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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10G |
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管理番号 | 1308318 |
審判番号 | 不服2014-13104 |
総通号数 | 193 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-07 |
確定日 | 2015-12-04 |
事件の表示 | 特願2010- 4740「調律器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月28日出願公開、特開2011-145375〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成22年1月13日に出願したものであって、手続の概要は以下のとおりである。 拒絶理由通知 :平成25年12月12日(起案日) 意見書 :平成26年 2月12日 手続補正 :平成26年 2月12日 拒絶査定 :平成26年 3月31日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成26年 7月 7日 手続補正 :平成26年 7月 7日 拒絶理由通知(当審) :平成27年 4月13日(起案日) 意見書 :平成27年 6月12日 手続補正 :平成27年 6月12日 拒絶理由通知(当審・最後):平成27年 7月 2日(起案日) なお、平成27年7月2日付け拒絶理由通知に対しては、指定した期間内に請求人から応答がなかった。 2.本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年6月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 入力された音の基本周期を表す情報である、ゼロクロス点を表すタイミング情報ではない基本周期情報を生成する基本周期情報生成部と、上記基本周期情報を含む送信情報を無線送信する送信部とを含む送信機と、 上記送信情報を無線受信する受信部と、上記無線受信した送信情報に含まれる基本周期情報に基づいて上記入力された音の音名情報及びピッチ誤差情報を決定し、決定された音名情報及びピッチ誤差情報を表示する表示部とを含む受信機と、 を含み、 上記送信機は上記受信機に装着可能であり、上記送信機が上記受信機に装着された状態で、上記送信機及び上記受信機は上記無線の通信を行うためのIDを設定可能である、 調律器。」 3.引用例 当審の拒絶理由通知に引用した国際公開第2006/043469号公報(2006年4月27日公開、以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (1)「【0001】 本発明は楽器の音を調律する場合に用いる、調律器に関する。」 (2)「【0035】 図2に、本発明の一実施例の音声収集部101の構成例をブロック図で示す。図2において、マイクロフォン21及び振動センサー22によって楽器などが発する音や振動を電気信号に変換して取り込む。音や振動を取り込むための手段としてマイクロフォンと振動センサーを挙げたが、この選択は使用者により任意に選択可能である。そして選択されたいずれか一方の電気信号が演算部25に入力される。 【0036】 音声収集部101に備えられる演算部25では、入力された電気信号に変換された音声信号からピッチ情報を抽出し、コード化を行い送信部26に出力される。演算部25は、後述するパラメータ設定スイッチ24により入力されたパラメータを用い、基準とするピッチとの相違量等を演算することも可能である。また、演算結果から、表示用の制御信号を作成することも可能である。 【0037】 図9に無線通信手段として赤外線通信を選択した場合のコード化の一例を示す。このデータ通信の方式は、NECエレクトロニクス株式会社提供のリモコン用データフォーマットのいわゆるNECフォーマットを元にしたものである。リーダーコード36と16ビットのカスタムコード37と8ビットのデータコード38とデータコード38を反転した8ビットの反転データコード39とストップビット40から構成されるコード群を1フレームとして送信する。 【0038】 リーダーコード36はフレームの開始を表し、例えばT(ms)の期間Hi状態が続き、そのあとにT/2(ms)のLo状態となり、HiとLoの持続時間の差を検出してリーダーコード36を検出する。 【0039】 カスタムコード37は、複数個の音声収集部を同時に使用した際の混信を防ぐ為に、個々の調律器用コンタクトマイクを識別する為のコードである。 【0040】 データコード38および反転データコード39は、送信するデータの本体部分である。 データコード38受信後に反転データコード39を受信して、データに相違がないかを検証する。このときのデューティー比は1/3とすると良い。 【0041】 ストップビット40は前記データの1フレームの終了を表し、このビットを受信して1フレームの送信を終了する。」 (3)「【0043】 図2の説明に戻ると、送信部26は、例えばFM通信方式を通信手段として選択した場合、入力された演算結果等をFM送信可能な変調を行い、アンテナ27より電波として発信する。」 (4)「【0045】 図3に、本発明の一実施例の演算表示部の構成例をブロック図で示す。図2の音声収集部のアンテナ27より発信された電波は、離れた位置に設置されているアンテナ28により受信され、受信された信号は受信部29により、演算部31が演算可能な信号に復調される。」 (5)「【0048】 パラメータ設定スイッチ33は、例えば基準ピッチなどの調律に必要なパラメータを設定することができる。 【0049】 演算部31は、受信部29や入力端子30からの入力を演算し、基準とするピッチとの相違量を算出し、表示用の制御信号を作成して表示部34に出力する。また、演算部31は受信部29や入力端子30からの入力を演算する際にモード切替スイッチ32やパラメータ設定スイッチ33からの入力に応じた演算を行う。演算部31によって演算された結果は表示部34や出力端子35に出力される。また演算部31は、音声収集部101が自ら演算した結果である演算結果を受信した場合、それを表示用の制御信号に変換して表示部34に送出することが可能である。 【0050】 表示部34は、演算部31や、音声収集部101からの表示用の制御信号を取得して、演算された基準ピッチからの相違量を、例えば針式メーターやLED式擬似メーターなどで表示する。また、モード切替スイッチ32やパラメータ設定スイッチ33によって設定された内容も表示部34に表示される。表示の方法としては液晶ディスプレイやLEDなどがある。出力端子35は外部の機器に対する出力を行う。例えば演算部31による演算の結果を出力したり、受信部29によって復調された音声信号を演算部31をスルーして出力したり、入力端子30から入力された信号をスルーアウトする機能を備えている。これらの機能は製品の仕様によって任意に選択できるようにすると良い。」 (6)「【0054】 図5は、複数台の音声収集部105、106、107と1台の演算表示部102が通信している様子の一例を示したものである。演算表示部102は、音声収集部105、106、107のいずれかが発信する無線通信信号を受信すると、どの音声収集部が発信している無線通信信号かを無線通信信号に含まれる識別コードより自動判別し、受信表示部15に表示する。」 上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。 (a)引用例1には、「調律器」が記載されている(摘示事項(1))。 (b)音声収集部101は、入力された電気信号に変換された音声信号からピッチ情報を抽出し、コード化を行い送信部26に出力する演算部25と、入力された演算結果を変調し、アンテナ27より電波として発信する送信部26とを備える(摘示事項(2)、(3))。 (c)演算表示部102は、音声収集部101のアンテナ27より発信され、アンテナ28により受信された信号を演算部31が演算可能な信号に復調する受信部29と、基準ピッチを設定するパラメータ設定スイッチ33と、受信部29からの入力を演算し、基準とするピッチとの相違量を算出し、表示用の制御信号を作成して表示部34に出力する演算部31と、演算部31からの表示用の制御信号を取得して、演算された基準ピッチからの相違量を表示するとともに、パラメータ設定スイッチ33によって設定された内容を表示する表示部34とを備える(摘示事項(4)、(5))。 (d)演算表示部102の表示部は、基準音名と、基準音名と対応する基準ピッチとを表示する(図1)。 (e)音声収集部は、複数個の音声収集部を同時に使用した際の混信を防ぐために、個々の音声収集部を識別するためのコードを無線通信信号に含めて送信し、演算表示部は、無線通信信号に含まれる識別コードから個々の音声収集部を判別する(摘示事項(2)、(6))。 以上を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「入力された電気信号に変換された音声信号からピッチ情報を抽出し、コード化を行い送信部26に出力する演算部25と、入力された演算結果を変調し、アンテナ27より電波として発信する送信部26とを備える音声収集部101と、 音声収集部101のアンテナ27より発信され、アンテナ28により受信された信号を演算部31が演算可能な信号に復調する受信部29と、基準ピッチを設定するパラメータ設定スイッチ33と、受信部29からの入力を演算し、基準とするピッチとの相違量を算出し、表示用の制御信号を作成して表示部34に出力する演算部31と、演算部31からの表示用の制御信号を取得して、演算された基準ピッチからの相違量を表示するとともに、パラメータ設定スイッチ33によって設定された基準ピッチに対応する基準音名を表示する表示部34とを備える演算表示部102と、 を含み、 音声収集部は、複数個の音声収集部を同時に使用した際の混信を防ぐために、個々の音声収集部を識別するためのコードを無線通信信号に含めて送信し、演算表示部は、無線通信信号に含まれる識別コードから個々の音声収集部を判別する、 調律器。」 同じく、当審の拒絶理由通知に引用した特開2006-301246号公報(平成18年11月2日公開、以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (7)「【0019】 図4に示す実施例では楽音情報処理装置30を調律器とした場合を示す。調律器は図8で説明したのと同様に周波数測定部31と、音名判定部32と、ピッチ誤差計算部33と表示部34とによて構成される。 周波数測定部31は復調器23から出力される矩形波のゼロクロス点の相互間の時間を計測し、この計測結果により矩形波の周波数を算出する。周波数測定部31で周波数が算出されることにより、その算出された周波数に最も近い周波数を標準周波数とする音名に対応付けし、音名を特定する。音名を特定することにより、ピッチ誤差計算部33はその特定した音名の標準周波数を基に、送られて来た楽音情報のピッチ誤差を算出する。表示部34では音名判定部32で判定した音名と、ピッチ誤差計算部33で求めたピッチ誤差を表示する。」 同じく、当審の拒絶理由通知に引用した特開2005-94096号公報(平成17年4月7日公開、以下「引用例3」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (8)「【0010】 <本発明の送信装置と受信装置の構成> 本発明に係る送信装置及び受信装置は、第1実施形態として、図1に示すように、送信装置STと受信装置M1,M2との間に、専用ケーブル1を用いて、識別情報(ID)を供給するものである。又、第2実施形態として、図2に示すように、送信装置であるクレードルCと受信装置M2とを装着し、接点部20を介して、識別情報(ID)を供給するものである。接点部20は、専用のコネクタであってもよいし、圧接することで信号を伝える平板な形状の金属端子であってもよい。又、第3実施形態として、図5の専用メディア2を介して、識別情報(ID)を供給するものである。これにより、無線伝送で識別情報(ID)を供給しないため、不当な第三者の識別情報の盗用を防止すると同時に、容易に受信装置を追加してシステムを拡大することができる。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 (1)調律器 本願発明と引用発明とは、「調律器」である点で一致する。 (2)送信機 引用発明の「音声収集部101」は、「送信部26」を備えるから、「送信機」といえる。引用発明の「ピッチ情報」は、「音の基本周期を表す情報である、ゼロクロス点を表すタイミング情報ではない基本周期情報」といえる。引用発明の「演算部25」は、音声信号からピッチ情報を抽出するから、「基本周期情報生成部」といえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「入力された音の基本周期を表す情報である、ゼロクロス点を表すタイミング情報ではない基本周期情報を生成する基本周期情報生成部と、上記基本周期情報を含む送信情報を無線送信する送信部とを含む送信機」を含む点で一致する。 (3)受信機 引用発明の「演算表示部102」は、「受信部29」を備えるから、「受信機」といえる。引用発明の「基準とするピッチとの相違量」は、「ピッチ誤差情報」といえる。引用発明の「演算部31及び表示部」は、受信部からの入力を演算し、基準とするピッチとの相違量を算出し、演算された基準ピッチからの相違量を表示するから、本願発明の「表示部」に対応する。 したがって、本願発明と引用発明とは、「上記送信情報を無線受信する受信部と、上記無線受信した送信情報に含まれる基本周期情報に基づいて上記入力された音のピッチ誤差情報を決定し、決定されたピッチ誤差情報を表示する表示部とを含む受信機」を含む点で一致する。 もっとも、本願発明は、「上記無線受信した送信情報に含まれる基本周期情報に基づいて上記入力された音の音名情報を決定し、決定された音名情報を表示する」のに対し、引用発明は、「パラメータ設定スイッチによって基準ピッチを設定し、設定された基準ピッチに対応する基準音名を表示する」点で相違する。 (4)IDの設定 引用発明の「識別コード」は、複数個の音声収集部を同時に使用した際の混信を防ぐために、個々の音声収集部を識別するためのコードであるから、「無線の通信を行うためのID」といえる。 もっとも、本願発明は、「上記送信機は上記受信機に装着可能であり、上記送信機が上記受信機に装着された状態で、上記送信機及び上記受信機は上記無線の通信を行うためのIDを設定可能である」のに対し、引用発明は、IDの設定について特定がない点で相違する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「入力された音の基本周期を表す情報である、ゼロクロス点を表すタイミング情報ではない基本周期情報を生成する基本周期情報生成部と、上記基本周期情報を含む送信情報を無線送信する送信部とを含む送信機と、 上記送信情報を無線受信する受信部と、上記無線受信した送信情報に含まれる基本周期情報に基づいて上記入力された音のピッチ誤差情報を決定し、決定されたピッチ誤差情報を表示する表示部とを含む受信機と、 を含む調律器。」の点。 そして、次の点で相違する。 <相違点> (1)本願発明は、「上記無線受信した送信情報に含まれる基本周期情報に基づいて上記入力された音の音名情報を決定し、決定された音名情報を表示する」のに対し、引用発明は、「パラメータ設定スイッチによって基準ピッチを設定し、設定された基準ピッチに対応する基準音名を表示する」点。 (2)本願発明は、「上記送信機は上記受信機に装着可能であり、上記送信機が上記受信機に装着された状態で、上記送信機及び上記受信機は上記無線の通信を行うためのIDを設定可能である」のに対し、引用発明は、IDの設定について特定がない点。 5.判断 そこで、上記相違点について検討する。 相違点(1)について 引用例2には、調律器において、送られて来た楽音情報の周波数を算出し、その算出された周波数に最も近い周波数を標準周波数とする音名に対応付けて音名を特定し、判定した音名を表示することが記載されている(摘示事項(7))。 かかる知見に接した当業者であれば、引用発明において、パラメータ設定スイッチによって基準ピッチを設定し、設定された基準ピッチに対応する基準音名を表示する構成に代えて、送られて来たピッチ情報に最も近い周波数を標準周波数とする音名に対応付けて音名を特定し、判定した音名を表示する構成を採用して、パラメータ設定スイッチによって基準ピッチを設定する手間を省くようにすることは、容易に想到し得る。 相違点(2)について 引用例3には、送信装置及び受信装置において、送信装置であるクレードルCと受信装置M2とを装着し、接点部20を介して、識別情報(ID)を供給することが記載されている(摘示事項(8))。 かかる知見に接した当業者であれば、引用発明において、音声収集部及び演算表示部にそれぞれ接点部を設け、音声収集部と演算表示部とを装着し、接点部を介して、識別コードを供給するようにして、識別コードを容易に設定するようにすることは、容易に想到し得る。 効果についてみても、上記構成の変更に伴って当然に予測される程度のことに過ぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2、3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-09-29 |
結審通知日 | 2015-10-06 |
審決日 | 2015-10-20 |
出願番号 | 特願2010-4740(P2010-4740) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G10G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上田 雄 |
特許庁審判長 |
水野 恵雄 |
特許庁審判官 |
酒井 朋広 関谷 隆一 |
発明の名称 | 調律器 |
代理人 | 義村 宗洋 |
代理人 | 中尾 直樹 |
代理人 | 中村 幸雄 |