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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1308012
審判番号 不服2014-13398  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-10 
確定日 2015-11-24 
事件の表示 特願2010-261471「マルチポイント・タッチスクリーン」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 81825〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年(平成17年)4月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004(平成16年)5月6日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2007-508653号の一部を、平成22年11月24日に新たな特許出願としたものであって、平成25年3月29日付けで拒絶理由が通知され、同年7月8日付けで手続補正がなされたが、平成26年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年7月8日付けの手続補正書の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】
グラフィカル・ユーザ・インターフェースを表示するためのスクリーンを有するディスプレイと、
前記スクリーンを見ることができる透明なタッチ・パネルであって、前記タッチ・パネル上の別々の位置で同時に生じる複数の接触事象を認識し、その情報をホスト・デバイスへ出力するタッチ・パネルと、を含み、
前記タッチパネルは、互いに独立して機能して前記タッチ・パネル上の別々のポイントを表す複数の透明な相互容量感知ノードを含むものであり、
前記相互容量感知ノードは、透明な導電材料から作られた空間的に分離されたラインのグループから形成されており、
前記空間的に分離されたラインのグループは、駆動ラインと感知ラインとを含むものであり、
前記感知ラインは、前記相互容量感知ノードを形成するために、前記駆動ラインから電気的に絶縁され、前記駆動ラインを横断しており、前記駆動ラインは、電圧源へ動作的に接続されており、
フィルタ、をさらに含み、
前記感知ラインは、前記フィルタに動作的に接続され、前記フィルタは反転増幅器を含む、ことを特徴とするディスプレイ装置。」

3.引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された特開2002-342033号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載がある。

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンピュータに対してオブジェクトの操作やコマンドなどの入力を行うためのユーザ入力装置に係り、特に、コンピュータに対してオブジェクトの操作やコマンドなどをユーザの指先を用いて直接入力するユーザ入力装置に関する。
【0002】更に詳しくは、コンピュータに対してオブジェクトの操作やコマンドなどの入力を非接触形式で行うユーザ入力装置に係り、特に、2点以上の情報や接近する物体の形状や物体までの距離情報などを認識することができる非接触型ユーザ入力装置に関する。
・・・
(中略)
・・・
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、コンピュータに対してオブジェクトの操作やコマンドなどをユーザの指先を用いて直接入力することができる、優れたユーザ入力装置を提供することにある。
【0013】本発明の更なる目的は、コンピュータに対してオブジェクトの操作やコマンドなどの入力を非接触形式で行うことができる、優れたユーザ入力装置を提供することにある。
【0014】本発明の更なる目的は、2点以上の情報や接近する物体の形状や物体までの距離情報などを認識することができる、優れた非接触型ユーザ入力装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、ユーザの指先などを用いて非接触形式で入力する非接触型ユーザ入力装置であって、複数の線状の送信電極と、前記の各送信電極に送信用の交流電流を供給する発信器と、前記の各送信電極とは接触しないように配置された複数の線状の受信電極と、受信電極を流れる交流電流を受信する受信器とを備え、送信電極と受信電極の各交差点においてコンデンサと等価な回路が形成されている、ことを特徴とする非接触型ユーザ入力装置である。
【0016】このような構成の非接触型ユーザ入力装置によれば、送信電極と受信電極の各交差点では、コンデンサと等価な第1のコンデンサ等価回路が仮想的に形成されている。
【0017】また、ユーザの指先などの導電性の物体が接近したことに応じて、第1のコンデンサ等価回路とは並列的となる第2のコンデンサ等価回路が仮想的に形成される。
【0018】前記第2のコンデンサ等価回路の静電容量は、指先などの該導電性の物体との接近の程度に応じて変化していく。したがって、第2のコンデンサ等価回路とは並列的に接続された前記第1のコンデンサ等価回路を通過する交流電流は、指先などの該導電性の物体との接近の程度に応じて同様に変化する。このような現象を利用して、非接触型のユーザ入力装置は、指先が接触したことだけでなく、接近したときの指先までの距離を計測することができる。
【0019】また、前記送信器は、各送信電極に対して交流電流をスキャンして、交流電流を送信した送信電極と交流電流を受信した受信電極との位置関係により入力位置を検出する信号処理部をさらに備えていてもよい。
【0020】このような場合、非接触のユーザ入力装置は、入力位置を検出した送信電極と受信電極の交差点を追跡していくことにより、接近している物体の輪郭を計測することができる。すなわち、非接触のユーザ入力装置は、単にユーザの指先などの物体が近づいたということを検知するだけではなく、物体の形状を認識することができる。また、2以上のユーザが同時に非接触ユーザ入力装置にアクセスしようとしても、各人の指先を分離して認識することも可能である。
【0021】前記送信器は、各送信電極に対して交流電流をスキャンさせながら印加するようにしてもよい。そして、非接触型ユーザ入力装置は、交流電流を送信した送信電極と交流電流を受信した受信電極との位置関係により入力位置を検出する信号処理部をさらに備えていてもよい。
【0022】前記信号処理部は、送信電極と受信電極の交差点で形成される第1の仮想コンデンサの静電容量と、ユーザの指先などの導電性の物体が送信電極と受信電極の交差点に接近したことに応じて形成される第2の仮想コンデンサの静電容量との相違を利用して、該導電性の物体が接近したことを検出することができる。
【0023】また、前記信号処理部は、ユーザの指先などの導電性の物体と各電極との間で仮想的に形成されるコンデンサの静電容量を統合することで、該導電性の物体の位置を検出することができる。
【0024】また、本発明に係る非接触型ユーザ入力装置のうち少なくとも前記複数の送信電極と前記複数の受信電極とが交差してなるユーザ入力領域を、表示装置の表示画面上に重畳させることによって、表示一体型のユーザ入力装置を構成することができる。例えば、液晶表示ディスプレイや有機LEDなどと一体的に、本発明に係る非接触型ユーザ入力装置を構成することができる。
・・・
(中略)
・・・
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳解する。
【0029】図1には、本発明の一実施形態に係る非接触型ユーザ入力装置1の基本構成を模式的に示している。
【0030】同図に示すように、非接触型ユーザ入力装置1は、複数の線状の送信電極11-1,11-2,…,11-mと、各送信電極11-1…に送信用の所定周波数(例えば100KHz)の交流電流を供給する発信器12と、静電作用によって各送信電極11-1…からの交流電流を受信する複数の線状の受信電極15-1,15-2,…,15-nと、各受信電極15-1…を流れる交流電流を受信する受信器16とで構成される。受信器16は、所定周波数帯域の交流電流のみを通過させるバンド・パス・フィルタ(BPF)16Aと、増幅器16Bと、検波器16CとからなるAM変調器と、検波出力をデジタル形式の信号に変換するA/D変換器16Dとで構成される。
【0031】各受信電極15-1,15-2,…,15-nは、図1では各送信電極11-1,11-2,…,11-mと交差点を持つことが分かるが、交差点ではこれら電極どうしが接触していない。言い換えれば、電極どうしの各交差点では、電荷を蓄積するコンデンサと等価な回路が実質上形成されている。したがって、送信電極に交流電流が通過すると、これに対向する受信電極には、静電誘導によって、その交差点を介して交流電流が流れる。これら各送信電極11-1,11-2,…,11-mと各受信電極15-1,15-2,…,15-nが交錯する領域は、非接触型ユーザ入力装置1におけるユーザ入力領域を構成する。このユーザ入力領域は、図示の通り、2次元的な広がりを持つ。
【0032】発信器12は、各送信電極11-1…に対して交流電流をスキャンしながら印加する。したがって、ある瞬間では、各受信電極15-1…には該当する送信電極との交差点におけるコンデンサ等価回路からの交流電流が流れることになり、交流電流を送信した送信電極と交流電流を受信した受信電極との位置関係により入力位置を検出することができる。例えば、A/D変換された各受信電極15-1…における出力信号をプロセッサ20上で所定の演算処理を行うことによって、ユーザ入力領域を介して2次元的なユーザ入力を検出することができる。
【0033】図示の例では、各送信電極11-1,11-2,…,11-mは略平行に配列されているとともに、各受信電極15-1,15-2,…,15-nは各送信電極11-1…とは直交する方向に配列されており、ユーザ入力領域は、電極どうしが均一に網の目上に組み合わされた略平面状の領域である。但し、本発明の要旨はこのような形態に特に限定されるものではなく、各送信電極と受信電極が接触せずに交錯していれば、平面以外の形状、例えば球状やその他の曲面状であってもよい。
【0034】図2には、送信電極11と受信電極15間のある1つの交差点を拡大して示している。また、図3には、この送信電極11と受信電極15との交差点の等価回路を示している。
【0035】送信電極11と受信電極15とが交叉する交差点では、図3に示すように、コンデンサと等価な回路が形成される。
【0036】ここで、送信電極11側に交流電圧を印加すると、送信電極11と受信電極15の間の静電容量Caによって容量結合が起こり、受信電極15に交流電流が発生する。このコンデンサCaを通過する電流の強度は、発信器12における交流電圧の発信周波数に同調したバンド・パス・フィルタ16A、増幅器16B、検波器16C、並びにA/D変換器16Dの各部により信号処理を施すことによって、デジタル・データとして取り出される。受信電極11において受信される交流電流の強度は、コンデンサの静電容量Caにのみ依存する。
【0037】静電容量Caは、送信電極11や受信電極15の変形などがない限り、静的で、固定値を保つ。したがって、送信電極11側に同じ交流電圧が印加される限り、受信電極15側において受信される交流電流の強度は一定となる。
【0038】次いで、このような送信電極11及び受信電極15の組み合わせによって、ユーザの指先などの物体を非接触で検出する仕組みについて説明する。
【0039】図4には、送信電極11と受信電極15間のある1つの交差点にユーザの指先が接近している様子を示している。また、図5には、送信電極11と受信電極15間のある1つの交差点にユーザの指先が接近したときの送信電極11と受信電極15との交差点の等価回路を示している。
【0040】送信電極11と受信電極15とが交叉する交差点では、上述したように、コンデンサCaと等価な回路が形成される。
【0041】また、指先などの人体は仮想的な接地点(アース)とみなすことができる。したがって、その等価回路は、送信電極11と受信電極15の間で形成されるコンデンサCaと、人体と送信電極11並びに人体と受信電極15それぞれの間で直列的に形成される仮想的なコンデンサCb1及びCb2とが、並列的に接続された構成となる。
【0042】したがって、送信電極11側に交流電圧を印加した場合、コンデンサCb1を介してグランドに流れ込む電流の分だけ、送信電極11と受信電極15の間の静電容量Caによる容量結合によって発生する交流電流、すなわち受信電極15側で検出される電流の強度は弱まる。
【0043】静電容量Caは、送信電極11や受信電極15の変形などがない限り、静的で、固定値を保つ。これに対し、人体と送信電極11並びに人体と受信電極15それぞれの間で直列的に形成される仮想的なコンデンサのそれぞれの静電容量Cb1及びCb2は、人体が送信電極11並びに受信電極15に接近するに従って大きくなる。
【0044】このため、同じ交流電圧を送信電極11に印加した場合、受信電極15で検出される交流電流の強度は、人体が送信電極11並びに受信電極15に接近するに従って、小さくなっていく。
【0045】このような現象を利用して、プロセッサ20では、AM変調器16でAM変調され、さらにA/D変換器16Dでデジタル形式に変換された受信信号を用いて、電極間の交差点に人体が接近しているかどうかを判定したり、あるいは、人体がどの程度接近しているか(距離)を計測することができる。
【0046】図1に示したように、本実施形態に係る非接触ユーザ入力装置1は、このような送信電極11-1…と受信電極15-1…との交差点が、m×nのマトリックス状に配列されている。例えば、所定の平面(又は曲面)からなる入力パネル上に、これら各電極の交点を配設することができる。
【0047】交流電圧を各送信電極11-1,11-2,…,11-mに時分割で印加する。そして、それぞれに対応して、各受信電極15-1,15-2,…,15-nに発生する交流電流を順次計測することで、ユーザ入力領域上のどの交差点に人体が接近しているかを判定することができる。
【0048】本実施形態に係る非接触ユーザ入力装置11では、静電作用を利用しているので、ユーザの指先などの人体を検出するために、人体が電極に直接接触している必要はない。また、近傍の交差点で得られた各検出値を統合して、一般的な幾何学的演算などを施すことによって、入力面から指先までの距離を計測することができる。
【0049】また、図1に示すような構成によれば、電極間の各交差点を独立して駆動させることができる。すなわち、それぞれの交差点から独立して検出値を取り出すことができるので、複数の物体(例えば、同じユーザの右手と左手、あるいは複数のユーザの手)が同時にユーザ入力領域に接近してきた場合には、その距離が交差点間のピッチ間隔よりも長ければ、これらを独立した物体として認識することができる。すなわち、複数の物体の位置を同時に計測することができる。
【0050】また、物体の接近が同時に検出された交差点を追跡していくことにより、接近している物体の形状又は輪郭を捉えることができる。
・・・
(中略)
・・・
【0062】本実施形態に係る非接触ユーザ入力装置1を他のデバイスと組み合わせて適用することも考えられる。例えば、液晶表示ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELなどの平面ディスプレイ上に、非接触ユーザ入力装置1を重畳することにより、表示一体型のユーザ入力装置を構成することができる。このようなユーザ入力装置によれば、ユーザは、表示出力されるGUI画面の内容に案内されながら、直感的且つ容易にコンピュータへのコマンド入力を行うことができる。ユーザは、表示画面から視線をそらすことなく入力作業を行うことができ、ご操作する危険も少なくなる。
・・・
(中略)
・・・
【0070】
【発明の効果】以上詳記したように、本発明によれば、コンピュータに対してオブジェクトの操作やコマンドなどをユーザの指先を用いて直接入力することができる、優れたユーザ入力装置を提供することができる。
【0071】また、本発明によれば、コンピュータに対してオブジェクトの操作やコマンドなどの入力を非接触形式で行うことができる、優れたユーザ入力装置を提供することができる。
【0072】また、本発明によれば、2点以上の情報や接近する物体の形状や物体までの距離情報などを認識することができる、優れた非接触型ユーザ入力装置を提供することができる。
【0073】本発明に係る非接触型ユーザ入力装置においては、送信電極と受信電極の各交差点ではコンデンサと等価な第1のコンデンサ等価回路が仮想的に形成されている。また、ユーザの指先などの導電性の物体が接近したことに応じて、第1のコンデンサ等価回路とは並列的となる第2のコンデンサ等価回路が仮想的に形成される。指先などの該導電性の物体との接近の程度に応じて前記第2のコンデンサ等価回路の静電容量が変化して、この結果、前記第1のコンデンサ等価回路を通過する交流電流が変化する。したがって、このような現象を利用することによって、指先が接触したことだけでなく、接近したときの指先までの距離を計測することができる。
【0074】また、各送信電極に対して交流電流をスキャン入力することにより、交流電流を送信した送信電極と交流電流を受信した受信電極との位置関係により入力位置を検出することができる。入力位置を検出した送信電極と受信電極の交差点を追跡していくことにより、接近している物体の輪郭を計測することができる。すなわち、非接触のユーザ入力装置は、単にユーザの指先などの物体が近づいたということを検知するだけではなく、物体の形状を認識することができる。また、2以上のユーザが同時に非接触ユーザ入力装置にアクセスしようとしても、各人の指先を分離して認識することも可能である。」

そして、引用例の上記記載を引用例の関連図面と技術常識に照らせば、次のことがいえる。

(1)引用例の段落【0062】に示される「液晶表示ディスプレイと非接触ユーザ入力装置1を重畳した表示一体型のユーザ入力装置」は、同段落【0062】に記載されるように、ユーザが、表示出力されるGUI画面の内容に案内されながら、直感的且つ容易にコンピュータへのコマンド入力を行うことができるものであるから、その場合の「非接触ユーザ入力装置1」は、GUI画面を見ることができる透明なものである。
したがって、引用例には、「GUI画面を表示するための液晶表示ディスプレイと、前記GUI画面を見ることができる透明な非接触ユーザ入力装置1とを含む、表示一体型のユーザ入力装置」といい得るものが示されている。

(2)引用例においては、上記(1)でいう「非接触ユーザ入力装置1」として、引用例の図1に示される構成を有するものが想定されている。
そして、引用例の段落【0038】?【0050】に示される上記「非接触ユーザ入力装置1」による指先の接近事象の検知原理や、段落【0073】の「指先が接触したことだけでなく、接近したときの指先までの距離を計測することができる。」という記載から明らかなように、上記「非接触ユーザ入力装置1」は、どの程度の指先の接近を検知するようにするかに応じて、指先の非接触の接近事象の検知だけでなく、指先の接触事象の検知にも利用可能なものであり、いわゆるタッチパネルとしても利用可能なものである。
また、引用例の上記段落【0038】?【0050】に示される検知原理や、引用例の段落【0049】の記載から明らかなように、上記「非接触ユーザ入力装置1」は、「非接触ユーザ入力装置1上の別々の位置で同時に生じる複数の指先の接近事象を認識し、その情報を引用例の上記段落【0062】でいうコンピュータへ出力する」機能を有するものである。

(3)以上を総合すると、引用例には、「GUI画面を表示するための液晶表示ディスプレイと、前記GUI画面を見ることができる透明なタッチパネルとを含む、表示一体型のユーザ入力装置であって、前記タッチパネルは、タッチパネル上の別々の位置で同時に生じる複数の接触事象を認識し、その情報をコンピュータへ出力する機能を有する、表示一体型のユーザ入力装置。」といい得るものが記載されている。

(4)引用例の上記段落【0031】?【0050】等の記載から明らかなように、上記(3)でいう「タッチパネル」は、「複数の送信電極11と複数の受信電極15の交差点であって、互いに独立して検出値を取り出すことができる複数の交差点」を含む。
また、上記交差点は、「空間的に分離された送信電極11と受信電極15のグループから形成されている」ともいえる。
さらに、上記受信電極15は、前記送信電極11から電気的に絶縁され、前記送信電極11を横断しており、前記送信電極11は、該送信電極11に交流電圧を印加する発信器12に切り替え可能に接続されている。

(5)引用例の図1、段落【0030】等に示されるように、上記(3)でいう「表示一体型のユーザ入力装置」は、タッチパネルの構成要素として「バンド・パス・フィルタ16A」を含み、上記(4)でいう「受信電極15」は、該「バンド・パス・フィルタ16A」に切り替え可能に接続されている。

以上を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。
「GUI画面を表示するための液晶表示ディスプレイと、前記GUI画面を見ることができる透明なタッチパネルと、前記タッチパネルの構成要素としてのバンド・パス・フィルタ16Aとを含む、表示一体型のユーザ入力装置であって、
前記タッチパネルは、タッチパネル上の別々の位置で同時に生じる複数の接触事象を認識し、その情報をコンピュータへ出力する機能を有し、
前記タッチパネルは、複数の送信電極11と複数の受信電極15の交差点であって、互いに独立して検出値を取り出すことができる複数の交差点を含み、
前記交差点は、空間的に分離された送信電極11と受信電極15のグループから形成されており、
前記受信電極15は、前記送信電極11から電気的に絶縁され、前記送信電極11を横断しており、
前記送信電極11は、該送信電極11に交流電圧を印加する発信器12に切り替え可能に接続されており、
前記受信電極15は、前記バンド・パス・フィルタ16Aに切り替え可能に接続されている、
表示一体型のユーザ入力装置。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(1)引用発明の「GUI画面を表示するための液晶表示ディスプレイ」は、本願発明の「グラフィカル・ユーザ・インターフェースを表示するためのスクリーンを有するディスプレイ」に相当する。

(2)引用発明の「コンピュータ」は、本願発明の「ホスト・デバイス」に相当し、引用発明の「前記GUI画面を見ることができる透明なタッチパネル」は、「タッチパネル上の別々の位置で同時に生じる複数の接触事象を認識し、その情報をコンピュータへ出力する機能」を有するものである。
したがって、引用発明の上記「前記GUI画面を見ることができる透明なタッチパネル」は、本願発明の「前記スクリーンを見ることができる透明なタッチ・パネルであって、前記タッチ・パネル上の別々の位置で同時に生じる複数の接触事象を認識し、その情報をホスト・デバイスへ出力するタッチ・パネル」に相当する。

(3)引用発明の「送信電極11」、「受信電極15」、「交差点」、「送信電極11に交流電圧を印加する発信器12」、「切り替え可能に接続」、「互いに独立して検出値を取り出すことができる」は、それぞれ、本願発明の「駆動ライン」、「感知ライン」、「相互容量感知ノード」、「電圧源」、「動作的に接続」、「互いに独立して機能して前記タッチ・パネル上の別々のポイントを表す」に相当する。
そして、それを踏まえると、引用発明の
「前記タッチパネルは、複数の送信電極11と複数の受信電極15の交差点であって、互いに独立して検出値を取り出すことができる複数の交差点を含み、
前記交差点は、空間的に分離された送信電極11と受信電極15のグループから構成されており、
前記受信電極15は、前記送信電極11から電気的に絶縁され、前記送信電極11を横断しており、
前記送信電極11は、該送信電極11に交流電圧を印加する発信器12に切り替え可能に接続されており、」
という構成は、
本願発明の
「前記タッチパネルは、互いに独立して機能して前記タッチ・パネル上の別々のポイントを表す複数の透明な相互容量感知ノードを含むものであり、
前記相互容量感知ノードは、透明な導電材料から作られた空間的に分離されたラインのグループから形成されており、
前記空間的に分離されたラインのグループは、駆動ラインと感知ラインとを含むものであり、
前記感知ラインは、前記相互容量感知ノードを形成するために、前記駆動ラインから電気的に絶縁され、前記駆動ラインを横断しており、前記駆動ラインは、電圧源へ動作的に接続されており、」
という構成と、
「前記タッチパネルは、互いに独立して機能して前記タッチ・パネル上の別々のポイントを表す複数の相互容量感知ノードを含むものであり、
前記相互容量感知ノードは、導電材料から作られた空間的に分離されたラインのグループから形成されており、
前記空間的に分離されたラインのグループは、駆動ラインと感知ラインとを含むものであり、
前記感知ラインは、前記相互容量感知ノードを形成するために、前記駆動ラインから電気的に絶縁され、前記駆動ラインを横断しており、前記駆動ラインは、電圧源へ動作的に接続されており、」
という構成である点で共通する。

(4)引用発明の「表示一体型のユーザ入力装置」が「前記タッチパネルの構成要素としてのバンド・パス・フィルタ16A」を含むことは、本願発明の「ディスプレイ装置」が「フィルタ」を含むことに相当し、引用発明の「前記受信電極15は、前記バンド・パス・フィルタ16Aに切り替え可能に接続されている」という構成は、本願発明の「前記感知ラインは、前記フィルタに動作的に接続され」という構成に相当する。

なお、本願明細書には、感知ラインに接続されるフィルタとしては段落【0072】、【0073】に示されるフィルタ236が記載されているのみであり、そのフィルタ236の作用は、引用発明のバンド・パス・フィルタ16Aの作用とは異なるものである可能性も否定はできないが、以下の事情を勘案すると、上記のように、本願発明の「ディスプレイ装置がフィルタを含む」構成は、引用発明の「表示一体型のユーザ入力装置が前記タッチパネルの構成要素としてのバンド・パス・フィルタ16Aを含む」構成に相当する(本願発明の「ディスプレイ装置がフィルタを含む」構成は、引用発明の「表示一体型のユーザ入力装置が前記タッチパネルの構成要素としてのバンド・パス・フィルタ16Aを含む」構成を含んでいる)と考えるのが妥当である、と判断した。
ア.本願請求項1のフィルタについての記載は、当該フィルタの具体的回路構成や特性についての何らの限定も有しておらず、そのフィルタが引用発明のバンド・パス・フィルタ16Aと同様の作用を奏するフィルタを含むものとして明確である。
イ.上記段落【0072】、【0073】のフィルタ236についての記載を見ても、当該フィルタ236が図13に示されるような構成のものであっても良いことや、当該フィルタ236が寄生容量ないし浮遊容量の影響を排除する機能を担うものであることは理解できるものの、当該フィルタ236が寄生容量ないし浮遊容量によるどのような影響をどのような原理に基づいて排除するものなのかといった事項や、どのような特性がそのフィルタ236の特性として必要なのかといった事項は不明であり、当該段落【0072】、【0073】のフィルタ236についての記載をもって、本願発明の「フィルタ」が引用例のフィルタ(バンド・パス・フィルタ16A)と同様の作用を奏するフィルタを除外しているとまではいえない。
ウ.引用例に、本願発明の「ディスプレイ装置がフィルタを含む」構成に相当する構成が示されていることは、拒絶査定の備考欄で指摘されているが、請求人は、その指摘に対する反論をしていないし、本願発明の「フィルタ」が引用例の「フィルタ(バンド・パス・フィルタ16A)」と同様の作用を奏するフィルタを含まないものであることが明確になるような補正もしていない。

以上によれば、本願発明と引用発明の間には次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「グラフィカル・ユーザ・インターフェースを表示するためのスクリーンを有するディスプレイと、
前記スクリーンを見ることができる透明なタッチ・パネルであって、前記タッチ・パネル上の別々の位置で同時に生じる複数の接触事象を認識し、その情報をホスト・デバイスへ出力するタッチ・パネルと、を含み、
前記タッチパネルは、互いに独立して機能して前記タッチ・パネル上の別々のポイントを表す複数の相互容量感知ノードを含むものであり、
前記相互容量感知ノードは、導電材料から作られた空間的に分離されたラインのグループから形成されており、
前記空間的に分離されたラインのグループは、駆動ラインと感知ラインとを含むものであり、
前記感知ラインは、前記相互容量感知ノードを形成するために、前記駆動ラインから電気的に絶縁され、前記駆動ラインを横断しており、前記駆動ラインは、電圧源へ動作的に接続されており、
フィルタ、をさらに含み、
前記感知ラインは、前記フィルタに動作的に接続される、
ディスプレイ装置。」である点。

(相違点1)
本願発明の「導電材料から作られた空間的に分離されたラインのグループ」は透明であり、そのため、それから形成される「相互容量感知ノード」も透明であるのに対し、引用発明の「導電材料から作られた空間的に分離されたラインのグループ」(空間的に分離された送信電極11と受信電極15のグループ)や、それから形成される「相互容量感知ノード」(交差点)は透明であるとは限らない(引用例には、それらが透明であるか否かについての記載がない。)点

(相違点2)
本願発明の「フィルタ」は、反転増幅器を含むものであるのに対し、引用発明の「フィルタ」(バンド・パス・フィルタ16A)は、反転増幅器を含むものであるとは限らない(引用例には、バンド・パス・フィルタ16Aの具体的回路構成についての記載がない。)点

5.判断
(1)上記(相違点1)について
ディスプレイ上に重ねて使用するタッチパネルの電極を透明電極とすること自体は、本願優先日前からごく普通に行われていること、引用発明のタッチパネルも、GUI画面を見ることができるよう透明にされているものであり、引用発明には、その電極を透明にする動機付けが当然にあること、引用発明の電極を透明電極にできない理由はないこと、等の事情を総合すると、引用発明の「導電材料から作られた空間的に分離されたラインのグループ」(空間的に分離された送信電極11と受信電極15のグループ)や、それから形成される「相互容量感知ノード」(交差点)を透明とすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。

(2)上記(相違点2)について
一般に、バンドパスフィルタを反転増幅器を含むものとして構成することは、本願出願前周知であり(拒絶査定に参考文献2として例示された特表2003-516015号公報の図2に22の符号で示される帯域フィルタはその一例である。)、引用発明のフィルタ(バンド・パス・フィルタ16)についても反転増幅器を含むものとして構成できない理由はない。
したがって、引用発明のフィルタ(バンド・パス・フィルタ16)を反転増幅器を含むものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明から容易に想到し得た構成のものが奏するであろうと当業者が予測する範囲内のものであり、本願発明の進歩性を肯定する根拠となり得るようなものではない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-26 
結審通知日 2015-06-29 
審決日 2015-07-10 
出願番号 特願2010-261471(P2010-261471)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 尊志  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 小曳 満昭
山田 正文
発明の名称 マルチポイント・タッチスクリーン  
代理人 西島 孝喜  
代理人 辻居 幸一  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  

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