und gleichzeitig eine Abdichtung vornehmen. Gegenu#ber Figur 1 ist das Ru#ckvolumen hier weiter vergro#s#ert .

Figur 3 zeigt eine Anordnung, bei der MEMS-Chip MC und Chipbauelement CB wie in Figur 2 aufgebracht sind. Anders als dort ist das Chipbauelement CB hier jedoch mit einer direkt aufgebrachten Schutzabdeckung, beispielsweise einer Glob-Top-Masse LG abgedeckt. Sowohl u#ber MEMS-Chip MC als auch u#ber mit der Schutzabdeckung LG versehenes Chipbauelement CB ist als weitere Abdeckung AB eine Abdeckschicht aufgebracht, beispielsweise eine auflaminierte Laminatfolie. Diese schmiegt sich dicht an den MEMS-Chip MC an und kann, wie dargestellt, die Ausnehmung AN auf der (passiven) Unterseite des MEMS-Chips MC u#berspannen. Die Schirmungsschicht SL ist wiederum als metallische Schicht auf die Oberfla#che der Abdeckschicht aufgebracht und schlies#t rundum mit dem Tra#gersubstrat TS ab. Wegen des gegenu#ber den Figuren 1 und 2 verkleinerten Ru#ckvolumens ist, falls fu#r den MEMS-Chip MC u#berhaupt ein Ru#ckvolumen erforderlich ist, dieses ausreichend hoch gewa#hlt. Dazu ist die Ausnehmung AN entweder vergro#s#ert oder die Dicke des MEMS-Chips erho#ht, bis ein ausreichend gros#es Ru#ckvolumen erhalten ist. Bei geeigneter Prozessfu#hrung, insbesondere wenn die Abdeckschicht das Ru#ckvolumen dicht am MEMS-Chip abschlies#t, kann hier auf den Dichtrahmen DR verzichtet werden.

Figur 4 zeigt eine Ausfu#hrung fu#r ein MEMS-Package, bei der auch das Chipbauelement CB in Flip-Chip-Anordnung neben dem MEMS-Chip MC auf dem Tra#gersubstrat TS aufgebracht ist. Da dadurch die elektrischen Kontakte des Chipbauelements CB im Zwischenraum zwischen Chipbauelement und Tra#gersubstrat geschu#tzt sind, ist hier keine zusa#tzliche Abdeckung des Chip-Bauelements wie in Figur 3 erforderlich. Die als Abdeckschicht ausgebildete Abdeckung AB kann direkt auf der Ru#ckseite des Chipbauelements aufliegen.

Als weitere Ausgestaltung ist u#ber dem MEMS-Chip MC ein Deckel DL aufgebracht. Dieser erleichtert das Aufbringen der Abdeckschicht, insbesondere das Auflaminieren der Laminatfolie, indem es die Ausnehmung auf der Oberseite des MEMS-Chips MC abdeckt und dabei Ru#ckvolumen einschlies#t. Fu#r den Deckel DL kann eine Glas- oder Kunststofffolie eingesetzt werden, alternativ eine entsprechend gedu#nnte Halbleiterschicht. Eine ausreichende Dicke wird bei ca. 100 μm erhalten. Vorzugsweise wird der MEMS-Chip bereits auf Waferebene mit dem Deckel versehen, indem eine entsprechend gros#fla#chige Deckelschicht oder ein entsprechender Deckelwafer mit dem Wafer verbunden wird, in dem die MEMS-Chips MC im Nutzen hergestellt werden. Das Verbinden des MEMS-Wafers mit dem Deckel-wafer kann beispielsweise mittels Waferbondens erfolgen. Auch Kleben ist mo#glich. 」
(【0048】
図2は、別のMEMSパッケージを示している。ここでは図1とは異なり、MEMSチップMCはフリップチップ配置構成で、例えばバンプBUによって、担体基板TS上に固定されている。このためにMEMSチップは、図1に対して垂直にひっくり返されている。従ってここではMEMSチップのアクティブ面は担体基板の表面の方を向いている。電気的および機械的な接続はバンプまたは導電性接着剤を介して行われる。接着剤によって、キャップとして構成された被覆部ABの下方でバックチャンバが充分に密閉されない場合には、バックチャンバ内の基準圧力が充分に長く保持されないので、図2に示されているように、付加的にシールドフレームDR(図を参照)または択一的にアンダーフィラーまたはその他の継ぎ目密閉部が設けられ、MEMSチップのエッジが取り囲まれて、担体基板TSに面して密閉される。シールドフレームは、MEMSチップをはんだ付けした後に塗布される接着剤であってよい。異方性導電性接着剤が図示されたバンプBUの代わりに用いられ、同時に密閉が行われてもよい。この場合には図1と比べて、バックチャンバが拡大される。
【0049】
図3は、MEMSチップMCおよびチップデバイスCBが図2と同じように被着されている配置構成を示している。ここで異なるのは、チップデバイスCBがここでは直接的に被着された保護被覆部、例えばグローブトップ質量体LGによって覆われている、ということである。MEMSチップMC上にも、保護被覆部LGが設けられたチップデバイスCB上にも、さらなる被覆部ABとして被覆層が被着される。これは例えばラミネート加工されたラミネートフィルムである。これはMEMSチップMCに密着し、図示されているように、MEMSチップMCの(パッシブ)下面で切り欠きANを覆う。遮蔽層SLは同じように金属製層として被覆層の表面上に被着され、周囲で担体基板TSと終端を成す。
【0050】
図1および2に比べてバックチャンバが小さくなっているので、MEMSチップMCに対してバックチャンバが必要である場合には、これは充分に高く選択される。このために、充分に大きいバックチャンバが得られるまで、切り欠きANが拡大されるか、またはMEMSチップが厚くされる。適切なプロセスが実行される場合、殊に被覆層がバックチャンバをMEMSチップで密封する場合には、シールドフレームDRを省くことができる。
【0051】
図4は、チップデバイスCBもフリップチップ装置で、MEMSチップMCの隣に、担体基板TS上に被着されている配置構成を示している。これによってチップデバイスCBの電気的コンタクトがチップデバイスと担体基板との間の空間において保護されるので、ここでは、図3に示されたようなチップデバイスの付加的な被覆は必要ない。被覆層として構成された被覆部ABは直接的にチップデバイスの背面に載置される。
【0052】
別の実施形態として、MEMSチップMC上にカバーDLが被着される。これによって被覆層を被着すること、殊にラミネートフィルムのラミネート加工が容易になる。これはカバーが、MEMSチップMCの上面で切り欠きを覆い、この際にバックチャンバを封じることによって行われる。カバーDLとしてはガラスフィルムまたはプラスチックフィルムが使用可能であり、択一的に相応に薄くされた半導体層が使用可能である。充分な厚さは約100μmで得られる。有利にはMEMSチップには既にウェハ面で、カバーが設けられる。これは相応の大きい面積のカバー層または相応のカバーウェハがウェハと接続されることによって行われる。この内部には有利にはMEMSチップMCが製造されている。MEMSウェハとカバーウェハとの接続は例えばウェハボンディングによって行われる。接着も可能である。)

(エ)Fig1(図1)からFig4(図4)まで
Fig4(図4)には,Fig1(図1)において「TS」の符号で示された長方形状の部材や,Fig2(図2)において「BU」の符号で示された黒色楕円形状の部材,並びに切り欠きAN,開口部OE及びカバーDLが示されており,黒色楕円形状の部材は,開口部OEの上方の左右に設けられていることを看取できる。
また,Fig3(図3)とFig4(図4)の切り欠きANは,いずれも倒立台形状に表されている。


(オ)刊行物2事項
上記(エ)に摘示するように,刊行物2の図4には,図1において「TS」の符号で示された長方形状の部材が示されており,上記(イ)に摘示する記載からみて,当該部材は担体基板TSであると理解できる。また,刊行物2の図4には,図2において「BU」の符号で示された黒色楕円形状の部材が示されており,上記(ウ)に摘示する記載からみて,当該部材はバンプBUであると理解できる。
また,上記(ウ)に摘示するように,「図3は、MEMSチップMCおよびチップデバイスCBが図2と同じように被着されている配置構成を示している」との記載があるところ,図2について,「MEMSチップのアクティブ面は担体基板の表面の方を向いている」と記載されていることからみて,図3のMEMSチップのアクティブ面についても,図2と同様に担体基板の表面の方を向いていると理解できる。さらに,上記(エ)に示すように,図3と図4の切り欠きANは,いずれも倒立台形状に表されているから,図4におけるMEMSチップの配置は,図3のMEMSチップと同様に配置されているということができ,結局,図4のMEMSチップのアクティブ面は,図2及び3と同様に,担体基板の表面の方を向いているといえる。そして,上記(イ)に摘示する「MEMSチップMCは、担体基板の方を向いているパッシブ面上に切り欠きANを有している。この切り欠き内では、MEMSチップが薄くされており、アクティブ面のMEMS構造体が露出している」との記載からみて,アクティブ面の反対側がパッシブ面であるといえるから,図4のMEMSチップにおいて,担体基板の表面の方を向いた面(図4の下方の面)とは反対の面(図4の上方の面)がパッシブ面であると理解できる。
以上の記載事項を,技術常識及び上記の理解を踏まえて整理すると,刊行物2には次の技術的事項(以下,「刊行物2事項」という。)が記載されていると認める。
「1つの切り欠きANを有するMEMSチップMCと,
前記切り欠きANが封止されている前記MEMSチップMCのアクティブ面と,
前記MEMSチップMCの前記アクティブ面の反対側に位置するパッシブ面と,
前記MEMSチップMCの前記パッシブ面上にあって前記MEMSチップMCを覆い,前記MEMSチップMCに被着されている、ガラスフィルムまたはプラスチックフィルムであるカバーDLと、を備え,
前記切り欠きANは、前記MEMSチップMCの前記アクティブ面側が封止されており,
担体基板TSに配置され、前記アクティブ面と前記担体基板TSの間の前記担体基板TSの開口部OEの上部にバンプBUにより固定されており,、
マイクロフォンとして構成されているMEMSパッケージ。」

ウ.刊行物3記載の事項及び刊行物3事項
(ア)第3ページ第42から46行まで
「従来、この種の半導体基板の分断方法として、高速回転するダイヤモンドブレードにより、シリコンウェハなどの半導体基板を切断して半導体チップを得る方法が用いられていた。しかし、この方法では、切断幅分のシリコンの損失により、半導体チップの収量が制限されるという問題や、切断時に半導体チップの一部が欠けるチッピングにより歩留まりが低下するという問題などがあった。」

(イ)第4ページ第1から7行まで
「 図4(a)に示すように、半導体基板1の裏面(素子が形成されていない面)には、分断により生成された半導体チップ1eを実装するための貼着フィルム(フィルム状接着剤)であるダイアタッチフィルム(ダイボンドフィルムともいう。以下、DAFという)2が貼着されており、そのDAF2の裏面(実装側の面)には、分断後の半導体チップが離散しないようにするためのダイシングフィルム(ダイシングシートまたはダイシングテープとも呼ばれる)5が貼着されている。DAF2およびダイシングフィルム5は、例えば合成樹脂製フィルム上に接着剤を塗工して形成されている。」

(ウ)第12ページ第37行から第13ページ第12行まで
「まず、レーザ光7を半導体基板1の裏面1gに貼着されているDAF2の表面から、分断予定ラインL1に沿って、集光点がDAF2に合うように照射し、DAF2を溶融して分断する(本願請求項3の実装部材分断工程に対応)。このDAF2の分断を各分断予定ラインL1に対して行う。レーザ光7は、DAF2を溶融して分断する強度を有する。
【0048】
(図2(b)に示す工程)
次に、DAF2の裏面(実装側の面)にダイシングフィルム5を貼着する(本願請求項3の貼着工程に対応)。次に、半導体基板1を裏返し、レーザ光4をその集光点Pが半導体基板1の内部の下方に位置するように設定したレーザ照射条件で、分断予定ラインL1に沿って半導体基板1の表面から照射し、集光点Pに改質領域1cを形成する。続いて、集光点Pを前述で形成した改質領域より上方の半導体基板内部の位置に移動させ、分断予定ラインL1に沿って改質領域1cを形成し、分断予定ラインL1の下方の基板厚さ方向に対し、連続もしくは断続層状の改質領域を少なくとも一層形成する。このような分断予定ラインL1上に改質領域1cを形成する工程を各分断予定ラインL1に対して行う(本願請求項3の改質領域形成工程に対応)。図中2aは、DAF2が分断された部分である実装部材分断部を示す。
【0049】
(図2(c)に示す工程)
次に、ダイシングフィルム5を両方向(図中矢印F2,F3で示す方向)へ引っ張り、半導体基板1の内部にせん断応力を発生させることにより、改質領域1cを形成するクラックを成長させ、改質領域1cに沿ったライン上に割れ1bを形成させる。
【0050】
(図2(d)に示す工程)
続いて、割れ1b,1bにより挟まれた部分の裏面1gに押圧部材6の先端を当接させ、その押圧部材6を上方(図中矢印F4で示す方向)へ移動させ、半導体チップ1eをピックアップする(本願請求項3の半導体基板分断工程に対応)。」

(エ)刊行物3事項
刊行物3には,上記(ウ)に摘示するように,レーザ光7の集光点がDAF2に合うように照射し、DAF2を溶融して分断することが記載されているところ,上記(イ)に摘示する記載からみて,DAF2がダイアタッチフィルムを意味し,当該フィルムは,合成樹脂製フィルム上に接着剤を塗工して形成されているから,DAF2を溶融して分断することは,ダイアタッチフィルムを形成する合成樹脂製フィルムと接着剤の両方を溶融させることによって,分断することであると理解できる。
以上の記載事項を,技術常識及び上記の理解を踏まえて整理すると,刊行物3には次の技術的事項(以下,「刊行物3事項」という。)が記載されていると認める。
「半導体基板1と,
前記半導体基板1の裏面1g上にあって前記半導体基板1を覆い,実質的にその全体を覆う接着剤により前記半導体基板1に貼り付けられている,合成樹脂フィルムであるダイアタッチフィルム2とを備えたものにおいて,
前記ダイアタッチフィルム2及び前記接着剤が半導体チップ1eの分断予定ラインL1に沿ってその集光点がダイアタッチフィルム2に合うようにレーザ光7が照射されて溶融されることによって分断されており,
前記半導体基板1は,レーザ光4をその集光点Pが半導体基板1の内部の下方に位置するように設定したレーザ照射で集光点Pに改質領域1cが形成されて,半導体基板1の内部にせん断応力を発生させることにより、改質領域1cを形成するクラックを成長させ、改質領域1cに沿ったライン上に割れ1bを形成させて分断されること。」

(2)対比
本件補正発明と刊行物1発明とを対比すると,刊行物1発明の「4つの空洞部5」が本件補正発明の「少なくとも1つの空洞」に相当することは明らかであり,以下同様に,「ウェハ1」が「基板」に相当し,「前面2」が「活性面」に相当し,「後面3」が「不活性面」に相当し,「接着剤7」が「接着剤」に相当し,「ダイヤフラム4」が「皮膜」に相当し,「マイクロメカニカル素子」が「MEMS部品」に相当する。
また,刊行物1発明の「シート6」と本件補正発明の「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」とは,「被覆部材」という点で共通し,刊行物1発明において「ソーによってダイシングされて」いることと,本件補正発明において「基板表面下部の焦点面へのエネルギー注入法によって切断されて」いることとは,「切断されて」いるという点で共通する。

以上から,本件補正発明と刊行物1発明とは,以下の点で一致及び相違する。

<一致点A>
「少なくとも1つの空洞を有する基板と,
前記空洞が封止されている前記基板の活性面と,
前記基板の前記活性面の反対側に位置する不活性面と,
前記基板の前記不活性面上にあって前記基板を覆い,実質的にその全体を覆う接着剤により前記基板に貼り付けられている,被覆部材と,を備え,
前記空洞は,前記基板の前記活性面側が被膜によって封止されており,
前記基板は,切断されている,MEMS部品。」

<相違点1>
本件補正発明は,被覆部材が「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」であり,また,MEMS部品が「実装基板に配置され,活性面と実装基板の間の実装基板の開口部の上部にバンプにより固定されており,マイクロフォンとして実施されて」いるのに対して,刊行物1発明は,被覆部材が「シート6」であり,MEMS部品が「実装基板に配置され,活性面と実装基板の間の実装基板の開口部の上部にバンプにより固定されており,マイクロフォンとして実施されて」いるものかどうか不明な点。

<相違点2>
本件補正発明では,「カバーフィルム及び接着剤がMEMS部品の外側末端部分においてレーザーアブレーション法によって基板に到達するまで除去されており,基板は,基板表面下部の焦点面へのエネルギー注入法によって切断されて」いるのに対して,刊行物1発明では,ウェハ1は,ソーによってダイシングされており「カバーフィルム及び接着剤がMEMS部品の外側末端部分においてレーザーアブレーション法によって基板に到達するまで除去されており,基板は,基板表面下部の焦点面へのエネルギー注入法によって切断されて」いるものではない点。

(3)各相違点の判断
ア.相違点1について
刊行物2には,上記(1)イ.(オ)に示す刊行物2事項が記載されているということができるところ,上記相違点1に係る構成は,いずれも刊行物2事項に示されている。
より具体的にいえば,本件補正発明における「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」は,上記(1)イ.(ウ)に摘示するように刊行物2に記載されており,本件補正発明のMEMS部品が「実装基板に配置され,活性面と実装基板の間の実装基板の開口部の上部にバンプにより固定されて」いることは,上記(1)イ.(エ)に摘示するように刊行物2に記載されており,また,本件補正発明のMEMS部品が「マイクロフォンとして実施されて」いることは,上記(1)イ.(ア)に摘示するように刊行物2に記載されている。
上記(1)イ.(ア)に示すように,刊行物2には,MEMSパッケージが密閉されたバックチャンバを有することができ,当該バックチャンバから生じる基準圧力により,相対的な圧力の相違を測定することが可能となり,このことは,MEMSパッケージを圧力センサやマイクロフォンとして使用する際に必要である旨の記載がある。
当該記載におけるバックチャンバは,上記(1)イ.(ウ)に示す「これはカバーが、MEMSチップMCの上面で切り欠きを覆い、この際にバックチャンバを封じることによって行われる」という記載からみて,MEMSチップMC(本件補正発明でいう基板)の切り欠き(本件補正発明でいう空洞)をカバー(本件補正発明でいうカバーフィルム)で覆うことにより構成されるチャンバを含むものといえるところ,刊行物2におけるこれらの記載に接した当業者であれば,刊行物1発明も,基板の空洞部5をシート6で覆うことにより構成されるチャンバを有していることから,刊行物1発明も圧力センサやマイクロフォンとして使用できることを理解するはずであるし,そのような理解は,上記(1)ア.(イ)に示すように,刊行物1発明の用途として圧力センサが記載されていることとも符合する。
当業者であれば,刊行物1発明の用途の多様化を図り,販路の拡大を企図することは当然であるから,刊行物1発明の用途として,圧力センサのほかにマイクロフォンが存在することを理解した当業者であれば,当然に刊行物1発明をマイクロフォンに適用しようと試みるはずである。
そして,刊行物2事項は,MEMS部品をマイクロフォンとして実施する際に,活性面と実装基板の間の実装基板の開口部の上部にバンプにより固定することや,基板の不活性面をポリマーフィルムであるカバーフィルムで覆うことを示しているから,刊行物1発明をマイクロフォンとして実施する際に,刊行物2事項を適用することは,当業者が容易に想到し得る事項といえる。
以上から,刊行物1発明において,被覆部材を「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」として構成し,また,MEMS部品が「実装基板に配置され,活性面と実装基板の間の実装基板の開口部の上部にバンプにより固定されており,マイクロフォンとして実施されて」いるように構成することは,刊行物2の記載事項に基づいて,当業者が容易に想到できた事項である。

イ.相違点2について
刊行物3には,上記(1)ウ.(エ)に示す刊行物3事項が記載されているということができるところ,上記相違点2に係る構成は,いずれも刊行物3事項に示されている。
より具体的にいえば,本件補正発明において「カバーフィルム及び接着剤がMEMS部品の外側末端部分においてレーザーアブレーション法によって基板に到達するまで除去されて」いることは,上記(1)ウ.(イ)及び(ウ)に摘示するように刊行物3に記載されており,本件補正発明において「基板は,基板表面下部の焦点面へのエネルギー注入法によって切断されて」いることは,上記(1)ウ.(ウ)に摘示するように刊行物3に記載されている。
そして,刊行物3事項は,上記(1)ウ.(ア)に示すように,ダイヤモンドブレードによる分割では,半導体チップの一部が欠けるチッピングが生じるという課題を解決するものであるところ,上記(1)ア.(ウ)に示すように,刊行物1には,基板として「シリコンウェハ」が示されている上に,上記(1)ア.(オ)に示すように,刊行物1発明は,ソー,すなわちブレードによって分断を行っているから,刊行物1発明は,刊行物3事項が解決しようとするチッピングに関する課題を内在していると理解できる。
また,上記(1)ア.(オ)に示すように,刊行物1発明はマイクロメカニカル素子,すなわちMEMS部品であるところ,MEMS部品は,半導体装置の製造技術を応用した微細加工により構成されるものであることは,当業者にとって自明である。そして,刊行物3事項は,半導体装置の製造技術に関する技術的事項である。
これらを踏まえると,刊行物3の記載に接した当業者であれば,刊行物1発明がチッピングに関する課題を内在していることを理解し,当該課題を解決するように,刊行物3事項を適用しようと試みるはずであって,半導体装置の製造技術に関する刊行物3事項を,MEMS部品である刊行物1発明に適用することは,当業者が容易に想到できた事項である。
以上から,刊行物1発明において,「カバーフィルム及び接着剤がMEMS部品の外側末端部分においてレーザーアブレーション法によって基板に到達するまで除去されており,基板は,基板表面下部の焦点面へのエネルギー注入法によって切断されて」いるように構成することは,刊行物3の記載事項に基づいて,当業者が容易に想到できたものである。

ウ.作用効果について
本件補正発明が奏する作用や効果は,刊行物1発明並びに刊行物2及び3の記載事項から当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別のものとはいえない。

(4)補正の適否についてのむすび
以上のとおり,本件補正発明は,刊行物1発明並びに刊行物2及び3の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記[補正却下の決定の結論]のとおり,決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,上記第2.1.(1)に示すとおりのものである。

2.引用刊行物の記載事項及び引用刊行物記載の発明
本願優先日前に日本国内において頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2の記載事項は,上記第2.2.(1)ア.及びイ.に記載したとおりである。
また,本願優先日前に日本国内において頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-251493号公報(以下,「刊行物4」という。)には,以下の事項及び発明が記載されている。

(1)「【0082】尚、本実施例で説明する半導体装置の製造方法は、基板51を分離して個々の半導体素子21に分離する分離工程に特徴を有するものであり、この分離工程が実施される前に行われる処理(突起電極23が配設された複数の半導体素子21が形成された基板を封止樹脂層22により封止し、続いて突起電極23の一部を封止樹脂層22から露出させる処理)は、従来方法(例えば、本出願人により出願された特願平9-10683号に開示した方法)と同一である。このため、以下の説明では、分離工程についてのみ説明するものとする。また、以下説明する半導体装置の各製造方法においても同様とする。
【0083】先ず、図5を用いて、本発明の第1実施例である半導体装置20Aの製造方法について説明する。本実施例に係る製造方法における分離工程では、図5(A)に示すように、先ず角度θを有した角度付き刃26を用い、図5(B),(C)に示すように、封止樹脂層22及び基板51の一部を切削して面取り部用溝56を形成する(溝形成工程)。この時形成される面取り部用溝56は、角度付き刃26により形成されるため、両側部に面取り部24Aが形成された構造となっている。尚、この時の基板51の切削深さをZ1とする。
【0084】上記の溝形成工程が終了後すると、続いて図5(D)に示すように、面取り部用溝の溝幅(図中、矢印Wで示す)より幅狭な寸法(図中、矢印Z2で示す)を有すると共に角度を有していない角度なし刃27Aを用い、図5(E)に示されるように面取り部用溝56の中央位置を切削する(切削工程)。この際、溝形成工程において、面取り部用溝56の形成位置には封止樹脂層22が存在しない構成となっている。よって、角度なし刃27Aによる切削は、基板51のみを切削する処理となる。これにより、切削工程において封止樹脂層22と基板51を同時に切削する必要がなくなり、切削処理を容易に行うことができる。」

(2)図5(A)から(F)まで
図5(A)から(F)までには,基板51の切断予定位置において,角度付き刃26を用いて封止樹脂層22を切除し,角度なし刃27Aを用いて基板51を切断することが示されている。


(3)刊行物4事項
以上の記載事項を,技術常識を踏まえて整理すると,刊行物4には次の技術的事項(以下,「刊行物4事項」という。)が記載されていると認める。
「基板51と,
基板51の突起電極23を封止する封止樹脂層22とを備え,
封止樹脂層22が基板51の切断予定位置において角度付き刃26を用いて除去され,角度なし刃27Aを用いて基板51を切断すること。」

3.対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると,刊行物1発明の「4つの空洞部5」が本願発明の「少なくとも1つの空洞」に相当することは明らかであり,以下同様に,「ウェハ1」が「基板」に相当し,「前面2」が「活性面」に相当し,「後面3」が「不活性面」に相当し,「接着剤7」が「接着剤」に相当し,「ダイヤフラム4」が「皮膜」に相当し,「マイクロメカニカル素子」が「MEMS部品」に相当する。
また,刊行物1発明の「シート6」と本件補正発明の「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」とは,「被覆部材」という点で共通する。

以上から,本願発明と刊行物1発明とは,以下の点で一致及び相違する。

<一致点B>
「少なくとも1つの空洞を有する基板と,
前記空洞が封止されている前記基板の活性面と,
前記基板の前記活性面の反対側に位置する不活性面と,
前記基板の前記不活性面上にあって前記基板を覆い,実質的にその全体を覆う接着剤により前記基板に貼り付けられている,被覆部材と,を備え,
前記空洞は,前記基板の前記活性面側が被膜によって封止されているMEMS部品。」

<相違点3>
本願発明は,被覆部材が「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」であるのに対して,刊行物1発明は,被覆部材が「シート6」である点。

<相違点4>
本願発明では,「カバーフィルムがMEMS部品の外側末端部分において除去されている」のに対して,刊行物1発明では,ウェハ1は,ソーによってダイシングされている点。

4.各相違点の判断
(1)相違点3について
本願明細書の段落【0016】を参照すると,本願発明のMEMS部品の用途として,マイクロフォンが示されている。
そして,刊行物2には,上記(1)イ.(オ)に示す刊行物2事項が記載されているということができるところ,上記相違点1に係る構成は,いずれも刊行物2事項に示されている。
より具体的にいえば,本願発明における「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」は,上記(1)イ.(ウ)に摘示するように刊行物2に記載されている。
上記第2.(1)イ.(ア)に示すように,刊行物2には,MEMSパッケージが密閉されたバックチャンバを有することができ,当該バックチャンバから生じる基準圧力により,相対的な圧力の相違を測定することが可能となり,このことは,MEMSパッケージを圧力センサやマイクロフォンとして使用する際に必要である旨の記載がある。
当該記載におけるバックチャンバは,上記第2.(1)イ.(ウ)に示す「これはカバーが、MEMSチップMCの上面で切り欠きを覆い、この際にバックチャンバを封じることによって行われる」という記載からみて,MEMSチップMC(本願発明でいう基板)の切り欠き(本願発明でいう空洞)をカバー(本願発明でいうカバーフィルム)で覆うことにより構成されるチャンバを含むものといえるところ,刊行物2におけるこれらの記載に接した当業者であれば,刊行物1発明も,基板の空洞部5をシート6で覆うことにより構成されるチャンバを有していることから,刊行物1発明も圧力センサやマイクロフォンとして使用できることを理解するはずであるし,そのような理解は,上記第2.(1)ア.(イ)に示すように,刊行物1発明の用途として圧力センサが記載されていることとも符合する。
当業者であれば,刊行物1発明の用途の多様化を図り,販路の拡大を企図することは当然であるから,刊行物1発明の用途として,圧力センサのほかにマイクロフォンが存在することを理解した当業者であれば,当然に刊行物1発明をマイクロフォンに適用しようと試みるはずである。
そして,刊行物2事項は,MEMS部品をマイクロフォンとして実施する際に,基板の不活性面をポリマーフィルムであるカバーフィルムで覆うことを示しているから,刊行物1発明をマイクロフォンとして実施する際に,刊行物2事項を適用することは,容易に想到し得る事項といえる。
以上から,刊行物1発明において,被覆部材を「ポリマーフィルムであるカバーフィルム」として構成することは,刊行物2の記載事項に基づいて,当業者が容易に想到できた事項である。

(2)相違点4について
上記第2.(1)ア.(オ)に示すように,刊行物1発明はマイクロメカニカル素子,すなわちMEMS部品であるところ,MEMS部品は,半導体装置の製造技術を応用した微細加工により構成されるものであることは,当業者にとって自明である。そして,上記2.(3)に示す刊行物4事項は,半導体装置の製造技術に関する技術的事項である。
また,上記第2.(1)ア.(ウ)に示すように,刊行物1には,基板として「シリコンウェハ」が示されている上に,上記第2.(1)ア.(オ)に示すように,刊行物1発明は,ソー,すなわち刃によって切断を行っている。
上記2.(3)に示すように,刊行物4事項には,封止樹脂層22が基板51の切断予定位置において角度付き刃26を用いて除去され,角度なし刃27Aを用いて基板51を切断することが示されており,半導体装置の製造技術に関する当該刊行物4事項に接した当業者であれば,刊行物1発明の基板をソー,すなわち刃によって切断する際に,その基板に貼り付けられている被覆部材を除去するように試みることは当然である。
以上から,刊行物1発明において,「カバーフィルムがMEMS部品の外側末端部分において除去されている」ように構成することは,刊行物4事項に基づいて,当業者が容易に想到できた事項である。

(3)作用効果について
本願発明が奏する作用や効果は,刊行物1発明並びに刊行物2及び4の記載事項から当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別のものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明並びに刊行物2及び4の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-11 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2010-543373(P2010-543373)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B81B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木 敬太  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 西村 泰英
刈間 宏信
発明の名称 MEMS部品、及びMEMS部品の製造方法  
代理人 毛受 隆典  
代理人 木村 満  
代理人 森川 泰司  

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