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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1307676
審判番号 不服2014-6257  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-04 
確定日 2015-11-10 
事件の表示 特願2009-538783「患者監視システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月 5日国際公開,WO2008/065402,平成22年 4月 8日国内公表,特表2010-510849〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年11月28日(パリ条約による優先権主張日 平成18年11月29日,平成19年8月30日,英国)を国際出願日とする出願であって,平成24年5月25日付けで拒絶理由が通知され,同年9月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年11月27日付けで最後の拒絶理由が通知され,平成25年3月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月17日付けで上記同年3月4日付けの手続補正書による補正について補正却下の決定がなされ,それと同日付で拒絶査定されたのに対し,平成26年4月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,補正前の請求項1及び6を,以下のように補正するものである。
「【請求項1】
少なくとも一つのロードセル素子を有する支持面上において、人が移動したと判定することにより実施される患者監視方法であって、前記移動が、人が支持面の基準位置にいる場合に、ロードセル素子によって測定された基準と、ロードセル素子によって測定された、前記基準に対するその後の荷重の差分の変動および前記変動の微分曲線とに基づいて判定され、
前記基準に対する前記荷重の変動の判定が、前記差分の絶対値を算出することによって正規化されるように構成され、
前記少なくとも一つのロードセル素子が、測定に用いるかどうか選択可能である、患者監視方法。」
「【請求項6】
支持面に対して取り付けられ、支持面上において人が移動したと判定するための移動検出システムであって、
支持面に対して取り付けられ、前記支持面における荷重を測定するための少なくとも一つのロードセル素子であって、前記少なくとも一つのロードセル素子が測定に用いるかどうか選択可能である、ロードセル素子と、
前記人が支持面の基準位置にいる場合に、ロードセル素子によって測定された荷重基準と、ロードセル素子によって測定された荷重との間の差分の変動および前記変動の微分曲線に基づいて移動を判定するための処理部材であって、前記基準に対する前記荷重の変動の判定が前記差分の絶対値を算出することによって正規化されるように構成される、処理部材と
を含む移動検出システム。」(下線は補正箇所を示す。)

2 新規事項について
上記請求項1についての補正には,「前記基準に対する前記荷重の変動の判定が、前記差分の絶対値を算出することによって正規化されるように構成され」ることが新たに特定されているが,
国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文の【0025】には,
「初回に測定された荷重を荷重基準とし、測定された次の荷重は荷重がどのように人の移動によって変動するかを説明する。測定された荷重は領域75の付近で増加し、これは、更に多くの荷重がロードセル素子に付加された位置まで人が移動したことを示すが、領域77において荷重が低減される。領域79において、荷重は人の小さな移動を示し、荷重基準のレベルに対して徐々に増加的に変動することを示す。荷重基準と現在の荷重との間の関係を判定することにより数値で人の移動を示すことができる。これは、現在の荷重から荷重基準を引いて数値的荷重差|LD|を算出することにより行われ、また図3bに示すように、結果の数値を採用してもよい。数値的荷重差|LD|が大きければ人の移動が多い。または、荷重基準を現在の荷重で除して移動指数を求めることができ、ただし、指数が1であれば、移動がないことを示す。」と記載され,
国際出願日における国際特許出願の図面Fig.3a及びFig.3bとして,以下の図面が記載されている。

上記【0025】及びその余の明細書の翻訳文には「正規化」との記載はないことから,一般的な技術常識を参酌するに,「正規化」とは,単純にはデータ等を一定のルールに基づいて,比較,演算などの操作のために望ましい性質を持った一定の形に変形し,利用しやすくすることであり,例えば,数量を代表値で割るなどして無次元量化し,互いに比較できるようにすることが含まれるものである。してみれば,上記補正事項における「差分の絶対値を算出することによって正規化される」ことが,「差分の絶対値を算出」した上で,算出された「差分の絶対値」に対して正規化処理を施すこととも解されるところであるが,国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(以下「当初明細書等」という。)には,「現在の荷重から荷重基準を引いて数値的荷重差を算出すること」及び「荷重基準を現在の荷重で除して移動指数を求めること」が記載されているのみで,「差分の絶対値を算出することによって正規化される」ことを示す記載はない。
請求人は審判請求書で,本件補正について「平成26年 4月 4日付け手続補正書に記載の補正事項は、出願当初の明細書の段落0016および0025に基づきます。」と説明するのみで,当初明細書等に記載されていない「正規化」について,何ら説明をしておらず,当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものと判断する根拠もない。してみれば,「差分の絶対値を算出することによって正規化される」ことについて,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。
これは,上記請求項6についての「差分の絶対値を算出することによって正規化される」ことについても同様である。
したがって,本件補正は,少なくとも上記点において当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものとはいえないことから,特許法第184条の12第2項により読み替える同法第17条の2第3項の規定を満たすものとはいえない。

3 独立特許要件について
上記2で指摘した「正規化」が単純に「差分の絶対値を算出する」ことであるとすると,請求項1及び6についての補正は,上記下線部の特定事項を付加するいわゆる限定的減縮を目的とする補正ともいえることから,請求項1及び6についての本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することになる。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(上記1の【請求項1】の記載参照。以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用刊行物及びその記載事項
ア 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2002-537901号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記においては,引用発明の認定等,その後に使用する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】病床に連結された少なくとも一つの第一のセンサであって、病床の支持面に掛けられた重量の変化に応じて可変な出力信号を有する少なくとも一つの第一のセンサと、
前記支持面の近傍に配置された少なくとも一つの第二のセンサであって、前記支持面上の前記身体の前記位置の変化に応じて可変な出力信号を有する少なくとも一つの第二のセンサと、
前記第一および第二のセンサからの各出力信号を受信すべく配置構成された入力を有する制御器であって、前記各出力信号を監視し、前記支持面に対する前記身体の位置の変化の表示を提供し、且つ、前記身体が前記支持面を退出したか否かの表示を提供する制御器と、を備える、病床の支持面上の身体の位置を検出する検出装置。」

(1-イ)「【0001】
発明の背景の概要
本発明は、病床(bed)用の患者位置検出装置に関する。より詳細には本発明は、病床の支持デッキ上の患者の位置に関する情報を介護人に対して提供し且つ患者が病床を退出した時点の表示を提供する複数の動作モードを有する病床退出および患者位置検出装置に関する。
【0002】
患者が病院もしくは他の患者療養所の病床に留まることが必要とされた場合、介護人としては病床支持面上の患者の存在、不存在および位置を監視して患者の活動レベルを監視し得るのが望ましい。この点、病院もしくは他の患者療養所内の介護人は常に、非常に多くの作業を行わねばならない。これらの作業のひとつは、病床に束縛される必要のある患者、又は、病床を退出したなら症状が低下もしくは悪化する可能性のある患者を監視することである。精神錯乱、衰弱もしくは見当識障害などの一定の患者特性を有する患者は、病床を退出すると傷害を受けもしくは再び傷害を受ける可能性が更に高い。故に一定の種類の医学的条件を有する患者に対しては、病床上における患者の存在と、支持面上の患者の位置の両方を監視することが必要である。この場合に本発明は、病床上で患者が移動して所定の位置を離れたときには病床を退出する前に警報を提供する。」

(1-ウ)「【0012】
前記図示実施例において、前記第一および第二のセンサは異なる形式のセンサである。前記少なくとも一つの第一のセンサは例示的に、荷重計もしくは他の適切なセンサである。前記少なくとも一つの第二のセンサは例示的に、抵抗型圧力センサ、静電容量式センサ、圧電センサ、または他の適切なセンサである。」

(1-エ)下記の図3において,70が第一のセンサ,第114,120,122,124が第二のセンサである。

(1-オ)「【0073】
図13において、前記病床外モードにおける前記患者位置検出システムの動作はブロック278で開始すべく示される。制御器50は、図9におけるブロック220からブロック278に進む。前記病床外モードにおいて制御器50は、ブロック280に示された如く患者の平均現在重量を検出する。たとえば制御器50は、各荷重計70から四つの読取値を取ると共に、それらを4で除算して平均現在重量を獲得し得る。次に制御器50は、ブロック282に示された如くメモリ51から記憶初期重量を読取る。ブロック284に示された如く、制御器50は記憶重量を現在重量から減算する。
【0074】
次に制御器286は、ブロック280で検出された病床10上の重量がブロック282で読取られた初期記憶重量と比較して13.6kg(30ポンド)よりも増加または減少したかを判断する。もし重量が13.6kg(30ポンド)よりも変化していなければ、ブロック294に示された如く前記制御器はブロック230へと戻る。もしブロック286にて重量が13.6kg(30ポンド)よりも変化していれば、ブロック288にて制御器50はタイマが満了したか否かを判断する。タイマが満了していなければ、ブロック294に示された如く前記制御器250はブロック230へと進む。ブロック288にてタイマが満了していれば、ブロック290にて制御器50はブロック284で計算された差分が13.6kg(30ポンド)未満かを判断する。もしそうであれば、ブロック292に示された如く制御器50は患者が病床10を退出したと判断し、ローカル警報器138、看護婦呼出警報器142を更新し、且つ、室内灯140を点灯し得る。次に制御器50はブロック294に示された如くブロック230へと戻る。
【0075】
ブロック290にて前記差分が-13.6kg(30ポンド)未満でなければ、ブロック296に示された如く制御器50はブロック284で計算された差分が13.6kg(30ポンド)より大きいか否かを判断する。もしそうであれば、ブロック298に示された如く制御器50は、病床に対して相当の付加的重量が加えられたと判断し、ローカル警報器138のみを更新する。所望であれば、看護婦呼出警報器142も起動され得る。次に制御器50は、ブロック294に示された如くブロック230へと進む。ブロック296にて前記差分が13.6kg(30ポンド)より大きくなければ、制御器50はブロック300にて前記ローカル警報器のみをクリアし且つブロック294に示された如くブロック230へと進む。
【0076】
前記病床外モードに対する13.6kg(30ポンド)の閾値は、患者の体重に依存して更に大きくもしくは更に小さく調節され得ることは理解される。換言すると、たとえばもし患者が特に高重量であれば、13.6kg(30ポンド)の閾値は増加され得る。
【0077】
所望であれば、本発明の患者検出装置は3つ以上の動作モードを有し得ることは理解される。別体の各モードは、異なる感度レベルを有し得る。
【0078】
本発明の病床外モードは、病床10における患者により作動状態とされる。この点、重量計(scale)を有する一定の病床においては病床退出検出器を作動状態とすべく、病床に患者が載る前に病床の無負荷重量を判断すべく患者は退去せねばならない。しかし本発明の病床外モードにおいては、病床退出検出システムを作動状態とする上で患者を病床から退去させる必要はない。
【0079】
本発明の患者位置検出システムは、患者が病床を退出したときにのみ警報が生成されるという通常の病床退出システムから、患者が病床の中央部分から離間移動したときに警報が生成されるという予期的な病床退出システムへと、迅速に切換え可能である。本発明の実施例において、第一および第二のセンサ群70および104からの出力信号は、病床10もしくは遠隔箇所にて監視かつ記憶され、患者の移動を記録する。制御器50または遠隔箇所における制御器は、センサ出力値を監視して患者が病床10上で移動しているか否かを判断する。」

してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「病床に連結された少なくとも一つの第一のセンサであって,病床の支持面に掛けられた重量の変化に応じて可変な出力信号を有する少なくとも一つの第一のセンサと,前記支持面の近傍に配置された少なくとも一つの第二のセンサであって,前記支持面上の患者の前記位置の変化に応じて可変な出力信号を有する少なくとも一つの第二のセンサと,前記第一および第二のセンサからの各出力信号を受信すべく配置構成された入力を有する制御器であって,前記各出力信号を監視し,前記支持面に対する前記患者の位置の変化の表示を提供し,且つ,前記患者が前記支持面を退出したか否かの表示を提供する制御器と,を備える,病床の支持面上の患者の位置を検出する検出装置を用いて,患者が病床上で移動しているか否かを判断する方法であって,
第一および第二のセンサからの出力信号は,病床もしくは遠隔箇所にて監視かつ記憶され,患者の移動を記録し,制御器または遠隔箇所における制御器は,センサ出力値を監視し,
第一および第二のセンサからの出力信号によって検出された病床上の重量が初期記憶重量と比較して閾値(13.6kg(30ポンド))よりも増加または減少したかを判断することを含む,方法。」(以下「引用発明」という。)

イ 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-325409号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記においては,下線は当審において付与した。
(2-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ベッドの複数カ所の支持部のうち、少なくとも2以上の前記各支持部に加わる荷重を別々に検出する複数個の荷重検出手段と、
前記複数個の荷重検出手段によって検出された複数個の検出荷重値を利用して、前記ベッド上における対象物の位置を特定する位置特定手段とを備えたことを特徴とする位置特定装置。
・・・」
【請求項7】前記対象物は人間であって、
前記位置特定手段によって、前記人間が前記ベッド上の端寄りに位置していると特定された場合、警告を発する警告手段を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の位置特定装置。
【請求項8】所定の第1タイミングにおいて前記2個の荷重検出手段のうちの一方によって検出された検出荷重値と、前記第1タイミングから所定時間後の第2タイミングにおいて前記一方の荷重検出手段によって検出された検出荷重値との、時間変化率を第1時間変化率とし、
前記第1タイミングにおいて前記2個の荷重検出手段のうちの他方によって検出された検出荷重値と、前記第2タイミングにおいて前記他方の荷重検出手段によって検出された検出荷重値との、時間変化率を第2時間変化率としたとき、
前記警告手段は、前記第1時間変化率、および/または前記第2時間変化率に基づいて、異なる種類の警告を発することを特徴とする請求項7記載の位置特定装置。」

(2-イ)「【0006】本発明は、このような問題に鑑み、被介護者がベッドから転落するというような事故を未然に防ぐために、人間等の対象物のベッド上における位置を特定する位置特定装置と、その位置特定装置によって、人間がベッドの端寄りに位置していると特定された場合に警告を発する警告システムとを提供することを目的とするものである。」

(2-ウ)「【0046】図7を用いて、さらに第1時間変化率を説明する。図7は、検出荷重値18aが時間の経過とともに変化する様子を示す図である。ここで、説明を簡単にするために、被介護者1がベッドサイドに位置していると特定されたときの検出荷重値18aの検出タイミングをN回目の検出タイミングとし、それよりも1回前の検出タイミングを(N-1)回目の検出タイミングとし、N回目の検出荷重値18aをV_(n)とし、(N-1)回目の検出荷重値18aをV_(n-1)とし、(N-1)回目とN回目との時間間隔をtとすると、第1時間変化率は(V_(n)-V_(n-1))/tと表される。ここで、(V_(n)-V_(n-1))/tを△V_(1)と表現すると、第1時間変化率は△V_(1)と表現することができる。同様に、第2時間変化率を△V_(2)と表現する。
【0047】位置特定手段13は、第1時間変化率△V_(1)と、第2時間変化率△V_(2)とが変化率算出手段20によって求められた後、図8に示すように、あらかじめ設定されているしきい値V_(t)と、第1時間変化率△V_(1)とを比較する。なお、図1に示すように、荷重検出手段12aと12bとが対称な位置に設置されているので、第1時間変化率△V_(1)の絶対値と第2時間変化率△V_(2)の絶対値とは実質上等しくなる。また、しきい値V_(t)は正の定数であるとする。
【0048】さて、位置特定手段13は、荷重検出手段12aが設置されている側のベッド11の長さが短い方向のベッドサイドに、被介護者1が位置していると特定したとき、図8に示すように、第1時間変化率△V_(1)としきい値V_(t)とを比較した結果、第1時間変化率△V_(1)の方がしきい値V_(t)よりも大きいと判断したときは、被介護者1が所定の速度よりも速い速度でベッドサイドに移動したものと判断し、「直ちに転落する可能性あり」という内容を記録する。なぜ、「所定の速度よりも速い速度でベッドサイドに移動した」と判断したのかというと、第1時間変化率△V_(1)は検出荷重値18aの変化率であって、検出荷重値18aは荷重検出手段12aによって検出された値であり、かつしきい値V_(t)が正の値であるので、第1時間変化率△V_(1)がしきい値V_(t)よりも大きいということは、荷重検出手段12aに加わる荷重が急に大きくなったことを意味するからである。それに対して、しきい値V_(t)と第1時間変化率△V_(1)とを比較した結果、第1時間変化率△V_(1)がしきい値V_(t)以下であるときは、位置特定手段13は、被介護者1が所定の速度以下の速度でベッドサイドに移動したか、ベッドサイドの所定の位置に実質上動かずにいたか、ベッドのより端側から正規在床領域側に移動したものと判断し、「直ちには転落する可能性はない」という内容の情報を記録する。」

(2-エ)「【0051】具体的には、位置特定手段13は、「正規在床領域に位置している」ことを特定した場合、警告情報を出力せず、「離床している」と判断した場合、その旨の第1の警告情報19aを出力する。また、「直ちに転落する可能性あり」という内容を記録した場合、位置特定手段13は、その旨の第2の警告情報19bを出力し、「直ちに転落する可能性あり」という内容を記録した場合、その旨の第3の警告情報19bを出力する。
【0052】その後、第1警告手段14は位置特定手段13から直接、第2警告手段16は出力手段15を介して、位置特定手段13が出力した警告情報19を入力すると、その警告情報19の内容に応じて、異なる種類の警告音を発する。このように、異なる種類の警告音が発せられると、介護者および/または看護士は、ベッド11上における被介護者1のより正確な移動状態を把握することができる。したがって、転落事故を未然に防ぐ確率が高くなる。なお、第1警告手段14および第2警告手段16は、警告情報19の内容に応じて、異なる種類の光学的な警告表示を行うとしてもよい。」

(2)対比・判断
ア 対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「病床の支持面」は,補正発明の「支持面」に相当する。
補正発明の「支持面」が「有する」「少なくとも一つのロードセル素子」について,本願明細書の【0015】?【0016】に「図1に示すように、ベッドは患者を支持する矩形のフレーム10を含む。フレーム10自体は本発明の一部ではなく従来のものであるので、詳細な説明を省略する。フレーム10は一般に、患者の寝る所であるマットレスパッドを支持するものである。本実施例では、フレーム10のそれぞれのコーナーにある4つのロードセル素子12により従来の方法で支持されるベッドフレーム10に関して本発明を説明したが、本発明はその他のベッドフレームとロードセル素子の配置にも同様に適用される。」と記載され,具体的にはベッドフレーム等に配置させるものであり,ロードセル素子の種類としては,本願明細書の【0021】に「ロードセル素子は表面における荷重の測定に適用されるいずれの部材であってもよく、例えば、圧電センサ、ひずみゲージやその類似のものが挙げられる。」と記載されている。
一方,引用発明の「第一のセンサ」及び「第二のセンサ」は,摘記(1-ウ)に記載のとおり補正発明の「ロードセル素子」に相当するものであり,それらは「病床に連結された」,「前記支持面の近傍に配置された」もので,具体的には摘記(1-エ)の図3のように配置されるものであり,それぞれフレーム,支持面に配置されているといえる。
してみれば,「病床に連結された少なくとも一つの第一のセンサ」及び「病床の支持面」「の近傍に配置された少なくとも一つの第二のセンサ」は,補正発明の「支持面」が「有する」「少なくとも一つのロードセル素子」に相当する。

(イ)引用発明の方法は,摘記(1-イ)に「病床上における患者の存在と、支持面上の患者の位置の両方を監視することが必要である。この場合に本発明は、病床上で患者が移動して所定の位置を離れたときには病床を退出する前に警報を提供する。」と記載されているとおり,引用発明において「支持面に対する前記患者の位置の変化の表示を提供し,且つ,前記患者が前記支持面を退出したか否かの表示を提供する」「検出装置検出装置を用いて,患者が病床上で移動しているか否かを判断する」ことで,結果的に補正発明と同じように「患者監視」を「実施」しているといえる。
してみれば,引用発明の「支持面に対する前記患者の位置の変化の表示を提供し,且つ,前記患者が前記支持面を退出したか否かの表示を提供する」「検出装置検出装置を用いて,患者が病床上で移動しているか否かを判断する」ことは,補正発明の「支持面上において、人が移動したと判定することにより」「患者監視」を「実施」することに相当する。

(ウ)補正発明の「人が支持面の基準位置にいる場合に、ロードセル素子によって測定された基準」について,本願明細書の【0019】に「前記方法は人がベッドにおいて基準位置にいる場合に、ロードセル素子12によって荷重基準を測定する工程31を含む。荷重基準を測定するロードセル素子から基準信号を受信することにより荷重基準を取得する。」,そして【0025】に「初回に測定された荷重を荷重基準とし」と記載されていることから,初回に測定された荷重を補正発明の「基準」としている。してみれば,引用発明の「初期記憶重量」は,補正発明の「人が支持面の基準位置にいる場合に、ロードセル素子によって測定された基準」に相当する。
また,引用発明の「検出された病床上の重量」は,補正発明の「ロードセル素子によって測定された」「その後の荷重」に相当するものであり,それは「監視」に使用されるものであるから,経時的に検出されるものである。
さらに,「検出された病床上の重量が初期記憶重量と比較して閾値(13.6kg(30ポンド))よりも増加または減少したかを判断する」ことは,「検出された病床上の重量」と「初期記憶重量」の比較による判断のために「増加分」及び「減少分」としての「閾値」を設定することであるから,「検出された病床上の重量」と「初期記憶重量」の差分の絶対値をとって「閾値(13.6kg(30ポンド))」と比べて判断することといえ,ここで,「病床上の重量」の「検出」は上記のとおり経時的に行われるものであるから,「検出された病床上の重量」と「初期記憶重量」の差分は経時的に変動することになる。
そして,補正発明の「正規化」は,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとして扱うなら,上記のとおり単純に「差分の絶対値を算出する」ことに他ならないものと解されるものである。
してみれば,引用発明の「第一および第二のセンサからの出力信号によって検出された病床上の重量が初期記憶重量と比較して閾値(13.6kg(30ポンド))よりも増加または減少したかを判断する」ことにより「患者が病床上で移動しているか否かを判断する」ことと,補正発明の「移動が、人が支持面の基準位置にいる場合に、ロードセル素子によって測定された基準と、ロードセル素子によって測定された、前記基準に対するその後の荷重の差分の変動および前記変動の微分曲線とに基づいて判定され、前記基準に対する前記荷重の変動の判定が、前記差分の絶対値を算出することによって正規化されるように構成」されることとは,「移動が,人が支持面の基準位置にいる場合に,ロードセル素子によって測定された基準と,ロードセル素子によって測定された,前記基準に対するその後の荷重の差分の変動に基づいて判定され,前記基準に対する前記荷重の変動の判定が,前記差分の絶対値を算出することによって正規化されるように構成」されることの点で共通するといえる。

(エ)補正発明の「少なくとも一つのロードセル素子が、測定に用いるかどうか選択可能である」ことについて,本願明細書の【0016】に「従来の秤量システムとロードセル素子12の中の少なくとも一つを前記患者監視システムに用いることができることは、本発明によい。これにより、従来の秤量システムがさらに患者監視システムとして用いられる。」と記載されるのみであり,従来の秤量システムがどのようなシステムか明確でないものの,この従来の秤量システムの構成が発明特定事項とされていない補正発明においては,センサが複数ある場合において「少なくとも一つ」を選択可能であるとしか解されない。
してみれば,引用発明の「第一のセンサ」及び「第二のセンサ」は,「少なくとも一つの第一のセンサ」及び「少なくとも一つの第二のセンサ」であり,センサが複数ある場合において「少なくとも一つ」を選択できるものであるから,補正発明の「測定に用いるかどうか選択可能である」「少なくとも一つのロードセル素子」に相当する。

(オ)してみれば,補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「少なくとも一つのロードセル素子を有する支持面上において、人が移動したと判定することにより実施される患者監視方法であって、前記移動が、人が支持面の基準位置にいる場合に、ロードセル素子によって測定された基準と、ロードセル素子によって測定された、前記基準に対するその後の荷重の差分の変動および前記変動の微分曲線とに基づいて判定され、
前記基準に対する前記荷重の変動の判定が、前記差分の絶対値を算出することによって正規化されるように構成され、
前記少なくとも一つのロードセル素子が、測定に用いるかどうか選択可能である、患者監視方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
人の移動の判定が,補正発明では,荷重の差分の変動および「前記変動の微分曲線」に基づいて行われるのに対し,引用発明では「前記変動の微分曲線」について特定されていない点。

イ 当審の判断
(ア)相違点について
引用例2に記載されている技術は,ベッドの上の被介護者(引用発明における「患者」)の位置を特定して警告を発するものであり,複数個の荷重検出手段(引用発明の「センサ」)によって検出された複数個の検出荷重値を利用して,前記ベッド上における被介護者の位置を特定するとともに,検出荷重値の時間変化率ΔVを閾値V_(t)と比較して,ΔVがV_(t)より大きい場合には被介護者が所定の速度より早い速度で移動したものと判断し,直ちに転落する可能性ありとの警告を出し,ΔVがV_(t)より以下である場合には,被介護者が所定の速度以下の速度でベッドサイドに移動したか,ベッドサイドの所定の位置に実質上動かずにいたか,ベッドのより端側から正規在床領域側に移動したものと判断することにより,ベッド上における被介護者のより正確な移動状態を把握することができ,転落事故を未然に防ぐ確率が高くなることが記載されている。ここで,上記時間変化率ΔVは微分値に相当するものであり,ある時点における時間変化率ΔV(微分値)で上記判断を行うことは,結局のところ,微分曲線のある時点における微分値で判断することであるから,補正発明の「微分曲線に基づいて」判断することに他ならない。
引用発明は,「前記支持面に対する前記患者の位置の変化の表示を提供し、且つ、前記身体が前記支持面を退出したか否かの表示を提供する」ものであるが,身体が病床(ベッド)から転落することは退出することでもあり,引用発明は,引用例1の摘記(1-イ)に「病床上で患者が移動して所定の位置を離れたときには病床を退出する前に警報を提供する」と記載されているとおり,患者がベッドの支持面を退出する前に警報を提供する必要があるものであるから,支持面に対する患者の位置の変化だけでなく,患者の移動の速さでも判断した方が,より患者の正確な移動状態を把握することができるようになることは明らかである。
してみれば,引用発明において,患者のより正確な移動状態を把握するべく,上記引用例2記載の技術を参照して,支持面に対する患者の位置の変化だけでなく,患者の移動の速さでも判断すること,すなわち微分曲線に基づいて判断することは当業者が容易に想到することであり,その際,引用発明においては「検出された病床上の重量」と「初期記憶重量」の差分の変動の微分曲線に基づいて判断することとなる。
よって,引用発明において,患者のより正確な移動状態を把握するべく,患者の移動を本願発明のように「基準に対するその後の荷重の差分の変動および前記変動の微分曲線」とに基づいて判定をすることは当業者が容易になし得たことである。

(イ)効果について
本願明細書では,補正発明における「微分曲線」について,
「【0027】
支持面にいる人の移動は、図3aや図3bに示したグラフを微分することにより判定されてもよい。移動の活動度は微分曲線によって判定されてもよい。微分曲線の多数のゼロ交差は人が位置を頻繁に変えることを示している。また、大きな微分曲線は人が位置を迅速に変えることを示している。」と記載されるのみであり,「基準に対するその後の荷重の差分の変動」および「前記変動の微分曲線」の両者を用いて判定を行うことの具体的な記載はないことから,「基準に対するその後の荷重の差分の変動」および「前記変動の微分曲線」の両者を用いて判定を行うことによる効果が格別顕著なものであると判断する余地はない。

(ウ)請求人の主張
請求人は,審判請求書の請求の理由で,
「本願発明は、患者の移動方向に依存しない荷重の変動の判定、およびロードセル素子の設置位置に依存しない(すなわち、必ずしもベッドのコーナーに設置する必要がない)患者の治療と健康状態に応じた適切かつ自由度の高い患者の行動監視を実現できます。
一方、引用文献1および2のいずれも、患者がベッドから離床したことを検出することに関する発明にすぎず、患者の治療や健康状態に応じて患者の支持面上の移動を検出することを目的としていません。そのため、引用文献1および2は、患者がベッドから離床したことを検出する実施形態しか具体的に開示していません。
さらに、引用文献1および2は、センサをベッドのコーナーに設置することを前提にしており、このように設置位置に依存したセンサを用いて患者の離床を検出する患者位置検出システムを開示しているにすぎません。」と主張しているものの,補正発明の具体例では(上記(2)ア(ア)で摘記した本願明細書の【0016】参照)ロードセル素子をコーナーに設置しており,逆に,引用文献1(上記引用例1)ではコーナーに設置していないセンサも記載されている(上記摘記(1-エ)の図3参照)。さらに,引用文献1及び2(上記引用例2)とも,患者の支持面上の移動を検出することにより監視を行っており,これらの事項は請求人の主張と矛盾するものといえるから,請求人の主張は当を得たものではない。

(3)小括
したがって,補正発明は,引用発明及び引用例2に記載されている事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
本件補正は,上記2のとおり,特許法第184条の12第2項により読み替える同法第17条の2第3項の規定を満たすものではない。
また,本件補正が,同法第17条の2第3項の規定を満たし,同法17条の2第5項第2号に掲げる目的とする補正としても,上記3のとおり,同法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
よって,本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?7に係る発明は,平成24年9月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも一つのロードセル素子を有する支持面上において、人が移動したと判定することにより実施される患者監視方法であって、前記移動が、人が支持面の基準位置にいる場合に、ロードセル素子によって測定された基準と、ロードセル素子によって測定された、前記基準に対するその後の荷重の差分の変動および前記変動の微分曲線とに基づいて判定される患者監視方法。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1及び2の記載事項は,上記第2の3(1)に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記第2の3で記載したとおり,補正発明は,本願発明にさらに限定事項(上記第2の1の【請求項1】における下線部)を追加したものであるから,本願発明は,補正発明からその限定事項を省いた発明といえる。その補正発明が,前記第2の3(2)に記載したとおり,引用発明及び引用例2に記載されている事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用例2に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2015-06-08 
結審通知日 2015-06-15 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2009-538783(P2009-538783)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 561- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 年彦石井 哲  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 三崎 仁
平田 佳規
発明の名称 患者監視システム  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

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