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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1307739
審判番号 不服2012-1280  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-23 
確定日 2015-11-26 
事件の表示 特願2008-505632「ウイルス感染症およびその他の内科疾患を治療するための化合物、組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日国際公開、WO2006/110656、平成20年10月23日国内公表、特表2008-538354〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成18年(2006年)4月10日(パリ条約による優先権主張 2005年4月8日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、拒絶査定に対し、平成24年1月23日付けで拒絶査定不服審判請求がなされ、同年4月17日付けで審判請求の理由について補正する手続補正書(方式)が提出されたが、平成25年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成26年6月11日の受付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?31に係る発明は、平成26年6月11日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?31に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明1」という。また、以下において、下線は当審で付した。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
薬理学的に有効な量の下記の構造を有する化合物または医薬上許容可能されるその塩と、少なくとも1つの免疫抑制剤とを含む、ウイルス感染を治療するための医薬組成物であって、前記ウイルス感染は、アデノウイルス、オルソポックスウイルス、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型又はパピローマウイルス感染である、医薬組成物。
【化1】



第2 当審の判断
(2-1)
本願発明1は、「【化1】」の「構造を有する化合物または医薬上許容可能されるその塩」(以下、「HDP-CDVまたはその塩」という。)と、「少なくとも1つの免疫抑制剤」とを含む、「ウイルス感染を治療するための医薬組成物であって、前記ウイルス感染は、アデノウイルス、オルソポックスウイルス、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型又はパピローマウイルス感染である、医薬組成物。」という発明特定事項を含むものであり、本願発明1は、シドフォビルのプロドラッグであるHDP-CDVまたはその塩と「少なくとも1つの免疫抑制剤」とを含むウイルス感染を治療するための医薬組成物に関するものである(HDP-CDVがシドフォビルのプロドラッグであることについては、本件明細書を開示した特表2008-538354号公報 【0024】を参照。以下において、特表2008-538354号公報を「本件公報」という。)。

(2-2)
これに対して、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項に記載の「免疫抑制剤」が、シドフォビルのプロドラッグの生物学的利用能の増強に有用である旨の一般的な記載(特に、本件公報 【0016】?【0018】、【0067】、【0068】を参照。)がなされるほか、【0010】、【0070】には、免疫抑制剤の一つであるシクロスポリンがP糖タンパク質の作用を阻害すること、【0011】には、P糖タンパク質-媒介性膜輸送の阻害剤がバイオエンハンサー(薬物の分解、または生体内変換を最小限に抑えるために薬物とともに投与できる化合物)として使用されることが記載されている。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、実際に、本願請求項に記載の「少なくとも1つの免疫抑制剤」がシドフォビルのプロドラッグであるHDP-CDVまたはその塩の生物学的利用能を増強でき、また、これらを含む組成物がウイルス感染を治療するために使用できたことを確認し得る、薬理試験方法や薬理試験データ等に関する具体的な記載は全く存在しない。

(2-3)
すすんで、発明の詳細な説明の上記のような記載および本件出願日の技術常識に基づいて、当業者が本願発明1の組成物をウイルス感染を治療するために使用できるといえるのか否かについて、検討する。
本願の出願日当時において、HDP-CDVまたはその塩、および「免疫抑制剤」を含む組成物がウイルス感染を治療するために使用できることが技術常識であったとは解されない。むしろ、抗ウイルス剤であるところのHDP-CDVまたはその塩と「免疫抑制剤」は、一般的には、互いに相反する作用を有するものといえることを考慮すると、HDP-CDVまたはその塩と免疫抑制剤を併せて投与した場合に十分な治療効果が得られるとは認められない。

(2-4)
上記のような技術常識を踏まえれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、シドフォビルのプロドラッグであるHDP-CDVまたはその塩、および「少なくとも1つの免疫抑制剤」を含む組成物がウイルス感染を治療するために使用できることが、当業者に理解できるように記載されているとは認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(2-5)
また、上記のような本願明細書の発明の詳細な説明の記載、および技術常識を考慮すると、発明の詳細な説明には、「少なくとも1つの免疫抑制剤」と組み合わせることでシドフォビルのプロドラッグの生物学的利用能が増強された、ウイルス感染を治療するための医薬組成物を提供するという課題(特に、本件公報 【0002】、【0016】?【0018】、【0067】、【0068】を参照。)を解決できることを当業者が認識できるように記載されているということができないにもかかわらず、本願発明1は、HDP-CDVまたはその塩と、「少なくとも1つの免疫抑制剤」とを含む、「ウイルス感染を治療するための医薬組成物であって、前記ウイルス感染は、アデノウイルス、オルソポックスウイルス、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型又はパピローマウイルス感染である、医薬組成物。」という発明特定事項を含んでいる。
したがって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2-6)
そして、請求人が、拒絶査定で示された進歩性が欠如する旨の拒絶理由に対し、審判請求の理由について補正する平成24年4月17日付け手続補正書(方式)において、
「…、免疫抑制された個体に対しては、ガンシクロビル等の抗ウイルス薬を投与しても効果が得られず、むしろウイルス感染が増加してしまうことが従来から知られていたため(例えば参考資料1の"Summary"第28?32行及び参考資料2"Introduction"第7?8行参照)、当業者は、抗ウイルス薬と免疫抑制剤を同時に投与しようとすることはありませんでした。」
と述べていることも、上述の理由における判断と矛盾しない。

また、請求人は、同手続補正書(方式)において、
「…、HDP-CDVは、当業者の予想に反し、免疫抑制剤投与下の患者においても優れた抗ウイルス効果を有します。」
とも述べているが、そのような事情があるのであれば、シドフォビルのプロドラッグであるHDP-CDVまたはその塩と「少なくとも1つの免疫抑制剤」とを組み合わせてウイルス感染を治療するために使用できることを、当業者が理解できるように、それを客観的に検証する過程を発明の詳細な説明において明らかにすべきであると解され、検証過程を明らかにするためには、具体的に如何なる試験により如何なるデータを得て、そのような事実を発見することができたのかについて、発明の詳細な説明において記載することが、有効、適切かつ合理的な方法であるというべきである。
しかしながら、前記(2-2)のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、薬理試験方法や薬理試験データ等に関する具体的な説明は何も記載されていないことから、前記(2-4)、(2-5)のように判断することが妥当であると言える。

また、同手続補正書(方式)で示された参考資料3および参考資料4は本願の出願日当時において公知でないため、これらの記載を参酌することはできない。参考資料3および参考資料4は、本件出願後の2011年に発行された文献であるところ、技術を公開する代償として独占権を与えるという特許制度の趣旨、及び先願主義という我が国特許制度の基本原則からみて、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載要件は、出願当初の明細書の記載及び出願時の技術常識から判断するのが妥当である。出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、また、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるといえない場合には、出願後に提出された実験データ等によって、発明の詳細な説明の記載不足を補うことはできない。

(2-7)
請求人は、平成26年6月11日受付けの意見書において、
「…、抗ウイルス剤と免疫抑制剤の相反する作用は、免疫抑制剤の生物学的利用能エンハンサーとしての効果を否定するものではありません。抗ウイルス剤と免疫抑制剤の相反する作用が、ウイルス感染の治療において悪影響を及ぼす可能性があったとしても、そのことによって、免疫抑制剤の生物学的利用能エンハンサーとしての効果は必ずしも否定されません。免疫抑制剤がウイルス感染の治療に悪影響を及ぼしたとしても、それと同時に、生物学的利用能エンハンサーとしての効果を発揮することにより、抗ウイルス剤の治療効果を十分に高めることは可能です。
また、本願明細書は、免疫抑制剤がシドフォビルのプロドラッグの生物学的利用能の増強に有用であること、および、医薬組成物の調製方法や投与方法を十分に記載しています(例えば明細書の段落[0016]?[0018]、[0067]、[0068]、[0080]?[0111]参照)。」
と主張している。
しかしながら、請求人の主張するように、抗ウイルス剤と免疫抑制剤の相反する作用により免疫抑制剤がウイルス感染の治療に悪影響を及ぼすと同時に、免疫抑制剤が生物学的利用能エンハンサーとしての効果を発揮するとしても、抗ウイルス剤と免疫抑制剤を併せて投与した場合に十分な治療効果が得られるとまでは認められないので、該主張は採用できない。
また、請求人の主張するように、【0016】等に免疫抑制剤がシドフォビルのプロドラッグの生物学的利用能の増強に有用であること、および、医薬組成物の調製方法や投与方法が記載されているとしても、それらの記載は、実際に、本願請求項に記載の「少なくとも1つの免疫抑制剤」がシドフォビルのプロドラッグであるHDP-CDVまたはその塩の生物学的利用能を増強でき、これらをウイルス感染を治療するために使用できたことを確認し得る、薬理試験方法や薬理試験データ等に関する具体的な記載ではないため、該主張は採用できない。

第3 むすび
以上のとおり、請求項1に関して、本願明細書の発明の詳細な説明および特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、同法第49条の規定により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-05 
結審通知日 2014-09-09 
審決日 2014-09-24 
出願番号 特願2008-505632(P2008-505632)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮坂 隆  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 渕野 留香
岩下 直人
発明の名称 ウイルス感染症およびその他の内科疾患を治療するための化合物、組成物および方法  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 河村 英文  

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