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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1307717
審判番号 不服2015-1237  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-22 
確定日 2015-11-12 
事件の表示 特願2012-516343「高い光ファイバケーブル実装密度の装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月23日国際公開、WO2010/148325、平成24年12月 6日国内公表、特表2012-530943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年6月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年6月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月22日及び平成26年8月25日に手続補正がなされたところ、同年9月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年1月22日に拒絶査定不服審判請求がなされたものであって、その請求項に係る発明は、平成26年8月25日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「光ファイバ装置であって、
光ファイバ機器と、
前記光ファイバ機器に設けられた1-U引き回し領域であって、複数の光ファイバケーブルが該1-U引き回し領域を通って引き回される、1-U引き回し領域とを有し、
前記1-U引き回し領域は、前記光ファイバ機器に設けられ、高さ4.445cm(1.75インチ)、幅48.26cm(19インチ)又は58.42cm(23インチ)の寸法を有する1‐Uスペースの一部分の前に1298.67cm^(3)の体積を有し、前記複数の光ファイバケーブルは前記1-U引き回し領域内で1つ以下の曲げを作り、前記複数の光ファイバケーブルは、前記1-U引き回し領域を切断した小刻みな断面を通過する、少なくとも98本の曲げ不敏感性光ファイバを有し、
最大10^(-12)ビット誤り率及び最大0.75dB減衰量の少なくとも一方が前記光ファイバにより送られるデュプレックス光信号毎に維持される、
ことを特徴とする光ファイバ装置。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開2009-115962号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は、当審による。)。

(1) 「【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1?図7に本発明の光コネクタ接続キットをラック搭載型の接続箱に適用した実施の一形態を示す。この光コネクタ接続キットは、複数のアダプタを一列に配列したアダプタモジュールを少なくとも2段以上多段配列した状態で支持構造物に搭載して多数の光ファイバを光コネクタ接続可能とするものである。本実施形態の場合、アダプタモジュール2の前方(ラック26内の光接続箱1に向かって手前側)で横一列に並ぶアダプタ2aに接続された光ファイバ3が掛けられる棒状のファイバハンガー4と、このファイバハンガー4を上方に跳ね上げた状態で保持するための係止手段5とをトレイ6に備えている。
【0025】
接続箱1は、アダプタモジュール2並びにその他の必要な装備を搭載するトレイ6と、該トレイ6を摺動可能に支持する基体7と、該基体7をラック26に取り付けるための取付板8とから構成されている。」

(2) 「【0028】
トレイ6には、アダプタ2aを固定するアダプタ保持プレート13と、トレイ後方から導入された光ファイバ(図示省略)とアダプタに接続されるコネクタ付き光ファイバ(図示省略)とを融着させた光ファイバのスリーブ(図示省略)を固定するスリーブホルダー14と、アダプタ保持プレート13からスリーブホルダー14の上方を覆う一部開閉可能なカバー(図示省略)を支えるガイドプレート15と、収容する光ファイバを固定するクランプ17を備えると共に、ケーブルの余長部を収納する空間を適宜形成している。本実施形態のアダプタ保持プレート13は、50個ずつのデュプレックス型コネクタ27を横一列に上下に接続可能とする多数のアダプタ2aを装着するアダプタ挿入口13aを備えており、2組のアダプタモジュール2u,2dを上下に配置して合計100心の光ファイバの光接続を可能とするものである。尚、横一列に多数のアダプタ2aを配置して成る2段のアダプタモジュール2(2u,2d)は、図示していないが、基体7の後端のケーブル引き入れ/引き出し口から導入あるいは引き出される光ファイバと融着された光ファイバのコネクタが接続されている。」

(3) 「【0033】
また、トレイ6の側壁6aの先端にはアダプタモジュール2の前面からラックの支柱側の側方に引き回された光ケーブルを束ねて固定・支持するファイバクランプ19が備えられている。」

(4) 「【0034】
さらにファイバクランプ19はトレイ6の先端に装備してトレイ6と共に移動するようにしても良いが、場合によっては固定された部材例えばラック26に取り付けるようにしても良い。いずれにしてもファイバハンガー4に掛けられて横に引き回された光ファイバをアダプタモジュールの側方で把持するために、横に引き回されたファイバの下への垂れ下がりを防ぐことができる。また、横に引き回された光ファイバをトレイ6の側端あるいはラック26上で把持して固定するため、トレイ6を引き出すときに光ファイバが突っ張ったり、キンクする恐れがなくなる。」

上記によれば、引用例には、
「アダプタモジュール2並びにその他の必要な装備を搭載するトレイ6と、該トレイ6を摺動可能に支持する基体7と、該基体7をラック26に取り付けるための取付板8とから構成されている光接続箱1であって、
トレイ6は、アダプタモジュール2の前方で横一列に並ぶアダプタ2aに接続された光ファイバ3が掛けられる棒状のファイバハンガー4を備えており、また、アダプタ2aを固定するアダプタ保持プレート13と、トレイ後方から導入された光ファイバとアダプタに接続されるコネクタ付き光ファイバとを融着させた光ファイバのスリーブを固定するスリーブホルダー14と、アダプタ保持プレート13からスリーブホルダー14の上方を覆う一部開閉可能なカバーを支えるガイドプレート15と、収容する光ファイバを固定するクランプ17を備えており、
アダプタ保持プレート13は、50個ずつのデュプレックス型コネクタ27を横一列に上下に接続可能とする多数のアダプタ2aを装着するアダプタ挿入口13aを備えており、2組のアダプタモジュール2u,2dを上下に配置して合計100心の光ファイバの光接続を可能とするものであり、
トレイ6の側壁6aの先端にはアダプタモジュール2の前面からラックの支柱側の側方に引き回された光ケーブルを束ねて固定・支持するファイバクランプ19が備えられており、
ファイバクランプ19は、ファイバハンガー4に掛けられて横に引き回された光ファイバをアダプタモジュールの側方で把持するために、横に引き回されたファイバの下への垂れ下がりを防ぐことができる、
光接続箱1。」(以下「引用発明」という。)
が記載されているものと認められる。

3.対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明における「光ファイバ」及び「光ケーブル」は、それぞれ、本願発明の「光ファイバ」及び「光ファイバケーブル」に相当するものと認められ、また、引用発明の「トレイ6」及び「光接続箱1」は、「光ファイバ」に用いられるものであるから、それぞれ、本願発明の「光ファイバ機器」及び「光ファイバ装置」に相当するといえる。
(2)引用発明は、「トレイ6の側壁6aの先端にはアダプタモジュール2の前面からラックの支柱側の側方に引き回された光ケーブルを束ねて固定・支持するファイバクランプ19が備えられて」いるものであるから、引用発明の「光ケーブル」は、「(トレイ6が搭載する)アダプタモジュール2の前面からラックの支柱側の側方の(トレイ6の側壁6aの先端に備えられたファイバクランプ19)に引き回され」ているものと認められ、引用発明における「(光ケーブルが引き回されている)アダプタモジュール2の前面からラックの支柱側の側方(の領域)」が、本願発明の「引き回し領域」に相当するところであるといえる。したがって、引用発明と本願発明とは、「前記光ファイバ機器に設けられた引き回し領域であって、複数の光ファイバケーブルが該引き回し領域を通って引き回される、引き回し領域」を有する点で一致する。
(3)引用発明において、「光ケーブル」は、「アダプタモジュール2の前面からラックの支柱側の側方に引き回され」ており、引用例の図1、図7の光ファイバ3にみられるように、「(引き回し領域内で)1つ以下の曲げ」を作っているものと認められるから、引用発明の「光ケーブル」は、本願発明の「引き回し領域内で1つ以下の曲げを作り」との事項を備えるものといえる。
(4)引用発明において、「アダプタモジュール2の前面からラックの支柱側の側方に引き回された光ケーブル」は、「ファイバクランプ19」により「束ねて固定・支持」されるから、引用発明の「光ケーブル」は、本願発明の「引き回し領域を切断した小刻みな断面を通過する」との事項を備えるものといえる。
(5)引用発明は、「合計100心の光ファイバの光接続を可能とする」ものであるから、「少なくとも98本の光ファイバを有」するものである点で、本願発明と一致する。

(6)以上のことから、両者は、
「光ファイバ装置であって、
光ファイバ機器と、
前記光ファイバ機器に設けられた引き回し領域であって、複数の光ファイバケーブルが該引き回し領域を通って引き回される、引き回し領域とを有し、
前記複数の光ファイバケーブルは前記引き回し領域内で1つ以下の曲げを作り、前記複数の光ファイバケーブルは、前記引き回し領域を切断した小刻みな断面を通過する、少なくとも98本の光ファイバを有する、
光ファイバ装置。」の点で一致する。

(7)一方、両者は、次の点で相違する。
a 「引き回し領域」について、本願発明は、「『1-U』引き回し領域」であるとし、「前記光ファイバ機器に設けられ、高さ4.445cm(1.75インチ)、幅48.26cm(19インチ)又は58.42cm(23インチ)の寸法を有する1‐Uスペースの一部分の前に1298.67cm^(3)の体積を有」するものとしているのに対し、引用発明における引き回し領域がこのようなものであるか不明な点。
b 本願発明は、光ファイバが「曲げ不敏感性光ファイバ」であり、「最大10^(-12)ビット誤り率及び最大0.75dB減衰量の少なくとも一方が前記光ファイバにより送られるデュプレックス光信号毎に維持される」ものであるのに対し、引用発明がこのようなものであるか不明な点。

4.判断
(1)上記相違点aについて検討する。
引用発明の「トレイ6」の前面の形状(「トレイ6」の断面寸法)をどのようなものとするかは、当業者が適宜決定すべき設計的事項であるところ、請求人が平成26年8月25日に提出した意見書において、「…この『1-U』(または1U)という記載は、複数の機器を収容するラックの分野における規格において広く使用されるものであり、実装される機器の高さを規定する際に、『U』という単位を使用する。」(4.)と記載しているように、複数の機器を収容するラックの分野における規格として「1-U」が広く使用されるものであることに鑑みれば、引用発明において、本願明細書の【0015】に「光ファイバ機器ラック14は、1‐Uサイズの棚を支持するのが良く、“U”は、高さが標準の1.75インチ(4.445cm)及び幅が標準の19インチ(48.26cm)に等しい。或る特定の用途では、“U”の幅は、23インチ(58.42cm)であるのが良い。」と記載される「1‐U」規格を採用し、本願発明のように「1-U引き回し領域」を有するものとすることに、格別の困難性はない。
ここで、引用発明は、「ファイバクランプ19は、ファイバハンガー4に掛けられて横に引き回された光ファイバをアダプタモジュールの側方で把持するために、横に引き回されたファイバの下への垂れ下がりを防ぐことができる」というものであるから、引用発明において、横に引き回されたファイバは、下への垂れ下がりがないものと認められる。
してみると、引用発明における光ファイバの引き回し領域は、「トレイ6」の断面寸法、すなわち、本願発明でいう「1-Uスペース」内にあるものと認められるところであり、本願発明と同様に「1-Uスペースの一部分の前に体積を有」するものといえる。
そして、この体積をどの程度とするか(この点は、実質的には、引用発明における光ファイバケーブルの引き回し領域の縦及び横の寸法については、アダプタモジュール2におけるアダプタ挿入口13aが占める部分によって決定されるものと認められるので、奥行き寸法をどの程度にするかということと同じであると認められる。)は、体積が小さい方がコンパクトになるが、一方、奥行き寸法が小さくなりすぎると光ファイバの曲げ半径が小さいものとなって、ビット誤り率や減衰量の点で不利になるとの観点から、これらを勘案して当業者が適宜決定すべき設計的事項であって、その値を本願発明のようにすることに設計的事項の域を超えるほどの格別の技術的意義があるものとは認められず、それ自体当業者にとって格別困難なこととはいえない。
したがって、引用発明において、上記相違点aに係る本願発明の構成を採用することは、当業者にとって格別困難なことではない。

(2)上記相違点bについて検討する。
引用発明は、上記3.(3)に記載したように、光ファイバが引き回し領域内で1つの曲げを作っているものであるところ、光ファイバの曲げ部における曲げ半径が小さくなると、曲げ部において光信号が漏洩し、ビット誤り率の増大や減衰量の増大を招くことになることは、当業者において明らかであるから、引用発明において、引き回し領域の体積を小さく、すなわち、引き回し領域の奥行き寸法を小さくして、曲げ部の曲率半径が小さいものとなった場合にも、その曲げ部における光信号の漏洩が大きくならないよう、上記意見書において請求人が「"bend-insensitive optical fiber" の日本語訳」として説明する、例えば、本願明細書の【0072】に記載される「コーニング・インコーポレイテッド(Corning Incorporated)から市販されているClearCurve(登録商標)マルチモードファイバ」のような周知の「曲げ不敏感性光ファイバ」を採用して、本願明細書の【0012】及び【0066】に記載される「TIA/EIA‐568規格」によって定められているビット誤り率限度である最大10^(-12)ビット誤り率及び同じく減衰量限度である最大0.75dB減衰量の少なくとも一方が光ファイバにより送られるデュプレックス光信号毎に維持されるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

5.むすび
以上のとおりであって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-18 
結審通知日 2015-06-22 
審決日 2015-07-03 
出願番号 特願2012-516343(P2012-516343)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 英一  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 吉野 公夫
山口 裕之
発明の名称 高い光ファイバケーブル実装密度の装置  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 辻居 幸一  
代理人 井野 砂里  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 松下 満  

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