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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1308201
審判番号 不服2013-20335  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-18 
確定日 2015-12-02 
事件の表示 特願2009-545872「癌を治療するためのインテグリンリガンドを用いる特異的療法および薬剤」拒絶査定不服審判事件〔平成20年7月24日国際公開、WO2008/087025、平成22年5月20日国内公表、特表2010-516645〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年1月17日(パリ条約による優先権主張 2007年1月18日 (US)アメリカ合衆国、2007年7月18日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月12日付けで拒絶査定がされ、同年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成27年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年6月17日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成27年6月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するための薬剤を製造するための、インテグリンリガンドであるシクロ-(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMe-Val)、薬学的に許容されるその溶媒和物または塩の使用であって、該薬剤が、
a)プラチナ含有化合物のシスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチンからなる群から選択される、1または複数のアルキル化化学療法剤、および
b)該インテグリンリガンドおよび該1または複数のアルキル化化学療法剤以外の1または複数のさらなる化学療法剤であって、細胞増殖抑制アルカロイドのビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチンおよびビンデシンから選択される化学療法剤、
と組み合わせて用いられることを特徴とする使用。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

第3 引用例の記載
1 拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された特表2002-524526号公報(以下、「引用例A」という。)には以下の事項が記載されている。
(1) 特許請求の範囲
ア 請求項1
「シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)および/または生理学的に許容されるその塩の一つ、および少なくとも一つの化学治療剤および/または生理学的に許容されるその塩の一つ、および/または血管新生阻害剤および/または生理学的に許容されるその塩の一つを含む医薬製剤。」
イ 請求項4
「a)アルキル化剤、
b)抗生物質、
c)代謝拮抗剤、
d)生物学的製剤および免疫調節物質、
e)ホルモンおよびそのアンタゴニスト、
f)マスタードガス誘導体、
g)アルカロイド、
h)マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤(MMP阻害剤)、
i)プロテインキナーゼ阻害剤、
k)その他
からなる群からの化学治療剤を用いることを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬製剤。」
ウ 請求項5
「ドセタクセル、パクリタクセル、カルボプラチン、シスプラチン、5-FUおよび葉酸カルシウム、イリノテカン、シクロホスファミド、カルムスチン、ドクソルビシン、ビノレルビン、ゴセレリンまたはゲムシタビンからなる群からの化学治療剤を用いることを特徴とする、請求項1、2または4に記載の医薬製剤。」
(2) 発明の詳細な説明
ア 「本発明は、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)および/または生理学的に許容されるその塩の一つ、および少なくとも一つの治療薬剤および/または生理学的に許容されるその塩の一つ、および/または血管新生阻害剤および/または生理学的に許容されるその塩の一つを含む新規な薬理製剤に関する。」(段落【0001】)
イ 「本発明は、特に、記載の通り、
a)アルキル化剤、
b)抗生物質、
c)代謝拮抗剤、
d)生物学的製剤および免疫調節物質、
e)ホルモンおよびそのアンタゴニスト、
f)マスタードガス誘導体、
g)アルカロイド、
h)マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤(MMP阻害剤)、
i)プロテインキナーゼ阻害剤、
k)その他
からなる群からの化学治療製剤を用いることを特徴とする医薬製剤に関する。
好ましいアルキル化剤の例は、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、イホスファミドまたはロムスチンである。
・・・
好ましいアルカロイドの例は、ドセタクセルまたはパクリタクセルのようなタキサン、前記エトポシド、ビンブラスチンまたはビノベルビンである。」(段落【0007】、【0008】、【0010】)
ウ 「記載のように、ドセタクセル、パクリタクセル、カルボプラチン、シスプラチン、5-FUおよび葉酸カルシウム、イリノテカン、シクロホスファミド、カルムスチン、ドクソルビシン、ビノレルビン、ゴセレリンまたはゲムシタビンからなる群からの化学治療剤を用いることを特徴とする医薬製剤が特に好ましい。」(段落【0014】)
エ 「本発明による製剤は、病的血管新生障害、血栓症、心筋梗塞、虚血性心疾患、動脈硬化、腫瘍、骨粗鬆症、炎症および感染症の制御に用いられる。基本的に、それらは腫瘍の制御、すなわち、腫瘍の増殖または腫瘍の転移の阻害に用いられる。」(段落【0021】)
オ 「組み合わせ治療の試験例」
「Kakeji(F. Mitjans et al., J. Cell Sci. 108: 2825-2838 (1995))に類似の腫瘍増殖の遅延
ルイス肺癌細胞(2×10E6)を8?10週令のC57BLマウスに注射する。4日目にシクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)(30mg/kg)を腹腔内投与する。腫瘍の増殖を毎日測定する(B. A. Teicher et al., Int. J. Cancer 57: 920-925 (1994))。腫瘍がある一定の、約100mm^(3)の一定の大きさに達したら、腫瘍接種後7日目に、経腹膜注射による種々の細胞毒性組み合わせ治療を開始する。
例:5-フルオロウラシル(30mg/kg)またはアドリアマイシン(1.8mg/kg)を、7日目から11日目まで毎日投与する。シクロホスファミド(150mg/kg)、カルムスチン(15mg/kg)またはゲムシタビン(2.5mg/kg)を、7、9および11日目に投与する。シスプラチン(10mg/kg)を、7日目に投与する。
腫瘍の測定は週に3回、体積が約500mm^(3)に達するまで行う。腫瘍の増殖遅延を、個々の腫瘍が500mm^(3)に達するまでに要した時間を無処理対照区と比較して計算する。」(段落【0039】?【0040】)

2 拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された特表2002-515036号公報(以下、「引用例B」という。)には以下の事項が記載されている。(当該特許公報には段落番号が付されていないことから、引用箇所は、独立行政法人工業所有権情報・研修館のウエブサイト「J-PlatPat」において、特許・実用新案番号照会から入手できる当該刊行物に付されたものによる。)
(1) 図面の簡単な説明
「図18・・・は、夫々、実施例6Dで更に記述される如く、対照物ペプチド69601および拮抗剤85189に対する静脈内露出に引続く、UCLAP-3・・・に対する腫瘍重量の減少を示している。データは、X軸上のペプチド処理に対して腫瘍重量をY軸にプロットしている。」(17頁21?25行)
(2) 実施例
ア 「3.合成ペプチドの調製」、「a.合成手順」
「α_(v)β_(5)に対する自然リガンドの結合に対して特異的に抑制する他のペプチドは調製されると共に、以下の実施例に記述された如き特異性および作用の範囲に対して試験される。これらには、同様に得られた次のペプチドが含まれる:・・・シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMeVal)(配列ID NO.9)を有するペプチドもまた、合成により調製された。」(55頁28行?56頁6行)
イ 「6.CAM分析試験で測定された血管形成の抑制」、「D.腫瘍誘起血管形成に対する、静脈内適用による抑制」、「2) 他のα_(v)β_(5)拮抗剤による処理」
「ひとつの特定の組の分析試験において、付加的な腫瘍退行分析試験が、対照物として69601(配列ID NO.5)に対するα_(v)β_(5)反応性ペプチド85189(配列ID NO.9)により実施された。分析試験は上述の如く実施されたが、相違点としては、この場合にはUCLAP-3・・・腫瘍タイプを含む種々の腫瘍の植設後18時間目におけるCAM内に100μgのペプチドが静脈内注入されたことである。更なる48時間後、腫瘍は切除されて湿潤重量が得られた。
図18・・・は、PBSもしくはペプチド69601による効果の欠如と対照的にペプチド85189に対する静脈内露出に続く、UCLAP-3・・・腫瘍に対する腫瘍重量の減少を夫々示している。」(73頁17?26行)
(3) 図面(130頁)
ア 図18


3 拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された、順天堂医学, 2006, Vol.52, No.4, pp.536-545.(以下、「引用例C」という。)は、「肺がんの化学療法」という表題の学術論文であり、以下の事項が記載されている。
(1) 要約の項
「わが国において肺癌は増加傾向にあり、また、癌死の第1位であることから、その臨床的対応は急務である。肺癌は組織学的に非小細胞肺癌Non-Small Cell Lung Cancer(NSCLC)と小細胞肺癌Small Cell Lung Cancer(SCLC)に分類され、その生物学的特性も異なる。局所進展型のNSCLCの標準的治療は放射線と化学療法の同時併用であり、遠隔転移を伴うNSCLCは全身状態Performance Status(PS)が許せば化学療法が第1選択となる。1990年以降、パクリタキセル、ゲムシタビン、ドセタキセル、ビノレルビン、塩酸イリノテカンなどの新規抗癌剤が導入され、現在ではプラチナ製剤(シスプラチンCisplatin(CDDP)あるいはカルボプラチンCarboplatin(CBDCA))と新規抗癌剤の2剤併用が進行NSCLCの標準的治療である。」(536頁1?8行)
(2) 「手術不能限局性非小細胞肺癌の標準的治療」
ア 「手術不能非小細胞肺がんに対して現在までに、放射線と化学療法を逐次的と同時併用で行うのとどちらが有効かについて複数の無作為比較試験が行われており、その多くの試験は、同意併用放射線化学療法が優れていることを報告しており^(1))、現在ではそれが標準的治療となっている(表-3)。」(537頁右欄33行?538頁左欄2行)
イ 表-3(539頁)

(3) 「手術不能非小細胞肺癌の標準的治療」
「2002年にECOG(Eastern Clinica Olncology Group)でプラチナ+新規抗癌剤のなかでどのレジメンが優れているのかを検証する目的で、CDDP+パクリタキセル、CDDP+ゲムシタビン、シスプラチン+ドセタキセル、カルボプラチン+タキソールを比較する4群間無作為比較試験が行われ、その結果いずれのレジメンにも優劣に差がないことが示された^(2))(表-4)。一方、日本においては,FACS試験(Four Arm Cooperative Study)が行われた^(3))。これは、CDDP+イリノテカンをコントロールアームとして、CDDP+パクリタキセル、CDDP+ゲムシタビンとCDDP+ビノレルビンが劣勢でないことを証明する無作為非劣勢比較試験が行われ、いずれのアームもCDDP+イリノテカンと比べて劣らないことが明らかになった(図-2)。しかし、毒性のプロフィールが異なり、各々のレジメンのそれぞれの特徴をいかして選択すべきとされている。」(538頁左欄4行?539頁左欄3行)

4 拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された、医学のあゆみ, 2005, Vol.215, No.5, pp.415-419.(以下、「引用例D」という。)は、「非小細胞肺がんの化学療法 標準的治療と最近の動向」という表題の学術論文であり、以下の事項が記載されている。
(1) 「初回標準的治療」
ア 「1990年以前に非小細胞肺がんの化学療法において主に使用されていた抗がん剤は、CDDP、etoposide(ETP)、vindesine(VDS)、vinblastin、mitomycin C(MMC)、ifosfamide(IFM)の6種であったが、1990年代に入りvinorelbine(VNR)、gemcitabine(GEM)、irinotecan(CPT-11)、paclitaxel(PTX)、docetaxel(DTX)といった新しい作用機序を有する新規抗がん剤が登場し、いずれも単剤でそれ以前のCDDPを含む2剤併用療法に匹敵する成績を示した。その後、新規抗がん剤単剤と白金製剤+新規抗がん剤併用との比較試験が数多く行われ、奏効率、生存期間ともに併用療法が優れた結果となり、現在では白金製剤+新規抗がん剤の2剤併用療法が標準的治療として確立されている。新規抗がん剤の選択についてはE1594試験^(2))(表1)やわが国のFour-Arm Cooperative Study^(3))(表2)をはじめとして複数の第III相試験が行われたが、新規抗がん剤の違いによる生存期間の差はないとされている。現在では新規抗がん剤はそれぞれの薬剤の副作用や患者のQOLおよび医療費を勘案したうえで選択することになる(図1)。
CDDPは、非小細胞肺がんの治療において最も重要な薬剤であり、多くの新薬の登場にもかかわらず、その重要性はまったく減じてはいない。しかし、高い有効性の一方で、消化器障害、腎障害、神経障害などの副作用が出現しやすく、副作用予防に相応の手間がかかるため、毒性を軽減させた白金製剤の開発も盛んに行われてきた。現在臨床で使用できる他の白金製剤としては、carboplatin(CBDCA)とnedaplatinがある。CBDCAはCDDPとの複数の大規模比較試験^(2、4))により、CDDPと同等かそれに近い奏効率・生存期間を示し、投与の簡便性や毒性の低さも相まって、とくにアメリカを中心にCDDPの代替として多用されている。」(415頁右欄3行?416頁右欄11行)
イ 表1(416頁)


5 拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された、Cancer Res, 1984, Vol.44, pp.681-687.(以下、「引用例E」という。)には以下の事項が記載されている。(引用例Eは英語で記載されているので、以下に訳文で示す。)
(1) 「ABSTRACT(要約)」
「モノクローナル抗体KS1/4、KS1/9、及びKS1/17は、ヒトの肺の腺がんに由来するUCLA P3細胞で事前に刺激したBALB/cマウスの脾臓とマウス骨髄腫細胞株P3X63Ag8を融合することによりこの研究室で開発された。」(681頁左欄2?6行)
(2) 「INTRODUCTION(導入)」
「肺がんは、毎年新たに12万人以上が罹患し、現在、男性及び女性の両者で、がんによる死亡の主要な原因と考えられている。組織学的には、へん平上皮がん(30%)、腺がん(35%)、未分化の大細胞がん(15%)及び小細胞がん(20%)の4つに大きく分けることができるこの疾患は、・・・」(681頁左欄23?29行)

第4 当審の判断
1 引用例Aに記載された発明
引用例Aの請求項1及び段落【0001】の記載(前記第3の1(1)ア及び(2)ア)より、引用例Aには、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)及び化学治療剤を組み合わせた医薬製剤が開示されており、段落【0021】の記載(前記第3の1(2)エ)より、当該製剤は腫瘍の制御に有用であることが示されている。そして、引用例Aには、化学治療剤としてアルキル化剤及びアルカロイドが示されており(前記第3の1(1)イ及び(2)イ)、アルキル化剤としてはカルボプラチン及びシスプラチンが、アルカロイドとしてはビンブラスチン及びビノレルビン(審決注:段落【0010】(前記第3の1(2)イ)に記載のビノベルビンは、請求項5(前記第3の1(1)ウ)及び段落【0014】(前記第3の1(2)ウ)の記載より、ビノレルビンの誤記と認められる。)が、それぞれ、例示されている(前記第3の1(2)イ)ところ、これらの薬剤では、シスプラチン及びビノレルビンが特に好ましいものとして記載され、特許請求されている(前記第3の1(1)ウ及び(2)ウ)。また、引用例Aの実施例には、組合せ治療の試験例として、ルイス肺がん細胞を移植したマウスにおいて、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)をシスプラチンと組み合わせて処置し、腫瘍の増殖遅延を観察することが記載されている(前記第3の1(2)オ)。
そうしてみると、引用例Aには、「ルイス肺がんを治療するための薬剤を製造するためのシクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)の使用であって、該薬剤が、a)カルボプラチン又はシスプラチン、又は、b)ビンブラスチン又はビノレルビン、からなる化学治療剤と組み合わせて用いられる使用。」についての発明(以下、この発明を「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

2 本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明は、
「肺がんを治療するための薬剤を製造するためのシクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)の使用であって、該薬剤が、a)シスプラチン又はカルボプラチン、又は、b)ビンブラスチン又はビノレルビン、と組み合わせて用いられる使用。」である点において一致し、
治療の対象となる肺がんが、本願発明では、非小細胞肺がんであるのに対し、引用発明では、ルイス肺がんである点(相違点1)、及び
シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)と組み合わせて用いる薬剤が、本願発明では、シスプラチン及びカルボプラチンから選択されるものと、ビンブラスチン及びビノレルビンから選択されるものの両者であるのに対し、引用発明では、シスプラチン及びカルボプラチンから選択されるもの、又は、ビンブラスチン及びビノレルビンから選択されるもののいずれかである点(相違点2)、
において相違する。

3 相違点に対する判断
(1) 相違点1について
引用例Bの実施例6 D 2)には、配列ID NO.9で示されるシクロ-(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMeVal)であるα_(v)β_(5)反応性ペプチド85189がUCLAP-3腫瘍の重量を減少させたことが記載されている(前記第3の2(1)乃至(3))。ここで、引用例Bに記載の配列ID NO.9で示されるシクロ-(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMeVal)は引用発明のシクロ(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMe-Val)と同一の物質であり、また、引用例Eによれば、引用例Bに記載のUCLA P-3細胞は肺の腺がん細胞であって(前記第3の5(1))、肺がんの組織学的分類では腺がんと小細胞がんは異なるがんである(前記第3の5(2))ことから、当該UCLA P-3は非小細胞肺がんと認められる。そうしてみると、引用発明のシクロ-(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMe-Val)が非小細胞肺がんの治療に有効であることは公知の事項である。
一方、引用例Dには、1990年以前に非小細胞肺がんの化学療法においてCDDP(シスプラチン)及びビンブラスチン(vinblastin)を含む6種の抗がん剤が使用されていたこと、1990年代に登場したビノレルビン(vinorelbine、VNR)を含む新しい作用機序を有する抗がん剤は、非小細胞肺がんに対し単剤でシスプラチンを含む2剤併用療法に匹敵する成績を示したこと、及び、カルボプラチン(carboplatin、CBDCA)は非小細胞肺がんに対しシスプラチンと同等かそれに近い奏効率・生存期間を示たことが記載されており(前記第3の4(1)ア)、引用発明におけるシスプラチン、カルボプラチン及びビノレルビンが、非小細胞肺がんの治療に有効であることも公知の事項である。
このように、引用発明における各有効成分が非小細胞肺がんの治療に有効であることは本願の優先権主張日に公知の事項なので、引用発明における治療の対象となる肺がんを非小細胞肺がんとすることは、当業者が容易に想到可能な事項である。
(2) 相違点2について
前記第3の3及び4に摘記した引用例C及び引用例Dの記載より、シスプラチン(CDDP)やカルボプラチン(CBDCA)といったプラチナ製剤(白金製剤)とビノレルビン(VNR)を含む新規抗癌剤の2剤併用療法が、非小細胞肺がんの化学療法として、本願の優先権主張日における標準的治療方法、すなわち、非小細胞肺がんの化学療法における技術常識であったと認められ、また、引用例Cには、手術不能局所限定型非小細胞肺がんに対する放射線治療と同時に行う化学療法として、シスプラチン(CDDP)とビンデシン(VDS)にマイトマイシンC(MMC)を加えた3剤併用療法が有効であることも記載されている(前記第3の3(2)イ、表-3の「Furuse」による報告の欄)。そうしてみると、引用発明における2種の化学治療剤であるa)カルボプラチン又はシスプラチン、及び、b)ビンブラスチン又はビノレルビンを併用することは、当業者であれば格別の創意を要する事項とは認められない。
(3) 本願発明の効果について
前記(1)で述べたように引用発明における各有効成分が非小細胞肺がんの治療に有効であることは本願の優先権主張日に公知の事項であることから、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Phe-NMe-Val)、シスプラチン又はカルボプラチン、及び、ビノレルビンを併用した薬剤、すなわち、本願発明の有効成分が非小細胞肺がんの治療に有効であることは、当業者であれば予測可能な事項である。そして、本願の明細書を検討しても、本願発明が引用発明と比較して有利な効果を有するものとは認められない。

4 審判請求人の主張について
請求人は、平成27年6月17日提出の意見書において、ある活性成分が単剤においてある効果を有することが公知であったとしても、同じ効果を有するそれらの活性成分を組み合わせることによりその効果が増強することは必ずしもないことは、医薬の分野では周知のことで、組合せによっては、その作用により、効果を相殺してしまったり、増悪させてしまうことが見られるので、引用例に記載の非小細胞肺がんに対して単剤として効果のある各活性成分を組み合わせるとしても、その効果については、引用例の記載からでは得られないと考えると主張する。
しかし、本願発明は、シクロ-(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMe-Val)に、シスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチンからなる群から選択される白金製剤と、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン及びビンデシンから選択されるビンカアルカロイドの3剤を併用する発明であるところ、本願の明細書は、このような、シクロ-(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMe-Val)に、白金製剤とビンカアルカロイドという3種の薬剤を組み合わせることにより、各薬剤の効果を相殺したり、増悪させることなく、非小細胞肺がんに対して有効であることについての具体的な結果を、実験データの開示により証明しているものではない。このように、請求人自らは、本願の出願時に本願発明の3剤併用の効果を具体的に示すことがないにもかかわらず、3剤併用の効果の予測性を否定する請求人の主張は、これを採用することはできない。
また、請求人は、平成27年6月17日提出の意見書において、本願発明についての具体的な試験及びその結果として、シレンジチド(シクロ-(Arg-Gly-Asp-DPhe-NMe-Val))、シスプラチン及びビノレルビンからなる化学療法と放射線療法の併用治療の結果を追加資料として示している。しかし、この結果は、前記3(3)のとおり、本願の出願時における公知の事項から予測されるものであり、斯かる追加資料を根拠に、本願発明が進歩性を有するということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例A及び引用例Bに記載された発明、並びに引用例C乃至Eに記載されているような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-03 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-23 
出願番号 特願2009-545872(P2009-545872)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 田村 明照
新留 素子
発明の名称 癌を治療するためのインテグリンリガンドを用いる特異的療法および薬剤  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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