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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B61G
管理番号 1307714
審判番号 不服2014-25602  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-15 
確定日 2015-11-12 
事件の表示 特願2011- 10427「車両間ダンパ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 9日出願公開、特開2012-148723〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月21日の出願であって、平成26年3月10日付けで拒絶理由が通知され、同年5月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月15日付けで拒絶査定がされ、同年12月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 当審の判断
1 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明は、平成26年5月16日に提出された手続補正書により補正された請求項1-5によって特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、以下のとおりである。
「第1の鉄道車両と、前記第1の鉄道車両に連結される第2の鉄道車両との間に設けられ、前記第1の鉄道車両の車体と前記第2の鉄道車両の車体との相対ロール速度に応じて減衰力を発生する第1のダンパ及び第2のダンパを有する車両間ダンパ装置であって、
前記第1のダンパ及び前記第2のダンパは、車体の上端部又は下端部近傍であって前記第1の鉄道車両の車体の前記第2の鉄道車両の車体に対する相対ロール運動の中心軸と車体の左右中心線との少なくとも一方からの距離がほぼ同じ箇所に配置されるとともに、水平方向に対して前記相対ロール運動の方向に近づくよう傾斜して配置されること
を特徴とする車両間ダンパ装置。」

2 刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願前に頒布された特開昭47-36410号公報(以下、刊行物1という。)には、以下の事項が記載されている。
(1a)「本発明は叙上の点に着目して成されたもので、その目的は列車を編成している2車両以上の車体をして之がローリング方向に一体化されるように車体間を拘束し、之により一台車或は小数台車が加振した場合に於ても車体が容易にローリングしないようにした列車に於けるローリング防止の方式を提供するにある。」(第1ページ右下欄第14行-第2ページ左上欄第5行)
(1b)「次に本発明の実施例を図面について詳細に説明すれば、第1図は本発明の装置が施された列車全体の平面説明図で、(A)(B)(C)(D)(E)は列車を編成する各車体を示し、各車体には夫々2個宛の台車(1)が設けられ、各車体間には相対ローリングを拘束するための装置(a)が設けられている。」(第2ページ左上欄第6-11行)
(1c)「しかし第8図または第9図に示すように上下あるいは左右に間隔nをもち復元ばね内蔵のダンパー(14)(14')を設ける構造は十分相対ローリングを拘束する効果がある。これ等の方式の場合第8図は上下の第9図は左右の相対変位を拘束する効果をももつている。」(第3ページ左上欄第8-14行)

ここで、第9図の記載より、「ダンパー14」は車体の上端部近傍に配置され、「ダンパー14’」は車体の下端部近傍」に配置されていることがみてとれる。加えて、同図の記載と上記摘示(1c)の「第9図は左右の相対変位を拘束する効果をももつている」という記載から、同図に係る例の「ダンパー14」及び「ダンパー14’」は水平方向に配置されているものと認める。

以上のことから、当該刊行物1には、本願の請求項1の記載に倣うと、次の発明(以下、引用発明1という。)が記載されているものと認める。
「列車の車両と、前記列車の車両に連結される別の列車の車両との間に設けられ、減衰力を発生するダンパー14及びダンパー14’を有する車体間の相対ローリングを拘束するための装置aであって、
前記ダンパー14及び前記ダンパー14’は、車体の上端部又は下端部近傍であって水平方向に配置される
車体間の相対ローリングを拘束するための装置a。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示され、本願の出願前に頒布された特開2008-201145号公報(以下、刊行物2という。)には、以下の事項が記載されている。
(2a)「本発明は、鉄道車両の連結部構造に関し、・・・」(段落【0001】)
(2b)「連結手段によって連結された鉄道車両の車体11,12の連結部には、妻面の両側縁部と屋根縁部とにわたって外幌13が連続的に設けられるとともに、貫通路14の周囲には内幌15が設けられている。また、外幌13と内幌15との間には、左右一対のダンパ装置16,16が設けられ、両裾部には車体間ヨーダンパ17がそれぞれ設けられている。」(段落【0009】)
(2c)「・・・このダンパ装置16は、ダンパ16aの一端を一方の車体11の妻面に設けたダンパブラケット11aに取り付けるとともに、ダンパ16aの他端を他方の車体12の妻面に設けたブラケット12aに取り付けている。さらに、各ブラケット11a,12aにおける下方に位置するブラケットを車体幅方向外側に位置させることにより、ダンパ16aの伸縮方向を鉛直方向に対して傾斜させ、ダンパ16aの伸縮方向がロール回転中心を通る直線に対して直角方向を向くように「ハ」字状に配置することにより、ローリング抑制効果の向上を図っている。」(段落【0012】)
(2d)「・・・本形態例では左右対称位置に一対のダンパ16aを「ハ」字状に配置したが、・・・」(段落【0014】)

以上のことから、当該刊行物2には、次の発明(以下、引用発明2という。)が記載されていると認める。
「ダンパ16a及びダンパ16aは、車体11、12の左右対称位置に、ローリング抑制効果の向上のためロール回転中心を通る直線に対して直角方向を向くように「ハ」字状に配置される鉄道車両の連結部構造。」

3 対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「列車の車両」は本願発明の「第1の鉄道車両」に相当し、以下、同様に、「別の列車の車両」は「第2の鉄道車両」に、「ダンパー14」は「第1のダンパ」に、「ダンパー14’」は「第2のダンパ」にそれぞれ相当する。
また、引用発明1の「車体間の相対ローリングを拘束するための装置a」は、「ダンパー14及びダンパー14’」を用いるものであるから、本願発明の「車両間ダンパ装置」に相当するといえるものである。

したがって、両者は次の点で一致する。
「第1の鉄道車両と、前記第1の鉄道車両に連結される第2の鉄道車両との間に設けられ、減衰力を発生する第1のダンパ及び第2のダンパを有する車両間ダンパ装置であって、
前記第1のダンパ及び前記第2のダンパは、車体の上端部又は下端部近傍に配置される
車両間ダンパ装置。」

そして、両者は以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明の「第1のダンパ」及び「第2のダンパ」の「減衰力」は、「前記第1の鉄道車両の車体と前記第2の鉄道車両の車体との相対ロール速度に応じて」発生するのに対し、引用発明1の「ダンパー14」及び「ダンパー14’」の「減衰力」は、「相対ロール速度」に応じて発生するものであるかどうか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明の「第1のダンパ」及び「第2のダンパ」は、「前記第1の鉄道車両の車体の前記第2の鉄道車両の車体に対する相対ロール運動の中心軸と車体の左右中心線との少なくとも一方からの距離がほぼ同じ箇所に配置されるされるとともに、水平方向に対して前記相対ロール運動の方向に近づくよう傾斜して配置される」のに対し、引用発明1の「ダンパー14」及び「ダンパー14’」は、そのような特定事項を有していない点。

4 判断
(1) [相違点1]について
ア ロール振動を低減させるための鉄道車両における車両間ダンパ装置において、オイルダンパを用いることは、本願の出願前に周知の技術(例えば、特開2005-289297号公報(特に段落【0007】参照。)、特開2009-120091号公報(特に段落【0026】参照。)等。)であり、オイルダンパの特性は、入力速度に応じて減衰力を発生させるものであることから、このような周知の技術におけるオイルダンパの「減衰力」は、「相対ロール速度」に応じて発生するものといえる。そして、引用発明1が、車体間の相対ローリングを拘束することに鑑みると、引用発明1のダンパに、このような周知の減衰力に係るダンパの技術を採用することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得た程度のことである。

イ したがって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(2)[相違点2]について
ア 引用発明2における「ダンパ16a及びダンパ16a」は、「車体11、12の左右対称位置」に配置されるという事項は、本願発明における選択的事項の一方である、「第1のダンパ」及び「第2のダンパ」は、「車体の左右中心線」からの「距離がほぼ同じ箇所に配置される」という事項に相当する。加えて、引用発明2における「ダンパ16a及びダンパ16a」は、「ロール回転中心を通る直線に対して直角方向を向くように「ハ」字状に配置される」という事項と、上述した「ダンパ16a及びダンパ16a」を「車体11、12の左右対称位置」に配置するという事項とを併せて考慮すると、本願発明における選択的事項の他方である、「第1のダンパ」及び「第2のダンパ」は、「相対ロール運動の中心軸」からの「距離がほぼ同じ箇所に配置される」に相当するということもいえる。

イ また、引用発明2における「ダンパ16a及びダンパ16a」は、「ロール回転中心を通る直線に対して直角方向を向くように「ハ」字状に配置される」という事項は、その技術的意義に照らし、本願発明における「第1のダンパ」及び「第2のダンパ」は、「相対ロール運動の方向に近づくよう傾斜して配置される」という発明特定事項と、「一対のダンパは相対ロール運動の方向に近づくよう傾斜して配置される」構成の限度で共通するといえる。

ウ ここで、他部材との干渉防止の要求に応じて部材の配置位置を適宜ずらすことは、鉄道車両においても一般的に行われていることであり、加えてローリング抑制効果が高い方が望ましいことは自明な課題である。そして、引用発明1の「ダンパ14」及び「ダンパ14’」が、設計上の要求等から他部材との干渉が懸念される場合、「ダンパ14」及び「ダンパ14’」の配置場所に対して、干渉を避けるべく、引用発明2の「ダンパ16a及びダンパ16a」は、「車体の左右中心線」からの「距離がほぼ同じ箇所に配置される」という事項及び「相対ロール運動の中心軸」からの「距離がほぼ同じ箇所に配置される」という事項の少なくとも一方を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、併せて、ローリング抑制効果を考慮して、引用発明1の「ダンパ14」及び「ダンパ14’」を水平方向にした配置方向に対して、引用発明2の「一対のダンパは、相対ロール運動の方向に傾斜して配置される」という事項を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

エ したがって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(3)そして、本願発明の作用効果も、引用発明1、2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(4)よって、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)なお、請求人は、審判請求書において、「原審の審査官殿は、拒絶査定において、引用文献1において、ダンパと連結器や渡り板との干渉が懸念される場合、干渉防止のため引用文献1のダンパ14,14’を、引用文献2のように、左右方向の一方側、他方側へ寄せて配置するとともに、ローリング抑制向上のため傾斜させることは、当業者にとって容易であると認定されました。

しかし、本願が解決すべき課題としている上下方向の車体曲げ振動の抑制を意図した当業者が、車両間ダンパを実質的に上下方向に沿って配置している(上下方向の車体曲げ振動を誘発させる)引用文献2に記載された技術を参照することは、極めて考えにくいことであり、原審の審査官殿の認定には到底承服いたしかねます。」と主張する。

しかしながら、進歩性の判断をするにあたって、刊行物2(原査定における引用文献2)からダンパの配置方向に関して引用するのは、ダンパを上下方向に配置するということではなく、「4 判断(2)イ」で述べたように「相対ロール運動の方向に傾斜して配置される」という事項である。当該事項は「ローリング抑制効果の向上」を狙ってなされたものであり、ダンパの基本的な配置方向自体とは独立して把握可能なものである。そして、引用発明1において、もともと水平に配置されている「ダンパ14」及び「ダンパ14’」の配置位置を変更する際に、ローリング抑制効果を向上するために、配置方向として「相対ロール運動の方向に傾斜して配置される」という事項を適用することは容易に想到し得たものであることは、「4 判断(2)ウ」で述べたとおりであるから、当該主張は採用できない。

(6)また、同審判請求書において、「一対の車両間ダンパを車両の左右方向に離間して配置することは、引用文献2に限らず、引用文献1においても第8図などに開示されておりますが、引用文献1が昭和47年11月28日に公開されているにも関わらず、本願の出願時に至るまでどの当業者も本願発明の構成を想到し得なかったという事実は、本願発明が当業者にとって容易になし得たものではないことの証拠に他なりません。」とも主張するが、ダンパ等の基本的原理が確立した技術分野において、一般的に刊行物の公開時期と発明の容易想到性とには直接的な関係はないというべきであり、当該主張も採用できない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-03 
結審通知日 2015-09-08 
審決日 2015-09-29 
出願番号 特願2011-10427(P2011-10427)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B61G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
出口 昌哉
発明の名称 車両間ダンパ装置  
代理人 渡部 温  

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