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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1308203
審判番号 不服2013-24604  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-13 
確定日 2015-12-02 
事件の表示 特願2009-545011「皮膚を撮像するためのシステム、装置、及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日国際公開、WO2008/086311、平成22年 5月13日国内公表、特表2010-515489〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年1月7日(パリ条約による優先権主張 2007年1月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年7月31日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年8月8日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、同年12月13日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出された。
その後、平成27年2月27日付けで当審より拒絶の理由が通知され、平成27年5月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成27年5月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1、請求項8、及び請求項17は次のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「 【請求項1】
非侵襲性の撮像装置であって、
皮膚上に光を導くための入射光源を含む照明源と、
前記皮膚からの反射光及び屈折光を検出するための光学的な設備と、
前記皮膚からの前記反射光の特性を検出するための検出器と、
前記検出器に結合されたホストシステムであって、前記反射光の前記特性に少なくとも部分的に基づいて、個人専用の肌状況評価を生成することが可能なホストシステム
とを備え、
前記入射光が、非偏光光を含み、
前記個人専用の肌状況評価は、色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含むことからなる、撮像装置。」

「 【請求項8】
前記反射光の前記特性は、前記反射光の偏光状態、前記偏光の波長、電気的及び磁気的特性、強度、配向、振幅、位相、角度、形状、度合い、及び量のうちの少なくとも1つから成るグループから選択される、請求項1に記載の撮像装置。」

「 【請求項17】
前記反射光の前記特性が、該反射光の配向、振幅、位相、角度、形状、及び偏光状態、前記偏光の波長、電気的及び磁気的特性、強度、度合い、及び量のうちの少なくとも1つを含むことからなる、請求項12に記載の方法。」

第3 当審で通知した拒絶理由

1 当審の拒絶の理由の概略は、以下のとおりである。

(1) 第1の理由
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない
ア (省略)
イ 請求項8については「前記光の偏向状態と前記偏向の量」と特定されているが、具体的に何を意味するのか明確でないし、また、請求項17に「前記偏向の特性が、配向、振幅、位相、角度、形状、及び量のうちの少なくとも1つ」と特定されているが、これも何を意味するのか明確でない。
ウ (省略)

(2) 第2の理由
本願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
ア 請求項1?20に特定された「反射光の偏向の特性を検出」するにあたって、反射光の一体何を検出すれば、この検出結果を用いて行われる肌状況評価に有用なのか、発明の詳細な説明には記載されていないので、発明の詳細な説明の記載は、請求項1?20に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分になされたものではない。
イ 上記アのとおり、「反射光の偏向の特性を検出」するにあたって、一体何を検出すれば良いのかが定かでないこともあいまって、具体的に「反射光の偏向の特性」として何を検出し、その検出結果から具体的にどのように「エラスチン」などの各項目についての肌状況評価を算出すれば良いのかについて何ら記載されていない。
「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含む」「個人専用の肌状況評価を生成」すること、「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含む」「肌状態を判定」することをどのように行うのかが不明であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?20に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分になされたものではない。
ウ (省略)

(3) 第3の理由
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
上記(2)のアのように、請求項1?20に特定された「反射光の偏向の特性を検出」することについて、具体的に何を検出するのが有用なのか、発明の詳細な説明には記載されておらず、「偏向の特性」という記載まで一般化できない。
また、上記(2)のイのように、請求項1?11に特定された「前記偏向の特性に少なくとも部分的に基づいて、個人専用の肌状況評価を生成する」こと、そして、請求項12?20に特定された「前記反射光の前記偏向の特性に基づいて、前記撮像システム内のホストシステムが肌状態を判定」することに関して、検出結果から具体的にどのように評価を生成し、判定を行えば良いのか、発明の詳細な説明には記載されていないことから、「偏向の特性」に基づいて「個人専用の肌状況評価を生成」したり「肌状態を判定」するという記載にまで一般化することはできない。

(4) 第4の理由
本願の請求項1?20に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願の請求項1に係る発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である米国特許第4398541号明細書に記載された発明及び各周知技術(米国特許第6081612号明細書並びに米国特許出願公開第2006/0241495号明細書にみられる技術、及び特開2006-81847号公報にみられる技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(請求項2?20については省略)

(5) 第5の理由(省略)

2 当審の判断
(1) 第1の理由(特許法第36条第6項第2号)について
ア 上記1(1)イで特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと指摘した請求項8及び請求項17は、上記第2で記載したとおりに補正されたが、これらは、上記1(1)イで不明確と指摘した「配向、振幅、位相、角度、形状」及び「量」を含むものである。これらの特性について、光は粒子と波の性質を有するものであり、特定の形状を有するものではないので、上記記載における「形状」が技術的に意味不明であり、また、「位相」及び「角度」についても、反射光の何の位相及び角度であるのか不明であるなど、依然として特定される各特性が何を意味するかが明確でない。

イ 請求人は、平成27年5月29日付け意見書において、「2でご指摘の事項については、請求項1、8、12、17の「偏光の特性」を「反射光の特性」ないし「反射光の前記特性」に補正した。尚、請求項8及び17の「偏光状態」は、明細書の段落0050に記載されているように、方位角や楕円率などのパラメータによって規定され、同段落の最後の一文に記載されている、楕円偏光、直線偏光、円偏光などの光の偏光のタイプに対応する。」と主張している。しかし、この主張は、「配向、振幅、位相、角度、形状、及び量」という特性が何を意味すのるかが明確でないという指摘に対して、反論するものではなく、また、これらの特性が、「偏光の特性」ではなく、「反射光の特性」であると特定されても、これらの特性が明確になるものではない。よって、上記主張は採用できない。

ウ したがって、請求項8及び請求項17の記載は明確ではないから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2) 第2の理由(特許法第36条第4項第1号)について
ア 本願発明は、「反射光の特性に少なくとも部分的に基づいて、個人専用の肌状況評価を生成する」ものであり、この肌状況評価は「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含む」ものであるが、平成27年5月29日付けで補正された本願の発明の詳細な説明には、次の(ア)?(オ)の記載がある程度である。「コラーゲン、エラスチン」については、段落0029?0031で、ある波長の光のもとコラーゲン、エラスチンを検出することが記載されているものの、これからいかに肌状況評価を行うものか依然として不明であり、「コラーゲン、エラスチン」以外の「色、年齢、日焼けによる損傷、毛穴、及びケラチン」については、その検出する具体的方法すら記載されていないことから、その肌状況評価もいかに行うのかが依然として不明である。
してみると、発明の詳細な説明の記載は、「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含む」「個人専用の肌状況評価を生成」することを具体的にどのように行うのかが不明であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分になされたものではない。

(ア)「【0011】
本発明の一態様において、肌の弾力性を判定する方法及びシステムには、肌組織に向けて入射光を放射することと、該肌組織によって反射された光の偏光の一態様を検出することと、偏光の該態様をエラスチンの濃度に相互に関連付けることと、該エラスチンの濃度に基づいて弾力性レベルを判定することと、を含めることができる。該方法及びシステムにおいて、判定することには、アルゴリズムの使用を含めることができる。該方法及びシステムにおいて、前記入射光は、非偏光の光とすることができる。該非偏光の光は、白色光か、複数の選択された波長の光か、又は単一波長の光とすることができる。
【0012】
本発明の一態様において、肌(皮膚)の堅さを判定する方法及びシステムには、肌組織に向けて入射光を放射することと、該肌組織によって反射された光の偏光の一態様を検出することと、偏光の該態様を、エラスチンとコラーゲンと皮脂腺の活性度とのうちの少なくとも1つの濃度に相互に関連付けることと、エラスチン、コラーゲン、及び皮脂腺の活性度のうちの少なくとも1つの濃度に基づいて堅さを判定することとを、含めることができる。該方法及びシステムにおいて、該皮脂腺の活性度を、腺の数、開かれた/閉じられた腺の割合、及び詰まり/充填のレベルのうちの少なくとも1つによって示すことができる。該方法及びシステムにおいて、相互に関連付けることには、アルゴリズムの使用を含めることができる。
【0013】
本発明の一態様において、皮膚の生物物理的特性を得るための方法及びシステムには、肌組織からの入射光の反射の偏光の度合いから取得された画像データのスペクトル分析を実施することを含めることができる。該特性は、メラニン細胞、メラニン、ヘモグロビン、ポルフィリン、ケラチン、カロチン、コラーゲン、エラスチン、皮脂、皮脂腺の活性度、(汗及び脂肪分泌の)毛穴、水分レベル、弾力性、明度、堅さ、ファインライン、しわの数及び段階、毛穴サイズ、開いている毛穴の割合、肌の弾力性、肌引張線、しみ、肌色、乾癬、アレルギー、赤色部位、一般的な皮膚疾患又は感染症、腫瘍、日焼け、発疹、擦り傷、吹き出物、にきび、虫さされ、そう痒、出血、負傷、炎症、光損傷、色素沈着、色調、入れ墨、火傷の割合/火傷等級、ほくろ(母斑)、皮膚損傷の態様(構造、色、寸法/非対称性)、黒色腫、皮膚に認められる障害、皮膚病変、セルライト、腫れ物、水疱形成疾患、皮膚の先天性の症候群、(副)皮膚真菌症、肝斑、血管の状態、酒さ、クモ状静脈、テクスチャ、皮膚潰瘍、創傷治癒、術後跡、メラニン損傷、非メラニン損傷、基底細胞癌、脂漏性角化症、皮脂(油性)、爪及び/又はヘアに関連した問題、及びこれらに類するものうちの少なくとも1つにおける構造、形状、濃度、数、大きさ、状態、及び段階のうちの少なくとも1つである。」

(イ)「【0027】
・・・偏光された及び/又は拡散のいずれかの反射光を分析することにより、その反射の原因である、根底にある肌組織の情報を得ることができる。偏光は、水分と相互作用する肌組織の古典物理学的な/量子力学的な効果に起因する可能性がある。すなわち、光が肌組織に当った時には光の偏向を変化させることが可能となるような、並びに、光が肌組織に当った時には光の波長に影響を及ぼすような十分な磁界及び電界を、肌組織が有する。配向、振幅、位相、角度、形状、度合い、量、及びこれらに類するものなどの、反射光の偏光の一態様は、目標にされた特定の肌組織に関連した様々な測定に相互に関連付けることができ、そして究極的には肌状態158に相互に関連付けることができる。例えば、ある特定の肌組織内に存在する損傷が、反射光の一部に拡散を生じさせる可能性があり、その結果、部分的に偏光され且つ部分的に拡散された反射光が生じる。例えば、コラーゲン組織は、良性のメラニン肌損傷と、悪性のメラニン肌損傷との間の生物学的な差異の1つの指標である。コラーゲンの差異は、反射光の偏向状態に影響を及ぼすことができ、その結果として生じた画像は、腫瘍(腫れ)の中心の位置と腫瘍の周辺の位置とを示すことが可能である。そのような画像は、切除マージンを可視化することにおいて、施術者(開業医)を助けることができる。表皮のより下側の部分にメラニンは位置付けられるため、この深さに対する、並びに、様々なタイプの母斑内における発色団に対する、適切な波長を、選択することができる。」

(ウ)「【0029】
一実施形態において、コラーゲン、エラスチン、カドヘリン、ヘモグロビン、及びこれらに類するもののような特定の分子の存在を測定するために、入射光の波長及び/又は強度を、変更することができる。ある分子は、内在蛍光の特性を有する。例えば、入射光が、325nmのような特定の波長に制限されている場合には、400nm及び405nmの放射(発光)波長においてコラーゲンを検出することができる。・・・(途中略)・・・
【0030】
【表1】

一実施形態において、光を、280nm?3800nmの範囲にわたるような任意の波長において放射することができる。入射光は、青色か、黄色か、オレンジ色か、赤色か、又は幾つかの他の光とすることができる。
【0031】
引き続き図1を参照すると、一実施形態において、光源は、装置108に統合されたものとすることができるか、又は関連付けられたソースから提供されることが可能である。該光源は、280nmか、340nmか、360nmか、385nmか、405nmか、又は480nmの入射励起波長のような(但し、これらに限定されない)任意の波長の発光又はレーザダイオード(LED)とすることができる。紫外線領域内及び赤外線領域内における波長を、該装置108によって放射することもできる。該光源は、拡散光、白色光、単色光、複数の単一波長の光、白熱灯の光、エレクトロルミネセント光、蛍光灯の光、ハロゲン光、紫外線の光、偏光された光、コリメート光、無線通信装置によって提供される光、光ファイバーケーブルによって提供される光、及びこれらに類するものとすることができる。一実施形態において、光源には、拡散入射光を提供するためのディフューザを含めることができる。」

(エ)「【0049】
・・・例えば、治癒が進行するにつれて増加する可能性のあるコラーゲン塊の大きさによって、及び、治癒が進行するにつれて増加する可能性のある分子又は小原繊維レベルにおけるコラーゲン組織の組成によって、及び、複屈折の戻りか又は増加によって、及びこれらに類するものによって、治癒の段階を判定することができる。コラーゲン組織は、偏光された光に敏感なので、本明細書内においてこれまで説明してきたように、及び、更にこれから説明されることとなるように、偏光ベースの技法を用いて、傷の編成中、治癒プロセス中、及び傷のトリートメント中に、その組織内に生じた変化を監視することができる。
【0050】
様々な肌組織の電気的及び磁気的特性を測定することができることは、健康な肌組織と、健康でない肌組織との間の差別化を可能にすることができる。正常なすなわち健康な肌組織は、不健康なすなわち異常な時の等価な組織によって示される構造とは異なるある特有の構造を示す。これらの構造上の変化を、反射光の偏光の一態様などの、皮膚から反射された光の一態様における差異によって検出することができる。偏光の該態様は、光の波長、配向、振幅、位相、角度、形状、度合い、光の偏向の量、及びこれらに類するものとすることができる。・・・」

(オ)「【0060】
一実施形態において、アルゴリズム150は、肌特性を分析するのに有効なものとすることができ、肌の生物物理学的な特性を取得して、肌状態158を判定することができる。・・・アルゴリズム150は、反射光の特性に基づいて、特定の肌組織の存在、不在、構造、形態、及びこれらに類するものを判別することができる。例えば、アルゴリズム150は、どの座標軸/角度で光が偏光されるのかを検出することができ、これを、個々のタンパク質/下部の皮膚組織のシグニチャ発光スペクトルと比較することができる。各々の肌組織は、肌組織内に存在する分子(複数可)の電気的及び磁気的な寄与に基づいて、固有のシグニチャパターンを有するものとすることができる。本明細書内において説明されるように、アルゴリズム150は、固有の偏光信号の電気的及び磁気的成分を識別し、分析し、及び分離することができる。該信号は、肌組織内における分子の集まった構造状態と相互に関連付けられることが可能である。この信号を、標準の較正信号と比較することによって、下部の肌組織の態様を、判別することができる。該標準の較正信号を、観測結果における肌組織/分子及びそれらの特定の波長のカタログ(目録)によって提供することができる。・・・」

イ 請求人は、平成27年5月29日付け意見書において、「2でご指摘の事項については、本願明細書の段落0029?0031には、皮膚の構造ないし含有物質に応じて入射光と反射光の波長が異なることが示唆されている。たとえば、段落0030の表1には、皮膚内のコラーゲンに325nmの波長の光を照射すると、400nmと405nmの波長の光が放出され、エラスチンに290nmまたは325nmの波長の光を照射すると、340nmまたは400nmの波長の光が放出されることが記載されている。」と主張している。しかし、この主張は、コラーゲン、エラスチンの検出について当業者が実施できることを主張するにとどまり、コラーゲン及びエラスチン、並びに、その検出する具体的方法が記載されていない色、年齢、日焼けによる損傷、毛穴、及びケラチンについて「個人専用の肌状況評価を生成」することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていることを説明するものではないので、出願人の主張は採用できない。

ウ したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3) 第3の理由(特許法第36条第6項第1号)について
ア 本願発明の「反射光の特性」に基づいて、「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含む」「個人専用の肌状況評価を生成」するという特定事項に関して、本願の発明の詳細な説明には、上記(2) ア(ア)?(オ)に摘記した記載がある程度で、「コラーゲン、エラスチン」については、段落0029?0031で、ある波長の光のもとコラーゲン、エラスチンを検出することが記載されているものの、これから肌状況評価をする例は記載されておらず、「コラーゲン、エラスチン」以外の「色、年齢、日焼けによる損傷、毛穴、及びケラチン」については、その検出する具体例すら記載されておらず、それらの肌状況評価をする例も記載されていない。また、反射光の任意の特性に基づいて、「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目」を評価できるという技術常識が、本願出願時に存在していたとも認められない。
してみると、具体的に特定されない「反射光の特性」に基づいて、「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含む」「個人専用の肌状況評価を生成」することまで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を一般化できるとはいえない。

イ 請求人は、平成27年5月29日付け意見書において、「上記B及びCで述べた通りであるので、ご指摘の事項は、いずれも解消されたものと思料する。」と主張している(この主張中のB及びCは、上記「(1)」「イ 」及び上記「(2)」「イ」において摘記した内容を含むものである)。しかし、上記「(1)」「イ」及び上記「(2)」「イ」で検討したとおり、請求人の主張はいずれも採用することができないので、上記主張も採用できない。

ウ したがって、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願発明の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4) 第4の理由(特許法第29条第2項)について
ア 引用例の記載事項
本願の優先日前に頒布され、当審で通知した拒絶理由で引用された米国特許第4398541号明細書(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、当審の仮訳中の下線は、引用発明の認定に直接的に関係する箇所である。

(ア) 「This invention relates to a method and an apparatus for measuring the moisture content of skin, and more particularly to the taking of in vivo measurements in a rapid, simple and accurate manner.」 (第1欄第5?8行)
(仮訳:この発明は、皮膚の水分含量を測定する方法及び装置に関し、より具体的には、迅速、簡単で正確な方法でインビボ測定を行うことに関する。)

(イ) 「In the case of a stack of glass plates, the degree of polarization of the reflected light is a function of both the number of plates in the stack and their refractive index (see, e.g., page 493 of the Jenkins and White text). Consequently, since the skin affects incident light as does a pile of parallel glass plates, the degree of polarization of the reflected light is a function of the refractive index of the skin.

The refractive indices of many biological fluids are functions of their concentrations of proteins and salts. The concentration of any biological fluid is inversely related to the water content in that fluid matrix. Therefore, if unpolarized light is incident upon a skin surface, the degree of polarization of the reflected light is necessarily a function of the refractive index of the skin which, in turn, is a function of the moisture content of the skin. The underlying technique of my invention is to direct a ray of light toward the skin surface, and to measure the degree of polarization of the reflected light to determine the moisture content of the skin.

There are two refinements of this basic technique, however, which make it both practical and accurate, and are incorporated in the preferred embodiment of the invention. The first refinement concerns the use of an incident beam of light which is polarized rather than unpolarized, and which impinges on the skin at approximately the Brewster angle (within the range 45°-60° incident to the normal, with an angle of 54° being preferred). When unpolarized light is used, it is found that the degree of polarization of the reflected light is a function of the moisture content of the skin, but even large variations in moisture content result in relatively small variations in the degree of polarization. 」(第2欄第51行?第3欄第15行)
(仮訳:ガラス板の積層体の場合、反射光の偏光度は、積層された板の枚数およびそれらの屈折率の両方の関数である(例えば、JenkinsとWhiteの教科書493頁を参照)。その結果、平行ガラス板の積層体の場合と同様に、皮膚は入射光に影響を与えるから、反射光の偏光度は皮膚の屈折率の関数となる。
多くの生物学的流体の屈折率は、タンパク質および塩のその濃度の関数である。任意の生体液の濃度は、逆に、流体マトリックス中の水分含有量に関連している。したがって、皮膚表面に非偏光が入射すると、反射光の偏光度は、必然的に皮膚の屈折率の関数となり、それはすなわち、皮膚の水分含量の関数となる。私の発明の基礎となる技術は、皮膚表面に向かって光を誘導し、皮膚の水分含有量を決定するために、反射光の偏光度を測定することである。
しかし、この基礎技術には、測定を実用的で正確なものとする2つの改良があり、これは本発明の好ましい実施形態に組み込まれている。最初の改良は、概ねブリュースター角(法線に対し45°-60°、好ましくは54°)で皮膚に当たるような、光の入射ビームとして偏光はなく非偏光を用いることに関する。非偏光を用いると、反射光の偏光度は、水分含量の関数となるが、たとえ水分含量の変化が大きくても、偏光度の変化は比較的小さいものとなる。)

(ウ) 「The second refinement takes into account measurement variations which would otherwise arise from such things as skin textures and especially skin colors of different patients. Considering skin color, for example, it is apparent that the total light which is internally refracted and reflected necessarily depends upon the degree to which the incident light is absorbed in the skin and this, in turn, depends on the skin color. 」(第3欄第36?43行)
(仮訳:2つ目の改良は、皮膚のきめと、特に患者間の皮膚の色の相違に起因する測定のバラツキを考慮することである。皮膚の色を考慮すると、例えば、内部屈折されたものと、反射されたものの合計の光は、入射光が皮膚に吸収される程度に必然的に依存し、したがって、皮膚の色に依存することは明らかである。)

(エ) 「For this reason, the output readings of the instrument of the preferred embodiment of my invention are not simply a direct function of the degree of polarization of the reflected light. Two measurements are actually taken for each patient. The first is the intensity of the polarized light in the reflected beam. The second is the total intensity of the reflected beam. (The two measurements can be taken simply by inserting and then removing an analyzer in the path of the reflected light, as is known in the art.) The output measurement is proportional to the ratio of the first reading to the second. Skin texture and color, as well as other variables, affect both readings to approximately the same degree. Thus, both measurements for one patient may be just half of both respective measurements for another, but the ratio of measurements for both patients will be the same if they have equal skin moisture contents.」(第3欄第49?65行)
(仮訳:このため、私の発明の好ましい実施形態においては、装置の出力の測定値を、単なる反射光の偏光度の直接的な関数とはしない。実際には、2つの測定が各患者について行われる。1つ目は、反射ビームの偏光強度である。2つ目は反射ビームのトータルの強度である。(当技術分野で知られているように、その2つの測定は、単に検光子を反射光の通路に挿抜するだけで可能である。)出力の測定値は、1つ目の測定値と2つ目の測定値の比に比例する。皮膚のきめや色、他の変数は、ほとんど同程度に両方の測定値に影響を与える。したがって、ある患者についての両測定値が、それぞれ他の患者のちょうど半分であっても、両患者の皮膚の水分含量が等しければ、測定値の比は等しくなるであろう。)

(オ) 上記(イ)において、光の入射ビームとして偏光はなく非偏光を用いると、水分含量の変化が大きくても、偏光度の変化は比較的小さいとしているが、これも水分含量を測定する一方式として当業者には理解できる。
したがって、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「皮膚表面に向かって光を誘導し、皮膚の水分含有量を決定するために、反射光の偏光度を測定する、皮膚の水分含量を測定する方法及び装置において、
皮膚に当たる光の入射ビームとして、非偏光を用いると、反射光の偏光度は、水分含量の関数となり、
装置の出力の測定値を、単なる反射光の偏光度の直接的な関数とはせず、反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比をとる、
装置。」

イ 対比・判断
(ア) 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「装置」は、「皮膚表面に向かって光を誘導し、皮膚の水分含有量を決定するために、反射光の偏光度を測定する」ものであるから、侵襲性は低いと解される。
したがって、引用発明の「装置」と本願発明の「非侵襲性の撮像装置」とは「非侵襲性の装置」である点で共通する。

b 引用発明における「装置」は、「皮膚表面に向かって光を誘導し」「皮膚に当たる光の入射ビーム」を生成するから、そのための光源を含む照明源を有するのは技術常識から明らかである。
したがって、引用発明が備える「皮膚表面に向かって光を誘導し」「皮膚に当たる光の入射ビーム」を生成するための光源を含む照明源は、本願発明の「皮膚上に光を導くための入射光源を含む照明源」に相当する。

c 引用発明の「装置」は、「反射ビームの偏光強度とトータルの強度」を測定する。
そのうち「反射ビームの偏光強度」は皮膚内部で屈折した光であり、「トータルの強度」は、皮膚内部で屈折した光と、皮膚表面でいわゆる鏡面反射した光とが加算された強度であるのは技術常識から明らかであり、また、引用発明の「装置」が「反射ビーム」を検出するための光学的な設備を有するのも技術常識から明らかである。
よって、引用発明が有する「反射ビーム」を検出するための光学的な設備は、本願発明の「前記皮膚からの反射光及び屈折光を検出するための光学的な設備」に相当する。

d 引用発明の「反射光の偏光度」又は「反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比」は、本願発明の「反射光の特性」に相当する。
そして、引用発明の「装置」が「反射光の偏光度」又は「反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比」を測定する手段を有するのは明らかである。
よって、引用発明が有する「反射光の偏光度」又は「反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比」を測定する手段は、本願発明の「前記皮膚からの反射光の特性を検出するための検出器」に相当する。

e 引用発明では、「反射光の偏光度」又は「反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比」を用いて「皮膚の水分含量を測定する」から、そのための手段を有するのは明らかである。
そして、その手段が、上記dで検討した「反射光の偏光度」又は「反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比」を測定する手段に結合されているのも明らかである。
さらに、引用発明の「皮膚の水分含量」が、ある個人専用の肌の状況を評価するものであることも明らかであるから、引用発明の「皮膚の水分含量」は、本願発明の「個人専用の肌状況評価」に相当する。
よって、引用発明が有する、「反射光の偏光度」又は「反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比」を測定する手段に結合され、「反射光の偏光度」又は「反射ビームの偏光強度とトータルの強度の比」を用いて「皮膚の水分含量を測定する」手段と、本願発明の「前記検出器に結合されたホストシステムであって、前記反射光の前記特性に少なくとも部分的に基づいて、個人専用の肌状況評価を生成することが可能なホストシステム」とは、「前記検出器に結合された手段であって、前記反射光の前記特性に少なくとも部分的に基づいて、個人専用の肌状況評価を生成することが可能な手段」という点で共通する。

f 引用発明の「皮膚に当たる光の入射ビームとして、非偏光を用いる」ことは、本願発明の「前記入射光が、非偏光光を含」むことに相当する。

g してみれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

一致点:
「非侵襲性の装置であって、
皮膚上に光を導くための入射光源を含む照明源と、
前記皮膚からの反射光及び屈折光を検出するための光学的な設備と、
前記皮膚からの前記反射光の特性を検出するための検出器と、
前記検出器に結合された手段であって、前記反射光の特性に少なくとも部分的に基づいて、個人専用の肌状況評価を生成することが可能な手段
とを備え、
前記入射光が、非偏向の光を含む装置。」

相違点1:
非侵襲性の装置について、本願発では「撮像装置」であるのに対し、引用発明では撮像機能の有無について不明な点。

相違点2:
肌状況評価を生成することが可能な手段が、本願発明では「ホストシステム」であるのに対し、引用発明ではホストシステムではない点。

相違点3:
肌状況評価の項目について、本願発明は「色、年齢、日焼けによる損傷、コラーゲン、エラスチン、毛穴、及びケラチンからなるグループから選択される少なくとも1つの項目に関するデータを含む」のに対し、引用発明は水分含量である点。

(イ) 相違点についての検討
a 相違点1について
引用発明のように、偏光を用いて皮膚の状況を評価する装置において、皮膚の広範囲の状況をみるために撮像を行うことは、周知技術(例えば、米国特許第6081612号明細書の第8欄第64行?第9欄第2行、米国特許出願公開第2006/0241495号明細書の要約等を参照。)である。
そして、引用発明のように皮膚を検査する装置において、皮膚の1点のみでなく広範囲の状況をみることは自明の課題であるから、引用発明の装置においても、皮膚の広範囲の状況をみることができるように、撮像機能を付加することは、当業者が容易に想到し得たことである。

b 相違点2について
引用発明で行われる皮膚の水分含量の測定のような、肌状況の評価を、評価のアルゴリズムを更新することが容易なホストシステムで行うことは、周知技術(例えば、特開2006-81847号公報の【0002】?【0004】を参照。)である。
そして、引用発明のように皮膚の検査をする装置において、評価のアルゴリズムを更新しやすくすることは自明の課題であるから、引用発明においても、評価のアルゴリズムを更新しやすくするために、ホストシステムで評価を行うようにして相違点2に係る本願発明の構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

c 相違点3について
引用発明の「水分含量」は、本願発明における評価項目の一つである「肌」の「年齢」に関連する量である。
また、その水分含量と同様に、偏光を用いて得られる肌に関する評価項目として、色やコラーゲン等を採用することは、例えば米国特許第6081612号明細書(第8欄第66行に記載された「dermoscopic imaging」は色をみるものである。)、米国特許出願公開第2006/0241495号明細書(段落【0054】参照。)に記載されているように、いずれも周知技術である。
したがって、引用発明において、多様な肌の評価を可能とするため、色やコラーゲン等を評価項目として採用し、相違点3に係る本願発明の構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。

d そして、本願発明の奏する効果は、引用例1の記載事項及び上記周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものでもない。

(ウ) 請求人の主張について
請求人は、平成27年5月29日付け意見書において、「請求項1に係る発明は、反射光の特性を検出して、肌状況評価を生成するものである。この点、上記のとおり、本願明細書の段落0029?0031(特に段落0030の表1)には、皮膚内のコラーゲンに325nmの波長の光を照射すると、400nmと405nmの波長の光が放出され、エラスチンに290nmまたは325nmの波長の光を照射すると、340nmまたは400nmの波長の光が放出されることが記載されている。すなわち、構成a?dを具備する請求項1に係る発明は、かかる反射光の特性を利用することによって、肌状況をより的確に評価できるという効果を奏する。」と主張している。しかし、本願発明は、肌状況評価に用いる反射光の特性及び評価項目について、上記主張中にあるような波長や項目に限定されるものではなく、コラーゲンについては、上記cのとおり、依然として当業者が容易になし得たとの判断に変わりはない。

ウ 小括
したがって、本願発明は、引用発明及び上記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
上記第4で検討したように、当審で通知した拒絶理由の第1ないし4の理由が解消しておらず、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願発明の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさず、請求項8及び請求項17の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさず、発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定に規定する要件を満たさない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものであるから、上記のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-06 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-22 
出願番号 特願2009-545011(P2009-545011)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61B)
P 1 8・ 121- WZ (A61B)
P 1 8・ 536- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 洋平渡▲辺▼ 純也  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 三崎 仁
松本 隆彦
発明の名称 皮膚を撮像するためのシステム、装置、及び方法  
代理人 西山 清春  
代理人 古谷 聡  

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