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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1308006
審判番号 不服2014-7000  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-16 
確定日 2015-11-24 
事件の表示 特願2009-535487「多発性硬化症の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月29日国際公開、WO2008/063849、平成22年 3月25日国内公表、特表2010-509235〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】手続の経緯
本願は、平成19年11月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年11月3日、米国)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答して平成25年4月9日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年12月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年4月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

【第2】平成26年4月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年4月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項に係る発明
(1-1) 本件補正は、補正前の特許請求の範囲(平成25年4月9日付け手続補正書参照)の請求項1:
『 【請求項1】 脱ミエリン形成状態を処置するための組み合わせ物であって、
a)免疫調節性であり、かつ、T細胞受容体シグナリングを特異的に抑制する、治療に効果的な量の第1薬剤と、
b)ミエリン修復を促進し、かつ、γ-セクレターゼ抑制物質である、治療に効果的な量の第2薬剤と
を含み、
前記第1薬剤および前記第2薬剤を投与することが前記脱ミエリン形成状態の処置に相乗治療効果をもたらす、組み合わせ物。 』

『 【請求項1】 多発性硬化症の再発を抑制するための組み合わせ物であって、
a)リガンドまたはその受容体を介して自己免疫応答を抑制する第1薬剤であって、ここで、前記リガンドまたはその受容体が、CD80、CD3、CD86、CD28、および、CD40Lからなる群から選択され、前記第1薬剤が抗体である、第1薬剤と、
b)ミエリン修復を促進し、かつ、γ-セクレターゼ抑制物質である第2薬剤と
を含み、
前記第1薬剤および前記第2薬剤を投与することが前記多発性硬化症の再発の抑制に相乗治療効果をもたらす、組み合わせ物。 』
に補正することを含むものである。

(1-2) 上の補正は、以下の(i)及び(ii):
(i)補正前の「脱ミエリン形成状態」を、例えば補正前請求項5(補正前請求項1の従属項)の「・・脱ミエリン形成状態が多発性硬化症である・・・」の規定に基づき「多発性硬化症」(MS)に限定し、かつ、「処置するための」を、MSにおいてみられる「再発」(例えば明細書の【0002】、【0006】)「を抑制するための」に、それぞれ限定し; 併せて、
(ii)「第1薬剤」について、補正前請求項1の従属項である補正前請求項6の「・・第1薬剤が自己免疫応答を抑制する・・・」や同補正前請求項22の「・・第1薬剤がリガンドまたはその受容体に特異的であり、前記リガンドまたはその受容体がCD80、CD3、CD86、CD28、およびCD40Lからなる群から選択される・・・」等に基づき「リガンドまたはその受容体を介して自己免疫応答を抑制する第1薬剤であって・・・リガンドまたはその受容体が、CD80、CD3、CD86、CD28、および、CD40Lからなる群から選択され」るものに限定し、かつ、その分子形態を補正前請求項9(補正前請求項1の従属項)の「・・第1薬剤・・・が・・・、および抗体からなる群から選択される・・・」等の記載に基づき「抗体」に限定する;
ものである。そして、補正前の発明と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるといえる。
よって、同補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(1-3) そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、単に「補正発明」ということがある。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)について

(2-1)刊行物の記載
本願の優先日前に頒布されたことが明らかな以下の刊行物A?Cには、それぞれ次の事項が記載されている。[当審注:刊行物A?Cはいずれも原文が英語のため当審による訳文にて記す。下線も当審による。なお、刊行物Aの訳文作成に際し、対応する日本国特許出願の公報である特表2007-511529号公報を参照した。]

・刊行物A:米国特許出願公開第2005/0196395号明細書 (原査定時の引用文献5)
・刊行物B:CURRENT DRUG TARGETS INFLAMMAT. ALLERGY, (2005) 4(2) P.205-216 (原査定時の引用文献6)
・刊行物C:J. NEUROIMMUNOLOGY, (2005) 170 P.3-10 (原査定時の引用文献9)

(a)刊行物Aの記載事項
a1.請求の範囲
『 1.被験体における自己免疫疾患の治療、予防、又は発症遅延の方法であって、抗CD3抗体を投与することからなり、ここで該投与は経口又は経粘膜である、方法。
・・・
3.自己免疫性疾患が、多発性硬化症、I型糖尿病、・・・より成る群から選択される、請求項1の方法。
4.経口もしくは経粘膜投与に適している、抗CD3抗体を含む医薬組成物。
・・・ 』

a2.8頁右欄[0093][参照公表公報【0058】]
『 [0093] 経口もしくは経粘膜投与用抗CD3抗体組成物は、自己免疫性疾患治療に有用な1又はそれ以上の治療剤を含有することもできる。そのような治療剤は、例えば、・・・ 』

a3.10頁[0105][参照公表公報【0068】]
『 [0105] 多発性硬化症(MS)は、典型的には再発性もしくは慢性の進行性ニューロン機能不全によって臨床的に特徴付けられ、CNSの損傷によって起こる。病理学的には、損傷は複数領域の脱髄を含み・・・少なくとも部分的には自己免疫性か又は免疫を介した疾患であると広く信じられている 』

a4.10頁[0109][参照公表公報【0071】]
『 [0109] ・・・。いくつかの実施態様においては、経口抗CD3抗体は、ひとつもしくはそれ以上のMSの症状・・・に対する治療と組み合わせて投与される;そのような治療には薬剤、・・・が含まれる。・・・ 』

a5.11頁右欄[0127]?[0138][参照公表公報【0086】?【0090】]
『 [0127] 材料および方法
[0128] 抗CD3抗体
[0129] ハムスター145-2C11 mAb(IgG抗マウスCD3ε-鎖)を産生するハイブリドーマ細胞はATCCから購入された。・・・
・・・
[0130] 精製ハムスターIgG(・・・)をアイソタイプ対照(IC)として使用した。
・・・
[0137] PLPで免疫されたマウスにおける、MSの動物モデルであるEAEの臨床経過の誘導および評価
[0138] 抗CD3抗体を最後に給餌してから2日後、完全フロインドアジュバント(CFA)と1:1で乳化されたミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)フラグメント(139-151)(50μg/マウス)を用いてSJLマウスの肉趾に免疫することにより、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE、多発性硬化症の動物モデル)を誘導した。免疫時および48時間後に150ngの百日咳毒素(PT)を静注した。・・・ 』

a6.12頁右欄39?55行[参照公表公報【0096】?【0097】]
『 実施例1
・・・
[0147] 本実施例に記載している実験は、EAE感受性系統であるSJLマウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の臨床経過に対し経口投与した抗CD3抗体が及ぼす影響を調べたものである。
[0148] ・・・。最後に抗CD3抗体を給餌してから48時間後に、CFAで乳化された50μgのPLP(139-151)を用いてマウスを免疫することにより、EAEが誘導された。・・・ 』

a7.15頁左欄41行?右欄9行[参照公表公報【0124】?【0125】]
『 実施例11
・・・
[0176] 本実施例に記載された実験は、自己免疫性糖尿病のモデルであるNODマウスにおけるEAEの誘導および症状に対し経口投与された低用量の抗CD3抗体が及ぼす影響について調べたものである。15週齢のNODマウスは、MOG(35-55)ペプチドで免疫された場合、慢性EAE/MSのモデルである。
[0177] ・・・。この結果は、経口投与の効果は、特定の動物モデルに限定されないことを示している(実施例1及び5を併せて考慮されたい)。さらに、本実験の結果が示すのは、経口投与され抗CD3抗体は、MSの慢性モデル、ならびに、別異の抗原性ペプチドを用いてEAEを誘導した実施例1及び5に示されたような再発/寛解モデルに対し、治療効果を有するということである。 』

a8.16頁左欄下から5行?右欄24行[参照公表公報【0137】?【0139】]
『 実施例16:EAE誘導の前または後に投与した抗CD3抗体の影響
[0189] この実施例で示された研究は、抗CD3抗体の経口投与の時期(即ち、PLP由来のペプチドでSJLマウスを免疫することによるEAE誘導の前および後)がEAEの臨床経過に及ぼす影響を調べたものである。
[0190] SJLマウスは、0.5、5もしくは50μgの抗CD3抗体またはICを、免疫前に5日間(-7日目?-2日目)及び疾患のピーク時(免疫後13日目?17日目)に、給餌された。最後の給餌から48時間後、マウスはCFAで乳化された50μgのPLP(139-151)で免疫された。EAEは次のように採点された:0=疾患なし;1=垂れた尾;2=後肢弱り;3=後肢麻痺;4=前後肢麻痺;5=瀕死状態。統計分析は、累積スコアの平均±SEMを用いて行った。
[0191] 結果は図17A?Cに示す。EAE誘導前に給餌された全ての給餌マウスが、IC群と比較して、顕著な疾患阻害を示した(0.5μgの抗CD3抗体給餌群はp=0.055;5μgの抗CD3抗体給餌群はp=0.016;50μgの抗CD3抗体給餌群はp=0.03)。疾患のピーク時(13日目?17日目)に5μgの抗CD3抗体を給餌されたマウスは、ペプチドによる免疫前(-7日目?-2日目)及び疾患ピーク時(13日目?17日目;図17B)にICを給餌された群と比較して、顕著な疾患の阻害を示した(免疫前p=0.03;ピーク時p=0.016)。これらの結果は、EAE発症後に抗CD3抗体を経口投与しても特定の用量下では有効であることを示すものである。 』

a9.図17A,B




(b)刊行物Bの記載事項
b1.205頁 標題
『 自己免疫疾患におけるTCRシグナル伝達及び共刺激の治療的遮断 』

b2.205頁 要約
『 ・・・。多くの自己免疫障害では、自己抗原特異的な応答は活性化された抗原提示細胞(APCs)上にディスプレイされた自己ペプチドを伴う特異的T細胞の活性化により誘導される。・・・。T細胞を活性化するには、2つのシグナル:MHCクラスIIとの関連で提示された自己抗原によるT細胞受容体(TCR)の会合、及び共刺激(CD28-CD80/CD86相互作用)が必要である。TCRによるMHCII会合を介し、またT細胞の分化及びエフェクター機能(とりわけ、CD154-CD40相互作用)を制御する共刺激現象を介したフィードバックもまたAPCに供給されねばならない。このことを考慮し、会合ならびに自己反応性細胞の活性化をブロックするための非常に多くの戦略がこれまでに開発されてきた。我々は、TCR及び共刺激分子を標的とする3つの個別の免疫療法ストラテジー:i)TCRシグナリングのブロック(非分裂促進性抗CD3モノクローナル抗体を用いて);ii)CD28共刺激のブロック(抗B7モノクローナル抗体による遮断);ならびにiii)APC上のCD40会合のブロック(抗CD154モノクローナル抗体による遮断)の有効性及び根底にある分子メカニズムについての理解の最近の進歩を、概説し考察する。 』

b3.206頁右欄32行?207頁左欄28行
『 非特異的T細胞活性化及び“初回投与”応答の双方がない中で抗CD3mAb免疫療法の免疫抑制的性質を維持する目的で、2種の非分裂促進的形態のCD3-IgGが産生された。第1の形態では、天然CD3-IgG抗体は酵素で消化されて、FcR結合領域を欠き、よって該mAbのCD3ε分子と架橋する能力が顕著に減じられたF(ab’)2抗体フラグメント(CD3-F(ab’)2)が作製された。第2の形態では、天然形態のCD3-IgGは、通常FcRsに対し高い親和性を有する該抗体の天然Fc部位(IgG)がFcRsに対し非常に低親和性のFc部位(IgG_(3))に置換されるよう遺伝子的に改変されて、キメラ抗体CD3-IgG3がもたらされた[24]。
・・・
・・より最近では、我々のグループの研究が明らかにしたのは、2つの形態の非分裂促進的抗CD3(CD3-F(ab’)2及びCD3-IgG_(3))のいずれかでの処置はインビトロ及びインビボの双方下で非特異的T細胞活性化、増殖、またはサイトカイン産生を生ずることなく臨床上のEAE発症/進行を顕著に抑制する、ということである(出版物に投稿中)。・・・』

b4.207頁右欄66?70行
『 ・・・。我々の研究結果が明らかにするのは、非分裂促進的抗CD3mAbのPLP_(139-151)/CFAプライミング時の投与は臨床上の疾患経過に影響を与えることはできないが、自己抗原プライミング後疾患の発症もしくは臨床疾患のピーク相当する時期での処置は疾患の進行に対し顕著な保護をもたらした、ということである。・・・ 』

b5.209頁左欄25?26行
『 ・・・再発性の実験的自己免疫性脳脊髄炎(R-EAE)・・・ 』

b6.210頁左欄3?9行
『 これまで我々の実験室における試験は、進行中のR-EAE期間中の共刺激の遮断の治療上の将来性を評価することに集中して来た。我々の手中では、急性PLP_(139-151)誘導性EAEからの寛解期間中のインタクトな抗B7-2mAbによる処置は再発率測定による疾患の進行に対し効果はなかったが、一方、非架橋性の抗B7-1F(ab)フラグメントによる処置は臨床的再発及びPLP_(178-191)エピトープのエピトープ拡散を効果的にブロックした[107]。・・・ 』

b7.210頁右欄下から19?17行
『 ・・・。1980年代後半、天然のCD40に対するリガンドであるCD154がマウス及びヒトの双方で・・・同定された[119,120]。・・・ 』

b8.211頁左欄65?74行
『 ・・・、CD154またはCD40ノックアウトマウスで機能上みられたことと抗体によるCD154遮断との間では様々な差異があることがこれまでに知られている。中でも注目すべきは、抗CD154による遮断期間中で持続した応答がみられる[175,176]のに比して、ノックアウトマウスでは免疫応答が維持されない[173,714]。実際、マウスにおいて、抗体を用いた短期間のCD154遮断は、処置後少なくとも90日間R-EAEの進行及び発現の制御に非常に有効である[175、176]という事実があるにもかかわらず、T細胞による抗原特異的応答の長期の進行に対してはインビボで殆ど効果がみられないようである。・・・ 』

b9.212頁右欄下から4行?213頁左欄29行
『 概要
CD3シグナリングならびにB7/CD28及びCD154/CD40共刺激の遮断はヒトの自己免疫疾患、組織及び器官の移植、ならびにアテローム性動脈硬化の多くの動物モデルの誘導を抑制するのに著しく有効であることが証明されてきた。加えて、我々の研究は、R-EAEモデルにおける前以て構築された疾患期間中のこれら個々の治療の適用が、それらの疾患再発を抑制する能力及び通常エピトープ拡散現象の結果として誘発される内在性ミエリンエピトープへの付随するT細胞応答の進行を抑制する能力により測定される、進行中疾患の顕著な寛解をもたらすことを明確に示した。・・・。各アプローチの基礎をなす分子メカニズムのより詳細な理解はより効果的な治療をもたらすことになるだろう。・・・
要約すると、TCRならびに共刺激受容体を介したシグナル伝達のブロックに向けられた治療戦略は、自己免疫疾患の進行制御において大いに期待できるものであり、また、短期間の適用下であれば、長期免疫抑制の結果もたらされる副作用を伴うことなく長期間の抗原特異的制御をもたらすものである。それらの作用機序に関する我々の理解の進歩は、改善された薬物設計及び適用と併せ、それらの将来の治療上の可能性を顕著に高めるであろう。』

(c)刊行物Cの記載事項
c1.3頁 標題
『 Notchシグナル伝達の阻害は多発性硬化症動物モデルにおける組織修復を増進する 』

c2.3頁 要約
『 オリゴデンドロサイト(OLs)は多発性硬化症(MS)における免疫攻撃により破壊されたミエリンの再生には役立たず、その病変部位はいずれは大部分がアストロサイトの瘢痕組織により占められる。病変部はかなりの数のOL前駆細胞(OPC)を含むことから、MSにおけるOLsの損失は限られたミエリン修復を説明しない。これまでにNotch経路の活性化がOPCに阻害性シグナルを提供しCNS発達期間中のミエリン産生能力を阻害することが示されている。ここで我々は、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)SJL/JマウスCNSのOL内部のNotchシグナル伝達のγ-セクレターゼ阻害が臨床的回復を著しく増進し、再ミエリン化を促進しそして軸索損傷を減少させたことを示す。機能分析は阻害剤処置群において低減されたNotchシグナル伝達を確認した。したがって、γ-セクレターゼ阻害はミエリン修復及び軸索生存へのより伝導性の環境をもたらした。我々の結果が示唆するのは、成熟したCNSにおけるNotch活性化に関連した環境の操作がMSにおける将来有望な治療上の標的を提供するということである。 』

c3.4頁左欄24?47行
『 2.材料及び方法
2.1.EAEの誘導
EAEは雌の6-10週齢SJL/Jマウスで誘導された。脳炎惹起性のプロテオリピドタンパク質ペプチドであるPLP_(139-151)がフロイント完全アジュバント(・・・)中で乳化され、免疫に用いられた。0日目、動物はPBS中に溶解された0.1mgのPLPペプチドと0.15mlCFA中の0.6mg結核菌との混合物を腹部2箇所に皮下注入された。0日目及び免疫後3日目、各マウスは尾部静脈を通じて百日咳毒素(・・)を静注された。臨床徴候の発症は免疫後9?13日の間に生じた。マウスは毎日・・・臨床徴候について検査され0-5のスケールで臨床的に評価された。臨床スコア採点は次のように行った:0・・・、1・・・、2・・・、3・・・、4・・・、5・・・。・・・
・・・
2.2.γ-セクレターゼ抑制剤の投与
γ-セクレターゼ阻害剤であるMW167(Sigma)の脳室内注入はEAE徴候の発現から5日後、臨床症状のピーク時に実施された。・・・』

c4.図1


図1.EAEの臨床的発現に対するMW167の脳室内注入の効果。30匹の動物由来の平均臨床スコアがプロットされている。Notch阻害剤は臨床的発症の5日後(14日目)、疾患のピーク時に投与された。MW167は疾患からの回復を増強する(P<0.05;・・・)。 』

c5.6頁左欄10行?右欄4行
『 ・・。γ-セクレターゼ阻害剤で処置したマウスははるかに軽度の病状を示しより少ない炎症を伴いウォーラー変性を受けた神経線維が点在するのみであった(図2C及びD)。膠細胞の瘢痕は明瞭ではなく、小群の薄くミエリン化された(再ミエリン化された)軸索が脊髄周縁に沿ってまたいくつかの血管の周囲でよくみられた(図2E)。神経病理上の変化はMW167の臨床的効果と一致していた。 』

(2-2)当審の判断

(I)刊行物Aを主引例とした場合の判断

(I-1)刊行物A記載の発明
刊行物Aでは、抗CD3抗体含有医薬組成物による自己免疫疾患の治療、予防、又は発症遅延(a1)の処置例として、多発性硬化症(MS)(a1?a3)のモデルであるEAEマウスの誘導(a5?a7)と同様のPLPによる免疫条件で作製されたEAEマウスに対し、抗CD3抗体145-2C11 mAb(a5)を、EAEの誘導前もしくはEAEのピーク時(PLP免疫時から13?17日目)に、それぞれ0.5μg、5μg又は50g給餌したところ、EAE誘導前に抗CD3抗体給餌された全てのマウス(-△-)においてIC(アイソタイプ対照)群(-■-)に比して顕著な臨床スコアの減少がみられたのみならず、疾患ピーク時に抗CD3抗体給餌された群(-×-)のうち0.5μg又は特に5μg給餌群、特に5μg給餌群において、非給餌群(-◆-)や免疫前の対照(IC)給餌群(-■-)と比較して顕著な臨床スコアの減少がみられたことが「実施例16」として示されている(a8、a9)。
そうすると、刊行物Aには、
「 多発性硬化症の治療、予防、又は発症遅延のための、経口用抗CD3抗体含有医薬組成物 」
の発明(以下、引用発明Aということがある)が記載されているものと認められる。

(I-2)対比・判断
(i) 補正発明と引用発明Aを対比するに、両者は、
多発性硬化症の処置のための物であって、
a)リガンドまたはその受容体を介して自己免疫応答を抑制する第1薬剤であって、ここで、前記リガンド又はその受容体がCD3であり、前記第1薬剤が抗体である、第1薬剤を含む、物
の点で一致するが、
1) 前者は多発性硬化症の「再発を抑制」するための物であるのに対し、後者ではそのような限定はなされていない点
2) 前者は、a)第1薬剤と共に「b)ミエリン修復を促進し、かつ、γ-セクレターゼ抑制物質である第2薬剤とを含み、「前記第1薬剤および前記第2薬剤を投与することが前記多発性硬化症の再発の抑制に相乗治療効果をもたらす、組み合わせ」物 であるのに対し、引用発明Aではそのような規定はない点
(以下、順に相違点1、相違点2ということがある)において、相違する。

(ii) 以下、相違点について検討する。
(ii-1)相違点1について
引用発明Aが示されている刊行物Aの「実施例16」(a8)でMSモデル動物として採用されているEAE誘導マウスは、他の「実施例1」等で採用されているEAE誘導マウスと同様の条件下、PLP(139-151)でマウスを免疫して得られたものである(a5,a6)ところ、それら「実施例1」等のEAEマウスは「再発/寛解モデル」(a7)に相当するものである。
また、本願明細書の実施例4(補正発明の実施例に相当するものと解される)において採用されているモデルマウスもまた、刊行物Aの「再発/寛解モデル」マウスの誘導と同様、PLP_(139-151)による免疫化により作製されている。さらに、同実施例4では、第1薬剤(抗CD80(Fab))、第2薬剤(DAPT)、両者の組み合わせ剤の各投与時期は「疾患の急性期のピーク(免疫化から15?16日後)」(【0187】)であるところ、これも刊行物Aの「実施例16」の「疾患のピーク時(免疫後13日目?17日目)」(a8)と同様であり、しかも、その後の各EAEマウス群の臨床スコアについて経時的に採点することで「多発性硬化症の再発」に相当する臨床スコアの(再)上昇の有無或いは程度が測定されている(本願図3A,B)、という点でも、刊行物Aの「実施例16」の結果を示す図17A,B(a9)と同様である。
これらの点を踏まえると、引用発明Aにおける抗CD3抗体投与の適用対象においてもまた、本願明細書の実施例4で採用されている適用対象においてと同様、疾患のピーク時に抗CD3抗体を投与することでその後の臨床スコアの(再)上昇の抑制、即ち再発症状の抑制、がもたらされたことを示しているものといえる。
そうすると、刊行物Aには、引用発明Aの抗CD3抗体を、多発性硬化症に対する処置の中でも特にその再発の抑制のために適用することについて、その適用例が具体的に示されているといえるから、結局、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
なお、仮に実質的な相違点であるとしても、多発性硬化症がしばしば「再発性」であり(a3)、またMSモデルとして頻用されるEAE誘導マウスが「再発/寛解」モデルとして採用され得ることも刊行物Aに記載されていること(a7)、そのようなマウスをEAEの誘導後の疾患ピーク時に抗CD3抗体で処置することもその臨床スコア抑制効果と共に刊行物Aに記載されていること(a8,a9)、を踏まえると、引用発明Aの抗CD3抗体を多発性硬化症の特に再発抑制のために用いることは、刊行物Aの記載に基づき、当業者が容易になし得たことといえる。

(ii-2)相違点2について
(ア)第1薬剤及び第2薬剤の組み合わせについて
刊行物Cには、γ-セクレターゼ阻害剤(補正発明の第2薬剤である「γ-セクレターゼ抑制物質」に相当する)によるNotchシグナル伝達の阻害がMSモデルにおける組織修復を増進することが記載されており(c1,c2)、具体的には、刊行物Aや本願明細書の実施例4で採用されているのと同様のPLP_(139-151)の免疫化により誘導されたEAEマウス、に対し、その発症(免疫化後9?13日)から5日後、即ち免疫化後14?18日、の疾患ピーク時にNotchシグナリングを抑制するγ-セクレターゼ阻害剤MW167を脳室内投与する(c3)ことにより、臨床スコアが減少し、かつ、?28日間にわたり臨床スコアの(再)上昇を抑制したことを示すデータが記載され(c2,c4)、併せて再ミエリン化、即ちミエリン修復がもたらされたことも記載されている(c2,c5)。
そして、刊行物Aには、第2薬剤としてγ-セクレターゼ抑制物質を併用し得ることについて具体的な記載こそないものの、同じ適用対象自己免疫疾患の治療に有用な1又はそれ以上の治療剤を併せて含有或いは組み合わせて投与し得ることが記載されている(a2,a4)。
また、一般に、薬効増大、副作用低減といった当業者によく知られた課題を解決するために、二以上の医薬成分の組合せを最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮の域を出るものではない。
してみると、これら刊行物A及びCの記載を併せみた当業者であれば、例えばMS症状或いはその再発の抑制効果の更なる増大を企図して、引用発明Aの抗CD3抗体に加えて、刊行物Cのγ-セクレターゼ抑制物質を組み合わせて使用してみることは、上記各刊行物の記載或いは当業者の通常の創作能力の発揮に基づき、容易になし得たものといわざるを得ない。

(イ)「相乗治療効果」について
ところで、MSの症状或いはその再発抑制のための薬剤である点で共通するとはいえ、引用発明Aの抗CD3抗体による自己免疫応答抑制作用と、刊行物Cのγ-セクレターゼ抑制物質によるNotchシグナリング阻害及びそれを介したミエリン修復促進作用とは、その作用機序において異なるものと考えられる。また、少なくともそれら抗CD3抗体の作用機序とγ-セクレターゼ抑制物質のそれとの間に、薬剤同士が拮抗する等の、両者の組み合わせ使用への動機付けの妨げとなるような特段の事情が存在するものとも認められない。
そうすると、上述の抗CD3抗体及びγ-セクレターゼ抑制物質の組み合わせ使用により、各薬剤がそれぞれの機序によって作用し、それぞれの効果が個々に発揮され、よってそれら個々に発揮された効果の総和により、各薬剤の単独使用の場合よりは優れた効果がもたらされる、といった程度のことは、当業者が予期し得た範囲のことといえる。

他方、補正発明に規定される「相乗治療効果」に関し、補正発明に係る請求項1の従属項である請求項3には、『前記相乗効果が前記第1薬剤の単独または前記第2薬剤の単独の治療効果よりも1倍より多く大きい、請求項1・・・の組み合わせ物。』と規定されており、また、本願明細書中にも、例えば『【0021】 ・・・一部の実施形態において、第1薬剤は、前述の第2薬剤と同時に投与される。・・・組成物は、前述の第1薬剤の単独または前述の第2の薬剤の単独の治療効果よりも1倍より大きい相乗効果をもたらし得る。・・・』との記載が認められる[当審注:下線は当審による]。
ここで、これら請求項3や段落【0021】にいう「相乗効果」が補正発明の「相乗治療効果」に該当するものであることは明らかであることを踏まえると、補正発明でいう「相乗治療効果」とは、第1薬剤及び第2薬剤を組み合わせて適用することで、それら第1薬剤、第2薬剤の単独薬剤のいずれか一方の単独薬剤の治療効果に比べ1倍よりも大きい(各単独薬剤のどちらの治療効果と比べても1倍より大きい、ですらない)治療効果、を含むものと解される。
そうすると、そもそも補正発明にいう「相乗治療効果」とは、そのような小さな効果の範囲も含むものと解される以上、少なくとも、上で述べたような組み合わせによりもたらされることが当業者にとり予期し得た各薬剤による個々の効果の発揮の総和(両薬剤の相加的効果であって、少なくとも、各単独薬剤のどちらの治療効果と比べても1倍より大きいことが見込まれる)は、補正発明にいう「相乗治療効果」に十分に相当する程度の効果と解されるものである。

よって、(ア)で述べたような、刊行物A,Cの各記載、及び要すれば当業者の通常の創作能力の発揮に基づき得られる、抗CD3抗体とγ-セクレターゼ抑制物質との組み合わせによってもたらされるMS再発の抑制効果が、補正発明における「相乗治療効果」に相当することもまた、当業者にとり予期し得たことである。

(iii) 補正発明の現実の効果(本願の図3A,B)について
(ア) 本願の図3A,3Bには、PLP_(139-151)による免疫化で「脱ミエリン形成傷害」されたマウス(明細書【0187】。刊行物AのEAEモデルマウスに相当するものと認められる)の「疾患の急性期のピーク(免疫化から15?16日後)」において、第1薬剤として抗CD80(Fab)、及び第2薬剤としてDAPTを組み合わせて投与したところ(-●-)、薬剤なしの場合(-■-。明細書【0187】の「(1)・・・対照抗体」群がこれに相当するものと解される)や第1、第2薬剤を各々単独で投与した場合(順に-▲-、-▼-)に比して、約24日目?36日目(図3A)或いは約21日目?26日目(図3B)にかけて低い臨床スコアが維持され、同スコアの有意な(再)上昇傾向がもたらされなかったことがみてとれる。

(イ) しかしながら、上の(ii-2)(イ)で述べたとおり、ここで採用されている抗CD28(Fab)の自己免疫応答抑制作用と、DAPTのミエリン修復促進作用とは、その作用機序において異なるものと考えられ、また、少なくともそれら抗CD28(Fab)の作用機序とDAPTのそれとの間に、薬剤同士が拮抗する等の、両者の組み合わせ使用への動機付けの妨げとなるような特段の事情が存在するものとも認められないから、各薬剤の効果が個々に発揮され、よってそれら個々に発揮された効果の総和により各薬剤の単独使用の場合に比してより優れた効果がもたらされることは、当業者にとり予期し得たことである。そして、同図3にみられる組み合わせ投与群におけるピーク時からの臨床スコア値の低下及び(再)上昇の抑制傾向が、上記単独投与において個々に発揮される効果の総和から予期し得た範囲を超えて顕著なものであるとまではいえない。
また、本願の図3A,Bと刊行物Aの図17,刊行物Cの図1との対比から明らかなように、補正発明の第1薬剤/第2薬剤として共通するものであるとはいえ、それら第1/第2薬剤の種類或いは投与条件によっては、得られる各薬剤の単独投与時の臨床スコア値の経時プロファイルに差異がみられる(例えば、同じ第1薬剤相当成分であっても、本願図3の抗CD80(Fab)単独投与群と刊行物A図17の抗CD3抗体投与群とでは、臨床スコアの経時プロファイルにおいてかなり異なることがみてとれる)し、また、同じ抗CD3抗体を同様の時期に投与した場合でさえ、その用量により得られる臨床スコア値についてもばらつきが生じる場合があることも、刊行物Aの図17A-17B間の対応する各群のプロファイルの対比から把握し得るものである。そして、本願の図3A,Bにおいて、仮に、臨床スコアの測定日によっては、組み合わせ物の投与により得られている臨床スコアについて、各薬剤の単独投与群で得られた個々の臨床スコア値のみからでは特に予測し得ない値又は傾向が得られていたとしても、それら値又は傾向が、上記薬剤の種類或いは投与条件による差異、もしくは用量により得られる臨床スコアのばらつきを超えて、予想外に優れた程度のものであるともいえない。

さらに、そもそも刊行物Aでは、引用発明Aの抗CD3抗体のEAE疾患ピーク時における経口給餌により、免疫後約20?45日にわたり、(a9の図17A)、或いは約20?50日又はそれ以上の期間にわたり、0かそれに近い臨床スコア値の期間が持続しており(a9の図17A、B中の各-×-)、臨床スコア値の低減及び(再)上昇抑制維持において、既に本願の図3A,Bの抗CD80(Fab)+DAPT組み合わせ投与群より優れた効果がもたらされていたとさえいえる。また、刊行物Cにおいても、EAE疾患ピーク時におけるMW167の脳室内投与により、免疫後約20?28日にわたり対照処置群(c4図1中の-□-)に比して低い臨床スコア値が維持されている(同-●-)。
そして、上記本願の図3A,Bに示される臨床スコア値の低下及び(再)上昇の抑制傾向が、これら引用発明Aの抗CD3抗体とMW167の組み合わせ投与により予期される、個々の薬剤が発揮する臨床スコア値の減少及び(再)上昇抑制を併せた効果を超えて顕著な程度のものである、ともいえない。

(ウ) これらの点を併せて考慮すれば、本願の図3A、3Bのデータを以て、補正発明に係るあらゆる第1薬剤及び第2薬剤の組み合わせ物によってもたらされることが予期される「相乗治療効果」が、もれなく刊行物A及びCの組み合わせによってもたらされることが予期される程度を超えて顕著なものである、とまではいえない。

(iv) なお、請求人は、平成26年5月29日付の手続補正書(方式)(審判請求の理由補充書)において、補正発明の効果に関し、本願の図3から、補正発明の組み合わせ剤により「・・・36日間の試験期間全体を通じても、臨床スコアの有意な上昇を経験せず、再発率の低下に対する明らかな相乗効果が示されました。・・・」と述べており、また、同様の「再発率の低下におけるはっきりとした相乗効果」が平成25年4月9日付け意見書で引用された同日付け手続補足書の甲第1号証「(出願人による追試結果(1))」でも実証されている旨主張する。
しかしながら、(iii)で検討したとおり、本願の図3A,Bにおいて示されているとされている補正発明の「相乗効果」は、刊行物A及びCの組み合わせにより多発性硬化症の再発抑制についてもたらされることが予期される効果を超えて顕著なものであるとはいえないし、この点、甲第1号証で示されているとされる「相乗効果」についても同様である。
よって、上述の請求人の主張は認容できない。

(I-3) したがって、補正発明は、刊行物A及び刊行物Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(II)刊行物Bを主引例とした場合の判断

(II-1)刊行物B記載の発明
刊行物Bでは、自己免疫疾患に対する処置のための(i)TCRシグナリングのブロック、(ii)CD28共刺激のブロック、ならびに(iii)CD40会合のブロック の各有効性について概説されており(b1,b2)、具体的には、(i)の例として、分裂促進的形態のCD3-IgGの投与により、EAEモデルに対し疾患の進行を顕著に抑制し得た例があること(b3,b4)、(ii)の例として、抗B7-1F(ab)フラグメント、即ち抗CD80(Fab)フラグメント、での処置により、再発性EAE(R-EAE)(b5)モデルにおける臨床的再発等がブロックされた例がみられること(b6)、また、(iii)の例として、天然のCD40に対するリガンド、即ちCD40L、であるCD154(b7)に対する抗CD154抗体の投与がR-EAEの進行及び発現の制御に有効であった例がみられること(b8)、等が記載され、以て、上記3つの治療戦略が自己免疫疾患の治療において期待大である旨結論づけられている(b2,b9)。
ここで、上記EAEがMSのモデル、R-EAEモデル再発性MSのモデルとして採用されるものであることは、例えば刊行物Aや刊行物Cで同様のEAEマウスがMSのモデルとして採用されているように当業者にとり明らかであること、また、上述のとおり、B7-1がCD80に、CD154がCD40Lにそれぞれ該当することを踏まえると、刊行物Bには、
「 抗CD3抗体、抗CD80抗体Fab又は抗CD40L抗体の投与により、多発性硬化症の臨床的再発を抑制する方法 」
の発明(以下、引用発明Bということがある)が記載されているものと認められる。

(II-2)対比・判断
(i) 補正発明と引用発明Bとを対比するに、両者は
多発性硬化症の再発を抑制するための物であって、
a)リガンドまたはその受容体を介して自己免疫応答を抑制する第1薬剤であって、ここで、前記リガンド又はその受容体がCD3、CD80又はCD40Lであり、前記第1薬剤が抗体である、第1薬剤を含む、物
の点で一致するが、
前者では、a)第1薬剤と共に「b)ミエリン修復を促進し、かつ、γ-セクレターゼ抑制物質である第2薬剤とを含み、「前記第1薬剤および前記第2薬剤を投与することが前記多発性硬化症の再発の抑制に相乗治療効果をもたらす、組み合わせ」物 であるのに対し、引用発明Bではそのような規定はない点
(以下、相違点ということがある)において、相違する。

(ii) しかしながら、上記相違点は、(I-2)(i)における補正発明と引用発明Aとの間の「相違点2」と同じであるところ、当該「相違点2」は刊行物Cの組み合わせにより当業者が容易になし得たものであることは(I-2)(ii)(ii-2)で述べたとおりである。
してみれば、同(I-2)(ii)(ii-2)で説示したのと同様の理由により、刊行物B及びCの記載を併せみた当業者であれば、例えばMS症状或いはその再発の抑制効果の更なる増大を企図して、引用発明Bの抗CD3抗体、抗CD80抗体又は抗CD40L抗体に加えて、刊行物Cのγ-セクレターゼ抑制物質を組み合わせて使用してみることは、上記各刊行物の記載或いは当業者の通常の創作能力の発揮に基づき、容易になし得たことである。また、そうすることで、少なくとも補正発明の「相乗治療効果」に相当するか又はそれ以上の効果がもたらされることも、当業者にとり予期し得たことといえる。
そして、(I-2)(iii)?(iv)で説示したのと同様の理由からみて、そのようにして得られる「相乗治療効果」が、刊行物B、C或いは刊行物Aで採用されている抗体或いはγ-セクレターゼ阻害物質の各単独投与により発揮される効果から予想されるところを超えて優れた程度のものである、とまではいえない。

(II-3) したがって、補正発明は、要すれば刊行物Aの記載を勘案しつつ、刊行物B及び刊行物Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2-3)小括
以上、(2-1)?(2-2)で述べたとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【第3】本願発明について

1.本願発明
平成26年4月16日付けの手続補正は上述のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、当該補正前の平成25年4月9日付けの手続補正書により補正された請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1、ならびにその従属項である5、6、9、22には、それぞれ次のとおり記載されている(以下、請求項1に係る発明を単に「本願発明」ということがある。また、下線は当審による。)。

『 【請求項1】 脱ミエリン形成状態を処置するための組み合わせ物であって、
a)免疫調節性であり、かつ、T細胞受容体シグナリングを特異的に抑制する、治療に効果的な量の第1薬剤と、
b)ミエリン修復を促進し、かつ、γ-セクレターゼ抑制物質である、治療に効果的な量の第2薬剤と
を含み、
前記第1薬剤および前記第2薬剤を投与することが前記脱ミエリン形成状態の処置に相乗治療効果をもたらす、組み合わせ物。
・・・
【請求項5】 前記脱ミエリン形成状態が多発性硬化症である、請求項1または3に記載の組み合わせ物。
【請求項6】 前記第1薬剤が自己免疫応答を抑制する、請求項1または3に記載の組み合わせ物。
・・・
【請求項9】 前記第1薬剤または前記第2薬剤が改変ペプチドリガンド、ペプチド結合細胞、アンチセンス分子、siRNA、アプタマー、小分子、および抗体からなる群から選択される、請求項1または3に記載の組み合わせ物。
・・・
【請求項22】 前記第1薬剤がリガンドまたはその受容体に特異的であり、前記リガンドまたはその受容体がCD80、CD3、CD86、CD28およびCD40Lからなる群より選択される、請求項1?15のいずれか1項に記載の組み合わせ物。 』

2.原査定の理由の概要
本願発明に係る原査定の拒絶の理由2の一部の概要は、引用文献1、5、6のいずれかに記載の抗CD3抗体や抗CD80抗体等と引用文献9に記載のγ-セクレターゼ阻害物質を併用して本願発明の組み合わせ物とすることは当業者が容易になし得たことであるから、本願発明は進歩性を有さないというものである。

3.当審の判断
(3-1)刊行物A?C(原査定の引用文献5,6,9)の記載事項
【第2】2.(2-1)(a)?(c)で摘記したとおりである。

(3-2)対比・判断
本願発明の従属項である請求項5,6,9,22の規定を踏まえつつ、本願発明と補正発明を対比すると、【第2】1.(1-2)で述べたように、前者の「脱ミエリン形成状態を処置」は後者の「多発性硬化症の再発を抑制」の上位概念であり、また、前者の「a)免疫調節性であり・・・第1薬剤」は後者の「a)リガンドまたはその受容体を介して・・・抗体である、第1薬剤」の上位概念であると解されることから、本願発明とは補正発明の上位概念の発明であって、補正発明を包含するものと解される。
そうすると、本願発明は、補正発明について上の【第2】2.で説示したのと同様の理由により、刊行物A(引用文献5)及び刊行物C(引用文献9)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、要すれば刊行物Aの記載を勘案しつつ刊行物B(引用文献6)及び刊行物Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、といえるから、進歩性を有さない。

(3-3)むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について論及するまでもなく、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-02 
結審通知日 2015-07-03 
審決日 2015-07-14 
出願番号 特願2009-535487(P2009-535487)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大久保 元浩
川口 裕美子
発明の名称 多発性硬化症の治療  
代理人 大塩 竹志  

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