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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B24D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24D |
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管理番号 | 1307979 |
審判番号 | 不服2014-25705 |
総通号数 | 193 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-16 |
確定日 | 2015-11-26 |
事件の表示 | 特願2010-262550「薄刃砥石」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月14日出願公開、特開2012-111005〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成22年11月25日を出願日とする出願であって、 平成25年8月15日付けで審査請求がなされ、 平成26年5月27日付けで拒絶理由通知(同年6月3日発送)がなされ、 これに対して同年7月29日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、 同年9月8日付けで上記同年5月27日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2(特許法第29条第2項)によって拒絶査定(同年9月16日謄本発送・送達)がなされたものである。 これに対して、「原査定を取り消す。本願は特許をすべきものである、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成26年12月16日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、 平成27年2月2日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告がなされ、 同年3月13日付けで上申書の提出がされたものである。 第2 平成26年12月16日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年12月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 平成26年12月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成26年7月29日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5の記載 「【請求項1】 超砥粒を金属結合相によって保持した厚さ0.1mm以下の薄肉円板状の砥石本体を有し、この砥石本体の両側面には、該砥石本体をその厚さ方向に貫通しない有底の凹溝が周方向にずらされて形成され、 前記凹溝は、半径方向に直交する断面がコ字状をなして前記砥石本体の側面に開口させられ、 前記両側面における周方向に隣り合う前記凹溝同士の間には、前記両側面間の前記厚さのままとされた砥石本体部分が形成され、 前記砥石本体部分の周方向の長さが、前記凹溝の周方向の長さよりも大きいことを特徴とする薄刃砥石。 【請求項2】 上記凹溝は、上記砥石本体の両側面の間で周方向に等間隔かつ交互に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄刃砥石。 【請求項3】 上記凹溝は、上記金属結合相を化学処理により部分的に除去して形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄刃砥石。 【請求項4】 上記凹溝の深さが、上記砥石本体の厚さの60%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の薄刃砥石。 【請求項5】 上記凹溝の幅が3mm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の薄刃砥石。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。) を、 「 【請求項1】 超砥粒を金属結合相によって保持した厚さ0.1mm以下の薄肉円板状の砥石本体を有し、この砥石本体の両側面には、該砥石本体をその厚さ方向に貫通しない有底の凹溝が周方向にずらされて形成され、 前記凹溝は、半径方向に直交する断面がコ字状をなして前記砥石本体の側面に開口させられ、 前記両側面における周方向に隣り合う前記凹溝同士の間には、前記両側面間の前記厚さのままとされた砥石本体部分が形成され、 前記砥石本体部分の周方向の長さが、前記凹溝の周方向の長さよりも大きく、 前記凹溝の幅が、3?4mmであることを特徴とする薄刃砥石。 【請求項2】 上記凹溝は、上記砥石本体の両側面の間で周方向に等間隔かつ交互に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄刃砥石。 【請求項3】 上記凹溝は、上記金属結合相を化学処理により部分的に除去して形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄刃砥石。 【請求項4】 上記凹溝の深さが、上記砥石本体の厚さの60%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の薄刃砥石。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。) に補正することを含むものである。(下線は、請求人が付加したもの。) 2.補正の適否 2-1 特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第5項(目的要件)に関する検討 本件補正は、補正前の請求項1に係る発明特定事項の「砥石本体」の両側面に形成された「有底の凹溝」について、新たに「前記凹溝の幅が、3?4mmである」ことを追加し、これに伴い、内容上共通しない補正前の請求項5を削除するものである。 前記補正の追加事項は、本件の当初明細書の段落0045に記載された事項であり、本件補正によって、溝の幅が採り得る範囲を限定する内容となることから、同法同条第5項第2号でいう、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、これらの補正により、補正前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更がないのは明らかである。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定を満足する。 2-2 独立特許要件について 上記2-1に示したとおり、本件補正の目的は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そこで、本件補正後の請求項1ないし4に記載されている事項により特定される発明(以下、請求項1に係る発明を、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 2-2-1 本件補正発明 本件補正発明は、上記1.の補正後の請求項1に記載したとおりのものであると認める。 2-2-2 先行技術 2-2-2-1 引用文献1及び引用発明 本願の出願日前に頒布され、原審の拒絶査定の理由である上記平成26年5月27日付けの拒絶理由通知において引用された、実願昭61-9779号(実開昭62-121061号)のマイクロフィルム(昭和62年7月31日公開、以下、「引用文献1」という。)には、第1図?第5図とともに、以下の事項が記載されている。 A 「(1) 金属メツキ層内に超砥粒を分散させた砥粒層からなる薄肉の円板状をなし、その軸線方向の両側面に、それぞれ外周縁から内方に向けて延びかつ上記軸線方向の深さ寸法が上記軸線方向の全厚さ寸法の1/2以下とされた溝が、円周方向に沿つて交互に、かつ一方の側面に形成された溝が他方の側面に形成された溝と互いに上記軸線方向に一致しない位置に形成されてなることを特徴とする電鋳薄刃砥石。 ・・・ (3) 上記溝の巾寸法は、0.02?2.0mmであることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項又は第2項記載の電鋳薄刃砥石。」(明細書第1ページ、実用新案登録請求の範囲欄) B 「[考案が解決しようとする問題点] ところが、上記従来の電鋳薄刃砥石は、その厚さが数十μm?数百μmと薄いにも拘わらず・・・」(明細書第2ページ第16?18行) C 「上記構成の電鋳薄刃砥石にあっては、溝を両側面において互い違いに形成しているため、電鋳薄刃砥石自体の強度を低下させることなくこれら溝を深く形成することができる。そして、研削液がこれら深く形成された溝を介して研削部へ確実に供給されるため、当該研削部における冷却性能と切屑排出性能を向上させることができ、この結果高速研削においても電鋳薄刃砥石自体の目詰まりや発熱等を防止することができる。」(明細書第4ページ第1?9行) D 「[実施例] 第1図および第2図は、この考案の電鋳薄刃砥石の第一実施例を示すものである。 ・・・ そして、この電鋳薄刃砥石の両側面3、3には、それぞれ外周縁4、4から半径方向を内方へ向けて延びる複数本(図では各側面3に4本づつ)の溝5・・・が、円周方向に沿ってそれぞれ等間隔を隔てて形成されている。 ・・・ ここで、上記溝5の寸法としては、その深さ寸法Dをこの電鋳薄刃砥石の軸線方向の全厚さ寸法Tの1/2以下に、またその長さ寸法Lを0.5mm以上に、さらにその巾寸法Wを0.02mm?2mmに設定することが望ましい。すなわち、上記長さ寸法Lが0.5mmに満たない場合や上記巾寸法Wが0.02mm・・・上記巾寸法Wが2mmを超えた場合には、それに比例した効果が得られないにも拘わらず電鋳薄刃砥石自体の強度が低下して好ましくないからである。」(明細書第4ページ第10行?第6ページ第3行) また、上記摘記事項D及び添付された第1図並びに第2図の図示から、以下の事項が記載されていると認める。 E 電鋳薄刃砥石の両側面に、円周方向に等間隔で溝5が互い違いに形成され、形成された溝5の巾寸法は、隣り合う溝5の間の当該溝が形成されない巾に比べて明らかに小さく図示され、一実施例とされた第2図断面図で、全厚さ寸法Tのまま厚みが維持されている箇所が、第2図で図示された大きさでは、砥石の大部分で確認できること。 以上記載事項A?D及び認定事項Eから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 (引用発明) 「 金属メツキ層内に超砥粒を分散させた砥粒層からなる、厚さが数十μm?数百μmの薄肉の円板状をなし、 その軸線方向の両側面に、それぞれ外周縁から内方に向けて延びかつ上記軸線方向の深さ寸法が上記軸線方向の全厚さ寸法の1/2以下とされた溝が、円周方向に沿って交互に、かつ一方の側面に形成された溝が他方の側面に形成された溝と互いに上記軸線方向に一致しない位置に形成され、 前記形成された溝は複数であり、周方向に隣り合う溝同士の間には、前記両側面間の厚さのままとされた砥石の箇所が形成され、 前記形成される溝の巾寸法が、0.02mm?2mmに設定されてなることを特徴とする電鋳薄刃砥石。」 2-2-2-2 引用文献2及びその記載事項 本願の出願日前に頒布され、原審の上記平成26年5月27日付けの拒絶理由通知において引用された、実願昭55-77611号(実開昭57-3562号)のマイクロフィルム(昭和57年1月9日公開、以下、「引用文献2」という。)には、第1図及び第4図とともに、以下の事項が記載されている。 F 「2.実用新案登録請求の範囲 (1) 刃先部分が表裏交互に実質的な凹凸を有するように形成してなる回転砥石刃。 ・・・ (4) 刃先部分の表裏を所定間隔で凹部に削除して凹凸を形成してなる実用新案登録請求の範囲第1項記載の回転砥石刃。」(明細書第1ページ第4?16行) G 「つぎに、第4図は、台金(1)の外周に、ダイヤモンド砥粒(4)を電着その他の方法によりほとんど隙間なく充填接着せしめて、後でエツチング等に凹部(2)を削除して凹凸部(2)(3)を形成した例を示している。具体的には例えば、ホトレジストを用いて部分的に溶解除去して凹部(2)を形成したり・・・する方法が用いられる。」(明細書第3ページ第15行?第4ページ第2行) また、添付された図面の第1図及び第4図の図示内容と上記摘記事項F及びGから、以下の事項が記載されていると認める。 H 台金(1)の外周にダイヤモンド砥粒(4)を電着せしめた後、エッチング等にて凹部(2)を削除することで凹凸部(2)(3)を形成するとした第4図の周縁部分的拡大図によると、一方側の面、すなわち第1図平面図にて確認できるとおり、凸部(3)と凹部(2)とは互いに等間隔で交互に形成されるとともに、凸部(3)の裏面に形成された凹部(2)の巾は、元の台金(1)の厚みが残る(図中縦に濃い黒で描写されている箇所を指す)ように、十分小さい寸法とされている。 2-2-2-3 周知文献及びその記載事項 本願の出願日前に頒布された、実願昭61-3855号(実開昭62-117066号)のマイクロフィルム(昭和62年7月25日公開、以下、「周知例」という。)には、第1図?第8図とともに、以下の事項が記載されている。 I 明細書第12ページの[実験例]とされ、第5図および第6図として図示された、表裏に交互に溝9が設けられた電鋳薄刃砥石は、明細書第13ページの第1表に諸量が記載されているとおり、砥石外径が100mm(直径)、溝本数8本、溝の巾寸法が0.1mmとされていること。 2-2-3 対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「金属メツキ層内に超砥粒を分散させた砥粒層からなる」、「厚さが数十μm?数百μm」、「薄肉の円板状をなし」は、各々、本件補正発明の「超砥粒を金属結合相によって保持した」、「厚さ0.1mm以下」、「薄肉円板状」に相当する。 また、引用発明の「その軸線方向の両側面に、それぞれ外周縁から内方に向けて延びかつ上記軸線方向の深さ寸法が上記軸線方向の全厚さ寸法の1/2以下とされた溝が、円周方向に沿つて交互に、かつ一方の側面に形成された溝が他方の側面に形成された溝と互いに上記軸線方向に一致しない位置に形成され」と、本件補正発明の「この砥石本体の両側面には、該砥石本体をその厚さ方向に貫通しない」「溝が周方向にずらされて形成され」とは、両者とも溝の形成箇所が砥石の両側面であり、互い違いに重ならない配置関係が選ばれ、溝の延出方向も半径方向とされている関係が溝同士の周方向にずらされた位置関係を達成することになると理解できるから、この点で両者は共通する。 さらに、引用発明の「前記形成された溝は複数であり、周方向に隣り合う溝同士の間には、前記両側面間の厚さのままとされた砥石の箇所が形成され」は、本件補正発明の「前記両側面における周方向に隣り合う前記凹溝同士の間には、前記両側面間の前記厚さのままとされた砥石本体部分が形成され」に、溝の形状を除くとした限りにおいて相当する。 以上から、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。 (一致点) 「 超砥粒を金属結合相によって保持した厚さ0.1mm以下の薄肉円板状の砥石本体を有し、この砥石本体の両側面には、該砥石本体をその厚さ方向に貫通しない溝が周方向にずらされて形成され、 前記両側面における周方向に隣り合う前記溝同士の間には、前記両側面間の前記厚さのままとされた砥石本体部分が形成された薄刃砥石。」 (相違点1) 「溝」の形状に関し、本件補正発明のものは「有底の凹」とされ、かつ、「前記凹溝は、半径方向に直交する断面がコ字状をなして前記砥石本体の側面に開口させられ」たものであるとしているのに対して、引用発明のものはこの点明らかではない点。 (相違点2) 砥石の本体と形成される溝との関係に関し、本件補正発明では、「前記砥石本体部分の周方向の長さが、前記凹溝の周方向の長さよりも大きく」としているのに対して、引用発明では直接的にそのような事項を呈するとはされていない点。 (相違点3) 溝の巾に関し、本件補正発明では「前記凹溝の幅が、3?4mmである」としているのに対して、引用発明では「前記形成される溝の巾寸法が、0.02mm?2mmに設定されてなる」としている点。 2-2-4 判断 上記相違点1ないし3について各々検討する。 (相違点1について) 本件補正発明が薄刃砥石側面に採用した、「有底の凹」とされる「(円板状薄刃砥石の)半径方向に直交する断面がコ字状」であり、「前記砥石本体の側面に開口させられ」るとした特徴は、上記2-2-2-2で示した、本件補正発明の薄刃砥石と同様の回転砥石刃が掲載されている引用文献2の摘記事項F及びG並びに認定事項Hとなんら相違しない、本願出願前に当業者に公知の態様そのものと言うべきである。 そうすると、引用発明でその形状等が明らかとされていなかった溝に対し、当該公知の断面コ字状とされる凹溝形状をそのまま採用する程度のことは、当業者が容易になし得たというべきである。 (相違点2について) そもそも引用文献1の認定事項Eの、特に第2図の図示から、溝巾と「前記砥石本体部分」、すなわち、前記(=砥石本体)両側面間の前記(=砥石本体)厚さのままとされた砥石本体部分との大小については、相当に違いがあることが看取できはするものの、引用文献1では砥石の外形寸法が明記されていないが故に、「大きく」されたことの完全な証明には、至り得ない。 とはいうものの、上記2-2-2-3で示した、両面に交互に溝が形成されている点で本件補正発明と共通点を有する電鋳薄刃砥石が掲載されている周知例の摘記事項Iによると、その外形寸法から周方向の長さは、100mm×3.14(円周率)=314mm相当であり、表裏に設けられた8本の溝巾寸法をすべて合計しても、0.1mm×8=0.8mmにすぎず、砥石本体の厚さとされた周方向の長さは、314-0.8=313.2mmであり、圧倒的に長く保たれたとする砥石の設計例が従来から普通に採用されていたことが判明する。 してみると、当該相違点2に係る本件補正発明の特定事項は、引用文献1の図示からおよそ見当がつく状況(上記2-2-2-1の認定事項E参照)であったのに加えて、周知例でも設計値から確認できる程度の当業者に周知の事項であったというべきであり、当該相違点2に係る事項は、当該周知例に直接示されている、ないしその開示内容から自明とされる周知の事項をそのまま引用発明に適用することによって、当業者が容易になし得たというべきである。 (相違点3について) 引用発明の発明特定事項として「前記形成される溝の巾寸法が、0.02mm?2mmに設定されてなる」こととされた点に関し、上記2-2-2-1の摘記事項Dには、巾寸法の上限値を2mmとするに際し、仮に2mmを超えた場合について言及がなされている。 その言及に拠れば、巾寸法を2mmを超えて大きくしても、大きくしたサイズに比例するほどの効果は得られないことと、あまりに大きくした場合には電鋳薄刃砥石自体の強度低下を招く虞があることとが示されている。 そうすると、当該言及された内容が示す点としては、2mmを超えた溝巾を採用したとしても、効果自体が喪失するわけではなく、あくまで比例するほどの効果の発揮が期待できないとする内容を言及したのであり、また、具体的にどの程度まで溝巾を大きくしたら強度低下が好ましくない水準まで到達するかまでもは示していないことから見て、砥石全体の大きさや、形成される溝の本数次第でこのような好ましくない結果に至る可能性があるとの自然に想定できるリスクを示したにすぎないと理解すべきである。 そうすると、引用文献1の摘記事項Dが開示する上限2mmの採用理由は、2mmを僅かに超えた寸法の採用を禁じているとまでは認められず、溝を形成することによって得られる効果の期待値及び強度低下のリスクをどの程度にするかによって、採用可能な巾寸法は2mmにこだわることなく決めることができる可能性があるとの示唆を示していると理解すべきである。 上述の観点に照らすと、薄刃砥石に形成する溝巾寸法として、引用発明が好適として示す2mm巾を参考としつつ、摘記事項Dが示唆する設計上の可能性に従い、参考値の2mm巾に比較的近い3?4mmを溝巾寸法として定める程度のことは、引用発明及び引用文献1に記載の示唆に基づいて,当業者が容易になし得た設計的事項と認められる。 総合すると、上記で検討したごとく、当該相違点1ないし3はいずれも格別のものではなく、そして、本件補正発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び公知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2-2-5 小括 以上のとおり、本件補正後の請求項1に係る発明は、その出願の出願日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び公知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 3. 補正却下むすび 以上のとおり、本件補正は、上記2-2のとおり、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。 よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1. 本願発明の認定 平成26年12月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年7月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの(上記第2の1.を参照)であると認める。 2. 先行技術・引用発明の認定 上記「第2 平成26年12月16日付けの手続補正についての補正却下の決定」の2-2-2で示したとおり、本件出願の出願日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、原審の拒絶の査定において引用された上記引用文献1、2には上記文献記載事項が記載されている。 そして、上記引用文献1には上記「第2 平成26年12月16日付けの手続補正についての補正却下の決定」の2-2-2-1で認定したとおりの引用発明が記載されていると認められる。 3. 対比・判断 上記第2の2.で検討した本件補正発明は、実質的には本願発明に対し上記第2の2-1で述べた限定的減縮をしたものと認められるから、本願発明は、上記本件補正発明から当該限定的減縮により限定される要件を無くしたものに相当すると認められる。 そして、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の要件を付加したものに相当する上記本件補正発明は、上記第2の2-2に記載したとおり、引用発明及び公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明も同様の理由により、引用発明及び公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4. むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その出願に係る出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び公知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-09-15 |
結審通知日 | 2015-09-24 |
審決日 | 2015-10-13 |
出願番号 | 特願2010-262550(P2010-262550) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B24D)
P 1 8・ 575- Z (B24D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石田 智樹 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
西村 泰英 刈間 宏信 |
発明の名称 | 薄刃砥石 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 細川 文広 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 山崎 哲男 |