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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1308093
審判番号 不服2014-4731  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-11 
確定日 2015-11-25 
事件の表示 特願2010-237516「聴覚障害、変形性関節症および細胞の異常増殖に関するatonal関連配列の治療用途のための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月31日出願公開、特開2011- 62204〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2000年(平成12年)6月1日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年6月1日 米国、2000年1月19日 米国)とする特願2001-500839号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、その請求項1?17に記載された発明は、平成25年3月5日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1の記載は、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「単離されまたは精製されたアミノ酸配列または単離されまたは精製されたアミノ酸配列をコードする核酸配列を、送達ビーイクルと組合せて含有する組成物であって、該組成物は、内耳細胞に送達され、有毛細胞を発生させる為の組成物であり、
該アミノ酸配列は、配列表の配列番号58(Hathl)のアミノ酸配列と、少なくとも90%の同一性を有する、組成物。」

第2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願の発明の詳細な説明は、本願請求項1?17に記載された発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、及び、本願請求項1?17に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第3 当審の判断
1.特許法第36条第4項について
(1)本願明細書の記載
本願明細書には、本願発明に関して以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。
ア.「【0035】
本明細書で使用する「atonal関連」なる用語は、ショウジョウバエatonal核酸配列またはアミノ酸配列である任意の核酸配列またはアミノ酸配列、またはそれぞれ上記核酸またはアミノ酸配列と相同である任意の配列または類似性を有する特定の配列として定義する。・・・atonal関連には、特に限定されないが、Math1(マウスatonalホモログ1(mouseatonal homolog 1))、Cath1(チキンatonalホモログ(chicken atonalhomolog 1))、Hath1(ヒトatonalホモログ(human atonal homolog1))およびXath1(アフリカツメガエルatonalホモログ1(Xenopusatonal homolog 1))が含まれる。」(【0035】)
イ.「【0164】
実施例3 トランスジェニックMath1マウスの作製
RNA in situハイブリッド形成によって同定できないかすかなMath1発現パターンを検出し、したがってさらに胚発生の間の本遺伝子の役割を明らかにするために、Math1ヌル対立遺伝子(Math1β-Gal/ β-Gal)を、Math1コード領域をβ-ガラクトシダーゼ(β-Gal)で置換することで作製した。」(【0164】)
ウ.「【0171】
実施例5 トランスジェニックMath1マウスでの発現パターン
予想したように、小脳および背側脊髄でのβ-Gal発現は、Math1のものと同一であり、興味深いことに、β-Galはまた、E12.5にて耳胞上皮h(当審注:原文のまま)のいたるところで、そしてE14.5およびE15.5にて卵形嚢、球形嚢、半規管および渦巻き管の感覚上皮でも発現した。・・・
【0172】
全妊娠期間の1日前のE18.5でのMath1β-Gal/β-Galマウスの内耳の肉眼形態学的解析により、野生型(wt)同腹子と比較して、全構造およびサイズに明らかな欠陥はなにもないことが明らかになった。VIIIth脳神経の分岐が存在し、上皮に達しているが、有毛細胞がないために退化している。
【0173】
感覚上皮を詳細に試験した。野生型、Math1+/β-Gal、およびMath1β-Gal/ β-Galマウスの卵形嚢、うずまき管をノマルスキー光学器によって感覚上皮が見ることができるように切断した。毛束が野生型およびヘテロ接合体の両方の器官で存在したが、Math1ヌル同腹子では完全になかった。渦巻き管および前庭器官の走査型電子顕微鏡図(SEM)により、ヌルマウスでの毛束がないことを確認した(図2A?図2F)。毛束の欠失が、有毛細胞がないことに関係があるかどうかを決定するために、光学顕微鏡および透過型顕微鏡(それぞれLMおよびTEM)を用いて、すべての内耳器官の感覚上皮の切片を試験した(図3A?図3F)。・・・
【0174】
光学顕微鏡により、ヌルマウスでの感覚上皮は明らかに薄く、細胞核の正常層状構造を欠き、不均一に染まり、これらはすべて有毛細胞がないことと関連する。TEMは、明らかに正常卵形嚢での有毛細胞と支持細胞を見分ける。有毛細胞は毛束、低電子密度細胞質、より先端の核を持ち、分泌顆粒を持たない(図4Aおよび4B)。ヌル変異体の感覚上皮は、有毛細胞を完全に欠き、しかし電子密度細胞質、基底部核および分泌顆粒を含む正常な形の支持細胞は持つ(Rusch,etal.,1998)。しかしながら、ヘテロ接合体Math1+/b-Gal マウスは有毛細胞を残している。」(【0171】?【0174】)
エ.「【0175】
実施例6 トランスジェニックMath1マウスでの有毛細胞特異的マーカーの発現
E18.5での有毛細胞の欠失は、POU領域転写因子Brn3cのない状態で観察されたような、(1)感覚細胞先祖の欠失、(2)有毛細胞に分化する先祖の不能性、または(3)分化状態を維持する有毛細胞の不能性のためであり得る。第1の可能性は、先祖が、有毛細胞および支持細胞両方を作り出すから可能性がないようである。残っている可能性を評価するために、有毛細胞特異的マーカー、カルレチニンおよびミオシンVIの発現を試験した。カルレチニンはタンパク質のカルシウム結合ファミリーのメンバーであり、分化有毛細胞(毛束形成の前)および成熟内耳および聴覚有毛細胞で発現しているが、支持細胞には発現していない。Math1β-Gal/ β-Galおよび野生型マウスでのカルレチニン発現を、E15.5、E16.5およびE18.5胚の冠状切片上の免疫蛍光検査にて研究した(図5A?図5F)。
・・・
【0177】
カルレチニン陽性細胞は、野生型マウスの半規管および卵形嚢の感覚上皮にて明らかに見ることができるが、しかしMath1β-Gal/ β-Gal胚はすべての3つの状態でカルレチニンの発現を欠いている。本明細書で開示したマウスモデルを用いて、本発明者等は、有毛細胞がMath1β-Gal/ β-Galマウスの感覚上皮内では発生しないことを示した。・・・」(【0175】?【0177】)
オ.「【0198】
実施例12 Math1は、atoが検出された(当審注:原文のまま。当審では、「検出された」は「欠損された」との誤訳であると判断した。)ハエで、チャイニーズハムスター卵巣細胞(当審注:原文のまま。当審では「弦音器官」を意味するものと判断した。)を部分的に救出する
本実施例は、atonal関連遺伝子が、自然のatonal関連遺伝子または遺伝子産物を欠失している動物中のCNSの発生を誘導できることを示している。本実施例はまた、atonal関連遺伝子が、それらはもともと発現していない種において、治療的に機能できることを示している。
【0199】
atoとMath1、およびその同一の塩基領域の発現パターンの明らかな類似性を考えると、Math1を、以下の方法にて記載したように、正常ではない位置での弦音器官を産出することでのato過剰発現の効果を模倣するかどうかを見るために試験した。ywハエとしても知られる野生型を、記載したような(Brand and Perrimon,1993)UAS-Math1構築物で形質転換した。野生型ハエywでMath1を過剰発現させるために、UAS-Math1ハエをHS-Gal4ハエと交配した。子孫を上述のように(Jarmanet al.,1993)ヒートショックにかけた。ato変異体ハエ、w;UAS-Math1/UAS-Math1中の弦音器官の欠失を回復させるために、atol/TM6ハエを、w;HS-Gal4/CyO;ato1/TM6ハエと交配した。胚を3時間で回収し、3時間加齢させ、30分間、37℃でヒートショックにかけ、ついで12?15時間発生させた。胚を50%ヘプタンを含むPBS中の4%ホルムアミド中で固定した。胚を100%エタノールで洗浄し、PBTに移し、上述したように(Kaniaet al.,1995)、mAb 22C10で染色し、PNSニューロンを検出した。弦音器官ニューロンをその異なる形態および位置より同定した。
【0200】
UAS-Gal4系(Brand andPerrimon,1993)を用いたヒートショックによるさなぎ発生の間のMath1の発現は、結果として、ato(Jarman et al.,1993)およびAchaete-Scute complex(AS-C)遺伝子(Brand and Perrimon,1993、Rodriguez et al.,1990)に関して報告されたように、胸背板(図14A、図14B)および羽根上の不必要な外部感覚器官となる。atoと同じように、ハエでのMath1発現は、効率はよくないが、正常ではない場所での弦音器官を産出する(図8G)。しかしながら、AS-C遺伝子の過剰発現は、結果として正常ではない場所での弦音器官とはならない(Jarmanet al.,1993)。したがって、Math1はatoと同一の機能的特異性を持っている。」
(【0198】?【0200】)

(2)判断
本願発明の組成物は、請求項1における「送達ビーイクルと組合せて含有する組成物であって、該組成物は、内耳細胞に送達され、有毛細胞を発生させる為の組成物」との記載、請求項10における「前記送達ビーイクルは、治療上有効な量の核酸を内耳細胞に送達する結果をもたらし、」との記載、本願明細書の【0003】の「本発明は、一般的に、遺伝子診断および治療の分野に関し、特に、難聴、部分的聴力欠失、内耳有毛細胞の障害または欠失による前庭難聴、変形関節症および異常細胞増殖の治療のための治療用薬剤としてのatonal関連核酸またはアミノ酸配列、または任意のそのホモログまたはオーソログの特徴付けおよび使用に関する。」との記載からみて、実質的に治療用組成物であると解釈される。

本願明細書の記載事項ア.?オ.には、マウス由来のMath1(マウスatonalホモログ1)ホモ欠失マウスの感覚上皮内では有毛細胞は発生しないこと(実施例5、6)、ハエのさなぎ発生の間にMath1を発現させると、トランスジェニックハエは、正常ではない場所に弦音器官を産出したこと(【0200】)は記載されているものの、Math1やHath1のatonal関連のアミノ酸配列またはそれらをコードする核酸配列を内耳有毛細胞を有する動物の内耳に送達して、有毛細胞を発生させたことを確認した記載はない。そもそもヒト由来のHath1に関しては、実施例での具体的な記載はない。
また、実施例12のハエを用いた実験は、ハエの発生段階であるさなぎの間の正常ではない場所での弦音器官形成を誘導するものであって、器官形成の終了した個体の段階において、当該組成物を投与して発現させることで、器官を新たに発生させたことを示すものではなく、そもそも、内耳有毛細胞を有しないハエにおける弦音器官の形成と、内耳有毛細胞を有する動物における有毛細胞の形成との関連も不明である。
そうすると、本願明細書の実施例5-6により、Math1を欠失させると有毛細胞が発生しないことから、Math1が有毛細胞の発生に必要であることは理解できるものの、本願出願時の技術常識を考慮しても、器官形成の終了した動物個体の内耳細胞において、Math1遺伝子を発現させることだけで、有毛細胞を生成させるのに十分であるかは不明である。
さらに、ヒト由来の「Hath1」については、実施例をもって具体的な記載がされていないから、なおさら不明である。

したがって、本願発明について、本願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(4)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、以下のように主張している。
「本発明の共同発明者の一人であるHugo J. Bellen, D.V.M., Ph. D.による宣誓書(資料1)とその翻訳文のコピー(資料2)、また宣誓書中に引用された資料3および資料4を手続補足書にて提出致します。
提出した宣誓書とそこに記載されている文献によって、哺乳類のatonal関連遺伝子(すなわち、Math1)は、異なる種(ショウジョウバエ)で、細胞の運命が決められた後に、感覚器官および中枢系の細胞の形成を誘導することができることが示されています。本願明細書の実施例12における、Math1発現の熱ショック誘導の時点は、野生型のショウジョウバエの蛹の発育の段階を象徴しており、この段階では、既に、細胞が、胸背板および羽根に分化するように決定づけられています。
宣誓書に説明されている通り、当業者には、atonal関連遺伝子のヒトホモログ(すなわち、Hath1)が、完全に分化された哺乳類の内耳において発現された場合に、感覚器官(すなわち、有毛細胞)のデノボ(新たな)発生を誘導できることが、明細書のこれらの実施例から当然に理解できます。」

しかしながら、上記宣誓書においては、「Jarmanら、Cell,73:1307-1321 (1993)には、野生型のショウジョウバエでの蛹の器官におけるatonal(ato)遺伝子の過剰発現が、異所性の感覚器官を生ずることを示した実験が記載されています。蛹を包む殻を形成した約6?24時間後に、熱ショックに曝した場合には、ato発現により、異所性の弦音器官が数多く産生されてしまう。このような異所性の弦音器官は、前面および背面の含むによく見られたとされています。蛹を包む殻の形成前における熱ショックは、異所性の弦音器官の産生の結果にはなりません。atoの熱ショック誘導はまた、過剰な外部の感覚器官の形成に結び付き、そのタイプおよび位置は、熱ショック誘導の時期に依拠しています。」(下線は当審で付与した。以下同じ。)とも記載されている。
また、Molecular and Cellular Neuroscience, 2003, Vol.23, p.169-179(平成25年3月8日付けの手続補足書において示された資料5)の169ページ左欄下から1行?同ページ右欄下から5行には、「有毛細胞の発生に関する最近の研究では、塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス転写因子であるMath1、マウスatonalホモログ、が、未成熟な内耳における特定の細胞での有毛細胞の生成に必要であるだけでなく(Bermingham et al., 1999)、十分であることが示された(Zheng and Gao, 2000)。しかしながら、成熟した哺乳類の内耳におけるMath1の過剰発現が新たな有毛細胞の産生を誘導できるかどうかは明らかではない。齧歯類では、内耳組織は、生後最初の3週間のうちにめざましい構造上の、免疫細胞化学的な、また、生理学的な変化を遂げる。・・・結果として、成熟した耳における細胞が、未成熟な耳が有毛細胞に分化したのと同じ潜在力を有するか否かはわからない。」との記載がある。
これらの記載を参酌すれば、atonal関連タンパク質を発現させた場合の細胞に対する影響は、発現させる分化段階に応じて異なるものであり、どのような影響を及ぼすかについては実験的に確認しなければ不明であるということが本願出願時の技術常識であることがうかがえる。
したがって、実施例12におけるMath1発現の熱ショック誘導の時点が、ショウジョウバエの蛹の発生の段階であり、その段階が、既に、細胞が、胸背板および羽根に分化するよう決定づけられているものであったとしても、蛹から成虫へのハエの発生段階におけるものであることには変わりなく、内耳有毛細胞を有しないハエの特定の発生段階においてMath1を発現させ、異所性の弦音器官形成を誘導したことが、器官形成の終了した内耳細胞を有する動物の内耳細胞において、有毛細胞形成を誘導できることを示すとはいえない。
そもそも、ハエとヒト等の内耳に有毛細胞を有する動物では、生理学的・解剖学的に遠縁すぎて、類似の遺伝子が存在することに基づいたさまざまな研究に用いることはできても、ハエがヒトの治験用の実験動物となり得ないのは、本願出願時の技術常識である。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

2.特許法第36条第6項第1号
請求項1、請求項10、本願明細書の【0003】等の記載からみて、本願発明の解決しようとする課題は、Hath1のアミノ酸配列または該アミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、内耳細胞に送達され、有毛細胞を発生させる為の治療用組成物を提供することであるといえる。

第3 1.で述べた理由と同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識からみて、本願発明について、本願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

第4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に記載の発明について、本願は、特許法第36条第4項及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2015-06-29 
結審通知日 2015-06-30 
審決日 2015-07-13 
出願番号 特願2010-237516(P2010-237516)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 郡山 順
飯室 里美
発明の名称 聴覚障害、変形性関節症および細胞の異常増殖に関するatonal関連配列の治療用途のための組成物および方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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