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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G08B
管理番号 1308779
審判番号 不服2015-2729  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-12 
確定日 2015-12-17 
事件の表示 特願2010-236755「無線式センサシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年5月10日出願公開、特開2012-89026〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年10月21日の出願であって、平成26年10月7日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年11月11日)、これに対し、平成27年2月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 平成27年2月12日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成27年2月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の請求項1に、
「【請求項1】
親機と、センサ機能を有する複数の子機と、前記親機と前記子機との無線通信を中継する1乃至複数の中継機とを有し、前記親機から所定のメッセージを含む無線信号が送信され、当該無線信号が前記中継機で順番に中継されるとともに、当該メッセージに対する応答メッセージを含む無線信号が前記子機から順番に返信され、当該無線信号を受信した前記中継機が前記応答メッセージを一括して前記親機に中継することを特徴とする無線式センサシステム。」
とあったものを、

「【請求項1】
親機と、センサ機能を有する複数の子機と、前記親機と前記子機との無線通信を中継する1乃至複数の中継機とを有し、前記親機から所定のメッセージを含む無線信号が送信され、当該無線信号が前記中継機で順番に中継されるとともに、当該メッセージに対する応答メッセージを含む無線信号が前記子機から順番に返信され、当該無線信号を受信した前記中継機が前記応答メッセージを一括して前記親機に中継し、
前記中継機は、前記親機から送信された前記無線信号を受信した場合、当該無線信号に含まれる前記メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で送信した後、前記子機から送信される前記無線信号を受信すれば、当該無線信号に含まれる前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で送信し、
前記子機は、前記親機又は前記中継機から送信された前記無線信号を受信すると、前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で前記親機または中継機に送信することを特徴とする無線式センサシステム。」
と補正(下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)することを含むものである。

上記補正は、発明を特定するために必要な事項である「中継機」及び「子機」について「前記中継機は、前記親機から送信された前記無線信号を受信した場合、当該無線信号に含まれる前記メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で送信した後、前記子機から送信される前記無線信号を受信すれば、当該無線信号に含まれる前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で送信し、前記子機は、前記親機又は前記中継機から送信された前記無線信号を受信すると、前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で前記親機または中継機に送信する」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2010-9231号公報(以下「刊行物」という。)には、「火災警報システム」に関して、図面(特に、図1、図2、図4及び図5参照。)と共に次の事項が記載されている。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(省略)このような場合、通常は、親局と直接無線通信のできない子局との間で無線信号を中継する中継器が設置される。
【0005】
しかしながら、中継対象の火災感知器が複数存在する場合、火災を感知した何れかの中継対象の火災警報器が送信した無線信号が中継器で中継されて特定の火災警報器で受信された後、特定の火災警報器が送信する無線信号が中継器で中継されて他の中継対象の火災感知器で受信されるまで当該他の中継対象の火災感知器が連動しないことになって連動するまでの時間が長くなってしまう虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、中継器を利用して火災警報器の設置範囲を拡大しつつ火災発生時には火災警報器を速やかに連動させることができる火災警報システムを提供することにある。」

イ 「【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
図1は本実施形態のシステム構成図であり、複数台(図示例では6台)の火災警報器TRと1台の中継器RYとで火災警報システムが構成されている。なお、以下の説明では、火災警報器TRを個別に示す場合は火災警報器TR1,TR2,…,TRnと表記し、総括して示す場合は火災警報器TRと表記する。
【0014】
火災警報器TRは、図2(a)に示すようにアンテナ3から電波を媒体とした無線信号を送信するとともに他の火災警報器TR又は中継器RYが送信した無線信号をアンテナ3で受信する無線送受信部2と、音(ブザー音や音声メッセージなど)による火災警報(以下、「警報音」と呼ぶ。)を報知(スピーカから鳴動)する警報部5と、マイコンを主構成要素とし火災感知部4で火災を感知したときに警報部5に警報音を鳴動させるとともに他の火災警報器TRに対して火災警報を報知させるための火災警報メッセージを含む無線信号を無線送受信部2より送信させる制御部1と、後述するように警報音の鳴動を停止するための操作入力などを受け付ける操作入力受付部6と、乾電池等の電池を電源として各部に動作電源を供給する電池電源部7とを具備している。(省略)」

ウ 「【0020】
また親局TR1の制御部1は、火災感知部4が火災を感知して警報部5から警報音を鳴動させるとともに各子局TR2,…に火災警報メッセージを送信した後、若しくは何れかの子局TR2,…から火災警報メッセージを受信した後においては、無線送信部2に一定周期で同期信号(第1同期信号)B1を送信させる。この第1同期信号B1は、複数の火災警報器TR同士でTDMA(時分割多元接続)方式の無線通信を行うために必要なタイムスロットを規定する信号であって、その1周期(1サイクル)が複数のタイムスロットTS1,TS2,…,TSnに分割され、全ての子局TR2,…並びに中継器RYにそれぞれ互いに異なるタイムスロットTS1,TS2,…,TSnが1つずつ割り当てられる。そして、親局TR1から子局TR2,…へのメッセージは第1同期信号B1に含めて送信され、子局TR2,…から親局TR1へのメッセージを含む無線信号は、各子局TR2,…及び中継器RYに割り当てられているタイムスロットTSm(m=1?n)に格納されて送信される。故に、複数台の火災警報器TR(親局TR1並びに子局TR2,…)及び中継器RYから送信される無線信号の衝突を確実に回避することができる。なお、各火災警報器TR並びに中継器RYに対するタイムスロットTSmの割当は、後述する親局TR1への子局TR2,…及び中継器RYの登録時に行われる。」

エ 「【0022】
ここで本実施形態においては、図1に示すように5台の子局TR2?TR6のうちで3台の子局TR2?TR4は親局TR1と直接無線通信することが可能な場所に設置されており、残り2台の子局TR5,TR6が親局TR1と直接無線通信することができない場所に設置されているため、当該2台の子局TR5,TR6と親局TR1との無線通信を中継器RYで中継している。以下では、親局TR1並びに親局TR1と直接無線通信可能な子局TR2?TR4が所属するグループをメイングループMGと呼び、中継器RY並びに中継対象の子局TR5,TR6が所属するグループをサブグループSGと呼ぶことにする。中継器RYはメイングループMGとサブグループSGの双方に所属しており、メイングループMG内では子局のように振る舞い、サブグループSG内では親局のように振る舞う。」

オ 「【0026】
次に、図5のタイムチャートを参照して、TDMA方式の無線通信に移行する際の本実施形態の送受信動作を説明する。」

カ 「【0035】
そして、親局TR1の制御部1は、中継器RYから前記応答メッセージを受け取れば、タイムスロットを規定するための第1同期信号B1を一定の周期で無線送受信部2から送信させる。尚、本実施形態では、後述するように先頭のタイムスロットTS1と2番目のタイムスロットTS2を中継器RYに割り当てている。
【0036】
ここで、親局TR1(並びに中継器RY)は各子局TR2?TR6に対して定期監視を行っており、親局TR1(並びに中継器RY)と各子局TR2?TR6との間では通信パスの正常性が確認されているが、子局TR2?TR6間の通信パスは確認されていない。したがって、子局TR2,…が多数配置された場合、子局TR2,…間の通信パスの数は非常に多くなる為、子局TR2,…間の通信パスの正常性の確認を行うと電池消耗が激しくなるので、上述のように特定の火災警報器TR1を親局とし、その他の火災警報器TR2,…を子局として親局TR1から各子局TR2,…に火災警報メッセージやその他のメッセージ(後述する)を通知することで相互に通信パスが確立できない子局が存在する場合でも確実に火災連動させることができるものである。
【0037】
一方、中継器RYの中継器制御部10は、親局TR1から送信される第1同期信号B1を受信すると、図4に示すように第1同期信号B1で規定される先頭のタイムスロットTS1に第2同期信号B2を格納して無線送受信部11より送信させる。ここで、第2同期信号B2は第1同期信号B1と同一周期を有しており、第2同期信号B2で規定される複数のタイムスロットと第1同期信号B1で規定される複数のタイムスロットTSnとが同期している。さらに、メイングループMGに所属する子局TR2?TR4とサブグループSGに所属する子局TR5,TR6に対して、それぞれ異なるタイムスロットTSが割り当てられており、メイングループMGとサブグループSGを含むシステム全体でTDMA方式の同期通信を行うことができる。
【0038】
また、全ての火災警報器TRが警報音を鳴動することにより連動が開始されると、上述のように親局TR1から一定周期で第1同期信号B1が送信されてTDMA方式の通信に移行するのであるが、親局TR1の制御部1では、第1同期信号B1に含めることで火災警報メッセージを一定周期で全ての子局TR2,…に繰り返し送信している。そして、各子局TR2,…の制御部1では、親局TR1から送信される火災警報メッセージを受け取る度に警報部5の状態を確認し、仮に警報部5が停止していたとしたら警報部5に再度警報音を鳴動させる。したがって、全ての火災警報器TRで火災警報が報知され始めてからは特定の火災警報器(親局)TR1が送信する第1同期信号B1によって規定される複数のタイムスロットに他の全ての火災警報器(子局)TR2,…を割り当てて時分割多元接続(TDMA)による無線通信を行うことで衝突を回避することができ、さらに、特定の火災警報器(親局)TR1から他の全ての火災警報器(子局)TR2,…に対して火災警報メッセージを第1同期信号B1に含めて周期的に送信することで確実に火災警報を報知することができる。その結果、無線信号の衝突を回避しつつ複数の火災警報器TRを効果的に連動させることができる。
【0039】
ここで、中継器RYには2つのタイムスロットTS1,TS2が割り当てられており、中継器制御部10は先頭のタイムスロットTS1で第2同期信号B2を無線送受信部11に送信させ、2番目のタイムスロットTS2で親局TR1に対するメッセージを含む無線信号を無線送受信部11に送信させている。そして、中継器制御部10では、親局TR1から繰り返し送信される火災警報メッセージを受信している間、先頭のタイムスロットTS1で送信する第2同期信号B2に火災警報メッセージを含めることでサブグループSGに所属する子局TR5,TR6に前記火災警報メッセージを中継している。従って、メイングループMGに所属する子局TR2?TR4だけでなく、サブグループSGに所属する子局TR5,TR6にも火災警報メッセージが周期的に送信されることで確実に火災警報を報知することができる。」

キ 「【0044】
一方、図7のタイムチャートに示すように、警報音停止時間内に火災が鎮火して火災感知部4が火災を検出しなくなっていれば、親局TR1の制御部1は警報音停止時間が経過したのちに第1同期信号B1によって各子局TR2,…に復旧通知メッセージを送信し、全ての子局TR2,…から返信されるACKを受け取った時点で連動停止状態から待機状態に遷移し、第1同期信号B1の送信を停止することでTDMA方式による無線通信(同期通信)から間欠送信・間欠受信による無線通信(以下、「非同期通信」と呼ぶ。)に戻る。」

ク 「【0071】
而して、中継器RYの中継器制御部10は、同期通信において、第1同期信号B1で親局TR1から受け取ったメッセージ(警報停止メッセージなど)を含む第2同期信号B2を先頭のタイムスロットTS1に格納してサブグループSGの子局TR5,TR6へ送信するとともに、サブグループSGの子局TR5,TR6から受け取ったメッセージ(警報停止メッセージや復旧通知メッセージなど)を含む無線信号を2番目のタイムスロットTS2に格納して親局TR1へ送信する。このように中継器RYから無線信号が送信される期間(タイムスロットTS1,TS2)が連続しているので、法規によって規定された送信期間と休止期間の条件を満足させることができる。(省略)」

ケ 上記ウの「親局TR1の制御部1は、・・・無線送信部2に一定周期で同期信号(第1同期信号)B1を送信させる。・・・そして、親局TR1から子局TR2,…へのメッセージは第1同期信号B1に含めて送信され」(段落【0020】)との記載及び上記クの「中継器RYの中継器制御部10は、同期通信において、第1同期信号B1で親局TR1から受け取ったメッセージ(警報停止メッセージなど)を含む第2同期信号B2を先頭のタイムスロットTS1に格納してサブグループSGの子局TR5,TR6へ送信する」(段落【0071】)との記載からみて、中継器RYは第1同期信号B1で親局TR1から受け取ったメッセージを含む第2同期信号B2を子局TR5,TR6へ送信するから、親局TR1から所定のメッセージを含む第1同期信号B1が送信され、当該第1同期信号B1が中継器RYで中継されるといえる。

コ 上記ウの「全ての子局TR2,…並びに中継器RYにそれぞれ互いに異なるタイムスロットTS1,TS2,…,TSnが1つずつ割り当てられる。そして、親局TR1から子局TR2,…へのメッセージは第1同期信号B1に含めて送信され、子局TR2,…から親局TR1へのメッセージを含む無線信号は、各子局TR2,…及び中継器RYに割り当てられているタイムスロットTSm(m=1?n)に格納されて送信される。」(段落【0020】)との記載からみて、子局TR2?TR6及び中継器RYにそれぞれ異なるタイムスロットTSが割り当てられ、子局TR2?TR6及び中継器RYは、当該タイムスロットTSにおいて送信を行うことが理解できる。

そして、上記ウの「TDMA(時分割多元接続)方式の無線通信」(段落【0020】)との記載及び上記キの「TDMA方式による無線通信(同期通信)」(段落【0044】)との記載からみて、同期通信は、時分割多元接続方式の無線通信である。

サ 上記カの「中継器RYには2つのタイムスロットTS1,TS2が割り当てられており、中継器制御部10は先頭のタイムスロットTS1で第2同期信号B2を無線送受信部11に送信させ、2番目のタイムスロットTS2で親局TR1に対するメッセージを含む無線信号を無線送受信部11に送信させている」(段落【0039】)との記載及び上記クの「中継器RYの中継器制御部10は、同期通信において、第1同期信号B1で親局TR1から受け取ったメッセージ(警報停止メッセージなど)を含む第2同期信号B2を先頭のタイムスロットTS1に格納してサブグループSGの子局TR5,TR6へ送信するとともに、サブグループSGの子局TR5,TR6から受け取ったメッセージ(警報停止メッセージや復旧通知メッセージなど)を含む無線信号を2番目のタイムスロットTS2に格納して親局TR1へ送信する」(段落【0071】)との記載からみて、中継器RYは、子局TR5,TR6から受け取ったメッセージを含む無線信号を2番目のタイムスロットTS2で親局TR1へ送信することが理解できるから、中継器RYが子局TR5,TR6から受け取ったメッセージを一括して親局TR1に中継するといえる。

シ 上記クの「親局TR1の制御部1は警報音停止時間が経過したのちに第1同期信号B1によって各子局TR2,…に復旧通知メッセージを送信し、全ての子局TR2,…から返信されるACKを受け取った時点で連動停止状態から待機状態に遷移し、第1同期信号B1の送信を停止する」(段落【0044】)との記載に示された本実施形態における無線通信を、上記コ及びサを踏まえてみると、刊行物1には、親局TR1から所定のメッセージを含む第1同期信号B1が送信され、当該メッセージに対する応答メッセージ(ACK)を含む無線信号が子局TR5,TR6から返信され、当該無線信号を受信した中継器RYが前記応答メッセージを一括して前記親局TR1に中継することが記載されているといえる。

上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「親局TR1と、火災感知部4を有する複数の子局TR2?TR6と、前記親局TR1と前記子局TR2?TR6との無線通信を中継する中継器RYとを有し、前記親局TR1から所定のメッセージを含む第1同期信号B1が送信され、当該第1同期信号B1が前記中継器RYで中継されるとともに、当該メッセージに対する応答メッセージを含む無線信号が前記子局TR5,TR6から返信され、当該無線信号を受信した前記中継器RYが前記応答メッセージを一括して前記親局TR1に中継し、
前記中継器RYは、前記親局TR1から送信された前記第1同期信号B1を受信した場合、当該第1同期信号B1に含まれる前記メッセージを含む第2同期信号B2を時分割多元接続方式で送信した後、前記子局TR5,TR6から送信される前記無線信号を受信すれば、当該無線信号に含まれる前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多元接続方式で送信し、
前記子局TR2?TR6は、前記親局TR1又は前記中継器RYから送信された前記第1同期信号B1又は第2同期信号B2を受信すると、前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多元接続方式で前記親局TR1または前記中継器RYに送信する火災警報システム。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「親局TR1」は前者の「親機」に相当し、以下同様に、「火災感知部4を有する」ことは「センサ機能を有する」ことに、「子局TR2?TR6」は「子機」に、「中継器RY」は「中継機」に、「前記親局TR1から所定のメッセージを含む第1同期信号B1が送信され」ることは「前記親機から所定のメッセージを含む無線信号が送信され」ることに、「時分割多元接続方式」は「時分割多重方式」に、「前記中継器RYは、前記親局TR1から送信された前記第1同期信号B1を受信した場合、当該第1同期信号B1に含まれる前記メッセージを含む第2同期信号B2」を送信することは「前記中継機は、前記親機から送信された前記無線信号を受信した場合、当該無線信号に含まれる前記メッセージを含む無線信号」を送信することに、「前記子局TR2?TR6は、前記親局TR1又は前記中継器RYから送信された前記第1同期信号B1又は第2同期信号B2を受信する」ことは「前記子機は、前記親機又は前記中継機から送信された前記無線信号を受信する」ことに、「火災警報システム」は「無線式センサシステム」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「親機と、センサ機能を有する複数の子機と、前記親機と前記子機との無線通信を中継する1の中継機とを有し、前記親機から所定のメッセージを含む無線信号が送信され、当該無線信号が前記中継機で中継されるとともに、当該メッセージに対する応答メッセージを含む無線信号が前記子機から返信され、当該無線信号を受信した前記中継機が前記応答メッセージを一括して前記親機に中継し、
前記中継機は、前記親機から送信された前記無線信号を受信した場合、当該無線信号に含まれる前記メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で送信した後、前記子機から送信される前記無線信号を受信すれば、当該無線信号に含まれる前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で送信し、
前記子機は、前記親機又は前記中継機から送信された前記無線信号を受信すると、前記応答メッセージを含む無線信号を時分割多重方式で前記親機または中継機に送信する無線式センサシステム。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願補正発明は、「複数の」中継機で「順番に」中継され、子機から「順番に」返信されるのに対し、引用発明は、かかる構成を備えていない点。

4 当審の判断
そこで、相違点を検討する。
本願補正発明の「複数の」中継機で「順番に」中継され、子機から「順番に」返信されることに関して、本願明細書には、「複数台(図示例では2台)の中継機Rjが時分割多重方式で順番に無線信号を中継するので、無線信号の衝突を回避しつつ短時間(間欠受信周期の3周期分程度の時間)で全ての子機Siに制御コマンドを送ることができる」(段落【0028】)との記載及び「複数台(図示例では3台)の子機Siが時分割多重方式で順番に無線信号を送信するので、無線信号の衝突を回避しつつ短時間で全ての子機Siが応答メッセージを送信することができる」(段落【0030】)との記載がある。
これらの記載からみて、本願補正発明の「複数の」中継機で「順番に」中継され、子機から「順番に」返信されることは、複数台の中継機で時分割多重方式を用いて中継され、複数台の子機から時分割多重方式を用いて返信されることと解される。

一方、引用発明の子局TR2?TR6及び中継器RYは、時分割多元接続方式の無線通信を行うものである。

また、引用発明は、刊行物の「本発明は・・・その目的は、中継器を利用して火災警報器の設置範囲を拡大し」(段落【0006】)との記載からみて、中継器を利用して火災警報器の設置範囲を拡大することを目的とするものであるから、引用発明において、火災警報器の設置範囲の拡大するために、中継器RY及び子局TR5,TR6が所属するサブグループSG中にさらに中継器RYを設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そうしてみると、引用発明において、「複数の」中継器RYで「順番に」中継され、子局から「順番に」返信されるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、本願補正発明が奏する効果は、引用発明から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年5月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、その記載事項、及び引用発明は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明における前記「第2〔理由〕1」で摘記した限定を省いたものである。

そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3及び4」に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-15 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-02 
出願番号 特願2010-236755(P2010-236755)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G08B)
P 1 8・ 121- Z (G08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武井 健浩二階堂 恭弘田口 傑  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 内田 博之
冨岡 和人
発明の名称 無線式センサシステム  
代理人 北出 英敏  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 坂口 武  
代理人 西川 惠清  

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