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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1308845
審判番号 不服2014-22144  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2015-12-10 
事件の表示 特願2010-225926「リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月19日出願公開,特開2012- 79630〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下,「本願」と言う。)は,平成22年10月5日の特許出願であって,平成26年9月1日付けで拒絶査定がされ(この謄本の送達日は平成26年9月9日),これに対して,平成26年10月31日に本件拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けの手続補正書が提出された。
その後,当審より平成27年7月24日付けで拒絶の理由(以下,「当審拒絶の理由」と言う。)を通知したところ,平成27年8月20日付けで意見書及び補正書が提出された。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成27年8月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下,この発明を「本願発明」と言う。)。
「リチウムイオン二次電池を400℃以上の焙焼温度で焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と,
前記焙焼物を打撃により粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と,
前記粉砕物を篩分けして篩上と篩下に選別し,篩下に有価物を含有する回収物を得る篩選別工程とを含み,
前記粉砕工程が,回転する打撃子により叩く打撃により前記焙焼物を粉砕し,前記打撃の後に,目開き10mm?20mmのスクリーンを通過させて粉砕物を得る工程であり,
前記篩選別工程が,前記粉砕物を篩目の目開きが0.025mm?2mmである篩を用いて篩分けする工程であることを特徴とするリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。」

3.引用発明
(1)「焼成廃リチウムイオン電池粉砕物の粒度分布とレアメタルの組成」(大村友希,外7名,資源・素材2010(福岡)講演資料,資源・素材学会,平成22年9月,p. 219-220)
当審拒絶の理由に引用例1として示した「焼成廃リチウムイオン電池粉砕物の粒度分布とレアメタルの組成」には,図面,表,写真と共に以下の事項が記載されている。
・「1.緒言
リチウムイオン電池は他の二次電池より約3倍の電圧を得ることができ,小型・軽量であるため,ノートパソコンや携帯電話などの電子機器に使用されている。今後,自動車産業で多量に用いられることが考えられ,さらなる需要の増加が見込まれる。リチウムイオン電池には電極活物質としてLiやCoなどのレアメタルが多量に使用されている。その中でもLiは代替金属がなく,資源の確保が困難になると考えられる。現在,廃リチウムイオン電池のリサイクルは途についたばかりであり,廃リチウムイオン電池に含まれるレアメタルを効率よく分離・回収する技術の開発が必要である。
本研究では,廃リチウムイオン電池からレアメタルを分離・回収するための前処理として位置づけられる粉砕処理について検討した。廃リチウムイオン電池を焼成して電池に含まれる金属成分を調べた。焼成廃リチウムイオン電池を粉砕して粒度分布を調べ,粒度ごとの化学組成を解析した。粉砕機の種類による粉砕状態の検討を行った。」
・「2.実験方法
実験試料として,ノートパソコンなどに用いられている円筒型リチウムイオン電池を用いた。円筒型廃リチウムイオン電池を400-600℃で焼成した。焼成廃リチウムイオン電池をハンマークラッシャーおよび一軸カッターミルを用いて粉砕した。一軸カッターミルはスクリーンサイズを16mm,900rpmで粉砕を行った。粉砕後のリチウムイオン電池粉砕物を212-8000μmの大きさのふるいを用いて30分間ふるい分けした。各粒径の産物の重量を測定して粒度分布を調べた。各粒径の産物の化学組成を調べるために,産物に含まれる金属成分を溶解させた。浸出液として3mol/dm^(3)HCl-3mol/dm^(3)HNO_(3)の混酸を用いた。各粒度の産物を分取し混酸中に添加して70℃で2時間固液接触させた後,濾過を行った。濾液中の金属イオンICP発光分析法により求めた。」
・「3.実験詰果および考察
廃リチウムイオン電池を粉砕することによって外装のステンレスケースや電極板であるCu箔やAl箔をふるい上産物として回収する。一方,電極活物質であるグラファイトやリチウム金属酸化物を箔から剥離・粉砕することによってふるい下産物として回収する。箔状物質と活物質を分離することによって効率よく電池のリサイクルができると考えている。
ハンマークラッシャーを用いて焼成廃リチウムイオン電池を粉砕したときの粉砕物の様子と粒度分布をphoto.1およびFig.1に示す。1000-8000μmの粒度区分にもっとも多く粉砕産物が存在した。リチウムイオン電池の両電極であるAl箔とCu箔および電池の外装に由来するステンレスケースが多く存在していることわかる。212μm以下の粒度は全体の24.9wt%であった。この粒度の粉末は黒色をしており,ハンマークラッシャーによってAl箔やCu箔から剥がれ落ちた電池の電極活物質であるグラファイトやリチウム金属酸化物であると考えられる。
ハンマークラッシャーを用いて得られた粉末に含まれる種々の金属の各粒度区分への分配率をTable1に示す。1000μm以上の産物は全量の47.3wt%を占めており,これはステンレスケース,Al箔,Cu箔およびNi端子板などに起因している。ステンレスケースや両電極板は箔状物質でありハンマークラッシャーによる粉砕では微細な粉砕が困難であると考えられる。LiCoO_(2),LiNiO_(2)およびLiMn_(2)O_(4)は粉末状の物質であるため,1000μmのふるいを通過すると考えられる。しかし,1000μm以上のふるい上産物にLiとCoがそれぞれ7.7wt%および4.3%wt混入している。ハンマークラッシャーによる粉砕の際にAl箔やCu箔といった展性に富む物質は粉砕時の衝撃力により,結果的には箔状物質が丸まった状態の産物が得られる傾向が見られた。すなわち,Cu箔などが丸まる際に巻き込まれたLiCoO_(2)やAl箔から剥がれなかったLiCoO_(2)が大きい粒子の中に巻き込まれることが原因であると考えられる。
1000μm以下の産物には主にLiCoO_(2)やグラファイトが含まれる。グラファイトと異なりLiやCoは1000μm 以下では粒子径が小さくなるに伴ってそれらの分配率が減少した。円筒型リチウムイオン電池に用いられているLiCoO_(2)がAl箔に強く圧着されているため,Al箔からLiCoC_(2)が剥離された後も粉砕が進まず,粒径の大きな産物にLiCoO_(2)が多く含まれていると考えられる。
ハンマークラッシャーを用いて粉砕した焼成廃リチウムイオン電池粉末を1000μmのふるいを用いて分級することによって含まれる金属成分を粗分離することができる。箔状物質であるAl,Fe,NiおよびCuはそれぞれ47.1,92.9,74.5および82.3wt%がふるい上に残留する。一方,回収対象であるLiおよびCoはそれぞれ92.3および95.7wt%含むふるい下産物が得られる。しかし,ふるい下産物にAlが52.9wt%残留する。後工程の湿式分離工程でこれらを分離する必要がある。
Alの過粉砕を防ぐために粉砕方法が異なる一軸カッターミルを用いてリチウムイオン電池の粉砕を行った。一軸カッターミルを用いて粉砕した粉砕物の粒度分布をFig.2に示す。8000μm以上のふるい上産物は2.9wt%であり,ここに含まれている金属成分は強度が高くカッターミルでは破砕されにくいステンレスケースである。1000-8000μmの産物は主にCu箔やステンレスケースなどの箔状金属であり,全体の51.6wt%を占めている。FeやAl,Cuなどの箔状物質は粉砕機に設置してあるスクリーンサイズまで破砕され1000μmのふるい上に残り,電極活物質粉体は1000μm以下になるためである。425μm以下のふるい下産物は29.6wt%であり,Al箔とCu箔から剥がれ落ちたLiCoO_(2)やグラファイトである。
カッターミルを用いた粉砕産物に含まれる金属成分の各粒度区分への分配率をTable2に示す。ステンレスケースやCu箔,Ni端子板はあまり粉砕が進まず4000μm以上のふるい上産物として残留しているものが多い。Cuは1000μm以上のふるい上に82.6wt%が存在しているのに対して,Alは1000μm以下のふるい下に63.5wt%存在していた。カッターミルを用いた粉砕でもCu箔に比べてAl箔が過粉砕されると考えられる。1000μm以上の電池粉末には,LiとCoが粉末全体の23.6wt%および23.3wt%含まれている。Al箔に付着したままふるい上に残ったことや,剥離されたLiCoO_(2)の粉砕が進まず大きな粒子としてふるい上に残ることが残留した原因として考えられる。不溶解成分は1000μm以上に10.1wt%と少なく,グラファイトはふるい下に落ちたと考えられる。
2360μmのふるいを用いて分級操作を行うことによりFeは82.7wt%,Niは79.3wt%,Cuは56.4wt%をふるい上産物として回収できる。一方,ふるい下産物には,Liが98.9wt%,Coが94.8wt%含まれ,いずれも90wt%以上回収することが可能である。しかし,ふるい下産物にAlが97wt%残留してしまう。回転速度900rpmと過粉砕が起こりやすい条件で行っているため,回転速度やスクリーンサイズを変えることによりふるい下に混入するAlの割合を減少させる必要があると考えられる。
いずれの粉砕機を用いた場合でも紛砕物をふるい分けることによって,金属の粗分離の可能性が見出された。Cu箔に比べてAl箔は粉砕されやすく,粉砕条件を変更することによって効率よく金属成分と粗分離することが可能になる。
リチウムイオン電池の処理フローをFig. 3に示す。ふるい上産物は磁力選別,比重選別,風力選別およびうず電流選別などの乾式処理法を適用することにより,Fe,AlおよびCuを分離・回収できると考えられる。ふるい下産物は酸で金属を浸出した後,湿式処理によりレアメタルを分離・回収する。」
(2)上記記載事項全体からして,廃リチウム電池からのレアメタルを回収する方法が把握できる。
そして,その方法として,以下の工程が含まれることが把握できる。
ア 廃リチウムイオン電池を400-600℃の温度で焼成して焼成廃リチウムイオン電池を得る工程(焼成工程)。
イ 前記焼成廃リチウムイオン電池をハンマークラッシャーにより粉砕して焼成廃リチウムイオン電池粉砕物を得る工程(粉砕工程)。
ウ 前記焼成廃リチウムイオン電池粉砕物をふるい分けする工程(ふるい分け工程)。
ここで,Table 1からすると,ふるいとしてその目開きが8000μm,1000μm,425μm,212μmの物を用いてレアメタルの回収の観点からの有効性が検討されたことが理解できるところ,「ハンマークラッシャーを用いて粉砕した焼成廃リチウムイオン電池粉末を1000μmのふるいを用いて分級することによって含まれる金属成分を粗分離することができる。」と結論付けられている。このことから,上記工程ウとして, ふるいの目開きが1000μmであるふるいを用いてふるい分けしてそのふるい下にレアメタルを多く含む回収物を得ることが理解できる。
(3)以上を踏まえて,本願発明の表現にならって整理すると,引用例1には次の発明が開示されていると認めることができる(以下,この発明を「引用発明」と言う。)。
「廃リチウムイオン電池を400-600℃で焼成して焼成廃リチウムイオン電池を得る焼成工程と,
前記焼成廃リチウムイオン電池をハンマークラッシャーにより粉砕して焼成廃リチウムイオン電池粉砕物を得る粉砕工程と,
前記焼成廃リチウムイオン電池粉砕物をふるい分けして,ふるい下にレアメタルを含有する回収物を得るふるい分け工程とを含み,
前記粉砕工程が,ハンマークラッシャーにより前記焼成廃リチウムイオン電池を粉砕し,焼成廃リチウムイオン電池粉砕物を得る工程であり,
前記篩選別工程が,前記粉砕物を篩目の目開きが1000μmであるふるいを用いてふるい分けする工程である廃リチウムイオン電池からのレアメタルの回収方法。」

4.対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「廃リチウムイオン電池」,「焼成」は,それぞれ,本願発明の「リチウムイオン二次電池」,「焙焼」に相当する。
また,引用発明の「400-600℃で焼成して」という態様は,本願発明の「400℃以上の焙焼温度で焙焼して」という態様に相当する。
そうすると,引用発明の「焼成廃リチウムイオン電池」は,本願発明の「焙焼物」に相当する。
イ.引用発明の「ハンマークラッシャー」は,回転する打撃子により叩く打撃により対象物の粉砕を行うものであるから,引用発明の「ハンマークラッシャーにより粉砕して」という態様,「ハンマークラッシャーにより前記焼成廃リチウムイオン電池を粉砕し」という態様は,それぞれ,本願発明の「打撃により粉砕して」という態様,「回転する打撃子により叩く打撃により前記焙焼物を粉砕し」という態様に相当する。
引用発明の「焼成廃リチウムイオン電池粉砕物」は,本願発明の「粉砕物」に相当する。
ウ.引用発明の「ふるい」は,本願発明の「篩」に相当する。引用発明の「ふるい分け」は,対象物をふるい上とふるい下とに選別するものであるものであるから,本願発明の「篩分け」,「篩選別」に相当する。
エ.引用発明の「レアメタル」は,本願発明の「有価物」に相当する。
オ.引用発明の「1000μm」は,本願発明の「0.025mm?2mm」に含まれている。
カ.以上を踏まえると,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
[一致点]
「リチウムイオン二次電池を400℃以上の焙焼温度で焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と,
前記焙焼物を打撃により粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と,
前記粉砕物を篩分けして篩上と篩下に選別し,篩下に有価物を含有する回収物を得る篩選別工程とを含み,
前記粉砕工程が,回転する打撃子により叩く打撃により前記焙焼物を粉砕し,粉砕物を得る工程であり,
前記篩選別工程が,前記粉砕物を篩目の目開きが0.025mm?2mmである篩を用いて篩分けする工程であるリチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法。」
[相違点]
粉砕工程について,本願発明では,回転する打撃子による打撃の後に,目開き10mm?20mmのスクリーンを通過させているのに対して,引用発明は,そのように特定されたものではない点。
(2)上記相違点について検討する。
ハンマークラッシャーを用いて粉砕を行う場合に,当該ハンマークラッシャーによる打撃の後に,スクリーンを通過させて粉砕物を得ることは,当業者にとって周知慣用の技術的事項である(例えば,「粉体技術ポケットブック」(林恒美編,初版第3刷,(株)工業調査会,2004年6月20日,p.34参照。)。
そして,その場合のスクリーンの目開きとして10mm?20mmの範囲内のものを用いることは,当業者にとって適宜採用し得たことである。
そうすると,引用発明において,上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を採用すること自体は,当業者が格別の創作能力を伴わずしてなし得た範囲内のことである。
そしてまた,本願の明細書又は図面の記載の限りでは,本願発明の発明特定事項によって,引用発明から見て格別顕著な技術的意義がもたらされると言うこともできない。
したがって,本願発明は,引用例1が開示する引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1が開示する引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-29 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-20 
出願番号 特願2010-225926(P2010-225926)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂本 聡生竹下 翔平  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 新海 岳
松永 謙一
発明の名称 リチウムイオン二次電池からの有価物の回収方法  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  

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