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審決分類 審判 査定不服 (訂正、訂正請求) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07J
管理番号 1308550
審判番号 不服2012-25671  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-25 
確定日 2015-11-10 
事件の表示 特願2011-700121「21-アシルオキシプレグナ-1,4-ジエン-11β,16α,17α-トリオール-3,20-ジオン誘導体の16,17-アセタール誘導体のR-エピマーの割合を増大させるための方法」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成23年4月21日に出願された特許権の存続期間の延長登録出願であって、平成24年9月18日付けで拒絶査定がされたところ、同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求され、平成26年7月2日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本件出願の内容
本件出願は、特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったために、特許第3807509号(以下、「本件特許」という。)の特許発明の実施をすることができない期間があったとして、3年8月5日の特許権の存続期間の延長を求めるものである。
そして、平成25年2月12日付け手続補正書により補正された本件出願の願書には、「4 特許法67条第2項の政令で定める処分を受けた日 2011年1月21日」と記載され、「7 特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容」として、以下のとおり記載されている。
(1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る承認
(2)処分を特定する番号
21900AMY00028000
(3)処分の対象となった物
シクレソニド
(4)処分の対象となった物について特定された用途
気管支喘息(ただし、小児の気管支喘息に限る)
(以下、2011年(平成23年)1月21日に受けた承認番号「21900AMY00028000」の承認を「本件処分」という。)

3.本件特許の内容
本件特許は、平成9年8月29日を国際出願日として出願され、平成18年5月26日に設定登録がされたものであって、その特許発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。(以下、請求項1?請求項7に係る各特許発明を、「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。また、本件特許発明1?本件特許発明7をまとめて「本件特許発明」ということがある。)
【請求項1】
[11β,16α(R,S)]-16,17-[(シクロヘキシルメチレン)ビス(オキシ)]-11-ヒドロキシ-21-(2-メチル-1-オキソプロポキシ)-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンのR/S-エピマー混合物中のR-エピマーの割合を増大させる方法において、水と適当な水に混和性の有機溶剤との混合物中のR/S-エピマー混合物の溶液から出発してR/S-エピマー混合物の分別結晶を実施することを特徴とする、R-エピマーの割合を増大させる方法。
【請求項2】
[11β,16α(R,S)]-16,17-[(シクロヘキシルメチレン)ビス(オキシ)]-11-ヒドロキシ-21-(2-メチル-1-オキソプロポキシ)-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンのR/S-エピマー混合物中のR-エピマーの割合が増大している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
適当な水に混和性の有機溶剤がエタノールである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
適当な水に混和性の有機溶剤がメタノール、n-プロパノール、イソプロパノールまたはアセトンである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
適当な水混和性の有機溶剤が有機溶剤の混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
[11β,16α(R,S)]-16,17-[(シクロヘキシルメチレン)ビス(オキシ)]-11-ヒドロキシ-21-(2-メチル-1-オキソプロポキシ)-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンのR/S-エピマー混合物を製造し、かつ該混合物中のR-エピマーの割合を増大させる方法において、(a)段階で、[11β,16α(R,S)]-16,17-[(シクロヘキシルメチレン)ビス(オキシ)]-11,21-ジヒドロキシ-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンのR/S-エピマー混合物のアシル化を実施し、(b)段階で、水と適当な水に混和性の有機溶剤との混合物中のR/S-エピマー混合物の溶液から(a)段階で得られるR/S-エピマー混合物の分別結晶を実施することを特徴とする、R/S-エピマー混合物を製造し、該混合物中のR-エピマーの割合を増大させる方法。
【請求項7】
アシル化を、無水イソ酪酸によって実施する、請求項6記載の方法。

4.拒絶理由の概要
平成26年7月2日付けで通知した拒絶理由は、以下A.及びB.の理由を含むものである。
A.本件処分の対象となった医薬品が、本件特許発明の発明特定事項のすべてを備えているとはいえないから、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められず、本件延長登録出願は、特許法第67条の3第1項第1号に該当する。
B.本件特許発明は先行処分によって実施できるようになっていたから、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められず、本件延長登録出願は、特許法第67条の3第1項1号に該当する。

5.判断
(1)本件処分と先行処分との関係について
本件出願の願書に添付した「延長の理由を記載した資料」の添付書類「(1)医薬品製造販売承認事項一部変更承認書の写し」、及び「(2)医薬品輸入承認書の写し」の記載によれば、本件処分は、平成19年4月18日に輸入承認された承認番号「21900AMY00028000」の承認(以下、平成19年4月18日に受けた承認番号「21900AMY00028000」の承認を「先行処分」という。)に係る医薬品の承認事項を、一部変更した医薬品の製造販売についての、薬事法第14条第9項の承認であると認められる。
そして、上記「(1)医薬品製造販売承認事項一部変更承認書の写し」の承認事項の新旧対照表によれば、本件処分における先行処分からの変更事項は、先行処分に係る医薬品において「成人には、通常、シクレソニドとして100?400μgを1日1回吸入投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日の最大投与量は800μgとする。また、1日に800μgを投与する場合は、朝、夜の1日2回に分けて投与する。」であった「用法及び用量」を、本件処分に係る医薬品において「成人 通常、成人にはシクレソニドとして100?400μgを1日1回吸入投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日の最大投与量は800μgとする。また、1日に800μgを投与する場合は、朝、夜の1日2回に分けて投与する。小児 通常、小児にはシクレソニドとして100?200μgを1日1回吸入投与する。なお、良好に症状がコントロールされている場合は50μg1日1回まで減量できる。」と変更する点のみであり、「用法及び用量」以外の承認事項に変更はないことが認められる。

(2)拒絶理由B(先行処分によって本件特許発明1の実施をすることができない状態は解除されていたこと)について
ア.最一小判平成23年4月28日、民集65巻3号1654頁の「先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない」との判示によれば、先行処分がされていることを根拠として本件特許発明1の実施に本件処分を受けることが必要でなかったというためには、先行処分に係る医薬品において使用される何らかの方法が、本件特許発明1の方法発明の技術的範囲に属することが前提となる。そこで、まず、先行処分に係る医薬品の製造工程が、本件特許発明1の発明特定事項をすべて充足するか否かを検討する。

本件特許発明1を以下の(A)?(D)のように分説する。
(A)[11β,16α(R,S)]-16,17-[(シクロヘキシルメチレン)ビス(オキシ)]-11-ヒドロキシ-21-(2-メチル-1-オキソプロポキシ)-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンのR/S-エピマー混合物中のR-エピマーの割合を増大させる方法において、
(B)水と適当な水に混和性の有機溶剤との混合物中のR/S-エピマー混合物の溶液から出発して
(C)R/S-エピマー混合物の分別結晶を実施する
(D)ことを特徴とする、R-エピマーの割合を増大させる方法。

審判請求人は、平成27年1月7日付け意見書において、本件出願の願書に添付したCTDは、本件出願の願書に添付した医薬品輸入承認書(申請書)とともに申請の際に提出され、申請書の一部として位置づけられるものであると主張している。そして、本件出願の願書に添付した「延長の理由を記載した資料」の「(2)医薬品輸入承認書の写し」の「医薬品輸入承認申請書」部分の記載によれば、先行処分に係る医薬品の申請書の記載事項の一つに「製造方法」が含まれる。そうすると、本件出願の願書に添付したCTDは、先行処分の申請の際に提出され、申請書の一部として位置づけられて審査された結果、CTDに記載された製造方法も含めて「申請のとおり承認」されたのが、先行処分に係る医薬品である。
本件出願の願書に添付した「延長の理由を記載した資料」の添付書類「(7)CTD第2部2.3品質に関する概括資料の写し(抜粋)」(10頁)には、シクレソニドのR-エピマー合成の流れが示されており、合成工程を経て製造された、「シクレソニドのR/Sエピマー混合物」を、「水」と「水に混和性の有機溶剤」に相当する特定の有機溶剤Xとの「混合物」に添加してR-エピマーを取得することが記載されている。また、同「(12)CTD第2部2.3品質に関する概括資料の写し(抜粋)」(11,12,14,18,19頁)の12頁には結晶化のための具体的な操作が記載され、14頁及び19頁の記載によれば、14頁に記載された特定の処理Yにより不純物の含量が低下したことが認められる。そして、「(2)医薬品輸入承認書の写し」の「医薬品輸入承認申請書」部分の3頁の記載から、この不純物はS-エピマーであると認められる。
(審決は、特許法第193条第2項第6号に基づき特許公報として公表される性質のものであるところ、CTDは営業秘密を含むものであるから、その10頁に記載された「R-エピマーの合成の流れ」や「特定の有機溶剤X」、12頁に記載された「結晶化のための具体的な操作」、14頁に記載された「特定の処理Y」の具体的な内容について、本審決において摘記することができない。しかしながら、上記CTDの記載内容についての認定は、審判請求人が平成27年1月7日付け意見書において述べている内容と概ね一致する。)
ここで、上記CTDに記載された「シクレソニド」は発明特定事項(A)に記載の化合物のことであり、「不純物であるS-エピマーの含量が低下した」ことは、「R/Sエピマーの混合物中のR-エピマーの割合を増大させる」ことに相当するから、上記CTDに記載された先行処分に係る医薬品の製造工程は、発明特定事項(A)及び(D)を充足する。また、上記CTDに記載された先行処分に係る医薬品の製造工程は、「シクレソニドのR/Sエピマー混合物」を、「水」と「水に混和性の有機溶剤」に相当する「特定の有機溶剤X」との「混合物」に添加したものから出発しているから、発明特定事項(B)を充足する。そして、上記CTDの14頁に記載された「特定の処理Y」により、不純物であるS-エピマーの含量が低下したのであるから、当該「特定の処理Y」は「分別結晶」であったと認められ、上記CTDに記載された先行処分に係る医薬品の製造工程は、発明特定事項(C)も充足する。
以上のとおり、上記CTDに記載の先行処分に係る医薬品の製造工程は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて充足するから、先行処分に係る医薬品の製造工程は、本件特許発明1の技術的範囲に属する。

イ.先行処分によって本件特許発明1の実施をすることができない状態が解除されており、本件処分を受けることが本件特許発明1の実施をするために必要でなかったというためには、本件特許発明1と、先行処分に係る医薬品の製造工程及び本件処分に係る医薬品の製造工程とを、照らし合わせて検討する必要がある。
上記(1)で述べたとおり、本件処分は、先行処分における「用法及び用量」の承認事項のみを変更した医薬品の製造販売承認であり、それ以外の承認事項は「製造方法」を含め変更されていないから、本件処分に係る医薬品の製造工程は、先行処分に係る医薬品の製造工程と同一である。すなわち、本件処分に係る医薬品も先行処分に係る医薬品も、本件特許発明1の発明特定事項を充足する態様(発明特定事項(B)における「有機溶剤」として「有機溶剤X」を用い、発明特定事項(C)における「分別結晶」として「処理Y」を行うという態様)として全く同一の方法によって、「シクレソニド」のR-エピマーの割合が増大されたものである。
以上のとおり、先行処分に係る医薬品と本件処分に係る医薬品とは、本件特許発明1の発明特定事項を充足する態様において全く同一であるから、先行処分によってはいまだ実施できなかった、本件特許発明1に包含される別の態様の方法の実施が、本件処分を受けることによってはじめて可能になったものでないことは明らかである。
したがって、処分を受けることが必要であるために本件特許発明1の実施をすることができない状態は、先行処分によって解除されていたのであって、本件処分を受けることが本件特許発明1の実施をするために必要であったということはできない。

(3)本件特許発明2?7に対する拒絶理由について
審判請求人は、本件出願時から一貫して、本件処分を受けることが本件特許発明1の実施をするために必要であったと主張するのみで、本件特許発明2?7の実施をするために必要であったことについては主張していない。これは、処分を受けた医薬品の製造工程が、より具体的な事項を特定した請求項2?7に係る特許発明の実施に該当するか否かを主張すると、処分を受けた医薬品の製造方法に係る営業秘密を開示することになるためと推認されるので、本件審決においても詳細は論じないが、上記(2)において本件特許発明1について述べたのと同じ拒絶理由B.によるか、又は、本件処分の対象となった医薬品が本件特許発明の発明特定事項の全てを備えているとはいえないという拒絶理由A.により、本件特許発明2?7の実施をするために本件処分を受けることが必要であったとは認められない。

(4)平成27年1月7日付け意見書における審判請求人の主張について
ア.審判請求人は、平成25年(行ケ)10195号審決取消請求事件の判決をあげて、本件のような医薬品の製造方法を対象とする特許についての処分により禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲も、この裁判例のように、審査事項のうち「名称」、「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解釈されるべきであると主張する。

しかしながら、上記裁判例は「医薬品の成分を対象とする特許(製法特許、プロダクトバイプロセスクレームに係る特許等を除く。)については」と、射程を限定して判示しているのであり、R-エピマーの割合を増大させる方法の発明に係る本件特許は、上記判決において「除く」と明記されている「製法特許」と類似のものであり、上記判決の射程外であることが明らかである。
そして、特許法第67条の3第1項第1号の「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき」との規定に照らせば、処分によって可能となった「特許発明の実施」の範囲を確定するにあたっては、処分を受けた医薬品の製造販売等の行為が「特許発明の実施」に該当する態様、すなわち、特許発明の発明特定事項のすべてを充足する態様が検討されるべきである。R-エピマーの割合を増大させる方法に係る本件特許発明についていえば、薬事法第14条第2項第3号で審査事項として規定されている「副作用その他の品質、有効性及び安全性に関する事項」に該当する「製造方法」こそが、本件特許発明1?7のいずれかの発明特定事項のすべてを充足する態様を検討するために必要な事項であって、「用法及び用量」は本件特許発明の実施に関係しないことが明らかである。
したがって、先行処分によって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲が、審査事項のうち「名称」、「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解釈されるべきとする審判請求人の主張は、失当である。

イ.審判請求人は、上記裁判例に基づき、本件延長登録出願における「その特許発明の実施」に該当する行為は、本件処分に係る承認書の[用法及び用量]欄に記載された用法及び用量によって特定される小児の気管支喘息のための本件医薬品の製造販売等の行為であり、小児の場合の用法及び用量についてなされた処分ではない先行処分を受けたことによってその禁止が解除されたとはいえず、本件処分を受けたことによって初めて禁止が解除されたものであると主張する。

しかしながら、特許法第67条第2項の「・・・処分であつて・・・政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があったときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。」との規定、及び同法第67条の3第1項第1号の「その特許発明の実施に第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき」との規定に照らせば、第67条の3第1項第1号該当性を判断するにあたっては、「本件処分を受けたことによって初めて禁止が解除されたか否か」(本件処分を受けたことにより薬事法上の禁止状態が解除されたか否か)ではなく、「本件処分を受けたことによって特許発明の実施をすることができない状態が解除されたか否か」が問題とされるべきである。そして、先行処分によって、本件特許発明の実施をすることができない状態がすでに解除されており、本件処分を受けることによって特許発明の実施をすることができない状態が解除されたわけでないことは、上記(2)で論証したとおりである。
仮に、薬事法上の禁止解除という観点から検討しても、以下のとおり、本件処分を受けたことによって初めて小児への投与についての禁止が解除されたものとはいえない。
まず、先行処分に係る承認書の「用法・用量」欄に成人に投与する場合の規定しか記載されておらず、小児に投与する場合の規定が記載されていないことは、先行処分に係る医薬品が小児への投与を禁止されていたことを意味するものではない。このことは、例えば、日本薬剤師会編、第十三改訂 調剤指針、平成24年4月7日第2刷、薬事日報社、452頁に「小児に特有な疾患の治療薬を除いて、医薬品の開発段階で小児を対象とした含量・剤型の薬剤が設計されることはまれであり、多くの薬剤で小児における有効性・安全性を確認する臨床試験が試みられることなく、成人を対象として開発された薬剤が小児に対して適用されることになる。」(4?7行)と記載され、454頁に「ほとんどの医薬品では成人に対する常用量から小児薬用量を概算することになる。小児薬用量については古来より多くの算出式、換算表、ノモグラムが提唱されており、これらは成人量を基準にして年齢・体重(表1)、体表面積などにより用量を補正している。」(2?5行)と記載されているように、医薬品を取り扱う医療現場においては周知のことである。
次に、本件についてみても、先行処分に係る医薬品が、小児への投与を禁止されていたとの事実は認められない。むしろ、本件処分を受ける前である2009年9月に改訂された、承認番号21900AMY00028000の医薬品の添付文書(http://www.drc.toyaku.ac.jp/packins/pdf/470310/470310_2290702G1025_1_05/470310_2290702G1025_1_05.pdf)において、小児への投与は「禁忌(次の患者には投与しないこと)」欄に記載されておらず、「使用上の注意」欄に「低体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する安全性は確立していない[国内での使用経験がない。]」と記載されていることは、本件処分を受ける前に、先行処分に係る医薬品の小児への投与が禁止されていなかったことを示すものとさえいえる。
さらに、本件特許原簿(願書に添付した「延長の理由を説明する資料」(5))には、「特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分 薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る承認」、「処分を特定する番号 219000AMY00025000」、「処分の対象となった物 シクレソニド」、「処分の対象となった物について特定された用途 気管支喘息」を処分の内容とする処分(「先行処分」と同日になされた、分量のみが異なる処分に相当する)に基づいて、すでに、10月22日の存続期間延長が認められていることが記載されており、「処分の対象となった物について特定された用途」を、成人の気管支喘息に限定していないことは、本件特許権者自身、先行処分が、成人に限った気管支喘息のための用途についてなされたものと認識していなかったことの証左である。本件出願の願書において「7 特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容」の「(4)処分の対象となった物について特定された用途」の欄の記載を、「気管支喘息(ただし、小児の気管支喘息に限る)」と補正したからといって、先行処分が、成人に限った気管支喘息のための用途についてなされたものになるわけでもない。
したがって、審判請求人の主張は、採用できない。

(5)まとめ
以上検討したところによれば、本件特許発明1?7いずれの実施にも本件処分を受けることが必要であったとは認められない。

6.むすび
したがって、本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当し、特許権の存続期間の延長登録を受けることができない。
 
審理終結日 2015-06-08 
結審通知日 2015-06-15 
審決日 2015-06-26 
出願番号 特願2011-700121(P2011-700121)
審決分類 P 1 8・ 71- WZ (C07J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山中 隆幸  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 内藤 伸一
植原 克典
発明の名称 21-アシルオキシプレグナ-1,4-ジエン-11β,16α,17α-トリオール-3,20-ジオン誘導体の16,17-アセタール誘導体のR-エピマーの割合を増大させるための方法  
代理人 篠 良一  
復代理人 神谷 雪恵  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
復代理人 来間 清志  
代理人 久野 琢也  

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