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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21K
管理番号 1308299
審判番号 不服2015-9866  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-27 
確定日 2015-12-22 
事件の表示 特願2011-94162「リング状素形材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月15日出願公開、特開2012-223798、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
出願 平成23年4月20日
拒絶理由の通知(起案日)平成26年6月25日
同 (発送日)平成26年7月 1日
意見書(提出日) 平成26年9月 1日
手続補正書(提出日) 平成26年9月 1日
拒絶査定(起案日) 平成27年2月25日
同謄本送達(送達日) 平成27年3月 3日
審判請求書(提出日) 平成27年5月27日


第2 本願発明
本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成26年9月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
冷間鍛造用のリング状素材の端面と内径部を冷間鍛造により同時に圧下してアウターレースの冷間鍛造素形材に加工する方法において、アウターレースの冷間鍛造素形材に加工する冷間鍛造に先立って、リング状素材の外径サイジングした後、内径面を旋削加工して冷間鍛造用のリング状素形材とすることを特徴とするリング状素形材の製造方法。」


第3 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1.特開平3-86346号公報
刊行物2.特開2007-130673号公報
刊行物3.特許第3605830号公報

・請求項1、2について
出願人は意見書にて、「引用文献1の記載の発明において、引用文献2で周知とされる切断リングに、切断リングの真円度を向上させるための切削加工を施す際に、引用文献1に記載の外面切削に代えて、引用文献3に記載のサイジング加工を採用した場合、この引用文献2の切断リングに若干ではあるが硬度の上昇が生じる。このために、引用文献2のようにテーパ30cを形成する必要があり、そのために、外径が幅方向で全面的にストレートでないものに対してサイジング加工を施すと、このサイジング加工により割れなど発生する懸念がある。したがって、引用文献2の切断リングに真円度を向上させるために施す外面切削加工に代えて引用文献3に記載のサイジング加工を施すことは、割れなどで良好な製品が得られないので、実施することができない。」と主張する。
しかし、引用文献2には、真円度を向上させるために鍛造加工前の切断リングに切削加工を行うこと(段落【0014】?【0016】)が記載されており、これは周知の技術でもある。
また、出願人が主張する、引用文献2に記載されている切断リング20の外周面20bの一部に外径テーパ部30cを形成する目的は、図2に示されているダイ120の内部で安定し、リングの外径を縮径し押し出す冷間鍛造を適切に行うため(段落【0017】参照。)である。
さらに、リング状素材の外径を縮径しない引用文献1記載の鍛造と引用文献2記載の鍛造とはダイの形状も鍛造形式も異なることから、引用文献1記載の発明のリング状素材には、引用文献2記載のテーパ部が不要であることは自明な事項と認められる。
そして、引用文献1記載の発明において、リング状素材の真円度を向上させるために、テーパ部を施すことなく前記周知の切削加工を施す際に、外面切削に代えて引用文献3記載のサイジング加工を適用することは当業者が容易になし得たことと認められ、またこの適用を阻害する特段の事由も認められず、上記出願人の主張は採用できない。
よって、請求項1、2に係る発明は、引用文献1?3に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められる。
(なお、上記記載中の「引用文献1」?「引用文献3」は、各々「刊行物1」?「刊行物3」の意である。)


第4 当審の判断
1 刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
1-ア 第1ページ左欄「〔産業上の利用分野〕」の項
「この発明は、複列玉軸受における外輪素形材の鍛造方法に関するものである。」
1-イ 第2ページ右上欄第4?6行
「第1図は鍛造加工用リング状素材10を示し、第2図は、そのリング状素材10から成形される外輪素形材11を示す。」
1-ウ 第2ページ右上欄第17?20行
「第2図の鎖線(イ)は、旋削後の完成品(外輪)を示す。
第3図は、リング状素材10から外輪素形材11を成形する成形装置を示す。」
1-エ 第2ページ右下欄第10行?第3ページ右上欄第7行
「第3図乃至第8図は上記外輪素形材11の成形工程を段階的に示す。第3図は下ポンチ21上にリング状素材10をローディングした状態を示し、上記リング状素材10は、下ポンチ21のテーパ面26における小径端で支持されている。そのテーパ面26での支持によってリング状素材10は成形ダイス20の軸芯上に保持され、上記成形ダイス20の内径面との間に所要の間隙が設けられる。
リング状素材10のローディング後、上ポンチ23は下降される。第4図は、上ポンチ23のテーパ面26の小径端がリング状素材10の内径面上端に当接した状態を示す。
この状態から上ポンチ23がさらに下降すると、第5図に示すように、下ポンチ21の先端部および上ポンチ23の成形軸部25がリング状素材10の内側に侵入する。このため、リング状素材10の上下端部は、各ポンチ21、23のテーパ面26で軸方向および半径方向に延ばされて板厚が減少し、非拘束前後方押出しによって内径面および外径面が両端から順次成形される。
上ポンチ23が所定量下降すると、第6図に示すように、リング状素材10の両端が、エジェクタ22の上端面および上ポンチ23の段24に当接する。
それより、上ポンチ23がさらに下降すると、リング状素材10はエジェクタ22と段24によって軸方向に押されるため、リング状素材10の内径面中央部が据込まれ、第7図に示すように、リング状素材10の内径面中央部が内方に盛り上がる。
上ポンチ23が下限位置まで下降すると、第8図に示すように据込みが完了し、リング状素材10の内径面中央部に環状の突出部12が形成される。その成形完了後、上ポンチ23は上昇し、同時にエジェクタ22が上昇し、そのエジェクタ22によって成形ダイス20の上方に成形品が取り出される。」
(2)引用発明
一般に「鍛造」と云うとき、特にことわりがない限り「冷間鍛造」を意味することを考慮に入れて、刊行物1記載の事項を本願発明に照らして整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「冷間鍛造加工用リング状素材10の端面と内径部を冷間鍛造により同時に圧下して外輪素形材11に加工する方法。」
(3)刊行物2の記載事項
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
2-ア
「【0014】
切断リングに切断後、直ちに鍛造加工を行う方式が一般的であり、この場合は、材料歩留まりは向上する。しかしながら、直ちに鍛造加工を行う場合には、鋼管の真円度がやや悪いという問題がある。したがって、真円度を向上させるためには、鍛造前または鍛造後のいずれかに切削加工が必要となる。
【0015】
鍛造加工後に切削加工を行う方法は従来から行われているが、この場合は切削代が増加するというデメリットがあり、また、冷間鍛造肌をそのまま利用するというメリットが失われることとなる。」
(4)刊行物3の記載事項
刊行物3には、【図1】?【図31】とともに、以下の事項が記載されている。
3-ア 3ページ第24?46行
「背景技術
(1)
熱処理後に研削加工を行う深溝玉軸受の内外輪の製造方法に関して、製造コストを考慮した、従来から一般的に採用されている製造方法を図1に示す。
まず、丸棒素材には、一般的に圧延したままの丸棒鋼材を使用する(S1)。次に、一般的に多段フォーマーを使用して熱間鍛造を行い、内外輪になる粗形リングを作る(S2)。次に、熱間鍛造後に、後工程のため軟化焼鈍により硬さを下げたり、ミクロ組織を改善する(S3)。つづいて、冷間ローリング加工(以下、CRF加工と呼ぶ)を行なう(S4)。なお、CRF加工とは、第5図に簡略図を示すが、成形ロール21とマンドレル22に挟まれた粗形リング23は荷重Wにより圧延されて断面は肉薄に、リング径は拡大するものである。
第3図にCRF加工を使用しない場合の鍛造工程を示す。鍛造リング1,2をつくるために、リング3,部材4はスクラップとして廃却される。一方、CRF加工を取り入れた場合、熱間鍛造で第4図(D)に示す小さな鍛造リング5,6を作り、CRF加工により第4図(E)に示すCRFリング7,8に拡径することができるので、第3図(D)のリング3がなくなり、部材4も第4図(D)の部材12に示す通り小さくすることができる。さらに、CRFで拡大径する時に軌道面に溝7a,8aなどを付けて旋削取代を少しでも減らすことが可能であり、材料歩留が非常に良くなる。
次に、第1図のサイジング(S5)を行なう。その後、CRFリングは鍛造や焼鈍時に発生した酸化、脱炭層を取り除くため、また熱処理,研削後に深溝玉軸受となるよう必要な形状にするため、リング全面に旋削加工(S6)を施す。また、場合によっては旋削加工前に熱間鍛造時にできたバリ等を研削加工で除去することもある。さらに、焼入焼戻を行ない軸受として必要な硬さを得る(S7)。ひきつづき、軌道面とはめ合い面を研削加工することにより内外輪を製造する(S8)。」
3-イ 10ページ第3?41行
「従って、本発明によれば、以下の(1)?(4)の効果が得られる。
(1)CRF加工前に旋削加工を行なわないで済む。
軌道面溝やシール溝を完全に仕上げる精密CRFは、加工前の寸法や特に重量を管理するため全面旋削しなければならず、旋削形状こそ単純であるが、その旋削コストはCRF後の仕上旋削に匹敵してしまう。また、第1図に示すCRF加工を取り入れた製造法でも、CRF後の端面はみ出しに対して、端面旋削を行なう場合があるが、本発明法では軸受を一つ一つ処理する旋削加工の工数を極力低滅するため、CRF加工前に旋削加工を行なわないで済む。
(2)CRF加工は外径寸前を管理した、およその形状を付けるニヤネット方式とすることができる。
第4図(E)に本発明によるCRF加工後の形状を示す。本発明法は焼鈍後にほとんど脱炭がないので、CRF後の旋削取代を極限まで減らすことができる。従って、特に内外輪の軌道面となる第4図(E)の起動溝7a、8aは、従来のCRF加工による溝と比べ、極力完成品に近い形状にすることができる。しかし、あまり精密に形状を仕上ようとすると、CRF加工時間が長くなってしまう。本発明法では、その後の仕上旋削を最適にする、およその形状を付けるニヤネット方式とする。
(3)外径面はサイジングで寸法や形状を仕上げることができる。
CRFリングは圧延により拡径されているため、完全に真円にはならない。そこで、サイジング加工により真円度や寸法を仕上げる。第16図にサイジング加工の概略図を示す。金型f1は片側がテーパーであり、CRFリングa4をテーパー側からシリンダf2で押し込み、a4を金型f1のストレート部に圧入することで良好な真円度が得られ、また外形寸法が定寸に揃う。
従来はサイジングで外形寸法を仕上げ、真円度が良好であっても、脱炭層を削除するために旋削を行うため、旋削時のチャックにより逆に変形が大きくなる場合もある。
しかし、本発明法は焼鈍後にほとんど脱炭がないので、直接サイジングされる外輪外径はもちろん旋削は不要である。一方、内輪は内径部に金型を差し込む形で圧入することで、外輪同様に良好な真円度が得られ、また内径寸法が定寸に揃うので、脱炭がなければ内輪内径の旋削を省略することが可能となる。
(4)CRF加工で完全に仕上きれない部分の形状を整えるだけで、その他、内輪内径や外輪外径等の旋削加工は行なわないで済む。
焼鈍での脱炭を極限まで減少させ、ニヤネットCRF後にサイジングを行なうことで、外輪外径及び内輪内径の旋削工程省略可能となり、さらに軌道面やシール溝の旋削加工も大幅な取代削減が可能となる。
一般的にCRFリングを全面旋削する場合、内外輪合わせ8?10の工程が必要であり、また、加工のためにリングをチャックして旋削を行うが、全面旋削の場合は外形と内径を同時にすべて旋削することはできず、何回がチェックし直して旋削しなければならない。
本発明では、外輪外形及び内輪内径の旋削工程省略によりチャック替え回数を低減することが可能となり、さらに取代の大幅削減により旋削を行う軌道面の加工時間も短縮できる。つまり、軸受を一つ一つ処理する旋削加工の工程を低減することで大幅な低コストが可能となるとともに、材料の歩留も向上する。」
3-ウ 17ページ第49行?19ページ第19行
「【発明の実施の形態】
(実施例1?3)
以下、本発明の実施例1?3について説明する。第2図に本発明による熱処理後に研削加工を行う鋼製の深溝玉軸受の内外輪の製造方法を示す。第1図のCRF加工を取り入れた従来の製造法に対して、焼鈍工程(S3)、CRF加工工程(S4)及び旋削工程(S8)に特徴があり、最適な加工工程を組み合わせることで製造コストを最小限にする軸受製造方法を提供するものである。
まず、本発明の各工程を以下に簡単に説明する。丸棒素材には、一般的に圧延したままの丸棒鋼材を使用した(S1)。次に、一般的に多段フォーマーを使用して熱間鍛造を行い、内輪と外輪に加工される粗形リングを作った(S2)。つづいて、熱間鍛造後に、冷間加工や旋削加工のために炭化物を球状化する軟化焼鈍を無酸化で行った(S3)。ひきつづき、ニヤネット方式によりCRF加工を行った(S4)後、サイジング(S5)を行った。更に、仕上研削加工を行った後(S6)、焼入焼戻を行ない軸受として必要な硬さを得た(S7)。その後、軌道面とはめ合い面を研削加工することにより内外輪を製造した(S8)。
本発明の実施例1?3では、材料はSUJ2、製造する軸受は深厚溝玉軸受6304である。次に、上記各工程を詳細に説明する。
本発明の焼鈍工程を第17図に示す。窒素雰囲気にプロパンガスを微量添加し、炉内残留酸素量をコントロールする。炉内残存酸素量の測定には、NGK製の直入式酸素センサー(CP-D)を用いた。各種焼鈍条件による酸素センサー値(mmV)と表面脱炭率D(%)の関係を第13図に示す。
酸素センサー値が900mmV以上になると脱炭量が減少し、1000mmVを超えると焼鈍工程での脱炭はなくなる。一方、上記式(1)で示した、焼鈍温度での酸素センサー値と炉内の酸素分圧の関係を第12図に示す。従って、炉内残留酸素量は3×10-18atm以下にする必要がある。さらに、脱炭の緩和量を十分にするためには3×10-20atm以下が望ましい。
実施例1?3では、酸素センサー値を設定し、添加するプロパンガスを量を制御した。
焼鈍条件A1:窒素雰囲気にプロパンガスを1?2%添加し酸素センサー値を900?990mmVに制御する。
焼鈍条件A2:窒素雰囲気にプロパンガスを1?2%添加し酸素センサー値を1000?1050mmVに制御する。
焼鈍条件A3:窒素雰囲気にプロパンガスを0.5?1.5%添加し酸素センサー値を1060?1100mmVに制御する。
焼鈍条件A4:窒素雰囲気にのみで焼鈍を行う。
本発明の焼鈍条件は、A1とA2とA3である。
次に、CRF加工条件を示す。加工機は共栄精工製の商品名:CRF70を使用し、加工荷重5?7tonで潤滑剤は三工化学製のプレスホーマー(商品名:PZ13)を使用し、CRF加工による拡径率は、外輪が1.4?2.0倍で、内輪は1.1?1.4倍である。
本発明法は焼鈍後にほとんど脱炭がないので、CRF後の旋削取代を極限まで減らすことが可能であり極力完成品に近い形状にすることができる。しかし、あまり精密に形状を仕上ようとすると、CRF加工時間が長くなってしまうので、その後の仕上旋削を最適にするニヤネット方式とする。
実施例1?3は、加工方法を変えて行なった。
CRF条件B1:ニヤネット加工で加工速度650?750個/時間
CRF条件B2:圧延加工のみで加工速度650?750個/時間
CRF条件B3:精密加工で加工速度300?400個/時間。ここで、「精密加工」とは、シール溝、レース溝、チャンファー(但し、幅は自由)加工と、完全仕上げ形状に近いCRFをかける。この場合、CRFの時間はCRF条件B1と比べ4倍くらい長くなる。また、CRF条件B3の前でCRFの量を正確にするために寸法調整(加工)するので、脱炭層も除去できる。従って、脱炭の面では良いが、コスト高となる。
本発明のCRF条件はB1である。
旋削条件は、加工機は高速旋盤を使用し工具はP10切り込み速度200?250m/分、送り量0.2?0.3mm/回転で行なった。一般的に、CRFリングを全面旋削する場合、内外輪合わせて8?10の工程が必要であり、また、加工のためにリングをチャックして旋削を行うが全面旋削の場合は、外形と内径と同時に全て旋削することはできず、何回かチャックして旋削しなければならない。
本発明では、外輪外径及び内輪内径の旋削工程省略によりチャック替え回数を低減することが可能となり、更に取代の大幅削減により旋削を行う軌道面の加工時間も短縮できる。
実施例1?3は、加工方法を変えて行った。
旋削条件C1:外輪外径及び内輪内径の旋削工程省略によりチャック替え回数を低減する。
旋削条件C2:外輪外径及び内輪内径を含めて、全面を旋削する。
本発明の旋削条件はC1である。
加工方法を種々組み合わせて、軸受を加工した結果を下記表1に示す。材料はSUJ2で深溝玉軸受6304を各工程2000個製造し、評価は焼入焼戻や研削加工を行なった後の、完成軸受での品質と製造コストを調査して行なった。
品質の判定は、完成品軸受表面の炭素量を測定し、SUJ2素材の炭素量1%に対して、軌道面が1%以上であり、かつ、転がり疲労は受けないが外輪外径及び内輪内径は0.95%以上であれば「良」であり、また外輪外径及び内輪内径でも1%以上である場合、つまり最も脱炭良が大きい外輪外径でも完全に脱炭がなければ「優良」とする。
また、旋削取代を減らし材料歩留が良くなる、現行では最も低コストと考えられる第1図のCRF加工を取り入れた製造法コストに対して低くなる場合は「低」とし、同時程度あるいはコストアップする場合は「高」とした。更に、コストは同等か若干改善の方向ではあるが、コストダウンに改良の余地があるものを「普通」とした。」
3-エ 19ページ第44?47行
「このように、本発明は、熱処理後に研削加工を行なう鋼製の深溝玉軸受の内外輪の製造方法に関して、焼鈍での脱炭を極限まで減少させ、ニヤネットCRF後にサイジングを行なうことで、外輪外径、及び内輪内径の旋削工程省略が可能となり、さらに軌道面やシールみぞ旋削加工も大幅な取代削減が可能となる。」

2 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「冷間鍛造加工用リング状素材10」及び「外輪素形材11」は、それぞれ本願発明の「冷間鍛造用のリング状素材」及び「アウターレースの冷間鍛造素形材」に相当することが明らかである。そうすると、引用発明の「冷間鍛造加工用リング状素材10の端面と内径部を冷間鍛造により同時に圧下して外輪素形材11に加工する」は、本願発明の「アウターレースの冷間鍛造素形材に加工する冷間鍛造」とされた「冷間鍛造用のリング状素材の端面と内径部を冷間鍛造により同時に圧下してアウターレースの冷間鍛造素形材に加工する」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致している。
[一致点]
請求対象とされた「リング状素形材の製造方法」の後に行うことが予定されている、冷間鍛造用のリング状素材の端面と内径部を冷間鍛造により同時に圧下してアウターレースの冷間鍛造素形材に加工する方法である点。

他方、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明は、「リング状素材」に対して、「アウターレースの冷間鍛造素形材に加工する冷間鍛造に先立って」行われる方法であって、その特徴が「リング状素材の外径サイジングした後、内径面を旋削加工して冷間鍛造用のリング状素形材とする」「リング状素形材の製造方法」とされた方法発明であるのに対して、引用発明では、上記相当関係に示すとおり、本願発明の「リング状素形材」に相当する「冷間鍛造加工用リング状素材10」があるものの、当該素材10を製造する具体的な製造方法が何かを示すものではない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
上記相違点に係る本願発明の方法の処理工程に関係する公知技術であって、上記「第3 原査定の理由の概要」に引用された刊行物3には、【図2】に図示された一連の製造工程に関係して、S5とされた「サイジング」工程と、当該サイジング工程の後にS6とされた「仕上旋削加工」工程が行われる記載がある。
当該公知技術を子細に見ると、まず、前記S5とされた「サイジング」工程で扱われる素材については、上記「1 刊行物の記載事項」の「(4)刊行物3の記載事項」にて摘記した「3-ア」及び【図4】-【図5】を参照すると、「CRFリング7」とされる外形がリング状の素材であることが見てとれる。
その後に行われる前記S5とされた「サイジング」工程については、「(4)刊行物3の記載事項」にて摘記した「3-イ」を参照すると、「外径」を対象とすること、及び外径の寸法や形状、真円度を仕上げることができるとされていること、サイジングされる外輪外径について旋削は不要であり、省略可能であること、が理解できる。
同じく、上記相違点に係る本願発明の方法の処理工程に関係する公知技術であって、上記「第3 原査定の理由の概要」に引用された刊行物2には、ベアリングレースの外輪の製造方法として、「(3)刊行物2の記載事項」にて摘記した「2-ア」を参照すると、切断リングを鍛造加工する際に、真円度を向上させるためには、鍛造前に切削するとしたことが、見てとれる。
そこで、引用発明に対し、これら刊行物2ないし3の記載事項を適用した場合、本願発明に至るか、すなわち、相違点の容易想到性について検討する。
前述の刊行物3に係る公知技術は、前記相違点に係る本願発明の処理手順と見比べると、外形がリング状の素材とされた「CRFリング7」をサイジングし、サイジング後に仕上旋削を施すとされ、当該仕上旋削の際に外輪外径の旋削は不要とされている。そうすると、内径面の旋削加工のみを行うこととなるから、一見すると相違点に係る本願発明の構成をすべて満たすかのように解されるが、本願発明は、あくまで「リング状素材の外径サイジングした後、内径面を旋削加工して」得られる対象物を、「冷間鍛造用のリング状素形材とする」ものであり、本願発明の「リング状素材の外径サイジング」とは、後続する工程の「冷間鍛造」に適したサイジングを意味するものと扱わざるを得ない。一方、刊行物3に記載の「サイジング」によって得ようとする中間製造品に関して記載された「3-イ」の、外形寸法が定寸に揃うとされた点や、刊行物3の【図2】から看取できる、仕上旋削加工(S6)の後の処理工程に、鍛造工程が含まれていない点を鑑みると、引用発明が前提とする全体工程に、加工物3の公知技術が一致しないことに加え、刊行物3のサイジング処理が外径に対する仕上げ加工を不要とするまで加工するのに対し、本願発明の「外径サイジング」は、後工程での冷間鍛造による寸法の調整を前提とするものである点が、本質的に相違する関係を呈することとなると見られ、引用発明への刊行物3公知技術の適用を阻害し、かつ、仮に適用したとしても本願発明には直ちに至らないと判断される。
そうすると、刊行物2に記載の公知技術が示す、リング状素材を得た後に鍛造加工を行う場合には、鍛造加工前に真円度向上の切削処理を施すとしたことが技術常識であるとしても、本願発明の「外径サイジング」の内容に等しい処理が公知である証拠の提示を伴っていない以上、当該相違点がこれら公知技術から容易想到であるとすることができない。
してみると、本願発明は、当業者が引用発明及び刊行物2ないし3記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び刊行物2ないし3記載の事項に基づいて、容易に発明をすることができたとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし2に係る発明は、当業者が引用発明及び刊行物2ないし3記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-12-07 
出願番号 特願2011-94162(P2011-94162)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宇田川 辰郎  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
久保 克彦
発明の名称 リング状素形材の製造方法  
代理人 横井 宏理  
代理人 横井 健至  
代理人 横井 知理  

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