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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02B
管理番号 1307951
審判番号 不服2014-23362  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-17 
確定日 2015-11-27 
事件の表示 特願2013- 14769「熱交換器の伝熱管への海洋生物の付着抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月14日出願公開、特開2014-145204〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年 1月29日の出願であって、平成26年 8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成26年11月17日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成27年 6月 5日付けで拒絶理由が通知され、平成27年 8月 7日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。


2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年 8月 7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、次のとおりのものである。

「海洋から海水を汲み上げて送り出すポンプを駆動して熱交換器の伝熱管の管内に海水を取り込む第1の工程と、
前記伝熱管の管内を流れる海水の流速を測定して、当該管内を流れる海水の流速が1.18m/sを下回らないように前記伝熱管に連絡する排水経路中に配置した出口弁の開度を制御し、当該海水の流速を1.18m/sに保つ第2の工程と、
を備えることを特徴とする熱交換器の伝熱管への海洋生物の付着抑制方法。」


3 引用例
(1)刊行物1に記載された発明
当審拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平7-280986号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1-a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、原子力発電プラントの常用機器を冷却する設備,常用機器および格納容器冷却用熱交換器を含む非常用機器を冷却する設備で、これらの冷却対象機器に供給する淡水の冷却水を海水熱交換器を介して海水で冷却する構成の補機冷却設備であって、プラントの通常発電運転時にはこれを維持するための予備機を備え、また、万一の緊急時においてもプラントの安全性を確保するために必要な設備容量を備える補機冷却設備に適用する。」

(1-b)「【0039】補機冷却海水系統は熱交換器4,5を介して原子炉補機冷却水系統およびタービン補機冷却水系統を冷却する。
【0040】原子炉補機冷却水系統は、1系統あたり2台の原子炉補機冷却水ポンプ1、及び1系統あたり3基の熱交換器4,5を備える。
【0041】補機冷却海水系統は、1系統あたり2台の海水ポンプ3を備え、3基の熱交換器4,5に接続する。タービン補機冷却水系統は、3台のタービン補機冷却水ポンプ2を備え、それぞれ別々の安全系区分に属する3基の熱交換器5に接続する。」

(1-c)「【0045】図4の通常運転モードでは、原子炉補機冷却水系統の各系統はそれぞれ、1台の原子炉補機冷却水ポンプ1,2基の熱交換器4を運転する。タービン補機冷却水系統は、2台のタービン補機冷却水ポンプ2,2基の熱交換器5を運転する。補機冷却海水系統は、2系統は2台の海水ポンプ3,3基の熱交換器4,5を運転し、熱交換器5を待機中の1系統は海水ポンプ3を1台、熱交換器4を2基運転する。この運転モードでは、各系統の原子炉補機冷却水ポンプ1およびタービン補機冷却水ポンプ2は予備機を備えており、運転中のポンプがトリップした場合には予備機でバックアップする。
【0046】海水ポンプ3を2台とも運転している系統では、1台がトリップした場合、残りの1台が過流量運転して3基の熱交換器4,5に通水する。ここで、海水ポンプ3の1台運転が可能であるにもかかわらず通常2台運転とするのは、海水系統の配管内流速を高めることによって、配管内に貝などの海生物が付着するのを防ぐ目的がある。」

上記の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。
「熱交換器4,5を介して原子炉補機冷却水系統およびタービン補機冷却水系統を冷却する補機冷却海水系統が、1系統あたり2台の海水ポンプ3を備えており、海水ポンプ3を2台運転することで海水系統の配管内流速を高めることによって、配管内に貝などの海生物が付着するのを防ぐ方法。」

(2)刊行物2に記載された事項
本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平8-192150号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(2-a)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】前述のように、海水使用の機器・配管等の装置には貝類の付着があり、その個所で成育して量が多くなるとついには剥離して下流の熱交換器の細管を傷つけたり、循環ポンプの性能低下をきたしたりする。特に、復水器、冷却水クーラなどは細管材料として黄銅系を採用しているケースが多く、貝の細管内への流入詰まりによる破口、減肉発生等の被害が続出している。
【0004】このため水中生物防除のため塩素(濃度1?3ppm )などの薬品注入を行ったり、海水の流速を壁面で1.2m/s 以上に増加するなどの方法がとられているが、薬品注入は環境問題から廃止の方向にあり、流速を増加する方法においても、どうしても淀み域ができその個所から貝の付着が拡大する。」

(3)刊行物3に記載された事項
本願の出願日前に頒布された刊行物である特開昭62-69095号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(3-a)「火力、原子力プラントでは、タービン排気を水に戻して、再使用し、プラントの熱効率を向上させるため、タービン排気と冷却水との熱交換を復水器で行つている。この冷却水は、一般には、海水が使用され、復水器での熱交換後に再度海に排出される。」(1頁左下欄18行?右下欄3行)

(3-b)「一方、復水器冷却水流量は、復水器冷却水出口弁の弁開度制御、或いは、循環水ポンプ可動翼々角度制御されている。」(1頁右下欄12?15行)


4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

(1)刊行物1発明の「熱交換器4,5」は、本願発明の「熱交換器」に相当し、
以下同様に、
「貝などの海生物」は、「海洋生物」に相当する。

(2)刊行物1発明の「海水ポンプ3」は、「2台運転する」ことにより「海水系統の配管内流速を高める」ものであるから、海水を「海水系統の配管内」に送るものであるといえ、また、この「海水ポンプ3」は当然海洋から海水を汲み上げるものであるから、本願発明の「海洋から海水を汲み上げて送り出」し、「熱交換器の伝熱管の管内に海水を取り込む」「ポンプ」に相当する。

(3)刊行物1発明において、「補機冷却海水系統」の「熱交換器4,5」が伝熱管を有することは自明であるので、刊行物1発明の「海水系統の配管内」は、本願発明の「熱交換器の伝熱管の管内」を含み、刊行物1発明の「配管」は、本願発明の「熱交換器の伝熱管」を含んでいる。

(4)上記(3)をふまえると、刊行物1発明の「配管内に貝などの海生物が付着するのを防ぐ方法」は、本願発明の「熱交換器の伝熱管への海洋生物の付着抑制方法」に相当する。

(5)したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「海洋から海水を汲み上げて送り出すポンプを駆動して熱交換器の伝熱管の管内に海水を取り込む第1の工程
を備える伝熱管への海洋生物の付着抑制方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
海水の流速値に関して、
本願発明は、「伝熱管の管内を流れる海水の流速を測定して、当該管内を流れる海水の流速が1.18m/sを下回らないように」「海水の流速を1.18m/sに保つ」のに対し、刊行物1発明はそのような特定がない点。

相違点2:
海水の流速制御に関して、
本願発明は、「伝熱管に連絡する排水経路中に配置した出口弁の開度を制御」するのに対し、刊行物1発明は「2台の海水ポンプ3を備え」る点。


5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 上記3(2)で摘記したとおり、刊行物2には、海水使用の配管に貝が付着するのを抑制するために、海水の流速を壁面で1.2m/s 以上に増加する方法が記載されており、海水の流速を制御するために、海水の流速を測定していることは明らかである。

イ そして、配管内に貝などの海生物が付着するのを防ぐのに適した配管内流速とすることは、当業者が適宜設計し得ることであるといえるところ、刊行物1発明と刊行物2に記載された事項はいずれも海水使用の配管内に貝が付着するのを抑制することに関する技術分野で共通しているので、刊行物1発明に刊行物2に記載された事項を考慮して設計変更を行い、海水の流速を1.18m/sとし、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 請求人は平成27年 8月 7日付け意見書において、「引用文献2が開示するのは「海水の流速を壁面で1.2m/s以上に増加する」ことなので(段落[0004])、本願発明の1.18m/sとは数値が異なる。」と主張している。
しかし、流速が高いほど、配管内に貝などが付着しにくく、流速が低いほど伝熱管などのシステムへの負荷が少なく、省エネルギーであることは、技術常識である。
そうすると、配管内に貝が付着するのを抑制するために、1.2m/sよりは僅かに低い値であるが、貝の付着を抑制できることが予測される1.18m/sを採用することに困難性はない。

(2)相違点2について
ア 上記3(3)で摘記したとおり、刊行物3には、海水を使用した冷却水流量を、冷却水出口弁の弁開度制御により制御することが記載されており、流量を制御することにより流速が制御されることは明らかである。

イ そして、刊行物1発明と刊行物3に記載された事項は、いずれも海水を使用した冷却水の流速を抑制することに関する技術分野で共通しているので、冷却水の流速を制御するにあたり、刊行物1発明において、海水ポンプ3を2台運転することに換えて、刊行物3に記載された事項を採用して、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

(3)本願発明が奏する効果について
上記相違点1及び2によって本願発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明、刊行物2に記載された事項、及び、刊行物3に記載された事項から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が刊行物1発明、刊行物2に記載された事項、及び、刊行物3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。


6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が刊行物1発明、刊行物2に記載された事項、及び、刊行物3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-30 
結審通知日 2015-10-01 
審決日 2015-10-16 
出願番号 特願2013-14769(P2013-14769)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 門 良成
中田 誠
発明の名称 熱交換器の伝熱管への海洋生物の付着抑制方法  
代理人 柏木 慎史  

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