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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1308589
審判番号 不服2014-10613  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-04 
確定日 2015-12-16 
事件の表示 特願2012-512445「医療外科用器具」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日国際公開、WO2010/136748、平成24年11月12日国内公表、特表2012-527927〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年(平成22年)5月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年5月28日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月15日付けで拒絶理由が通知され、同年11月20日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、平成26年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成26年6月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成26年6月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 本件補正について

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、平成25年11月20日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「 細長いロッド(10)、前記ロッドの患者側端にマウントされたビデオカメラ(15)及び前記ロッドに沿って延びる可撓性電気ケーブル(17)を有する医療外科用導入器具であって、
前記器具は、前記ロッド(10)の機械側端(3)にマウントされて固定され、前記電気ケーブルに電気的に接続された電気的コネクタ(2)を有し、
前記電気的コネクタ(2)は、前記カメラ(15)の視野の視覚的ディスプレイを提供するように構成されたディスプレイユニット(4)とケーブル(5)を介して接続された対応コネクタ(6)と接続できるように適合されており、
前記ロッド(10)上の前記コネクタ(2)の横寸法は、前記対応コネクタ(6)を外した後に前記電気的コネクタ(2)を超えて前記ロッド(10)に沿わせるように医療外科用チューブ(50)を被せることのできるものとされている、
ことを特徴とする、医療外科用導入器具。」


「 細長いロッド(10)、前記ロッドの患者側端にマウントされたビデオカメラ(15)及び前記ロッドに沿って延びる可撓性電気ケーブル(17)を有する医療外科用導入器具であって、
前記器具は、前記ロッド(10)の機械側端(3)にマウントされて固定され、前記電気ケーブルに電気的に接続された電気的コネクタ(2)を有し、
前記電気的コネクタ(2)は、前記カメラ(15)の視野の視覚的ディスプレイを提供するように構成されたディスプレイユニット(4)とケーブル(5)を介して接続された対応コネクタ(6)と接続できるように適合されており、
前記ロッド(10)上の前記コネクタ(2)の横寸法は、前記対応コネクタ(6)を外した後に前記電気的コネクタ(2)を超えて前記ロッド(10)に沿わせるように医療外科用チューブ(50)を被せることのできるものとされており、
前記ロッド(10)は、可撓性の材料からなり、挿入時に保持されることとなる形状へと湾曲可能であり、60ショアDの硬度を有する
ことを特徴とする、医療外科用導入器具。」
と補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、発明特定事項である「ロッド」に対して「可撓性の材料からなり、挿入時に保持されることとなる形状へと湾曲可能であり、60ショアDの硬度を有する」との限定を付加するものであり、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的とするものである。

2 独立特許要件についての検討

(1)そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例

ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/089491号(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。また、和訳は、引用例1の日本語ファミリーである特表2009-524482号公報の記載を基に作成した。)。

(ア)第1頁7?11行
「 The present invention relates to apparatus for introducing an airway tube, such as an endotracheal tube, into a patient's trachea, wherein the apparatus includes visualization capability that assists in placing the airway tube.」
( 本発明は、気管内チューブなどの気道チューブを患者の気管に導入するための装置に関し、該装置は、気道チューブの配置を補助する可視化能力を含む。)

(イ)第8頁1行?第9頁27行
「 Referring to FIGS. 1, an embodiment of an airway introducer apparatus constructed in accordance with the principles of the present invention is described. Apparatus 10 comprises elongated body 11 having distal end 12 and proximal end 13. Elongated body 11 is curved or arcuate, and optionally includes bend 14 disposed near distal end 12. Elongated body 11 preferably is formed from a relatively rigid material, such as a hard polymer, metal or metal alloy, and ensures that apparatus 10 retains its shape when subjected to the loads expected to be encountered while inserting apparatus 10 orally into a patient's trachea. Apparatus 10 alternatively may retain some degree of flexibility, which allows the pre-formed curvature to vary during insertion. In addition, bend 14 preferably is sufficiently flexible to permit passage of an airway tube over the bend.
Apparatus 30(当審注:「30」は「10」の誤記と認める。) preferably is about 40 cm long between distal end 12 and proximal end 13. Elongated body 11 may have an essentially circular cross section with a diameter of approximately 4 to 8 mm. In other embodiments, elongated body 11 may have a non-circular cross section. For example, an oval shape may prove provide enhanced flexibility in one direction, while reduced flexibility in an orthogonal direction. Apparatus 10 should have a sufficiently narrow profile that it may pass through the lumen of an conventional airway tube, such as an endotracheal tube.
Apparatus 10 further comprises conduit 15 having connector 16 for transferring data to a video monitor. Connector 16 may be selectively coupled to connector 17 to communicate with monitor 18 via conduit 19 having optional connectors 20. Monitor 18 may be a previously known video screen, television, or other known image display device. Preferably, the video signal output by apparatus 10 may be communicated directly to monitor 18 for real time observation of the insertion process, and without intermediate signal processing.
Conduit 15 preferably comprises a wire, cable, or other medium for transmitting electrical signals, whereas connector 16 or 17 may be an RCA jack, RCA plug, or similar apparatus that preferably allows rapid connection. It will be understood that the present invention is not limited to wired data transfer, but alternatively, the output signal may be provided to monitor 18 wirelessly using radio waves, infrared, microwaves, or other medium.
With respect to FIG. 1B, apparatus 10 includes imaging system 21 disposed within an interior space of apparatus 10 near distal end 12. Imaging system 21 preferably comprises a CMOS chip, and more preferably comprises a CMOS chip with analog output that can directly interface with video hardware, e.g., using a NTSC/PAL format. CMOS chips having direct analog output capability, e.g., using NTSC/PAL format, are commercially available, such as models OV7940 and OV7941 available through OmniVision Technologies, Inc., of Sunnyvale, California. Advantageously, outputting a direct analog signal obviates the need for intermediate circuitry to convert the digital image signals into analog image signals. In other embodiments, a chip of standard configuration may be utilized.」
( 図1を参照して、本発明の原則に従って構築される気道導入装置の一実施形態を説明する。装置10は、遠位端12および近位端13を有する細長い本体11を備える。細長い本体11は、湾曲状または弓状であり、任意で遠位端12の付近に配置される屈曲14を含む。細長い本体11は好ましくは、硬質重合体、金属、または金属合金などの比較的剛性の材料から形成され、装置10を経口で患者の気管内に挿入している間に遭遇することが予期される負荷を受けたときに、装置10がその形状を保持することを確実にする。あるいは、装置10は、挿入中に予め成形された湾曲が変化することを可能にする、ある程度の柔軟性を保持することができる。なお、屈曲14は好ましくは、屈曲上方での気道チューブの通過を可能にするように十分柔軟性がある。
装置30(当審注:「30」は「10」の誤記と認める。)は好ましくは、遠位端12と近位端13との間で約40cmの長さである。細長い本体11は、直径約4から8mmの実質的に円形の断面を有することができる。その他の実施形態では、細長い本体11は、非円形断面を有することができる。例えば、楕円形状は、一方向で柔軟性の増大を提供する一方で直交方向で柔軟性の低減を提供することができる。装置10は、気管内チューブなどの従来の気道チューブの内腔を通過することができるように、十分に幅が狭い外形を有するべきである。
装置10は、データをビデオモニタへ転送するためのコネクタ16を有する導管15をさらに備える。コネクタ16は、コネクタ17と選択的に結合し、オプションコネクタ20を有する導管19を介して、モニタ18と通信することができる。モニタ18は、既知のビデオ画面、テレビ、またはその他周知の画像表示機器であってよい。好ましくは、装置10によって出力されるビデオ信号は、挿入過程のリアルタイム観察のために、かつ中間信号処理なしで、モニタ18と直接通信することができる。
導管15は好ましくは、ワイヤ、ケーブル、または電気信号を伝達するためのその他の媒体を備えるが、コネクタ16または17は、RCAジャック、RCAプラグ、または好ましくは迅速な接続を可能にする同様の装置であってよい。本発明は有線データ転送に限定されないことが理解されるが、あるいは、出力信号は、電波、赤外線、マイクロ波、またはその他の媒体を使用して無線でモニタ18に提供することができる。
図1Bに関して、装置10は、遠位端12付近にある装置10の内部空間内に配置される画像化システム21を含む。画像化システム21は好ましくは、CMOSチップを備え、さらに好ましくは、例えばNTSC/PAL形式を使用して、ビデオハードウェアと直接連動することが可能であるアナログ出力を有するCMOSチップを備える。例えばNTSC/PALを使用する、直接アナログ出力能力を有するCMOSチップは市販されており、カリフォルニア州SunnyvaleのOmniVision Technologies,Inc.を通して入手可能なOV7940およびOV7941などのモデルがある。有利なことには、直接アナログ信号の出力は、デジタル画像信号をアナログ画像信号に変換するための中間回路の必要性をなくす。その他の実施形態では、標準構成のチップを利用することができる。)

(ウ)第10頁1?25行
「 In accordance with one aspect of the present invention, imaging system 21 has a reduced frontal profile that provides a reduced insertion profile for apparatus 10. In previously-known imaging systems, the driver circuitry for the video sensor is disposed adjacent to, and in the same plane as, the pixel array. In the video sensor of the present embodiment, however, pixel array 22 is disposed remote from array driver circuitry 23 and is in electrical communication with that device. Array driver circuitry 23 may include capacitors or other electronic components and may be disposed on a relatively rigid circuit board that extends in an asymmetric, elongated manner proximal to pixel array 22. More preferably, however, array driver circuitry 23 is disposed on a printed circuit board formed on a flexible polymeric material. Even more preferably, array driver circuitry 23 may be located some distance L from pixel array 22 and remains in communication with that component via appropriate conduits C. This arrangement may reduce the profile of the distal camera portion of the apparatus and allow the apparatus to more readily pass through the curvature of a surrounding airway tube. For example, distance L may be selected such that array driver circuitry 23 is located at or near proximal end 13, as shown in FIG. 1A.」
( 本発明の一側面に従って、画像化システム21は、装置10に対する縮小挿入外形を提供する、縮小正面外形を有する。既知の画像化システムでは、ビデオセンサ用の駆動回路は、ピクセル配列に隣接して、かつそれと同じ平面に配置される。しかし、本発明のビデオセンサでは、ピクセル配列22は、配列駆動回路23から遠くに配置され、その機器と電気通信している。配列駆動回路23は、コンデンサまたはその他の電子部品を含むことができ、ピクセル配列22に近接して非対象的に細長く延在する、比較的剛性の回路基板上に配置することができる。しかし、さらに好ましくは、配列駆動回路23は、軟質ポリマ材料上に形成されるプリント基板上に配置される。なおさらに好ましくは、配列駆動回路23は、ピクセル配列22からのある距離Lに位置することができ、適当な導管Cを介してその部品と通信したままとなる。この配置は、装置の遠位カメラ部の外形を縮小し、装置が周囲の気道チューブの湾曲を用意に通過することを可能にすることができる。例えば、距離Lは、図1Aに示されるように、配列駆動回路23が近位端13またはその付近に位置するように選択することができる。)

(エ)第13頁3?34行
「 By contrast, apparatus 10 of the present invention may be successfully employed by those having significantly less training or experience than anesthesiologists. Apparatus 10 may be activated and coupled to viewing screen 18. Upon activation, light source 27 illuminates and imaging system 21 begins to transmit signals. The health worker then inserts apparatus 10 into the patient's mouth and observes the path of insertion by watching monitor 18. The curvature of apparatus 10 and bend 14 are pre-formed to assist in directing distal tip 12 towards the trachea. Accordingly, the user will be able to observe the glottic opening displayed on monitor 18, and maneuver the apparatus 10 until its distal end passes through the laryngeal inlet and into the trachea.
Unlike previously-known bougies, apparatus 10 permits proper placement to be confirmed even when positioned in the midline of the tracheal lumen. Apparatus 10 may be momentarily disconnected to allow the endotracheal tube to be inserted around apparatus 10 and into the patient's trachea. Alternatively, apparatus 10 may be "preloaded" through the endotracheal tube, such that the endotracheal tube is positioned around conduit 15 or 19 as apparatus 10 is inserted into the patient. Moreover, apparatus 10 provides positive confirmation of proper placement in the trachea by displaying an image of the distal end of the endotracheal tube following insertion of the endotracheal tube over apparatus 10 and into the patient. In the event that the airway tube is improperly positioned, it may be repositioned under the guidance as need using the images provided by apparatus 10.」
( 対照的に、本発明の装置10は、麻酔医よりも著しく訓練または経験が少ない者によってうまく採用することができる。装置10は、作動させて表示画面18に結合することができる。作動時、光源27が照射し、画像化システム21が信号を伝達し始める。そして医療従事者は患者の口の中に装置10を挿入し、モニタ18を見ることによって挿入の進路を観察する。装置10の湾曲および屈曲14は、予め成形されており、遠位先端12を気管に対して向ける補助をする。従って、ユーザはモニタ18に表示される声門の開口を観察し、その遠位端が喉頭口を通過して気管内に進入するまで、装置10を操ることができる。
既知のブジーと異なり、装置10は、気管内腔の正中線に位置付けられた時でさえ、適切な配置を確定することを可能にする。装置10は、一時的に接続を断ち、気管内チューブが装置10の周囲そして患者の気管内に挿入されることを可能にする。あるいは、装置10は、装置10が患者に挿入されるとき、気管内チューブが導管15または19の周囲に位置付けられるように、気管内チューブを通して「あらかじめ装填する」ことができる。さらに、装置10は、装置10の上方および患者の体内に気管内チューブを挿入した後、気管内チューブの遠位端の画像を表示することによって、気管内の適切な配置の積極的確認を提供する。気道チューブが不適切に位置付けられた場合は、装置10によって提供される画像を使用して、必要時に応じてガイド下で再び位置付けることができる。)

(オ)FIG.1A(図1A)




(カ)FIG.1B(図1B)




(キ)上記摘記事項(オ)の図1Aには、細長い本体11の近位端13から導管15が延びていることが示されている。

イ 引用例1に記載された発明の認定

上記ア(ア)ないし(キ)を含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、

「 気管内チューブを患者の気管に導入するための気道導入装置であって、
遠位端12および近位端13を有する細長い本体11を備え、
挿入中に予め成形された湾曲が変化することを可能にする、ある程度の柔軟性を保持することができるものであり、
気管内チューブの内腔を通過することができるように、十分に幅が狭い外形を有し、
遠位端12付近にある内部空間内に配置される画像化システム21を含み、
データをビデオモニタへ転送するためのコネクタ16を有する導管15をさらに備え、導管15は近位端13から延びており、
コネクタ16は、コネクタ17と選択的に結合し、オプションコネクタ20を有する導管19を介して、モニタ18と通信することができ、
患者の口の中に気道導入装置を挿入し、モニタ18を見ることによって挿入の進路を観察し、一時的に接続を断ち、気管内チューブが気道導入装置の周囲そして患者の気管内に挿入されることを可能にする気道導入装置。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 当審において新たに引用する、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2002-17868号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、経内視鏡的に十二指腸乳頭から膵管に挿入されて留置される膵管用ドレナージチューブ及びこの膵管用ドレナージチューブを膵管内に挿入するための挿入具に関する。」

(イ)「【0005】一般に、胆管用ドレナージチューブは、プッシャビリティが要求されるため、その硬度が高い点に特徴がある(前述したように、ポリエチレン、フッ素樹脂、シリコーン、ポリウレタン等の材料によって形成されているが、フッ素樹脂のチューブは言うに及ばず、シリコーンチューブも温度によって硬度が変化せずに体温付近では硬いままであり、また、ポリエチレンも同様なものである。また、ポリウレタンに至っては、体液との長期接触によって加水分解等の化学変化を生じることも考えられ、膵管のように長期留置を行なうドレナージチューブとしては不向きである)。すなわち、一般の胆管用ドレナージチューブは、D型試験機を用いたそのショア硬さ(以下、ショアDという。)が60?80に設定されている。そのため、このような硬質のドレナージチューブを流用して柔軟な管壁を有する膵管に挿入する場合には、膵管壁を擦らないように慎重な操作が必要とされる。また、膵管は胆管と異なりS字状に大きく湾曲しているため、直線状で硬いドレナージチューブを膵管内に挿入すると、ドレナージチューブの先端部が膵管の管壁に押し当てられ、この先端部の開口が塞がれて膵液の排出機能が低下してしまう場合がある。また、湾曲している膵管に直線状のチューブを留置する結果となるため、患者が違和感を抱くことがある。さらに、膵管はそれ自体が伸縮活動を行なうため、硬くて直線状のドレナージチューブを膵管内に挿入すると、膵管の伸縮活動によってチューブが移動して十二指腸に脱落することもあり、留置状態を頻繁に確認するなど、使用には十分な注意が必要とされる。
【0006】一方、ドレナージチューブを柔らかい素材によって形成して湾曲する膵管に挿入した場合には、チューブの座屈が発生する虞がある。また、柔軟なドレナージチューブは、悪性腫瘍が原因とされる硬い狭窄部位への挿入が困難である。
【0007】以上のように、膵管への適用においては、胆管用ドレナージチューブよりも柔らかく、それでいて、十分なプッシャビリティを持つ適度な硬度のドレナージチューブが求められる。」

(ウ)「【0021】以上説明したように、本実施形態において、ドレナージチューブ1は、エチレン-酢酸ビニルの共重合体によって形成されるとともに、その硬さがショアDで48に設定されている。したがって、ドレナージチューブ1は、体温付近で更に潰れない程度に柔軟化して膵管Yの形状に合わせて屈曲(膵管Yの走向状態に適した形状に変形)できる。そのため、ドレナージチューブ1は、膵管Yに留置された状態でも患者に違和感を与えることがなく、また、膵管Yの中心軸方向に常に方向付けられながら挿入されるため、挿入中にその先端部が膵管Yの壁に押し当てられて先端開口が塞がることがなく、膵液のドレナージを確実に行なえる。また、ドレナージチューブ1は、適度な硬度を有するため、膵管Y内への挿入時に座屈してしまうこともない。無論、悪性腫瘍が原因とされる硬い狭窄部位への挿入も可能である。
【0022】なお、本実施形態では、ドレナージチューブ1の硬さがショアDで48に設定されているが、前述した効果を得るためには、ドレナージチューブ1を形成する樹脂の平均硬度がショアDで40?60の範囲に設定されていれば良い。ドレナージチューブ1の硬さがこの範囲を下回ると、ドレナージチューブは、十二指腸乳頭Xから膵管Yに挿入される際および膵管Y内の狭窄部に挿入される際に座屈を生じてしまう。そのため、狭窄部を越えて所望の部位まで到達できなかったり、留置できたとしても、留置中に内部ルーメンが潰れて膵液の排出機能が低下することになる。一方、ドレナージチューブ1の硬さがショアDで60を上回ると、膵管Y内への挿入時にドレナージチューブ1の先端部開口が膵管Yの管壁に押し当てられて塞がれ、膵液の排出機能が低下したり、あるいは、留置中に患者に違和感を与えてしまう。」

エ 当審において新たに引用する、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2008-167922号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア)「【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る化学検査装置1の一部断面図である。本発明の第1の実施の形態に係る化学検査装置1は、カテーテル用のチューブ10と、チューブ10の内腔10aに備えられたNOセンサー20と、NOセンサー20を保護する保護体30と、保護体30の先端に装着された挿入弾性体40と、NOセンサー20の配線120が接続されるケーブル50と、チューブ10とケーブル50とを接続する接続体60とを有して構成されている。
【0013】
チューブ10は、内腔10aを有して可撓性のある材質で円筒形状に形成されたもので、長さ、太さ、材質等は適宜調節されるものである。例えば、内径1.0mm、外径1.4mm、長さ約1600mmで、ショアD55?74硬度のポリアミドエラストマー又はポリアミド樹脂により形成される。」

(イ)「【0018】
保護体30は、ショアD55?74硬度のポリアミドエラストマー又はポリアミド樹脂からなる硬質材により形成されている。尚、保護体30は、チューブ10の一部として一体的に形成されたものであってもよく、また、チューブ10とは別体で形成されチューブ10に装着されるものでもよい。
【0019】
挿入弾性体40は、保護体30の先端に装着され、先端部が凸形状の曲面、例えば、R面または球面、半球面、釣鐘状に加工された形状を有している。挿入弾性体40は、保護体30と同素材の硬質材から形成されるが、保護体30またはチューブ10の一部として一体的に形成されたものであってもよく、また、保護体30またはチューブ10とは別体で形成され保護体30に装着されるものでもよい。」

(3)本願補正発明と引用発明との対比

ア 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)
a 引用発明の「細長い本体11」、「遠位端12」、「画像化システム21」及び「気道導入装置」は、それぞれ本願補正発明の「細長いロッド」、「患者側端」、「ビデオカメラ」及び「医療外科用導入器具」に相当する。

b 引用発明は「細長い本体11」の「遠位端12付近にある内部空間内に配置される画像化システム21」で得た「データをビデオモニタへ転送するためのコネクタ16を有する導管15をさらに備え、導管15は近位端13からが延びて」いるものであるから、引用発明が「画像化システム21」で得た「データ」を「コネクタ16」に伝送するために「細長い本体11」に沿って延びる電気配線を有していることは明らかであり、当該電気配線が本願補正発明の「可撓性電気ケーブル」に相当する。

c 以上のことから、引用発明の「遠位端12および近位端13を有する細長い本体11を備え」、「遠位端12付近にある内部空間内に配置される画像化システム21を含み」、「導管15」が「近位端13から延びて」いる「気道導入装置」は、本願補正発明の「細長いロッド、前記ロッドの患者側端にマウントされたビデオカメラ及び前記ロッドに沿って延びる可撓性電気ケーブルを有する医療外科用導入器具」に相当する。

(イ)
a 引用発明の「近位端13」及び「コネクタ16」は、それぞれ本願補正発明の「機械側端」及び「電気的コネクタ」に相当する。

b よって、上記(ア)bも踏まえると、引用発明の「気道導入装置」は、「細長い本体11」の「近位端13から延び」、「コネクタ16を有する導管15をさらに備え」ていることと、本願補正発明の「前記器具は、前記ロッドの機械側端にマウントされて固定され、前記電気ケーブルに電気的に接続された電気的コネクタを有」することとは、「前記器具は、前記ロッドの機械側端に設けられ、前記電気ケーブルに電気的に接続された電気的コネクタを有」することである点において共通する。

(ウ)
a 引用発明の「モニタ18」、「導管19」及び「コネクタ17」は、それぞれ本願補正発明の「視覚的ディスプレイ」、「ケーブル」及び「対応コネクタ」に相当する。

b よって、引用発明の「画像化システム21」で得た「データをビデオモニタへ転送するためのコネクタ16」は、「コネクタ17と選択的に結合し」、「導管19を介して、モニタ18と通信することができ」ることは、本願補正発明の「前記電気的コネクタは、前記カメラの視野の視覚的ディスプレイを提供するように構成されたディスプレイユニットとケーブルを介して接続された対応コネクタと接続できるように適合されて」いることに相当する。

(エ)
a 引用発明の「気管内チューブ」は、本願補正発明の「医療外科用チューブ」に相当する。

b 引用発明の「気道導入装置」は、「気管内チューブの内腔を通過することができるように、十分に幅が狭い外形を有し」、「一時的に」「コネクタ16」と「コネクタ17」との「接続を断ち、気管内チューブが気道導入装置の周囲そして患者の気管内に挿入されることを可能にする」ものであることから、引用発明の「コネクタ16」の横寸法は、コネクタ17を外した後にコネクタ16を超えて細長い本体11に沿わせるように気管内チューブを被せることのできるものであるといえる。

c 以上のことから、引用発明の「気道導入装置」は、「気管内チューブの内腔を通過することができるように、十分に幅が狭い外形を有し」、「一時的に」「コネクタ16」と「コネクタ17」との「接続を断ち、気管内チューブが気道導入装置の周囲そして患者の気管内に挿入されることを可能にする」ことは、本願補正発明の「前記コネクタの横寸法は、前記対応コネクタを外した後に前記電気的コネクタを超えて前記ロッドに沿わせるように医療外科用チューブを被せることのできるものとされて」いることに相当する。

(オ)
a 引用発明の「気道導入装置」は、「挿入中に予め成形された湾曲が変化することを可能にする、ある程度の柔軟性を保持することができるものであ」るから、その「細長い本体11」は、可撓性の材料からなり、挿入時に保持されることとなる形状へと湾曲可能であるといえる。

b よって、引用発明の「気道導入装置」は、「挿入中に予め成形された湾曲が変化することを可能にする、ある程度の柔軟性を保持することができるものであ」ることは、本願補正発明の「前記ロッドは、可撓性の材料からなり、挿入時に保持されることとなる形状へと湾曲可能であ」ることに相当する。

イ 一致点及び相違点

よって、本願補正発明と引用発明とは、

「 細長いロッド、前記ロッドの患者側端にマウントされたビデオカメラ及び前記ロッドに沿って延びる可撓性電気ケーブルを有する医療外科用導入器具であって、
前記器具は、前記ロッドの機械側端に設けられ、前記電気ケーブルに電気的に接続された電気的コネクタを有し、
前記電気的コネクタは、前記カメラの視野の視覚的ディスプレイを提供するように構成されたディスプレイユニットとケーブルを介して接続された対応コネクタと接続できるように適合されており、
前記ロッド上の前記コネクタの横寸法は、前記対応コネクタを外した後に前記電気的コネクタを超えて前記ロッドに沿わせるように医療外科用チューブを被せることのできるものとされており、
前記ロッドは、可撓性の材料からなり、挿入時に保持されることとなる形状へと湾曲可能である、
医療外科用導入器具。」

の発明である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
細長いロッドの機械側端に設けられた電気的コネクタが、本願補正発明は、「細長いロッドの機械側端にマウントされて固定され」ているのに対し、引用発明は、細長い本体11(ロッド)の近位端13(機械側端)から延びる導管15に設けられている点。

(相違点2)
細長いロッドが、本願補正発明においては、「60ショアDの硬度を有する」のに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。

(4)当審の判断

ア 上記各相違点について検討する。

(ア)相違点1について

上記相違点1は、細長いロッドの機械側端に電気的コネクタを直接固定するか、電気ケーブルを介して電気的コネクタを固定するかの相違を意味するものである。

医療用内視鏡の技術分野において、挿入部の機械側端に電気的コネクタを直接固定することは、例を示すまでもなく本願優先権主張日前において周知であり、挿入部の機械側端に電気的コネクタを直接固定するか、電気ケーブルを介して電気的コネクタを固定するかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計事項である。
そして、例えば、特表2009-506832号公報に記載されているように、引用発明と同様に気管内チューブを導入するための装置であるスタイレットにおいても採用されている構成である。

してみると、引用発明において、細長い本体11の近位端13にコネクタ16を直接固定し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について

引用例2には、上記(2)ウに摘記したように、一般の胆管用ドレナージチューブのショアD硬度が60?80に設定されていること、ドレナージチューブを柔らかい素材によって形成して湾曲する膵管に挿入した場合には、チューブの座屈が発生する虞があること、柔軟なドレナージチューブは、硬い狭窄部位への挿入が困難であること、膵管用ドレナージチューブを形成する樹脂の平均硬度がショアDで40?60の範囲に設定されていれば良いことが記載されている。

また、引用例3には、上記(2)エに摘記したように、カテーテル用のチューブ等をショアD55?74硬度のポリアミドエラストマー又はポリアミド樹脂により形成することが記載されている。

引用例2に接した当業者であれば、人体内の管部に挿入する医療器具を形成する場合、当該医療器具の使用箇所に応じて、挿入の容易性等を考慮して医療器具のショアD硬度を設定する必要性があると理解するものといえる。
そして、喉頭口を通過して気管内に進入する(上記(2)の摘記事項ア(エ)参照)引用発明においても、挿入の容易性等を考慮してショアD硬度を設定することは、内在する課題であるといえる。

さらに、引用例2及び3を参照するに、60ショアD硬度は、人体内等の管部に挿入する医療器具の硬度として普通に用いられている範囲の硬度にすぎない。

してみると、引用発明において、細長い本体11を60ショアDの硬度を有するものとして上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果

本願明細書の発明の詳細な説明には、細長いロッドを60ショアDの硬度とすることにより得られる効果に関する記載はなく、細長いロッドを他の硬度とした場合と比較して顕著な効果又は新たな効果を奏するものとは認められない。
よって、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2及び3の記載事項、並びに周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ

以上のとおりであり、本願補正発明は、引用発明、引用例2及び3の記載事項、並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(5)補正の却下の決定のむすび

したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成26年6月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年11月20日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2[理由]1の記載参照。)

2 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項及び引用発明については、上記第2[理由]2の(2)引用例に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明から、「前記ロッド(10)は、可撓性の材料からなり、挿入時に保持されることとなる形状へと湾曲可能であり、60ショアDの硬度を有する」との限定事項を削除したものに相当する。

よって、本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2[理由]2(3)の「ア 対比」において記載したのと同様の対比の手法及び結果により、本願発明と引用発明とは、
「 細長いロッド、前記ロッドの患者側端にマウントされたビデオカメラ及び前記ロッドに沿って延びる可撓性電気ケーブルを有する医療外科用導入器具であって、
前記器具は、前記ロッドの機械側端に設けられ、前記電気ケーブルに電気的に接続された電気的コネクタを有し、
前記電気的コネクタは、前記カメラの視野の視覚的ディスプレイを提供するように構成されたディスプレイユニットとケーブルを介して接続された対応コネクタと接続できるように適合されており、
前記ロッド上の前記コネクタの横寸法は、前記対応コネクタを外した後に前記電気的コネクタを超えて前記ロッドに沿わせるように医療外科用チューブを被せることのできるものとされている、
医療外科用導入器具。」
の発明である点において一致し、実質的に上記第2[理由]2(3)の「イ 一致点及び相違点」における「(相違点1)」に相当する1つの相違点(すなわち、上記相違点1において「本願補正発明」を「本願発明」と置き換えたもの)においてのみ相違する。

そして、上記相違点1については、上記第2[理由]2(4)アの「(ア)相違点1について」で検討したとおりであり、また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものであることから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-09 
結審通知日 2015-07-14 
審決日 2015-07-29 
出願番号 特願2012-512445(P2012-512445)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石原 徹弥大塚 裕一濱本 禎広  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 渡戸 正義
麻生 哲朗
発明の名称 医療外科用器具  
代理人 杉村 憲司  
代理人 伊藤 怜愛  

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