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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K |
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管理番号 | 1308827 |
審判番号 | 不服2014-12646 |
総通号数 | 194 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-01 |
確定日 | 2015-12-10 |
事件の表示 | 特願2010-107463「車両用駆動装置の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月24日出願公開、特開2011-235706〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件出願は、平成22年5月7日の出願であって、平成25年8月9日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年10月15日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年11月12日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して平成26年1月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年3月26日付けで平成26年1月20日に提出された手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定がされるとともに、同日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成26年7月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成27年4月14日付けで平成26年7月1日に提出された手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定がされ、平成27年5月7日付けで当審において拒絶理由が通知され、これに対して平成27年7月13日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書について補正する手続補正書が提出され、平成27年7月22日付けで手続補正指令書(方式)による指令がされ、これに対して、平成27年8月26日に平成27年7月13日に提出された手続補正書における特許請求の範囲を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。 2.本願発明 本件出願の請求項1ないし7に係る発明は、平成27年7月13日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 内燃機関と、 電動機と、 前記電動機に接続されるとともに第1断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸と、第2断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸と、被駆動部に動力を出力する出力軸と、前記第1入力軸上に配置され第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数の奇数段ギヤよりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数の偶数段ギヤよりなる第2ギヤ群と、前記出力軸上に配置され前記第1ギヤ群の奇数段ギヤと前記第2ギヤ群の偶数段ギヤとが噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を有する変速機と、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、 前記車両が前記第2入力軸及び前記第2ギヤ群に属する所定段の偶数段ギヤを介した前記内燃機関からの動力による走行中、前記第1同期装置と前記第1入力軸の係合を開放できないときは、前記変速機における変速のために利用する変速マップとして、前記所定段の偶数段ギヤ以下での走行は可能であるが、前記所定段の偶数段ギヤより1つ上の段以上での走行を禁止した変速マップを用いることを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。」 3.刊行物に記載された発明 (1)刊行物1 ア 刊行物1の記載事項 当審において平成27年5月7日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物であって、本件出願前に頒布された刊行物である特開2009-35168号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 a)「【0019】 以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。 図1は、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド電気自動車の駆動装置の概略構成図である。 動力源の1つであるエンジン2の出力軸2aは、クラッチユニット4の入力側に連結されている。クラッチユニット4は第1クラッチ6及び第2クラッチ8からなり、クラッチユニット4の入力側が、第1クラッチ6及び第2クラッチ8の入力側として共用されている。第1クラッチ6の出力側には変速機10の第1入力軸12が連結され、第2クラッチ8の出力側には変速機10の第2入力軸14が連結されている。第1入力軸12は管状をなし、第2入力軸14が第1入力軸12に対して回転可能に嵌入されることにより、第2入力軸14を中心として第1入力軸12と第2入力軸14とが同心状に設けられる。第2入力軸14は第1入力軸12のクラッチユニット4とは逆側の端部から露出して、クラッチユニット4から離れる方向に延設されている。これら第1入力軸12及び第2入力軸14は、図示しない支持部材によりそれぞれ独立して回転可能に変速機10に支持されている。また、第1クラッチ6及び第2クラッチ8は、図示しないクラッチアクチュエータによってそれぞれの接続及び切断が独立して行われるようになっている。 【0020】 第1入力軸12には、変速機10の図示しないケーシング内に配設された、もう1つの動力源である電動機16のロータ16aが固定されており、第1入力軸12が電動機16の回転軸を兼ねることにより、第1入力軸12が電動機16の回転軸と機械的に結合された構成になっている。なお、電動機16のステータ16bは、変速機10のケーシングに固定されている。 【0021】 図1に示すように第1入力軸12には、第1クラッチ6側から第1速ドライブギヤ18a、第3速ドライブギヤ20a、及び第5速ドライブギヤ22aが第1入力軸12に対して相対回転可能に配設されている。また、変速機10のケーシングに回転可能に支持されて第1入力軸12及び第2入力軸14と平行に配設されたカウンタ軸24には、第1速ドライブギヤ18aと常時噛み合う第1速ドリブンギヤ18b、第3速ドライブギヤ20aと常時噛み合う第3速ドリブンギヤ20b、及び第5速ドライブギヤ22aと常時噛み合う第5速ドリブンギヤ22bが固定されている。そして、これら3対のドライブギヤ18a,20a,22aとドリブンギヤ18b,20b,22bとにより第1歯車機構26が構成される。 【0022】 一方、第2入力軸14の第1入力軸12から露出して延設された部分には、第2クラッチ8側から第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a、及び第6速ドライブギヤ32aが第2入力軸14に対して相対回転可能に配設されている。また、カウンタ軸24には、第2速ドライブギヤ28aと常時噛み合う第2速ドリブンギヤ28b、第4速ドライブギヤ30aと常時噛み合う第4速ドリブンギヤ30b、及び第6速ドライブギヤ32aと常時噛み合う第6速ドリブンギヤ32bが固定されている。そして、これら3対のドライブギヤ28a,30a,32aとドリブンギヤ28b,30b,32bとにより第2歯車機構34が構成される。 【0023】 カウンタ軸24の第6速ドリブンギヤ32b側の端部にはカウンタギヤ36が固定されている。変速機10のケーシングに回転可能に支持された出力軸38には出力ギヤ40が固定されており、カウンタギヤ36がこの出力ギヤ40と常時噛み合うことにより、カウンタ軸24の駆動力が出力軸38に伝達される。そして、出力軸38から出力された駆動力が差動装置42を介して左右の駆動輪44に伝達されることにより、ハイブリッド電気自動車が走行する。 【0024】 なお、変速機10にはハイブリッド電気自動車を後退させるためのリバースギヤ機構も設けられているが、ここでは簡略化のためリバースギヤ機構についての図示及び説明を省略する。 第1歯車機構26において、第1速ドライブギヤ18aと第3速ドライブギヤ20aとの間には第1入力軸12と一体的に回転する第1同期装置46が配設され、第3速ドライブギヤ20aと第5速ドライブギヤ22aとの間には第1入力軸12と一体的に回転する第2同期装置48が配設されている。これら第1同期装置46及び第2同期装置48は、本発明の第1変速段切換手段に相当する。 【0025】 第1同期装置46は第1入力軸12の軸線方向に摺動可能な第1スリーブ50を有している。この第1スリーブ50が第1速ドライブギヤ18a側に移動して第1速ドライブギヤ18aに固定されている第1速クラッチギヤ52と係合することにより、第1速ドライブギヤ18aが第1入力軸12に連結されて第1速変速段が選択される。 一方、第1スリーブ50が第3速ドライブギヤ20a側に移動すると、第1スリーブ50が第3速ドライブギヤ20aに固定されている第3速クラッチギヤ54と係合することにより、第3速ドライブギヤ20aが第1入力軸12に連結されて第3速変速段が選択される。 【0026】 また、第2同期装置48は第1入力軸12の軸線方向に摺動可能な第2スリーブ56を有している。この第2スリーブ56が第5速ドライブギヤ22a側に移動して第5速ドライブギヤ22aに固定されている第5速クラッチギヤ58と係合することにより、第5速ドライブギヤ22aが第1入力軸12に連結されて第5速変速段が選択される。 第2歯車機構34では、第2速ドライブギヤ28aと第4速ドライブギヤ30aとの間に第2入力軸14と一体的に回転する第3同期装置60が配設され、第4速ドライブギヤ30aと第6速ドライブギヤ32aとの間に第2入力軸14と一体的に回転する第4同期装置62が配設されている。これら第3同期装置60及び第4同期装置62は、本発明の第2変速段切換手段に相当する。 【0027】 第3同期装置60は第2入力軸14の軸線方向に摺動可能な第3スリーブ64を有しており、この第3スリーブ64が第2速ドライブギヤ28a側に移動して第2速ドライブギヤ28aに固定されている第2速クラッチギヤ66と係合することにより、第2速ドライブギヤ28aが第2入力軸14に連結されて第2速変速段が選択される。 一方、第3スリーブ64が第4速ドライブギヤ30a側に移動すると、第3スリーブ64が第4速ドライブギヤ30aに固定されている第4速クラッチギヤ68と係合することにより、第4速ドライブギヤ30aが第2入力軸14に連結されて第4速変速段が選択される。 【0028】 また、第4同期装置62は第2入力軸14の軸線方向に摺動可能な第4スリーブ70を有しており、この第4スリーブ70が第6速ドライブギヤ32a側に移動して第6速ドライブギヤ32aに固定されている第6速クラッチギヤ72と係合することにより、第6速ドライブギヤ32aが第2入力軸14に連結されて第6速変速段が選択される。 このようにして第1乃至第4同期装置46,48,60,62に設けられた各スリーブが適宜移動することにより変速段の選択が行われるが、第1歯車機構26には第1クラッチ6を介してエンジン2の駆動力が伝達され、第2歯車機構34には第2クラッチ8を介してエンジン2の駆動力が伝達される。従って、例えば第1クラッチ6を接続状態とする一方で、第2クラッチ8を切断状態とすることにより、第1歯車機構26で選択されたいずれかの変速段を介して出力軸38にエンジン2からの駆動力を出力しながら、第2歯車機構34においていずれかの変速段を選択することが可能となる。 【0029】 また、第1クラッチ6を切断状態とする一方で、第2クラッチ8を接続状態とすることにより、第2歯車機構34で選択されたいずれかの変速段を介して出力軸38にエンジン2からの駆動力を出力しながら、第1歯車機構26においていずれかの変速段を選択することが可能となる。 従って、変速段の切り換えを行う際には、第1歯車機構26及び第2歯車機構34のうち、その時点でエンジン2の駆動力が伝達されていない方の歯車機構において次に予測される変速段を予め選択しておき、変速段の切換要求があったときに第1クラッチ6及び第2クラッチ8のうちの接続状態にある方を切断しながら切断状態にある方を接続していくことにより、変速段の切り換えの際にも連続的に出力軸38から駆動力を出力することが可能となる。この結果、変速段切換時の運転フィーリングを向上させることができる。」(段落【0019】ないし【0029】) b)「【0030】 ところで、前述したように第1入力軸12には電動機16のロータ16aが固定されており、第1入力軸12が電動機16の回転軸となっている。従って、第1クラッチ6を接続状態とする一方で第2クラッチ8を切断状態とし、第1歯車機構26においていずれかの変速段を選択した状態(第2状態)で、エンジン2の駆動力が第1歯車機構26を介して駆動輪44に伝達されているときに電動機16を作動させれば、エンジン2の駆動力に加えて電動機16の駆動力が第1歯車機構26を介して駆動輪44に伝達される。 【0031】 このような状態の例を図2に示す。図2の例では、第1クラッチ6が接続状態となる一方で第2クラッチ8が切断状態となっており、第1歯車機構26の第2スリーブ56が第5速ドライブギヤ22a側に移動して第5速ドライブギヤ22aに固定されている第5速クラッチギヤ58と係合することにより、第5速変速段が選択されている。 図2中に太線A1で示すように、エンジン2が発生した駆動力は、接続状態にある第1クラッチ6を介して第1入力軸12に伝達され、電動機16が作動することによって発生した駆動力と共に、第1歯車機構26で選択されている第5変速段を介して出力軸38に出力された後、差動装置42を介して左右の駆動輪44に伝達される。 【0032】 このとき、ハイブリッド電気自動車が必要とする駆動力が図示しない制御装置によって求められ、エンジン2及び電動機16に割り振られる。そして、それぞれに割り振られた駆動力は、第1歯車機構26で選択されている第5変速段のギヤ比に基づきエンジン2及び電動機16が出力すべき駆動力に変換され、それぞれ変換された駆動力を発生するように、制御装置によってエンジン2及び電動機16が制御される。従って、ハイブリッド電気自動車の運転状態によって、電動機16はモータ作動して正の駆動力を発生したり、或いは発電機作動して負の駆動力を発生したりすることになる。 【0033】 このようにして第1歯車機構26を介してエンジン2及び電動機16の駆動力を駆動輪44に伝達している場合、第2クラッチ8の切断によって第2クラッチ8からはエンジン2の駆動力が第2入力軸14に伝達されない。従って、前述したように第2歯車機構34において次に予想される変速段を予め選択しておくことが可能となる。図2の例では、現在第5速変速段が第1歯車機構26において選択されているので、次に選択される変速段として第6速変速段を予測し、第4スリーブ70を第6速ドライブギヤ32a側に移動させて第6速ドライブギヤ32aに固定されている第6速クラッチギヤ72と係合させることにより、第6速変速段が予め選択されている。 【0034】 なお、第1クラッチ6が接続状態にあって第2クラッチ8が切断状態にあるときに、第1歯車機構26及び第2歯車機構34でそれぞれ選択される変速段は、図2の例に限られるものではなく、ハイブリッド電気自動車の運転状態などに応じて別の変速段を適宜選択可能である。 一方、第2クラッチ8を接続状態とする一方で第1クラッチ6を切断状態とし、第2歯車機構34でいずれかの変速段を選択した状態(第3状態)で、エンジン2の駆動力が第2歯車機構34を介して駆動輪44に伝達されている状態の例を図3に示す。図3の例では、第2クラッチ8が接続状態となる一方で第1クラッチ6が切断状態となっており、第2歯車機構34の第4スリーブ70が第6速ドライブギヤ32a側に移動して第6速ドライブギヤ32aに固定されている第6速クラッチギヤ72と係合することにより、第6速変速段が選択されている。 【0035】 図3中に太線A2で示すように、エンジン2が発生した駆動力は、接続状態にある第2クラッチ8を介して第2入力軸14に伝達され、第2歯車機構34で選択されている第6速変速段を介して出力軸38に出力された後、差動装置42を介して左右の駆動輪44に伝達される。このとき、第1歯車機構26では、第2スリーブ56が第5速ドライブギヤ22a側に移動して、第5速ドライブギヤ22aに固定されている第5速クラッチギヤ58と係合することにより、第5速変速段が選択されている。このときカウンタ軸24は、第2入力軸14から第2歯車機構34の第6速変速段を介してエンジン2の駆動力が伝達されることにより、エンジン2の回転速度に第6速変速段のギヤ比を乗じた回転速度で回転している。第1入力軸12は、第1クラッチ6が切断状態にあることによってエンジン2の出力軸2aと切り離されているので、第5速変速段が選択されている場合には、カウンタ軸24のこのような回転に伴い、カウンタ軸24の回転速度を第5速変速段のギヤ比で除した回転速度で回転する。 【0036】 この状態において電動機16を作動させれば、図3中に太線A3で示すように、電動機16の駆動力は第1入力軸12から第1歯車機構26で選択されている第5速変速段を介してカウンタ軸24に伝達され、第2歯車機構34で選択されている第6速変速段を介してカウンタ軸24に伝達されたエンジン2の駆動力と共に出力軸38に伝達された後、差動装置42を介して左右の駆動輪44に伝達される。 【0037】 この場合においても、ハイブリッド電気自動車が必要とする駆動力が制御装置によって求められ、エンジン2及び電動機16に割り振られる。但し、このときにはエンジン2の駆動力が第2歯車機構34で選択されている第6速変速段を介して出力軸38に伝達される一方で、電動機16の駆動力は第1歯車機構26で選択されている第5速変速段を介して出力軸38に伝達される。従って、エンジン2に割り振られた駆動力は第2歯車機構34で選択されている第6速変速段のギヤ比に基づきエンジン2が出力すべき駆動力に変換され、電動機16に割り振られた駆動力は第1歯車機構26で選択されている第5速変速段のギヤ比に基づき電動機16が出力すべき駆動力に変換される。そして、それぞれ変換された駆動力を発生するように、制御装置によってエンジン2及び電動機16が制御される。従って、この場合もハイブリッド電気自動車の運転状態によって、電動機16はモータ作動して正の駆動力を発生したり、或いは発電機作動して負の駆動力を発生したりすることになる。 【0038】 このようにして第2歯車機構34を介してエンジン2の駆動力を駆動輪44に伝達している場合、第1クラッチ6の切断によって第1クラッチ6からはエンジン2の駆動力が第1入力軸12に伝達されない。従って、このようにして第2歯車機構34を介してエンジン2の駆動力を駆動輪44に伝達している場合に、前述したように第1歯車機構26において次に予想される変速段を予め選択しておくことが可能である。この場合、予め予想して選択された第1歯車機構26の変速段のギヤ比に基づき、電動機16に割り振られた駆動力が電動機16の出力すべき駆動力に変換され、変換後の駆動力を発生するように電動機16が制御される。なお図3の例では、第6速変速段が第2歯車機構34において選択されており、これ以上高速側の変速段が第1歯車機構26にないので、次に選択される変速段として第5速変速段を予測し、第2スリーブ56を第5速ドライブギヤ22a側に移動させて第5速ドライブギヤ22aに固定されている第5速クラッチギヤ58と係合させることによって、第5速変速段が予め選択されている。 【0039】 なお、第2クラッチ8が接続状態にあって第1クラッチ6が切断状態にあるときに、第1歯車機構26及び第2歯車機構34でそれぞれ選択される変速段は、図3の例に限られるものではなく、ハイブリッド電気自動車の運転状態などに応じて別の変速段を適宜選択可能である。 本実施形態において、エンジン2の駆動力を駆動輪44に伝達しつつ、必要に応じて電動機16の駆動力を駆動輪に伝達するような場合については以上の通りであるが、エンジン2の駆動力を駆動輪44に伝達せず、電動機16の駆動力のみを駆動輪44に伝達するようにすることも可能である。 【0040】 この場合、第1クラッチ6及び第2クラッチ8が共に切断状態とされ、第1歯車機構26のいずれかの変速段が選択された状態(第1状態)とされる。従って、エンジン2の出力軸2aは第1入力軸12及び第2入力軸14のいずれとも切り離され、エンジン2の駆 動力は第1入力軸12及び第2入力軸14に伝達されなくなる。このとき制御装置はハイブリッド電気自動車が必要とする駆動力を求め、第1歯車機構26で選択されている変速段のギヤ比に基づき、電動機16が出力すべき駆動力に変換する。そして、電動機16は変換後の駆動力を発生するように制御装置によって制御される。この結果、電動機16が発生した駆動力は、第1歯車機構26で選択されている変速段を介して出力軸38に伝達され、更に差動装置42から左右の駆動輪44に伝達される。 【0041】 以上のように、本実施形態に係るハイブリッド電気自動車の駆動装置では、変速機10の第1歯車機構26及び第2歯車機構34のいずれの変速段を選択している場合においてもエンジン2及び電動機16の駆動力を駆動輪44に伝達可能である。更に、エンジン2の駆動力を駆動輪44に伝達せずに、電動機16の駆動力のみを第1歯車機構26で選択した変速段を介して駆動輪44に伝達することも可能である。そして、これらいずれの場合においても、共通で且つ単一の電動機16を使用することができる。また、第1クラッチ6及び第2クラッチ8を切断するだけで電動機16のみによる駆動が可能となるため、エンジン2の駆動力を遮断するためのクラッチを別途設ける必要がなくなる。従って、デュアルクラッチ方式の変速機10を採用して運転フィーリングを向上すると共に、機器の搭載スペースや車両重量の増大を抑制することが可能となる。 【0042】 また、特に本実施形態に係るハイブリッド電気自動車の駆動装置では、電動機16の回転軸となる第1入力軸12が第2入力軸14と同心状に配置されている。このため、第2入力軸14との干渉を考慮することなく第1入力軸12を回転軸とした電動機16を配設することが可能となり、電動機16が設けられた変速機10をコンパクトに構成することができる。 【0043】 なお、このように第1入力軸12と第2入力軸14とを同心状に配置することよる効果は得ることができないものの、第1入力軸と第2入力軸とを分離して設けることも可能である。そこで、このような変速機を用いたハイブリッド電気自動車の駆動装置を第2実施形態として以下に説明する。なお、上述した第1実施形態と実質的に同じ部材については同じ符号を用いる。」(段落【0030】ないし【0043】) イ 上記ア及び図面の記載から分かること a)上記アa)及びb)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0019】、【0041】及び【0042】の記載)によれば、刊行物1には、ハイブリッド電気自動車の駆動装置が開示されていることが分かる。 そして、段落【0029】における「従って、変速段の切り換えを行う際には、第1歯車機構26及び第2歯車機構34のうち、その時点でエンジン2の駆動力が伝達されていない方の歯車機構において次に予測される変速段を予め選択しておき、変速段の切換要求があったときに第1クラッチ6及び第2クラッチ8のうちの接続状態にある方を切断しながら切断状態にある方を接続していくことにより、変速段の切り換えの際にも連続的に出力軸38から駆動力を出力することが可能となる。この結果、変速段切換時の運転フィーリングを向上させることができる。」という記載によれば、ハイブリッド電気自動車の駆動装置において、変速段の切り換えを行う際には、次に予測される変速段を予め選択しておき、変速段の切換要求があったときに第1クラッチ6及び第2クラッチ8のうちの接続状態にある方を切断しながら切断状態にある方を接続していくところ、この様な変速段の切り換え操作を行うマニュアル式の変速機は想定できないから、この様な変速段の切り換え操作を自動で行うための制御装置がハイブリッド電気自動車の駆動装置に設けられていることは明らかであり、刊行物1には、ハイブリッド電気自動車の駆動装置の制御装置が開示されていることが分かる。 b)上記アa)及び図1ないし3の記載(特に、段落【0019】及び図1の記載)によれば、刊行物1に開示されたハイブリッド電気自動車の駆動装置において、エンジン2と、電動機16と、変速機10と、を備えていることが分かる。 c)上記アa)及びb)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0019】、【0020】及び【0029】ないし【0031】並びに図1及び2の記載)によれば、刊行物1に開示された変速機10において、電動機16に接続されるとともに第1クラッチ6を介して選択的にエンジン2に接続される第1入力軸12を有することが分かる。 d)上記アa)及びb)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0019】、【0029】、【0030】、【0034】及び【0035】並びに図1及び3の記載)によれば、刊行物1に開示された変速機10において、第2クラッチ8を介して選択的にエンジン2に接続される第2入力軸14を有することが分かる。 e)上記アa)及びb)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0023】及び【0036】並びに図1の記載)によれば、変速機10におけるカウンタ軸24の駆動力が出力軸38に伝達され、出力軸38から出力された駆動力が差動装置42を介して左右の駆動輪44に伝達されていることから、刊行物1に開示された変速機10において、左右の駆動輪44に動力を出力するカウンタ軸24を有することが分かる。 f)上記c)において分かることと、上記アa)及びb)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0021】、【0024】ないし【0026】及び【0031】並びに図1及び2の記載)によれば、刊行物1に開示された変速機10において、第1入力軸12上に配置され第1同期装置46及び第2同期装置48のいずれかを介して第1入力軸12に選択的に連結される第1速ドライブギヤ18a、第3速ドライブギヤ20a及び第5速ドライブギヤ22aよりなる第1歯車機構26を構成するギヤ群を有することが分かる。 g)上記d)において分かることと、上記アa)及びb)並びに図1ないし3の記載(特に、段落【0022】、【0027】、【0028】及び【0034】並びに図1及び3の記載)によれば、刊行物1に開示された変速機10において、第2入力軸14上に配置され第3同期装置60及び第4同期装置62のいずれかを介して第2入力軸14に選択的に連結される第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32aよりなる第2歯車機構34を構成するギヤ群を有することが分かる。 h)上記e)において分かることと、上記アa)及び図1ないし3の記載(特に、段落【0021】及び【0022】並びに図1の記載)によれば、刊行物1に開示された変速機10において、カウンタ軸24上に配置され第1歯車機構26を構成するギヤ群の第1速ドライブギヤ18a、第3速ドライブギヤ20a及び第5速ドライブギヤ22aと第2歯車機構34を構成するギヤ群の第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32aとが噛合する第1速ドリブンギヤ18b、第2速ドリブンギヤ28b、第3速ドリブンギヤ20b、第4速ドリブンギヤ30b、第5速ドリブンギヤ22b及び第6速ドリブンギヤ32bよりなるギヤ群を有することが分かる。 ウ 引用発明 上記ア及びイを総合して、本願発明の表現にならって整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「エンジン2と、 電動機16と、 電動機16に接続されるとともに第1クラッチ6を介して選択的にエンジン2に接続される第1入力軸12と、第2クラッチ8を介して選択的にエンジン2に接続される第2入力軸14と、左右の駆動輪44に動力を出力するカウンタ軸24と、第1入力軸12上に配置され第1同期装置46及び第2同期装置48のいずれかを介して第1入力軸12に選択的に連結される第1速ドライブギヤ18a、第3速ドライブギヤ20a及び第5速ドライブギヤ22aよりなる第1歯車機構26を構成するギヤ群と、第2入力軸14上に配置され第3同期装置60及び第4同期装置62のいずれかを介して第2入力軸14に選択的に連結される第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32aよりなる第2歯車機構34を構成するギヤ群と、カウンタ軸24上に配置され第1歯車機構26を構成するギヤ群の第1速ドライブギヤ18a、第3速ドライブギヤ20a及び第5速ドライブギヤ22aと第2歯車機構34を構成するギヤ群の第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32aとが噛合する第1速ドリブンギヤ18b、第2速ドリブンギヤ28b、第3速ドリブンギヤ20b、第4速ドリブンギヤ30b、第5速ドリブンギヤ22b及び第6速ドリブンギヤ32bよりなるギヤ群と、を有する変速機10と、を備えたハイブリッド電気自動車の駆動装置の制御装置。」 (2)刊行物2 ア 刊行物2の記載事項 当審において平成27年5月7日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物であって、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭62-244719号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 a)「(1)予め設定された変速パターンに従って変速段を自動的に切換え得るようにした自動変速機の変速制御装置において、 変速が異常であつたか否かを判定する手段と、 変速が異常であつたと判定されたときに、次回のアツプシフトの実行領域を制限する手段と、 を備えたことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。」(特許請求の範囲の(1)項) b)「(10)前記アツプシフトの実行領域が制限されるときであつても、ダウンシフトについては、これが正常時と同一に実行される特許請求の範囲第1項?第9項のいずれかに記載の自動変速機の変速制御装置。」(特許請求の範囲の(10)項) c)「【産業上の利用分野】 本発明は、自動変速機の変速制御装置に係り、特に、予め設定された変速パターンに従つて変速段を自動的に切換え得るようにした自動変速機の変速制御装置の改良に関する。 【従来の技術】 歯車変速機構と複数の摩擦係合装置とを備え、油圧制御装置を作動させることによつて前記摩擦係合装置の係合を選択的に切換え、予め設定された変速マツプに従つて複数個の変速段のうちのいずれかが達成されるように構成した車両用自動変速機は既に広く知られている。 又、更に、このような車両用自動変速機において、変速時にエンジントルクを変更して、良好な変速特性を得ると共に、摩擦係合装置の耐久性の確保・向上を図つた自動変速機及びエンジンの一体制御装置も種々提案されている(例えば特願昭59-234466)。 【発明が解決しようとする問題点】 しかしながら、本来、エンジントルクの変更制御がなされるべき変速の場合に、例えばセンサ系のトラブル、あるいはエンジン側の要求からエンジンのトルク変更制御が実行できなかつたときには、自動変速機側の摩擦係合装置の吸収エネルギ量が増大するため該摩擦係合装置の耐久性が損われるだけでなく、変速時間が長くなつてアキユムレータの緩衝領域で変速が終了せず、変速シヨツクが大きくなるという問題が発生する。これは、自動変速機側では、当該変速時にエンジントルクが所定量だけ低減されることを予定して油圧等の変速チユーニング諸元が設定されているためである。 又、このような変速時のエンジントルクの変更制御を行つているか否かに拘わらず、例えばオイル洩れ等によつて作用油圧が減少したような場合等においても変速時間が長くなつて摩擦係合装置の耐久性に悪影響が生じ、又、アキユムレータの緩衝領域で変速が終了しなくなつて大きな変速シヨツクが発生するようになる。 【発明の目的】 本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであつて、なんらかの理由で異常な変速が行われた(行われるようになつた)ときに、これを速やかに検出し、自動変速機の摩擦係合装置の耐久性を確保すると共に、大きな変速シヨツクが発生したりするのを防止することのできる自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。 【問題点を解決するための手段】 本発明は、予め設定された変速パターンに従つて変速段を自動的に切換え得るようにした自動変速機の変速制御装置において、第1図にその要旨を示す如く、今回の変速が異常であつたか否かを判定する手段と、今回の変速が異常であつたと判定されたときに、次回のアツプシフトの実行領域を制限する手段と、を備えたことにより、上記目的を達成したものである。 【作用】 本発明においては、センサ系の故障、あるいはエンジン側の要請等なんらかの理由により、本来エンジントルクの変更制御が行われるはずの変速でありながら、実際にはエンジントルクの変更制御が実行されずに異常変速が生じたような場合、あるいは摩擦係合装置の摩耗、作用油圧の低下等の理由によつて異常変速が生じたような場合に、これを速やかに検出し、次回のアツプシフトの実行領域を制限するようにしている。従つて、例えば、エンジン負荷が所定値よりも高いようなとき、あるいは車速か所定値より高いようなときには、所定のアツプシフトが禁止されるようになり、摩際係合装置が苛酷な状態に置かれる事態を避けることができるようになる。又、変速が制限されるものであるため、当然に大きな変速シヨツクが発生するのも回避できるようになる。 好ましい実施態様は、前記異常を判定する手段が、エンジン回転速度をモニタし、該エンジン回転速度が変化している時間が予め設定された値と比較して不適切か否かを判定するものとされていることである。 又、好ましくは、前記異常を判定する手段が、自動変速機の出力軸トルクをモニタし、該出力軸トルクの最小値から最大値に変化するまでの時間が予め設定された値よりも長いか否かを判定するものとされていることである。 又、好ましくは、前記異常を判定する手段が、自動変速機の出力軸トルクをモニタし、該出力軸トルクの最大値又は最小値が予め設定された値と比較して不適切か否かを判定するものとされていることである。 このように、本発明においては、異常を判定する手段を限定するものではない。なお、この場合前記それぞれの手段における予め設定された値は、エンジン負荷、変速の種類等に応じて変更するようにすると良好である。」(2ページ左上欄14行ないし3ページ右上欄7行) d)「第2図は、本発明が採用された、自動変速機の変速制御装置の全体概略図である。 エンジン1及び自動変速12は周知のものである。エンジン1は、エンジンコントロールコンピユータ7によって、そのインジエクシヨンバルブ19における燃料噴射料及びデイストリビユータ20における点火時期が制御され、アクセル開度とエンジン回転速度とに対応したエンジン出力が得られるようになつている。又、自動変速機2は、自動変速機コントロールコンピユータ8によって油圧制御装置3の電磁弁S_(1) ?S_(3) が制御され、該油圧制御装置3内の油路が変更された結果各摩擦係合装置の係合状態が選択的に変更され、車速とアクセル開度とに対応した変速段が得られるようになつている。 即ち、エンジンコントロールコンピユータ7には、エンジン回転センサ9によるエンジン回転速度、吸入量センサ10による吸入空気量、吸入空気温センサ11による吸入空気温度、スロツトルセンサ12によるスロツトル開度、車速センサ13による車速、エンジン水温センサ14によるエンジン水温、ブレーキスイツチ15によるブレーキONの各信号が入力されている。エンジンコントロールコンピユータ7はこれらの信号に基づいて、前記燃料噴射量及び点火時期を決定している。又、このエンジンコントロルールコンピユータ7には、自動変速機コントロールコンピユータ8によりON-OFF制御される電磁弁S_(1) ?S_(3) の各ソレノイド信号も並行して入力されており、これにより自動変速機の変速時期を判断している。 一方、自動変速機コントロールコンピユータ8には、前記スロツトルセンサ12、車速センサ13、エンジン水温センサ14、ブレーキスイツチ15等からの各信号に加え、シフトポジシヨンセンサ16によるシフトレバーの位置、パターンセレクトスイツチ17による燃費重視走行又は動力性能重視走行等の走行選択パターン、オーバードライブスイツチ18によるオーバードライブへのシフト許可等の信号が入力され、車速、アクセル開度に対応した変速段が得られるように前記電磁弁S_(1) ?S_(3) がON-OFF制御されるようになつている。 第3図は、エンジン及び自動変速機の一体制御のフローチヤートである。 この実施例では、エンジン回転速度Neをモニタし、該エンジン回転速度Neが低下している時間を検出することによつて変速異常を判断するようにしている。又、アツプシフトを制限するパラメータとしてスロツトル開度(エンジン負荷)を採用している。 以下各ステツプについて説明する。 ステツプ100;車速及びスロツトル開度に応じた変速判断が行われる。 ステツプ101:異常変速判別ステツプ120により異常変速と判断されているか否かの判別を行う。異常変速と判断されているとき、即ちF_(2 )=0でないときステツプ102に進む。 ステツプ102:アツプシフトか否かの判別を行う。アツプシフトでないときはダウンシフトが否かの判別を行うためステツプ123に進む。アツプシフトのときは当該アツプシフトが制限されている領域か否かを判別するためステツプ103へ進む。 ステツプ103:スロトル開度θが所定値θ_(0) より大きいか否かを判別する。大きいときはそのアツプシフトを禁止するべくステツプ104へ進む。小さいときは通常のアツプシフトを実行するためステツプ107に進む。 この制御は、あたかも変速パターンが正常時に第5図に示されるようなものから異常変速判断時に第6図に示されるようなものに切換わるのと同義である。即ち、θ≧θ_(0) でのアツプシフトのみが禁止されるだけで通常走行からのキツクダウンは正常時と同じ設定であるため、緊急時の加速力(駆動力)確保されている。従つて、通常と同様のキツクダウンにより、エンジンの最高回転速度まで使用できるため、運転者の要求する駆動力(加速力)を得ることができる。この場合、アクセルを戻さない限りアツプシフトは行われないが、アクセルを戻してスロツトル開度θをθ_(0) より小さくするとアツプシフトが実行される。 この所定値θ_(0) は、正常時にエンジントルクの変更制御が実行される下限のスロツトル開度に設定するとよい。このような値にθ_(0) を設定することにより、異常変速時に本制御が実行された場合、θ≦θ_(0) での変速は正常時のエンジン出力及び変速点と同じであるため、正常時と全く同等の変速特性が得られる。しかしながら、例えばエンジントルクの変更制御が実行される下限のスロツル開度が極めて小さい場合は、θ_(0) をそのような小さな値に設定すると、極めて低開度でしかアツプシフトができず、実用上大きな支障を来たすことになる。従つて、エンジントルクの変更制御が実行される下限のスロツトル開度が極めて小さい場合のθ_(0) は、エンジン出力が低下しなくても摩擦係合装置のエネルギー吸収量が耐久上ある程度保証され、且つ変速シヨツクが許容されるなるべく高めのスロツトル開度に設定されるのが望ましい。第8図においては、このような観点でθ_(0) =50%とした例が採用されており、異常変速時においても実用上支障のない(異常時であることを運転者にあまり感じさせない)変速線図となっている。 ステツプ104;異常変速の判断中(F_(2) =1)のθ≧θ_(0) のアツプシフトを禁止する。」(3ページ右下欄5行ないし5ページ左上欄8行) e)「この実施例によれば、変速の異常を変速時間tの長さによつて検出し、スロツトル開度θがθ_(0) 以上の場合におけるアツプシフトを制限(禁止)するようにしたため、ダウンシフト及びエンジンのイナーシヤトルクの小さい領域で行われるアツプシフトのみが行われるようになり摩擦係合装置の耐久性を確保することができるようになると共に、大きな変速シヨツクが発生するのを防止することができるようになる。 又、アツプシフトが制限された場合に警報装置によつて運転者は事情を知ることができるため、アツプシフトが禁止さてれいることによる運転者の不信感発生を回避することができると共に、速やかに異常変速の発生原因を点検することを運転者に促すことができるようになる。 なお、上記実施例においては、変速時間tがt_(0) よりも大きくなるのが1回成立しただけで異常変速と判断されるようになつていたが、ばらつきの範囲で容易に異常変速と判断されないようにある所定回数だけt≧t_(0) が成立したときに異常変速と判断するようにしてもよい。 又、上記実施例においては、変速異常を判断するに当つて、エンジン回転速度をモニタし、該エンジン回転速度が低下している時間が予め設定された値よりも長いか否かを判定するようにしていたが、本発明においては、これに限定されるものではなく、例えば自動変速機の出力軸トルクをモニタし、該出力軸トルクが最小値から最大値に変化するまでの時間が予め設定された値よりも長いか否かによつて判定してもよい。更には、自動変速機の出力軸トルクをモニタし、該出力軸トルクの最大値が予め設定された値よりも大きいか否かによつて判断するようにしてもよい。」(6ページ左上欄7行ないし同ページ右上欄19行) f)「第4図にアツプシフトを車速に依存して制限する実施例のフローチヤートを示す。先の実施例と異なるのはステツプ103のみであるため、この部分だけを抽出して説明する。 ステツプ103A:アツプシフトの変速の種類を判別する。変速の種類が1→2、2→3、3→4のとき、それぞれ103B、103C、103Dへと進む。 ステップ103B:1→2アツプシフト時の変速可能上限車速V_(12)より車速Vが大きいか否かの判定を行う。なお、この車速による判定は自動変速機の出力軸回転速度による判定と同義である。V>V_(12)のとき、1→2アツプシフトを禁止するため、ステツプ104へ進み、V≦V_(12)のとき、ステップ107へ進む。 ステップ103C、103D:それぞれ2→3、3→4のアツプシフトに関してステツプ103Bと同様な作業を行う。 この結果、正常時に第5図に示されたような変速パターンであったものが、異常変速と判断されたときには第7図に示されるような変速パターンとなるようにすることができる。第7図の変速パターンの実質的な変速点は第6図と全く同一である。このように、異常変速時のアツプシフト制限は、車速に依存して実行することもできる。得られる効果は先の実施例と全く同一である。」(6ページ右上欄20行ないし同頁右下欄5行) g)「【発明の効果】 以上説明した通り、本発明によれば、何らかの原因で異常変速が生じ、変速時間が長くなつて摩擦係合装置の耐久性が低下したり、あるいは変速シヨツクが大きくなるという不具合が発生したときには、次回のアツプシフトの実施領域を制限するようにしたため、摩擦係合装置に過渡な負担がかかるのを防止でき、その分耐久性を向上させることができる。又、当然にシヨツクの大きな変速が発生するのを防止することができるようにもなる。」(6ページ右下欄7行ないし16行) イ 上記ア及び図面の記載から分かること a)上記アa)ないしd)並びに第1及び2図の記載によれば、刊行物2には、自動変速機の変速制御装置が開示されていることが分かる。 b)上記アa)及びc)ないしg)並びに第3ないし7図の記載(特に、特許請求の範囲の(1)項、2ページ右下欄2行ないし末行、4ページ右上欄7行ないし5ページ左上欄8行及び6ページ右上欄末行ないし同ページ右下欄5行並びに第3ないし7図の記載)によれば、刊行物2に開示された自動変速機の変速制御装置において、車両が所定の変速段のギヤを介したエンジンからの動力による走行中、変速機の変速が異常と判断されているときは、変速機における変速のために利用する変速パターンとして、アップシフトされた変速段での走行を制限した変速パターンを用いることが分かる。 c)上記アb)、d)及びe)及び第3図の記載(特に、特許請求の範囲の(10)項、4ページ右上欄7行ないし同ページ右下欄2行及び6ページ左上欄7ないし15行の記載)によれば、刊行物2に開示された自動変速機の変速制御装置は、上記b)の変速パターンにおいて、ダウンシフトされた変速段での走行は可能であることが分かる。 ウ 刊行物2に記載された発明 上記ア及びイを総合して、本願発明の表現にならって整理すると、刊行物2には、次の事項からなる発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認める。 「自動変速機の変速制御装置において、車両が所定の変速段のギヤを介したエンジンからの動力による走行中、変速機の変速が異常と判断されているときは、変速機における変速のために利用する変速パターンとして、ダウンシフトされた変速段での走行は可能であるが、アップシフトされた変速段での走行を制限した変速パターンを用いること。」 4.対比 そこで、本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ・後者における「エンジン2」は前者における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「電動機16」は「電動機」に、「第1クラッチ6」は「第1断接手段」に、「第1入力軸12」は「第1入力軸」に、「第2クラッチ8」は「第2断接手段」に、「第2入力軸14」は「第2入力軸」に、「左右の駆動輪44」は「被駆動部」に、「カウンタ軸24」は「出力軸」に、「第1同期装置46及び第2同期装置48のいずれか」は「第1同期装置」に、「第1速ドライブギヤ18a、第3速ドライブギヤ20a及び第5速ドライブギヤ22a」は「複数の奇数段ギヤ」又は「奇数段ギヤ」に、「第1歯車機構26を構成するギヤ群」は「第1ギヤ群」に、「第3同期装置60及び第4同期装置62のいずれか」は「第2同期装置」に、「第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32a」は「複数の偶数段ギヤ」又は「偶数段ギヤ」に、「第2歯車機構34を構成するギヤ群」は「第2ギヤ群」に、「第1速ドリブンギヤ18b、第2速ドリブンギヤ28b、第3速ドリブンギヤ20b、第4速ドリブンギヤ30b、第5速ドリブンギヤ22b及び第6速ドリブンギヤ32bよりなるギヤ群」は「複数のギヤよりなる第3ギヤ群」に、「変速機10」は「変速機」に、それぞれ相当する。 ・後者における「ハイブリッド電気自動車の駆動装置」は前者における「車両用駆動装置」に相当し、後者における「ハイブリッド電気自動車の駆動装置の制御装置」は前者における「車両用駆動装置の制御装置」に相当する。 したがって、両者は、 「内燃機関と、 電動機と、 前記電動機に接続されるとともに第1断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第1入力軸と、第2断接手段を介して選択的に前記内燃機関に接続される第2入力軸と、被駆動部に動力を出力する出力軸と、前記第1入力軸上に配置され第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数の奇数段ギヤよりなる第1ギヤ群と、前記第2入力軸上に配置され第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数の偶数段ギヤよりなる第2ギヤ群と、前記出力軸上に配置され前記第1ギヤ群の奇数段ギヤと前記第2ギヤ群の偶数段ギヤとが噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を有する変速機と、を備えた車両用駆動装置の制御装置」の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 「車両用駆動装置の制御装置」の制御態様に関し、本願発明においては、「前記車両が前記第2入力軸及び前記第2ギヤ群に属する所定段の偶数段ギヤを介した前記内燃機関からの動力による走行中、前記第1同期装置と前記第1入力軸の係合を開放できないときは、前記変速機における変速のために利用する変速マップとして、前記所定段の偶数段ギヤ以下での走行は可能であるが、前記所定段の偶数段ギヤより1つ上の段以上での走行を禁止した変速マップを用いる」のに対して、引用発明においては、そのような制御をするものであるのか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。 5.判断 [相違点について] 相違点の検討に先立ち、刊行物2に記載された発明を本願発明の用語を用いて表現するために、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項と刊行物2に記載された発明(以下、「後者2」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ・後者2における「自動変速機の変速制御装置」は前者における「車両用駆動装置の制御装置」に相当し、同様に、「エンジン」は「内燃機関」に相当する。 ・後者2における「車両が所定の変速段のギヤを介したエンジンからの動力による走行中」は、前者における「前記車両が前記第2入力軸及び前記第2ギヤ群に属する所定段の偶数段ギヤを介した前記内燃機関からの動力による走行中」に、「車両が所定段のギヤを介した内燃機関からの動力による走行中」という限りにおいて、相当する。 ・後者2における「変速機の変速が異常と判断されているとき」は、前者における「前記第1同期装置と前記第1入力軸の係合を開放できないとき」に、「変速機の変速動作が異常な状態にあるとき」という限りにおいて、相当する。 ・後者2における「変速パターン」は、刊行物2の「歯車変速機構と複数の摩擦係合装置とを備え、油圧制御装置を作動させることによつて前記摩擦係合装置の係合を選択的に切換え、予め設定された変速マツプに従つて複数個の変速段のうちのいずれかが達成されるように構成した車両用自動変速機は既に広く知られている。」(2ページ左上欄末行ないし同ページ右上欄5行)という記載からも分かるように、マップデータとされるのが通常であるから、前者における「変速マップ」に相当する。 ・後者2における「ダウンシフトされた変速段」は、前者における「前記所定段の偶数段ギヤ以下」に、「所定段のギヤ以下」という限りにおいて、相当する。 ・後者2における「アップシフトされた変速段」は、前者における「前記所定段の偶数段ギヤより1つ上の段以上」に、「所定段のギヤより1つ上の段以上」という限りにおいて、相当する。 ・後者2における「走行を制限した」は、前者における「走行を禁止した」に相当する。 そうすると、刊行物2に記載された発明は、本願発明の用語及び上位概念化した用語で表現すると、次のとおりの技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)ということができる。 「車両用駆動装置の制御装置において、車両が所定段のギヤを介した内燃機関からの動力による走行中、変速機の変速動作が異常な状態にあるときは、変速機における変速のために利用する変速マップとして、所定段のギヤ以下での走行は可能であるが、所定段のギヤより1つ上の段以上での走行を禁止した変速マップを用いる技術。」 そして、刊行物2に記載された技術は、変速機の変速動作が異常な状態にある時に、変速機の摩擦係合装置の耐久性の向上、変速ショックの低減、さらに、運転者の要求する駆動力(加速力)を得ることを可能とするものである(刊行物2の2ページ左下欄14行ないし同ページ右下欄1行及び4ページ左下欄13行ないし同ページ右下欄2行を参照。)。 また、刊行物2に記載された技術は、刊行物2において「このように、本発明においては、異常を判定する手段を限定するものではない。なお、この場合前記それぞれの手段における予め設定された値は、エンジン負荷、変速の種類等に応じて変更するようにすると良好である。」(3ページ右上欄3ないし7行)と記載されているように、変速機の変速動作が異常な状態であるものに対して、その異常な状態の態様を限定することなく適用可能な技術といえる。 一方、引用発明のようなツインクラッチ式変速機において、同期装置の係合の開放不良という変速動作が異常な状態が生じることにより、クラッチ等の変速機構の耐久性の低下、変速ショック、さらには、ドライバビリティの悪化等の問題が発生するおそれがあることは、本件出願前に周知の事項(必要であれば、特開2007-154941号公報(特に、段落【0005】、【0006】、【0014】、【0020】、【0028】ないし【0039】、【0057】ないし【0066】及び【0076】並びに図1及び2)及び特開平10-299884号公報(特に、段落【0003】)を参照。以下、「周知事項」という。)である。 そうすると、引用発明において、周知事項を考慮して刊行物2に記載された技術を適用することにより、車両が第2入力軸14(本願発明の「第2入力軸」に相当。以下、括弧内同様。)及び第2歯車機構34を構成するギヤ群(第2ギヤ群)に属する第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32aのいずれかのギヤ(所定段の偶数段ギヤ)を介したエンジン(内燃機関)からの動力による走行中、第1同期装置46及び第2同期装置48のいずれか(第1同期装置)と第1入力軸12(第1入力軸)の係合を開放できないときは、変速機10(変速機)における変速のために利用する変速マップとして、第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32aのいずれかのギヤ以下での走行は可能であるが、第2速ドライブギヤ28a、第4速ドライブギヤ30a及び第6速ドライブギヤ32aのいずれかのギヤより1つ上の段以上での走行を禁止した変速マップを用いるものとし、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、刊行物2に記載された技術及び周知事項から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 なお、引用発明において、周知事項を考慮して刊行物2に記載された技術を適用したものについては、その構成からみて、電動機の過回転を防止できることは当業者が当然に予測し得ることであり、電動機において、高速回転により減磁の問題が生じることは技術常識(必要であれば、特開2009-195089号公報(特に、段落【0002】)、特開2009-71910号公報(特に、段落【0007】)、国際公開第2009/057742号(特に、[0002])及び特開2001-78402号公報(特に、段落【0003】)を参照。)であることを考慮すると、過回転に伴う電動機の減磁を防止できるという効果は当業者が予測し得ることである。 したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-10-09 |
結審通知日 | 2015-10-13 |
審決日 | 2015-10-26 |
出願番号 | 特願2010-107463(P2010-107463) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B60K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菊地 牧子、大山 健 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
槙原 進 伊藤 元人 |
発明の名称 | 車両用駆動装置の制御装置 |
代理人 | 本山 慎也 |