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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1308781
審判番号 不服2015-4001  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-02 
確定日 2015-12-17 
事件の表示 特願2011-62243「ICタグ付き転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開、特開2012-197855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月22日の出願であって、平成26年4月24日付け(発送日:4月30日)の拒絶理由通知に対して、同年6月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月25日付け(発送日:12月2日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年3月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成27年3月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「転がり軸受の外輪もしくは内輪または両輪の表面に形成した穴内に、非接触交信型のICタグをフッ素ゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、ニトリルゴムまたは水素化ニトリルゴムのゴム状弾性材からなり23℃における弾性率が1MPa?10MPaの緩衝体を介して保持すると共に、この緩衝体は前記穴の開口部側にICタグを覆う蓋状に設けて封止状態にし、前記ICタグが成形されたゴム状弾性材からなる緩衝体と加硫または接着により一体化されたものであり、前記穴を形成した外輪もしくは内輪または両輪の表面が、転がり軸受を被装着物に固定するための予圧付与面であるICタグ付き転がり軸受。」
なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したとおりである。

本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ゴム状弾性材」について、当該ゴム状弾性材が「23℃における弾性率が1MPa?10MPa」のものであること、また、「ICタグが成形されたゴム状弾性材からなる緩衝体と加硫または接着により一体化されたもの」であることを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項及び発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に国内で頒布された特開2006-226498号公報(以下「刊行物1」という。)には、「軸受装置」に関し、図面(特に図1、2参照)とともに、次の事項が記載されている。
以下、下線は当審で付与するものである。

ア.「【0001】
本発明は軸受装置に関する。より詳細にはICタグを備えた軸受装置に関する。」

イ.「【0009】
ICタグ8は、RFID(無線周波数識別)技術を利用したものであり、図3はRFID技術を利用した情報管理の概要図である。…(略)…」

ウ.「【0010】
図2に示すように、前記情報管理用のICタグ8が、内輪2の端面に形成されている穴部10内部に配置されていて、このICタグ8とは別の樹脂製の蓋9が当該穴部10を塞ぐように装着され、前記ICタグ8を覆っている。
この穴部10は深さ方向が軸方向に一致しており、開口部は端面一部が軸方向にへこむことによって形成されており、底面10aと底面10aから立設された側面10bよりなっていて、これらの底面10aと側面10bが穴部内面10a、10bを形成している。
…(略)…」

エ.「【0012】
また、蓋9とICタグ8内に隙間11が設けられていて、樹脂9とICタグ8とが非接触状態になっていれば、蓋9を装着するときや軸受装置1の使用状態において、蓋9とICタグ8が接触して、ICタグ8が損傷する可能性がさらに低減される。
また、隙間11がなく常にICタグ8と蓋9を接触させてもよい。この場合にはICタグが蓋9と穴部底面10aとで挟持されるために、ICタグ8が安定化する。
さらに、隙間11が存在しないようにするには、ICタグ8と蓋9との間に図示しない弾性材からなるスペーサーを配置してもよい。当該箇所にスペーサーが配置されていれば、蓋9が穴部10の底面方向に押圧された場合であっても、スペーサーが緩衝材の役割を果たすためにICタグ8が損傷することが抑えられる。
第1の実施形態は、抜け止め防止構造がシンプルであるために加工しやすく、コストが抑制される。」

オ.「【0018】
本発明の実施形態は図示した形態に限らず、…(略)…
なお、本発明に使用される軸受は、実施形態に示す深溝玉軸受のみならず、アンギュラ玉軸受や円錐ころ軸受など他の軸受であってもよいことは言うまでもない。」

上記記載事項及び図示内容を総合して、本願補正発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「軸受の内輪2の端面に形成されている穴部10内部に、RFID(無線周波数識別)技術を利用したICタグ8を配置し、
前記穴部を塞ぐように、蓋9が装着され、
当該蓋9とICタグ8内に隙間11が設けられており、隙間11が存在しないようにするために、ICタグ8と蓋9との間に弾性材からなるスペーサーを配置し、当該スペーサーが、蓋9が穴部10の底面方向に押圧された場合に緩衝材の役割を果たす、ICタグ8を備えた軸受。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に国内で頒布された特開2007-238138号公報(以下「刊行物2」という。)には、「ICタグ付き金属蓋」に関し、図面(特に図4?7参照)とともに、次の事項が記載されている。

カ.「【0004】
そこで、このような従来の商品情報表示の不利・不便を解消し、必要かつ十分な商品情報を簡易かつ正確に表示等する手段として、最近ではICタグが利用されるようになってきている。
ICタグは、非接触ICタグ、RFID(Radio Frequency Identification)タグ、RFタグ等とも呼ばれ、ICチップと無線アンテナを樹脂やガラス等で封止してタグ(荷札)状に形成した超小型の通信端末で、ICチップに所定の情報を記録して対象物にタグを取り付け、記録した情報を無線通信により読取装置(リーダ・ライタ)側でピックアップすることにより、ICチップに記録された情報を認識、表示するものである。」

キ.「【0020】
このような構成からなる本発明のICタグ付き金属蓋によれば、ICタグを絶縁封止する絶縁部材として、一定の弾性を有するゴム等で構成し、その絶縁部材を開封用タブのリング孔内径よりやや大きくなるように形成することにより、ICタグを封止した絶縁部材をタブのリング孔内に圧入状態で押し込んで、ICタグを開封用タブに装着することできる。
これにより、ゴム等で封止されたICタグは、装着のための基材や接着剤等を必要とすることなく、金属蓋側に脱落不能に蓋側に取り付けることができ、ICタグの装着作業がきわめて容易に行うことができ、また、取り外しも簡単に行え、容器の使用後の廃棄・回収の際にも、容器とICタグとの分別が容易となりリサイクルに資する金属容器を実現することができる。
また、弾性を有する絶縁部材で封止されることで、ICタグは外部からの接触・衝撃等からも保護され、信頼性の高いICタグ付き金属容器を提供できるようになる。」

ク.「【0032】
具体的には、ICタグ40は、金属蓋30に備えられる開封用タブ33のリング孔38の孔内に、ICタグ40を封止した絶縁部材44が圧入状態で装着されることにより、金属蓋30に装着されるようになっている。
このように、ICタグ40を開封用タブ33のリング孔38内に装着することで、開封用タブ33のリング孔38をICタグの装着空間として利用できるとともに、装着されたICタグ40を開封用タブ33のリング部37によって保護することができる。」

ケ.「【0036】
ICタグ40を絶縁封止する絶縁部材44は、ICタグ40と金属蓋30を電気的に絶縁する物質からなり、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂、ゴム等がある。また、樹脂による埋め込みをする場合には、ウレタン樹脂やポリエステル樹脂に硬化剤としてイソシアネート樹脂を混ぜても良い。
また、絶縁部材44は、開封用タブ33のリング孔38に圧入できるように、一定の弾性を有する部材であることが好ましく、ゴム系の材料として天然ゴム、スチレンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ハイパロン(CSM)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素系ゴム等で構成することが好ましい。
【0037】
絶縁部材44によるICタグ40の封止は、例えば、次のようにして行う。
ウレタン樹脂に硬化剤のイソシアネート樹脂を混合し、ICタグを入れた型に流し込み、硬化させて封止する。また、樹脂やゴムでできた基板をICタグが装着できるように成形し、挟み込んだり装着したりすることで封止してもよい。」

コ.「【0038】
そして、以上のようにしてICタグ40を絶縁封止した絶縁部材44は、上述した開封用タブ33のリング孔38の内径よりやや大きくなるように形成され、リング孔38内に圧入状態で装着できるようになっていす。
これにより、ゴム等の弾性部材で封止されたICタグ40は、装着のための基材や接着剤等を必要とすることなく、金属蓋30に脱落不能に取り付けることができ、ICタグ40の装着作業はきわめて容易に行うことができる。また、このように圧入状態で装着されたICタグ40は、取り外しも簡単に行え、容器の使用後の廃棄・回収の際にも、容器とICタグとの分別が容易となりリサイクルに資する金属容器を実現することができる。
さらに、ゴム等の弾性部材で封止されたICタグ40は、外部からの接触・衝撃等からも保護されることになる。」

サ.「【0040】
[ICタグの装着方法]
つぎに、…(略)…
まず、ICタグ40は、上述したように、予め絶縁部材44で被覆・封止される。ICタグ40を封止した絶縁部材44は、適度な弾性を有している。
また、ICタグ40を被覆・封止した絶縁部材44の外形は、開封用タブ33に形成されるリング孔38の形状に対応しており、リング孔38よりも若干大きく形成される(図7(a)参照)。」
【0041】
そして、このように絶縁被覆されたICタグ40が、開封用タブ33のリング孔38に圧入状態で装着される(図7(b)参照)。
…(略)…」

a.上記記載事項キ、コからみて、刊行物2記載の絶縁部材44は、一定の弾性を有するゴム等の弾性部材であり、ICタグ40を絶縁するだけでなく、弾性を有することにより、ICタグ40を外部からの接触・衝撃等から保護するものでもある。
b.同じく記載事項コ、サ等からみて、刊行物2記載のICタグは、適度な弾性を有する絶縁部材により被覆・封止されるものであり、ICタグと絶縁部材とが一体化されることは明らかである。

上記記載事項、図示内容及び認定事項を総合して、本願補正発明に則って整理すると、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「ICタグ40を、ニトリルゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素系ゴム等の弾性部材からなり一定の適度な弾性を有する絶縁部材44で封止すると共に、ICタグ40を封止した絶縁部材44の外形を、リング孔38の形状に対応しリング孔38よりも若干大きく形成することにより、前記孔内に圧入状態で装着される、ICタグと一体化された絶縁部材。」

3.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「軸受の内輪2の端面」はその機能・構造からみて、本願補正発明の「転がり軸受の外輪もしくは内輪または両輪の表面」に相当し、以下同様に、引用発明1の「RFID(無線周波数識別)技術を利用したICタグ8」は、本願補正発明の「非接触交信型のICタグ」に、引用発明1の「ICタグを備えた軸受」は、本願補正発明の「ICタグ付き転がり軸受」に相当する。
そして、引用発明1の「穴部10内部に、RFID(無線周波数識別)技術を利用したICタグ8を配置」することは、本願補正発明の「穴内に、非接触交信型のICタグをフッ素ゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、ニトリルゴムまたは水素化ニトリルゴムのゴム状弾性材からなり23℃における弾性率が1MPa?10MPaの緩衝体を介して保持する」ことと、「穴内に、非接触交信型のICタグを保持する」という限りで一致する。

したがって、本願補正発明と引用発明1とは、
[一致点]
「転がり軸受の外輪もしくは内輪または両輪の表面に形成した穴内に、非接触交信型のICタグを保持する、ICタグ付き転がり軸受。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本願補正発明はICタグを「フッ素ゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、ニトリルゴムまたは水素化ニトリルゴムのゴム状弾性材からなり23℃における弾性率が1MPa?10MPaの緩衝体を介して」保持する「と共に、この緩衝体は前記穴の開口部側にICタグを覆う蓋状に設けて封止状態にし、前記ICタグが成形されたゴム状弾性材からなる緩衝体と加硫または接着により一体化されたもの」であるのに対し、引用発明1は「穴部10内部に、RFID(無線周波数識別)技術を利用したICタグ8を配置し、前記穴部を塞ぐように、蓋9が装着され、当該蓋9とICタグ8内に隙間11が設けられており、隙間11が存在しないようにするために、ICタグ8と蓋9との間に弾性材からなるスペーサーを配置し、当該スペーサーが、蓋9が穴部10の底面方向に押圧された場合に緩衝材の役割を果たす」ものである点。
[相違点2]
穴を形成した外輪もしくは内輪または両輪の表面が、本願補正発明では「転がり軸受を被装着物に固定するための予圧付与面である」のに対し、引用発明1では、転がり軸受を被装着物に固定するための予圧付与面か否か明らかでない点。

4.判断
(1)相違点1について
刊行物2には、上記したとおり引用発明2(ICタグ40を、ニトリルゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素系ゴム等の弾性部材からなり一定の適度な弾性を有する絶縁部材44で封止すると共に、ICタグ40を封止した絶縁部材44の外形を、リング孔38の形状に対応しリング孔38よりも若干大きく形成することにより、前記孔内に圧入状態で装着される、ICタグと一体化された、絶縁部材。)が記載されているものの、引用発明2の絶縁部材であるゴム等の弾性部材について、弾性率及びICタグとの一体化手段は、具体的に記載されていない。

そこで、まず、弾性率及びICタグとの一体化手段について検討する。
ア.弾性率について
本願明細書には、本願補正発明の緩衝体について、「圧縮した緩衝体9の反発弾性力によって穴6に係合」(請求項9、段落【0051】1?2行)、「緩衝体9の反発弾性力によって穴6に係合する場合には、緩衝体9を予め穴6の径よりも所定率だけ大径になる所定寸法に成形」(段落【0052】1?2行)、「表面に外力が加えられても、また振動や衝撃を受けた場合にも、そのような外力による歪や衝撃や振動は、ゴム状弾性材からなる緩衝体9に吸収される」(段落【0054】1?3行)と記載されている。
すなわち、本願補正発明の緩衝体は、圧縮させながら穴に装着されるものであり、且つ、外力による衝撃や振動からICタグを保護するものであるところ、本願補正発明は、前記の作用をなす弾性率として「23℃における弾性率が1MPa?10MPa」の範囲を特定するものと認められるところ(段落【0037】参照。)、本願明細書及び図面を参酌しても、前記弾性率の上限値及び下限値に臨界的意義は認められない。
他方、上記記載事項コ、サのとおり、引用発明2の絶縁部材であるゴム等の弾性部材は、適度な弾性を有するものであり、その弾性の程度は、絶縁部材より若干小さく形成されたリング孔38に圧入でき、且つ、絶縁部材に封止されたICタグ40が、外部からの接触・衝撃等から保護され得る程度のものであり、引用発明2の絶縁部材としてのゴム等の弾性部材も、本願補正発明の緩衝体と同様の作用をなすものである。
してみると、引用発明2の絶縁部材であるゴム等の弾性部材の弾性率は、本願補正発明の弾性率と格別の差異はなく、本願補正発明の弾性率は設計事項の範囲内にあるといえる。

イ.一体化の手段について
刊行物2には、上記記載事項ケのとおり、絶縁部材として、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂材料と、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素系ゴム等のゴム系の材料とが列記されており、この内、絶縁部材として樹脂材料を採用する場合は、「ウレタン樹脂に硬化剤のイソシアネート樹脂を混合し、ICタグを入れた型に流し込み、硬化させて封止する。」と、封止手段が具体的に記載されているが、ゴム系の材料の場合は、封止手段について具体的記載はない。
ところで、一般にゴムの成形手段として「加硫/架橋」は、ゴムの技術分野における常套手段であり、刊行物2に記載された上記樹脂材料による封止手段を参酌すると、刊行物2に具体的記載はないものの、ゴム系の材料によりICタグを封止する際、加硫により一体化することは設計事項の範囲内にあるといえる。
さらに、記載事項ケに「ゴムでできた基板をICタグが装着できるように成形し、挟み込んだり装着したりして封止する」と記載されているが、挟み込んだり装着したりする際にICタグの外れ防止のために接着することは設計変更にすぎないから、結局、引用発明2において、ICタグを、ゴム等の弾性部材である絶縁部材と、加硫または接着により一体化(封止)することは設計事項の範囲内にあるといえる。

ところで、本願補正発明、引用発明1は共に、転がり軸受の内輪に設けた穴にICタグを保持するものであり、本願補正発明は、外力による衝撃や振動をゴム状弾性材からなる緩衝体に吸収させ損傷が起きないようにする(本願明細書の段落【0010】、【0013】等参照)という、また、引用発明1は、ICタグと蓋との間に弾性材からなるスペーサーを配置し、外力等により蓋が穴部の底面方向に押圧されても、スペーサーが緩衝材の役割を果たし、ICタグが損傷することを抑える(上記記載事項エ参照)という共通の課題を解決するものであるところ、本願補正発明は、ICタグと加硫または接着により一体化された緩衝体により、引用発明1は、弾性材からなるスペーサと蓋により、前記課題を解決するものである。
他方、引用発明2は、ICタグをゴム等の弾性部材からなる絶縁部材で封止し、絶縁部材の弾性を利用して、リング孔に圧入するものであるところ、前記絶縁部材(弾性部材)は、外部からの接触・衝撃等からICタグを保護する(記載事項キ参照)ものであるから、引用発明2の絶縁部材(弾性部材)は、ICタグを衝撃から保護する緩衝部材(本願補正発明の「緩衝体」に相当する。)でもあることは明らかである。
すなわち、引用発明2も、本願補正発明や引用発明1と同様に、外力からの衝撃に対して、穴(孔)内に保持されるICタグを保護し、損傷しないようにようにするものであるから、引用発明1のICタグ及びそれを保護するスペーサと蓋に代えて、引用発明2のICタグを封止した絶縁部材(弾性部材)を適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記ア、イのとおり、本願補正発明の弾性率及び一体化手段については、引用発明2の適用に際しての当業者における設計事項の範囲内にあるから、相違点1に係る特定事項とすることは、引用発明1に引用発明2を適用することにより、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
上記記載事項ウのとおり、引用発明1の穴部10は深さ方向が軸方向に一致しており、また、引用発明1の軸受は記載事項オのとおり、円錐ころ軸受等にも適用できるのであるから、引用発明1においても、穴部10を形成する内輪の表面を、被装着物に固定するための予圧付与面とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)作用効果について
そして、本願補正発明による効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとは言えない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成26年6月27日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願補正発明に対応する、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「転がり軸受の外輪もしくは内輪または両輪の表面に形成した穴内に、非接触交信型のICタグをフッ素ゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、ニトリルゴムまたは水素化ニトリルゴムのゴム状弾性材からなる緩衝体を介して保持すると共に、この緩衝体は前記穴の開口部側にICタグを覆う蓋状に設けて封止状態にし、前記穴を形成した外輪もしくは内輪または両輪の表面が、転がり軸受を被装着物に固定するための予圧付与面であるICタグ付き転がり軸受。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項、引用発明1、及び引用発明2は、上記第2の2に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明から、「ゴム状弾性材」について、当該ゴム状弾性材が「23℃における弾性率が1MPa?10MPa」のものであること、及び「ICタグが成形されたゴム状弾性材からなる緩衝体と加硫または接着により一体化されたもの」であることを省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、上記第2の3及び4に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-15 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-02 
出願番号 特願2011-62243(P2011-62243)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 森川 元嗣
大内 俊彦
発明の名称 ICタグ付き転がり軸受  
代理人 鎌田 直也  
代理人 中谷 弥一郎  
代理人 鎌田 文二  

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