• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1307969
審判番号 不服2014-16504  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-20 
確定日 2015-11-26 
事件の表示 特願2009-207535「リチウムイオン二次電池およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月24日出願公開、特開2011- 60520〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成21年9月8日の出願であって、平成25年9月20日付け拒絶理由の通知に対して、同年11月28日付けで意見書が提出されるとともに手続補正書が提出されたが、平成26年5月14日付けで拒絶査定がなされ、同年8月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月14日付けで手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.平成26年8月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年8月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.平成26年8月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成25年11月28日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1である、
「【請求項1】
正極と;
集電体と、前記集電体の表面に形成され、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層とを有する負極と;
前記正極と前記負極との間に介在する電解質層と;
を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層が正極対向部および正極非対向部を有し、かつ
充電状態(SOC)が0%であるときの前記正極非対向部のリチウムイオンドープ率が、前記正極対向部のリチウムイオンドープ率に比べて大きく、充電状態(SOC)が0%であるときの正極非対向部の積層方向の厚みが、正極対向部の積層方向の厚みに比べて大きい、リチウムイオン二次電池。」を、
「【請求項1】
正極と;
集電体と、前記集電体の表面に形成され、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層とを有する負極と;
前記正極と前記負極との間に介在する電解質層と;
を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層が、全面にリチウムイオンがドープされてなる正極対向部および全面にリチウムイオンがドープされてなる正極非対向部を有し、かつ
充電状態(SOC)が0%であるときの前記正極非対向部のリチウムイオンドープ率が、前記正極対向部のリチウムイオンドープ率に比べて大きく、充電状態(SOC)が0%であるときの正極非対向部の積層方向の厚みが、正極対向部の積層方向の厚みに比べて大きい、リチウムイオン二次電池。」(下線は補正の箇所を表す。)と補正することを含むものである。

2.この請求項1に係る補正は、負極活物質層における「正極対向部」及び「正極非対向部」について、それぞれ、リチウムイオンがドープされている範囲について特定されていない本件補正前の「正極対向部」及び「正極非対向部」から「全面にリチウムイオンがドープされてなる正極対向部」及び「全面にリチウムイオンがドープされてなる正極非対向部」と減縮するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に該当する。

3.そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(1)引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に公知となった国際公開第2009/011132号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(当審注:下線は合議体が付与した。以下同様である。)。

ア「請求の範囲
[1] 正極集電体と、
前記正極集電体に接して設けられた正極活物質層と、
前記正極活物質層の前記正極集電体が設けられていない側に設けられたセパレータ層と、
前記セパレータ層の前記正極活物質層が設けられていない側に設けられ、前記正極活物質層に対向している対向部と、前記正極活物質層に対向していない非対向部とを有し、前記対向部および前記非対向部に薄膜形成法で作製されたリチウムを含有し、シリコンまたは錫を主成分とする負極活物質層と、
前記負極活物質層の前記セパレータ層が設けられていない側に設けられた負極集電体と、を有するリチウムイオン二次電池。
[2] 前記リチウムは、電池組立前に、真空プロセスで前記対向部および前記非対向部の表面にリチウム膜を形成することにより、前記対向部および前記非対向部に挿入される請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
(省略)
[4] 前記非対向部の前記リチウムの含有量が前記対向部の前記リチウムの含有量よりも多い請求項1?3のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池。」

イ「[0034] 負極1は、負極活物質層2および負極集電体3を含む。図示しないリチウムイオン二次電池に装着される電極群4を構成する場合、負極活物質層2は、セパレータ8の正極活物質層6の正極集電体7が設けられていない側に設けられ、正極活物質層6に対向している対向部9および正極活物質層6に対向していない非対向部10を有し、シリコンまたは錫を主成分とする負極活物質を含有する。負極1は、図2に示すように、その負極活物質層2と正極5の正極活物質層6とがセパレータ8を介して対向するように配置されている。なお、図2では、負極1とセパレータ8および正極5とセパレータ8とが、それぞれ、離隔するように図示されているが、勿論、それぞれが接触するように配置されていてもよい。」

ウ「[0057] 負極1は、たとえば、薄膜形成工程と、リチウム付与工程とを含む製造方法によって製造できる。
薄膜形成工程では、薄膜形成法により、負極集電体3表面にシリコンまたは錫を主成分とする負極活物質を含有する薄膜を形成する。薄膜形成法は、たとえば、真空プロセスにより行われる。真空プロセスには、蒸着法、スパッタリング法、CVD法(化学的気相成長法)などの一般的な気相薄膜形成法が挙げられ、真空蒸着法が特に好ましい。さらに具体的には、たとえば、図3に示す成膜装置11を用いることによって、負極集電体3表面に薄膜を形成できる。」

エ「[0064] 合金系負極活物質の蒸気は鉛直方向上方に向けて移動し、後記する開口22、23を介して、第一キャン15および第二キャン16の鉛直方向における最下部に到達する。ここで負極集電体3表面に付着して、シリコンまたは錫を主成分とする負極活物質の薄膜(負極活物質層2)が形成される。活物質付与手段18には、たとえば、坩堝を使用できる。加熱手段には、たとえば、電子ビーム照射装置などを使用できる。」

オ「[0072] 直接付与法では、リチウムの薄膜を形成することにより、負極活物質層2にリチウムが付与されるので、リチウムの付与量の調整が容易である。たとえば、長尺の負極集電体3を連続処理する際に、リチウム薄膜の付着を制限するマスクを設け、該マスクの開口形状を、対向部9よりも非対向部10の方を広くすれば、対向部9および非対向部10に所望の量比でリチウムを付与できる。」

カ「[0082] 正極32は、図示しない正極集電体と正極活物質層とを含む。正極活物質層は正極集電体に接して設けられ、正極活物質層の正極集電体が設けられていない側に、セパレータ33が設けられる。正極32は、長手方向の幅が負極1の長手方向の幅よりも若干小さくなるように形成するのが好ましい。これは、上記でも示した通り、充電時に負極1の集電体にリチウムが析出するのを防止することなどを目的としている。」

キ「[0090] 電極群31には図示しない電解質が含浸または担持されている。電解質としては、非水電解質が好ましい。非水電解質としては、たとえば、液状非水電解質、ゲル状非水電解質、固体状電解質(たとえば高分子固体電解質)などが挙げられる。
液状非水電解質は、溶質(支持塩)と非水溶媒とを含み、さらに必要に応じて各種添加剤を含む。溶質は通常非水溶媒中に溶解する。液状非水電解質は、たとえば、セパレータに含浸される。」

ク「[0129] 表1から、負極における正極非対向部までリチウムを付与した実施例1および2の方が、サイクル試験後の負極幅方向両端部周辺での変形が小さく、容量維持率も高いことが判る。これは、負極板全体にリチウムを付与すると、負極全体にわたってある程度の膨張が起こるためであると考えられる。負極全体の膨張は、正極対向部のみにリチウムを付与するのに比べて、充電時の負極における正極対向部と正極非対向部との体積変化の差を小さくできる。正極非対向部へのリチウム付与量をさらに多くすれば、体積変化の差が小さくなるという本発明の効果がさらに顕著に発揮される。」

(2)引用例に記載された発明
ア 上記(1)アの請求項2を引用する請求項4の記載において、「負極活物質層」を「シリコン」を「主成分」とするものとし、「真空プロセス」は「薄膜形成法」のことである(上記(1)ウ参照。)ことを踏まえて、請求項4の記載を整理すると、引用例には、
「正極集電体と、
前記正極集電体に接して設けられた正極活物質層と、
前記正極活物質層の前記正極集電体が設けられていない側に設けられたセパレータ層と、
前記セパレータ層の前記正極活物質層が設けられていない側に設けられ、前記正極活物質層に対向している対向部と、前記正極活物質層に対向していない非対向部とを有し、前記対向部および前記非対向部に薄膜形成法で作製されたリチウムを含有した、シリコンを主成分とする負極活物質層と、
前記負極活物質層の前記セパレータ層が設けられていない側に設けられた負極集電体と、を有し、
前記リチウムは、電池組立前に、薄膜形成法である真空プロセスで前記対向部および前記非対向部の表面にリチウム膜を形成することにより、前記対向部および前記非対向部に挿入されており、
前記非対向部の前記リチウムの含有量が前記対向部の前記リチウムの含有量よりも多いリチウムイオン二次電池」が記載されている。

イ また、上記(1)クに記載されているように、負極板全体にリチウムを付与しているといえ、さらに、上記(1)オに記載されているように、「リチウムを付与する」とは、負極活物質層の表面に「リチウムの薄膜を形成する」こと、を意味するものであるから、上記「負極板全体にリチウムを付与している」とは、負極活物質層の表面全体にリチウム薄膜を形成することを意味しているといえ、引用例には、「負極活物質層の表面全体にリチウム薄膜を形成することが記載されている」と認められる。

ウ 以上を踏まえると、引用例には、
「正極集電体と、
前記正極集電体に接して設けられた正極活物質層と、
前記正極活物質層の前記正極集電体が設けられていない側に設けられたセパレータ層と、
前記セパレータ層の前記正極活物質層が設けられていない側に設けられ、前記正極活物質層に対向している対向部と、前記正極活物質層に対向していない非対向部とを有し、前記対向部および前記非対向部に薄膜形成法で作製されたリチウムを含有した、シリコンを主成分とする負極活物質層と、
前記負極活物質層の前記セパレータ層が設けられていない側に設けられた負極集電体と、を有し、
前記リチウムは、電池組立前に、薄膜形成法である真空プロセスで前記対向部および前記非対向部の表面全体にリチウム膜を形成することにより、前記対向部および前記非対向部に挿入されており、
前記非対向部の前記リチウムの含有量が前記対向部の前記リチウムの含有量よりも多いリチウムイオン二次電池」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
ア 補正発明1と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明における「正極集電体」及び「正極集電体に接して設けられた正極活物質層」が「リチウムイオン二次電池」の正極となることは、技術常識から明らかであり、このことは、上記(1)カの記載においても裏付けられている。
また、補正発明1における「正極」とは、本願明細書の発明の詳細な説明の【0078】に、「集電体の表面(片面または両面)に正極活物質層が形成された正極」と記載されていることから、集電体の表面に正極活物質層が形成されているといえる。
したがって、引用発明における「正極集電体」及び「正極集電体に接して設けられた正極活物質層」は、補正発明1における「正極」に相当する。

(イ) 引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」における「正極活物質層に対向している対向部」及び「正極活物質層に対向していない非対向部」は、それぞれ、補正発明1の「負極活物質層」における「正極対向部」及び「正極非対向部」に相当する。
なお、以下において、引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」における「正極活物質層に対向している対向部」及び「正極活物質層に対向していない非対向部」を、それぞれ、「対向部」及び「非対向部」という。

(ウ) 引用発明における「負極集電体」は、補正発明1における「集電体」に相当する。

(エ) 引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」に含有される「リチウム」は、技術常識を考慮すれば、リチウムイオンとして「シリコンを主成分とする負極活物質層」に挿入されているといえる。
そして、引用発明における「シリコンを主成分とする負極活物質層」は、「シリコンを主成分とする負極活物質」を含む「負極活物質層」であるといえ、また、「挿入」とは「ドープ」と同義であるから、引用発明における「前記対向部および前記非対向部に薄膜形成法で作製されたリチウムを含有した、シリコンを主成分とする負極活物質層」は、「前記対向部および前記非対向部に薄膜形成法で作製されたリチウム」をリチウムイオンとしてドープした「シリコンを主成分とする負極活物質」を含む「負極活物質層」と言い換えることができる。
したがって、引用発明の「前記対向部および前記非対向部に薄膜形成法で作製されたリチウムを含有した、シリコンを主成分とする負極活物質層」は、補正発明1の「リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層」に相当する。

(オ) 引用発明における「シリコンを主成分とする負極活物質層」が「負極活物質層の前記セパレータ層が設けられていない側に設けられた負極集電体」の表面に形成されていることは、技術常識を考慮すれば明らかであり、このことは、上記(1)エの記載にも裏付けられている。
また、引用発明における「負極集電体」及び「シリコンを主成分とする負極活物質層」が「リチウムイオン二次電池」の負極となることは、技術常識から明らかであり、このことは、上記(1)イの記載においても裏付けられている。
したがって、引用発明における「負極集電体」及び「前記対向部および前記非対向部に薄膜形成法で作製されたリチウムを含有した、シリコンを主成分とする負極活物質層」は、補正発明1における「集電体と、前記集電体の表面に形成され、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層とを有する負極」に相当する。

(カ) 引用発明の「正極活物質層の前記正極集電体が設けられていない側に設けられたセパレータ層」という記載及び「セパレータ層の前記正極活物質層が設けられていない側に設けられた」「シリコンを主成分とする負極活物質層」という記載から、引用発明の「セパレータ層」と「正極活物質層」及び「シリコンを主成分とする負極活物質層」との位置関係は、「正極活物質層」と「シリコンを主成分とする負極活物質層」との間に「セパレータ層」が介在しているといえる。
また、引用発明の「セパレータ層」が「リチウムイオン二次電池」の「電解質層」となることは、技術常識から明らかであり、このことは、上記(1)キの記載においても裏付けられている。
さらに、補正発明1における「電解質層」は、本願明細書の発明の詳細な説明の【0079】において、「正極または負極前駆体を、セパレータ(電解質層に相当)を介して正極活物質層とリチウムプレドープ層または負極活物質層とが対向するように積層させることにより積層体を作製することができる」と記載されていることから、補正発明1における「電解質層」は「セパレータ」であるといえる。
したがって、引用発明における「正極活物質層」を有する正極と「シリコンを主成分とする負極活物質層」を有する負極との間に介在する「セパレータ層」は、補正発明1における「正極と前記負極との間に介在する電解質層」に相当する。

(キ) 引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」は、「前記対向部および前記非対向部の表面全体にリチウム膜」が形成され、この「リチウム膜」が「前記対向部及び前記非対向部に挿入」され「リチウムを含有し」たものであるから、引用発明における「シリコンを主成分とする負極活物質層」は、「対向部」の全面及び「非対向部」の全面にリチウムイオンがドープされているといえる。
したがって、引用発明における『「シリコンを主成分とする負極活物質層」は、「対向部」の全面及び「非対向部」の全面にリチウムイオンがドープされている』ことは、補正発明1における「負極活物質層が、全面にリチウムイオンがドープされてなる正極対向部および全面にリチウムイオンがドープされてなる正極非対向部」を有することに相当する。

(ク) 本願明細書の発明の詳細な説明の【0027】において、「ここで、「リチウムイオンドープ率」とは、負極活物質の容量に対する吸蔵されたリチウムイオンの容量の割合(%)をいい、吸蔵されたリチウムイオンの容量を負極活物質の容量で除して、100を乗ずることにより算出される。また、「正極(非)対向部のリチウムイオンドープ率」とは、正極(非)対向部中に存在する負極活物質の平均のリチウムイオンドープ率をいう」と記載されている。
一方、引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」は、「非対向部の前記リチウムの含有量が前記対向部の前記リチウムの含有量よりも多」くなっており、しかも、「負極活物質」を構成する「シリコンを主成分とする負極活物質」に含有されるリチウムは、リチウムイオンとして吸蔵されており容量を構成していることが技術常識から明らかであり、また、「シリコンを主成分とする負極活物質」に含有されるリチウムの含有量が多いほど、リチウムイオンの容量が大きくなることも、技術常識から明らかである。
そして、引用発明の「対向部」及び「非対向部」における負極活物質の材料が同じであるため、両者における負極活物質の容量は同じであり、上記「リチウムイオンドープ率」の算出に従って引用発明の「対向部」及び「非対向部」における「リチウムの含有量」を記載すれば、引用発明の「非対向部」におけるリチウムイオンドープ率は、引用発明の「対向部」におけるリチウムイオンドープ率に比べて大きい、といえる。
したがって、引用発明の「非対向部の前記リチウムの含有量が前記対向部の前記リチウムの含有量よりも多い」ことは、補正発明1における「正極非対向部のリチウムイオンドープ率が、前記正極対向部のリチウムイオンドープ率に比べて大き」いことに相当する。

(ケ)以上の検討を踏まえると、両者は、
「正極と;
集電体と、前記集電体の表面に形成され、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層とを有する負極と;
前記正極と前記負極との間に介在する電解質層と;
を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層が、全面にリチウムイオンがドープされてなる正極対向部および全面にリチウムイオンがドープされてなる正極非対向部を有し、かつ
前記正極非対向部のリチウムイオンドープ率が、前記正極対向部のリチウムイオンドープ率に比べて大きい、リチウムイオン二次電池」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:リチウムイオンドープ率の比較は、補正発明1が「充電状態(SOC)が0%であるとき」の状態であるのに対して、引用発明が「電池組立前」の状態である点。

相違点2:補正発明1が「充電状態(SOC)が0%であるときの正極非対向部の積層方向の厚みが、正極対向部の積層方向の厚みに比べて大きい」のに対して、引用発明がかかる事項について記載されていない点。

イ これら相違点について検討する。
(ア)相違点1について
本願明細書の発明の詳細な説明における実施例1の評価用セルについてみてみると、「正極対向部のリチウムイオンドープ率が27%に、正極非対向部のリチウムイオンドープ率が75%になるように」「負極活物質層の正極非対向部の表面にリチウムを含む第1リチウムプレドープ層が、負極活物質層の正極対向部の表面にリチウムを含む第2リチウムプレドープ層が、それぞれ形成された負極前駆体を得」(【0096】)て、その後、第1リチウムプレドープ層及び第2リチウムプレドープ層から「負極活物質層にリチウムがドープされ、負極前駆体が負極へと変換され」(【0099】)て評価用セルが作製されるものといえ、評価用セルが作製された後、すなわち、評価用セル組立後における、負極活物質層の正極対向部のリチウムイオンドープ率は27%、負極活物質層の正極非対向部のリチウムイオンドープ率は75%であるといえる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の表1における実施例1の「正極対向部A%」が「27%」及び「正極非対向部B%」が「75%」と記載されている箇所の項目名が、「リチウムイオンドープ率(SOC=0%)」であることから、実施例1の評価用セル組立後における、リチウムイオンがドープされた負極活物質層の状態が、「リチウムイオンドープ率(SOC=0%)」の状態であるといえ、このことは、実施例2及び3の評価用セルについても同様である。また、実施例1ないし3における「評価用セル」は、補正発明1における「リチウムイオン二次電池」そのものであるから、補正発明1における「充電状態(SOC)が0%であるとき」の状態は、リチウムイオン二次電池組立後における、リチウムイオンがドープされた負極活物質層の状態を意味するといえる。
一方、引用発明についてみてみると、上記ア(ク)において検討した、『非対向部』におけるリチウムイオンドープ率が、『対向部』におけるリチウムイオンドープ率に比べて大きいことは、「電池組立前」のリチウムイオンがドープされた「シリコンを主成分とする負極活物質層」の状態におけるものである。
ここで、上記「電池組立前」のリチウムイオンがドープされた「シリコンを主成分とする負極活物質層」の状態からのリチウムイオン二次電池の組立は、この負極活物質層を有する負極、正極及びセパレータを積層あるいは捲回して電極群を作製し、この電極群を電池容器の中に挿入後、電解液を電池容器に注入して、電池容器を封止するものであり、このリチウムイオン二次電池の組立において、上記「シリコンを主成分とする負極活物質層」におけるリチウムイオンのドープ率が変動するものでないことは技術常識から明らかである。
そうすると、引用発明において、『非対向部』におけるリチウムイオンドープ率が、『対向部』におけるリチウムイオンドープ率に比べて大きいことは、「電池組立前」のリチウムイオンがドープされた「シリコンを主成分とする負極活物質層」の状態から、電池組立後のリチウムイオンがドープされた「シリコンを主成分とする負極活物質層」の状態まで、すなわち、「充電状態(SOC)が0%であるとき」の状態まで維持される。
したがって、引用発明において、『引用発明の「非対向部」におけるリチウムイオンドープ率は、引用発明の「対向部」におけるリチウムイオンドープ率に比べて大きい』とは、「充電状態(SOC)が0%であるとき」といえる。
よって、上記相違点1は実質的な相違点とはなり得ない。

(イ)相違点2について
引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」は、リチウムの含有量が多いほど、この負極活物質層の体積が大きいといえる(下記の参考文献1及び2参照。)。
ここで、引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」の体積が大きくなるときに、負極活物質層の膜厚方向は大きくなるといえる。
したがって、引用発明の「シリコンを主成分とする負極活物質層」におけるリチウムの含有量が多いほど、「シリコンを主成分とする負極活物質層」の体積が大きくなり、この負極活物質層の膜厚が厚いといえる。

・参考文献1:特開2007-42329号公報
上記参考文献1の下記a.の記載を参照。

a.「【0075】
負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率は、負極活物質へのリチウム貯蔵量と体積膨張率との関係から求められると考えられる。負極活物質がシリコンである場合を例に説明する。シリコンは、最大で9340mAh/mlのリチウムを貯蔵でき、SOC(充電度)=100%である。一方、シリコン単体でリチウムを全く貯蔵しない状態では、SOC(充電度)=0%となる。ここで、SOCとは“State of Charge”の略号であり、リチウムを最大に貯蔵した状態におけるSOC(充電度)を100とし、それを基準にしてリチウムの各貯蔵状態でのSOC(充電度)を100分率で表したものである。リチウムを全く貯蔵しない状態(SOC=0%)に対し、リチウムを最大に貯蔵した状態では、負極活物質の組成がLi21Si5で、SOC=100%になり、リチウムを貯蔵したシリコンの体積は4.0倍(負極活物質の体積膨張率300%、シリコンに固有の値)になることが報告されている。また、シリコンのリチウム貯蔵量、SOCおよび負極活物質の体積膨張率はそれぞれほぼ比例関係にある。これらのことから、本発明で述べる負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率(負極活物質の体積膨張率)(%)は次の式のように定義したものである。
【0076】
【数1】


【0077】
〔式中、Xは充電状態のSOC(%)を示す。Yは放電状態のSOC(%)を示す。「SOC100%」はSOCが100%の時の体積膨張率(%)を示す。〕」

・参考文献2:M.N.Obrovac et al., Alloy Design for Lithium-Ion Battery Anodes, Journal of The Electrochemical Society, Vol.154(9), A849-A855(2007)
上記参考文献2の下記a.及びb.の記載を参照。

a.「Figure 2 shows the molar volume (per mole of host atoms) of known lithium-silicon, lithium-tin, and lithium-carbon intermetallic compounds. For these compounds, the molar volume during lithiation is an extremely linear function of the lithium content.」(A850の右欄下から25行?21行)
(日本語訳)図2は、知られているリチウム-シリコン、リチウム-錫、リチウム-炭素、の金属間化合物1モル当たりの体積(ホスト元素1モル当たり)を表している。これらの化合物について、リチウム化の間の1モル当たりの体積は、リチウム量に対して極めて線形関数である。

b.図2(a)


そうであれば、引用発明の「前記非対向部の前記リチウムの含有量が前記対向部の前記リチウムの含有量よりも多い」ことは、『「非対向部」の膜厚は「対向部」の膜厚よりも大きこと』といえ、しかも、引用発明における「前記非対向部の前記リチウムの含有量が前記対向部の前記リチウムの含有量よりも多い」のは、上記(ア)における検討を踏まえれば、「充電状態(SOC)が0%であるとき」であるため、『「充電状態(SOC)が0%であるとき」の引用発明の「非対向部」の膜厚は、「充電状態(SOC)が0%であるとき」の引用発明の「対向部」の膜厚に比べて大きい』といえる。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点とはいえない。

(ウ)よって、補正発明1は、引用例に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
仮に、引用発明と補正発明1との間に相違点があったとしても、当該相違点に係る発明特定事項とすることは当業者にとって容易に想到し得るものであって、補正発明1は、引用例に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.補正却下のむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について

1.本願発明
平成26年8月20日付けの手続補正は上記第2.のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成25年11月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
正極と;
集電体と、前記集電体の表面に形成され、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極活物質層とを有する負極と;
前記正極と前記負極との間に介在する電解質層と;
を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質層が正極対向部および正極非対向部を有し、かつ
充電状態(SOC)が0%であるときの前記正極非対向部のリチウムイオンドープ率が、前記正極対向部のリチウムイオンドープ率に比べて大きく、充電状態(SOC)が0%であるときの正極非対向部の積層方向の厚みが、正極対向部の積層方向の厚みに比べて大きい、リチウムイオン二次電池。」

2.引用例に記載された事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由に引用された引用例に記載された事項は、上記第2.3.(1)に記載したとおりであり、また、引用発明は上記第2.3.(2)において認定したとおりである。

3.対比・判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1は、上記第2.で検討した補正発明1において、負極活物質層における「正極対向部」及び「正極非対向部」について、それぞれ、リチウムイオンがドープされている範囲について、「全面にリチウムイオンがドープされてなる」という特定事項を有しないものである。

イ 本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、上記第2.3.(3)ア(ケ)で認定した相違点1及び2のみで相違し、その余の点で一致している。

ウ そうすると、上記第2.3.(3)イ(ア)及び(イ)において検討したとおり、相違点1及び2は実質的な相違点ではないから、本願発明1は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
また、仮に、引用発明と本願発明1との間に相違点があったとしても、本願発明1は、引用例に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、仮に、そうでないとしても、本願発明1は、引用例に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-25 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-13 
出願番号 特願2009-207535(P2009-207535)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 和宏▲高▼橋 真由  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 河本 充雄
松嶋 秀忠
発明の名称 リチウムイオン二次電池およびその製造方法  
代理人 八田国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ