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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1307981
審判番号 不服2014-26481  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-25 
確定日 2015-11-26 
事件の表示 特願2010- 21339「印刷機またはコーティング機」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月18日出願公開、特開2011-156791〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年2月2日の出願であって、平成26年3月17日付けで手続補正書が提出され、同年10月6日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年12月25日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲、及び明細書を補正する手続補正がなされたものである。


第2 平成26年12月25日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成26年3月17日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲を、下記(2)に示す特許請求の範囲へと補正することを含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
版胴へ高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを供給する転写液体供給装置と版胴へ湿し水を供給する給水装置とを備え、被転写体へ高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを転写する印刷装置と、
前記被転写体に対して熱発生領域の波長を除去した光を照射して前記印刷装置にて印刷された高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを硬化させる光照射装置とを備えた印刷機またはコーティング機において、
前記給水装置は、互いに接触して連結された少なくとも4本のローラを備え、高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを最適な乳化状態にするため、これら4本のローラのうち互いに接触する一対のローラが逆スリップするように回転駆動され、
前記光照射装置がオゾンを発生させないことを特徴とする印刷機またはコーティング機。
【請求項2】
前記光照射装置はオゾンレスランプであることを特徴とする請求項1記載の印刷機またはコーティング機。
【請求項3】
前記光照射装置は、波長が異なる複数のLEDからなることを特徴とする請求項1記載の印刷機またはコーティング機。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
版胴へ高反応型インキまたは高反応型ニスを供給する転写液体供給装置と版胴へ湿し水を供給する給水装置とを備え、被転写体へ高反応型インキまたは高反応型ニスを転写する印刷装置と、
前記被転写体に対して熱発生領域の波長を除去した光を照射して前記印刷装置にて印刷された高反応型インキまたは高反応型ニスを硬化させる光照射装置とを備えた印刷機またはコーティング機において、
前記給水装置は、互いに接触して連結された少なくとも4本のローラを備え、高反応型インキまたは高反応型ニスを確実に硬化させる最適な乳化状態にするため、これら4本のローラのうち互いに接触する一対のローラが逆スリップするように回転駆動され、
前記光照射装置がオゾンを発生させないことを特徴とする印刷機またはコーティング機。
【請求項2】
前記光照射装置はオゾンレスランプであることを特徴とする請求項1記載の印刷機またはコーティング機。
【請求項3】
前記光照射装置は、波長が異なる複数のLEDからなることを特徴とする請求項1記載の印刷機またはコーティング機。」(下線は審決で付した。以下同じ。)

2 補正目的について
本件補正により、本件補正前の請求項1の「高反応型インキインキ」及び「高反応型インキニス」を、それぞれ「高反応型インキ」及び「高反応型ニス」と補正する事項(以下「補正事項1」という。)、並びに、本件補正前の請求項1の「最適な乳化状態」を「確実に硬化させる最適な乳化状態」と補正する補正事項(以下「補正事項2」という。)が追加された。

(1)補正事項1について
本件補正前の請求項1の「高反応型インキインキ」及び「高反応型インキニス」は、それぞれ、「高反応型インキ」及び「高反応型ニス」と記載するところ、明らかな誤記と認められるから、上記補正事項1は、特許法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。

(2)補正事項2について
上記補正事項2は、本件補正前の請求項1の「印刷機またはコーティング機」における「最適な乳化状態」を「確実に硬化させる」と具体的に特定したものであって、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、上記補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に係る「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

また、上記補正事項1及び補正事項2は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。

3 独立特許要件について
そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成26年12月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用刊行物
(2-1)刊行物1
本願の出願前に頒布された特開2008-307891号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写体に紫外線で硬化する液体を転写する液体転写部と、
この液体転写部で転写された液体を硬化させる液体硬化装置とを備えた液体転写装置において、
前記液体硬化装置が、紫外線以外の波長の光を出さない紫外線発光ダイオードで、紫外線で硬化する液体を硬化することを特徴とする液体転写装置の液体硬化装置。
【請求項2】
前記液体がインキであり、
前記液体転写装置が印刷機であることを特徴とする請求項1記載の液体転写装置の液体硬化装置。
【請求項3】
前記液体がニスであり、
前記液体転写装置がニス・コーティング装置であることを特徴とする請求項1記載の液体転写装置の液体硬化装置。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の紫外線照射装置に採用されている水銀ランプから照射される照射光には、紫外線と同時に赤外線も同時に発生している(紫外線(UV)硬化スクリーンインキ(解説書)の6頁 東洋インキ製造株式会社発行2001年8月)ため、水銀ランプから発生する熱によって印刷物、特に、フィルム等の印刷物が変形してしまうというおそれがあった。これを解消するために、発生した熱を冷却するための冷却装置を備えることがあり、この場合は冷却装置を設置するためのスペースを確保しなければならなくなるとともに製造コストも嵩むという問題もあった。また、水銀ランプから発生する紫外線の発生効率が約20?25%と比較的低いために、UVインキを乾燥させるためには、水銀ランプに大量の電力を供給しなければならないという問題もあった。
【0004】
本発明は上記した従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、省スペース、低価格、省電力化を図った液体転写装置の液体硬化装置を提供するところにある。」
ウ 「【0019】
図1に示すように、液体転写装置としての枚葉輪転印刷機1は、被転写体としての印刷用紙2を1枚ずつ給紙する給紙装置3と、給紙装置3から給紙された印刷用紙2を紫外線で硬化する液体としてのUVインキを用いて印刷する4つの印刷ユニット4A?4Dからなる印刷部4と、印刷部4で印刷された印刷用紙2を排紙する排紙装置5と、印刷部4と排紙装置5との間に設けられた乾燥装置6とを備える。
【0020】
各印刷ユニット4A?4Dは、刷版が装着された版胴11と、刷版にUVインキを供給するインキ装置12と、刷版に水を供給する給水装置13と、UVインキおよび水の転移によって刷版上に形成された画像が転写されるゴム胴14と、ゴム胴14との間を通過する印刷用紙2をゴム胴14に圧着して画像を印刷する圧胴10とを備える。給紙装置3から1枚ずつ給紙された印刷用紙2は、差板7上をベルト8によって搬送された後、スィング装置9によって1色目の印刷ユニット4Aの圧胴10に受け渡される。なお、図1において、1色目の印刷ユニット4Aにのみインキ装置12および給水装置13を図示し、他の印刷ユニット4B?4Dにはそれらの図示を省略している。
【0021】
受渡し胴15は、各印刷ユニット4A?4Dの隣接する各圧胴10間に配設される。排紙装置5の排紙フレームに回転自在にスプロケット16が支持される。4色目の印刷ユニット4Dの圧胴10に対接する排紙胴17と同軸上にスプロケット18が設けられる。これらスプロケット16、18間には、一対の排紙チェーン19が張架される。排紙チェーン19上には、印刷後の印刷用紙2の前端部をくわえる爪20が一定の間隔をおいて取り付けられる。爪20によってくわえられた印刷用紙2は、図中矢印A方向に走行する排紙チェーン19によって排紙装置5に搬送される。
【0022】
乾燥装置6は、図2に示すように、印刷用紙の搬送方向(矢印A-B方向)と印刷用紙の幅方向(矢印C-D方向)とで格子状に形成された複数の正方形枠21を備える。全ての枠21内には、印刷用紙の面に対向配置された複数の紫外線発光ダイオード(以下、単に発光ダイオードという)22が個別に装填される。発光ダイオード22からは、図4に示すように、紫外線波長以外の光は発光されず、波長が350?400nm帯の紫外線のみを発光する。印刷用紙に転写された紫外線で硬化するインキ/ニスからなる液体は、発光ダイオードからの紫外線の照射により硬化する。」
エ 「【0048】
図10を参照して本発明の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態による枚葉輪転印刷機201においては、印刷部4と排紙装置5との間にニスコーティング装置40が配設される。搬送側の排紙チェーン19を上下に挟むように乾燥装置6が配置される。ニスコーティング装置40は、印刷用紙2の表面に液体としてのUVニスをコーティングする表面ニスコーティング部41と、裏面にUVニスをコーティングする裏面ニスコーティング部42と、印刷ユニット4Dから受け渡し胴15を介して印刷用紙を受け取って排紙装置5の排紙装置5に受け渡す圧胴43とを備える。表面ニスコーティング部41および裏面ニスコーティング部42は、受渡し胴15の爪から圧胴43の爪にくわえ替えられ搬送される印刷用紙2の表面および裏面に液体としてのUVニスをコーティングする。
【0049】
このような構成において、印刷ユニット4で印刷されたUVインキおよびニスコーティング装置40でコーティングされたUVニスは、排紙チェーン19によって搬送されるときに乾燥装置6によって乾燥される。本実施の形態によれば、第1および第2の実施の形態と同様な作用効果が得られる。」
オ 上記ア及びウの記載から、液体転写装置は「液体転写部」及び「液体硬化装置」を備え、液体転写装置としての枚葉輪転印刷機1は、給紙装置3から給紙された印刷用紙2を紫外線で硬化する液体としてのUVインキを用いて印刷する4つの印刷ユニット4A?4Dからなる印刷部4と、印刷部4と排紙装置5との間に設けられた乾燥装置6とを備えるものであるから、液体転写装置の「液体転写部」及び「液体硬化装置」は、それぞれ、枚葉輪転印刷機1の「印刷部4」及び「乾燥装置6」に相当する。
カ 上記ア乃至エの記載から、「紫外線で硬化する液体」には、「UVインキ」及び「UVニス」が包含されることが明らかである。

そうすると、上記ア乃至カの記載事項から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「被転写体に紫外線で硬化するインキ/ニスからなる液体を転写する液体転写部と、この液体転写部で転写された液体を硬化させる液体硬化装置とを備えた液体転写装置において、
前記液体硬化装置が、紫外線以外の波長の光を出さない紫外線発光ダイオードで、紫外線で硬化する液体を硬化する液体転写装置の液体硬化装置であって、
液体転写装置としての枚葉輪転印刷機1は、被転写体としての印刷用紙2を1枚ずつ給紙する給紙装置3と、給紙装置3から給紙された印刷用紙2を紫外線で硬化する液体としてのUVインキを用いて印刷する4つの印刷ユニット4A?4Dからなる液体転写部と、液体転写部で印刷された印刷用紙2を排紙する排紙装置5と、液体転写部と排紙装置5との間に設けられた液体硬化装置とを備え、
各印刷ユニット4A?4Dは、刷版が装着された版胴11と、刷版にUVインキを供給するインキ装置12と、刷版に水を供給する給水装置13と、UVインキおよび水の転移によって刷版上に形成された画像が転写されるゴム胴14と、ゴム胴14との間を通過する印刷用紙2をゴム胴14に圧着して画像を印刷する圧胴10とを備え、
液体硬化装置は、複数の紫外線発光ダイオード(以下、単に発光ダイオードという)22が個別に装填され、発光ダイオード22からは、紫外線波長以外の光は発光されず、波長が350?400nm帯の紫外線のみを発光し、印刷用紙に転写された紫外線で硬化するインキ/ニスからなる液体は、発光ダイオードからの紫外線の照射により硬化する、液体転写装置。」

(2-2)刊行物2
本願の出願前に頒布された特開昭57-36660号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「2.特許請求の範囲
版胴上の版に対接して回転自在に支持された弾性表面を有する水着ローラと、この水着ローラに対接し版胴と同周速で回転駆動された親水性表面を有する移しローラと、この移しローラに対接し対接面が移しローラの対接面に対して反対方向へ向う方向に回転駆動された弾性表面を有する調量ローラと、この調量ローラに対接してこれとの接触圧を調節可能に支持された親水性表面を有する水元ローラとを備え、前記調量ローラと水元ローラとのいずれかを水中に浸すとともに、前記水着ローラをインキローラ群と対接しない位置に配設したことを特徴とする印刷機の給水装置。」(1頁左下欄4?16行)
イ 「また、インキローラ群に混入した多量の水によってインキの乳化が過度となり、種々の印刷障害が発生して印刷物の品質を著しく低下させ、はなはだしいときには印刷が不可能になることがあった。
本発明は以上のような点に鑑みなされたもので、給水ローラ群中に、相対するローラ周面が互に逆方向へ向う方向に回転する一対のローラを設け、かつ水着ローラをインキローラ群から離して配設することにより、必要最小限の水を安定した状態で版へ供給することを可能ならしめ、給水量の調節を確実かつ容易にして調節時間の短縮と損紙の減少を計るとともに、インキの過度な乳化を防止して印刷物の品質向上を計った印刷機の給水装置を提供するものである。」(2頁左下欄3?17行)
ウ 「第2図ないし第5図は本発明に係る印刷機の給水装置を示し、…印刷機に設けられた印刷ユニットのフレーム11には、図に矢印Aで示す方向に回転する版胴12が軸支されており、…図示しないインキ壺から多数のローラ群を経て振りローラ13に転移されたインキは、インキ着ローラ14によって版胴12上の版へ供給される。
このようにしてインキが供給される版胴12の側方には、親水性表面を有する移しローラ15が軸受16を介してフレーム10こ軸支されており、…図に矢印Bで示すごとく版胴12と同方向に同周速で回転するように構成されている。…弾性表面を有し移しローラ15に対接して図に矢印Cで示すごとくこれと逆方向へ回転する水着ローラ24が軸支されている。…
…図に矢印Dで示すごとく水着ローラ24と同方向でこれとほゞ同周速で回転する水元ローラ53が、水舟54内の水55に浸って軸支されている。…図に矢印Eで示す方向に回転する調量ローラ58が軸支されている。…
このようにして行なわれる給水動作においては、移しローラ15と調量ローラ58とが接触点において互に対接局面が反対方向へ向うように回転しているので、この接触点へ入る水、すなわち厚さと速度が調節された調量ローラ15上の水膜72aは、その大部分が版胴12と同周速で回転する水移しローラ15上に転移され、一方、移しローラ15へ戻ってきた水膜77は、その大部分が調量ローラ58へ転位して水舟54へ戻される。このように調節された水のみが版胴12への供給量となるので、確実な給水量の調節が可能となるとともに、余った水が供給側とは別の径路を通つて速かに水舟54へ戻されるので、調節の応答速度が早く調節が容易である。また、このように余った水が速かに回収されることにより、例えば印刷をいつたん中断したのち再開するようなときに、インキとの不均衡を短時間で均衡させることができる。
さらに、給水装置がインキ着ローラ14等のインキローラ群と離れた位置に配設されて直接、版に接触しており、版から水着ローラ24上に戻つた水がインキローラ群に入らずに水移しローラ15に転移されるので、余分な水の回収効果がきわめて大きくて前記効果が助長され、ことに水着ローラ24が版胴12の切欠き部にあるときに水の供給が遮断されるので、インキローラ群中に余分な水が入り込まず、水とインキとの攪拌作用による過度な乳化を避けることができる。また、水着ローラ24上のインキ膜厚がインキ着ローラ14上のインキ膜厚と比較して小ざいので、水着ローラ24上で乳化が発生ずることがない。」(2頁左下欄末行?5頁左下欄13行)
エ 上記ア乃至ウの記載事項及び第2図乃至第5図より、給水装置は4本のローラから構成されることが看取できる。

上記ア乃至ウの記載事項及び図面から、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「版胴上の版に対接して回転自在に支持された弾性表面を有する水着ローラと、この水着ローラに対接し版胴と同周速で回転駆動された親水性表面を有する移しローラと、この移しローラに対接し対接面が移しローラの対接面に対して反対方向へ向う方向に回転駆動された弾性表面を有する調量ローラと、この調量ローラに対接してこれとの接触圧を調節可能に支持された親水性表面を有する水元ローラとを備え、移しローラと調量ローラとが接触点において互に対接局面が反対方向へ向うように回転しているので、この接触点へ入る水、すなわち厚さと速度が調節され、確実な給水量の調節を可能となし、前記調量ローラと水元ローラとのいずれかを水中に浸すとともに、前記水着ローラをインキローラ群と対接しない位置に配設した4本のローラから構成される印刷機の給水装置。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、
ア 後者の「刷版が装着された版胴11」、「刷版にUVインキを供給するインキ装置12」、「刷版に水を供給する給水装置13」、「被転写体」、及び、「被転写体に紫外線で硬化するインキ/ニスからなる液体を転写する液体転写部」は、それぞれ、前者の「版胴」、「版胴へインキまたはニスを供給する転写液体供給装置」、「版胴へ湿し水を供給する給水装置」、「被転写体」、及び、「被転写体へインキまたはニスを転写する印刷装置」に相当する。
イ 後者の「『インキ/ニスからなる液体』及び『液体としてのUVインキ』」と、前者の「『インキ』または『ニス』」とは、「転写液体」との概念で共通する。
ウ 後者の「液体転写装置」は、「版胴11」、「刷版にUVインキを供給するインキ装置12」、「刷版に水を供給する給水装置13」を備えた「被転写体に紫外線で硬化するインキ/ニスからなる液体を転写する液体転写部」と「液体硬化装置」とを備えたものであるから、前者の「印刷機またはコーティング機」に相当する。
エ 後者の「液体硬化装置」は、「紫外線波長以外の光は発光されず、波長が350?400nm帯の紫外線のみを発光」するものであって、熱発生領域の波長が750nm?1mm及びオゾン発生領域の波長が270nm以下の光を発光するものではないから、「熱発生領域の波長を除去した光を照射して印刷装置にて印刷されたインキまたはニスを硬化させ」、「オゾンを発生させない」といえる。

したがって、両者は、
「版胴へ転写液体を供給する転写液体供給装置と版胴へ湿し水を供給する給水装置とを備え、被転写体へ転写液体を転写する印刷装置と、
前記被転写体に対して熱発生領域の波長を除去した光を照射して前記印刷装置にて印刷された転写液体を硬化させる光照射装置とを備えた印刷機またはコーティング機において、
前記光照射装置がオゾンを発生させない印刷機またはコーティング機。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
転写液体が、本願補正発明では、「高反応型インキまたは高反応型ニス」であるのに対し、引用発明1では、紫外線で硬化するインキ/ニスである点。

[相違点2]
本願補正発明が、「給水装置は、互いに接触して連結された少なくとも4本のローラを備え、高反応型インキまたは高反応型ニスを確実に硬化させる最適な乳化状態にするため、これら4本のローラのうち互いに接触する一対のローラが逆スリップするように回転駆動され」るのに対し、引用発明1では、その点につき明らかでない点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。
ア [相違点1]について
本願補正発明の「高反応型インキまたは高反応型ニス」とは、本願明細書を参酌すると、
「【0020】
…高反応型インキとは、後述する光照射装置52,72,172からの小さい光照射エネルギーで硬化するUVインキのことをいい、高反応型UVインキ、高感度型インキ、高感度型UVインキともいう。換言すれば、光照射エネルギーが大きいオゾン発生領域の波長の光を必要とせずに、迅速に硬化するUVインキのことをいう。この高反応型インキ25は、その反応する波長が光照射装置52,72,172から照射される光の波長の範囲の中であれば、例えばLEDから照射される光のように単一の波長で反応するものでもよく、範囲をもった波長で反応するものでもよい。」
「【0028】
オゾンレスUVランプ54は、放電ランプとしてのUVランプの発光管に使用されている石英ガラスに少量の不純物を含ませた石英を用いたものであって、この石英によってオゾン発生領域の波長の光を吸収させてオゾンの発生を規制したものである。すなわち、本発明のオゾンレスUVランプ54から照射される光には、図6に示すように、オゾン発生波長である254nmを含むオゾン発生領域(波長が270nm以下)の波長は含まれていない。これに対して、メタルハライドランプから照射される光には、オゾン発生領域の波長が含まれている。また、LEDから照射される光には、オゾン発生領域の波長は含まれていないが、波長が370nm?380nmでの狭い波長領域内の光のみが照射されている。」
との定義付けられているから、引用発明1の「紫外線で硬化するインキ/ニスからなる液体」は、波長が350?400nm帯の紫外線で硬化するものであって、本願補正発明の「高反応型インキまたは高反応型ニス」に相当し、両者は実質的に差異がない。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

イ [相違点2]について
引用発明2の「印刷機の給水装置」の、「水着ローラ」、「移しローラ」、「調量ローラ」及び「水元ローラ」からなる「4本のローラ」は、本願補正発明の「互いに接触して連結された少なくとも4本のローラ」に相当する。
そして、引用発明2の、「移しローラ」と「調量ローラ」とは、「対接面に対して反対方向へ向う方向に回転駆動され」るものであるから、互いに接触する一対のローラが逆スリップするように回転駆動されるといえる。さらに、引用発明2は、「移しローラと調量ローラとが接触点において互に対接局面が反対方向へ向うように回転しているので、この接触点へ入る水、すなわち厚さと速度が調節され」るものであって、確実な給水量の調節を可能とするものであるから、インキローラ群に多量の水が混入することよるインキの乳化が過度となることを防止するものであって、インキを確実に定着、すなわち、硬化させるものである。
そうすると、引用発明2は、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を備えているものである。
そして、引用発明1も引用発明2も、印刷機を構成する装置である点で技術分野が共通する。
また、引用発明2の印刷物の品質向上を計るという課題は、印刷機の技術分野における自明の課題といえるから、引用発明1においても内在するものである。
してみると、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、引用発明2を適用することにより、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

そして、本願補正発明の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測しうる範囲内のものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年3月17日付けの特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「版胴へ高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを供給する転写液体供給装置と版胴へ湿し水を供給する給水装置とを備え、被転写体へ高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを転写する印刷装置と、
前記被転写体に対して熱発生領域の波長を除去した光を照射して前記印刷装置にて印刷された高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを硬化させる光照射装置とを備えた印刷機またはコーティング機において、
前記給水装置は、互いに接触して連結された少なくとも4本のローラを備え、高反応型インキインキまたは高反応型インキニスを最適な乳化状態にするため、これら4本のローラのうち互いに接触する一対のローラが逆スリップするように回転駆動され、
前記光照射装置がオゾンを発生させないことを特徴とする印刷機またはコーティング機。」(以下「本願発明」という。)

2 引用刊行物
平成25年12月25日付けの拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用刊行物」に記載したとおりである。

3 対比
本願発明は、上記「第2 3 (1)本願補正発明」で検討した本願補正発明の「確実に硬化させる最適な乳化状態」に関して、「確実に硬化させる」との限定を省き、「高反応型インキ」及び「高反応型ニス」を、それぞれ「高反応型インキインキ」及び「高反応型インキニス」としたものである。
そして、「高反応型インキインキ」及び「高反応型インキニス」は、それぞれ、「高反応型インキ」及び「高反応型ニス」と記載するところ、明らかな誤記と認められるから、引用発明1の「インキ/ニスからなる液体」は、本願発明の「インキインキ」または「インキニス」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1とを対比した場合の相違点は、実質的に、上記「第2 3 (3)対比」で挙げた相違点1及び相違点2の点となるから、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-09 
結審通知日 2015-09-24 
審決日 2015-10-06 
出願番号 特願2010-21339(P2010-21339)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
P 1 8・ 575- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 史彬亀田 宏之  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 山本 一
藤本 義仁
発明の名称 印刷機またはコーティング機  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  

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