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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05D
管理番号 1307712
審判番号 不服2014-24440  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-01 
確定日 2015-11-12 
事件の表示 特願2013-138451「液滴塗布方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-240788〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判請求に係る特許出願は、平成20年9月19日に出願した特願2008-240534号の一部を平成25年7月1日に新たな特許出願としたものであって、平成26年9月1日付で拒絶査定され、これに対し、同年12月1日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正書で特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がなされたものである。

2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年12月1日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
第1の検出工程で基準位置との相対位置関係で検出するものを「他の液滴の着弾位置」から「残りの他の液滴の着弾位置」に、第2検出工程で「前記新たな液滴の着弾位置を、前記第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴の着弾位置との相対位置関係を求めることで、前記基準位置に対する位置として検出する」としていたものを「前記新たな液滴全てについて、各液滴の着弾位置の、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置に対する相対位置関係を求め、この求めた相対位置関係と、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置と前記基準位置との相対位置関係から、前記新たな液滴全ての着弾位置を検出する」ものと補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1検出工程」について、基準位置との相対位置関係で検出する対象を「残りの他の液滴の着弾位置」と明確化するとともに、同じく請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第2検出工程」における液滴の着弾位置の検出の方法について、「前記新たな液滴全てについて、各液滴の着弾位置の、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置に対する相対位置関係を求め、この求めた相対位置関係と、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置と前記基準位置との相対位置関係から、前記新たな液滴全ての着弾位置を検出する」と限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

本願補正発明は以下のとおりである。
「塗布ヘッドに設けたノズルから吐出される液滴を基板上の多数位置に着弾させて塗布する液滴塗布方法において、
撮像装置の撮像視野を前記基板上の複数個の液滴を含む第1の撮像範囲に位置付け、前記第1の撮像範囲において前記撮像装置により撮像された複数個の液滴の画像を画像処理装置により画像処理することにより、前記複数個の液滴の内、少なくとも1つの液滴の着弾位置を基準位置とし、残りの他の液滴の着弾位置は前記基準位置との相対位置関係からそれぞれ検出する第1の検出工程と、
前記基板と前記撮像装置の相対移動により、前記撮像装置の次の撮像範囲を、前記第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴と前記第1の撮像範囲に含まれていなかった新たな液滴を含む第2の撮像範囲とし、この第2の撮像範囲において前記撮像装置により撮像された液滴の画像を前記画像処理装置により画像処理することにより、前記新たな液滴全てについて、各液滴の着弾位置の、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置に対する相対位置関係を求め、この求めた相対位置関係と、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置と前記基準位置との相対位置関係から、前記新たな液滴全ての着弾位置を検出する第2の検出工程とを有することを特徴とする液滴塗布方法。」

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-130383号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。
(イ)「液滴吐出ヘッドのノズルから吐出された液滴が被検査物上に着弾して得られたドットの位置ずれを検出するドットずれ検出方法であって、前記被検査物上に形成されたドット列の電子画像を取得する画像取得ステップと、前記電子画像を画像処理することにより、前記ドット列に略平行な方向をX軸方向とし、該X軸方向に直交する方向をY軸方向としたときの各ドットの中心のX座標およびY座標を取得するドット座標取得ステップと、前記各ドットの中心のX座標およびY座標に基づいて最小二乗法により第1の基準直線を決定する第1の基準直線決定ステップと、前記第1の基準直線と前記各ドットの中心との距離を求めることにより、前記Y軸方向への前記各ドットの位置ずれ量に関する情報を取得するY軸方向ずれ量取得ステップとを備えることを特徴とするドットずれ検出方法。」(請求項1)
(ロ)「前記画像取得ステップにおいては、前記被検査物とカメラとの相対位置を前記ドット列に沿って変えながら複数の電子画像を撮影し、前記ドット座標取得ステップにおいては、前記複数の電子画像の座標系を統合することにより、撮影した全ドットの座標を一つの座標系に統合する請求項1または2に記載のドットずれ検出方法。」(請求項3)
(ハ)「前記画像取得ステップにおいては、前記複数の電子画像を撮影する際、相隣接する二つの画像中に同一のドットが少なくとも一つ含まれるように撮影を行い、前記ドット座標取得ステップにおいては、相隣接する二つの画像中に共通に含まれるドットの座標が同じになるようにして両画像の座標系を統合することにより、前記複数の電子画像の座標系を統合する請求項3に記載のドットずれ検出方法。」(請求項4)
(ニ)「本発明は、液滴吐出ヘッドのノズルから吐出された液滴が被検査物に着弾して得られたドットの位置ずれを検出するドットずれ検出方法およびドットずれ検出装置に関する。」(段落[0001])
(ホ)「本発明の目的は、液滴吐出ヘッドのノズルから吐出された液滴が被検査物に着弾して得られたドットの位置ずれを、簡単かつ迅速に検出することができるドットずれ検出方法およびドットずれ検出装置を提供することにある。」(段落[0006])
(ヘ)「本発明のドットずれ検出方法では、前記画像取得ステップにおいては、前記被検査物とカメラとの相対位置を前記ドット列に沿って変えながら複数の電子画像を撮影し、前記ドット座標取得ステップにおいては、前記複数の電子画像の座標系を統合することにより、撮影した全ドットの座標を一つの座標系に統合することが好ましい。これにより、撮影写野が限られるカメラを用いてドット列の電子画像を取得する場合であっても、長いドット列に対してドットの位置ずれを簡単かつ正確に検出することができる。
本発明のドットずれ検出方法では、前記画像取得ステップにおいては、前記複数の電子画像を撮影する際、相隣接する二つの画像中に同一のドットが少なくとも一つ含まれるように撮影を行い、前記ドット座標取得ステップにおいては、相隣接する二つの画像中に共通に含まれるドットの座標が同じになるようにして両画像の座標系を統合することにより、前記複数の電子画像の座標系を統合することが好ましい。これにより、撮影写野が限られるカメラを用いてドット列の電子画像を取得する場合であっても、長いドット列に対してドットの位置ずれを簡単かつ正確に検出することができる。」(段落[0009]?[0010])
(ト)「なお、本発明において、液滴吐出装置(インクジェット描画装置)とは、文字・画像等を印刷する通常のインクジェットプリンタだけでなく、工業用の液滴吐出装置(例えば液晶表示装置、有機EL装置、電子放出装置、PDP装置、電気泳動表示装置等の製造に用いるようなもの)をも含む概念である。また、液滴吐出ヘッドが吐出する液体(分散液を含む)としては、特に限定されるものではなく、例えば、インク、カラーフィルタのフィルタ材料、・・・が挙げられる。」(段落[0021])
(チ)「図1に示すように、このドットずれ検出装置1は、平板状またはシート状の被検査物20(例えば、ガラス基板、金属板、合成樹脂シート、紙等)を保持する検査テーブル2と、検査テーブル2の上方に水平方向(X軸方向、Y軸方向)および上下方向(Z軸方向)に移動可能に設けられたカメラ3と、カメラ3を水平方向および上下方向に移動させる移動手段4とを備えている。」(段落[0022])
(リ)「図3に示すように、ドットずれ検出装置1は、さらに、画像処理手段23と、出力手段としてのディスプレイ24および外部記憶装置25とを有している。画像処理手段23は、カメラ3により撮像されたドット列22の電子画像を画像処理することにより、各ドット21の座標を取得したり、各ドット21の面積を測定したりする機能を有している。」(段落[0026])
(ヌ)「図6は、本発明のドットずれ検出方法を示すフローチャートである。以下、上述したドットずれ検出装置1により実施されるドットずれ検出方法の各ステップを順次説明する。
[1]画像取得ステップ
まず、ドットずれ検出装置1は、被検査物20上に形成されたドット列22の電子画像を取得する。この際、カメラ3が画像取得手段として機能する。この画像取得ステップにおいては、ドット列22がX軸方向にほぼ平行となるような姿勢で、被検査物20を検査テーブル2上に保持する。そして、移動手段4のX軸方向移動手段7およびY軸方向移動手段8を駆動させて、カメラ3を被検査物20上のドット列22の上方に位置決めし、Z軸方向移動手段6を駆動させてカメラ3を垂直方向に移動させ、カメラ3の焦点を被検査物20上のドット列22に合わせ、焦点が合った位置にカメラ3を固定する。
図7に示すように、本実施形態では、カメラ3の撮影写野30には、5個のドット21までしか入らない。そこで、ドット列22全体の電子画像を得るために、X軸方向移動手段7を作動してカメラ3をX軸方向に移動することにより、被検査物20とカメラ3との相対位置をドット列22に沿って変えながら複数回の撮影を行う。1回目(1枚目)の撮影では、図中の左から5個目までのドット21を撮影する。
次いで、カメラ3をドット列22に沿ってドット間隔の4倍、すなわち、ノズルピッチSの4倍の距離だけX軸方向(図中右方向)に移動させて、2回目の撮影を行う。これにより、図8に示すように、カメラ3の撮影写野30には、図中の左から5?9個目の5個のドット21が入る。すなわち、図中aで示す左から5個目のドット21は、1回目に撮影した画像と、2回目に撮影した画像との両方に含まれる。
同様にして、カメラ3をドット列22に沿って移動させながら、3回目以降の撮影を行い、ドット列22全体を撮影できるまで、撮影を繰り返す。この際、相隣接する二つの画像中に同一のドットが一つ含まれるように撮影を行う。なお、本発明では、相隣接する二つの画像中に同一のドットが二つ以上含まれるように撮影を行ってもよい。このようにしてカメラ3により撮像された複数枚の電子画像の画像データは、画像処理手段23が備える記憶部231に取り込まれる。
[2]ドット座標取得ステップ
ドット座標取得ステップにおいては、画像処理手段23は、カメラ3により撮像された各電子画像を画像処理することにより、各ドット21の中心211を求め、各ドット21の中心211のX座標およびY座標を決定する。次いで、カメラ3のレンズ等の光学系の収差(例えば糸巻き型歪曲収差、樽型歪曲収差等)に基づく歪を補正する処理を施す。・・・なお、カメラ3の収差に基づく歪が小さく、誤差が少ないときは、この補正処理を行わなくてもよい。
各画像について各ドット21の中心211のX座標およびY座標を決定したら、複数の画像の座標系を統合することにより、撮影した全ドット21の座標を一つの座標系に統合する。この座標系の統合は、相隣接する二つの画像中に共通に含まれるドット21の座標が同じになるような座標変換を施すことによって行うことができる。例えば、1枚目の撮影画像(図7)と2枚目の撮影画像(図8)の座標系を統合する場合には、両画像に共通に含まれる図中aで示すドット21の中心211の座標が同じになるように座標変換をすればよい。
これにより、図9に示すように、ドット列22の全ドット21の中心211の座標を一つのXY座標系に統合することができる。以下の説明では、このようにして統合された座標系における、図中で左からi番目にあるドット21の中心211の座標を(xi,yi)と表す。なお、ドットずれ検出装置1では、画像処理手段23および制御手段10が、以上説明したドット座標取得ステップを実行するドット座標取得手段として機能する。」(段落[0032]?[0038])

これらの記載によれば、引用文献には、
「液滴吐出ヘッドのノズルから吐出された液滴を、ガラス基板等の平板状またはシート状の被検査物上に着弾させてドット列を形成する方法であって、液滴吐出ヘッドのノズルから吐出された液滴が被検査物上に着弾して得られたドットの位置ずれを検出するため、被検査物上に形成された複数個のドットからなるドット列をカメラで撮影して電子画像を取得する画像取得ステップと、画像取得ステップで取得した各電子画像を画像処理手段で画像処理することにより、ドット列の各ドットの中心のX座標およびY座標を取得するドット座標取得ステップとを有し、前記画像取得ステップでは被検査物とカメラとの相対位置をドット列に沿って相隣接する二つの画像中に同一のドットが少なくとも一つ含まれるように変えて複数の電子画像の撮影を行い、前記ドット座標取得ステップでは、複数の各電子画像中のすべてのドットの中心の座標を取得した後、相隣接する二つの画像中に共通に含まれるドットの座標が同じになるように座標変換して両画像の座標系を統合することにより、すべてのドットの座標を取得する方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「液滴吐出ヘッド」は、液滴を吐出して着弾させドット列を形成することで印刷等をするものである(上記(2)(ト))から、本願補正発明の「塗布ヘッド」に相当し、同じく「ノズル」、「ガラス基板等の平板状またはシート状の被検査物」はそれぞれ「ノズル」、「基板」に相当する。
そして、液滴を着弾させて「ドット列を形成する」ことは、液滴を多数位置に着弾させて「塗布する」ことに相当するから、引用発明の「液滴吐出ヘッドのノズルから吐出された液滴を、ガラス基板等の平板状またはシート状の被検査物上に着弾させてドット列を形成する方法」は、本願補正発明の「塗布ヘッドに設けたノズルから吐出される液滴を基板上の多数位置に着弾させて塗布する液滴塗布方法」に相当する。

同じく液滴が被検査物上に着弾して得られた「ドット」は、「液滴」に相当し、同じく「カメラ」、「電子画像」は「撮像装置」、「画像」に相当する。
また、引用発明は、「画像取得ステップ」において、「被検査物とカメラとの相対位置をドット列に沿って相隣接する二つの画像中に同一のドットが少なくとも一つ含まれるように変えて複数の電子画像の撮影を行」うものであり、相隣接する二つの画像中に同一のドットが少なくとも一つ含まれるように撮影する際の時間的に相前後する2つの電子画像の撮影において、カメラの撮影範囲が二つの画像中に含まれる同一のドットに加え他のドットを含むように、それぞれ位置付けを行っていることは明らかであるから、引用発明の「画像取得ステップ」は、「撮像装置の撮像視野を基板上の複数個の液滴を含む第1の撮像範囲に位置付け、前記第1の撮像範囲において前記撮像装置により撮像」している限りにおいて「第1の検出工程」に相当し、また、「基板と撮像装置の相対移動により、撮像装置の次の撮像範囲を、第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴と前記第1の撮像範囲に含まれていなかった新たな液滴を含む第2の撮像範囲とし、この第2の撮像範囲において前記撮像装置により撮像」している限りにおいて「第2の検出工程」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「塗布ヘッドに設けたノズルから吐出される液滴を基板上の多数位置に着弾させて塗布する液滴塗布方法において、撮像装置の撮像視野を前記基板上の複数個の液滴を含む第1の撮像範囲に位置付け、前記第1の撮像範囲において前記撮像装置により撮像する第1の検出工程と、前記基板と前記撮像装置の相対移動により、前記撮像装置の次の撮像範囲を、前記第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴と前記第1の撮像範囲に含まれていなかった新たな液滴を含む第2の撮像範囲とし、この第2の撮像範囲において前記撮像装置により撮像する第2の検出工程とを有する液滴塗布方法」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:本願補正発明は、第1の検出工程において、「第1の撮像範囲において撮像装置により撮像された複数個の液滴の画像を画像処理装置により画像処理することにより、前記複数個の液滴の内、少なくとも1つの液滴の着弾位置を基準位置とし、残りの他の液滴の着弾位置は前記基準位置との相対位置関係からそれぞれ検出」し、第2の検出工程において、「第2の撮像範囲において撮像装置により撮像された液滴の画像を画像処理装置により画像処理することにより、新たな液滴全てについて、各液滴の着弾位置の、第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴の着弾位置に対する相対位置関係を求め、この求めた相対位置関係と、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置と前記基準位置との相対位置関係から、前記新たな液滴全ての着弾位置を検出」しているのに対し、引用発明では、画像取得ステップで取得した各電子画像を画像処理手段で画像処理することにより、ドット列の各ドットの中心のX座標およびY座標を取得するドット座標取得ステップを有するとともに、複数の電子画像中のドット(液滴)すべての着弾位置の座標を求めた後、相隣接する二つの画像中に共通に含まれるドット(液滴)の座標が同じになるように座標変換して両画像の座標系を統合しているものの、本願補正発明のような構成とはなっていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用発明のドット座標ステップは、画像取得ステップで取得した各電子画像を画像処理手段で画像処理することにより、ドット列の各ドットの中心のX座標およびY座標を取得するものであるから、「第1の撮像範囲において撮像装置により撮像された複数個の液滴の画像を画像処理装置により画像処理することにより液滴の着弾位置を検出」するとともに、「第2の撮像範囲において撮像装置により撮像された液滴の画像を画像処理装置により画像処理することにより、新たな液滴全てについて、各液滴の着弾位置を検出」していることは明らかである。複数の電子画像中の液滴の座標を求める際に、引用発明では何を基準位置としているかについては明らかでないが、引用文献の上記(2)(リ)、(ヌ)の記載から、カメラ(撮像装置)により撮像された各ドット(液滴)の位置は、画像処理手段によりX、Y座標として取得されるものであることから、カメラ(撮像装置)で撮像された範囲内における検出対象である各ドット(液滴)の位置を、例えば撮像された映像における角隅部の位置を基準とする等の一定の基準となる位置を設定した上で、当該基準位置に対する相対位置として座標化しているものと解される。
そして、引用発明で、相隣接する二つの画像中に共通に含まれるドット(液滴)の座標が同じになるように座標変換することは、第1の検出工程で取得した各ドット(液滴)の座標と、第2の検出工程で取得した各ドット(液滴)の座標とを、相隣接する二つの画像中に共通に含まれるドット(液滴)を基準として統合し、共通の座標系としていることにほかならない。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、本願補正発明が第1の検出工程、第2の検出工程において、基準位置を二つの画像中に共通に含まれる液滴として第1の検出工程、第2の検出工程におけるすべての液滴の位置を当該基準位置との相対位置として取得しているのに対し、引用発明では、一旦、二つの画像中に共通に含まれるドット(液滴)とは別の基準位置との相対位置として求めた後で、二つの画像中に共通に含まれるドット(液滴)の座標を基準位置として設定し直している点でのみ異なることになるが、いずれの場合であっても、結果的に取得される各ドット(液滴)の座標は、二つの画像中に共通に含まれるドット(液滴)の座標を基準位置としたものであることに変わりはない。
よって、本願補正発明の上記相違点にかかる事項は、何れかの段階で基準位置を設定する必要があるところ、当初段階の時点から基準位置を一意に設定するか、最終段階である座標統合の時点で基準位置を一意に設定するかという、座標を取得する手順での基準位置の設定時期についての差異に過ぎず、当初の時点から基準位置を一意に設定することは、この発明の属する分野において通常の知識を有する者であれば容易に想到し得た程度のことである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成26年12月1日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成26年7月25日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「塗布ヘッドに設けたノズルから吐出される液滴を基板上の多数位置に着弾させて塗布する液滴塗布方法において、
撮像装置の撮像視野を前記基板上の複数個の液滴を含む第1の撮像範囲に位置付け、前記第1の撮像範囲において前記撮像装置により撮像された複数個の液滴の画像を画像処理装置により画像処理することにより、前記複数個の液滴の内、少なくとも1つの液滴の着弾位置を基準位置とし、他の液滴の着弾位置は前記基準位置との相対位置関係からそれぞれ検出する第1の検出工程と、
前記基板と前記撮像装置の相対移動により、前記撮像装置の次の撮像範囲を、前記第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴と前記第1の撮像範囲に含まれていなかった新たな液滴を含む第2の撮像範囲とし、この第2の撮像範囲において前記撮像装置により撮像された液滴の画像を前記画像処理装置により画像処理することにより、前記新たな液滴の着弾位置を、前記第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴の着弾位置との相対位置関係を求めることで、前記基準位置に対する位置として検出する第2の検出工程とを有することを特徴とする液滴塗布方法。」

(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、第1の検出工程で基準位置との相対位置関係で検出するものを「残りの他の液滴の着弾位置」から、単に「他の液滴の着弾位置」とするとともに、第2検出工程における液滴の着弾位置の検出の方法についての「前記新たな液滴全てについて、各液滴の着弾位置の、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置に対する相対位置関係を求め、この求めた相対位置関係と、前記第1の撮像範囲に含まれていた前記少なくとも1つの液滴の着弾位置と前記基準位置との相対位置関係から、前記新たな液滴全ての着弾位置を検出する」ものとの限定を、単に「前記新たな液滴の着弾位置を、前記第1の撮像範囲に含まれていた少なくとも1つの液滴の着弾位置との相対位置関係を求めることで、前記基準位置に対する位置として検出する」ものとしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-08 
結審通知日 2015-09-09 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2013-138451(P2013-138451)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05D)
P 1 8・ 575- Z (B05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 尚之  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 見目 省二
三宅 達
発明の名称 液滴塗布方法及び装置  

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