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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1308763
審判番号 不服2014-14192  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-22 
確定日 2015-12-17 
事件の表示 特願2012- 13127「潰瘍性大腸炎治療薬」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月26日出願公開、特開2012- 82225〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年6月7日を出願日とする特願2001-172189号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成24年1月25日に新たな特許出願としたものであって、平成25年9月18日付けで拒絶理由が通知され、同年12月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年4月11日付けで拒絶査定がなされたものである。
これに対し、平成26年7月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月12日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年10月15日に審査官により前置報告書が作成された。

第2.補正却下の決定

[結論]
平成26年7月22日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成26年7月22日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲について本件手続補正前に

「【請求項1】
潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤として、テトラサイクリン、メトロニダゾール、ペニシリン、アンピシリン、アモキシシリン、イミペネム、またはホスホマイシンを含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物。
【請求項2】
潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤として、テトラサイクリン、メトロニダゾール、またはペニシリンを含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物。
【請求項3】
潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤として、テトラサイクリンを含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物。」

とあったものを

「 【請求項1】
潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤として、テトラサイクリン、メトロニダゾールおよびアモキシシリンを含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物。
【請求項2】
潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤として、テトラサイクリンを含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物。」

に補正するものであって、以下の補正事項を含むものである。

(1)
本件手続補正前の請求項1について「テトラサイクリン、メトロニダゾール、ペニシリン、アンピシリン、アモキシシリン、イミペネム、またはホスホマイシンを含有する」を「テトラサイクリン、メトロニダゾールおよびアモキシシリンを含有する」に変更する補正事項(以下、「補正事項1」という。)
(2)
本件手続補正前の請求項2を削除する補正事項(以下、「補正事項2」という。)
(3)
補正事項2にともなって、本件手続補正前の請求項3を本件補正後の請求項2に変更する補正事項(以下、「補正事項3」という。)

を含むものである。

2.新規事項について
補正事項1について検討する。
本件出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書」という。)には、以下の記載がある。

「すなわち、本発明は、フソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤を含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物を提供する。」(段落【0004】)
「この知見から、この細菌が選択的に死滅する薬剤、すなわち抗菌剤を投与し、病変粘膜から除菌すれば、潰瘍性大腸炎の治癒が可能である。具体的には、フソバクテリウムバリウムに高い感受性のある抗菌剤、例えば、テトラサイクリン、ペニシリン、MNZ、イミペネム、アモキシシリン、セフメタゾール、アンピシリン、ホスホマイシン、クロラムフェニコールが使用できる。」(段落【0007】)
「本発明の潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物は、フソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤、フソバクテリウムバリウムが産生する毒素を中和する薬剤を、フソバクテリウムバリウムの腸粘膜への接着を阻害する薬剤又はフソバクテリウムバリウムの腸管内から腸粘膜への侵入を阻害する薬剤を、そのままあるいは各種の添加剤とともに投与することができる。」(段落【0011】)
「実施例2
フソバクテリウムバリウムの抗菌薬に対する感受性試験を行った結果、テトラサイクリン>ペニシリン>MNZ>イミペネム>アモキシシリン、セフメタゾール、アンピシリン、ホスホマイシン、クロラムフェニコールの順で感受性があったが、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシンに対しては耐性であった。」(段落【0014】)

したがって、当初明細書には、「テトラサイクリン」、「メトロニダゾール」、「アモキシシリン」のそれぞれがその他の薬剤とともに「フソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤」として例示されているだけであって、「テトラサイクリン、メトロニダゾールおよびアモキシシリンを含有する」組成物は、記載されていない。
また、テトラサイクリン、メトロニダゾールおよびアモキシシリンの3者をいずれもを含有することに関連があるといえる記載、例えば、「フソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤」の具体的な使用態様に関する一般的な記載や、複数の薬剤を組み合わせて使用した具体例(実施例)の記載もない。
さらに、当初明細書の記載から自明な事項であるとも認められない。

なお、補正事項1に関し、審判請求人は、手続補正書(方式)において、「請求項1において、ペニシリン、アンピシリン、イミペネムおよびホスホマイシンを削除するとともに、旧請求項2を削除致しました。」(2頁24-25行)と説明しているが、補正事項1は、ペニシリン、アンピシリン、イミペネムおよびホスホマイシンの削除に加えて「または」を「および」に変更する補正も含んでいるから、主張は、手続補正書による手続補正の内容と整合していない。

以上のとおりであるから、補正事項1を含む本件手続補正は、当初明細書に記載された事項の範囲内でしたものであるとは認められず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満足しないので、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3.本願発明について
1.本願発明
上記「第2.」に記載したとおり、平成26年7月22日提出の手続補正書による手続補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成25年12月18日提出の手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウムを選択的に死滅させる薬剤として、テトラサイクリン、メトロニダゾール、ペニシリン、アンピシリン、アモキシシリン、イミペネム、またはホスホマイシンを含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成25年9月18日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由の概要は、この出願に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、刊行物として以下の引用文献1ないし6を引用するものである。

引用文献1
大草敏史 他, 潰瘍性大腸炎患者の病変粘膜より分離されたFusobacterium variumの病原性, 日本消化器病学会雑誌, 2000, Vol.97, p.A619
引用文献2
COURCOL,R.J. et al, IN-VITRO SUSCEPTIBILITIES OF BACTEROIDES-GRACILIS FUSOBACTERIUM-MORTIFERUM AND FUSOBACTERIUM-VARIUM TO 17 ANTIMICROBIAL AGENTS, Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 1990, Vol.26, No.1, p.157-158
引用文献3
GEORGE,W.L. et al, GRAM NEGATIVE ANAEROBIC BACILLI THEIR ROLE IN INFECTION AND PATTERNS OF SUSCEPTIBILITY TO ANTI MICROBIAL AGENTS 2. LITTLE KNOWN FUSOBACTERIUM SPECIES AND MISCELLANEOUS GENERA, Reviews of Infectious Diseases, 1981, Vol.3, No.3, p.599-626
引用文献4
LUBBE,M.M. et al, Comparative activity of eighteen antimicrobial agents against anaerobic bacteria isolated in South Africa, European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases, 1999, Vol.18, No.1, p.46-54
引用文献5
HOELLMAN,D.B. et al, Comparative antianaerobic activity of BMS 284756, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 2001 Feb, Vol.45, No.2, p.589-592
引用文献6
BENNETT,K.W. et al, Identification of fusobacteria in a routine diagnostic laboratory, J Appl Bacteriol, 1985, Vol.59, No.2, p.171-81

3.当審の判断
(1)引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である大草敏史 他, 潰瘍性大腸炎患者の病変粘膜より分離されたFusobacterium variumの病原性, 日本消化器病学会雑誌, 2000, Vol.97, p.A619(以下、「引用文献1」という。)の左下欄の本文には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審による。

(a)
「【目的】潰瘍性大腸炎(UC)の病変粘膜から分離されたFusobacterium variumがVero細胞に対し毒性を示した」(1-2行)
(b)
「【方法】1)10例のUC患者の病変粘膜から生検組織を採取してホモジュネートし,培養し,菌を分離同定した。2)分離菌種について培養上清を採取し,Vero細胞に添加して,細胞毒性の有無を検討した」(3-5行)
(c)
「5)Vero細胞毒性を示した菌株の培養上清について,HPLCにより,有機酸分析を行い,上清中の有機酸分画のVero細胞毒性を検討した」(8-10行)
(d)
「6)Vero細胞毒性を示した菌株の培養上清と有機酸分画をマウスに注腸して,大腸潰瘍ができるかを検討した」(10-12行)
(e)
「【結果】1)UC患者の病変粘膜培養にて,総計で20菌種が分離培養された.F.varium,Bacteroides distasonis,Bacteroides vulgatusの3菌種においては50%以上の症例において検出可能であった」(12-14行)
(f)
「20菌種のうち,Vero細胞毒性を示したのは,F.variumのみであった」(14-15行)
(g)
「5)分析された菌株の培養上清中の有機酸のうち,Vero細胞毒性を示したのは酪酸(32mM)であった」(17-19行)
(h)
「6)F.variumの培養上清および酪酸(32mM,pH3.2)を注腸したマウスで大腸にびまん性,あるいは局在性のびらんが認められた」(19-20行)
(j)
「【結論】潰瘍性大腸炎患者の大腸粘膜から分離されたF.variumは酪酸を産生した。その酪酸は,Vero細胞毒性を示し,その注腸により大腸潰瘍ができたことから,F.variumが潰瘍性大腸炎の病原菌の一つである可能性が示唆された。」(20-23行)

原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物であるGEORGE,W.L. et al, GRAM NEGATIVE ANAEROBIC BACILLI THEIR ROLE IN INFECTION AND PATTERNS OF SUSCEPTIBILITY TO ANTI MICROBIAL AGENTS 2. LITTLE KNOWN FUSOBACTERIUM SPECIES AND MISCELLANEOUS GENERA, Reviews of Infectious Diseases, 1981, Vol.3, No.3, p.599-626(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(k)




」(当審注:一番の右の列に「F.varium」(フソバクテリウムバリウム)の「Antimicrobial breakpoint(mg/l)」(抗菌剤の有効濃度)が「Metronidazole」(メトロニダゾール)に対して「0.25-1」であることが記載されている。)

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「潰瘍性大腸炎」(以下、「UC」と記載する。)について、「UC患者の病変粘膜から総計で20菌種が分離培養された」こと(摘示(e))、「UCの病変粘膜から分離されたFusobacterium variumがVero細胞に対し毒性を示したこと」(摘示(a))、「20菌種のうちF.variumのみがVero細胞毒性を示したこと」(摘示(f))、「分析された菌株の培養上清中の有機酸のうち,Vero細胞毒性を示したのは酪酸(32mM)であったこと」(摘示(g))、「F.variumの培養上清および酪酸を注腸したマウスで大腸にびまん性,あるいは局在性のびらんが認められたこと」(摘示(h))、「F.variumが潰瘍性大腸炎の病原菌の一つである可能性が示唆された」(摘示(j))ことが記載されている。

潰瘍性大腸炎の病原菌である「Fusobacterium varium」は、潰瘍性大腸炎患者の病変粘膜から分離培養されたものであるから、潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在していたことが明らかである。
したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するFusobacterium varium。」

(3)対比、判断
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウム」に係る発明である点で一致する。

また、本願発明は、「潰瘍性大腸炎患者の大腸に存在するフソバクテリウムバリウム」について、「これを選択的に死滅させる薬剤として、テトラサイクリン、メトロニダゾール、ペニシリン、アンピシリン、アモキシシリン、イミペネム、またはホスホマイシンを含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎治療用医薬組成物」との限定を有するのに対し、引用発明は、そのような限定を有していない点で相違する。

引用文献1には、「F.variumが潰瘍性大腸炎の病原菌の一つである可能性が示唆された」(摘示(j))ことが記載されている。
また、疾病の原因となっている病原菌を選択的に殺す薬剤を含有する組成物が、当該疾病の治療用の医薬組成物となりうること(例えば、Pmentel M, "Eradication of small intestinal bacterial overgrowth reduced symptoms of Iirritable bowel syndrome" Am J Gastroentrrol 95:3503-3506,2000 , 相楽裕子、内科治療のグローバルスタンダードI感染症3腸管感染症(細菌性赤痢・腸管出血性大腸菌)、「臨床医」,2000年5月31日・第26巻増刊号755-758頁)は、本願発明が属する技術分野における技術常識であると認められる。
さらに、引用文献2には、メトロニダゾールが、濃度が0.25-1mg/l以上でフソバクテリウムバリウムに対する抗菌剤として有効であること(摘示(k))が記載されている
そうすると、引用発明1において疾病の原因となっている病原菌を選択的に殺す薬剤を含有する組成物を調製して当該疾病の治療用の医薬組成物とすることを着想するとともに、「薬剤」として「メトロニダゾール」を採用する程度のことは、本願発明が属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば容易になし得ることである。
また、本願発明に関し、実際に薬剤を患者に投与して治療を行って得たデータや、潰瘍性大腸炎のモデル動物の治療を行ったデータなどが一切記載されていないなど、「薬剤」を「メトロニダゾール」に限定したことによりそうでない場合と比較して当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されていると認められるような事情は何も見いだせない。

(4)まとめ
よって、本願発明は、引用文献1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、仮に本件補正に関し、審判請求人が手続補正書(方式)において、「請求項1において、ペニシリン、アンピシリン、イミペネムおよびホスホマイシンを削除するとともに、旧請求項2を削除致しました。」(2頁24-25行)と説明しているとおりに本件補正がなされていたとしても、そのような補正後の発明は、「薬剤」が「メトロニダゾール」である場合を含むものであり、そのような場合については、引用文献1および2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であることは、上記したとおりである。


第4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-14 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-05 
出願番号 特願2012-13127(P2012-13127)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉江 渉関 景輔  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 安藤 倫世
蔵野 雅昭
発明の名称 潰瘍性大腸炎治療薬  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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