• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1308837
審判番号 不服2014-18824  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-19 
確定日 2015-12-11 
事件の表示 特願2011-519816「アンモニア態窒素含有排水処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月29日国際公開、WO2010/150691〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年6月16日(優先権主張 平成21年6月22日)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月28日付けで手続補正書が提出され、平成25年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月4日付けで意見書および手続補正書が提出され、同年6月19日付けで拒絶査定され、同年9月19日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正書が提出され、平成27年1月19日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成26年9月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年9月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正するものである。

(補正前)
「【請求項1】
硝化槽を備える排水処理装置において、前記硝化槽内で行われるアンモニア態窒素から亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素へと変換する硝化反応全体を、硝化反応速度を速くする微生物間情報伝達物質の存在下で硝化細菌に前記硝化反応を行なわせることによって、促進させ、
前記微生物間情報伝達物質がC4-ホモセリンラクトン、C8-ホモセリンラクトン、C10-ホモセリンラクトン、C12-ホモセリンラクトン、C14-ホモセリンラクトン、3-オキソ-C6-ホモセリンラクトン及び3-オキソ-C12-ホモセリンラクトンからなる群から選択される少なくとも1種以上の化合物である、アンモニア態窒素含有排水処理方法。」

(補正後)
「【請求項1】
硝化槽を備える排水処理装置において、前記硝化槽内で行われるアンモニア態窒素から亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素へと変換する硝化反応全体を、硝化反応速度を速くする微生物間情報伝達物質の存在下で硝化細菌に前記硝化反応を行なわせることによって、促進させ、
前記微生物間情報伝達物質がC8-ホモセリンラクトン、C10-ホモセリンラクトン、C12-ホモセリンラクトン、C14-ホモセリンラクトン、3-オキソ-C6-ホモセリンラクトン及び3-オキソ-C12-ホモセリンラクトンからなる群から選択される少なくとも1種以上の化合物である、アンモニア態窒素含有排水処理方法。」

本件補正における請求項1の補正は、発明特定事項である微生物間情報伝達物質の選択肢のうち、補正前の「C4-ホモセリンラクトン」を削除するものであり、本件補正前後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。このため、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、また、新規事項を追加するものでもない。
そこで、補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件について
2-1.補正発明について
上記補正後の請求項1に係る発明は、上記1.の(補正後)に記載された事項により特定されたとおりのものである(以下、「補正発明」という。)。

2-2.引用例に記載された発明
(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願優先日前に頒布された特表2005-505419号公報(以下、「引用例1」という。)には、「有機廃液処理」(発明の名称)につき、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
少なくとも一つの細胞情報伝達化学物質(CSC)を汚水基質に加え、その汚水基質中の少なくとも一種の微生物群の活性を該CSCの少なくとも一つが制御することよりなる、汚水の処理方法。」
(イ)「【請求項11】
微生物群が硫黄還元細菌、硫酸産生細菌、アンモニア産生細菌、亜硝酸産生細菌、硝酸産生細菌およびメタン産生細菌よりなる群から選択される、請求項1の方法。」
(ウ)「【請求項48】
少なくとも一つの細胞情報伝達化学物質(CSC)を汚水基質に加え、その少なくともひとつのCSCがアンモニア産生細菌、亜硝酸産生細菌、亜酸化窒素産生細菌、硝酸産生細菌又は脱窒細菌の活性を制御することよりなる、汚水基質中の窒素化合物の還元又は酸化の役割を負っている細菌を制御する方法。
【請求項49】
少なくとも一つのCSCがハロゲン化フラノン、ヒドロキシル化フラノン、アルキルフラノン、N-アシルホモセリンラクトン、ペプチドフェロモンおよびこれらの混合物よりなる群から選択される、請求項48の方法。」
(エ)「【0017】
本明細書で「上方制御」の語は、少なくとも一種の微生物の微生物活性を急増させ(細菌の代謝および増殖速度のいずれか一方又はその両方)、個々の微生物機能を調整し、その結果表面上に接着層を形成し、微生物コロニーを形成し、菌体数を感知して成熟したバイオフィルムを形成させるため、少なくともひとつのCSCを十分なシグナル強度で使用することをいう。」
(オ)「【0037】
他の観点においては、その少なくとも一つのCSC(シグナル強度)は、特定の遺伝子発現を開始する特定の受容体タンパク活性化の決定的な因子である。
汚水は炭素系および窒素系老廃物の両方を含む。炭素系老廃物には、炭素原子および水素原子を含む化合物が含まれるほか、酸素、窒素、硫黄、リンのような他の原子が含まれることもある。窒素系老廃物には、窒素原子のほか水素、炭素、酸素のような他の原子を含む化合物が含まれる。窒素系老廃物には尿素、尿酸、アンモニア、硝酸塩、亜硝酸塩が含まれる。汚水中には多くの異なる微生物群が含まれ、好気性菌、通性嫌気性菌や嫌気性菌が含まれる。」
(カ)「【0046】
本発明の好ましい観点は、少なくとも一つの細胞情報伝達化学物質(CSC)を加えて、その少なくとも一つのCSCが該汚水中の好気性菌、嫌気性菌若しくは通性嫌気性菌の細菌群の活性を強化することよりなる汚水の処理方法を提供することである。
【0047】
本発明のこの観点は、微生物活性を上方制御し汚水処理施設における汚水の分解速度を増加させる点において特に有用である。・・・」
(キ)「【0058】
更に、本発明におけるより好ましい観点は、少なくとも一つの細胞情報伝達化学物質を汚水処理施設若しくは下水集水ネットワークにおいてに加え、その少なくとも一つの細胞情報伝達化学物質で好気性菌および通性嫌気性菌の活性を強化することにより、汚水処理施設における汚水の微生物消化を強化する方法を提供することである。
【0059】
本発明のこの観点は、汚水が汚水処理施設に到着したときに汚水処理を行う際には特に有用である。有利には、好気性菌および通性嫌気性菌の活性、繁殖および/または代謝速度の増加は汚水の微生物消化を助け、汚水の流水性を改善し汚泥の量を減少させる。本発明のこの観点で特に有用なものは、AHL、フェロモンペプチド、N-アシル化C-アミド化D-アミノ酸ヘキサペプチド、D-イソロイシンおよび/またはD-チロシンよりなるD-アミノ酸、環状ジペプチド、疎水性トリアミン、リポペプチド生物系界面活性剤、脂肪酸誘導体、抗微生物ペプチドおよびフラノンである。特に好ましいCSCはAHLである。」
(ク)「【0061】
本発明における別のより好ましい観点は、少なくとも一つの細胞情報伝達化学物質を汚水基質に加え、その少なくとも一つの細胞情報伝達化学物質でアンモニア産生菌、亜硝酸産生菌、硝酸産生菌または脱窒菌の活性を規制することにより、汚水基質中の窒素化合物の酸化還元を担う細菌を制御する方法を提供することである。
特異的なCSC、またはCSCおよび/若しくは特異的なCSCシグナル強度との組み合わせを用いて汚水のアンモニア化、硝酸化および脱窒化を担う細菌を上方若しくは下方制御することができる。本発明のこの観点は、空気中および水中の環境汚染物質の範囲を制御するのに特に有用である。本発明のこの観点において、3-オキソデカノイルホモセリンラクトンやブチリルホモセリンラクトンのようなN-アシルホモセリンラクトンまたはその混合物は上方制御に特に有用であり、ハロゲン化フラノンやヒドロキシ化フラノン、アルキルフラノンは下方制御に特に有用である。」

(2)引用例に記載された発明
記載事項(ア)(イ)(オ)によれば、引用例1には、窒素系老廃物を含む汚水の処理方法に関する発明が記載されており、また、汚水に含まれる窒素系老廃物には、尿素、尿酸、アンモニア、硝酸塩、亜硝酸塩が含まれる。
記載事項(カ)(キ)によれば、引用例1には、細胞情報伝達化学物質を加えて好気性菌および通性嫌気性菌の微生物活性を上方制御して強化することにより、汚水処理施設における汚水の分解速度が増加することが記載されている。
記載事項(ウ)(ク)によれば、引用例1には、細胞情報伝達化学物質としてN-アシルホモセリンラクトンまたはその混合物を汚水基質に加えることにより、汚水のアンモニア化、硝酸化および脱窒化を担う細菌の活性を上方制御できることが記載されている。

したがって、引用例1には、
「汚水処理施設において、細胞情報伝達化学物質を加えることによって、汚水のアンモニア化、硝酸化および脱窒化を担う細菌の微生物活性を上方制御して汚水の分解速度を増加させ、
前記細胞情報伝達化学物質が、N-アシルホモセリンラクトンまたはその混合物である、尿素、尿酸、アンモニア、硝酸塩、亜硝酸塩を含んだ窒素系老廃物を含む汚水の処理方法。」が記載されている(以下「引用発明1」という)。

2-3.対比・判断
(1)対比
補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「汚水処理施設」は、補正発明の「排水処理装置」に相当し、以下同様に「アンモニア」は「アンモニア態窒素」に、「細胞情報伝達化学物質」は「微生物間情報伝達物質」に、「硝酸化を担う細菌」は「硝化細菌」に、「尿素、尿酸、アンモニア、硝酸塩、亜硝酸塩を含んだ窒素系老廃物を含む汚水の処理方法」は「アンモニア態窒素含有排水処理方法」に相当する。
記載事項(ク)によれば、引用発明1において、「尿素、尿酸、アンモニア、硝酸塩、亜硝酸塩を含んだ窒素系老廃物を含む汚水」は、細胞情報伝達化学物質を加えることによって、微生物活性が上方制御された、「汚水のアンモニア化、硝酸化および脱窒化を担う細菌」によって分解される。
そして、記載事項(エ)によれば、微生物活性の上方制御は、微生物の代謝および増殖速度のいずれか一方又はその両方を急増させることを意味し、記載事項(カ)によれば、細胞情報伝達化学物質を加えて微生物活性を上方制御することにより、汚水の分解速度は増加するから、引用発明1で汚水に加えられた細胞情報伝達化学物質は、「汚水のアンモニア化、硝酸化および脱窒化を担う細菌」の代謝および増殖速度のいずれか一方又はその両方を急増させることによって、アンモニア化、硝酸化および脱窒化速度を速くしているということができる。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「排水処理装置において、硝化反応速度を速くする微生物間情報伝達物質の存在下で硝化細菌に硝化反応を行なわせ、
前記微生物間情報伝達物質が、N-アシルホモセリンラクトンである、アンモニア態窒素含有排水処理方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
補正発明の硝化反応が、アンモニア態窒素から亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素へと変換するものであるのに対し、引用発明1では、硝酸化の具体的内容が不明である点。

(相違点2)
補正発明における排水処理装置は硝化槽を備えており、アンモニア態窒素から亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素へと変換する硝化反応全体が、硝化槽内で行われるものであるのに対し、引用発明1における汚水処理施設が硝化槽を備えたものであるか不明であり、硝化反応が硝化槽内で行われるものであるか不明である点。

(相違点3)
補正発明における微生物間情報伝達物質が、C8-ホモセリンラクトン、C10-ホモセリンラクトン、C12-ホモセリンラクトン、C14-ホモセリンラクトン、3-オキソ-C6-ホモセリンラクトン及び3-オキソ-C12-ホモセリンラクトンからなる群から選択される少なくとも1種以上の化合物であるのに対し、引用発明1の細胞情報伝達化学物質は、N-アシルホモセリンラクトンまたはその混合物である点。

(2)判断
(相違点1)(相違点2)について
例えば、社団法人化学工学協会編、「水質汚濁防止技術と装置4.生物学的水処理技術と装置」、初版、株式会社培風館発行、1978年10月20日、205頁第19行?207頁第1行および図6・1(下記に掲載)に記載されているように、排水処理装置における生物学的脱窒素法による排水の処理は、排水中のNH_(3)-Nおよび有機態窒素から転換されるNH_(3)-Nを、硝化槽において硝化する硝化工程と、硝化工程後に行われる脱窒素工程とによって行われるものであり、硝化工程において硝化反応は硝化槽内で行われ、また硝化反応は、NH_(3)-N又は有機態窒素から転換されるNH_(3)-Nを、亜硝酸菌によってNO_(2)-Nとした後、硝酸菌によりNO_(3)-Nとする反応であるといえる。
ここで「NH_(3)」、「NO_(2)」、「NO_(3)」はそれぞれ、「アンモニア」、「亜硝酸」、「硝酸」を表す化学式であるから、上記硝化反応は、アンモニア態窒素又は有機態窒素から転換されるアンモニア態窒素を、亜硝酸菌によって亜硝酸態窒素とした後、硝酸菌により硝酸態窒素とする反応である。
そして引用例1の記載事項(ク)によれば、引用発明1も、排水処理装置に相当する汚水処理施設において、汚水のアンモニア化、硝酸化および脱窒化を担う細菌を用いて脱窒素を行っているものであるから、上記生物学的脱窒素法による排水の処理が行われているものであると認められる。
よって、引用発明1においても、汚水に含まれるアンモニアは、硝化槽内で、亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素へと変換されているものであるといえるから、(相違点1)および(相違点2)は、補正発明と引用発明との実質的な相違点でない。


(相違点3)について
記載事項(ク)によれば、引用例1には、硝酸化を担う細菌の微生物活性を上方制御し、汚水の分解速度を増加させる細胞情報伝達化学物質として、「3-オキソデカノイルホモセリンラクトンやブチリルホモセリンラクトンのようなN-アシルホモセリンラクトン」を汚水中に加えることが記載されている。
一方、特開2003-236555号公報(原査定の引用文献3)の段落【0006】では、「N-アシルホモセリンラクトン」の例示として、「N-ブタノイル-L-ホモセリンラクトン、N-[(3R)-3-ヒドロキシブタノイル)-L-ホモセリンラクトン、N-ヘキサノイル-L-ホモセリンラクトン、N-(3-オキソヘキサノイル-L-ホモセリンラクトン、N-オクタノイル-L-ホモセリンラクトン、N-(3-オキソオクタノイル)-L-ホモセリンラクトン、N-デカノイル-L-ホモセリンラクトン、N-(3-オキソデカノイル)-L-ホモセリンラクトン、N-(3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン」が挙げられている。
ここで「N-オクタノイル-L-ホモセリンラクトン」を例にとれば、「L-」は、「N-オクタノイル-ホモセリンラクトン」の光学異性体のうちの「L体」であることを示し、「オクタノイル」の「オクタ」は、「ホモセリンラクトン」の置換基が有する炭素数(「オクタ」であれば8)を示し、「ノイル」は置換基が「アシル基」であることを示し、「N-」はオクタノイル基がホモセリンラクトンの窒素に結合していることを示すものである。
よって、「N-オクタノイル-L-ホモセリンラクトン」は、炭素数が8の「オクタノイル基」を有する「アシルホモセリンラクトン」であって、「オクタノイル基」が、「ホモセリンラクトン」の窒素に結合しており、「L体」のものとなるから、「N-アシルホモセリンラクトン」の概念に含まれる化合物である。
同様に、「N-デカノイル-L-ホモセリンラクトン」、「N-(3-オキソヘキサノイル-L-ホモセリンラクトン」、「N-(3-オキソドデカノイル)-L-ホモセリンラクトン」も、「N-アシルホモセリンラクトン」の概念に含まれる化合物である。
また、上記文献には「C12-ホモセリンラクトン」、「C14-ホモセリンラクトン」に相当する化合物は記載されていないが、これらの化合物のうちアシル基が「ホモセリンラクトン」の窒素に結合しているものは、同様に「N-アシルホモセリンラクトン」の概念に含まれる化合物であるといえる。
したがって、引用発明1で、硝酸化を担う細菌の微生物活性を上方制御し、汚水の分解速度を増加させる細胞情報伝達化学物質として汚水に加えられる「N-アシルホモセリンラクトン」が、「3-オキソデカノイルホモセリンラクトン」や「ブチリルホモセリンラクトン」に加えて、アシル基が「ホモセリンラクトン」の窒素に結合している「C8-ホモセリンラクトン、C10-ホモセリンラクトン、C12-ホモセリンラクトン、C14-ホモセリンラクトン、3-オキソ-C6-ホモセリンラクトン及び3-オキソ-C12-ホモセリンラクトン」を含む化合物一般を意味することは技術常識である
また、Applied and Environmental Microbiology,2005年,Vol.71,No.8,p.4906-p.4909(原査定の引用文献4)のAbstract欄には、「Nitrosomonas europaea strain Schmidt produces at least three acyl homoserine lactone(AHL) signal molecules: C_(6)-homoserine lactone(HSL), C_(8)-HSL, C_(10)-HSL」と記載されている。
「Nitrosomonas europaea strain Schmidt」は、アンモニアの硝酸化を担う細菌の一種であり、「signal molecules」は「情報伝達物質」となり、「acyl homoserine lactone」、「C_(6)-homoserine lactone(HSL)」、「C_(8)-HSL」、「C_(10)-HSL」は、「HSL」を「ホモセリンラクトン」とすれば、それぞれ「アシルホモセリンラクトン」、「C6-ホモセリンラクトン」、「C8-ホモセリンラクトン」、「C10-ホモセリンラクトン」となる。
よって、当該文献のAbstract欄の記載によれば、アンモニアの硝酸化を担う細菌「Nitrosomonas europaea strain Schmidt」が生成する微生物間情報伝達物質として機能する物質である「アシルホモセリンラクトン」には、やはり「C8-ホモセリンラクトン」、「C-10ホモセリンラクトン」が含まれているということができる。
さらに、引用例1の記載事項(ク)においては、N-アシルホモセリンラクトンとして、「3-オキソデカノイルホモセリンラクトン」、「ブチリルホモセリンラクトン」が例示されているが、その記載は「3-オキソデカノイルホモセリンラクトンやブチリルホモセリンラクトンのようなN-アシルホモセリンラクトン」となっているので、引用発明1で細胞情報伝達化学物質として用いられる「N-アシルホモセリンラクトン」が、「3-オキソデカノイルホモセリンラクトン」又は「ブチリルホモセリンラクトン」に限定される記載であるともいえない。
加えて、本願の発明の詳細な説明の段落【0032】【0033】及び図2において、C4-ホモセリンラクトン、C8-ホモセリンラクトン、C10-ホモセリンラクトン、C12-ホモセリンラクトン、C14-ホモセリンラクトン、3-オキソ-C6-ホモセリンラクトン、3-オキソ-C12-ホモセリンラクトンを用いた実施例が記載されているが、いずれを用いた場合も比較例に相当する「コントロール」よりは効果が見られるものの、それぞれの実施例の間には作用効果に大きな差は見られず、最も高い効果が得られている物質は補正発明に含まれないC4-ホモセリンラクトンであるから、「N-アシルホモセリンラクトン」に含まれる物質から、補正発明に含まれる特定の物質を選択することにより、格別な作用効果が得られるものであるともいえない。
よって、引用発明1において、「N-アシルホモセリンラクトン」から、アンモニアの硝酸化を担う細菌の細胞情報伝達化学物質として機能する物質を適宜選択して汚水に加えることは、当業者が容易になし得ることである。

2-5.小括
したがって、補正発明は、引用発明1、技術常識および周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得た発明であるといえるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.まとめ
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成26年9月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成26年3月4日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されたとおりのものである(以下、請求項の項番にしたがって、「本願発明1」などといい、全体をまとめて「本願発明」という。)。

本願発明1は、前記「第2 2.」で検討した補正発明の「微生物間情報伝達物質」の選択肢として、「C4-ホモセリンラクトン」を付け加えるのみで、他の特定事項は共通するものである。
一方、引用例1の記載事項(ク)によれば、引用例1には、本願発明1で選択肢の一つである 「C4-ホモセリンラクトン」に相当する「ブチリルホモセリンラクトン」が、汚水に加えられるN-アシルホモセリンラクトンとして例示されているから、引用例1には、「引用発明1においてさらに汚水に加えられるN-アシルホモセリンラクトンをブチリルホモセリンラクトンとした発明」(以下「引用発明2」という。)も記載されている。したがって、引用発明2は、前記「第2 2.2-3.」で対比・判断した、補正発明と引用発明1との相違点のうち(相違点3)は、本願発明1と引用発明2と対比においては相違点とはならない。
また、前記「第2 2.2-3.」で検討したとおり、補正発明と引用発明1との相違点のうち(相違点1)(相違点2)は、補正発明と引用発明1との実質的な相違点でないから、これらの点は、本願発明1と引用発明2との相違点としても、実質的なものでない。
よって、本願発明1と引用発明2との間に、実質的な相違点は存在しないから、本願発明1は、引用例1に記載された発明である。

第4 むすび
前記「第3」で検討したとおり、本願発明1は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-28 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-21 
出願番号 特願2011-519816(P2011-519816)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 575- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 紀史  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 中澤 登
萩原 周治
発明の名称 アンモニア態窒素含有排水処理方法  
代理人 小島 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ