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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1308213
審判番号 不服2014-9092  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-16 
確定日 2015-12-02 
事件の表示 特願2011-189162「金型構造」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-139993〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成23年8月31日(パリ条約の例による優先権主張 2010年12月30日(US)アメリカ合衆国)を出願日とする特許出願であって,平成24年12月25日付けで拒絶理由が通知され,平成25年4月8日に意見書が提出されると共に特許請求の範囲及び明細書が補正されたが,平成26年1月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年5月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年7月4日付けで同法164条3項所定の報告がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成26年5月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年5月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正は,特許請求の範囲を変更する補正であって,本件補正の前後における特許請求の範囲の記載は,それぞれ以下のとおりである。

・ 本件補正前(請求項2?8,請求項10?13の記載省略)

「【請求項1】
異種材料成形体をインサート成形するための金型構造であり:
インサート物を設置するキャビティを含む上部金型と;
剛性体と弾性接触部材を含み,前記インサート物を前記弾性接触部材上に置き,従って弾性接触部材がインサート成形する間に前記インサート材料の寸法変動を吸収する下部金型とも含み,
前記上部金型と前記下部金型が,これらが共に組み合わされた後の内部スペースを定義し,及び前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート材料と結合して前記異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマー及び前記弾性接触部材が異なる材料から構成され,
前記弾性接触部材が,前記剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されている,金型構造。
【請求項9】
金型構造であり:
第一剛性体及び第一弾性接触部材を含む上部金型;及び
第二剛性体及び第二弾性接触部材を含む下部金型を含み,
前記上部金型と前記下部金型が,共に組み合わされる際,インサート物を配設する内部スペースを定義し,前記インサート物が前記第一弾性接触部材と前記第二弾性接触部材に共に接触し,それにより前記インサート物の寸法変動を吸収し,
前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート物と結合して異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマーが,前記第一及び前記第二弾性接触部材とは異なる材料から構成され,
前記第一弾性接触部材が,前記第一剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されており,
前記第二弾性接触部材が,前記第二剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されている,金型構造。」

・ 本件補正後(請求項2?8,請求項10?13の記載省略)

「【請求項1】
異種材料成形体をインサート成形するための金型構造であり:
インサート物を設置するキャビティを含む上部金型と;
剛性体と弾性接触部材を含み,前記インサート物を前記弾性接触部材上に置き,従って弾性接触部材がインサート成形する間に前記インサート材料の寸法変動を吸収する下部金型とも含み,
前記上部金型と前記下部金型が,これらが共に組み合わされた後の内部スペースを定義し,及び前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート材料と結合して前記異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマー及び前記弾性接触部材が異なる材料から構成され,
前記弾性接触部材が,前記剛性体の内側に固定され,前記剛性体と前記弾性接触部材とはプライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている,金型構造。
【請求項9】
金型構造であり:
第一剛性体及び第一弾性接触部材を含む上部金型;及び
第二剛性体及び第二弾性接触部材を含む下部金型を含み,
前記上部金型と前記下部金型が,共に組み合わされる際,インサート物を配設する内部スペースを定義し,前記インサート物が前記第一弾性接触部材と前記第二弾性接触部材に共に接触し,それにより前記インサート物の寸法変動を吸収し,
前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート物と結合して異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマーが,前記第一及び前記第二弾性接触部材とは異なる材料から構成され,
前記第一弾性接触部材が,前記第一剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されており,
前記第二弾性接触部材が,前記第二剛性体の内側に固定され,前記第二剛性体と前記第二弾性接触部材とはプライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている,金型構造。」

2 本件補正の目的

(1)請求項1に係る補正について
本件補正における請求項1に係る補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「プライマーで結合」について,「プライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合」と更に特定する補正である。
そして,この補正により,補正前の「プライマーで結合」は,特定の形態で結合する点が限定されることとなり,しかも,補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。

(2)請求項9に係る補正について
本件補正における請求項9に係る補正は,補正前の請求項9に記載された発明を特定するために必要な事項である「プライマーで結合」について,「プライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合」と更に特定する補正である。
そして,この補正により,補正前の「プライマーで結合」は,特定の形態で結合する点が限定されることとなり,しかも,補正の前後で,請求項9に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。

(3)本件補正について
よって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。

3 独立特許要件違反の有無について

上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1及び9に記載された発明(以下,それぞれを「本願補正発明1」及び「本願補正発明9」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(本件補正が,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか,いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,本件補正は当該要件に違反すると判断される。

すなわち,本願補正発明1は,下記引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
また,本願補正発明9は,下記引用文献2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

引用文献1 : 特開平7-117061号公報
引用文献2 : 特開昭63-67125号公報

以下,特許を受けることができない理由を,下記5及び6において詳述する。

なお,引用文献1?2は,平成24年12月25日付け拒絶理由を通知するにあたり,請求人に提示された刊行物である。

4 本願補正発明1及び9

本願補正発明1及び9は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
異種材料成形体をインサート成形するための金型構造であり:
インサート物を設置するキャビティを含む上部金型と;
剛性体と弾性接触部材を含み,前記インサート物を前記弾性接触部材上に置き,従って弾性接触部材がインサート成形する間に前記インサート材料の寸法変動を吸収する下部金型とも含み,
前記上部金型と前記下部金型が,これらが共に組み合わされた後の内部スペースを定義し,及び前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート材料と結合して前記異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマー及び前記弾性接触部材が異なる材料から構成され,
前記弾性接触部材が,前記剛性体の内側に固定され,前記剛性体と前記弾性接触部材とはプライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている,金型構造。
【請求項9】
金型構造であり:
第一剛性体及び第一弾性接触部材を含む上部金型;及び
第二剛性体及び第二弾性接触部材を含む下部金型を含み,
前記上部金型と前記下部金型が,共に組み合わされる際,インサート物を配設する内部スペースを定義し,前記インサート物が前記第一弾性接触部材と前記第二弾性接触部材に共に接触し,それにより前記インサート物の寸法変動を吸収し,
前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート物と結合して異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマーが,前記第一及び前記第二弾性接触部材とは異なる材料から構成され,
前記第一弾性接触部材が,前記第一剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されており,
前記第二弾性接触部材が,前記第二剛性体の内側に固定され,前記第二剛性体と前記第二弾性接触部材とはプライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている,金型構造。」

5 本願補正発明1が特許を受けることができない理由

(1) 引用文献1の記載
引用文献1には,次の記載がある。(なお,下線は当審で付した。以下同じ。)

ア 「【請求項1】型A(1)にセラミクス成形品(6)をはめこみ,前記セラミクス成形品(6)と型B(9)で作るキャビティ(10)に弾性材(13)を注入して前記セラミクス成形品(6)に弾性体(13)を接合し一体成形する際に,前記型A(1)と前記セラミクス製品(6)との間に圧力緩和用弾性体(3)を介設し前記セラミクス成形品(6)に加わる圧力を緩和することを特徴とするセラミクスと弾性体を接合するための成形方法。
【請求項2】型A(1)に圧力緩和用弾性体(3)をはめこみ,前記圧力緩和用弾性体(3)にセラミクス成形品(6)を接触させ,前記セラミクス成形品(6)と型B(9)との間に形成したキャビティー(10)に圧力をかけて注入した弾性材(13)を前記セラミクス成形品(6)に接合したことを特徴とするセラミクスと弾性体の複合一体成形品。」(特許請求の範囲の請求項1,2)

イ 「【産業上の利用分野】本発明は,セラミクスとゴム・エラストマのような弾性体とを一体的に接合するためのセラミクスと弾性体を接合するための成形方法に関する。」(段落 【0001】)

ウ 「【発明が解決しようとする課題】この発明は上述のような技術的背景のもとになされたものであり,下記目的を達成する。
この発明の目的は,寿命が長いセラミクスと弾性体の一体複合品を提供することにある。
この発明の目的は,セラミクスと弾性体の一体複合品の寿命を飛躍的に伸ばす一体成形方法を提供することにある。」(段落 【0008】?【0010】)

エ 「【課題を解決するための手段】・・・
この発明のセラミクスと弾性体の複合一体成形品は,型A(1)に圧力緩和用弾性体(3)をはめこみ,前記圧力緩和用弾性体(3)にセラミクス成形品(6)を接触させ,前記セラミクス成形品(6)と型B(9)との間に形成したキャビティー(10)に圧力をかけて注入した弾性材(13)を前記セラミクス成形品(6)に接合したことを特徴としている。
このセラミクスと弾性体を接合するための成形方法は,天然ゴム,ニトリルゴム,各種合成ゴム,各種合成軟質・硬質エラストマをセラミクスに弾性体として接合し一体成形することができる。弾性体の硬度は一般的にはJISA硬さで60度近辺が適切であるが,セラミクスの形状の複雑度・単純度に応じて,また,用いる弾生材料の溶融温度,冷却時の温度勾配などの成形条件により,設計変更が可能である。
圧力緩和用弾性体も前記した各種の弾性材料を用いることができる。その硬度も設計条件により変更される。圧力緩和用弾性体は,セラミクス成形品に接触する面積が大きく,無理なくセラミクス成形品に密着するように,成形により作る。1つの圧力緩和用弾性体は,余り多くの回数用いることができないので,成形により多数作っておく。
【作用】この発明のセラミクスと弾性体を接合するための成形方法は,一体成形時に,セラミクスに加えられる圧力エネルギーが,圧力緩和用弾性体に吸収され,セラミクスに応力エネルギーが集中的に蓄積されることがない。」(段落 【0011】?【0016】)

オ 「【実施例】
(実施例1)次に,本発明の実施例を説明する。図1は,本発明のセラミクスと弾性体を接合するための成形方法の実施例1を実施する際に用いる型構成を示し,断面図である。下型(以下型Aという)1にはくぼみ2が形成されている。くぼみ2に圧力緩和用弾性体3がはめ込まれる。くぼみ2の形状は圧力緩和用弾性体3の形状に合わせられている。圧力緩和用弾性体3は周壁4を有し,底部に突起部5を備えている。セラミクス成形品6は,すでに他のセラミクス成形品成形工程により成形された半製品である。セラミクス成形品を成形により製造する方法は公知であるので,その説明は省略する。
圧力緩和用弾性体3の形状はセラミクス成形品6の形状に合わせられている。たとえば,セラミクス成形品6は,下部に凹部7を有し,凹部7が圧力緩和用弾性体3の突起部5にはまり込んでいる。型A1と圧力緩和用弾性体3の上面に中型(以下型Cという)8が可動的に載置される。型C8は左右方向に移動する。型C8の上面に上型(以下型Bという)9が可動的に置かれる。型B9は上下に移動する。
セラミクス成形品6と型C8と型B9とでキャビティ10が形成されている。このキャビティ10の形状はセラミクス成形品6に一体成形により接合される製品部分としての弾性体の形状に合致するように形成されている。型B9にはゲート11が形成されている。ゲート11は弾性材料の注入孔12の先端部分として形成されている。
(実施例1の動作)次に,前記実施例1の動作を説明する。図2は第1工程を示す。型A1の凹部2に圧力緩和用弾性体3をはめ込む。図3に示す次の第2工程で,圧力緩和用弾性体3の突起部5にセラミクス成形品6の凹部7をはめ込む。図4に示す次の第3工程で型A1と圧力緩和用弾性体3の上面に左右の型C8を当接させる。図5に示す次の第4工程で,型C8の上面に型A9を当接させ,注入孔12,ゲート11を介して,圧力緩和用弾性体3の上端面とセラミクス成形品6の上端面と型C8の側面と型B9の内面とで形成されているキャビティ10に弾性材料13を注入する。温度が高い液状の弾性材料12に静的圧力Pがかけられ射出成形が行われる。
このような成形時は,セラミクス成形品6の表面に熱運動する高温の液状弾性体が激しく衝突し,衝撃的な動的圧力Vがセラミクス成形品6の表面から内部に浸透して応力エネルギーがセラミクス成形品6の中に集中しようとする。セラミクス成形品6の中で集中しようとする応力エネルギーである音波エネルギー,格子振動エネルギーなどの各種エネルギーは,歪エネルギーとしてセラミクス成形品6の中に蓄積されず,セラミクス成形品6を介して圧力緩和用弾性体3に伝播する。
このように圧力緩和用弾性体3に伝播されたエネルギーを持つ波は,このエネルギーを受けて振動する圧力緩和用弾性体3の中で減衰する。セラミクス成形品6の表層に集中しやすいエネルギーは圧力緩和用弾性体3に吸収されるので,セラミクス成形品6の表層に極端に亀裂が集中することはない。
キャビティ10内で弾性材料は冷却されるが冷却時の温度降下により発生する歪エネルギーは,同様に,圧力緩和用弾性体3に吸収される。キャビティ10内で弾性材料は冷却され硬化して図6に示す弾性体14とセラミクス成形品6の一体成形物が製造される。
(その他の実施例)本発明は,上記実施例に限られることはなく,本発明の趣旨の範囲内で,設計変更が行われさまざまな実施形態で実施可能である。たとえば,型C8は省略できる。上記実施例は,量産を前提とした射出成形方法を用いたが1品生産など少量生産を行うときは,半液状の弾性材料を型A,B,C間に手動で挟み込み,型B,Cを手で操作して型B,Cに手で圧力をかけて成形することができる。」(段落 【0017】?【0023】)

カ 「

」(図1?図6)

(2) 引用文献1に記載された発明
引用文献1には,上記(1)ア,オ及びカに,上記(1)アの製造方法に利用される金型構造として,「型A(1)に圧力緩和用弾性体(3)をはめこ」む構成,「セラミクス成形品6」が,「圧力緩和用弾性体3の突起部5にはまり込んでい」る構成とともに,「セラミクス成形品(6)と型B(9)との間に形成したキャビティー(10)に圧力をかけて注入した弾性材(13)を前記セラミクス成形品(6)に接合」する複合一体成形品を製造する金型構造が記載されている。
そして,圧力緩和用弾性体が型Aにはめこまれており,セラミクス成形品も圧力緩和用弾性体にはめこまれてなる金型構造において複合一体成形品を製造するには,成形された複合一体成形品の金型からの離型の際,セラミクス成形品は圧力緩和用弾性体から離れるが,圧力緩和用弾性体は型Aから離れないようにしなければならない。
そうすると,圧力緩和用弾性体は,型Aの内側にはめこまれ固定されていると解される。
そうすると,引用文献1には,

「セラミクス成形品に弾性材を接合し一体成形をするための金型構造であって,
上記金型構造は,型Bと,圧力緩和用弾性体が内側にはめこまれ固定されてなる型Aとからなり,
上記金型構造において,圧力緩和用弾性体にはめこまれるセラミクス成形品と型Bとの間にキャビティーが形成され,
セラミクス成形品に,キャビティーに圧力をかけて注入した弾性材が接合されることで,セラミクス成形品と弾性材との複合一体成形品が製造される,
金型構造。」に係る発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

(3) 本願補正発明1と引用発明1との対比・判断
引用発明1における「セラミクス成形品」,「複合一体成形品」は,それぞれ,本願補正発明1の「インサート物」,「異種材料成形体」に相当する。
引用発明1における「金型構造」は,セラミクス成形品と弾性材を接合し一体成形をするためのものであるから,異種材料成形体をインサート成形するための金型構造といえる。
引用発明1における「型B」は,本願補正発明1の「上部金型」に相当し,セラミクス成形品(インサート物)と型Bとの間にキャビティーが形成されているから,当該「型B」は,インサート物を設置するキャビティを含むものである。
引用発明1における「型A」,「弾性材」は,それぞれ,本願補正発明1の「剛性体」,「ポリマーエラストマー」に相当する。
引用発明1における「圧力緩和用弾性体」は,上記(1)オからみて,本願補正発明1の「弾性接触部材」に相当する。
引用発明1における「圧力緩和用弾性体が内側にはめこまれ固定されてなる型A」が,本願補正発明1の「下部金型」に相当する。
引用発明1の「キャビティー」は,本願補正発明1の「内部スペース」に相当する。そして,引用発明1においても,型B(上部金型)と圧力緩和用弾性体がはめこまれ固定されてなる型A(下部金型)が共に組み合わされた後のキャビティー(内部スペース)に注入される弾性材(ポリマーエラストマ-)が,複合一体成形品(異種材料成形体)の一部を形成するから,引用発明1の「セラミクス成形品」(インサート物)は,圧力緩和用弾性体(弾性接触部材)上に置かれているといえる。
そうすると,両者は,

「異種材料成形体をインサート成形するための金型構造であり:
インサート物を設置するキャビティを含む上部金型と;
剛性体と弾性接触部材を含む,前記インサート物を前記弾性接触部材上に置く下部金型を含み,
前記上部金型と前記下部金型が,これらが共に組み合わされた後の内部スペースを定義し,及び前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート材料と結合して前記異種材料成形体を形成し,
前記弾性接触部材が,前記剛性体の内側に固定されている,金型構造。」

の点で一致し,以下の点で相違している。

<相違点1>
弾性接触部材(圧力緩和用弾性体)について,本願補正発明1は「インサート成形する間に前記インサート材料の寸法変動を吸収する」と特定するのに対して,引用発明1は,この点を特定しない点。

<相違点2>
ポリマーエラストマー(弾性材)及び弾性接触部材(圧力緩和用弾性体)の材料に関し,本願補正発明1は,両者が「異なる材料から構成され」と特定するのに対して,引用発明1は,この点を特定しない点。

<相違点3>
弾性接触部材(圧力緩和用弾性体)を剛性体(型A)の内側に固定するための態様について,本願補正発明1は「プライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている」と特定するのに対して,引用発明1は,この点を特定しない点。

以下,相違点について検討する。

相違点1について
引用発明1の圧力緩和用弾性体について,引用文献1には,「圧力緩和用弾性体3に伝播されたエネルギーを持つ波は,このエネルギーを受けて振動する圧力緩和用弾性体3の中で減衰する。」,「キャビティ10内で弾性材料は冷却されるが冷却時の温度降下により発生する歪エネルギーは,同様に,圧力緩和用弾性体3に吸収される。」(上記(1)オ)との記載があるから,引用発明1の圧力緩和用弾性体もインサート物の寸法変動を吸収するものといえる。
また,引用発明1における「圧力緩和用弾性体」の材質は,本願補正発明1と同じ「弾性」部材であって,その具体例として例示されている天然ゴム,ニトリルゴム,各種合成ゴム,各種合成軟質・硬質エラストマ(上記(1)エ)は,本願補正明細書において本願補正発明1の弾性接触部材の材質として例示されているシリコーン,プラスチック,各種の合成ゴム,各種の樹脂等のポリマー弾性材料と相違しない。そして,引用発明1の金型構造は,本願補正発明1と同じく,型Aに圧力緩和用弾性体が固定され,セラミクス成形品(インサート物)を当該圧力緩和用弾性体(弾性接触部材)にはめこんでいる構造であるから,引用発明1の「圧力緩和用弾性体」(弾性接触部材)は,インサート物の寸法変動を吸収するものともいえる。
そうすると,相違点1は,実質上の相違点ではない。

相違点2について
引用発明1の「弾性材」(ポリマーエラストマー)は,具体的に製造しようとするセラミクス成形品と弾性材の複合一体成形品に応じて各種ゴム又はエラストマから選択されるものであり,一方,引用発明1の「応力緩和用弾性体」(弾性接触部材)は,セラミクス成形品の応力緩和を目的として用いられるものであって,「弾性材」と「応力緩和用弾性体」は求められる物性は同じでないから,引用発明1の「弾性材」と「応力緩和用弾性体」は異なる材料から構成されていると考えるのが自然である。そうすると,相違点2は実質上の相違点ではない。

相違点3について
剛性体(金属等)と弾性体をプライマーを介して固定することは周知(要すれば,特開昭55-75471号公報の特許請求の範囲と左下欄12-18行,特開平10-120985号公報の特許請求の範囲【0001】【0005】,特開昭57-126644号公報の従来技術の記載等参照)である。
そして,複合金型での成形においても,成形に利用される金型が成形後に成形される成形品と一体とならないようにすることは,当業者の技術常識であるから,型Aの内側にはめこまれ固定されてなる圧力緩和用弾性体を確実に固定すべく,圧力緩和用弾性体を前記周知のプライマーを介して型Aに固定するようにすることは,当業者が容易に想到しえたことである。そして,プライマーを介して固定した場合には,当然に化学的クロスリンク反応が発生することで結合されることになる。
そして,そのことによる効果についても,当業者が予測しうる程度のものである。

したがって,本願補正発明1は,引用発明1から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) まとめ
本願補正発明1は,引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明1は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

6 本願補正発明9が特許を受けることができない理由

(1) 引用文献2の記載
引用文献2には,次の記載がある。

ア 「1.板硝子の周辺部に合成樹脂製のモールあるいはガスケットを形成する方法において,板硝子を型内に配置して閉じるとともに型内面と板硝子との間にシール部材を存在させて該板硝子の周辺部表面,型内面,およびシール部材表面により囲まれかつモールあるいはガスケットを形成するためのキャビティー空間を形成し,さらに該型に型外より駆動しうる作動杆を設けて該作動杆により前記シール部材又は板硝子の周辺部以外の部分を支持し,次いで該キャビティー空間に固化しうる合成樹脂あるいはその原料を注入し,合成樹脂の固化後該板硝子を該型より取り出すことを特徴とする板硝子の周辺部に合成樹脂製のモールあるいはガスケットを形成する方法。」(特許請求の範囲の第1項)

イ 「本発明の方法の例をまず図面を用いて説明する。第1図は板硝子を内部に配置して閉じた型の部分断面図である。型は上型(1)と下型(2)とからなり,板硝子(3)はその上型(1)と下型(2)の間に位置している。シール部材(4)(5)はそれらの間に位置し,後述キャビティー空間を形成する。板硝子(3)の周辺部は周辺上面(6),周辺下面(7)および端面(6)からなり,周辺上面(6)と周辺下面(7)の巾をそれぞれ図示したようにaとbとする。後述するように板硝子の周辺部すべてにモールを形成しない場合もあるので,周辺部のモールが形成される面をモール形成面と呼び,周辺部のモールが形成されない面を含めて板硝子の周辺部以外の表面を非モール形成面と呼ぶことにする。従って,図の周辺上面(6),周辺下面(7)および端面(8)はモール形成面であり,板硝子の他の面(9)(10)が非モール形成面である。非モール形成面に接していない上型(1)の内面(11),下型(2)の内面(12)および板硝子のモール形成面で囲まれた型内面がキャビティー空間(13)となり,反応射出成形の場合はこの空間(13)に上下型の分割線(I4)に設けられた注入孔を通って合成樹脂原料が注入される。他の成形方法では一方の型に注入孔が設けられることが多い。
本発明の特徴は外部の油圧などで駆動しうる作動杆(15)で一方のシール部材(5)を押え,シールをより完全にし,又はそれと同時にあるいはそれとは別に板硝子(3)の位置決めをも行う点にある。作動杆(15)は又シール部材の長さ方向(紙面に垂直な方向)に伸びた板体であってもよい。さらに,他のシール部材(4)に作動杆を設けてもよく,また両シール部材にも設けることができる。また,板硝子(3)の位置決めのみを目的とする場合は,同様の作動杆を板硝子(3)のシール部材(4)(5)が接触しない非モール形成表面に接触するように設けることもできる。」(2頁 右上欄15行?右下欄12行)

ウ 「シール部材(4)(5)は前記の通りキャビディー空間からの注入された合成樹脂やその原料が漏出することを防ぐために設けられている。従って,シール部材はたとえ作動杆の位置が変化してもシール性を発揮できなければならない。シール部材は通常予め型内面に取りつけられたものであるか作動杆の先端に作動杆と一体となって取り付けられたものであることが好ましい。前者の場合,その弾性により作動杆の位置が変化してもシール部材と型内面とは充分に固定されている必要がある。」(3頁左上欄13行?右上欄3行)

エ 「板硝子の表面はまた種々の処理を施したものであってもよい。たとえば熱線反射ガラスのようにメッキしたものやセラミックスコートしたものなどであってもよい。これとは別に,モールを形成するために好ましい処理を行った板硝子であってもよい。たとえば,モールが形成される板硝子周辺部(モール形成面)にモールとの接着強度を向上させるためにブライマーを塗布した板硝子を使用することができる。逆に非モール形成面にモール形成後剥離しうる保護塗料を塗布したり,剥離可能なフィルムを密着させることができる。」(4頁左上欄5行?16行)

オ 「型の材質としては特に限定されないが,金属製の型やエポキシ樹脂やポリエステル樹脂などで製造されたいわゆる樹脂型であってもよい。・・・
・・・
前記シール部材の材質としては,合成樹脂製エラストマーやゴムなどの弾性体が好ましいが,これに限られるものではなく,軟質の合成樹脂や発泡合成樹脂のような弾性を有するものであってもよい。これらは少くとも型の材質よりも弾性を有するものが好ましい。シール部材の固化しうる合成樹脂やその原料に接する可能性のある部分は非粘着性の表面を有する材質であることが好ましいが,たとえそうでなくとも離型剤を塗布するなどの非粘着性表面を形成したものを使用しうる。具体的な材質としては,たとえば,フッ素樹脂,フッ素ゴム,シリコン樹脂,シリコンゴムなどの非粘着性表面を有する合成樹脂や合成ゴム,軟質あるいは半硬質ポリウレタンフォームその他の発泡合成樹脂,比較的軟質の合成樹脂の中空体,樹脂含浸紙などの複合材などが好ましい。その他,ポリエチレンなどの比較的軟質の合成樹脂や上記以外のエラストマーやゴムも使用しうる。」(4頁左上欄17行?右下欄7行)

カ 「・・・溶融された熱可塑性樹脂の射出成形によってモールが形成される。キャビティーに射出された溶融合成樹脂は冷却により固化する。これら合成樹脂には,通例の充填剤,強化材,その他の配合剤を配合しておくことができる。時に,これら合成樹脂としては塩化ビニル系樹脂,熱可塑性エラストマー,熱可塑性ゴムなどが好ましい。以下に合成樹脂の例をあげるが,本発明で使用可能な合成樹脂にこれらのみに限定されるものではない。
熱可塑性樹脂:ポリエチレン,ポリプロピレン,EVA,その他のポリオレフィン系樹脂,ポリスチレン,AS,ABS,その他のポリスチレン系樹脂,ポリメチルメタクリレート,その他のアクリル系樹脂,PET,PBT,その他のポリエステル系樹脂,ナイロン-6,ナイロン66その他のポリアミド系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリウレタン系樹脂,ポリアセタール系樹脂,ポリアリーレンエーテル系樹脂,ポリハロゲン化ビニル系樹脂,シリコン系樹脂,セルロース系樹脂,又はそれらのブレンド樹脂。
熱可塑性ゴム:EPDMなどのポリオレフィン系,スチレン-ブタジエン系,スチレン-イソブチレン系,ポリウレタン系,ポリエステル系,エヂレン-酢ビ系,その他の熱可塑性ゴム。
熱硬化性樹脂:不飽和ポリエステル系樹脂,ビニルエステル系樹脂,エボギシ系樹脂,シリコン系樹脂,フェノール系樹脂,ジアリルフタレート系樹脂。」(6頁右上欄3行?左下欄15行)

キ 「

」(第1,2図)

(2) 引用文献2に記載された発明
引用文献2には,上記(1)ア,イ,ウ,キの記載からみて,上記(1)アの方法に利用される金型構造として,
「シール部材を含む上型,及び
シール部材を含む下型を含み,
板硝子を型内に配置して閉じるとともに型内面と板硝子との間にシール部材を存在させて該板硝子の周辺部表面,型内面,およびシール部材表面により囲まれかつモールあるいはガスケットを形成するためのキャビティー空間を形成し,シール部材は予め型内面に取りつけられたものであって,さらに該型に型外より駆動しうる作動杆を設けて該作動杆により板硝子の周辺部以外の部分を支持し,該キャビティー空間に固化しうる合成樹脂あるいはその原料を注入し,板硝子の周辺部に合成樹脂製のモールあるいはガスケットを形成する,
金型構造。」に係る発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

(3) 本願補正発明9と引用発明2との対比・判断
引用発明2における「板硝子」は,本願補正発明9の「インサート物」に相当する。
引用発明2における「上型」,「下型」,それぞれの型に取り付けられる「シール部材」は,当該上型又は下型と当該シール部材によって合成樹脂あるいはその原料が注入されるキャビティー空間が形成されるものであるから,それぞれ,本願補正発明9の「第一剛性体」,「第一弾性接触部材」,「第二剛性体」,「第二弾性接触部材」に相当する。そして,当該上型と当該シール部材とが,本願補正発明の「上部金型」に相当し,また,当該下型とシール部材とが,本願補正発明9の「下部金型」に相当する。
引用発明2における「キャビティー空間」,「合成樹脂あるいはその原料」は,それぞれ,本願補正発明9における「内部スペース」,「ポリマーエラストマー」に相当することは明らかである。
引用発明2において,キャビティー空間に固化しうる合成樹脂あるいはその原料を注入し,板硝子の周辺部に合成樹脂製のモールあるいはガスケットを形成することは,板硝子にモールあるいはガスケットが一体成形されることを意味しているから,形成されたモールあるいはガスケットを周辺部に一体成形された板硝子は,本願補正発明9の「異種材料成形体」に相当し,この異種材料成形体の一体成形時には,板硝子は,上下にある「シール部材」に共に接触している。
そうすると,両者は,

「金型構造であり:
第一剛性体及び第一弾性接触部材を含む上部金型;及び
第二剛性体及び第二弾性接触部材を含む下部金型を含み,
前記上部金型と前記下部金型が,共に組み合わされる際,インサート物を配設する内部スペースを定義し,前記インサート物が前記第一弾性接触部材と前記第二弾性接触部材に共に接触し,
前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート物と結合して異種材料成形体を形成し,
前記第一弾性接触部材が,前記第一剛性体の内側に固定され,
前記第二弾性接触部材が,前記第二剛性体の内側に固定されている,金型構造。」

の点で一致し,以下の点で相違している。

<相違点4>
インサート物(板硝子)が第一弾性接触部材(シール部材)と第二弾性接触部材(シール部材)に接触する構成について,本願補正発明9は「それにより前記インサート材料の寸法変動を吸収する」と特定するのに対して,引用発明2は,この点を特定しない点。

<相違点5>
ポリマーエラストマー(合成樹脂あるいはその原料),第一弾性接触部材及び第二弾性接触部材(シール部材)の材料に関し,本願補正発明9はポリマーエラストマーが第1弾性接触部材及び第2弾性接触部材とは「異なる材料から構成され」と特定するのに対して,引用発明2は,この点を特定しない点。

<相違点6>
第一弾性接触部材が,第一剛性体の内側に固定されるための態様について,本願補正発明9は「プライマーで結合され」と特定するのに対して,引用発明2は,この点を特定しない点。

<相違点7>
第二弾性接触部材が,第二剛性体の内側に固定されるため態様について,本願補正発明9は「プライマーで結合され前記剛性体と前記弾性接触部材とはプライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている」と特定するのに対して,引用発明2は,この点を特定しない点。

以下,相違点について検討する。

相違点4について
引用発明2における「シール部材」の材質は,本願補正発明9と同じ「弾性」部材であって,その具体例として例示されている合成樹脂製エラストマーやゴム(上記(1)オ)は,本願補正明細書において本願補正発明9の弾性接触部材の材質として例示されているシリコーン,プラスチック,各種の合成ゴム,各種の樹脂等のポリマー弾性材料と相違しない。そして,引用発明2の金型構造においても,本願補正発明9と同じく,シール部材を含む上型(第一剛性体及び第一弾性接触部材を含む上部金型)及びシール部材を含む下型(第二剛性体及び第二弾性接触部材を含む下部金型)を含み,前記上型と前記下型が,共に組み合わされる際,板硝子(インサート物)を配設するキャビティー(内部スペース)とし,前記板硝子(インサート物)が上下のシール部材(第一弾性接触部材と第二弾性接触部材)に共に接触した状態でインサート成形する構造であるから,当該板硝子(インサート物)に接触する2つのシール部材(弾性接触部材)は,インサート物の寸法変動を吸収するものといえる。
そうすると,相違点4は,実質上の相違点ではない。

相違点5について
引用発明2の「合成樹脂あるいはその原料」(ポリマーエラストマー)は,板硝子と一体成形されるモールあるいはガスケット等の一体成形品である具体的な製品に応じて各種熱可塑性樹脂や熱可塑性ゴム,熱硬化性樹脂から選択されるものであり(上記(1)カ),一方,引用発明2の「シール部材」(弾性接触部材)は,その名のとおり,シール部材として利用されるものであって,合成樹脂製エラストマーやゴム等の軟質の合成樹脂発泡合成樹脂のような弾性を有するものとされている(上記(1)オ)。
してみれば,これら2つの材質に求められる物性は同じでないから,引用発明2の「合成樹脂あるいはその原料」(ポリマーエラストマー)と「シール部材」(弾性接触部材)は異なる材料から構成されていると考えるのが自然である。そうすると,相違点5は実質上の相違点ではない。

相違点6について
剛性体(金属等)と弾性体をプライマーを介して固定することは周知(要すれば,特開昭55-75471号公報の特許請求の範囲と左下欄12-18行,特開平10-120985号公報の特許請求の範囲【0001】【0005】,特開昭57-126644号公報の従来技術の記載等参照)である。
そして,引用発明2の上型とシール部材の固定においても,引用文献2には「シール部材と型内面とは充分に固定されている必要がある」(上記(1)ウ)とあるから,より強固に固定すべく,上記周知の剛性体(金属等)と弾性体をプライマーを介して固定する技術を適用することは,当業者が容易に想到しえたことである。
そして,そのことによる効果についても,当業者が予測しうる程度のものである。

相違点7について
上記相違点6と同様に,引用発明2の下方とシール部材の固定においても,上記周知の剛性体(金属等)と弾性体をプライマーを介して固定する技術を適用することは,当業者が容易に想到しえたことである。そして,プライマーを介して固定した場合には,当然に化学的クロスリンク反応が発生することで結合されることになる。
そして,そのことによる効果についても,当業者が予測しうる程度のものである。

したがって,本願補正発明9は,引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) まとめ
本願補正発明9は,引用文献2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明9は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

7 むすび

以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

平成26年5月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?13に係る発明は,平成25年4月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載されたとおりのものであり,その請求項1及び9に記載された発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明9」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
異種材料成形体をインサート成形するための金型構造であり:
インサート物を設置するキャビティを含む上部金型と;
剛性体と弾性接触部材を含み,前記インサート物を前記弾性接触部材上に置き,従って弾性接触部材がインサート成形する間に前記インサート材料の寸法変動を吸収する下部金型とも含み,
前記上部金型と前記下部金型が,これらが共に組み合わされた後の内部スペースを定義し,及び前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート材料と結合して前記異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマー及び前記弾性接触部材が異なる材料から構成され,
前記弾性接触部材が,前記剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されている,金型構造。
【請求項9】
金型構造であり:
第一剛性体及び第一弾性接触部材を含む上部金型;及び
第二剛性体及び第二弾性接触部材を含む下部金型を含み,
前記上部金型と前記下部金型が,共に組み合わされる際,インサート物を配設する内部スペースを定義し,前記インサート物が前記第一弾性接触部材と前記第二弾性接触部材に共に接触し,それにより前記インサート物の寸法変動を吸収し,
前記内部スペースに注入されるポリマーエラストマーが,前記インサート物と結合して異種材料成形体を形成し,
前記ポリマーエラストマーが,前記第一及び前記第二弾性接触部材とは異なる材料から構成され,
前記第一弾性接触部材が,前記第一剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されており,
前記第二弾性接触部材が,前記第二剛性体の内側に固定され,且つプライマーで結合されている,金型構造。」

第4 原査定の理由

原査定の理由は,要するに,本願発明1は,引用文献1に記載された発明(引用発明1)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,また,本願発明9は,引用文献2に記載された発明(引用発明2)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

第5 当審の判断

1 引用発明

原査定で引用された引用文献1及び引用文献2に記載された発明は,上記第2_5(2)及び上記第2_6(2)に記載したとおりである。

2 対比・判断

(1)本願発明1について
本願発明1は,上記第2_2(1)で述べたとおり,本願補正発明1における「プライマー」について,「プライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている」との限定事項を有しないものに相当する。
そうすると,本願発明1の特定事項をすべて含む本願補正発明1が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明1も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

(2)本願発明9について
本願発明9は,上記第2_2(2)で述べたとおり,本願補正発明9における「プライマー」について,「プライマーにより化学的クロスリンク反応が発生することで結合されている」との限定事項を有しないものに相当する。
そうすると,本願発明9の特定事項をすべて含む本願補正発明9が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明9も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第6 むすび

以上のとおり,原査定の理由は妥当なものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-01 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-21 
出願番号 特願2011-189162(P2011-189162)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
P 1 8・ 575- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 康之  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 前田 寛之
大島 祥吾
発明の名称 金型構造  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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