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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1308337
審判番号 不服2014-25416  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-11 
確定日 2015-12-04 
事件の表示 特願2012-158984「ハードコートフィルム及びそれを用いたタッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 3日出願公開、特開2014- 21675〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成24年7月17日の出願であって、平成26年2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年4月4日付けで手続補正がなされたが、同年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[結論]
平成26年12月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
平成26年12月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された

「【請求項1】
透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、光重合開始剤を含む流動性を有する光硬化性樹脂組成物が塗布された後に、UV照射により硬化させてなる粘着剤層が形成され、前記粘着剤層の上に、剥離処理された剥離フィルムが貼り合わせてなり、前記印刷層の厚みよりも、前記粘着剤層の厚みと前記印刷層の厚みとの厚み差の方が小さいことを特徴とするハードコートフィルム。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を

「【請求項1】
透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠及び/又はアイコンの印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、光重合開始剤を含む流動性を有する光硬化性樹脂組成物が塗布された後に、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、UV照射により硬化させてなる粘着剤層が形成され、前記粘着剤層の上に、剥離処理された剥離フィルムが貼り合わせてなり、前記印刷層の厚みよりも、前記粘着剤層の厚みと前記印刷層の厚みとの厚み差の方が小さいことを特徴とするハードコートフィルム。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正する補正事項を含むものである。(下線は補正事項を示している。)

2.補正の適否
(1)補正の目的要件
本件補正のうち上記補正事項は、本願発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された「UV照射により硬化させてなる粘着剤層」が形成される位置を、「前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に」と限定したものであり、特許法第17条の2第5項第2号にいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められ、特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合している。
また、特許法17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するものでもない。

(2)独立特許要件

本件補正のうちの上記補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号にいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下検討する。

ア.補正後の発明

上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で、「補正後の発明」として認定したとおりのものである。

イ.引用発明、周知技術
(ア)引用例1
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2011-93977号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の表面保護シートとして用いられる加飾印刷層付き粘着シートとその製造方法、およびそれを用いた携帯端末機器に関する。」(2頁36?40行)

b.「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に係る両面粘着テープは、額縁状に打ち抜かれたものであるため、粘着剤層と加飾印刷層を厚み方向に重畳する必要があり、無駄にエアギャップが生じ、携帯端末機器類の軽薄化という点においては改良の余地を残している。
【0008】
また、加飾印刷層を施すためには、印刷されたシートの構成部材が必要となるほか、印刷工程が必要となる。加えて、粘着剤でエアギャップを埋め薄膜化を図るには、加飾印刷が施された部分と施されていない部分の境界に生じた微小の段差に追従するように、粘着層に段差追従性能を付与する必要がある。通常、段差に追従させるためにはオートクレーブ処理が行われ、更に工程数が増える上、大掛かりな製造設備が必要となる。また、粘着剤層の貯蔵弾性率によっては気泡が混入するという問題があり、歩留まりが悪くなる可能性がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、携帯端末機器の製造現場において、工程での歩留まり向上、工程数の削減、製造設備の簡素化、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができる加飾印刷層付き粘着シートとその製造方法、および携帯端末機器を提供することを目的とする。」(3頁18?35行)

c.「【発明の効果】
【0019】
本発明の加飾印刷層付き粘着シートによれば、携帯端末機器の製造現場において、工程での歩留まり向上、工程数の削減、製造設備の簡素化、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができる。
【0020】
本発明の加飾印刷層付き粘着シートの製造方法によれば、薄膜化された加飾印刷層付き粘着シートが得られる。
【0021】
本発明の携帯端末機器によれば、その製造現場において、工程での歩留まり向上、工程数の削減、製造設備の簡素化、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができ、さらに携帯端末機器の軽薄化が可能となる。」(4頁19?30行)

d.「【0024】
(1) 第一の実施形態
図1は、本発明の加飾印刷層付き粘着シートの第一の実施形態を示す概略断面図である。この実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1は、一方の面3aの側にハードコート層2が塗工された基材フィルム3と前記基材フィルム3の他方の面3bの側に部分的に設けられた加飾印刷層4と粘着剤層5とがこの順に積層されている。図1においては額縁状とした印刷パターンを示すが、本発明の加飾印刷層付き粘着シートはこれに限定されず、例えば意匠性を有する印刷パターンであってもよい。
この加飾印刷層付き粘着シート1は、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の表面保護シートに適用されるものである。」(4頁48行?5頁7行)

e.「【0025】
基材フィルム3としては、種々のプラスチックシート、フィルムが使用できる。基材フィルムの具体例としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などの各種合成樹脂のフィルムが挙げられ、特に飛散防止効果を付与できるポリエチレンテレフタレート樹脂もしくはポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0026】
基材フィルム3の厚さは、50μm?300μmが好ましく、60μm?250μmがより好ましく、70μm?200μmが特に好ましい。」(5頁8?18行)

f.「【0027】
本発明の第一の実施形態においては、基材フィルム3の一方の面3aの側にハードコート層2が塗工されている。ハードコート層2の性能は特に限定されないが、耐指紋付着性、耐光性などの性能を付与されているものが好ましい。
【0028】
ハードコート層2の形成方法は特に限定されるものではないが、電離放射線硬化型化合物を含有する硬化性組成物を塗布して電離放射線を照射して硬化させて積層することもでき、または、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂溶液を塗布、乾燥することにより積層することもできるが、電離放射線硬化型化合物を含有する硬化性組成物を塗布して電離放射線を照射して硬化させて積層することが好ましい。」(5頁19行?28行)

g.「【0038】
本発明においては、基材フィルム3の面3aの側に、ハードコート層2が積層されており、基材フィルム3の他方の面3bの側に部分的に設けられた加飾印刷層4が積層されている。加飾印刷層4を構成するための印刷方法として、特に制限はなく、グラビア印刷、スクリーン印刷などが使用できる。印刷としては額縁状の電極隠蔽用印刷のみならず、意匠性を付与した印刷を行っても良い。
加飾印刷層が積層される面は、基材フィルムのハードコート層が塗工された面でもハードコートが塗工されていない面でもどちらでもよい。また基材フィルムのハードコートは片面のみに施されていても、両面に施されていてもよい。
【0039】
加飾印刷層4を構成するための塗料としては、特に制限なく、公知の塗料を使用でき、例えば、紫外線硬化型インキ、酸化重合型インキなどが使用できる。
【0040】
加飾印刷層4の厚さは、5μm?30μmが好ましく、7μm?28μmがより好ましく、10μm?25μmが特に好ましい。加飾印刷層4の厚さが5μm以上であれば、十分な隠蔽性が得られ、30μm未満であれば、粘着剤層も厚くする必要がなく、総厚が厚くならないためである。」(6頁48行?7頁14行)

h.「【0041】
本発明においては、基材フィルム3のハードコート層側の面3aとは他方の面3bの側に、粘着剤層5が積層されている。粘着剤層5を構成するための粘着剤としては、特に制限なく、公知の粘着剤を使用でき、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤などが使用できる。
【0042】
粘着剤層5の厚さは、10μm?200μmが好ましく、15μm?150μmがより好ましく、20μm?100μmが特に好ましい。粘着剤層の厚さが10μm以上であれば、加飾印刷層を施すことにより生じた基材フィルムの凹凸面への段差追従性が得られ、200μm未満であれば、粘着剤の染み出しなどによる加工適性が低下しないためである。
【0043】
基材フィルム3の面3bの側に、粘着剤層5を塗工する方法としては、別途、剥離シート6に粘着剤含有組成物を塗布し、乾燥させて作製した粘着剤層と剥離シートのみからなる基材レス粘着シートを押し付けて積層する方法が挙げられる。上記粘着剤含有組成物の塗布方法は、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、カーテンコート法などの従来公知の方法が挙げられる。また粘着剤層5を積層する方法としては、上記粘着剤含有組成物を基材フィルム3の面3bの側に、直接塗布し、乾燥する方法も挙げられる。」(7頁15?33行)

i.「【0046】
(2) 第二の実施形態
図2は、本発明の加飾印刷層付き粘着シートの第二の実施形態を示す概略断面図であり、図3はその概略平面図である。
この実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1’は、ハードコート層2と基材フィルム3と前記基材フィルム3に部分的に設けられた加飾印刷層4と粘着剤層5と剥離シート6とがこの順に積層されている。図2および図3において、加飾印刷層4は額縁状とした印刷パターンを示すが、本発明の加飾印刷層付き粘着シートはこれに限定されず、例えば意匠性を有する印刷パターンであってもよい。
この加飾印刷層付き粘着シート1’は、第一の実施形態と同様に、携帯電話やモバイル機器などの携帯端末機器の表面保護シートに適用されるものである。」(7頁45行?8頁5行)

j.「【0048】
第二の実施形態については、以下、図2を用いて説明する。加飾印刷層付き粘着シート1’においては、第一の実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1の構造に加えて、粘着剤層5の面5aの側に剥離シート6がさらに積層されている。
【0049】
粘着剤層5の面5aの側には、剥離シート6が積層されていることが好ましい。剥離シート6は、種々の剥離シートを使用できるが、代表的に剥離性を表面に有するシート材から構成される。シート材としては、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などのフィルムや、これらのフィルムに填料などの充填剤を配合したフィルムや合成紙などが挙げられる。また、グラシン紙、クレーコート紙、上質紙などの紙基材が挙げられる。
シート材の表面に剥離性を持たせるには、その表面に熱硬化性シリコーン樹脂や、紫外線硬化型シリコーン樹脂等の剥離剤を塗布により付着させる。剥離剤の塗布量は0.03?3.0g/m2が好ましい。
剥離シート6は、剥離剤を有する表面を粘着剤層5に接して積層される。積層されたハードコート層2、基材フィルム3及び粘着剤層5が剥離シート6を残して、被着体の形状に合わせて抜き加工されていることが特に好ましい。
【0050】・・・(中略)・・・
【0051】
この加飾印刷層付き粘着シート1’によれば、第一の実施形態と同様、携帯端末機器の製造において、工程での歩留まり向上、工程数削減、携帯端末機器の情報表示部表面の平坦化などに対応することができる。更に、この加飾印刷層付き粘着シート1’は、第一の実施形態の加飾印刷層付き粘着シート1の構造に加えて、粘着剤層5の面5aの側に剥離シート6がさらに積層されているため、利便性の面で優れている。
また、加飾印刷層付き粘着シート7によれば、被着体の形状に合わせて抜き加工することにより、飛散防止用粘着シート1’の利便性をさらに向上させている。
」(8頁18?46行)

k.「【0052】
次に、図2を参照して、加飾印刷層付き粘着シート1’の製造方法について説明する。
【0053】
基材フィルム3の面3aの側に、例えば、マイヤーバーのような塗工手段で、硬化性組成物を含有する塗布剤を塗布、必要に応じ乾燥し、電離放射線、例えば紫外線を照射して硬化させ、ハードコート層2を積層する(工程A)。
【0054】
次いで、印刷機を用いて、基材フィルム3の面3bの側に印刷を施し、加飾印刷層4を積層する(工程B)。
【0055】
次いで、粘着剤層5を積層する方法としては、粘着剤層5からなる基材レス粘着シートを押し付けて積層する方法が挙げられる(工程C)。この基材レス粘着シートは、別途、剥離シート6に粘着剤含有組成物を塗布し、乾燥させて作製したものである。工程Cにより、加飾印刷層付き粘着シート1’を得る。
【0056】
また、基材フィルム3の面3bの側に、例えば、ナイフコーターのような塗工手段で、上記粘着剤含有組成物を含有する塗布剤を塗布し、乾燥し、粘着剤層5を積層する方法も挙げられる(工程C’)。
【0057】
工程C’に次いで、粘着剤層5に剥離シート6を積層し、加飾印刷層付き粘着シート1’を得る。」(8頁47行?9頁17行)


上記引用例1の記載及び図面の記載を総合すると、引用例1の図2に示される第二の実施形態は、図1に示される第一の実施形態に剥離シート6を付加したものと認められる。そして、この分野の技術常識を考慮すると、次のことがいえる。

(a)上記d.、及び図1によれば、図1に示される加飾印刷層付き粘着シート1は、基材フィルム3の一方の面3aの側にハードコート層2が塗工され、前記基材フィルム3の他方の面3bの側に部分的に設けられた加飾印刷層4と粘着剤層5とがこの順に積層されている。
したがって、引用例1には、基材フィルム3の一方の面の側にハードコート層2が塗工され、前記基材フィルム3の他方の面の側に部分的に設けられた加飾印刷層4と粘着剤層5とがこの順に積層された、加飾印刷層付き粘着シート1、が記載されているといえる。

(b)上記e.によれば、基材フィルム3は合成樹脂のフィルムであることが記載されており、また、上記c.の記載によれば、加飾印刷層付き粘着シート1は、携帯端末機器の情報表示部表面に用いられるものであるから、加飾印刷層付き粘着シート1の基材フィルム3は透明なものと認められる。
したがって、引用例1には、前記基材フィルム3は透明な合成樹脂のフィルムであることが記載されているといえる。

(c)上記g.の段落【0038】には、加飾印刷層4は額縁状の電極隠蔽用であることが、さらに、段落【0040】には、加飾印刷層4の厚さは、5μm?30μmであることが記載されている。
したがって、引用例1には、前記加飾印刷層4は電極隠蔽用の額縁状であり、厚さは、5μm?30μmであることが記載されているといえる。

(d)上記h.の段落【0041】には、粘着剤層5がポリエステル系粘着剤であるものが、さらに、段落【0042】には、粘着剤層5の厚さは、10μm?200μmであることが記載されている。
また、段落【0043】、及び上記k.の段落【0054】乃至【0056】には、粘着剤層5は、基材フィルム3の面3bの側に印刷を施し、加飾印刷層4を積層した後に、基材フィルム3の面3bの側に、塗工手段で、粘着剤含有組成物を含有する塗布剤を塗布し、乾燥することで積層するようにしてもよいことが記載されているといえる。
したがって、引用例1には、前記粘着剤層5はポリエステル系粘着剤であり、その厚さは、10μm?200μmであり、前記粘着剤層5は、前記基材フィルム3の他方の面の側に印刷で前記加飾印刷層4を積層した後に、前記基材フィルム3の他方の面の側に、塗工手段で、粘着剤含有組成物を含有する塗布剤を塗布し、乾燥し、積層したものであることが記載されているといえる。

(e)上記i.、上記j.の段落【0048】、【0051】、及び図2には、加飾印刷層付き粘着シート1は、粘着剤層5の面5aの側に剥離シート6がさらに積層されうることが記載されている。
そして、段落【0049】には、剥離シート6は表面に剥離性を持たせるために、その表面に剥離剤を塗布により付着されていることが記載されているといえる。
したがって、引用例1には、上記粘着剤層の上に、その表面に剥離剤を塗布により付着されている剥離シートを積層することが記載されているといえる。


したがって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「基材フィルムの一方の面の側にハードコート層が塗工され、前記基材フィルムの他方の面の側に部分的に設けられた加飾印刷層と粘着剤層とがこの順に積層され、
前記基材フィルムは透明な合成樹脂のフィルムであり、
前記加飾印刷層は電極隠蔽用の額縁状であり、厚さは、5μm?30μmであり、
前記粘着剤層はポリエステル系粘着剤であり、その厚さは、10μm?200μmであり、前記粘着剤層は、前記基材フィルムの他方の面の側に印刷で前記加飾印刷層を積層した後に、前記基材フィルムの他方の面の側に、塗工手段で、粘着剤含有組成物を含有する塗布剤を塗布し、乾燥し、積層したものであり、
上記粘着剤層の上に、その表面に剥離剤を塗布により付着されている剥離シートを積層した、
加飾印刷層付き粘着シート」

(イ)引用例2
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2010-163591号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「【0063】
図3は、上記透明粘着シートを含む画像表示装置のさらに別の態様の断面図である。図3において、画像表示装置30は、画像表示ユニット1の表示面上に、透明粘着シート3、タッチパネル7、透明粘着シート3’、表面保護層4がこの順序で積層された構造を有している。透明粘着シート3’及び表面保護層4がこの順序で積層された積層体の構造は、図1に記載されているものと同様である。透明粘着シート3と透明粘着シート3’とは、同一の共重合体を含んでいても、異なる共重合体を含んでいてもよい。透明粘着シート3及び3’は柔軟性を有するので、表面保護層4が凹凸形状を有していても、更には、画像表示ユニットの表示面に凹凸表面形状を有する層(例えば、偏光板)が設けられていたとしても、シート自体の内部残留応力が緩和されており、画像表示装置における表示ムラを防止することができる。また、透明粘着シート3及び3’は充分な接着力及び親水性を有しているため、高温高湿環境下でも、画像表示ユニット1の表示面と透明粘着シート3、及び透明粘着シート3’と表面保護層4等の各界面等で気泡や剥がれが発生せず、また、白化も生じない。ここで、画像表示装置30は、例えば、上記表面保護層4、透明粘着シート3’、タッチパネル7、及び透明粘着シート3からなる積層体2を、画像表示ユニット1の表示面面上に貼り合せることで得られる。」(13頁37行?14頁2行)

b.「【0067】
1.アクリル系共重合体の調製方法
例1?19
下記表1の記載に従い、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び光重合開始剤としてイルガキュア(商標)651(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)(チバ・ジャパン製)0.04質量部をガラス容器中でよく混合し、窒素ガスにて溶存酸素を置換した後、低圧水銀ランプで数分間紫外線を照射して部分的に重合させ、粘度1500cP程度の粘性液体を得た。得られた組成物に架橋剤としてHDDA(1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)、及び追加の重合開始剤(イルガキュア651)0.15質量部を加えて、十分に攪拌した。この混合物を真空脱泡した後、剥離処理をした50μm厚のポリエステルフィルム(剥離フィルム)の上に175μm厚になるよう塗工し、重合を阻害する酸素を除去するためにさらに上記剥離フィルムを被せ、両面から低圧水銀ランプで約4分間照射し、透明粘着シートを得た。下記方法に従い、得られたシートのtanδ及び貯蔵弾性率を測定した。」(14頁27?40行)


(ウ)引用例3
原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開第2012-77808号(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「[0026] <粘着性樹脂組成物>
本発明の粘着性樹脂組成物は、(A)(メタ)アクリル酸系誘導体ポリマー、(B)(メタ)アクリロイル基を分子内に1つ有する(メタ)アクリル酸系誘導体モノマー、(C)2官能の(メタ)アクリロイル基を有する架橋剤及び(D)光重合開始剤を含有する。」(10頁2?6行)

b.「[0060] <画像表示装置>
次に、本発明の粘着性樹脂組成物又は粘着シートを用いた画像表示装置について説明する。
本発明の粘着性樹脂組成物及び粘着シートは、各種画像表示装置に適用することができる。画像表示装置としては、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、陰極線管(CRT)、電界放出ディスプレイ(FED)、有機ELディスプレイ(OELD)、3Dディスプレイ、電子ペーパー(EP)などが挙げられる。本発明の粘着性樹脂組成物及び粘着シートは、例えば、前記画像表示装置の反射防止層、防汚層、色素層、ハードコート層などの機能性を有する機能層、またはこの層をポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム等の基材フィルムなどの光学フィルタ基材に製膜または積層した多層物、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート等の透明保護板またはこれに各種機能を有する機能層を製膜または積層した多層物などを、組み合わせて貼り合わせるために使用することができる。また、このような多層物と組み合わせた光学フィルタとして使用することもできる。さらに、本発明の粘着性樹脂組成物はこれらの多層物に塗布、充填などしてから硬化することも可能である。」(21頁21行?22頁9行)

c.「[0070] 上述の図2の液晶表示装置は、画像表示ユニットと保護パネルとの間に上記本実施形態の粘着シートを介在させる工程を備える製造方法により製造することができる。
すなわち、図2に記載の画像表示装置において、本発明の粘着シートをあらかじめ作製しておいて、偏光板20の上面に該粘着シートを前述のラミネート法によって積層することができる。
また、偏光板20の上面に本発明の粘着性樹脂組成物を塗布し、硬化させて透明樹脂層32を得る方法も好適に挙げられる。硬化は紫外線(UV)などの活性エネルギー線を、透明保護板側から照射する方法などにより行うことができる。
[0071] 上述の図3の液晶表示装置は、画像表示ユニットと前記タッチパネルとの間、及び/又は、前記タッチパネルと前記透明保護基板(保護パネル)との間に上記本実施形態の粘着シートを介在させる工程を備える製造方法により製造することができる。硬化性樹脂組成物を介在させる方法としては、上述の図2の液晶表示装置の場合と同様の方法が挙げられる。
また、光照射や粘着性樹脂組成物を含む積層体を加熱する等して、硬化を促進させることもできる。
なお、透明保護板、タッチパネル、又は画像表示ユニットに10?80μmの段差(例えば段差部60)を有する場合は、透明保護板とタッチパネル、タッチパネルと画像表示ユニット、又は透明保護板と画像表示ユニットとの間を、画像表示装置用粘着シートで貼り合わせる工程後に、段差近傍の気泡をより除去できる観点から、40℃?80℃(好ましくは50℃?70℃)、0.3?0.8MPa(好ましくは0.4?0.7MPa)、5?60分(好ましくは、10?50分)の条件で加熱加圧処理(オートクレーブ処理)することが好ましい。」(25頁15行?26頁11行)

上記引用例2の記載及び図面、上記引用例3の記載、及び図面、並びにこの分野の技術常識を考慮すると、本願出願前に以下の事項(以下、「周知の技術」という。)が周知であったと認められる。

「光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物を塗布した後に、UV照射を行い、光硬化性樹脂組成物を硬化させ粘着剤層を形成すること。」


ウ.対比・判断

補正後の発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「基材フィルム」は、「透明な合成樹脂のフィルム」であり、補正後の発明の「透明樹脂フィルム」に相当し、また、引用発明の「ハードコート層」は、補正後の発明の「ハードコート層」に相当し、さらに、引用発明の「加飾印刷層」は、「電極隠蔽用の額縁状」であり、通常、電極の隠蔽用には黒色を用いることから、補正後の発明の「黒枠の印刷層」に相当する。
したがって、引用発明の「基材フィルムの一方の面の側にハードコート層が塗工され、前記基材フィルムの他方の面の側に部分的に設けられた加飾印刷層と粘着剤層とがこの順に積層され、」は、補正後の発明の「透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠の印刷層が形成され」に含まれる。

b.引用発明の「粘着剤含有組成物を含有する塗布剤」は、「塗布し、乾燥」するものであるから流動性を有し、さらに、引用発明の「粘着剤」は、「ポリエステル系粘着剤」であり樹脂と認められるから、引用発明の「粘着剤含有組成物を含有する塗布剤」と、補正後の発明の「光重合開始剤を含む流動性を有する光硬化性樹脂組成物」は、「流動性を有する樹脂組成物」である点で共通する。
また、引用発明1の「塗布剤」は、「前記基材フィルムの他方の面の側に印刷で前記加飾印刷層を積層した後に」、前記基材フィルムの他方の面の側に塗布されるものであるから、基剤フィルムの他方の面のうち前記加飾印刷層の形成されていない部分の上部、及びち前記加飾印刷層の上部に塗布されるものと認められる。
したがって、引用発明の「前記粘着剤層は、前記基材フィルムの他方の面の側に印刷で前記加飾印刷層を積層した後に、前記基材フィルムの他方の面の側に、塗工手段で、粘着剤含有組成物を含有する塗布剤を塗布し、乾燥し、積層したもの」と、補正後の発明の「前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、光重合開始剤を含む流動性を有する光硬化性樹脂組成物が塗布された後に、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、UV照射により硬化させてなる粘着剤層が形成され」は、「前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、流動性を有する樹脂組成物が塗布された後に、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、前記樹脂組成物が変化し粘着剤層が形成され」である点で共通する。

c.引用発明の「剥離シート」は、「粘着剤層の上に」形成されるものであり、また、「その表面に剥離剤を塗布により付着」したものであるから、引用発明の「剥離シート」は、補正後の発明の「前記粘着剤層の上に、剥離処理された剥離フィルム」に相当する。

d.そして、引用発明の「加飾印刷層付き粘着シート」は、「基材フィルムの一方の面の側にハードコート層」を、「前記基材フィルムの他方の面」に「加飾印刷層」、「粘着剤層」、及び「剥離シート」有するものであるから、補正後の発明の「ハードコートフィルム」に相当する。


したがって、補正後の発明と引用発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)

「透明樹脂フィルムの一方の面にハードコート層を有し、他方の面に、黒枠の印刷層が形成されてなり、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、流動性を有する樹脂組成物が塗布された後に、前記他方の面のうち前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、前記樹脂組成物が変化し粘着剤層が形成され、前記粘着剤層の上に、剥離処理された剥離フィルムが貼り合わせてなる、ハードコートフィルム。」


(相違点1)補正後の発明では、「流動性を有する樹脂組成物」が、「光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物」であり、「粘着剤層」がUV照射により硬化されて形成されるのに対して、引用発明では、「流動性を有する樹脂組成物」(粘着剤含有組成物を含有する塗布剤)は、樹脂組成物ではあるが「光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物」ではなく、「粘着剤層」は粘着剤含有組成物を含有する塗布剤が塗布された後に、乾燥して形成される点。

(相違点2)補正後の発明では、前記印刷層の厚みよりも、前記粘着剤層の厚みと前記印刷層の厚みとの厚み差の方が小さいのに対して、引用発明では、印刷層と、粘着剤層の厚みと印刷層の厚みとの厚み差の大小関係は特定されていない点。


以下、上記各相違点について検討する。

(相違点1)について
光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物を塗布した後に、UV照射により光硬化性樹脂組成物を硬化させ粘着剤層を形成することは、上記引用例2、引用例3にも記載されるように周知の技術である。
引用例1の段落【0041】には、粘着剤層の粘着剤の材質としては特に制限されないことが記載されており、引用発明のものが、光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物からなる粘着剤を使用できないものでもない。
してみれば、引用発明の塗布剤として、上記周知の技術の光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物を適用し、UV照射により硬化させてなる粘着剤層が形成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2)について
引用例1の段落【0040】の記載からも明らかなように引用発明のハードコートフィルムは薄い方が良いものである。そして、そのためには、粘着剤層も薄いほうが好ましいことは当然のことである。
一方、引用発明は、塗布剤を印刷層に塗布し乾燥するものであるから、粘着剤層の厚みは、最低、印刷層の厚み以上必要と考えられるが、印刷層の厚みの2倍以上にまでする必要がないことは明らかである。
してみれば、引用発明において粘着剤層の厚さを、印刷層の厚さ以上で、かつ、その厚さの2倍以下とすることは、当業者が容易に相当し得たことである。
そして、そのようにすることは、引用発明において、相違点2に係る補正後の発明の構成を採用することにほかならない。


そして、補正後の発明により得られる効果も、引用発明、及び周知の技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものである

よって、補正後の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1に記載の発明は、本願明細書の段落〔0011〕に記載されている従来技術であって、特定の貯蔵弾性率を有する粘着シートを用いて、印刷段差を埋めることにより、気泡の発生を抑えるものに過ぎない。つまり、引用文献1に記載の発明は、本願発明のように、印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、光重合開始剤を含む流動性を有する光硬化性樹脂組成物が塗布された後に、前記印刷層の形成されていない部分の上部、及び前記印刷層の上部に、UV照射により硬化させてなる粘着剤層が形成されることにより印刷段差を埋めるものとは技術思想が異なる。」という趣旨の主張をし、それを根拠に補正後の発明が進歩性を有する旨主張するようであるが、以下の理由で採用できない。
すなわち、上記イ.の(d)で述べたように、引用例1の段落【0043】(段落【0043】の末尾の文参照)や段落【0056】の記載によれば、引用例1には、本願明細書に段落〔0011〕に記載されている従来技術とは異なる、上で認定したとおりの引用発明も記載されていると認めることができ、そのような引用発明に基づけば、上で論述したとおり、補正後の発明は当業者が容易に発明することができたものと考えるのが妥当である。


3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである


第3.本願発明について

1.本願発明

平成26年12月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。


2.引用発明

引用発明等は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「2.補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ.引用発明」の項で「引用発明として」認定したとおりである。


3.対比・判断


本願発明は上記補正後の発明から補正に係る限定を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「2.補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「ウ.対比・判断」の項で検討したとおり、上記引用例1に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明することができたものである。


4.むすび

以上のとおり、本願発明は、上記引用例1に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-30 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-20 
出願番号 特願2012-158984(P2012-158984)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 桜井 茂行
山澤 宏
発明の名称 ハードコートフィルム及びそれを用いたタッチパネル  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

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