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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1308112
審判番号 不服2014-15177  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-01 
確定日 2015-11-25 
事件の表示 特願2011-183522「1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペンをベースにした組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月29日出願公開、特開2012- 62469〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成23年8月25日(パリ条約に基づく優先権主張:2010年9月20日、仏国)の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成25年 4月 5日付け 拒絶理由通知
平成25年 7月 8日 意見書・手続補正書
平成26年 4月 3日付け 拒絶査定
平成26年 8月 1日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成26年 8月 8日付け 前置審査移管
平成26年10月10日付け 前置報告書
平成26年10月17日付け 前置審査解除
平成27年 5月 8日 上申書

第2 平成26年8月1日付け手続補正の却下の決定

<決定の結論>
平成26年8月1日付けの手続補正を却下する。

<決定の理由>
I.補正の内容
上記平成26年8月1日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲につき下記のとおり補正することを含むものである。

1.本件補正前(平成25年7月8日付け手続補正後のもの)
「【請求項1】
ポリオール・エステル(POE)またはポリビニルエーテル(PVE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤と、1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒Fとを含む組成物。
【請求項2】
冷媒Fが5?95重量%のtrans-1,3,3,3- テトラフルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と、95?5重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとから成る請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
冷媒Fが30?91重量%のtrans-1,3,3,3- テトラフルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と、70?9重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとから成る請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
POEがネオペンチル骨格鎖を有するポリオール、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンペンタエリスリトールおよびジペンタエリトリトールから得られる請求項1?3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
POEが2?15の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のカルボン酸から得られる請求項1?4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
POEの比率が10?50重量%である請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか一項に記載の組成物の、冷蔵、空気調和およびヒートポンプでの使用。」
(以下、項番に従い「旧請求項1」?「旧請求項7」という。)

2.本件補正後
「【請求項1】
ポリオール・エステル(POE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤と、1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒Fとを含む組成物。
【請求項2】
冷媒Fが5?95重量%のtrans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と、95?5重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
冷媒Fが30?91重量%のtrans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と、70?9重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
POEがネオペンチル骨格鎖を有するポリオール、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンペンタエリスリトールおよびジペンタエリトリトールから得られる請求項1?3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
POEが2?15の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のカルボン酸から得られる請求項1?4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
POEの比率が10?50重量%である請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか一項に記載の組成物の、冷蔵、空気調和およびヒートポンプでの使用。」
(以下、項番に従い「新請求項1」?「新請求項7」といい、それらを併せて「新請求項」ということがある。)

II.補正事項に係る検討

1.補正の目的の適否
本件補正は、上記I.のとおり、特許請求の範囲に係る補正事項を含むので、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
本件補正では、旧請求項1における「ポリオール・エステル(POE)またはポリビニルエーテル(PVE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤」なる並列的選択肢を有する事項につき、新請求項1では、一方の選択肢を削除して、「ポリオール・エステル(POE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤」に限定している。
そして、旧請求項2ないし7については、いずれも、請求項1を引用するという引用関係はそのままに、新請求項2ないし7としている。
してみると、新請求項1ないし7に係る各発明は、旧請求項1ないし7に係る各発明との間で、解決しようとする課題及び産業上の利用分野をそれぞれ一にするものであることが明らかであるから、旧請求項1ないし7から新請求項1ないし7とする本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。

2.独立特許要件
上記1.のとおり、上記特許請求の範囲に係る手続補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かにつき検討する。

(1)新請求項に係る発明
新請求項1に係る発明は、新請求項1に記載された事項で特定されるとおりのものであり、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。
「ポリオール・エステル(POE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤と、1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒Fとを含む組成物。」
(以下、「本件補正発明」という。)

(2)検討
しかるに、本件補正発明については、下記の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

・本件補正発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用刊行物:
・特表2008-531836号公報(原審における「引用文献1」)
(以下「引用例」という。)

ア.引用例に記載された事項
上記引用例には、以下の事項が記載されている。

(a)
「【特許請求の範囲】
・・(中略)・・
【請求項2】
HFC-1234zeと
HFC-1234yf、HFC-1234ye、HFC-1243zf、HFC-32、HFC-125、HFC-134、HFC-134a、HFC-143a、HFC-152a、HFC-161、HFC-227ea、HFC-236ea、HFC-236fa、HFC-245fa、HFC-365mfc、プロパン、n-ブタン、イソブタン、2-メチルブタン、n-ペンタン、シクロペンタン、ジメチルエーテル、CF_(3)SCF_(3)、CO_(2)およびCF_(3)I
からなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含むことを特徴とする組成物。
・・(中略)・・
【請求項10】
請求項2に記載の組成物であって、
・・(中略)・・
トランス-HFC-1234zeおよびHFC-134a;
トランス-HFC-1234zeおよびHFC-152a;
トランス-HFC-1234zeおよびHFC-32;
・・(中略)・・
からなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
請求項2に記載の組成物であって、
・・(中略)・・
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a;
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-32;
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-152a;
・・(中略)・・
からなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
請求項2に記載の組成物であって、
約30重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約70重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a;、
約40重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約60重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-32;、
約40重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約60重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-152a;
・・(中略)・・
からなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
・・(中略)・・
【請求項31】
ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された潤滑油をさらに含むことを特徴とする請求項1?30のいずれか一項に記載の組成物。
・・(中略)・・
【請求項40】
(a)ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された少なくとも1つの潤滑油と、
(b)組成物であって、
・・(中略)・・
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a;
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-152a;
・・(中略)・・
からなる群から選択された組成物と
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項41】
組成物であって、
a)冷媒または伝熱流体組成物であって、
・・(中略)・・
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a;
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-152a;
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-227ea;ならびに
約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのCF_(3)I
からなる群から選択された冷媒または伝熱流体組成物と、
b)相溶化剤であって、
i)式R^(1)[(OR^(2))_(x)OR^(3)]_(y)で表されるポリオキシアルキレングリコールエーテルであって、xが1?3の整数であり、yが1?4の整数であり、R^(1)が水素ならびに1?6個の炭素原子およびy個の結合部位を有する脂肪族炭化水素基から選択され、R^(2)が2?4個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビレン基から選択され、R^(3)が水素ならびに1?6個の炭素原子を有する脂肪族および脂環式炭化水素基から選択され、R^(1)およびR^(3)の少なくとも1つが前記炭化水素基から選択され、かつ、約100?約300原子質量単位の分子量を有するポリオキシアルキレングリコールエーテル;
・・(中略)・・
x)一般式R^(1)CO_(2)R^(2)で表されるエステルであって、R^(1)およびR^(2)が独立して線状および環式の、飽和および不飽和の、アルキルおよびアリール基から選択され、かつ、約80?約550原子質量単位の分子量を有するエステル
からなる群から選択された相溶化剤と
を含むことを特徴とする組成物。
・・(中略)・・
【請求項51】
鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された冷凍潤滑油への請求項1?30のいずれか一項に記載の組成物を含む冷媒または伝熱流体組成物の可溶化方法であって、前記方法が有効量の相溶化剤の存在下で前記潤滑油を前記組成物と接触させる工程を含み、前記相溶化剤が、
・・(中略)・・
からなる群から選択されることを特徴とする方法。
・・(後略)」

(b)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらなる環境規制は究極的には、ある種のHFC冷媒のグローバルな段階的廃止をもたらすかもしれない。現在、自動車業界は、移動式エアコンに使用される冷媒に対する地球温暖化係数にかかわる規制に直面しているところである。それ故、移動式エアコン市場向けに減少した地球温暖化係数の新たな冷媒を特定する、大きな現在の必要性が存在する。規制が将来より広く適用されれば、冷凍およびエアコン業界のすべての分野に使用できる冷媒に対してさらにより大きい必要性が感じられるであろう。
【0006】
現在提案されているHFC-134aの代替冷媒には、HFC-152a、ブタンもしくはプロパンなどの純炭化水素、またはCO2などの「天然」冷媒が含まれる。これらの提案された代替品の多くは有毒であり、引火性であり、および/または低いエネルギー効率を有する。それ故、新たな代替冷媒が捜し求められつつある。
【0007】
本発明の目的は、低いまたはゼロのオゾン破壊係数および現在の冷媒と比べてより低い地球温暖化係数という要求を満たすために独特の特性を提供する新規な冷媒組成物および伝熱流体組成物を提供することである。」

(c)
「【0066】
本発明の組成物は潤滑油をさらに含んでもよい。
【0067】
本発明の潤滑油は冷凍潤滑油、すなわち、冷凍、エアコン、またはヒートポンプ装置での使用に好適なそれらの潤滑油を含む。これらの潤滑油の中には、クロロフルオロカーボン冷媒を利用する圧縮冷凍装置に通常使用されるものがある。かかる潤滑油およびそれらの特性は(非特許文献1)に議論されている。本発明の潤滑油は、圧縮冷凍潤滑の分野で「鉱油」として一般に知られるものを含んでもよい。鉱油はパラフィン(すなわち、直鎖および分岐鎖炭素鎖、飽和炭化水素)、ナフテン(すなわち、環式パラフィン)ならびに芳香族化合物(すなわち、交互二重結合によって特徴づけられる1つまたは複数の環を含有する不飽和の環式炭化水素)を含む。本発明の潤滑油は、圧縮冷凍潤滑の分野で「合成油」として一般に知られるものをさらに含む。合成油はアルキルアリール(すなわち線状および分岐アルキルのアルキルベンゼン)、合成パラフィンおよびナフテン、ならびにポリ(アルファオレフィン)を含む。本発明の代表的な通常の潤滑油は、商業的に入手可能なBVM 100 N(BVAオイルズ(BVA Oils)によって販売されるパラフィン系鉱油)、スニソ(Suniso)(登録商標)3GSおよびスニソ(登録商標)5GS(クロンプトン社(Crompton Co.)によって販売されるナフテン系鉱油)、ソンテックス(Sontex)(登録商標)372LT(ペンズオイル(Pennzoil)によって販売されるナフテン系鉱油)、カルメット(Calumet)(登録商標)RO-30(カルメット・リューブリカンツ(Calumet Lubricants)によって販売されるナフテン系鉱油)、ゼロール(Zerol)(登録商標)75、ゼロール(登録商標)150およびゼロール(登録商標)500(シュリーブ・ケミカルズ(Shrieve Chemicals)によって販売される線状アルキルベンゼン)ならびにハブ(HAB)22(新日本石油株式会社によって販売される分岐アルキルベンゼン)である。
【0068】
本発明の潤滑油はハイドロフルオロカーボン冷媒と一緒の使用をデザインされたものをさらに含み、圧縮冷凍、エアコン、またはヒートポンプ装置運転条件下で本発明の冷媒と混和性である。かかる潤滑油およびそれらの特性は(非特許文献2)に議論されている。かかる潤滑油には、キャストロール(Castrol)(登録商標)100(キャストロール、英国(Castrol、United Kingdom))などのポリオールエステル(POE)、ダウ(Dow)(ダウ・ケミカル、ミシガン州ミッドランド(Dow Chemical,Midland,Michigan))製のRL-488Aなどのポリアルキレングリコール(PAG)ならびにポリビニルエーテル(PVE)が含まれるが、それらに限定されない。これらの潤滑油は様々な商業的供給業者から容易に入手可能である。
【0069】
本発明の潤滑油は、所与の圧縮機の要件および潤滑油が曝されるであろう環境を考慮することによって選択される。本発明の潤滑油は好ましくは40℃で少なくとも約5cs(センチストークス)の動粘度を有する。」

イ.検討

(ア)引用例に記載された発明
上記引用例には、「(a)ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された少なくとも1つの潤滑油」と、「(b)約1重量パーセント?約99重量パーセントのトランス-HFC-1234zeおよび約99重量パーセント?約1重量パーセントのHFC-134a」からなる「組成物とを含むことを特徴とする組成物」が記載されている(摘示(a)【請求項40】)。
そして、上記「トランス-HFC-1234ze」及び「HFC-134a」が、それぞれ「trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」及び「1,1,1,2-テトラフルオロエタン」であることは、当業者に自明である。
してみると、上記引用例には、上記(a)ないし(c)の記載事項からみて、
「(a)ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された少なくとも1つの潤滑油と、(b)1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンからなる組成物とを含む組成物」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「潤滑油」及び「1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンからなる組成物」は、それぞれ、本件補正発明における「潤滑剤」及び「1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒F」に相当することが明らかである。
してみると、本件補正発明と引用発明とは、
「潤滑剤と、1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒Fとを含む組成物」
の点で一致し、以下の点でのみ相違するものといえる。

相違点:「潤滑剤」につき、本件補正発明では、「ポリオール・エステル(POE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤」であるのに対して、引用発明では、「ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された少なくとも1つの潤滑油」である点

(ウ)相違点に係る検討
上記相違点につき検討するにあたり、本件補正発明における「ポリオール・エステル(POE)をベースにした」との表現が、潤滑剤全量のうちポリオール・エステルをどの程度含有することを意味するのか必ずしも明確とはいえないところ、仮に潤滑剤が「少なくともポリオール・エステルを含有する」ことを意味するとして、上記相違点につき検討すると、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)を含むハイドロフルオロカーボン(HFC)をヒートポンプ、空調装置、冷蔵・冷凍機などの冷媒等の熱移動媒体として使用する場合の潤滑剤としてポリオール・エステル(油)を使用することは、本件出願時(優先日)前における当業者の周知慣用の技術(必要ならば原審における引用文献2ないし7及び更に必要ならば国際公開第2004/037913号(本願明細書の従来技術に係る「特許文献2」である。パテントファミリーとして特表2006-512426号公報がある。)などを参照のこと。)であるものと認められるから、引用発明における潤滑剤として列挙されたものの中で上記当業者の周知慣用技術に基づき「ポリオールエステル」を単に選択することは、当業者が適宜なし得ることである。

(エ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果につき、本願明細書(平成25年7月8日付け手続補正後のもの)の発明の詳細な説明の記載に基づいて検討する。
本件補正発明は、背景技術として、オゾン層破壊係数(ODP)が低いとして空調装置などの冷媒として使用されていたヒドロフルオロカーボン(1,1,1,2-テトラフルオロエタン:HFC-134a)につき地球温暖化係数(GWP)が高いことが前提となり(【0002】?【0004】)、GWPが低いヒドロフルオロオレフィン(HFO)を代替使用するにあたり、冷媒の熱伝達特性、潤滑剤の熱的安定度及び冷媒と潤滑剤との相溶性につきいずれも良好な冷媒と潤滑剤との組合せからなる組成物を提供することを課題とする(【0005】?【0013】)ものと認められる。
そして、本件補正発明における「冷媒F」が「trans-HFO-1234zeより性能が良いという利点を有し、しかも、PAGの存在下でのtrans-HFO-1234zeに比較して、POEまたはPVEの存在下での冷媒の安定性がより大きくなる」ことも開示されてはいる(【0018】)。
しかるに、実施例(比較例)に係る記載(【0032】?【0054】)を検討すると、潤滑剤(及び冷媒)の熱的安定度の指標としての(1)熱分解生成物である不純物量の分析において、少なくとも液相の溶存不純物量を除外した気相の「主たる」不純物量のみを定量しているだけであり、熱分解生成物である不純物の全量を定量しているものではなく、(2)潤滑剤の分析においては、当該「潤滑剤」試料がいかなるもの(例えば、使用前の潤滑剤製品であるのか、何らかの熱履歴を与えた後の潤滑剤であるのかなど)であるのか不明であるとともに、上記(1)及び(2)の各分析は、HFC-134a又はtrans-HFO-1234zeと潤滑剤とからなる二成分系に係る分析のみであって(【0032】?【0036】)、これら三成分を全て含有する組成物である本件補正発明に係る潤滑剤(及び冷媒)の熱的安定度を客観的に認識し得るものとは認められない。
また、冷媒の熱伝達特性の分析についても、HFC-134aとtrans-HFO-1234zeとの冷媒(組成物)F及びtrans-HFO-1234zeのみの冷媒の対比に関してのみであり(【0037】?【0054】)、潤滑剤の選択による熱伝達特性の差異につき客観的に認識し得るものとも認められない。
なお、冷媒と潤滑剤との相溶性については、上記引用例に記載されている(摘示(c)【0068】参照)とおり、引用発明の組成物においても冷媒組成物とポリオールエステルなどの潤滑剤とが混和性である、すなわち相溶性を有するものと認められる。
してみると、本件補正発明が、上記解決課題に対応する冷媒の熱伝達特性、潤滑剤の熱的安定度及び冷媒と潤滑剤との相溶性に係る効果につき、上記相違点に係る事項によって、引用発明に比して格別顕著な効果を奏するものであるということができない。
したがって、本件補正発明が、引用発明に比して特段の効果を奏し得るものとは認められない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明及び当業者の周知慣用技術に基づいて、当業者が通常の創作能力を発揮することにより、容易に発明をすることができたものである。

ウ.検討のまとめ
よって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、上記手続補正は、特許法第17条の2第6項で読み替えて準用する同法第126条第7項に違反する補正事項を含むものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願について

1.本願に係る発明
平成26年8月1日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成25年7月8日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は再掲すると以下のとおりのものである。
「ポリオール・エステル(POE)またはポリビニルエーテル(PVE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤と、1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒Fとを含む組成物。」
(以下、「本願発明」という。)

2.原審の拒絶査定の内容
原審において、平成25年4月5日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由
・・(中略)・・
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・(中略)・・
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・(中略)・・
(2a)
・理由2
・請求項1?3、7
・引用文献等1
・備考
引用文献1には、90重量%のトランス-HFC-1234ze(本願の「trans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン」に相当)と、10重量%のHFC-134aから成る、冷媒組成物が記載されている(請求項11、【0024】、【0158】の表34、【0168】、【0170】の表44を参照)。
また、同文献には、上記冷媒組成物はポリビニルエーテルを含む潤滑剤をさらに配合してもよいこと(請求項40、【0066】を参照)、また、上記組成物を冷凍、エアコン、ヒートポンプ装置に導入すること(【0125】を参照)が記載されている。
してみると、上記冷媒組成物に、ポリビニルエーテルを含む潤滑剤をさらに配合させることや、その組成物を冷凍装置等に使用することは、いずれも当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明において、潤滑剤をPVEをベースにしたものと特定した効果も、PVEとTrans-HFO-1234zeとの混合物(本願発明)とPAGとTrans-HFO-1234zeとの混合物(比較例)とで熱安定性に顕著な差がないことや、PVEとHFC-134aとの混合物の熱安定性が具体的な実施例等によって示されていないことから(【0035】を参照)、格別顕著なものか否か確認することができない。

(2b)
・理由2
・請求項1?5
・引用文献等1?7
・備考
引用文献1には、90重量%のトランス-HFC-1234ze(本願の「trans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン」に相当)と、10重量%のHFC-134aから成る、冷媒組成物が記載されている(請求項11、【0024】、【0158】の表34、【0168】、【0170】の表44を参照)。
ここで、同文献には、上記冷媒組成物はポリオールエステルを含む潤滑剤をさらに配合してもよいことが記載されている(請求項40、【0066】を参照)ところ、ハイドロフルオロカーボン冷媒と共に用いるポリオールエステルに関して、ペンタエリスリトール等のポリオールと2-エチルヘキサン酸や3,3,5-トリメチルヘキサン酸等の脂肪酸とから得られるものとすることは、当該技術分野においては周知のことである(引用文献2の請求項1、【0014】?【0015】:引用文献3の請求項1?2、【0001】、【0007】?【0008】:引用文献4の請求項1?6、【0042】?【0044】:引用文献5の請求項1?5、【0030】?【0031】:引用文献6の請求項1、【0009】、【0011】等を参照)。
してみると、上記冷媒組成物に対してポリオールエステルを含む潤滑剤をさらに配合し、このポリオールエステルを例えばペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸と3,3,5-トリメチルヘキサン酸から得られるもの等とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願明細書を参照しても、顕著な熱安定性に関する効果を奏するものとして開示されているものは、実施例である「Ze-GLES RB68」という組成不明の市販ポリオールエステル系冷凍機油を用いた場合のみであり、ポリオールエステルを構成する脂肪酸の種類・組成によって組成物の熱安定性は決まるという出願時の技術常識を参酌すると(文献5の段落【0021】?【0023】、実施例3、11、比較例1、2:文献6の【0011】、実施例26、比較例26を参照)、例えば脂肪酸の種類・組成が異なる他のポリオールエステルを用いた場合でも、格別な効果を奏するものであるか否か確認することができない。
・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特表2008-531836号公報
2.特開平5-209171号公報
3.特開平6-145104号公報
4.特開平6-025690号公報
5.特開2009-74018号公報
6.特開平9-302370号公報」

<拒絶査定>
「この出願については、平成25年 4月 5日付け拒絶理由通知書に記載した理由2,3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
(1)理由2について
出願人は意見書にて、引用文献1-4,引用文献6にHFCとして記載のものは全て飽和化合物で、不飽和化合物は記載されていない旨主張している。
しかし、引用文献1にはHFC冷媒としてトランス-HFC-1234zeが記載されており、HFC-1234zeが不飽和化合物である1,3,3,3-テトラフルオロプロペンであることも開示されているから(【0024】,【0170】の表44)、出願人の上記主張は当を得ないものであって採用することができない。
よって、上記拒絶理由通知書に記載したとおり、請求項1-7に係る発明は、依然として引用文献1-6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・(後略)」

3.当審の判断
当審は、本願は、上記拒絶査定の「理由2」と同一の理由により、拒絶すべきものと判断する。以下、詳述する。

(1)引用発明
上記原査定で引用した引用文献1、すなわち引用例には、上記第2のII.2.(2)ア.で(a)?(c)として摘示した事項が記載されており、当該記載からみて、上記第2のII.2.(2)イ.(ア)のとおり、以下の事項で特定される引用発明が記載されている。
「(a)ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された少なくとも1つの潤滑油と、(b)1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンからなる組成物とを含む組成物」

(2)対比・検討
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「潤滑油」及び「1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン及び99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンからなる組成物」は、それぞれ、本願発明における「潤滑剤」及び「1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒F」に相当することが明らかである。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「潤滑剤と、1?99重量%のtrans-1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペン(trans-HFO-1234ze)と99?1重量%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとを含む冷媒Fとを含む組成物」
の点で一致し、以下の点でのみ相違するものといえる。

相違点a:「潤滑剤」につき、本願発明では、「ポリオール・エステル(POE)またはポリビニルエーテル(PVE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤」であるのに対して、引用発明では、「ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、鉱油、アルキルベンゼン、合成パラフィン、合成ナフテン、およびポリ(アルファ)オレフィンからなる群から選択された少なくとも1つの潤滑油」である点

しかるに、上記相違点aにつき検討すると、潤滑剤としてポリオール・エステル(POE)をベースにしたものを使用する場合については、上記第2のII.2.(2)イ.(イ)で示した「相違点」に係る事項と同一の事項であることが明らかであるから、上記第2のII.2.(2)イ.(ウ)で説示した理由と同一の理由により、当業者が適宜なし得ることと認められるとともに、その場合の本願発明の効果についても、上記第2のII.2.(2)イ.(エ)で説示したとおりの理由により、引用発明のものに比して、格別顕著なものであるということができない。
してみると、本願発明は、「ポリビニルエーテル(PVE)をベースにした少なくとも一種の潤滑剤」を使用する場合につき検討するまでもなく、引用発明及び当業者の周知慣用技術に基づいて、当業者が通常の創作能力を発揮することにより、容易に発明をすることができたものである。

(3)小括
したがって、本願発明は、引用発明及び当業者の周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。

(4)当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本願は、請求項1に係る発明が、特許法第29条の規定により特許をすることができないものであるから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号に該当し、拒絶すべきものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-23 
結審通知日 2015-06-30 
審決日 2015-07-13 
出願番号 特願2011-183522(P2011-183522)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C10M)
P 1 8・ 121- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛▲来▼田 優来  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 日比野 隆治
橋本 栄和
発明の名称 1,3,3,3-テトラ-フルオロプロペンをベースにした組成物  
代理人 越場 隆  

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